説明

管状体塗装用吊下げ治具及びゴルフクラブの製造方法

【課題】ゴルフクラブシャフト等の管状体を確実に鉛直状態で吊持し、塗装不良を起こさず、塗装効率の改善がなし得る管状体塗装用吊下げ治具を提供する。
【解決手段】管状体を鉛直状態で吊持し、吊持された管状体の表面に塗料噴霧装置の塗料吹出口から塗料を噴射させて塗装する装置に用いられる管状体塗装用吊下げ治具であって、傘部2と、前記傘部の下面に垂設された円柱部3と、前記円柱部の上方部、傘部もしくは傘部と円柱部との間の部分に上端部が固定されると共に該上端部より下向きに突出する部分に前記円柱部の外周面に向けて屈曲してバネ性を付与した把持部4cを設けたクリップ部4を備え、前記円柱部に対して前記管状体を下方から外嵌すると共に、該管状体の周壁の一部を前記円柱部と把持部との間に押し込むことで円柱部とクリップ部との間に吊り下げ可とし、かつ、該管状体を下方へ引っ張ることで取り外し可能な構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体塗装用吊下げ治具及び該吊下げ治具を用いてゴルフクラブシャフトを塗装する工程を含むゴルフクラブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフトや釣竿等の管状体を塗装する場合、特許文献1に示すように、鉛直状態に吊下げ、塗料噴霧装置の塗料吹出口付近を順次通過させながら、その表面の塗装がなされている。
従来は、図4に示すような吊下げ治具によって、管状体を吊下げ保持して塗装がなされている。図4に示す吊下げ治具100は、特許文献1に示すような塗装ラインのレールに支持され、レールに沿って移動する吊下げ棒101の下端部に固設されたブラケット102に市販のクリップ部(通称、目玉クリップ部)103の一方のクリップ部片を溶接固定し、このクリップ部103によって管状体Pの上端部分を掴持して、管状体を鉛直状態に吊下げ保持している。
【0003】
しかしながら、前記吊下げ治具100を用いて管状体の塗装を行う場合、クリップ部103の掴持状態によっては、管状体Pが鉛直状態にならないことがある。そのため、塗装ラインに連続して管状体Pを吊るし、これを移動させて塗装する工程において、隣り合う管状体Pが干渉し合う(当り合う)という問題が発生し、この干渉を避けるために、管状体Pの吊下げ間隔を広げざるを得なくなり、結果として生産性が低下することにもなっていた。また、クリップ部103等に付着した塗料が垂れ、これが管状体Pに付き、塗装不良が発生し易いという問題点もあった。更に、クリップ部103に管状体Pを掴持させる作業に時間がかかり、生産性を低下させる要因にもなっていた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−336393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、吊下げ治具に対して差し込むだけで管状体を確実に鉛直状態で吊り下げ、塗装不良を起こさず、かつ、吊り下げ状態から管状体を下方へ引っ張るだけで吊下げ治具から取り外すことができ、塗装工程を簡単にできるようにすること課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明として、管状体を鉛直状態で吊持し、吊持された管状体の表面に塗料噴霧装置の塗料吹出口から塗料を吐出させて塗装する装置に用いられる管状体塗装用吊下げ治具であって、
傘部と、
前記傘部の下面に垂設された円柱部と、
前記円柱部の上方部、傘部もしくは傘部と円柱部との間の部分に上端部が固定されると共に該上端部材り下向きに突出する部分に前記円柱部の外周面に向けて屈曲してバネ性を付与した把持部を設けたクリップ部を備え、
前記円柱部に対して前記管状体を下方から外嵌すると共に、該管状体の周壁の一部を前記円柱部と把持部との間に押し込むことで円柱部とクリップ部との間に吊り下げ可とし、かつ、該管状体を下方へ引っ張ることで取り外し可能な構成としていることを特徴とする管状体塗装用吊下げ治具を提供している。
【0007】
前記構成からなる管状体塗装用吊下げ治具では、ゴルフクラブシャフトや釣竿等の管状体の周壁を、円柱部とクリップ部の把持部との間に押し込むことで、把持部の弾性力で円柱部との間で確実に管状体を狭持でき、管状体を円柱部に外周に沿わせて鉛直状態に吊下げ保持することができる。このように、管状体を下方より差し込み操作するだけでワンタッチで装着吊持させることができる。また、管状体を円柱部に外嵌すると共に円柱部とクリップ部の把持部との間で挟持して吊下げ保持しているため、管状体はその自重により必然的に鉛直状態とすることができる。よって、前記のような塗装ラインにおいて順次塗装してゆく場合でも、隣り合う管状体同士が干渉することを防止し、吊下げ間隔を狭くして塗装効率を高めることができ、簡易な装着性とも相俟って管状体の生産性の向上を図ることができる。
【0008】
更に、吊持された管状体の上部が傘部により覆われることになるから、吊下げ治具の上方に付着した塗料が垂れて管状体に付くことを防止し、塗装不良の発生を抑えることができる。また、吊下げ治具の上方に付着した塗料が垂れてクリップ部に付くことも防止されるので、連続使用によってもクリップ部の挟持機能が低下することがない。
塗装の際にはクリップ部も直接塗装されるが、これは均一な塗装であり、上から垂れてきた塗料の塊ではなく、挟持機能には殆ど悪影響を与えるものではない。
【0009】
前記クリップ部の把持部は円柱部に向けて「く」の字状に屈曲させ、屈曲頂部を円柱部の外周面に当接あるいは近接させていることが好ましい。
このように、把持部を「く」の字状に屈曲させた単純な形状とすると、円柱部との間で強い狭持力を発生させて、管状体の周壁を確実に狭持することができる。
また、把持部の円柱部に当接あるいは近接させる屈曲頂部より下方に向き、その先端は吊持された管状体の周面より離れる方向となる。従って、クリップ部に付着した塗料がその先端部より塊となって垂れても、管状体に付くこともなく、また、管状体を円柱部に嵌挿装着させる際に、この先端部に触れることがなく、先端に付着している塗料の塊が管状体の表面に転写されることもない。
なお、前記把持部では「く」の字を上下に連続させた波形状としてもよく、円柱部の外周面との間に狭持力を発生させることができる形状であればよい。
【0010】
また、前記のように、クリップ部はばね性線材を屈曲させて形成していることが好ましい。ばね性線材の材質としては、具体的には、JISG3522に定められるA種、B種あるいはV種のピアノ線が好適に用いられる。
このように、クリップ部を、ばね性線材を屈曲させて形成すると、クリップが簡単に形成でき、線材であることから塗料の付着が少なく、塗料たれによる塗装不良の発生要因となり難く、付着塗料の除去等のメンテナンス性にも優れたものとすることができる。
なお、ばね性線材にかぎらず比較的幅の狭い細幅帯状のバネ板で形成してもよい。
【0011】
クリップ部の把持部を「く」の字状とした場合、円柱部に取り付けた状態で、該クリップ部の径方向の外端は傘部の外端より突出させず、該把持部の外端と傘部の外周端との水平距離L1は、5〜30mmの範囲とすることが好ましい。これは5mm未満の場合、傘部から垂れる塗料が管状体に付着する可能性が生じる一方、30mmより大きいと治具の重量が増加すると共にコスト高になることに因る。
下限は、好ましくは8mm以上、更に好ましくは10mm以上である。上限は好ましくは20mm以下、更に好ましくは15mm以下である。
【0012】
また、前記「く」の字の把持部の下部先端と円柱部の周面との距離L2は、2〜15mmの範囲とすることが好ましい。これは、2mm未満とすると管状体の嵌挿がし難くなる一方、15mmを越えると把持部の下端に吊下げ治具の上方から垂れる塗料が付着し易くなり、かつ、先端部が作業者に当り作業性が悪くなることがあり、L2の下限は好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である。また、上限は10mm以下が好ましい。
【0013】
クリップ部における傘部の下面から「く」の字の屈曲頂部までの垂直距離L5は、5〜70mmの範囲とすることが好ましい。これは5mm未満では管状体の挟持が不確実となる一方、70mmを越えると管状体の嵌挿作業性が悪く生産性が低下する傾向となる。前記垂直距離L5の下限は好ましくは10mm以上、更に好ましくは15mm以上である。一方、上限は好ましくは50mm以下、更に好ましくは35mm以下である。
また、クリップ部における屈曲頂部から下部先端までの垂直距離L6は、2〜30mmの範囲とすることが好ましい。これは2mm未満では管状体の嵌挿がし難い一方、30mmを越えると吊下げ治具の重量が大となり、吊下げ治具を複数個まとめて保管する際にクリップ部が絡まり易くなり、更には作業者に当る等の問題も生じる。前記垂直距離L6の下限は好ましくは4mm以上、更に好ましくは5mm以上であり、上限は好ましくは20mm以下、更に好ましくは15mm以下である。
【0014】
また、前記クリップ部の把持部の屈曲頂部は、管状体の周壁の挟持力を強める為に、管状体の周壁を介在させない状態で円柱部の周面に当接させるのが望ましいが、管状体の周壁の厚みL8の1/2以下の範囲で、屈曲頂部と円柱部の周面との間に隙間を設けても良い。ゴルフクラブシャフトの場合、この隙間は0〜0.5mm、好ましくは0〜0.25mmである。
【0015】
前記円柱部の外径は、吊り下げる管状体の内径L9に対応させており、管状体の内径L9と円柱部の外径L3との径差であるL10(L9−L3)が1〜15mmとなるよう、円柱部の外径L3が設定することが好ましい。これは1mm未満であると管状体の嵌挿がし難くなる一方、10mmを越えると吊下げ治具に吊下げ保持された状態の管状体の軸心と吊下げ治具の軸心とのずれ(偏心量)が大きくなり、管状体の一部が傘部の垂直投影領域から食み出し、吊下げ治具の上方から垂れる塗料が管状体に付着し易くなることによる。前記L10の下限は好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上であり、上限は好ましくは10mm以下、更に好ましくは8mm以下である。
【0016】
前記円柱部は下端をテーパ部として、管状体を外嵌しやすくしてもよい。
この円柱部の先端テーパ部を除く長さL4は、30〜300mmの範囲とすることが好ましい。これは長さL4が30mm未満であると管状体の嵌挿保持が不確実になる一方、300mmを超えると管状体の嵌挿がし難くなりることによる。長さL4の下限は好ましくは50mm以上、更に好ましくは70mm以上である。一方、上限は好ましくは200mm以下、更に好ましくは150mm以下である。
円柱部の下端を先細り状のテーパ部とした場合、そのテーパ角度は10〜60°の範囲とすることが好ましい。これは10°未満或いは60°を超えると、いずれも上記嵌挿性が悪くなる傾向となる。テーパ部の下端部は、安全性等の観点から、フラットにしてもよい。
【0017】
前記傘部の外周縁と円柱部の周面との水平距離L7は、10〜30mmの範囲とすることが好ましい。これは、10mm未満の場合傘部から垂れる塗料が管状体に付着し易くなる一方、30mmを超えると吊下げ治具のコストアップ及び重量大となり、生産性の問題が生じる。前記水平距離L7の下限は好ましくは12mm以上、更に好ましくは14mm以上であり、上限は好ましくは25mm以下、更に好ましくは20mm以下である。
【0018】
傘部の材質としては、金属や樹脂(繊維強化樹脂も含む)を使用できるが、樹脂の場合は静電気で埃がつき易く、また耐溶剤性にも難がある上に、静電塗装の場合には電圧をかけられないので不可であり、よって、金属が好ましい。具体的には、ステンレス鋼、鉄、アルミニウムが挙げられるが、発錆性や強度の点でステンレス鋼が最も好ましい。
また、円柱部の材質としては、重い方が管状体の吊下げ状態、特に鉛直状態が安定すると共に、管状体の嵌挿作業性が良くなるので、比重5以上、特に7以上の材質とするのが望ましい。耐傷付性や耐溶剤性の観点から金属が好ましい。具体的には真鍮(比重:8程度)、鉛(比重:11程度)、鉄(比重:8程度)、ステンレス鋼(比重:11程度)が使用できるが、前記の性能面を総合すると、真鍮が最も望ましい。
【0019】
前記傘部は台円錐状の支持板の上面に、塗装装置の構成材に直接あるいは間接的に吊り下げるためのフックを突設していることが好ましい。前記構成材としては、例えば、ガイドレールが挙げられる。
【0020】
また、前記傘部の支持板の下面に前記円柱部をねじ結合によって着脱可能に装着し、前記クリップ部の上端に設けた円環部を前記傘部と円柱部との締結結合部間に介在させ、傘部と円柱部との間にクリップ部の上端部を着脱可能に固定することが好ましい。
前記のように、クリップ部を着脱可能に固定すると、クリップ部が変形し、或いは弾性が低下した場合、更には、クリップ部に塗料が付着し過ぎて管状体の挟持機能が低下した場合に、クリップ部のみを交換し、或いはクリップ部を取外して付着塗料の取除き等のメンテナンス作業が簡易になし得る。
更に、前記のように、クリップ部の基部を円柱部が傘部の間に介在させてねじ締め固定する構成とすると、円柱部の取外しと共にクリップ部も取外しが可能となり、クリップ部のメンテナンスと並行して円柱部の塗料取除き等のメンテナンスも行うことができる。
【0021】
前記傘部、円柱部、クリップ部は別体として、前記のように着脱自在に連結固定することが好ましいが、傘部と円柱部とを一体成形して、該円柱部に係止部を設けて前記クランプ部を着脱自在に取り付けてもよい。更に、傘部と円柱部とクリップ部を一体成形で設けてもよい。
【0022】
第2の発明として、前記管状体塗装用吊下げ治具に、管状体からなるゴルフクラブシャフトを鉛直状態で吊下げ保持すると共に、吊下げ治具を軸方向に回転させながら、塗装装置に設けた塗料噴霧装置の塗料吹出口付近を通過させて、塗料吹出口より塗料を噴射させてゴルフクラブシャフトの表面を塗装することを特徴とする塗装工程を含むゴルフクラブの製造方法を提供している。
尚、前記塗料吹出口付近とは、塗料噴霧装置の塗料吹出口から噴霧された塗料の噴霧空間であって、この部分を管状体が通過する際は、管状体が塗料の噴霧環境に晒され、その表面に適正な塗装がなされる領域を言う。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、第1の発明に係る管状体塗装用吊下げ治具では、ゴルフクラブシャフトや釣竿等管状体を円柱部に下方より差し込み操作するだけで、該円柱部とクリップ部の間で管状体の周壁をワンタッチで狭持させて吊持させることができる。かつ、吊り下げ状態において、管状体は鉛直状態となり、隣り合う管状体同士が干渉を防止できるため、吊下げ間隔を狭くして塗装効率を高めることができる。
かつ、吊下げ治具から管状体を取り外す際も、管状体を下方に引っ張るだけで取り外すことができ、取り付けと同様に取り外しもワンタッチで行うことができる。
【0024】
また、第2の発明に係わるゴルフクラブの製造方法では、前記吊下げ治具を用いてゴルフクラブシャフトを吊り下げた状態で、塗料噴霧装置の塗料吹出口付近を通過させながら、塗料吹出口より塗料を吐出させて管状体の表面の塗装をしているため、この塗装工程において、管状体の鉛直保持状態が維持することができる。かつ、吊下げ治具を軸回転させながら塗料吹出口付近を通過させるため、通過の間に環状体の周面が全周囲に亘って均一に塗装できる。
さらに、塗装ラインにおいて順次塗装してゆく場合、隣り合う管状体同士の干渉を防止できるため、吊下げ間隔を狭くして塗装効率を高めることができ、管状体の生産性の向上が図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図3を参照して説明する。
図1および図2に示すように、管状体塗装用吊下げ治具(以下、吊下げ治具と略す)1は、傘部2と、該傘部2の下面に垂設される円柱部3と、傘部2と円柱部2の上面との間に上端部を固定して円柱部3の外周面に沿って下方へと延在させたクリップ部4とからなる。これら傘部2、円柱部3、クリップ部4は別部材とし、夫々着脱自在に組みつけて一体化している。
前記吊下げ治具1では、円柱部3に対して管状体5を下方から外嵌すると共に、該管状体5の周壁5aの一部を円柱部3とクリップ部4との間に押し込むことで管状体5を吊り下げる一方、該管状体5を下方へ引っ張ることで取り外し可能な構成としている。
【0026】
クリップ部4はばね性線材から形成しており、その上端部には前記傘部2と円柱部3との間に介在固定する水平方向の円環状基部4aを設けていると共に、該円環状基部4aから径方向への突出部4bを設けている。該突出部4bの外端より下向きに「く」の字状に屈曲した把持部4cを設けている。該把持部4cは円柱部3側へと傾斜する上部傾斜辺部4c−1と、該上部傾斜辺部4c−1の下端の屈曲頂部4c−2と、該屈曲頂部4c−2より外下方へと傾斜する下部傾斜辺部4c−3とからなり、円柱部3から離れる方向の下部傾斜辺部4c−3の先端4c−4がクリップ部4の最下端となると共に、把持部4cの外端ともなる。
把持部4cは、図1の2点鎖線及び図2(A)に示すように、円柱部3の外周面に頂部4c−2が当接するように形成している。
なお、装着される管状体5の周壁5aの厚みより小さな距離で円柱部3の周面より離れていても良い。
【0027】
前記傘部2は下面を円形とした台円錐形状の支持板2aの下面に雄ネジ部2bを突設し、前記円柱部3の中空内壁部に形成した雌ねじ部3aを螺合してねじ締め結合し、この螺合を解くことで円柱部3を傘部2から取外し可能としている。
前記クリップ部4の円環状基部4aは傘部2の雄ねじ部2bに嵌挿し得る径の円環状とし、傘部2と円柱部3とをねじ結合させる際、この円環状基部4aを雌ねじ部3aに嵌挿し、傘部2と円柱部3との締結結合部間に介在させて固定している。従って、円柱部3を取外すとクリップ部4も取り外し可能としている。
【0028】
また、傘部2の支持板2aの中央上端には、フック2cを突設し、これを塗装ラインの装置に直接又は間接的に引っ掛けるようにし、本実施形態では、フック2c後記する塗装ラインの移動具に引っ掛けるようにしている。また、円柱部3の下端はフラットとしているが、管状体5を外嵌しやすくする為にテーパ部としてもよい。
【0029】
次に、各部の寸法等について、図2(A)(B)を参照して説明する。
クリップ部4の先端部4cー4と傘部2の周縁部との水平距離L1は、5〜30mmの範囲とし、本実施形態では5mm〜10mmの範囲としている。
クリップ部4における傘部2の下面から屈曲頂部4c−2までの垂直距離L5は、5〜70mmの範囲とし、本実施形態では10mm〜35mmの範囲としている。
クリップ部4における屈曲頂部4c−2から先端4cー4までの垂直距離L6は、2〜30mmの範囲とし、本実施形態では5mm〜15mmの範囲としている。
【0030】
本実施形態では、管状体5はゴルフクラブシャフトからなり、その内径L9は通常15〜30mmであり、多用品では16〜26mmである。
前記ゴルフクラブシャフトを外嵌する円柱部3の外径L3は、管状体5を嵌挿し得る径であることは当然であり、この意味から管状体5の内径L9と円柱部3の外径L3との径差であるL10(L9−L3)が1〜15mmとなるように、円柱部3の外径L3が設定している。本実施形態では前記L10を3mm〜8mmの範囲に設定している。
【0031】
円柱部3の下端はフラットとしており、該円柱部の長さL4は、30〜300mmの範囲とし、本実施形態では70mm〜150mmの範囲としている。
傘部2の外周縁部と円柱部3の周面との水平距離L7は、10〜30mmと範囲とし、本実施形態では14mm〜20mmの範囲としている。
【0032】
管状体5の管壁5aの厚みL8は、ゴルフクラブシャフトの場合、通常0.5〜3mmである。クリップ部4の最も円柱部3に近い位置、即ち、屈曲頂部4c−2は、管状体5の周壁5aの挟持力を強める為に、図2(A)のように管状体5がない状態で円柱部3の外周面に当接させいる。なお、管状体5の周壁5aの厚みL8の1/2以下の範囲で、屈曲頂部4c−2と円柱部3の周面との間に0〜0.25mmの隙間をあけてもよい。
【0033】
傘部2は金属製とし、本実施形態では、発錆性や強度の点でステンレス鋼を用いている。また、円柱部3は、重い方が管状体5の吊下げ状態、特に鉛直状態が安定すると共に、管状体5の嵌挿作業性が良くなるので、本実施形態では真鍮を用いている。
クリップ部4は、JISG3522に定められるA種、B種あるいはV種のピアノ線からなるばね性線材を屈曲形成している。
【0034】
前記構成からなる吊下げ治具1により管状体5を吊下げ保持するには、円柱部3とクリップ部4の把持部4cの間に管状体5の周壁5aの一部を押し込むように下方より管状体5を円柱部3に外嵌していく。
即ち、円柱部3を管状体5の中空部5bに挿入し、クリップ部4へ管状体5の周壁5aを押し込むと、把持部4cは押し込みによる弾性変形に伴う復元弾力で周壁5aを円柱部3と頂部部4c−2との間に弾圧挟持する。
この時、把持部4cの下部傾斜辺部4c−3の先端4cー4は、円柱部3の周面より離れる方向に向いているため、この先端4cー4から頂部4c−2にかけての線材部分が、管状体5を円柱部3に嵌挿させる際のガイドとなり、管状体5の嵌挿押込み力によって把持部4cを弾性変形させる。管状体5の上端を傘部2の下面付近まで押込み手離すと、把持部4cの復元弾力によって周壁5aが円柱部3と把持部4cの頂部4c−2との間に弾圧挟持されて管状体5が吊下げ保持される。
この吊下げ保持は、この把持部4cの屈曲頂部4c−2による点接触もしくは線接触的な弾圧挟持作用によってなされ、管状体5はその自重によって必然的に鉛直状態となるようにしている。
【0035】
次に、ゴルフクラブの製造方法におけるゴルフクラブシャフトの塗装工程について説明する。該塗装工程において、前記吊下げ治具1に管状体としてゴルフクラブシャフト50(以下、シャフト50と略す)吊り下げ、その表面を塗装している。
図3は、静電塗装機により、吊下げられたシャフト50の表面を順次塗装する塗装装置を示す斜視図である。この塗装システムは、静電塗装機(塗料噴霧装置)6の塗料吹出口6aより、電荷を帯びた塗料7を霧状で吐出・噴霧させると共に、この霧状の塗料が噴霧された噴霧空間Sにシャフト50を順次通過させて、シャフト50の表面を塗装している。
図例の静電塗装機6は、ディスクタイプの塗装機であって、上下動する塗料吹出口6aより水平方向に略360°の範囲に亘って塗料7が霧状で噴霧される。
【0036】
吊下げ具1は、静電塗装機6の周りを取囲むよう配設されたレールRに沿って移動する複数の移動具8に夫々掛止され、各吊下げ具1には上記要領で被塗装ワークとしてのシャフト50が吊下げ保持されている。
複数の移動具8のレールRに沿った移動の間、吊下げ具1に吊下げ保持されたシャフト50は噴霧空間Sを通過し、この通過の間にシャフト50の表面が塗装される。
レールR内には、該レールRに沿って移動するワイヤー或いはチェーン等の索条体からなるコンベヤ9が配設されている。移動具8は、このコンベヤ9の長手方向に沿って略等間隔で取付られた取付金具8aと、この取付金具8aの下端に軸回転可能に軸支された自転用歯車8bとよりなる。この自転用歯車8bの下方に前記フック2bをして吊下げ具1が掛止されている。この掛止に際しては、図示していないが、自転用歯車8bの下に棒状ハンガー(長尺フック等)を介在させて行うことも可能である。
なお、異なる棒状ハンガーを用意して、使用する棒状ハンガーを変えることにより、又は棒状ハンガーの長さを調節する機能をもたせて、その長さを変えることにより、管状体の長さの変化に対向する許容度を高めると共に、管状体における塗装範囲の設定の自由度を高めることができる。
【0037】
レールRの一側面には、その長手方向に沿った塗装区間において平歯車10が固設され、前記自転用歯車8bが噛合っている。従って、移動具8がコンベヤ9によってレールRに沿って移動する際、平歯車10と自転用歯車8bとのラックアンドピニオンの関係で、自転用歯車8bがその軸周りに自転する。これに伴い、吊下げ治具1に吊下げ保持されたシャフト50も、軸回転しながら静電塗装機6の周りを移動する。
【0038】
前記のように、吊下げ治具1に吊下げ保持された状態のシャフト50は、レールRに沿って移動し、静電塗装機6の塗装区間に至ると、静電塗装機6の周りを取囲むように移動し、前記噴霧空間Sを通過する。この間、管状体5は軸回転し、また、静電塗装機6の塗料吹出口6aは上下動しているから、管状体5の全ての表面が均一に塗装される。コンベヤ9の作動は連続的になされ、吊下げ治具1を介しコンベア9に等間隔で吊下げ保持されたシャフト50は、順次円滑に塗装されてゆく。そして、各シャフト50は鉛直状態を維持されて吊下げ保持されているから、その間隔を狭めても隣り合うシャフト50同士が干渉することがなく、効率的な塗装がなされ、ひいては製品としてのシャフトの生産性向上にも繋がる。
【0039】
前記取付金具8aのコンベヤ9に対する取付ピッチは、特に限定されないが、前記のように、管状体がゴルフクラブシャフト50である場合、隣り合うシャフト50と50の間隔Aが5〜300mm、より好ましくは5〜200mm、更には50〜200mmとなるよう設定している。
この間隔Aが5mm未満であると、互いに干渉することがあり、また、十分な塗装領域を形成し得ず、塗装性が低下して塗膜厚さにバラツキが生じる傾向があり、逆に300mmを超えると、静電塗装機6を連続噴霧するときなど塗料の無駄吹きなどが生じやすく生産性が低下し易い。
シャフト50が噴霧空間Sを通過する速度や、シャフト50の自転速度(軸回転速度)等は、適宜に設定しているが、前記特許文献1で開示された条件と同様の条件でもよい。
また、塗装後は乾燥工程が行われること、及びこの乾燥工程での乾燥条件の設定等も同様である。
【0040】
尚、前記実施形態では、円柱部の下端はフラットとしているが、管状体の嵌挿性を良くする為に先細り状のテーパとしてもよい。その場合、テーパ角度は10〜60°の範囲としている。
また、前記実施形態では、クリップ部4の上端固定部に環状の基部4aを設け、傘部2と円柱部3との間のねじ結合による締結結合部に固定されているが、これに限定されず、円柱部3の上方部或いは傘部2に係止部を設け、クリップ側に形成した係止部を係止して固定してもよい。
さらに、傘部2及びクリップ部4等の形状、塗装システムにおけるレールRの形状等も図例のものに限定されず、移動具8における取付金具8a、自転用歯車8b、コンベア9等も、公知のこの種塗装システムに採用しえる。
さらに、塗装システムにおける装置において、管状体を順次移動させるガイドレールに吊り下げる代わりに、固定の吊り下げ材に吊り下げても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の管状体塗装用吊下げ治具の一実施形態を示す部分切欠正面図である。
【図2】(A)(B)は同管状体塗装用吊下げ治具の各部の寸法等を説明する図であり、(A)は管状体を装着する前の状態を示し、(B)は管状体を装着した状態を示す。
【図3】同管状体塗装用吊下げ治具を用いて管状体を塗装する装置の概略斜視図である。
【図4】従来の管状体塗装用吊下げ治具の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 管状体塗装用吊下げ治具
2 傘部
2a 支持板
2b 雄ねじ部
2c フック
3 円柱部
3a 雌ねじ部
4 クリップ部
4a 円環状基部
4b 突出部
4c 把持部
4c−1 上部傾斜辺
4c−2 屈曲頂部
4c−3 下部傾斜辺
4c−c 先端
5 管状体
5a 周壁
6 静電塗装機(塗料噴霧装置)
6a 塗料吹出口
50 ゴルフクラブシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体を鉛直状態で吊持し、吊持された管状体の表面に塗料噴霧装置の塗料吹出口から塗料を噴射させて塗装する装置に用いられる管状体塗装用吊下げ治具であって、
傘部と、
前記傘部の下面に垂設された円柱部と、
前記円柱部の上方部、傘部もしくは傘部と円柱部との間の部分に上端部が固定されると共に該上端部より下向きに突出する部分に前記円柱部の外周面に向けて屈曲してバネ性を付与した把持部を設けたクリップ部を備え、
前記円柱部に対して前記管状体を下方から外嵌すると共に、該管状体の周壁の一部を前記円柱部と把持部との間に押し込むことで円柱部とクリップ部との間に吊り下げ可とし、かつ、該管状体を下方へ引っ張ることで取り外し可能な構成としていることを特徴とする管状体塗装用吊下げ治具。
【請求項2】
前記把持部は円柱部に向けて「く」の字状に屈曲させ、屈曲頂部を円柱部の外周面に当接あるいは近接させている請求項1に記載の管状体塗装用吊下げ治具。
【請求項3】
前記クリップ部はバネ性線材を屈曲させて形成している請求項1または請求項2に記載の管状対塗装用吊下げ装置。
【請求項4】
前記傘部は下面が円形の支持板の上面に、塗装装置の構成材に直接又は間接に吊り下げるためのフックを突設していると共に前記支持板の下面に前記円柱部をねじ結合によって着脱可能に装着し、前記クリップ部の上端に設けた円環部を前記傘部と円柱部との締結結合部間に介在させ、傘部と円柱部との間にクリップ部の上端部を着脱可能に固定している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の管状体塗装用吊下げ治具。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の管状体塗装用吊下げ治具に、管状体からなるゴルフクラブシャフトを鉛直状態で吊下げ保持すると共に、吊下げ治具を軸方向に回転させながら、塗料噴霧装置の塗料吹出口付近を通過させて、塗料吹出口より塗料を噴射させてゴルフクラブシャフトの表面を塗装することを特徴とする塗装工程を含むゴルフクラブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−215768(P2007−215768A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39757(P2006−39757)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】