説明

節足動物の腺の抽出方法及び装置

節足動物の腺から物質を抽出する装置及び方法。前記装置(5)は、前記腺の少なくとも一部分が配置される容器(10)と、前記腺を少なくとも部分的に浸漬させる緩衝液(30)とを含んでなる。腺の物質は容器(10)の物質回収領域 (20)に集められる。使用時には、前記物質が腺から前記緩衝液(30)に放出され、前記容器(10)の底に沈殿する。前記方法は、節足動物の体から、少なくとも部分的に前記物質を含む前記腺を取り出す第一の工程と、前記腺の上皮に穴を開ける第二の工程と、前記腺を少なくとも部分的に緩衝液(30)に浸漬させて容器(10)内に配置し、前記物質が前記腺から出て容器(10)の前記物質回収領域 (20)に沈殿するようにする第三の工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は野生型又は組換え体の節足動物の腺から物質を抽出する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Inoue らのEur. J. Biochem. 2004, 271, 356-366には、Bombyx moriの天然の絹フィブロインは、後部絹糸腺から2.3MDa の基本単位(以下、EUという)として分泌され、該単位は、6組のジスルフィド結合した重鎖−軽鎖フィブロインへテロ二量体と1分子のP25とからなることが記載されている。
【0003】
現在、絹タンパク質(フィブロイン、及びその他のタンパク質等)の溶液は、繭又は絹糸を可溶剤(例えば、臭化リチウム)で溶解し、透析又はその他のバッファー交換技術(例えば、Altmannら, Biomaterials 2003, 24, 401-416参照)を経て再度折り畳まれた再生絹溶液として得られている。活性タンパク質をタンパク質フォールディング剤/カオトロピック剤の中で可溶化した後、再度フォールディングさせて製造する公知の試みがあることに鑑みれば(Vallejo and Rinas, Microbial Cell Factories, 2004, doi:10.1186/1475-2859-3-11)、当業者であれば、正確に折り畳まれた天然フィブロインのEUを再生絹溶液から製造するためには、解決しなければならない技術的なハードルが存在することを理解するであろう。したがって、再生絹溶液からEUのコンフォメーション通りの構造を備えた高分子量フィブロインの製造に成功したという報告が未だ無いことは、驚くべきことではない。
【0004】
蚕などの節足動物の腺で作られ、貯蔵されている天然絹タンパク質(すなわち高分子量のEUコンフォメーションを備えたもの)と再生絹タンパク質(上記で開示されたもの)の違いは、現在の技術で製造される再生絹タンパク質は、最大限「天然に似た」特徴を持つに過ぎず、つまり、再生絹タンパク質は天然の絹タンパク質と共通する性質を幾つか持っているとしても、同一又は実質的に同一とは言えないということである。天然絹タンパク質は、その生来のタンパク質のコンフォメーションを備えているタンパク質、すなわち、野生型のタンパク質と同様の又は本質的に同様の一次、二次、三次及び四次の折りたたみ構造を備えているタンパク質として定義される(Thomas E. Creighton, Proteins, Second Edition, 1993,232-236, ISBN 0-7167-2317-4)。再生絹タンパク質のタンパク質折り畳みパターン、特に三次及び四次の折り畳みにおける天然絹タンパク質との相違は、化粧品又は医薬品成分としての使用にはマイナスの影響を及ぼさないことは明らかである(例えば、Tsubouchiらの国際特許出願PCT/JP01/02250に記載されている)。しかし、機械的に強いフィルム、コーティング及び成形品の製造や絹のバイオミメティック紡糸(Spintec Engineering GmbHに譲渡されたVollrath 及びKnightの 欧州特許第 1244828号に記載されている)等の有望な用途では、これらの材料の製造に使われる絹タンパク質を正しく折り畳み且つセルフアセンブリさせることは、生成した材料の機械的強度や機能的特徴を決定する重要な要素となっている。上記した再生絹タンパク質と天然絹タンパク質の違いのため、再生絹の品質は、上記の欧州特許第1244828に記述された成形、コーティング又はバイオミメティック紡糸などにより高品質の絹材料を製造するには十分でない。
【0005】
欧州特許出願第1241178号(National Institute of Agrobiological Sciences 及びKowa Coに譲渡)は、繭をアルカリ水溶液又は尿素水溶液に溶解することにより絹フィブロインを製造する方法を提案している。この第’178号特許出願の実施例に記述されているアルカリ水溶液は、pH7の炭酸ナトリウム又はチオシアン酸リチウムである。その後、このアルカリ水溶液にアセトン又はアルコールを加えて、フィブロインを沈殿させる。この特許出願は、天然の三次及び四次タンパク質折りたたみコンフォメーションを示す高分子量の絹タンパク質が得られたという結果は示していない。
【0006】
また、この’178号特許出願(段落18)は、絹糸腺を蚕体から抽出した後、絹糸腺内腔からタンパク質を抽出する方法を報告している。しかし、明細書では、得られたフィブロインが蚕の分泌物や蚕の腺細胞などの不純物を含むため、該方法は工業的製造には適していないと記載されている。
【0007】
蚕の絹糸腺から天然絹タンパク質を抽出する方法が米国特許第7,041,797(Vollrathから Spintec Engineering GmbHに譲渡された)に記載されている。この第’797号特許には、絹糸腺を蚕体から取り出した後、該絹糸腺の上皮層を除去するという方法が記載されている。この方法は絹糸腺の一つ一つから手動で抽出するのに良い。しかし、大量の絹糸腺の抽出が必要な場合には煩雑で時間がかかる。したがって、この方法は、工業的規模で絹糸腺から天然タンパク質を製造する方法としては非実用的である。この第’797号特許の発明者は、絹糸腺から抽出したタンパク質を効率良く、均質に混ぜて貯蔵することができる方法や装置はもちろん、絹糸腺から抽出したものに添加剤を加えるといった方法や装置については、何ら詳細を述べていない。
【0008】
同様に、特開平02-268693(旭化成)には、蚕(Bombyx moriなど)から得られた絹糸腺を培養して、該培地を利用する方法が教示されている。この培地を透析で取り出し、絹フィブロインの水溶液を得るのである。しかし、この特開第’693号の発明者らは、絹糸腺の高粘度内容物に添加剤を均一に導入する方法については何ら検討していない。
【0009】
フィブロインタンパク質を得るためのさらに原始的な方法が、特開平03-209399(テルモ)に開示されている。そこでは、成長させた蚕の頭部を切断し、その後、フィブロインタンパク質を抽出するために蚕の腹部を押すことによりフィブロインタンパク質を採取する。得られたタンパク質混合液からセリシンを除去するために、炭酸ナトリウムなどの弱アルカリで該タンパク質混合液を処理する。この特開第’399号の発明者らは、このタンパク質混合液に添加剤を加える方法については何ら教示していない。さらに、特開第’399号の方法は、蚕体から不純物が混入することを簡単には避けられないという欠点がある。これらの不純物は除去しなければならず、除去されないと該タンパク質混合液を用いて製造されたバイオミメティック紡糸繊維の性質やコーティング又は成形された物の性質に悪影響を及ぼす可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、節足動物の腺から天然タンパク質を効率良く抽出する方法及び装置が必要とされている。
【0011】
また、上記のような節足動物の腺タンパク質に添加剤を加えることが必要とされている。
【0012】
更に、1つ以上の節足動物から抽出された節足動物の腺タンパク質を均質に混ぜることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記及びその他の目的は、節足動物(蚕など)の腺から物質を抽出するための装置であって、該腺の少なくとも一部分を保持する保持装置を備えるものにより解決される。該腺は、少なくとも部分的に(必ずしも「完全に」でなくてもよい)緩衝液に浸漬させる。そして該腺から該緩衝液に上記物質が放出される。
【0014】
上記物質は最後に上記装置の下の回収領域に沈殿する。
【0015】
この装置は、その中で、一匹以上の節足動物(蚕など)の二つ以上の蚕腺から得られる物質を実質的に均質に混合することができる。蚕腺を少なくとも部分的に緩衝液に浸漬するということは、浸透圧、酵素的又は機械的な切断により物質が蚕腺から緩衝液に放出されることを意味している。
【0016】
この装置は、さらに、多孔質の網や多孔質のプレートのような多孔質支持体を備えてもよく、かかる支持体は、上記保持装置と上記物質の回収領域との間に配置される。この多孔質支持体は、腺から流れ出る高粘度のタンパク質を分断して、均一に混合された物質が上記回収領域に回収されようにするための効果的な技術的解決手段である。
【0017】
また、この多孔質支持体は、回収物(すなわち、腺の内容物)の性質を制御したり変えたりする技術的な手段としても機能する。例えば、網又は穴の大きさを変えたり、保持装置の腺の位置及び/又は装置の回収領域の位置に対する多孔質支持体の位置を調整したりすることで、装置の中の緩衝液(及び緩衝液中の何らかの添加物)に対する上記物質の露出を制御することができる。別の実施形態では、非多孔質支持体を用い、上記物質が装置の回収領域に向かって案内されるように該非多孔質支持体を位置させることにより、緩衝液に対する上記物質の露出を制御することもできる。
【0018】
上記緩衝液には添加剤を加えることができる。緩衝液中で物質を可溶化させたり沈殿させることは、該物質内に添加剤を実質的に均一に分散させることにつながることがわかった。
【0019】
また、上記及びその他の目的は、上記物質を少なくとも部分的に含む腺を用意し;該腺に穴を開け、該腺から上記物質が出るように該腺が少なくとも部分的に緩衝液に浸漬されように保持装置を用いて該腺を配置する、ことを含む方法によって解決される。
【0020】
上記物質は、多孔質支持体(多孔質のプレート又は多孔質の網等)を通過させてもよい。上記したように、多孔質支持体を設けると、腺から流れ出る粘度の高いタンパク質内容物を分断し、均一に混ざった物質が回収領域に回収されるようになる。最終的に、該物質は装置の底に回収される。
【0021】
下記するように、上記物質は、節足動物の腺で生産できる天然又は組換え生体物質、例えばタンパク質、ペプチドもしくは炭水化物又は他の好適な生物的分子及び/又はこれらの組み合わせからなる。上記物質は、多数の目的、例えば、繊維又はフィルムの製造に使用できる。好ましくは、上記物質は、天然もしくは組換えフィブロイン又は蚕の組換え技術の当業者に知られているフィブロイン融合タンパク質である。
【0022】
本発明による節足動物のタンパク質の抽出では、絹タンパク質を再生絹溶液から作る場合に必要なタンパク質の再折り畳み技術を使用する必要はない。その代わり、本書に記載の方法及び装置によれば、節足動物の腺によって作られ、貯蔵されている天然物質を大量に抽出できる。タンパク質の再折り畳み技術を避け、温和なタンパク質精製条件を用いることで、節足動物の腺で生体物質を自然に合成することにより獲得される機能の全て又はほとんどを維持することができる。例えば、蚕の場合、本発明によれば、再生絹(例えばAltmann ら, Biomaterials 2003, 24, 401-416)を作るのに広く使われている変性剤の使用を避けることで、天然フィブロイン又は組換えフィブロインを、高分子量の多量体であるフィブロインタンパク質複合体(例えば、Inoue らのEur. J. Biochem. 2004,271,356-366に記述されている三次及び四次フォールディング)を破壊すること無く効率的に回収することができる。商業的観点からすると、本発明の装置によれば、温和な回収技術と、抽出された蚕腺の内容物中にフィブロインの生来の特徴を維持することが可能になる。また、本発明の装置は、再生絹タンパク質に比べて高度な天然の性能に基づいて、新規なフィルム、コーティング、成形品又は紡糸された絹材料を生産するための基盤を形成する。
【0023】
更に、本発明は、節足動物の腺の内容物を緩衝液及び/又は添加剤と混合することを可能にしたことにより、添加剤の永久な又は一時的な結合によってもたらされる性質を備えた新規な絹の製造手段を提供する。溶液が(上記の先行技術と違って)水溶液で、しかも絹タンパクの再折り畳み剤のような有機溶媒を必要としないため、例えば、不安定なタンパク質又はペプチドを添加剤として使用できると考えられる。使用できる添加剤の他の例は後に列挙する。
【0024】
また、本発明は、多孔質の網を通過させることにより抽出した腺の内容物を均質化することを可能にしたことにより、二匹以上の節足動物からとれる腺の内容物の均質な混合を達成する。
【0025】
要すれば、本発明の装置は、オペレーターが、緩衝液の組成、多孔質支持体の開口の寸法、装置内部を物質が流れる長さ、回収領域の大きさなどのパラメータを制御することにより、タンパク質の濃度や生化学的組成などの物性を調整しつつ、腺の内容物の溶液を製造することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1及び図5は本発明で使用される装置5を表している。装置5は、容器10と、物質回収領域20と、1つ以上の添加剤40を含有した緩衝液30とを包含してなる。この1つ以上の添加剤40は、装置を使用する最中のどの段階でも加えることができ、又は、別法として添加剤40を加えなくてもよい。装置5はさらに高さ調節が可能な(矢印で示す)腺保持装置50を含み、この腺保持装置は、節足動物から取り出された1つ以上の節足動物腺を所定の位置に保持して、この1つ以上の腺の内容物の放出(溶出)を促進させる。所望により、装置5は、高さ及び位置の調節が可能で(矢印で示す)穴の大きさが0.1-10mmの支持体60を含む。この支持体60は、図1に示したような多孔質の網又は多孔質のプレートでもよく、又は図5に示したような中実のプレートでもよい。緩衝液30は、例えば100mM Tris 又はタンパク質精製の技術分野の当業者に知られている他の種類の緩衝液を含んでもよい。添加剤40は、単なる例示にすぎないが、治療上の活性物質や着色剤であってもよい。
【0027】
節足動物腺の内容物の抽出のための装置5の使用方法については、図2に概略が示されており、図3に説明されている。
【0028】
図2は、保持装置50の上に節足動物腺を配置した状態を示している(矢印で示してある)。蚕腺の工業的な回収を容易にするために、腺を摘まんで移動させる1つ又は数個のロボット装置80により節足動物腺70が自動的に保持装置50に載置される。しかし、小規模の製造では、装置5に手動で載置してもよい。腺の内容物90は節足動物腺70から放出され、物質回収領域20に集められる。所望により、より均質な混合を達成し、添加剤40を含むか含まないかにかかわらず腺の内容物90の緩衝液30への露出を増やすために、多孔質支持体60を使用してもよい。保持装置50と多孔質支持体60の相対的位置及び物質回収領域20に対する位置を変えることにより、本装置によって、回収された腺の内容物90を必要な濃度の調整することが可能となる。別法として、多孔質支持体60を全く使用せずに、溶出された腺の内容物90の濃度を出来るだけ保持するようにしてもよい。
【0029】
図3は装置10の使用方法を要約している。
【0030】
初期工程200において、容器10は緩衝液30で満たされ、該緩衝液は1つ以上の添加剤40を伴っても伴わなくてもよい。
【0031】
次の工程210では、腺70を蚕などの節足動物の体から抽出する。これは、例えば、米国特許第7,041,797号に記載されている方法で行うことができる。内容物(絹タンパク質)が蚕腺の中から放出され得るように、少なくとも一つの開口を蚕腺の上皮細胞壁に形成する。この上皮細胞壁の開口は、超音波、機械的切断、または、酵素的切断によって形成することができる。また、この上皮細胞壁の開口は、蚕腺を大体半分に切ることでも行うことができる。上皮細胞壁の開口の正確な位置や穴の開け方は、本発明を実施するにあたって重要ではない。開けられた腺70は、その後、手動又は摘まんで移動させるロボット装置80の一つによって装置10の保持装置50に配置される。このような摘まんで配置させる装置は、実験室オートメーションの分野の当業者に知られており、グリッパーなどの、摘まんで配置させる機能を備えた装置を用いることにより、蚕腺70を物理的に取り扱うことが可能になる。移動された蚕腺70は、効率よく蚕線70の内容物90が放出され、効率よく容器10に蚕腺70が詰められるような態様で、保持装置50の上に配置される。本発明の一実施形態によれば、約7匹の蚕の蚕腺70が使用されるが、本発明はこれに限られず、保持装置50や装置5の寸法を大きくすることによって容易に数倍にスケールアップすることができる。
【0032】
次の工程220では、腺の内容物90が蚕腺70から容器10に流れ出し、物質回収領域20に集められる。所望により、腺の内容物90を多孔質支持体60に通過させる。上記のように、多孔質支持体60を使用すると、多孔質支持体60及び/又は保持装置50の容器10内における位置を変えることにより、腺の内容物90の均一性を高めたり物性を調整したりできる点で好都合である。また、多孔質支持体60は、放出された腺の内容物90から不純物を除くために使用することもできる。
【0033】
工程230では、物質回収領域20に集められた腺の内容物90を容器10に貯蔵してもよく又は更に適当な貯蔵容器(図死せず)に移行してもよい。回収された腺の内容物90は、タンパク質含有率が約1−30%であり、回収された腺物質に新規機能を与えるために、抽出プロセスの最中や後に、有用な添加剤を加えてもよい。また、回収された腺の内容物90は実質的に均質であり、回収された腺の内容物90を多孔質支持体60に通過させた場合は特にそうである。回収された腺の内容物90が均質に分散されており、また、該内容物90に一つ以上の添加剤を付与できるということは、2以上の蚕腺70に由来する原料天然絹タンパク質を混合したり該原料に1以上の添加剤40を加えることができなかった先行技術の方法とは好対照である。
【0034】
本発明の方法は、カイコガ科(Bombycidae)の蚕、例えば、Antherea, Attacus, Samia, Bombyx及びTelea属の蚕などの野生型又は組換え節足動物の腺から生来の形態で抽出される天然のタンパク質やペプチド(絹タンパク質に限らない)や、それらの組換え類似体や融合タンパク質に等しく応用できる。抽出された物質としては、例えば、ABAB-ブロックポリマー型ペプチドやフィブロインなどのタンパク質が挙げられる。
1つ以上の添加剤40は抽出された腺の内容物90もしくは緩衝液30に抽出のどんな段階でも、又は直接、回収領域20に集められた腺の内容物90に加えることができる。
【0035】
抽出された腺の内容物90には、1つ又はそれ以上の添加剤40を加えることができ、抽出のどの段階の緩衝液30に加えてもよく、又は、物質回収領域20で収集された腺の内容物90に直接加えてもよい。
【0036】
加えることのできる添加剤の範囲は広く、下記の添加剤が使用される。
【0037】
・ 有機添加剤:
。 低分子物質
。 ペプチド
。 タンパク質
。 炭水化物
。 脂質
。 DNA, RNA, PNA 等の核酸及び100を超える塩基の長さの核酸類似化合物、並びに、siRNAのようなこれらの100未満の塩基の長さの断片
【0038】
・ 無機添加剤:
。 機械的、光学的、電気的又は触媒的な性質を改善又は付与する添加剤又は前駆体
。 リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物、ケイ酸塩等の鉱物、及び粘土、タール、シリカ等の鉱物様物質
。 アルカリ及びアルカリ土類金属、還移金属、ポスト遷移金属、並びにこれらの合金の塩
。 EDTA又は他のキレート剤に配位した金属イオン等の金属錯体
。 FeO, AlO, TiOのような金属酸化物等の絶縁物
。 金属及び合金等のIII-V又はII-VI族の半導体及び導体。
。 フラーレン、カーボンナノチューブ、繊維又は棒状体、グラファイト等の炭素系添加剤
【0039】
・ 緩衝液中の腺の内容物の溶解性を調整することにより各種の濃度の抽出物を提供する疎水性、親水性又は両親媒性の添加剤
・ ナノ粒子
【0040】
・ 生理活性化合物、例えば、
。 抗体及びその類似物
。 殺菌剤、抗ウイルス剤及び抗生物質
。 抗凝固剤及び抗血栓剤
。 血管拡張剤
。 化学療法剤
。 抗増殖剤
。 抗拒絶反応剤又は免疫反応抑制剤
。 中枢及び末梢神経系作用剤
。 鎮痛剤
。 炎症抑制剤
。 ステロイド等のホルモン剤
。 歯の再生用のフッ化アパタイト等の歯の再生のための鉱化剤
。 ヒドロキシアパタイト、トリカルシウムホスファート、サンゴ等の海洋動物由来の粒子及びキトサン等の骨再生のための鉱化剤
。 成長因子、例えば、
. 骨形成タンパク質BMP
. 骨形成様タンパク質GFD
. 表皮成長因子EGF
. 線維芽細胞成長因子FGF
. トランスフォーミング成長因子TGF
. 血管内皮細胞増殖因子VEGF
. インシュリン様成長因子IGF
. 神経修復及び再生因子NGF
. 血小板由来成長因子PDGF
。 細胞として機能するタンパク質又はコラーゲンIV、ポリリシン、フィブロネクチン、カドヘリン、ICAM、 V-CAM、N-CAM、セレクチン、ニューロファスチン(neurofascin)、オクソニン(oxonin)、ニューログリニン(neuroglinin)、ファシリン(fascilin)等のタンパク質結合剤
。 細胞接着分子のためのRGD又はRADAR認識部位のような細胞結合領域(cell-binding motive)
。 傷の治療剤
。 コーダニューリン(Cordaneurin)等の傷跡形成防止剤
。 その他天然由来又は遺伝子工学的な治療用の活性タンパク質、多糖類、糖タンパク質又はリポタンパク質
。 幹細胞又は患者の部位由来の自家細胞のような治療用の活性細胞
【0041】
・ ニュートラルレッド等のpHの変化を検出するための薬剤
・ 抽出された腺のタンパク質のβシート形成を促す薬剤
・ 制御可能な速度で分解することにより制御された生分解ができる生物分解性ポリマー等の薬剤
【0042】
患者の移植部位などのプロテアーゼ活性を抑制することにより制御された生分解ができるというプロテアーゼ阻害剤等の薬剤
・ エーテル、エステル、酸無水物、ケトン(例:アセトン)、第三級アミン、ジメチルホルムアミド、ピリジン、フラン、チオフェン、トリクロロエタン、クロロホルム及び他のハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、炭酸ジメチル、イムソール(imsol)、アニソール、ニトロメタン等の絹タンパク質の水素結合形成を改善する非プロトン性溶媒
・ 生理活性化合物の放出を高める薬剤
【0043】
・ 天然由来又は化学合成された染料
・ 蛍光緑タンパク質等の天然由来又は遺伝工学的な着色剤
・ アクチン、シルク、コラーゲン又はフィブロネクチン及びその類似物又は誘導体等の天然由来又は遺伝工学的な構造的耐荷重性タンパク質
【0044】
・ 電気伝導性及び半伝導性材料
・ 陽又は陰荷電の高分子電解質
・ イオン性液体
・ 過渡的又は永久的な磁気を与える材料
・ ポリ乳酸又はポリカプロラクトン等の水溶性ポリマー
・ ガラス繊維
【0045】
上記添加剤のリストは、本発明を限定するものではなく、抽出された腺の内容物90に加えることができる添加剤の例示に過ぎない。
【0046】
抽出された腺の内容物90は、例えばコーティング、成形又は欧州特許第1244828号に開示されている紡績装置におけるような紡糸をすることによって、物品の形成に用いることができる。一つ又はそれ以上の添加剤40を抽出された腺の内容物90に加えると、形成された物品は付加的な性質を備えることが出来る。例えば、組織の成長を促進するための添加剤40の一つを抽出された腺の内容物90に加えることにより、形成された物品は医療用のインプラントとして使用できるようになる。
【実施例】
【0047】
実施例1
4匹の五齢最後のBombyx mori 蚕の絹糸腺を、米国特許第7,041,797号を参照して上記したとおりBombyx mori 蚕の体から絹糸腺を取り出すことにより抽出した。それぞれの絹糸腺を半分に切った。絹糸腺の後部半部をピンセットでpH 7.8の100 mM酢酸アンモニウム緩衝液で満たされたシャーレの中に配置された網の上に置いた。合計で8本の後部絹糸腺70を移した。8本の後部絹糸腺70を60分間インキュベートして浸透ショックを与え、絹糸腺70の内容物を放出させた。その後、空になった絹糸腺70はピンセットを用い、網の表面から取り除いた。必要に応じ、シャーレの縁で滑らせる動作を行い、絹糸腺の中に残っている絹糸腺の残留内容物を抽出した。抽出された絹糸腺の内容物を網の表面に一晩静置することにより、絹糸腺の内容物を網に通過させ、シャーレの底に沈殿させた。その後、網をシャーレから取り除き、5 ml使い捨て注射器を用い、絹糸腺から出た絹タンパク質を回収した。
【0048】
実施例2
8本の絹糸腺70の後部半部から実施例1の記載と同様にして抽出を行った。網に付着した残留物質及び濾過されてシャーレに集められた腺の内容物を顕微鏡で分析したところ、上皮細胞残渣及び分解、変性した腺の物質が、シャーレ中の均質な腺の内容物から効率的に分離されたことが示された。
【0049】
実施例3
抽出中に腺の内容物に添加剤40(”ドーパント”)を混合できるかどうかを示すために、8つの絹糸腺の後部半部を100 mM酢酸アンモニウム緩衝液と1.75 mMニュートラルレッドからなる緩衝液中で抽出した。この緩衝液のpHは7.8であった。これを、添加剤無しのpH 7.8の100 mM酢酸アンモニウム緩衝液中で抽出した4本の後部半部と比較した。添加剤40を緩衝液へ添加しても、絹糸腺から抽出された腺の内容物に凝集や不安定化は生じなかった。
【0050】
添加剤であるニュートラルレッドを含む腺の内容物をシャーレに移し、50℃で乾燥してフィルムを形成させた。このフィルムは、安定であり、3ヶ月間室温で水中にてインキュベートしても赤色を保持していたので、腺の内容物と添加剤とが安定に一体化されたことが示された。
【0051】
上記のように抽出された0.18 mMニュートラルレッド添加剤を含む絹糸腺の内容物を更に欧州特許第1244828号のバイオミメティック紡績装置を使用した紡糸試験に付したところ、均一な赤色の直径約5μmの絹繊維を2つのアルミニウム製のリールに回収することに成功した。
【0052】
実施例4 抽出された腺の物質の物性
実施例1の方法に従って抽出された腺の物質を用いてフィルムを成形した。成形されたフィルムは、水に難溶で、水や有機溶剤で繰り返し湿潤して乾燥しても性質が変化しなかった。寸法40 mm×2.5 mm×0.06 mmのサンプルを用い、重水(dH2O)中でZwickRoell TC-FR2.5TN引張試験機を用いて10 mm/分の速さで引張試験を行った。このフィルムは、重水(dH2O)中で約20 MPa の破断強度と約100%の破断伸びを示した(図4のデータ参照)。
【0053】
実施例5 腺の内容物抽出の再現性
7匹の五齢最後のBombyx mori 蚕の絹糸腺を、例えば米国特許第7,041,797号に記述されているように、蚕体から絹糸腺を取り出すことにより抽出した。それぞれの絹糸腺を半分に切った。絹糸腺の後部半部(全体で14本)をピンセットでシリンダーの上部に配置されたバーの上に配置させた。該シリンダーは、直径約30 mm長さ約100mmで、pH7.8の100 mM酢酸アンモニウム緩衝液を含み、シリンダーの閉止底から約46 mmの距離のところに配置されたメッシュサイズ1mmの網を備えている。開口された絹腺の全ての内容物は放出され、網を通過し、装置の底に回収された。その後、回収された腺の全内容物のタンパク質の濃度を60℃のオーブンで乾燥させることにより測定した。抽出手順を5回行ったところ、腺タンパク質濃度は7.0%, 7.2%, 7.2%, 6.7%及び7.1%であり、全体のタンパク質濃度は7±0.22%であった。
【0054】
実施例6 抽出された腺の内容物のタンパク質濃度の調整
上記装置を用い、14本の後部半部を用いて絹糸腺の抽出をそれぞれ4回行った。それぞれの絹糸腺の抽出において、14本の後部半部は実施例5で記述されているようにして調製した。抽出された腺の内容物の濃度は、多孔質の網からシリンダー底までの位置を10 mm, 20 mm及び46 mmに変えることによって調整した。抽出の1つは、多孔質の網を取り除き、腺の内容物を腺からシリンダーの底まで直接通過させることにより行った。その後、回収された腺の内容物全体のタンパク質の濃度を60℃のオーブンで乾燥させることにより測定した。その結果、タンパク質濃度は:多孔質の網なしの抽出で20%、シリンダー底から10 mmの距離に網を配置した場合で15%、20 mmの距離に網を配置した場合で11%、46 mmの距離に網を配置した場合で7%、100 mmの距離に網を配置した場合で5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】多孔質支持体を備えた本発明の装置を示す。
【図2】節足動物腺の内容物を回収するための装置の使い方を示す。
【図3】装置の使用方法を示す。
【図4】実施例4の応力歪曲線を表している。
【図5】中実の支持体を備えた本発明の装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型又は組換体の節足動物の腺(70)から物質を抽出するための装置であって、
‐前記腺(70)の少なくとも一部分を保持する保持装置(50)と、
‐前記腺(70)を少なくとも部分的に浸漬させる緩衝液(30)と、
を含み、使用時に、前記物質が前記腺(70)から前記緩衝液(30)に放出されることを特徴とする装置。
【請求項2】
更に、支持体(60)を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
更に、前記物質が回収される物質回収領域(20)を含む請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記物質は前記装置の内部に沈殿する請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置。
【請求項5】
更に、摘まんで配置させる装置(80)を含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記緩衝液は、1つ又はそれ以上の添加剤(40)を含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記支持体(80)が前記装置内で移動可能である請求項2乃至6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記支持体(80)が非多孔質である請求項2乃至7の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記保持装置(50)前期装置内で移動可能である請求項1乃至8の何れか1項に記載の装置。
【請求項10】
野生型又は組換体の節足動物の腺(70)から物質を抽出するための方法であって、
‐前記物質を少なくとも部分的に含有する腺(70)を用意し、
‐前記腺(70)に穴を開け、
‐前記腺(70)を保持装置(50)に配置して、前記腺(70)を少なくとも部分的に緩衝液(30)に浸漬させることにより、前記物質が前記腺(70)から放出されるようにする方法。
【請求項11】
前記物質は、タンパク質、ペプチド及びその組み合わせからなる群より選ばれたものである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記物質は、フィブロインである請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記節足動物は、カイコガ科(Bombycidae)の天然又は組換え種である請求項10乃至12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
更に、少なくとも1つの添加剤(40)を前記緩衝液に加えることを含む請求項11乃至13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの添加剤(40)は、生物学的に活性な分子である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
更に、前記保持装置(50)及び/又は支持体(60)と物質回収領域(20)との間の距離の調整をすることを含む請求項10乃至15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
更に、放出された前記物質を前記支持体(60)を通過させることを含む請求項10乃至16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
更に、前記支持体(60)と物質回収領域(20)との間の距離を調整することを含む請求項10乃至15の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記節足動物の体から前記腺(70)を取り除いて前記腺(70)を用意する請求項10乃至18の何れか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−528314(P2009−528314A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556718(P2008−556718)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001775
【国際公開番号】WO2007/098951
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(505169101)スピンテック エンジニアリング ジーエムビーエイチ (3)
【氏名又は名称原語表記】Spin’tec Engineering GmbH
【住所又は居所原語表記】Dennewartstr. 25/27,52068 Aachen, Germany
【Fターム(参考)】