説明

管内付着物診断方法

【課題】 予め基準データを準備する必要なく、管内の付着物の状況を診断することができる管内付着物診断方法を提供する。
【解決手段】 加熱炉管1の診断の対象となる第1の診断領域R1の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第1のセンサ列4を形成するように信号入射用パルサ2と3個のアコースティック・エミッション・センサ31〜33とを加熱炉管の周方向に一定の角度間隔をあけて配置する。第1のセンサ列4から加熱炉管の長手方向に所定の距離はなれた第2の診断領域R2上の外周上に、第2のセンサ列5を形成するように4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37を配置する。信号入射用パルサ2から入射して各センサで受信した信号の減衰率に基づいて、管1内の付着物の状況を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管内に付着する付着物の状況を診断する管内付着物診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成14年10月に発行された「非破壊検査」第51巻10号の第632頁乃至第636頁[非特許文献1]には、「アコースティックエミッションを用いた加熱炉管のコーキング診断装置の開発」と題して、加熱炉管の内部に付着するコーキングの状況をアコースティック・エミッション法を用いて診断する従来の技術が開示されている。この従来技術では、診断対象とする加熱炉管の一箇所からアコースティック・エミッション信号を入射して、加熱炉管の長手方向に離れた一箇所でアコースティック・エミッション信号を受信し、受信したアコースティック・エミッション信号の減衰状態をデータとして取得する。そしてこの従来技術では、コーキングが存在しない新規の加熱炉管に対して同様のアコースティック・エミッション法を適用して予め取得したアコースティック・エミッション信号の減衰状態のデータを基準データとして、この基準データと計測データとを比較することにより、コーキングの付着状況を診断して評価している。
【0003】
また出光エンジニアリング株式会社が作成したhttp://www.idemitsu.co.jp/eng/product/drplant/composition/calking.htmlのホームページには、「加熱炉管のコーキング診断」と題して、放射線を利用した診断法の一例として、放射線透過密度法により放射線が加熱炉管を透過する線量を測定することで、コーキングの厚さを測定する技術が紹介されている。
【非特許文献1】「非破壊検査」第51巻10号の第632頁乃至第636頁
【非特許文献2】http://www.idemitsu.co.jp/eng/product/drplant/composition/calking.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された従来の診断方法では、比較の基準となるコークスが付着していない状態の加熱炉管について、アコースティック・エミッション法を実施して、アコースティック・エミッション信号の減衰状態のデータを取得しなければならない。しかしながら診断の対象とする加熱炉管と同一材料かつ同一寸法のコーキングが付着していない状態の新規な管が入手できない場合には、基準データが得られないために、この従来方法は使用することができない問題がある。また基準データを取得したときのアコースティック・エミッション信号の入射位置と、受信位置の関係を、診断対象とする加熱炉管に対して正確に再現できない場合には、的確な診断・評価ができない問題が発生する。さらにプラントの定期点検時に管内に残留するプロセス流体やスラッジによってもアコースティック・エミッション信号が減衰するため、これらが存在する場合には、管内の残留物とコーキングとを区別することができないという問題もある。
【0005】
また放射線を利用した診断法として、放射線を利用した診断法を用いて診断する従来の方法では、放射線を加熱炉管に沿って順次移動させて放射線の透過線量の測定をしなければならず、1本の加熱炉管を診断するために、多大な費用と時間を費やさなければならない問題がある。
【0006】
本発明の目的は、予め基準データを準備せずに、アコースティック・エミッション法を用いて、管内の付着物の状況を診断することができる管内付着物診断方法を提供することにある。
【0007】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、管内に診断の対象とする付着物以外の残留物が残っている場合でも、管内の付着物の状況を診断することができる管内付着物診断方法を提供することにある。
【0008】
上記目的に加えて、詳細な診断が必要な管についてのみ、放射線を利用した診断法を適用することにより、従来よりも大幅に短縮された期間で、加熱炉管内のコーキングの状況を詳細に診断できる管内付着物診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、管内に付着する付着物の状況を診断する管内付着物診断方法を対象とする。本発明が診断の対象とする管には、内部にコーキングが付着する加熱炉管を代表として、内壁に種々の付着物が付着する管が含まれる。本発明の方法では、まず管の診断の対象となる診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけてセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置する。ここで診断領域とは、アコースティック・エミッション・センサを完全に配置できる幅寸法を持った、仮想の環状の領域である。また本発明では、センサ列内に位置するように診断領域の外周上に信号入射用パルサを配置する。なおセンサ列を構成する複数のアコースティック・エミッション・センサ及び信号入射用パルサは、周方向に間隔をあけて並んでいればよく、完全に直線上に並ぶ必要はない。
【0010】
このような条件で複数のアコースティック・エミッション・センサ及び信号入射用パルサを設置した後に、信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を診断領域に入射する。そして複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、信号入射用パルサと隣り合うアコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、周方向に隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサ間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算する。ここで減衰率とは、例えばアコースティック・エミッション信号が伝播する経路の上流側におけるアコースティック・エミッション信号の振幅や、アコースティック・エミッション・エネルギや、信号の継続時間を分母において、下流側で測定したアコースティック・エミッション信号の振幅や、アコースティック・エミッション・エネルギや、信号の継続時間を分子において演算により求めた、信号の強さの比である。したがって信号入射用パルサの位置における減衰率が「1」となり、信号入射用パルサから離れるほど、この減衰率は「0」に近づくことになる。
【0011】
本発明は、管のある長さ範囲(管の周方向のある長さ範囲または管の長手方向の長さ範囲のいずれでもよい)におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率が、その長さ範囲内の内壁に付着している付着物の厚みとその長さ範囲の長さ寸法の積で表される積値と、負の相関を持っていることを、発明者が見出したことに起因して、案出されたものである。すなわち積値と減衰率との間には、減衰率が大きいほど、積値が小さくなり、減衰率が小さいほど、積値が大きくなる関係が存在することを発明者は見出した。この関係(傾向)は、コーキングを含む種々の付着物、各種の管の材質、管の寸法が異なっていても、またアコースティック・エミッション信号の入射位置が異なったとしても、変わらないことも発明者によって確認された。またこの関係は、管の周方向においても、また管の長手方向においても同様に存在する。そこで事前に、この関係と長さ範囲の長さ寸法とが分かっている状況であれば、減衰率に基づいて、その長さ範囲における付着物の厚みを推定することができる。なおこの推定では、付着物の厚みを必ず絶対値として推定できる必要はなく、厚みの変化や、厚みのレベルが相対値で推定できればよい。本発明では、管の周方向に所定の角度間隔をあけて配置した複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から前述の減衰率を演算することによって、診断対象の管についての基準データを用いることなく、周方向における付着物の厚みの変化を推定できる。その結果、この推定に基づいて、付着物の状況を診断することが可能になる。
【0012】
なお推定を容易にするためには、センサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離と、信号入射用パルサと隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサとの間の距離とを、同じ距離にするのが好ましい。このようにすると演算した減算率に基づいて付着物の厚みを推定する際に、簡単に厚みを推定することができる。この厚みの推定結果は、その長さ範囲内の付着物の平均的な厚みと見ることができる。
【0013】
またセンサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサと信号入射用パルサとを、共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、診断領域に対して装着するようにしてもよい。このようにすると複数のアコースティック・エミッション・センサを常に同じ条件で管に対して装着できるので、装着誤差に基づく、演算誤差の発生を少なくすることができる。
【0014】
また本発明では、次のようにすることにより、管の周方向だけでなく、管の長手方向に対しても、診断が可能になる。まず管の診断の対象となる第1の診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第1のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置する。この第1のセンサ列内に位置するように診断領域の外周上に信号入射用パルサを配置する。また第1のセンサ列から管の長手方向に所定の距離はなれた第2の診断領域上の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第2のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置する。このようにした上で、信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を前記診断領域に入射する。そして第1のセンサ列を構成する複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、信号入射用パルサと隣り合うアコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、周方向に隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサ間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算する。また第2のセンサ列を構成する複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、信号入射用パルサと第2のセンサ列を構成する複数のアコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算する。その後、二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における付着物の厚みの積値と減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、第1のセンサ列における減衰率から第1の診断領域における付着物の周方向における厚みの変化を推定する。そして同様にして、第2のセンサ列における減衰率から第1の診断領域と第2の診断領域との間における付着物の長手方向における厚みの変化を推定する。これによって第1の診断領域と第2の診断領域との間における管内に付着する付着物の状況を診断することが可能になる。なお長手方向の厚みの変化は、信号入射用パルサとアコースティック・エミッション・センサとを管の外周面を通って最短距離で結ぶ仮想線に沿った場所の付着物の平均的な厚みであると見ることができる。第1の診断領域に設ける信号入射用パルサの数を複数にして、しかも周方向に適正な間隔をあけて配置し、各信号入射用パルサから個別にアコースティック・エミッション信号を入射させて、入射位置を変えた複数回にわたる推定を行い、この複数回の推定から長手方向の付着物の厚みの変化を推定してもよい。
【0015】
なお演算を容易にするためには、第1のセンサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離と、信号入射用パルサと隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサとの間の距離とは、一定距離とするのが好ましい。また第2のセンサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離も、前記一定距離と同じにするのが好ましい。
【0016】
またこの場合にも、第1のセンサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサと信号入射用パルサとを、共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、第1の診断領域に対して装着し、第2のセンサ列内における複数のアコースティック・エミッション・センサを共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、第2の診断領域に対して装着するのが好ましい。このようにすると信号入射用パルサ及びアコースティック・エミッション・センサの装着及び位置決めが容易になる。
【0017】
本発明は、各種の管の内部に付着した付着物の診断に利用できるものであるが、特に加熱炉管内に形成されるコーキングの診断に適している。そして加熱炉管の診断においては、加熱炉管内のコーキングの状況が予め定めた危険条件を満たす場合にのみ、管に対して放射線透過密度法やイメージングプレートを用いた放射線透過試験法等の放射線を利用した診断法を用いてコーキングの状況を詳細に診断するのが好ましい。このようにすると、本当に詳細な診断が必要な管だけに対して、放射線を利用した診断法を用いてコーキングの状況を詳細に診断すればよいことになるので、放射線透過密度法を用いて最終的な診断結果を出す場合には、放射線透過密度法による診断回数を最小限のものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二つのアコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における付着物の厚みの積値と減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、アコースティック・エミッション信号の減衰率に基づいて、付着物の厚みを推定することにより、付着物の厚みの変化を推定するので、基準データを用いることなく、管内の付着物の状況を診断することができる利点がある。
【0019】
また本発明によれば、アコースティック・エミッション法を用いて、先に診断を行うので、加熱炉管内のコーキングの状況が予め定めた危険条件を満たす場合にのみ、放射線透過密度法を用いて最終的な診断結果を出せば、放射線透過密度法による診断回数を最小限のものとすることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して本発明の管内付着物診断方法の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明を用いて、加熱炉内に配置される加熱炉管1の内部に付着したコーキングと残留物(プロセス流体、スラッジ)とを区別して、加熱炉管1の所定領域の内部において周方向と長手方向の両方向に沿って、どのような状況でコーキングが付着しているのかを診断する場合の例を説明するために用いる図である。図1は、連続して延びる長い加熱炉管1において、水平方向に伸びる一部分だけを切り出した状態を示している。図1においては、紙面における下方向が、地球上で重力が作用する下方向となる。また図2は、加熱炉管1の周囲に実際に配置する信号入射用パルサ2と、複数のアコースティック・エミッション・センサ31〜37の具体的な配置状態を、一部を誇張して模擬的に示す図である。なお図2においては、位置関係と取り付け状態を示すことを目的にしているため、実際には見えない部分もすべて実線で描いてある。
【0021】
この実施の形態では、加熱炉管1の診断の対象となる第1の診断領域R1の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第1のセンサ列4を形成するように信号入射用パルサ2と3個のアコースティック・エミッション・センサ31〜33とを加熱炉管の周方向に一定の角度間隔をあけて(90度の角度間隔をあけて)配置している。なお図1においては、信号入射用パルサ2とアコースティック・エミッション・センサ31〜37を矢印で示してある。また第1のセンサ列4から加熱炉管の長手方向に所定の距離はなれた第2の診断領域R2上の外周上に、周方向に所定の角度間隔をあけて第2のセンサ列5を形成するように4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37を配置している。ここで第1及び第2の診断領域R1及びR2とは、アコースティック・エミッション・センサを完全に配置できる幅寸法を持った、仮想の環状の領域である。本実施の形態では、第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間の領域も診断領域となる。なお実用的な第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間の長さ寸法は、200mm〜5000mmである。
【0022】
この例では、第1のセンサ列4内における、3つのアコースティック・エミッション・センサ31〜33と信号入射用パルサ2とを、共通の取り付け用治具6に取り付けた状態で、第1の診断領域R1に対して装着している。また第2のセンサ列5内における4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37も共通の取り付け用治具7に取り付けた状態で、第2の診断領域R2に対して装着されている。取り付け用治具6及び7は、アコースティック・エミッション・センサ及び信号入射用パルサを、1回の装着作業でしっかりと加熱炉管1に対して固定できるものであれば、どのような構造であってもよい。
【0023】
取り付け用治具6及び7にそれぞれ取り付けられた信号入射用パルサ2とアコースティック・エミッション・センサ31〜37は、加熱炉管1の外面に導波棒8を突き立てて、アコースティック・エミッション信号の入射と受信とを行うタイプの市販品である。
【0024】
本実施の形態では、第1のセンサ列4内に位置するように診断領域の外周上に信号入射用パルサ2を配置している。なお第1のセンサ列4を構成する3つのアコースティック・エミッション・センサ31〜33及び信号入射用パルサ2は、加熱炉管1の周方向に間隔をあけて並んでいればよく、完全に直線上に並ぶ必要はない。すなわち、ジグザグ状または千鳥状にこれらの部品が並んでいてもよい。図3に示すように、本実施の形態では、第1のセンサ列4及び第2のセンサ列5が1つのプローブ装置9を構成するものとして取り扱われている。そして信号入射用パルサ2は、信号処理装置10からの指令でアコースティック・エミッション信号を出力し、アコースティック・エミッション・センサ31〜37は受信したアコースティック・エミッション信号を信号処理装置10に送信する。信号処理装置10は、受信した減衰したアコースティック・エミッション信号に基づいて、後述する演算を行い、その演算結果を診断装置11へと出力する。
【0025】
本実施の形態の方法により診断を行う場合には、信号処理装置10からの指令に基づいて、信号入射用パルサ2からアコースティック・エミッション信号を第1の診断領域R1に入射する。第1のセンサ列4を構成する3個のアコースティック・エミッション・センサ31〜33の出力からは、信号処理装置10が信号入射用パルサ2と隣り合うアコースティック・エミッション・センサ31及び33との間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、周方向に隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサ間(アコースティック・エミッション・センサ31及び32間、アコースティック・エミッション・センサ32及び33間)におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算する。
【0026】
ここで減衰率とは、例えばアコースティック・エミッション信号が伝播する経路の上流側におけるアコースティック・エミッション信号(例えば信号入射用パルサ2から出たアコースティック・エミッション信号そのもの)の振幅や、アコースティック・エミッション・エネルギや、信号の継続時間を分母において、下流側(例えばアコースティック・エミッション・センサ31または33)で測定したアコースティック・エミッション信号の振幅や、アコースティック・エミッション・エネルギや、信号の継続時間を分子において演算した信号の強さの比である。したがって信号入射用パルサ2の導波棒8の位置における減衰率が「1」となり、信号入射用パルサから離れるほど、この減衰率は「0」に近づくことになる。
【0027】
また信号処理装置10は、第2のセンサ列5を構成する4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37の出力から、信号入射用パルサ2と第2のセンサ列を構成する4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37のそれぞれとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算する。この場合には、信号入射用パルサ2の出力が分母におかれ、アコースティック・エミッション・センサ34〜37が受信した信号が分子におかれることになる。
【0028】
発明者は、管のある長さ範囲(管の周方向のある長さ範囲または管の長手方向の長さ範囲のいずれでもよい)におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率が、その長さ範囲の内壁に付着している付着物の厚みとその長さ範囲の長さ寸法の積で表される積値(本願明細書では、この値をコーキング厚さ累積とも言う)と、負の相関を持っていることを見出した。図4は、加熱炉管として用いられる試験用の管の内部にコーキングに相当する物を付着させ、その厚みや付着量を種々変えて、測定した結果を示すグラフである。径寸法及び材質の異なる管に関して、同じ試験を行ったが、測定値は異なるものの、図4に示されるグラフに見られる負の相関関係と同じ負の相関関係が得られることが分かった。すなわち積値(コーキング厚さ累積)と減衰率との間には、減衰率が大きいほど、積値が小さく、減衰率が小さいほど、積値が大きくなる関係が存在する。この関係は、コーキングを含む種々の付着物の種類が異なっていても、また管の材質や寸法が異なっていても、さらにアコースティック・エミッション信号の入射位置が異なったとしても、変わらない。そのため事前に、この関係と前述の長さ範囲の長さ寸法(二つのアコースティック・エミッション・センサ間の距離)とが分かっている状況であれば、減衰率に基づいて、その長さ範囲における付着物の厚みを推定することができる。すなわち減衰率をα、積値[付着物の厚さ(コーキング厚さ)T×センサ間の距離L]をV、センサ間の距離をLとすれば、これらの間には以下の関係式が成立する。
【0029】
(V+L)=a×(α)-b+c
上記式において、a,b,cは、それぞれ定数である。これらの定数は、付着物の性状によって変わる。実際的には、診断の対象とする管が加熱炉管であれば、内部にはコーキングが付着するため、コーキングにあった定数の値が用いられる。これらの定数は、予め求めておくことができる。これらの定数が決まれば、付着物の厚みは、上記の関係式から定量的な値として推定することができる。上記の関係式が成立することを前提にすれば、未知の付着物であっても、適宜の定数を用いると、付着物の存在とその厚みを相対的に評価することができる。
【0030】
この厚み寸法の推定は、その長さ範囲内の平均的な付着物の厚みの推定となる。そして具体的な厚み寸法というよりは、むしろ厚みのレベル(相対値)として推定できればよい。例えば、何も付着していないときを0とし、管の半径を−10とした場合に、その間の厚みを10段階に分けたとすれば、この厚みの推定では、−1にあるとか、−3にあるという相対値となる程度になる。この場合、半径の値が定まっていれば、この10段階の相対値は、厚さ寸法そのものに換算することができるので、10段階表示ではなく、定量的な表示としてもよいのは勿論である。
【0031】
このような相関関係を前提にして、信号演算装置10では、加熱炉管1の周方向に90度の角度間隔をあけて配置した第1のセンサ列4に含まれる3個のアコースティック・エミッション・センサ31〜33が受信したアコースティック・エミッション信号と信号入射用パルサ2から出力されるアコースティック・エミッション信号とに基づいて前述の減衰率を演算することによって、基準データを用いることなく、第1の診断領域R1の内部に付着した付着物の厚みの周方向の変化を推定する。
【0032】
そして同様にして、第2のセンサ列5を構成する4つのアコースティック・エミッション・センサ34〜37の出力から、信号入射用パルサ2と第2のセンサ列4を構成するアコースティック・エミッション・センサ34〜37との間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率をそれぞれ演算する。そして図3の診断装置11では、二つのアコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における付着物の厚みの積値と減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、第2のセンサ列5における減衰率から第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間におけるコーキングの加熱炉管の長手方向における厚みの変化を推定する。そして診断装置は、これらの推定により、加熱炉管内に付着する付着物の状況を診断する。
【0033】
図5(A)は、実際の診断方法の一例を説明するための信号入射用パルサ2と11個のアコースティック・エミッション・センサ3a乃至3kとの位置関係と、アコースティック・エミッション信号の減衰の方向を示す図であり、図5(B)は推定結果の一例をグラフ化した図である。信号入射用パルサ2と11個のアコースティック・エミッション・センサ3a乃至3kとは、周方向に30度の角度間隔をあけて配置されている。そして図5(A)に示した矢印の向きは、信号入射用パルサ2から加熱炉管1に入射されたアコースティック・エミッション信号が伝播する方向を示している。この場合には、信号入射用パルサ2とアコースティック・エミッション・センサ3aとの間の減衰率、アコースティック・エミッション・センサ3a及び3b間の減衰率のように隣合う二つのアコースティック・エミッション・センサ間のアコースティック・エミッション信号の減衰率として12個の減算率が演算される。これらの演算率を図4に示すような演算率とコーキング厚さ累積との関係から、それぞれセンサ間のコーキングの厚みをレベルとして推定する。図5(B)は、推定結果を表示した図である。図5(B)では、信号入射用パルサ2とセンサ3aとの間の減衰率に基づいて演算した厚みレベルを、0度の位置から330度までの範囲のコーキングの厚みとして表示した。そして330度〜300度までの間のコーキングの厚みは、300度の位置に示し、300度〜270度までの間のコーキングの厚みを270度の位置に示し、270度〜240度までの間のコーキングの厚みは、240度の位置に示し、240度〜210度までの間のコーキングの厚みを210度の位置に示し、210度〜180度までの間のコーキングの厚みを180度の位置に示した。逆のルートも同様にして示した。図5(B)では、各角度位置における厚み寸法レベルを線でつないでいるので、図5(B)の線図を見ることにより、管の内部に付着したコーキングの管の周方向における変化の状況を診断できる。なお信号入射用パルサ2の真裏に配置されるアコースティック・エミッション・センサでは、伝搬経路が時計回り方向と反時計回り方向で等しい距離になるため、検出精度が低下することになる。そこでより精度を高めるためには、入射信号の入射点を管の周方向に複数回変更して、複数回の評価を行うようにするのが好ましい。
【0034】
また本実施の形態では、第1の診断領域R1に配置した信号入射用パルサ2から入射したアコースティック・エミッション信号を、第2のセンサ列5に配置したアコースティック・エミッション・センサ34〜37が受信して分かる信号の減衰率から、第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間における付着物の長手方向における厚みの変化を推定する。これによって第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間における管内に付着する付着物の状況を診断することが可能になる。なお付着物の長手方向の厚みの変化は、信号入射用パルサ2とアコースティック・エミッション・センサ34〜37とを管の外周面を通って最短距離で結ぶ仮想線に沿った場所の付着物の平均的な厚みであると見ることができる。第1の診断領域R1に設ける信号入射用パルサ2の数を複数にして、しかも周方向に適正な間隔をあけて配置し、各信号入射用パルサ2から個別にアコースティック・エミッション信号を入射させて、入射位置を変えた複数回にわたる推定を行い、この複数回の推定から長手方向の付着物の厚みの変化を推定してもよい。
【0035】
第1の診断領域R1に配置した信号入射用パルサ2から入射したアコースティック・エミッション信号が第2の診断領域R2に配置した複数のアコースティック・エミッション・センサに達するまでに減衰する。管の周方向でもまた管の長手方向でも、図4に示す積値(コーキング厚さ累積)と減衰率との関係は成立する。したがって減衰率に基づいて上記と同様にして演算した第1の診断領域R1と第2の診断領域R2との間の長手方向におけるコーキングの厚みの変化の状態を知ることができる。図6は、信号入射用パルサ2の位置を変えた場合における管の内部の長手方向におけるコーキングの推定状態を概念的に示す図である。図6において中央の領域が信号入射用パルサの配置位置である。なお診断領域R2に向かう矢印は、診断領域R2における0度、120度及び240度の位置にアコースティック・エミッション・センサを配置し、診断領域R1の0度、120度及び240度の位置に信号入射用パルサを順次動かして信号を入射した場合の信号の経路(コーキングの平均厚みを求めるための経路)示している。また診断領域R1に向かう矢印は、診断領域R1における0度、120度及び240度の位置にアコースティック・エミッション・センサを配置し、診断領域R2の0度、120度及び240度の位置に信号入射用パルサを順次動かして信号を入射した場合の信号の経路(コーキングの平均厚みを求めるための経路)示している。そして中央領域の寸法表示は、矢印で示された経路におけるこーキングの平均厚み寸法を示している。例えば、数値1.0mmから診断領域R2に向かう太い矢印は、診断領域R1の0度の位置に配置した信号入射用パルサから信号を入射し、診断領域R2の0度の位置に配置したアコースティック・エミッション・センサで信号を受信したときに、その経路において推定されるコーキングの厚みの平均値を示している。同様に上から3つ目の数値1.0mmから診断領域R2の120度に向かう太い矢印、中央領域の下から2つ目の数値2.2mmから診断領域R2の240度に向かう太い矢印も、診断領域R1の120度または240度の位置に配置した信号入射用パルサから信号を入射し、診断領域R2の120度または240度の位置に配置したアコースティック・エミッション・センサで信号を受信したときに、その経路において推定されるコーキングの厚みの平均値を示している。また中央領域の数値1.5mmから診断領域R2の120度に向か1本の斜めの細い矢印は、診断領域R1の0度の位置に配置した信号入射用パルサから信号を入射し、診断領域R2の120度の位置に配置したアコースティック・エミッション・センサで信号を受信したときに、その間の経路で推定されるコーキングの厚みの平均値が1.5mmであること示している。また中央領域の数値2.5mmから診断領域R2の120度に向かう1本の斜めの細い矢印は、診断領域R1の240度の位置に配置した信号入射用パルサから信号を入射し、診断領域R2の120度の位置に配置したアコースティック・エミッション・センサで信号を受信したときに、その間の経路で推定されるコーキングの厚みの平均値が2.2mmであること示している。また中央領域の数値2.5mmから診断領域R2の240度に向かう1本の斜めの細い矢印は、診断領域R1の120度の位置に配置した信号入射用パルサから信号を入射し、診断領域R2の240度の位置に配置したアコースティック・エミッション・センサで信号を受信したときに、その間の経路で推定されるコーキングの厚みの平均値が2.5mmであること示している。その他の矢印の解釈も同様である。
【0036】
本発明の方法による診断は、図5(B)及び図6に示すグラフから、人間が目視で行ってもよいし、コンピュータを利用して診断してもよい。図5(B)に示した円周方向の評価と、図6に示した長手方向の評価とを合わせることにより、長手方向のコーキングの付着状態の判定精度を高いものとすることができる。なお図5(B)及び図6に示したグラフは一例であって、その表示態様は任意であり、本実施の形態の表示態様に限定されるものではない。本実施の形態では、予め危険条件を定めておいて、この危険条件を超える場合には、加熱炉管に対して公知の放射線透過密度法等の放射線を利用した診断法を用いてコーキングの状況を詳細に診断する。このようにすると、本当に詳細な診断が必要な管だけに対して、放射線を利用した診断法を用いてコーキングの状況を詳細に診断すればよいことになるので、放射線を利用した診断法を用いて最終的な診断結果を出す場合には、放射線を利用した診断法による診断回数を最小限のものとすることができる。なお放射線透過密度法では、診断の対象となる管を間にして、放射線源と放射線検出センサとを配置し、放射線透過密度の変化により、管の内部の状況を診断する。イメージングプレートを用いる放射線透過試験法では、管の後方にイメージングプレートを配置し、管の前方約600mm程度の距離に放射線源を配置して、レントゲンと同じ原理で管の内部の状況をイメージングプレートに写して診断を行う。放射線を利用した診断法は、放射線を扱うために、特殊な技術を必要とするうえ、診断装置が高くなるので、できるだけ診断回数を少なくすることが好ましい。本実施の形態では、事前にアコースティック・エミッション法によって、管を全長にわたって診断する。そして、内部のコーキング量が危険な量を超えている(予め定めた危険条件を満たす)と診断された管だけに対して放射線を利用した診断法を実施するので、従来と比べて、放射線を利用した診断法の利用回数を大幅に減らすことができる。なおこの危険条件は、例えば、付着物の厚みの最高寸法が予め定めたレベルを超えた場合と定めることができる。
【0037】
図7(A),(B)及び(C)を用いて、本実施の形態の診断法により、管の内部にコーキングAM1が付着しているのか、スラッジAM3が付着しているのか、またはプロセス流体AM2が残っているのかを判断する場合について説明する。図7(A)に示すように、コーキングAM1が形成される位置は、火炎Fとの位置関係で決まる。すなわちコーキングは、火炎側に成長する。また液状のプロセス流体AM2及びスラッジAM3は、重力の作用で、管の内部の底部に溜まることになる。したがって図5(B)に示す推定結果を見ることにより、管の内部に成長している付着物の位置から、その付着物がコーキングか否かを判定することができる。また付着物が液状のプロセス流体AM2またはスラッジAM3であると判定した場合には、図5(B)に示す推定結果の厚みの変化のパターンから、その付着物が液状のプロセス流体AM2か、スラッジAM3かを判定することができる。すなわち液状のプロセス流体AM2であれば、周方向の両側で厚みが薄くなり、中央で厚みが最も厚くなる。これに対して、スラッジAM3の場合には、液状のプロセス流体AM2の場合のように、厚みの変化に明確な特徴が現れない。したがって液状のプロセス流体AM2に見られる特徴以外の厚みの変化が、図5(B)に示す推定結果に見られる場合には、スラッジであると判定することができる。
【0038】
上記の実施の形態では、第1のセンサ列4の中に1台の信号入射用パルサ2を配置しているが、例えば90度間隔、180度間隔等の所定の間隔をあけて複数台の信号入射用パルサを配置して、各信号入射用パルサ毎に順次アコースティック・エミッション信号を入射して複数のデータを取り、複数のデータに基づいて診断を行ってよい。また第2のセンサ列5の中に信号入射用パルサを配置して、第2の診断領域R2においても周方向の付着物についてのデータを取得して、診断を行ってもよい。
【0039】
また上記の実施の形態では、加熱炉管1の長手方向に間隔をあけた2箇所の診断領域R1及びR2にアコースティック・エミッション・センサを配置して、2箇所の診断領域の間の領域全体について診断を行っているが、1箇所の診断領域に信号入射用パルサを含むセンサ列を配置して、その領域における周方向に沿った内部の付着物の状況だけを診断するようにしてもよいのは勿論である。
【0040】
またセンサ列内における、複数のアコースティック・エミッション・センサと信号入射用パルサとを、共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、診断領域に対して装着するようにしてもよい。このようにすると複数のアコースティック・エミッション・センサを常に同じ条件で管に対して装着できるので、装着誤差に基づく、演算誤差の発生を少なくすることができる。
【0041】
なお演算を容易にするために、上記の実施の形態では、第1のセンサ列4内における、アコースティック・エミッション・センサ31〜33間の距離と、信号入射用パルサ2と隣り合う二つのアコースティック・エミッション・センサ31及び33との間の距離とは、一定角度範囲(一定距離)とし、また第2のセンサ列5内における、アコースティック・エミッション・センサ34〜37間の距離も、第1のセンサ列4内の一定角度範囲(一定距離)と同じにしている。しかしながらセンサ間の距離を異ならせてもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を用いて、加熱炉内に配置される加熱炉管の内部に付着したコーキングと残留物(プロセス流体、スラッジ)とを区別して、加熱炉管の所定領域の内部において周方向と長手方向の両方向に沿って、どのような状況でコーキングが付着しているのかを診断する場合の例を説明するために用いる図である。
【図2】加熱炉管の周囲に実際に配置する信号入射用パルサと、複数のアコースティック・エミッション・センサの具体的な配置状態を、一部を誇張して模擬的に示した図である。
【図3】本発明の方法を実施する際に使用する装置の構成を示す図である。
【図4】加熱炉管として用いられる試験用の管の内部にコーキングに相当する物を付着させ、その厚みや付着量を種々変えて、測定した減衰率とコーキング厚さ累積との関係を示すグラフである。
【図5】(A)は実際の診断方法の一例を説明するための信号入射用パルサと複数のアコースティック・エミッション・センサとの位置関係と、アコースティック・エミッション信号の減衰の方向を示す図であり、(B)は推定結果をグラフ化した図である。
【図6】管の長手方向におけるコーキングの厚みの変化の診断に利用できるグラフの一例を示す図である。
【図7】(A),(B)及び(C)は、本実施の形態の診断法により、管の内部にコーキングが付着しているのか、プロセス流体が残っているのか、またはスラッジが付着しているのかを判断する場合について説明するために用いる図である。
【符号の説明】
【0043】
1 加熱炉管
2 信号入射用パルサ
31〜37 アコースティック・エミッション・センサ
4 第1のセンサ列
5 第2のセンサ列
6,7 取り付け用治具
8 導波棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内に付着する付着物の状況を診断する管内付着物診断方法であって、
前記管の診断の対象となる診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけてセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記センサ列内に位置するように前記診断領域の外周上に1以上の信号入射用パルサを配置し、
前記信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を前記診断領域に入射し、
前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと隣り合う前記アコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、前記周方向に隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間における前記アコースティック・エミッション信号の減衰率を演算し、
二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における前記付着物の厚みの積値と前記減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、前記減衰率から前記診断領域における前記付着物の前記周方向における厚みの変化を推定することにより、前記管内に付着する前記付着物の状況を診断することを特徴とする管内付着物診断方法。
【請求項2】
前記センサ列内における、前記複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離と、前記信号入射用パルサと隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサとの間の距離とが、同じ距離である請求項1に記載の管内付着物診断方法。
【請求項3】
前記センサ列内における、前記複数のアコースティック・エミッション・センサと前記信号入射用パルサとを、共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、前記診断領域に対して装着することを特徴とする請求項1または2に記載の管内付着物診断方法。
【請求項4】
管内に付着する付着物の状況を診断する管内付着物診断方法であって、
前記管の診断の対象となる第1の診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第1のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記第1のセンサ列内に位置するように前記診断領域の外周上に信号入射用パルサを配置し、
前記第1のセンサ列から前記管の長手方向に所定の距離はなれた第2の診断領域上の外周上に前記周方向に所定の角度間隔をあけて第2のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を前記診断領域に入射し、
前記第1のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと隣り合う前記アコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、前記周方向に隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間における前記アコースティック・エミッション信号の減衰率を演算し、
前記第2のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと前記第2のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算し、
二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における前記付着物の厚みの積値と前記減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、前記第1のセンサ列における前記減衰率から前記第1の診断領域における前記付着物の前記周方向における厚みの変化を推定し、前記第2のセンサ列における前記減衰率から前記第1の診断領域と前記第2の診断領域との間における前記付着物の前記長手方向における厚みの変化を推定することにより、前記管内に付着する前記付着物の状況を診断することを特徴とする管内付着物診断方法。
【請求項5】
前記第1のセンサ列内における、前記複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離と、前記信号入射用パルサと隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサとの間の距離とが、一定距離であり、
前記第2のセンサ列内における、前記複数のアコースティック・エミッション・センサ間の距離が、前記一定距離である請求項2に記載の管内付着物診断方法。
【請求項6】
前記第1のセンサ列内における、前記複数のアコースティック・エミッション・センサと前記信号入射用パルサとを、共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、前記第1の診断領域に対して装着し、
前記第2のセンサ列内における前記複数のアコースティック・エミッション・センサを共通の取り付け用治具に取り付けた状態で、前記第2の診断領域に対して装着することを特徴とする請求項4または5に記載の管内付着物診断方法。
【請求項7】
加熱炉管内に付着するコーキングの状況を診断する管内付着物診断方法であって、
前記加熱炉管の診断の対象となる診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけてセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記センサ列内に位置するように前記診断領域の外周上に信号入射用パルサを配置し、
前記信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を前記第1の診断領域に入射し、
前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと隣り合う前記アコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、前記周方向に隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間における前記アコースティック・エミッションの減衰率を演算し、
二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における前記付着物の厚みの積値と前記減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、前記減衰率から前記診断領域における前記コーキングの前記周方向における厚みの変化を推定することにより、前記管内に付着する前記コーキングの状況を診断し、
前記加熱炉管内の前記コーキングの状況が予め定めた危険条件を満たす場合にのみ、前記管に対して放射線を利用した診断法により前記コーキングの状況を詳細に診断することを特徴とする管内付着物診断方法。
【請求項8】
加熱炉管内に付着するコーキングの状況を診断する管内付着物診断方法であって、
前記加熱炉管の診断の対象となる第1の診断領域の外周上に周方向に所定の角度間隔をあけて第1のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記第1のセンサ列内に位置するように前記第1の診断領域の外周上に信号入射用パルサを配置し、
前記第1のセンサ列から前記管の長手方向に所定の距離はなれた第2の診断領域上の外周上に前記周方向に所定の角度間隔をあけて第2のセンサ列を形成するように複数のアコースティック・エミッション・センサを配置し、
前記信号入射用パルサからアコースティック・エミッション信号を前記第1の診断領域に入射し、
前記第1のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと隣り合う前記アコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率と、前記周方向に隣り合う二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間における前記アコースティック・エミッション信号の減衰率を演算し、
前記第2のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサの出力から、前記信号入射用パルサと前記第2のセンサ列を構成する前記複数のアコースティック・エミッション・センサとの間におけるアコースティック・エミッション信号の減衰率を演算し、
二つの前記アコースティック・エミッション・センサ間の距離とその間における前記付着物の厚みの積値と前記減衰率との間には、負の相関があるとの前提の下で、前記第1のセンサ列における前記減衰率から前記第1の診断領域における前記コーキングの前記周方向における厚みの変化を推定し、前記第2のセンサ列における前記減衰率から前記第1の診断領域と前記第2の診断領域との間における前記コーキングの前記長手方向における厚みの変化を推定することにより、前記加熱炉管内に付着する前記付着物の状況を診断し、
前記加熱炉管内の前記コーキングの状況が予め定めた危険条件を満たす場合にのみ、前記管に対して放射線を利用した診断法により前記コーキングの状況を詳細に診断することを特徴とする管内付着物診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−249647(P2008−249647A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94334(P2007−94334)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】