説明

箱型電子モジュール

【課題】接着材等からなるシール材で接合されたベースとカバーとを容易に分離分解することができて、構成部品の解析や補修等を迅速に行うことができるとともに、構成部品のリサイクル性をも高めることのできる箱型電子モジュールを提供する。
【解決手段】電子部品等が実装された回路基板1と、該回路基板1が搭載保持されるベース2と、前記回路基板1及び前記ベース2を覆うべく該ベース2に接着材等からなるシール材6A、6Bを介して接着接合される密封用のカバー3と、を備え、前記ベース2と前記カバー3とを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材6A、6B中ないし前記シール材6A、6Bの内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材7A、7Bが配在されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンルーム内に設置されるエンジンコントロールユニット等の箱形電子モジュールに係り、特に、リサイクルや解析等のために分解する際の便宜を図った箱形電子モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジン等を制御するために用いられるコントロールユニット等の箱形電子モジュールは、電子部品やコネクタ等が実装された回路基板と、該回路基板が搭載保持されるベースと、前記回路基板及び前記ベースを覆う密封用のカバーと、を備えている。
【0003】
したがって、この箱形電子モジュールを、例えば自動車のエンジンルーム内に設置する場合には、エンジンルーム内に吹込む雨水や塵埃等から電子部品等を保護する必要がある。
【0004】
このため、この種の箱形電子モジュールでは、ベースとカバーとコネクタとの間に、接着材等からなるシール材を介装して封止する構造が採られている。言い換えれば、ベースやカバーに、シールするための平坦面や凹凸部を形成し、ここに接着材等からなるシール材を配在してそれらを接着接合し、さらに必要に応じて、カバーの例えば四隅を螺子類でベースに締付固定することにより、防水性、防塵性等を確保するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の箱形電子モジュール(のシール構造)では、エンジンルーム内に吹込む雨水や塵埃等から電子部品等を保護することができるものの、一度ベースとカバーとを接着接合してしまうと、回路基板に問題が発生する等して不具合部の発見、確認、解析及び補修等を行う場合にも、上記接着接合部シール材を破壊してベースとカバーを分解する引き剥す必要があるため、手間と時間を要し、分解作業に難渋することが多い。
【0006】
すなわち、分解する際には、ドライバーやカッター等の工具を使用したり、内部に高圧を印加したりすることでシール材接着接合部を破壊するようにしているため、分解作業の安全性確保に留意する必要もあり、多大な労力を費やす。また、作業時に回路基板に実装された電子部品やコネクタ類に傷を付けたり破損させてしまうことが多々あり、再利用できなくなる等、リサイクル性を損なうおそれもある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、回路基板に実装された電子部品やコネクタ類等を損傷させることなく、接着材等からなるシール材で接合されたベースとカバーとを容易に分離分解することができて、構成部品の解析や補修等を迅速に行うことができるとともに、構成部品のリサイクル性をも高めることのできる、安価で信頼性の高い自動車用エンジンコントロールユニット等の箱型電子モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明に係る箱形電子モジュールは、基本的には、電子部品等が実装された回路基板と、該回路基板が搭載保持されるベースと、前記回路基板及び前記ベースを覆うべく該ベースに接着材等からなるシール材を介して接着接合される密封用のカバーと、を備え、前記ベースと前記カバーとを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材中ないし前記シール材の内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材が配在されていることを特徴としている。
【0009】
好ましい態様では、前記回路基板の前端部にコネクタが設けられ、該コネクタと前記ベース及び前記カバーとがそれぞれ前記接着材等からなるシール材を介して接着接合され、前記コネクタと前記ベース及び前記カバーとを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材中ないし前記シール材の内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材が配在される。
【0010】
他の好ましい態様では、前記シール材が環状、コ字状、L字状、又は線分状に配在されるとともに、該シール材の一部ないし全周に沿って前記分解用線材が配在される。
【0011】
前記分解用線材は、好ましくは、その一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位が部分的に前記シール材より外側に露出せしめられる。
【0012】
他の好ましい態様では、前記分解用線材は、その一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位が前記ベース及び/又はカバーに固定される。
【0013】
他の好ましい態様では、前記ベース、カバー、及びコネクタのうちの少なくとも一つには、前記分解用線材を収容ないし係止するための溝、凹部、段差、ボス、凸部等の線材収容係止手段が設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る箱形電子モジュールの好ましい態様では、ベースとカバーとがシール材を介して接着接合され、前記シール材中ないしその内周部付近に分解用線材が前記シール材の長さ方向周方向に沿って配在されているので、ベースとカバーとを分離分解する際には、箱形電子モジュールのベースを治具等で固定した状態で、前記分解用線材における外部露出部分通常は複数箇所を同時に外方に引っ張るか、あるいは逐次一カ所を固定し他の箇所を外方に引っ張る。これにより、分解用線材によってシール材が内周部から外周側へ切り裂かれて破壊され、ベースとカバーとが分離分解せしめられる。
【0015】
このように、本発明の箱形電子モジュールを分解するには、予め内部に仕込まれている分解用線材を外方に引っ張るだけでよいので、回路基板に実装された電子部品やコネクタ類等を損傷させることなく、接着材等からなるシール材で接合されたベースとカバーとを容易に分離分解することができる。
【0016】
そのため、構成部品の解析や補修等を迅速に行うことができるとともに、構成部品のリサイクル性をも高めることのでき、その結果、安価で信頼性の高い自動車用エンジンコントロールユニット等の箱型電子モジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る箱形電子モジュールの一実施形態の全体構成を示す分解斜視図。
【図2】図1に示される箱形電子モジュールの平面図。
【図3】図1に示される箱形電子モジュールの要部断面を示し、(A)は図2のX-X矢視断面図、(B)は図2のY-Y矢視断面図。
【図4】図1に示される箱形電子モジュールの分解時の様子を示す図。
【図5】実施形態の箱形電子モジュールの一変形例を示す分解斜視図。
【図6】図5に示される変形例の箱形電子モジュール平面図。
【図7】実施形態の箱形電子モジュールの他の変形例を示す要部断面図。
【図8】実施形態の箱形電子モジュールのベース部分の別の変形例を示す部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の箱形電子モジュールの実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る箱形電子モジュールの一実施形態の全体構成を示す分解斜視図、図2は、図1に示される箱形電子モジュールの平面図である。
【0019】
図示の箱形電子モジュール10は、自動車用エンジンコントロールユニットとしてエンジンルーム内に設置されるもので、基本的には、電子部品等図示せずが実装された回路基板1と、該回路基板プリント配線基板1が搭載保持される矩形トレー状の金属ベース2と、前記回路基板1及びベース2を覆うべく該ベース2に接着接合される密封用のカバー3とを備え、前記回路基板1の前部に正面視矩形ないし台形状のコネクタ4がその一部を前方に突出させた状態で固定されるとともに、カバー3の前部には前記コネクタ4に嵌合する開口部3bが形成されている。前記ベース2の4辺の外周端部上面シール面部2aとカバー3の前辺を除く3辺の外周端部下面シール面部3a及びコネクタ4の下面4cとは、矩形環状に配在された接着材等からなるシール材6Aにより接着接合されている。また、カバー3の開口部3bの下面とコネクタ4の下面4cを除く上辺4b、左右側辺4aの外周端部上側面とは、接着材等からなるシール材6Bにより接着接合されている。
【0020】
このように、本実施形態の箱形電子モジュール10では、ベース2、カバー3、及びコネクタ4の各部材間に接着材等からなるシール材6A、6Bを配在してそれらを接着接合し、さらに、カバー3の例えば四隅を螺子類11でベース2に締付固定することにより、防水性、防塵性等を確保するようにしている。
【0021】
なお、シール材6A、6Bとしては、接着性を有するもの、例えば、塗布や充填した後に弾性が保たれたまま固まる液状シール材、常温硬化型の接着材、加熱することで硬化する熱硬化型の接着材、あるいは、粘着性樹脂等を用いることができる。
【0022】
また、ベース2とカバー3は、例えば、アルミダイカスト製品、樹脂成形品、鋼板等のプレス成形品等のものが用いられる。鋼板プレス成形品の場合、低コストで製造できて軽量である等の利点がある。また、鋼板に限らず他の金属板、例えばアルミ板やステンレス板等を用いてもよい。
【0023】
上記構成に加えて、本実施形態の箱形電子モジュール10では、ベース2とカバー3とコネクタ4とを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材6A中ないしその内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材7Aが、前記シール材6Aの全周に沿って矩形環状に配在されている。また、分解用線材7Aの4辺の中央部付近は、それぞれ前記シール材6Aより外側に張り出すように半楕円状に折り曲げられて外部に露出せしめられている外部露出部分:引張把持部72が形成されている。
【0024】
また、コネクタ4部分に配在されたもう一つのシール材6B中ないしその内周部付近にも、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材7Bが、前記シール材6Bに沿って台形状に配在され、該分解用線材7Bの両端部は、それぞれ前記シール材6Bより外側に突き出すように折り曲げられて露出せしめられている外部露出部分:引張把持部74が形成されている。
【0025】
なお、前記分解用線材7A、7Bとしては、所要の強度、耐熱性、耐久性等を有するもの、例えば、鋼線ピアノ線等の金属線材、ケブラー繊維等の高強度繊維からなるワイヤロープ類、金属と合成樹脂繊維との複合線材の他、安価なタコ糸や釣り糸等も用いることができる。なお、分解用線材7Aの線径は、その材質や引張強度等を勘案して、前記シール材6A、6Bを引き裂き得る寸法に設定する。
【0026】
また、分解用線材7Aのベース2への取付設置の便宜並びにシール材引き裂き分解時の便宜を図るべく、図3(A)、(B)にそれぞれ図2のX-X矢視断面、Y-Y矢視断面が示される如くに、前記ベース2におけるシール材6Aが配在されている部分シール面部2aの内周下側に、前記分解用線材7Aが嵌め込まれる位置決め保持用の断面矩形で平面視矩形環状の溝12が形成されるとともに、前記ベース2における前後左右のシール面部2aの中央4カ所に、前記矩形環状の溝12に連なって、前記引張把持部72を前記シール材6Aより外側に露出させるための溝14、14が形成されている。
【0027】
また、分解用線材7Bのカバー3又はコネクタ4への取付設置の便宜並びにシール材引き裂き分解時の便宜を図るべく、カバー3又はコネクタ4にも上記と同様な溝が形成されているが詳細は省略する。
【0028】
上記のような溝12、14を形成することにより、特に、分解用線材として糸のような柔らかくて形状保持性の無い線材を使用する場合に組付け作業性を大きく向上できる。
【0029】
このような構成とされた本実施形態の箱形電子モジュール10では、ベース2とカバー3とコネクタ4とがシール材6A、6Bを介して接着接合され、前記シール材6A、6B中ないしその内周部付近に分解用線材7A、7Bが前記シール材6A、6Bの長さ方向周方向に沿って配在されているので、ベース2とカバー3とを分離分解する際には、箱形電子モジュール10のベース2を治具等で固定した状態で、前記分解用線材7Aにおける外部に露出している引張把持部72(4カ所でなくともよい)を同時に外方に引っ張るか、あるいは逐次一カ所を固定し他の箇所を外方に引っ張る。これにより、図4に示される如くに、分解用線材7Aによってシール材6Aが内周部から外周側へ切り裂かれて破壊される。同様に、コネクタ4とカバー3側の分解用線材7Bにおける外部に露出している引張把持部74両端部を同時に外方に引っ張る。これにより、分解用線材7Bによってシール材7Bが内周部から外周側へ切り裂かれて破壊され、ベース2とカバー3とコネクタ4とが分離分解せしめられる。
【0030】
このように、本実施形態形態の箱形電子モジュール10を分解するには、予め内部に仕込まれている分解用線材7A、7Bを外方に引っ張るだけでよいので、回路基板1に実装された電子部品やコネクタ類等を損傷させることなく、接着材等からなるシール材6A、6Bで接合されたベース2とカバー3とコネクタ4とを容易に分離分解することができる。
【0031】
そのため、構成部品の解析や補修等を迅速に行うことができるとともに、構成部品のリサイクル性をも高めることができ、その結果、安価で信頼性の高い自動車用エンジンコントロールユニット等の箱型電子モジュールを提供することが可能となる。
【0032】
なお、上記実施形態においては、分解用線材7Aは矩形環状に形成されているが、これに代えて、図5に示されるように、分割用線材7A2本で構成され、図6に示される如くに、それらの両端が引張把持部76となっているのように、前辺部の無いコ字状に構成してもよい。このように分解用線材7Aをコ字状とする等してシール材6Aの一部を破壊できないようにしても、破壊できなかった部分は、後で手作業にて破壊することができるので、上記実施形態と略同様な効果が得られる。
【0033】
また、分解用線材7Aのベース2への取付設置の便宜並びにシール材引き裂き分解時の便宜を図るべく、上記実施形態では、ベース2に分解用線材7Aが嵌め込まれる矩形環状の溝12を形成しているが、この溝12に代えて、図7に示される如くに段差部15を形成してもよいし、さらに、図8に示される如くに、ベース2に分解用線材7Aの位置決め係止用の凸部16、16、・・・を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、上記実施形態においては、分解用線材の一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位が部分的に前記シール材より外側に露出せしめられていて、内部では全く固定されていないが、分解用線材の一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位をベース及び/又はカバーに固定するようにしてもよい。より具体的には、図6に示される如くの2本の分解用線材7Aを用いる場合には、その一端部76を外部に露出させるとともに、他端部76を内部で固定(例えば、ベース2に植え込まれたボルト類等に巻き付けて固定)するようにしてもよい。この場合も、外部に露出している一端部引張把持部76を引っ張ることによりシール材6Aを破壊することができ、上記実施形態と略同様な作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0035】
1 回路基板
2 ベース
3 カバー
4 コネクタ
6A、6B シール材
7A、7B 分解用線材
12、14 溝
72、74、76 引張把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品等が実装された回路基板と、該回路基板が搭載保持されるベースと、前記回路基板及び前記ベースを覆うべく該ベースに接着材等からなるシール材を介して接着接合される密封用のカバーと、を備え、前記ベースと前記カバーとを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材中ないし前記シール材の内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材が配在されていることを特徴とする箱形電子モジュール。
【請求項2】
前記回路基板の前端部にコネクタが設けられ、該コネクタと前記ベース及び前記カバーとがそれぞれ前記接着材等からなるシール材を介して接着接合され、前記コネクタと前記ベース及び前記カバーとを接着接合後に分解する際の便宜を図るべく、前記シール材中ないし前記シール材の内周部付近に、ワイヤ状ないし糸状の分解用線材が配在されていることを特徴とする請求項1に記載の箱形電子モジュール。
【請求項3】
前記シール材が環状、コ字状、L字状、又は線分状に配在されるとともに、該シール材の一部ないし全周に沿って前記分解用線材が配在されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の箱形電子モジュール。
【請求項4】
前記分解用線材は、その一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位が部分的に前記シール材より外側に露出せしめられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の箱形電子モジュール。
【請求項5】
前記分解用線材は、その一端部もしくは両端部及び/又はそれ以外の部位が前記ベース及び/又はカバーに固定されていることを特徴とする請求項4に記載の箱形電子モジュール。
【請求項6】
前記ベース、カバー、及びコネクタのうちの少なくとも一つには、前記分解用線材を収容ないし係止するための溝、凹部、段差、ボス、凸部等の線材収容係止手段が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の箱形電子モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−177507(P2010−177507A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19522(P2009−19522)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】