説明

管状部材の製造方法及びその管状部材

【課題】拡管時の加工力を低減させることが可能であり、それにより突き合せ部を接合する工程を廃止することが可能となる管状部材の製造方法及びその管状部材を提供する。
【解決手段】スロット5(5a〜5e)が千鳥状に配列された被拡管部位4を拡管させるので、拡管時に、被拡管部位4の断端部3に開口した各スロット5bはV字形に開くように変形し、被拡管部位4全体では格子状に変形する。これにより、拡管時の加工力は、格子の交差部を曲げ加工するだけの加工力で済むので、拡管時の加工力を低減することができる。その結果、拡管時の加工力により素材の突き合せ部が開くことがなくなり、予め、素材の突き合せ部を溶接等により接合する必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状部材の製造方法及びその方法により製造された管状部材に関するもので、特に、拡管部を有する管状部材の製造方法及びその管状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、平板状の素材を巻き加工して円筒形に成形する巻き工程と、この円筒形の素材の一端部を拡管させる拡管工程とにより、一端部に拡管部を有する管状部材(例えば、特許文献1参照)を製造することが可能である。この場合、巻き工程では、例えば、平板状の素材をU曲げ金型及びO曲げ金型を使用してUO曲げすることにより、突き合せ部に隙間がない円筒形の素材を得ることができる。拡管工程では、成形時に円筒形の素材の一端部が周方向へ引張られて素材の突き合せ部が開いてしまうため、従来、巻き工程で得られた円筒形の素材の突き合せ部は、部品として機能上接合の必要がなくても、溶接等により接合されていた。その結果、工数が増加することで生産性が低下するとともに製造コストも増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−179453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、拡管時の加工力を低減させることが可能であり、それにより突き合せ部を接合する工程を廃止することが可能となる管状部材の製造方法及びその管状部材を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の管状部材の製造方法は、板状の素材を加工して拡管部を有する管状部材を製造する方法であって、平板状の素材の被拡管部位にスロット又はスリットを形成する抜きステップと、前記抜きステップにより得られた素材を巻き加工して突き合せ部が隙間なく突き合された筒形の素材を形成する巻きステップと、前記巻きステップにより得られた前記筒形の素材の前記被拡管部位を拡管させる拡管ステップと、を含むことを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の管状部材は、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により得られる管状部材であって、筒形に形成される軸部と、前記軸部の一部が拡管されて形成された拡管部と、前記管状部材の全長に亘って延びる第1突き合せ部と、前記拡管部に設けられて前記軸部の一部に配置されたスロット又はスリットが前記軸部の拡管により変形して形成された開口部と、を含むことを特徴とする。
【0007】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、請求可能発明と称する)の態様を例示し、例示された各態様について説明する。ここでは、各態様を、特許請求の範囲と同様に、項に区分すると共に各項に番号を付し、必要に応じて他の項の記載を引用する形式で記載する。これは、請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施形態の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得る。
なお、以下の各項において、(1)〜(9)項の各々が、特許請求の範囲に記載した請求項1〜9の各々に相当する。
【0008】
(1)板状の素材を加工して拡管部を有する管状部材を製造する方法であって、平板状の素材の被拡管部位にスロット又はスリットを形成する抜きステップと、抜きステップにより得られた素材を巻き加工して突き合せ部が隙間なく突き合された筒形の素材を形成する巻きステップと、巻きステップにより得られた筒形の素材の被拡管部位を拡管させる拡管ステップと、を含む管状部材の製造方法。
本項に記載の管状部材の製造方法によれば、拡管ステップでは、抜きステップで形成されたスロット又はスリットを変形させながら筒形素材の被拡管部位を拡管させることができる。換言すると、スロット又はスリットを変形させるのに必要な加工力を加えればよいので、被拡管部位にスロット又はスリットが形成されていない場合と比較して、拡管時の加工力を低減することができる。
その結果、拡管時の加工力による筒形素材の突き合せ部の開きが防止されるので、予め、筒形素材の突き合せ部を溶接等により接合する必要がない。これにより、部品として機能上接合の必要がない場合、突き合せ部を接合するためのステップ(工程)を省略することが可能であり、管状部材の生産性を向上させることができるとともに製造コストを削減することができる。
本項の態様において、巻きステップでは、筒形素材が円筒形である場合、例えば、平板(矩形の素材)を既存設備のU曲げ金型及びO曲げ金型を使用してUO曲げすることにより、突き合せ部に隙間がない円筒形素材を得ることができる。また、拡管ステップでは、既存設備の拡管金型を使用することにより、円筒形素材の一端部を拡管させることができる。すなわち、本項の製造方法を実施する場合、既存設備(プレス機等)の改造や、新規に設備を導入する必要はなく、実施が容易で且つ設備コストが増大することもない。
本項の態様において、スロットは、細長い孔の他、円形の孔とすることができる。すなわち、パンチングメタルのように被拡管部位に複数個の孔を配列することができる。
【0009】
(2)拡管ステップでは、スロット又はスリットを筒形の素材の周方向へ開くように変形させる(1)の管状部材の製造方法。
本項に記載の管状部材の製造方法によれば、拡管ステップでは、拡管時に被拡管部位に作用する周方向の加工力(引張り力)によりスロット又はスリットが変形して筒形素材の周方向に開かれるので、被拡管部位にスロット又はスリットが形成されていない場合と比較して、拡管時の加工力を大幅に低減することができる。
本項の態様において、スロットは筒形素材の軸線方向へ延びる細長い孔であり、スリットは筒形素材の軸線方向へ延びる細長い溝であることが望ましい。これにより、拡管時に被拡管部位に比較的小さい周方向の加工力(引張り力)を作用させるだけで、スロット又はスリットを筒形素材の周方向に開かせることができる。
【0010】
(3)拡管ステップでは、筒形の素材の断端部に開口するスロット又はスリットが形成された被拡管部位が拡管される(1)、(2)の管状部材の製造方法。
本項に記載の管状部材の製造方法によれば、拡管ステップでは、拡管時に被拡管部位に周方向の加工力(引張り力)が付与することにより、筒形素材の軸線方向一側の断端部に開口したスロット又はスリットがV字形に開くように変形されるので、拡管時の加工力を効果的に低減することができる。
本項の態様において、スロット又はスリットは、筒形の素材の周方向に等間隔で配列することが望ましい。
【0011】
(4)抜きステップでは、スロット又はスリットが千鳥状に配列される(1)〜(3)の管状部材の製造方法。
本項に記載の管状部材の製造方法によれば、素材の被拡管部位にスロット又はスリットを千鳥状に配列したので、拡管に伴い、被拡管部位は格子(例えば、七夕飾りや大根の皮の飾り切りに代表される菱形の開口部を含む斜めの格子)状に変形される。これにより、拡管時の加工力は、被拡管部位における格子の交差部に相当する部位を曲げ加工するだけの加工力で済むので、スロット又はスリットが形成されていない被拡管部位を周方向へ引き伸ばす通常の拡管と比較して、拡管時の加工力をより効果的に低減することができる。
【0012】
(5)拡管ステップにより得られた素材を据え込み加工して被拡管部位を軸線方向に圧縮する据え込みステップを含む(1)〜(4)の管状部材の製造方法。
本項に記載の管状部材の製造方法によれば、拡管された被拡管部位を据え込み加工により軸線方向へ圧縮することで、被拡管部位の突き合せ部を強固に密着させることが可能であり、管状部材の精度を向上させることができる。
さらに、拡管された被拡管部位を据え込み加工により軸線方向へ圧縮して、上記(3)でV字形に開口されたスロット又はスリットの内側を突き合せることにより、被拡管部位をより強固に密着させることが可能であり、より高い精度の管状部材を提供することができる。
本項の態様では、巻きステップ及び拡管ステップ同様に、既存設備の据え込み金型を使用することで、被拡管部位を据え込み加工することができるので、既存設備(プレス機等)の改造や、新規に設備を導入する必要はなく、実施が容易で且つ設備コストの増大を防ぐことができる。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)の製造方法により得られる管状部材であって、筒形に形成される軸部と、軸部の一部が拡管されて形成された拡管部と、管状部材の全長に亘って延びる第1突き合せ部と、拡管部に設けられて軸部の一部に配置されたスロット又はスリットが軸部の拡管により変形して形成された開口部と、を含む管状部材。
本項に記載の管状部材によれば、拡管時にスロット又はスリットを変形させながら軸部(筒形素材)の一部を拡管させることができる。換言すると、スロット又はスリットを変形させるのに必要な加工力を加えればよいので、スロット又はスリットが形成されていない軸部の一部を拡管する場合と比較して、拡管時の加工力を低減することができる。
その結果、拡管時の加工力による軸部の突き合せ部の開きが防止されるので、予め、軸部の突き合せ部を溶接等により接合する必要がない。これにより、部品として機能上接合の必要がない場合、突き合せ部を接合する工程(例えば、溶接工程)を省略することが可能であり、管状部材の生産性を向上させることができるとともに製造コストを削減することができる。
本項の態様において、スロットは、細長い孔の他、円形の孔とすることができる。すなわち、パンチングメタルのように被拡管部位に複数個の孔を配列することができる。
【0014】
(7)拡管部は、軸部の端部が拡管されて形成される(6)の管状部材。
本項に記載の管状部材によれば、スロット又はスリットを変形させながら軸部の端部を拡管させることができる。換言すると、スロット又はスリットを変形させるのに必要な加工力を加えればよいので、軸部の端部にスロット又はスリットが形成されていない場合と比較して、拡管時の加工力を低減することができる。
【0015】
(8)開口部は、拡管部の周方向に複数個で設けられて拡管部の断端部に開口するV字形の第1開口部と、拡管部の隣接する第1開口部間に配置されて展開した状態で四角形に形成される第2開口部と、を含む(6)、(7)の管状部材。
本項に記載の管状部材によれば、拡管時に軸部(筒形素材)の端部に周方向の加工力(引張り力)が付与されることにより、拡管前の筒形の素材の断端部に開口するスロット又はスリットは、V字形に開くように変形し、且つ、拡管前の筒形の素材の断端部に開口するスロット又はスリット間のスロット又はスリットは、展開した状態で四角形に開くように変形する。これにより、拡管部全体では、格子(例えば、七夕飾りや大根の皮の飾り切りに代表される四角形の開口部を含む斜めの格子)状に変形する。これにより、拡管時の加工力は、拡管部における格子の交差部に相当する部位を曲げ加工するだけの加工力で済むので、スロット又はスリットが形成されていない軸部を周方向へ引き伸ばす通常の拡管と比較して、拡管時の加工力をより効果的に低減することができる。
本項の態様において、スロット又はスリットは、拡管部の周方向に等間隔で配列することが望ましい。
【0016】
(9)拡管部が据え込み加工により管状部材の軸線方向に圧縮されることによりV字形の第1開口部が閉じるように変形して形成された第2突き合せ部を含む(8)の管状部材。
本項に記載の管状部材によれば、拡管部を据え込み加工により軸線方向へ圧縮することで、拡管部の第1突き合せ部を強固に密着させることが可能であり、管状部材の精度を向上させることができる。
さらに、拡管部を据え込み加工により軸線方向へ圧縮して、V字形の第1開口部を閉じるように変形させて強固に密着した第2突き合せ部を形成することにより、より高い精度の管状部材を提供することができる。
本項の態様では、既存設備の据え込み金型を使用することで、軸部を据え込み加工することができるので、既存設備(プレス機等)の改造や、新規に設備を導入する必要はなく、実施が容易で且つ設備コストの増大を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、拡管時の加工力を低減させることが可能であり、それにより突き合せ部を接合する工程を廃止することが可能となる管状部材の製造方法及びその管状部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の抜き工程により得られる素材の上面図及び正面図である。
【図2】本実施形態の巻き工程により得られる素材の上面図及び正面図である。
【図3】本実施形態の拡管工程により得られる素材の上面図及び正面図である。
【図4】本実施形態の据え込み工程により得られるスリーブ(管状部材)の上面図及び正面図である。
【図5】本実施形態の拡管工程で使用される拡管金型の断面の概略図である。
【図6】本実施形態の作用を説明するための図であり、スロットが千鳥状に配列された被拡管部位が拡管により格子状に変形することを説明するための図である。
【図7】本実施形態の据え込み工程で使用される据え込み金型の断面の概略図である。
【図8】管状部材の他の形態を示す図である。
【図9】管状部材の他の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。ここでは、管状部材としてエンジンに組み込まれるスリーブ1(図4参照)を例示し、このスリーブ1の製造方法を説明する。なお、説明の便宜上、スリーブ1の軸線方向、すなわち、図4における上下方向を上下方向と定義する。また、スリーブ1の拡管部15が形成される側を上側、その反対側を下側とそれぞれ定義する。図1乃至図3についても方向を同様に定義する。
【0020】
本製造方法は、抜き工程(抜きステップ)、巻き工程(巻きステップ)、拡管工程(拡管ステップ)、及び据え込み工程(据え込みステップ)を含む。
[抜き工程]
抜き工程では、抜き金型による抜き加工(プレス加工)により鋼板から図1に示される平板状の素材2を抜く。なお、抜き工程で使用される抜き金型は既存設備であるので、明細書の記載を簡潔にすることを目的に、抜き金型の詳細な説明を省く。素材2は、略矩形に形成されて、上端部(図1における上側の部位)には、上断端部3(断端部)に沿って図1における左右方向(以下、単に左右方向という)へ延びる被拡管部位4が形成される。
【0021】
被拡管部位4には、スロット5(5a〜5e、細長い孔)が千鳥状に配列される。スロット5は、被拡管部位4の高さH(図1参照)に亘って上下方向へ延びて両端部が半円形に形成されるスロット5aと、上下方向へ延びてスロット5aの左右方向両側に1列に配列されるスロット5b及びスロット5cを含む。スロット5bは、上端部が素材2の上断端部3に開口するとともに下端部が半円形に形成される。スロット5cは、スロット5bの下方に配置されて両端部が半円形に形成される。また、被拡管部位4の左右両側には、各々、スロット5aを左右方向へ半割した形状5d及び5eが形成される。
【0022】
なお、図示を省略するが、素材2には、機能的に必要とされるいくつかの孔を形成することができる。そして、抜き工程では、巻き工程で巻き加工する前の平坦な素材に抜き加工が施されるので、抜き工法の自由度が増す。
【0023】
[巻き工程]
巻き工程では、抜き工程により得られた素材2を巻き加工して図2に示される円筒形の素材6を形成する。巻き工程では、U曲げ金型とO曲げ金型とを使用して素材2をUO曲げ(プレス加工)することにより、突き合せ部7(第1突き合せ部)に隙間がない円筒形の素材6を得ることができる。なお、素材2の被拡管部位4のスロット5dとスロット5eとは、突き合せ部7が形成されることで組み合わされてスロット5aと同一の形状をなす。また、巻き工程で使用されるU曲げ金型及びO曲げ金型は既存設備であるので、明細書の記載を簡潔にすることを目的に、U曲げ金型及びO曲げ金型の詳細な説明を省く。
【0024】
[拡管工程]
拡管工程では、巻き工程により得られた円筒形の素材6の被拡管部位4を図5に示される拡管金型8を使用して拡管加工(プレス加工)する。なお、拡管工程で使用される拡管金型8は既存設備であるので、明細書の記載を簡潔にすることを目的に、拡管金型8の詳細な説明を省く。拡管工程では、図3に示されるように、素材9の拡管部10の段差部10aの軸線に対する傾斜角度を90°に形成する場合、まず、図5に示される軸線に対する段差部11aの傾斜角度が中間角度のパンチ11を使用して素材6の被拡管部位4を拡管加工することにより、段差部10aの軸線に対する傾斜角度が中間角度の拡管部10を形成する。次に、段差部10aの軸線に対する傾斜角度が中間角度の拡管部10を、軸線に対する段差部11aの傾斜角度が90°のパンチ11を使用して拡管加工する。これにより、段差部10aの軸線に対する傾斜角度が90°の拡管部10を形成することができる。なお、拡管工程では、拡管時に突き合せ部7が開いてしまうことがないように、素材6の軸部17を拘束型により拘束しておくことが望ましい。
【0025】
拡管工程では、拡管時に、円筒形の素材6の被拡管部位4に周方向の加工力(引張り力)が作用する。ここで、円筒形の被拡管部位4を2次元的な展開した状態に置き換えた場合、図6に示されるように、被拡管部位4にはスロット5が千鳥状に配列されているので、素材6の断端部3に開口した各スロット5bはV字形に開くように変形し、被拡管部位4全体では、格子(例えば、七夕飾りや大根の皮の飾り切りに代表される菱形(四角形)の開口部18(第2開口部)を含む斜めの格子)状に変形する。この場合、拡管時の加工力は、図6に示される格子の交差部12に相当する部位を曲げ加工するだけの加工力で済む。なお、図6は、理解を容易にするための説明図であり、図1に示されるスロット5の配列パターンとは一致させていない。また、実際の3次元的な拡管加工では、スロット5cはほとんど変形しない(ほとんど開かない)。
【0026】
[据え込み工程]
据え込み工程では、拡管工程により得られた素材9の拡管部10を図7に示される据え込み金型13を使用して据え込み加工(プレス加工)する。なお、据え込み工程で使用される据え込み金型13は既存設備であるので、明細書の記載を簡潔にすることを目的に、据え込み金型13の詳細な説明を省く。据え込み工程では、素材9の拡管部10が上下方向(軸線方向)へ圧縮される。これにより、図4に示されるように、素材2及び6の各スロット5bが変形して形成された拡管部10のV字形の各開口部14(第1開口部)は、断端部3側を閉じるように変形して内側が突き合せられる。その結果、拡径部15に複数個の突き合せ部16(第2突き合せ部)を有するスリーブ1(管状部材)を得ることができる。
【0027】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、スロット5が千鳥状に配列された被拡管部位4を拡管させるので、被拡管部位4の断端部3に開口した各スロット5bはV字形に開くように変形し、被拡管部位4全体では格子状に変形する。
これにより、拡管時の加工力は、被拡管部位4における格子の交差部12に相当する部位を曲げ加工するだけの加工力で済むので、スロット5が形成されていない素材6の被拡管部位4を周方向へ引き伸ばす通常の拡管加工と比較して、拡管時の加工力をより効果的に低減することができる。その結果、拡管時の加工力により素材6(9)の突き合せ部7が開くことがなくなり、予め、素材6の突き合せ部7を溶接等により接合する必要がない。したがって、本実施形態のスリーブ1(管状部材)のように、部品として機能上、突き合せ部7を接合する必要がない場合、突き合せ部7を接合するためのステップ(工程)を省略することが可能であり、生産性を向上させることができるとともに製造コストを削減することができる。
【0028】
また、据え込み工程では、拡管工程により得られた素材9の拡管部10を据え込み加工することにより、拡管部10のV字形の各開口部14(第1開口部)を変形(圧縮)させて複数個の突き合せ部16(第2突き合せ部)を有する拡径部15を形成したので、強固に密着した各突き合せ部16により、より高い精度のスリーブ1(管状部材)を得ることができる。
【0029】
そして、抜き工程、巻き工程、拡管工程、及び据え込み工程の各工程(ステップ)は、汎用のプレス機によるプレス工程で完結することができるので、本製造方法は、実施が容易であるとともに生産効率が高いシステムを構築することができる。
また、抜き工程では、スロット5を含めた全ての抜き形状を、平坦な素材(鋼板)を抜き加工して形成することができるので、バリ取り等の後処理が不要な抜き工法を採用することができる。
【0030】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成することができる。
本実施形態では、被拡管部位4にスロット5を千鳥状に配列したが、スロット5(細長い孔)をスリット(細長い溝)とすることができる。また、スロット5は円形の孔も含む。この場合、パンチングメタルのように円形の孔を被拡管部位4に配列することが可能である。さらに、拡管時の加工力が低減されるのであれば、スロット5は必ずしも千鳥状に配列する必要はない。
本実施形態では、拡管工程において、段差部11aの傾斜角度が中間角度のパンチ11と90°のパンチ11とを使用する2工程により、拡管部10の段差部10aの傾斜角度を90°に形成したが、拡管工程では、段差部11aの傾斜角度が中間角度のパンチ11を使用して拡管部10の段差部10aの傾斜角度を中間角度に形成しておいて、次の据え込み工程により、拡管部10の段差部10aの傾斜角度を90°に形成すると同時に該拡管部10を上下方向に圧縮して拡管部15を形成することができる。
管状部材は、図4に示されるスリーブ1に限定されるものでなく、例えば、図8に示されるような段差部21aの軸線に対する傾斜角度が90°ではない拡管部21を有する管状部材20、或いは、図9に示されるようなフランジ23を有する管状部材22とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 スリーブ(管状部材)、2 素材(平板状の素材)、3 断端部、4 被拡管部位、5 スロット、6 素材(筒形の素材)、7 突き合せ部(第1突き合せ部)、9 素材(被拡管部位を拡管加工して得られた素材)、10 拡管部(素材9の拡管部)、14 開口部(第1開口部)、15 拡管部(スリーブ1の拡管部)、16 突き合せ部(第2突き合せ部)、17 軸部、18 開口部(第2開口部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の素材を加工して拡管部を有する管状部材を製造する方法であって、
平板状の素材の被拡管部位にスロット又はスリットを形成する抜きステップと、
前記抜きステップにより得られた素材を巻き加工して突き合せ部が隙間なく突き合された筒形の素材を形成する巻きステップと、
前記巻きステップにより得られた前記筒形の素材の前記被拡管部位を拡管させる拡管ステップと、
を含むことを特徴とする管状部材の製造方法。
【請求項2】
前記拡管ステップでは、前記スロット又は前記スリットを前記筒形の素材の周方向へ開くように変形させることを特徴とする請求項1に記載の管状部材の製造方法。
【請求項3】
前記拡管ステップでは、前記筒形の素材の断端部に開口する前記スロット又は前記スリットが形成された前記被拡管部位が拡管されることを特徴とする請求項1又は2に記載の管状部材の製造方法。
【請求項4】
前記抜きステップでは、前記スロット又は前記スリットが千鳥状に配列されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の管状部材の製造方法。
【請求項5】
前記拡管ステップにより得られた前記素材を据え込み加工して前記被拡管部位を軸線方向に圧縮する据え込みステップを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の管状部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により得られる管状部材であって、
筒形に形成される軸部と、
前記軸部の一部が拡管されて形成された拡管部と、
前記管状部材の全長に亘って軸線方向へ延びる第1突き合せ部と、
前記拡管部に設けられて前記軸部の一部に配置されたスロット又はスリットが前記軸部の拡管により変形して形成された開口部と、
を含むことを特徴とする管状部材。
【請求項7】
前記拡管部は、前記軸部の端部が拡管されて形成されることを特徴とする請求項6に記載の管状部材。
【請求項8】
前記開口部は、
前記拡管部の周方向に複数個で設けられて前記拡管部の断端部に開口するV字形の第1開口部と、
前記拡管部の隣接する前記第1開口部間に配置されて展開した状態で四角形に形成される第2開口部と、
を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の管状部材。
【請求項9】
前記拡管部が据え込み加工により前記管状部材の軸線方向に圧縮されることにより前記V字形の第1開口部が閉じるように変形して形成された第2突き合せ部を含むことを特徴とする請求項8に記載の管状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−91096(P2013−91096A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236128(P2011−236128)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)