説明

管継手

【課題】滑剤を用いずともより少ない挿入力で接続される管をリップ部の所定位置まで挿入でき、かつ、一旦接続されると、管が引き抜けにくい管継手を提供することを目的としている。
【解決手段】筒状をした本体部と、本体部の一端から他端に向かって徐々に縮径する略ラッパ状をした接続される配管材の外壁面に水密に密着するリップ部とを備えるゴム輪が、受口に装着されている管継手において、前記ゴム輪は、前記本体部とリップ部との鋭角側のコーナー部が、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状になっていて、最大肉厚部が、管挿入時に1%以上30%以下の割合で圧縮される肉厚に形成されているとともに、外壁面の少なくとも受口入口側が受口内壁面に接着固定されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手に関する。特には、多層建築物用排水集合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
多層建築物の排水立管路を形成するとともに、各階の衛生機器等から排出される排水を排水立管路に導く横枝管を接続する横枝管接続口を側面に備えた集合継手として、横枝管接続口に受口を設けるとともに、この受口内に筒状をした本体部と、本体部の一端から他端に向かって徐々に縮径する略ラッパ状をして、接続される横枝管の外周面に水密に密着するリップ部とを備えるゴム輪を装着した管継手(例えば、特許文献1参照)が上市されている。
すなわち、このような管継手の場合、横枝管を受口に挿入するだけで、ワンタッチで受口内のゴム輪のリップ部が横枝管の外周面に水密に密着して止水が図れるとともに、横枝管と管継手との接続も確保できるようになっている。
【0003】
しかし、上記のような管継手の場合、従来、横枝管のリップ部内への挿入を容易にするために、横枝管挿入にあたり、リップ部の内壁面および横枝管の外周面の少なくともいずれかに滑剤を塗布するようにしているため、接続後、滑剤の影響で配管作業者が接続した横枝管に接触したり、配管途中に無理な引っ張り荷重が加わったりした際に、接続した横枝管が引き抜けるという問題があった。
【0004】
そこで、リップ部の突出基部裏側にできる根元隅部の軸方向位置と、接続される横枝管のリップ部への当接開始点の軸方向位置とを略一致させることによって、滑剤を用いなくても、横枝管のリップ部内への挿入を容易にするとともに、一旦接続した横枝管が引き抜けにくい管継手が既に提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、この管継手の場合、滑剤を用いずとも挿入性が容易になったとはいえ、耐引き抜き性を確保する為には、挿入力の絶対値がどうしても大きくなり、作業性の点で充分満足のできるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】実公昭55−5833号公報
【特許文献2】特開2001−82645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、滑剤を用いずとも、より少ない挿入力で接続される管をリップ部の所定位置まで挿入でき、かつ、一旦接続されると、管が引き抜けにくい管継手を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の管継手(以下、「請求項1の管継手」と記す)は、筒状をした本体部と、本体部の一端から他端に向かって徐々に縮径する略ラッパ状をした接続される配管材の外壁面に水密に密着するリップ部とを備えるゴム輪が、受口に装着されている管継手において、前記ゴム輪は、前記本体部とリップ部との鋭角側のコーナー部が、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状になっていて、最大肉厚部が、管挿入時に1%以上30%以下の割合で圧縮される肉厚に形成されているとともに、外壁面の少なくとも受口入口側が受口内壁面に接着固定されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の請求項2に記載の管継手(以下、「請求項2の管継手」と記す)は、請求項1の管継手において、ゴム輪のリップ部が、管挿入時に110%以上125%以下の割合で軸方向に引き伸ばされるように、ゴム輪が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の請求項3に記載の管継手(以下、「請求項3の管継手」と記す)は、請求項1または請求項2の管継手において、ゴム輪を形成するゴムの硬度(Hs)が、50以上75以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の管継手において、ゴム輪は、本体部とリップ部との鋭角側のコーナー部が、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状になっていることに限定されるが、その理由は。曲率半径が2.0mm以下では、接続した管が引き抜けやすい状態となり、3.0mmを超えると、挿入荷重が大きくなり、施工性が悪くなるためである。
【0011】
また、最大肉厚部の管挿入時の圧縮率は、1%以上30%以下に限定されるが、その理由は、1%未満であると、十分な引き抜き抵抗をえることができず、30%を超えると、挿入抵抗が大きくなりすぎて、作業性が悪くなるためである。なお、最大肉厚部の管挿入時の好ましい圧縮率は5%以上20%以下である。
【0012】
ゴム輪の外壁面と受口の内壁面とを接着する接着剤としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤が挙げられる。
【0013】
本発明の管継手において、ゴム輪を構成するゴムとしては、特に限定されないが、たとえば、EPDM(エチレン-プロピレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)等が挙げられ、中でもEPDMが好適に用いられる。
【0014】
また、ゴム輪に用いられるゴムの硬度(Hs、JIS K6253の試験方法による)は、特に限定されないが、請求項3の管継手のように、50以上75以下とすることが好ましい。
すなわち、ゴムの硬度が50未満であると、水密性が低下するという問題を起こす虞があり、75を超えると、挿入抵抗が大きくなり施工性が悪くなるという問題を起こす虞がある。
【0015】
また、コム輪のリップ部は、請求項2の管継手のように、管挿入時に110%以上125%以下の割合で軸方向に引き伸ばされるように形成されていることが好ましい。
すなわち、管挿入時にリップ部が引き伸ばされる割合が110%未満であると、短期的な水密性が低下するという問題を起こす虞があり、125%を超えると、疲労が大きくなり長期的な水密性が低下するという問題を起こす虞がある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の管継手は、以上のように、ゴム輪の、本体部とリップ部との鋭角側のコーナー部を、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状にし、最大肉厚部を管挿入時に1%以上30%以下の割合で圧縮される肉厚に形成するとともに、ゴム輪の外壁面の少なくとも受口入口側を受口内壁面に接着固定するようにしたので、リップ部に接続される管を挿入する際に、ゴム輪の受口入口側部分が管の挿入に伴って受口の奥側に引っ張り込まれるということがなく、少ない力でスムーズに管をリップ部内に入り込み、大きな引抜力を加えないと、管が引き抜けない状態で水密に接続される。
したがって、滑剤を用いなくても管の受口への接続作業が容易で、かつ、安全性の高い接続状態が得られる。
【0017】
請求項2の管継手は、コム輪のリップ部が、管挿入時に110%以上125%以下の割合で軸方向に引き伸ばされるようにゴム輪が形成されているので、短期的且つ長期的に水密性に優れた管継手が得られる。
【0018】
請求項3の管継手は、ゴム輪に用いられるゴムの硬度が、50以上75以下であるので、
水密性および施工性に優れた管継手が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1〜図3は、本発明にかかる管継手の第1の実施の形態をあらわしている。
【0020】
図1に示すように、この集合継手Aは、継手本体1aが、上端に排水立管接続用の受口11を、下端に排水立管接続用のフランジ12を、側壁に横枝管接続用の受口13を備えている。
【0021】
受口11内には、通常の集合継手と同様のゴム輪(図示せず)が装着されていて、上方から排水立管の下端を差し込むだけで、立管と集合継手Aとがワンタッチで水密に接続できるようになっている。
【0022】
横枝管受口13には、図2に示すように、横枝管用のゴム輪2aが装着されている。
すなわち、ゴム輪2aは、図3に示すように、本体部21と、リップ部22とを備え、硬度Hs50〜75のEPDMで形成されていて、受口入口側の外壁面が、受口内壁面にゴム変性エポキシ樹脂系接着剤3によって接着固定されている。
【0023】
リップ部22は、本体部21の受口13の入口側から奥に向かって徐々に縮径する略ラッパ状をしていて、接続される横枝管の外壁面に水密に密着するとともに、横枝管挿入時に110%以上125%以下の割合で軸方向に引き伸ばされるようになっている。
【0024】
また、本体部21とリップ部22との鋭角側のコーナー部(リップ基端部)23が、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状になっている。
さらに、ゴム輪2aの最大肉厚部24は、横枝管を挿入したときの圧縮率が1%以上30%以下となる厚みになっている。
【0025】
図4および図5は、本発明にかかる管継手の第2の実施の形態をあらわしている。
図4に示すように、この集合継手Bは、継手本体1bの上下端に排水立管の接続口15がそれぞれ設けられているとともに、側壁に二つの横枝管接続用受口16が直交するように設けられている。
【0026】
横枝管接続用受口16は、フランジ状受け部16aに、ゴム輪固定リング16bを後述するゴム輪2bのフランジ部25を挟着するようにボルト固定することによって形成されている。
ゴム輪2bは、本体部21の中間部に外側に張り出すフランジ部25を備えている以外は、上記集合継手Aのゴム輪2aと同様になっている。
【0027】
すなわち、この集合継手Bは、ゴム輪2bの受口入口側の外壁面にゴム変性エポキシ樹脂系接着剤を塗布したのち、そのフランジ部25をフランジ状受け部16aと、ゴム輪固定リング16bとの間に挟まれるように配置し、ゴム輪固定リング16bをフランジ状受け部16aにボルトで固定することによって継手本体1bに一体化されている。
【0028】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。たとえば、上記の実施の形態では、ゴム輪の受口入口側の外壁面のみが、受口内壁面に接着固定されていたが、ゴム輪の外壁面全体を接着固定するようにしても構わない。
【0029】
つぎに、本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0030】
(実施例1)
各部の状態が以下のとおりである図1〜図3に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.5mm
・最大肉厚部の圧縮率:15%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=60
・ゴム輪の接着:あり
【0031】
(実施例2)
各部の状態が以下のとおりである図4および図5に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.7mm
・最大肉厚部の圧縮率:20%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=55
・ゴム輪の接着:あり
【0032】
(実施例3)
各部の状態が以下のとおりである図1〜図3に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.5mm
・最大肉厚部の圧縮率:30%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=60
・ゴム輪の接着:あり
【0033】
(実施例4)
各部の状態が以下のとおりである図1〜図3に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.5mm
・最大肉厚部の圧縮率:15%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=75
・ゴム輪の接着:あり
【0034】
(実施例5)
各部の状態が以下のとおりである図1〜図3に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.1mm
・最大肉厚部の圧縮率:15%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=60
・ゴム輪の接着:あり
【0035】
(実施例6)
各部の状態が以下のとおりである図4および図5に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.5mm
・最大肉厚部の圧縮率:20%
・リップ部の先端引っ張り率:135%
・ゴム硬度:Hs=80
・ゴム輪の接着:あり
【0036】
(比較例1)
各部の状態が以下のとおりである図4および図5に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:1.0mm
・最大肉厚部の圧縮率:35%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=60
・ゴム輪の接着:なし
【0037】
(比較例2)
各部の状態が以下のとおりである図4および図5に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:1.0mm
・最大肉厚部の圧縮率:20%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=55
・ゴム輪の接着:あり
【0038】
(比較例3)
各部の状態が以下のとおりである図4および図5に示す形状の呼び径80Aの横枝管接続用受口を備えた集合継手を作製した。
・本体部とリップ部とのコーナー部のRの曲率半径:2.5mm
・最大肉厚部の圧縮率:20%
・リップ部の先端引っ張り率:115%
・ゴム硬度:Hs=55
・ゴム輪の接着:なし
【0039】
上記実施例1〜5および比較例1〜4で作製した集合継手のそれぞれについて呼び径80Aの塩化ビニル樹脂管を横枝管接続用受口に挿入したときの挿入に要する力(挿入力)および挿入後引き抜く場合の引き抜き力をそれぞれ調べ、その結果を以下の表1に示した。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる管継手の第1の実施の形態の正面図である。
【図2】図1の管継手の横枝管用受口部分の断面図である。
【図3】図1の管継手の横枝管用受口部分に装着されるゴム輪の断面図である。
【図4】本発明にかかる管継手の第2の実施の形態の正面図である。
【図5】図4の管継手の横枝管用受口部分の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
A,B 管継手
1a,1b 継手本体
13,16 受口
2a,2b ゴム輪
21 本体部
22 リップ部
23 コーナー部
24 最大肉厚部
3 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をした本体部と、本体部の一端から他端に向かって徐々に縮径する略ラッパ状をした接続される配管材の外壁面に水密に密着するリップ部とを備えるゴム輪が、受口に装着されている管継手において、
前記ゴム輪は、前記本体部とリップ部との鋭角側のコーナー部が、2.0mmを超え3.0mm以下の曲率半径をしたR形状になっていて、最大肉厚部が、管挿入時に1%以上30%以下の割合で圧縮される肉厚に形成されているとともに、外壁面の少なくとも受口入口側が受口内壁面に接着固定されていることを特徴とする管継手。
【請求項2】
ゴム輪は、リップ部が、管挿入時に110%以上125%以下の割合で軸方向に引き伸ばされるように形成されている請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
ゴム輪を形成するゴムの硬度(Hs)が、50以上75以下である請求項1または請求項2に記載の管継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−106866(P2008−106866A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291123(P2006−291123)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】