説明

節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法

【課題】 節類の風味をより強化し、また節類特有の好ましくない風味を抑制した、節類抽出物および節類抽出物入り調味料を提供することを目的とする。
【解決手段】 節類抽出物または節類抽出物入り調味料にβ−ダマセノンあるいはβ−ダマセノン及びセドロールを添加することを特徴とする節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、並びに、β−ダマセノンあるいはβ−ダマセノン及びセドロールを含有することを特徴とする節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、節類抽出物および節類抽出物入り調味料の風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
節類から抽出されただしや抽出エキスなどの節類抽出物は、味噌汁や吸い物に使用されたり、つゆや煮物用調味液などに欠くことのできない食品素材である。
【0003】
従来、節類抽出物としての節類だしの品質を向上させる方法として、低酸素濃度下で抽出する方法などが公知であるが(特許文献1)、抽出中や抽出後の品質劣化を抑制することによって、品質を維持しようとするものであった。
【0004】
また、節類抽出物入り調味料としてつゆがあるが、節類だしと同様に、低溶存酸素濃度に制御することにより酸化による劣化を防止したり(特許文献2)、ビタミンCを添加して風味の劣化を抑制する方法(特許文献3)が開示されている。
【0005】
上記はいずれも劣化を抑制することによって品質を改善しようとするものであるが、保存中や調理中に香りの散逸や劣化が起こることから、より風味が強いものが望まれており、積極的に風味を向上させようと試みもなされてきた。
【0006】
たとえば、節類の使用量を増やすことや、だし抽出残渣の分解液を利用する方法が試みられてきたが(特許文献4)、原料使用量が増えることや設備投資の必要や工程が複雑になることから、高価なものとなった。また、節風味は増強されるが同時にざらつき感や苦味など好ましくない風味も同時に付与されるため、香味バランス上好ましいものではなかった。
【0007】
また、つゆにおいては、特定の化合物を添加して、こく味を向上させる方法が開示されているが(特許文献5、6)、節類特有の香味の向上を目的としておらず、加えて化合物の安全性やコスト面などから十分なものではなかった。
【0008】
β−ダマセノンは、食品中にも存在しており、ワイン、ラズベリーやブドウ等の果汁、トマト、茶、コーヒーなどに含有されていることが報告されている。
【0009】
β−ダマセノンは、バラ様の香りを有し、化粧品・シャンプーの香料として広く使用されている。
【0010】
食品香料としても検討がされてきており、たとえば、野菜フレーバー組成物の1成分として、トマトジュースなどに添加され、より強く、より自然な野菜フレーバーを与えることが開示されている(特許文献7)。また、フルーツフレーバー組成物の1成分として清涼感・爽快感を付与することができることが開示されている(特許文献8)。また、茶フレーバー組成物の1成分として清涼感・爽快感を付与することが開示されている(特許文献9)。さらに、コーヒーフレーバー組成物の1成分としてコーヒー特有の香味を改善することが開示されている(特許文献10)。
【0011】
しかし、これらの場合において、β−ダマセノンは、いずれも香料組成物の1成分として使用されており、前記の香味改善効果は複数の香気成分からなる香料組成物を用いて得られたものであった。
【0012】
また、β−ダマセノンは、節類抽出物に含有されていることは知られておらず、また節類抽出物および節類抽出物入り調味料の節風味に対する影響や効果は全く知られていない。
【0013】
セドロールは、含有天然物であるセダー・ウッドから抽出精製されるウッドフレーバーであり、芳香剤などの非食品分野で使用されている。
【0014】
食品香料としては、β−ダマセノンと同様に、茶フレーバー組成物の1成分として清涼感・爽快感を付与することが記載されている(特許文献9)。また、コーヒーフレーバー組成物の1成分として、コーヒー特有の香味を改良することが開示されているにすぎず(特許文献10)、いずれも香料組成物の1成分として使用されており、前記の香味改善効果は複数の香気成分からなる香料組成物を用いて得られたものであった。
【0015】
節類抽出物や節類抽出物入り調味料の節風味に対するセドロールの影響や効果は全く知られていない。
【0016】
【特許文献1】特開2008−11771号公報
【特許文献2】特開2000−287641号公報
【特許文献3】特開2008−86298号公報
【特許文献4】特開2000−279124号公報
【特許文献5】特開平9−121806号公報
【特許文献6】WO2005/046353
【特許文献7】特開2005−15684号公報
【特許文献8】特開2005−15686号公報
【特許文献9】特開2005−143467号公報
【特許文献10】特開2006−20526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
節類抽出物や節類抽出物入り調味料において、従来以上に節類の風味が強いものが望まれていたが、従来の方法は、工程が複雑であり、コスト的にも品質的にも十分なものではなかった。
【0018】
本発明は、簡単な工程で、節類だし特有の風味を向上させ、風味のすぐれた節類抽出物および節類抽出物入り調味料を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、節類特有の好ましい風味を簡便にかつ特異的に向上させる方法として香料物質に着目した。そして、香料物質を添加することによって好ましい形で節類の風味を高めることができれば、簡便かつ安価に節類の風味向上が達成できると考え、多数の香料成分の中から節類特有の風味を向上させる物質を探索した。
【0020】
その結果、従来バラの甘い香り成分として知られ、主に化粧品に使用されてきたβ−ダマセノンが、意外にも、節風味を強くすることを見出し、ある特定の濃度領域において食品の風味を好ましくすることを見出した。
【0021】
さらに、単独添加では節類抽出物や節類抽出物入り調味料において節類の風味を損ねてしまうセドロールが、β−ダマセノンと同時に添加する場合には、一層、風味を向上することを見出した。
【0022】
そして、節類抽出物としてはだしにおいて、また、節類抽出物を原料の一部に使用している食品、特につゆ、煮物調味料、だし風味調味料において、β−ダマセノンの添加、さらにはβ−ダマセノンとセドロールを添加することによって、顕著に節風味を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
また、β−ダマセノンを含有させた節類の風味向上剤、さらにセドロールをも含有する節類風味向上剤を見出した。
【0024】
すなわち、本発明は、
(1)節類抽出物または節類抽出物入り調味料にβ−ダマセノンを添加することを特徴とする、節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、
(2)節類抽出物または節類抽出物入り調味料の使用時におけるβ−ダマセノンの濃度が5〜60ppbになるようにβ−ダマセノンを添加することを特徴とする、請求項1に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、
(3)さらに、セドロールを添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、
(4)節類抽出物がだしであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、
(5)節類抽出物入り調味料が、麺つゆ、煮物調味料、またはだし風味調味料であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法、
(6)β−ダマセノンを含有することを特徴とする、節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤、
(7)さらに、セドロールを含有することを特徴とする、請求項6に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤、
(8)節類抽出物がだしであることを特徴とする、請求項6または7に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤、
(9)節類抽出物入り調味料が、麺つゆ、煮物調味料、またはだし風味調味料であることを特徴とする、請求項6または7に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤、
に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、β−ダマセノン、さらにはセドロールを節類抽出物または節類抽出物入り調味料に添加することにより、節風味が増強され、節類特有のざらつき感等(粉っぽさ・苦味)の好ましくない性質が緩和された食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明を具体的に説明する。
【0027】
本発明における節類には、魚体を煮てから固くなるまで乾燥させたものを指し、本鰹節、宗田鰹節、鯖節、あじ節、まぐろ節、いわし節、うるめ節、煮干などが含まれる。
【0028】
本発明の節類抽出物としては、節類を熱水抽出して得られるだし(出汁)や、エタノール等のアルコールで抽出して調製される抽出エキスなどが挙げられ、それらの冷凍物、濃縮物や粉末化物、ペースト状物なども含まれる。節類から抽出する条件に特に限定はなく、一般的に用いられている条件を用いることができる。節類抽出物は、そのままだし汁として使用したり、節類抽出物入り調味料の原料として使用される。
【0029】
本発明における節類抽出物入り調味料とは、前記の節類抽出物を含有する調味料を指し、麺つゆ、天つゆなどのつゆ、煮物調味料、だし醤油、だし味噌などが含まれる。また、だしや節類抽出エキスにL−グルタミン酸ナトリウムや5’−リボヌクレオチド、食塩などの調味成分を加えて調製して製造するだし風味調味料のように、水に溶かしてだし汁として味噌汁や吸い物などに使用するものも含まれる。これらには、そのまま喫食に使用できる通常品だけでなく、使用時に希釈が必要な濃縮品や粉末品、ペースト状品も含まれる。
【0030】
β−ダマセノンは、合成品、天然物やその抽出物、粗精製物が使用できるが、添加された食品の品質に影響するような成分(たとえば、風味に影響を及ぼすことが知られているカテキン、フラボノイドなどのポリフェノール)を含まないことが必要であり、なるべく純度の高いものを用いることが好ましい。
【0031】
節類抽出物へのβ−ダマセノンの添加方法に特に限定はなく、通常、原料の一部としてそのまま加えることでよい。
【0032】
節類抽出物入り調味料へのβ−ダマセノンの添加方法に特に限定はなく、通常は、原料の一部としてそのまま加えることでよいが、節類抽出物にβ−ダマセノンを添加し、あらかじめβ−ダマセノン含有節類抽出物を調製し、調製したβ−ダマセノン含有節類抽出物を原料の一部に使用してβ−ダマセノン含有節類抽出物入り調味料とすることもできる。
【0033】
風味を向上させるために必要なβ−ダマセノンの添加量は、食品に含まれる他の成分の影響を受けることから、対象食品や処方によって異なるが、節類抽出物の場合、通常、最終的な節類抽出物製品中で5〜60ppb、好ましくは15〜30ppb、含有されるように添加する。
【0034】
なお、本明細書における濃度(ppb、ppm)は全て重量比である。
【0035】
最終製品がだしの液状濃縮品や粉末品のように使用時に希釈を必要とする場合は、喫食使用時(希釈後)のβ−ダマセノン濃度が上記の5〜60ppb、好ましくは15〜30ppbとなるように、最終製品に添加するβ−ダマセノンの量を調整する。
【0036】
節類抽出エキスの濃縮品や粉末品などの場合も、抽出効率や濃縮率によって異なるが、喫食使用時(希釈後)のβ−ダマセノンの濃度が上記濃度範囲になるように添加する。
【0037】
節類抽出物入り調味料の場合、処方や使用する節類抽出物の種類によってβ−ダマセノンの添加量は異なるが、通常は、最終製品中で5〜60ppb、好ましくは10〜50ppbとなるように含有されるように添加する。最終製品が節類抽出物入り調味料の濃縮品や粉末品のように、喫食に供する時に希釈を必要とする場合、喫食使用時(希釈後)におけるβ−ダマセノン濃度が上記の5〜60ppb、好ましくは10〜50ppbとなるように、最終製品に添加するβ−ダマセノンの量を調整する。
【0038】
後述するように、節類のみを原料として抽出しただし汁や、それに調味料を加えて調製した麺つゆのβ−ダマセノンの含有量は検出限界以下であることから、通常は、所望の濃度のβ−ダマセノンを節類抽出物または節類抽出物入り調味料に添加すれば、そのまま製品中の濃度とすることができる。
【0039】
上記の濃度範囲より高濃度でβ−ダマセノンを含有させると、たとえば、だしやつゆとしては、節感が強くなり過ぎ、違和感を伴った風味になる。また、上記の濃度範囲よりβ−ダマセノンが少ないと無添加のものと風味の差がない。
【0040】
節類抽出物または節類抽出物入り調味料にβ−ダマセノンを含有させると、節類特有の風味が好ましい形で増強される。節類特有の薫煙感等が上昇して節風味は向上し、一方でざらつき感などの好ましくない香味の低下が見られ、まろやかな風味になった。
【0041】
β−ダマセノンに加えて、さらにセドロールを添加すると、一層、節風味が強くなる。セドロールは、単独で添加した場合には、節風味を強くはするが、節類抽出物あるいは節類抽出物入り調味料としては違和感のある風味になってしまうため、添加量には限界があるが、β−ダマセノンと共にセドロールを加えると、セドロールは、節風味のみを向上させることができ、節類抽出物あるいは節類抽出物入り調味料として違和感のない形で、すなわち、全体の風味バランスを損なわずに節風味だけをさらに向上させることができる。
【0042】
セドロールは、合成品、天然物やその抽出物、粗精製物が使用できるが、β−ダマセノンと同様に、食品の品質に影響するような成分を含まないことが必要であり、純度の高いものを用いることが好ましい。
【0043】
風味を向上させるために必要なセドロールの添加量は、食品に含まれる他の成分の影響を受けることから、対象食品や処方によって異なるが、節類抽出物の場合、通常、最終製品中で10〜240ppb、好ましくは50〜200ppbとなるように添加する。最終製品がだしの液状濃縮品や粉末品のように、喫食に使用する時に希釈を必要とする場合は、喫食使用時(希釈後)のセドロール濃度が上記の10〜240ppb、好ましくは50〜200ppbとなるように、最終製品に添加するセドロールの量を調整する。節類抽出エキスの濃縮品や粉末品の場合も、抽出効率や濃縮率によって異なるが、喫食使用時(希釈後)のセドロールの濃度が上記濃度範囲になるように添加する。
【0044】
節類抽出物入り調味料の場合も、処方や使用する節類抽出物の種類によって異なるが、通常は、最終製品中で10〜240ppb、好ましくは50〜200ppbとなるようにセドロールを添加する。最終製品が節類抽出物入り調味料の濃縮品や粉末品のように、喫食に供する時に希釈を必要とする場合、喫食使用時(希釈後)におけるセドロール濃度が上記の10〜240ppb、好ましくは50〜200ppbとなるように、添加するセドロールの量を調整する。
【0045】
上記の濃度範囲よりセドロール濃度が高いと、節風味は向上するが、風味のバランスがくずれ、味の伸びがなくなり、違和感を与えるようになる。また、上記の濃度範囲よりセドロールが少ないと無添加のものと節風味の差がない。
【0046】
製品中や喫食使用時の食品中のβ−ダマセノンおよびセドロールの濃度は、たとえば、GC/MSなどの公知の方法で定量することができる。
【0047】
GC/MSで定量する場合、試料からβ−ダマセノンおよびセドロールを抽出して高濃度にまで濃縮して分析に供する必要がある。
【0048】
抽出方法としては、固相マイクロ抽出法や、ポリジメチルシロキサンでコーティングした攪拌子を用いて目的成分を抽出するSBSE法(スターバー抽出法)等が特に好ましい。SBSE法では、試料中のβ−ダマセノンをポリジメチルシロキサンに吸着させ、加熱脱着法などの方法により、吸着したβ−ダマセノンおよびセドロールをGC/MSに導入し、定量する。
【0049】
試料20mLを用いて、SBSE法(GERSTEL社 Twister使用)で抽出してGC/MS法で定量した場合の検出限界は、ダマセノンで0.1ppb以下、セドロール0.5ppb以下である。
【0050】
上記のSBSE法で、だしやつゆのβ−ダマセノンおよびセドロールを分析したところ、下記実施例に示すように検出限界以下であったことから、通常は、所望する最終濃度に相当する量を添加すれば、ほぼそのまま最終製品中のβ−ダマセノンやセドロール濃度にすることができる。
【0051】
本発明の節風味向上剤は、もっぱら上記の節類抽出物または節類抽出物入り調味料に添加することにより使用されるものである。本発明の節風味向上剤には、上記のダマセノンまたはダマセノン及びセドロールが有効成分として含まれている。そのため、本発明の節風味向上剤を使用することにより、節類抽出物または節類抽出物入り調味料あるいはそれらを使用した食品の節風味を富化し、かつ粉っぽさや苦味といった節類独特の好ましくない風味を弱めることができる。
【0052】
本発明のダマセノンを含有する節風味向上剤におけるダマセノン含量は特に制限されず、節類抽出物または節類抽出物入り調味料でのダマセノン濃度が5〜60ppbとなるように添加することが可能であればよい。また、最終製品の風味に影響を与えない限り、特に組成等に限定はなく、食品添加物として汎用されている成分、たとえば酸化防止剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、塩味料などを添加することができる。また、必要に応じて乳化、粉末化、造粒、包接、マイクロカプセル化などの公知の方法により加工することができる。
【0053】
さらに、前記節風味向上剤にセドロールを含有させることによって、節類抽出物または節類抽出物入り調味料あるいはそれらを使用した食品の風味をさらに向上させることが可能となる。セドロールを含有させる場合の節風味向上剤におけるセドロール含量は特に制限されず、節類抽出物または節類抽出物入り調味料でのセドロール濃度が10〜240ppbとなるように添加することが可能であればよい。
【0054】
β−ダマセノン、さらにはセドロールを節類抽出物または節類抽出物入り調味料に添加することにより、節風味が向上し、節類特有のざらつき感等(粉っぽさ・苦味)の好ましくない性質が緩和され、節風味が増強された食品を製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0056】
(β−ダマセノン及びセドロール含量の測定方法)
以下の実施例及び比較例において、ダマセノン、セドロール含量の測定は、以下の方法で行った。
【0057】
試料溶液20mLをバイアルに入れて、さらにその中にTWISTER(GERSTEL社製、100%ポリジメチルシロキサン(PDMS)をコーティングさせた攪拌子、膜厚0.5mm、長さ10mm)を1本入れて蓋をし、室温で60分間攪拌して、β−ダマセノン及びセドロールを吸着させた。
【0058】
次いで、TWISTERをバイアルから取り出し、純水で充分に洗浄した後、紙ウェスを用いて水分を拭き取った。
【0059】
水分を拭き取ったTWISTERを加熱脱着システム(型式TDSA−CIS4、GERSTEL社製)にセットし、GC/MSシステムに導入し、分析に供した。
【0060】
GC/MS分析は以下の条件で行なった。
測定機器:Agilent Technologies社製、型式5973MSD
カラム:InertCap WAX (ジーエルサイエンス社製、60M×0.25mmI.D.×0.25μmdf)。
温度プログラム:40℃で5分保持後、5℃/分の速度で230℃まで昇温。
注入モード:ソルベントベントモード。
キャリアガス:ヘリウム、流速1.8mL/分。
スキャンモード: EI 70eV。
【0061】
β−ダマセノン及びセドロールは、それぞれRT約31.8分及び約37.9分で溶出された。
【0062】
実施例1、2および3(β−ダマセノン含有だし)
粉砕した鰹荒節33.3gを90℃に加温した水1000mLに加え、90℃で30分間保持して、節成分を抽出した。その後、ろ過を行って、濾液を得、得られたろ液に水を加えて、鰹節だし1000mLを得た(対照区)。
【0063】
この方法で調製した鰹節だしのβ−ダマセノン含量を測定したところ、β−ダマセノンのピークは検出されず、検出限界(0.1ppb)以下であることが分かった。
【0064】
調製した鰹節だし汁(対照区)に、β−ダマセノンを10ppb添加し、混合して、実施例1(β−ダマセノン含量10ppb)を調製した。
【0065】
同様にして、β−ダマセノンをそれぞれ20ppb、40ppb、80ppb添加したものを、それぞれ実施例2、実施例3、比較例1とした。
【0066】
対照区と実施例1、実施例2(β−ダマセノン含量20ppb)、実施例3(β−ダマセノン含量40ppb)、比較例1(β−ダマセノン含量80ppb)について、官能検査によって節風味の強さ、風味のまろやかさ(異味・異臭の少なさ)、風味の好ましさ、嗜好を評価した。官能検査は、熟練したパネル4名で行い、対照区と試験区(実施例、比較例)が同等の場合の評点を3とし、各試験区のサンプルを以下のように5段階で評価した。4名のパネルの評点を平均した値をその試験区の評点とした。
【0067】
節風味の強さ、風味のまろやかさ
評点1 対照区より非常に弱い
評点2 対照区より弱い
評点3 対照区と同じ
評点4 対照区より強い
評点5 対照区より非常に強い
【0068】
風味の好ましさ、嗜好
評点1 試験区を非常に好まない
評点2 試験区を好まない
評点3 対照区と同じ
評点4 試験区を好む
評点5 試験区を非常に好む
【0069】
表1に結果を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、β−ダマセノンを10ppb添加すると節風味の強さが向上した。さらにβ−ダマセノンの添加濃度が上昇するのに応じて、節風味が強くなり、同時にざらつき感が弱くなって風味がまろやかになり、風味として好ましく、嗜好性も向上した。
【0072】
しかし、80ppbでは節風味は強くなったが、全体の風味のバランスが悪くなり、好まれなくなった。
【0073】
実施例4、5、および6(β−ダマセノン含有麺つゆ)
(麺つゆの調製)
実施例1に記載したのと同様な方法で調製した鰹節だしを表2に示す配合比で、他成分とよく混合して、麺つゆ(2倍濃縮)を調製した。
【0074】
【表2】

【0075】
調製した2倍濃縮の麺つゆを水で2倍の容量に希釈した(対照区)。
【0076】
希釈した麺つゆ(対照区)中のβ−ダマセノン量を上記の方法で分析したところ、β−ダマセノンのピークは検出されず、検出限界(0.1ppb)以下であることが分かった。
【0077】
上記の希釈して調整した麺つゆ(対照区)にβ−ダマセノンを10ppb添加し、よく混合して、麺つゆを調製した(実施例4、β−ダマセノン含量10ppb)。
【0078】
同様にして、β−ダマセノンをそれぞれ20ppb、40ppb、80ppb添加したものを、それぞれ実施例5(β−ダマセノン含量20ppb)、実施例6(β−ダマセノン含量40ppb)、比較例2(β−ダマセノン含量80ppb)とした。
【0079】
(麺つゆの官能評価)
対照区とβ−ダマセノンを添加した各サンプルについて、茹でたそうめんを上記の麺つゆに浸して食することで官能評価した。官能評価は実施例1の鰹節だしと同様な評価を行なった。
【0080】
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示すように、β−ダマセノンの添加濃度に応じて、節風味が強くなり、同時に嗜好性も向上した。しかし、80ppbになると、節風味は一層強くなったが、かえって全体の風味のバランスが悪くなり、風味として好ましいものではなかった。
【0083】
実施例7および8(β−ダマセノンおよびセドロールを含有するだし)
粉砕した鰹荒節33.3gを90℃に加温した水1000mLに加え、90℃で30分間保持して、節成分を抽出した。その後、ろ過を行って、濾液を得て、得られたろ液に水を加えて、鰹節だし1000mLを得た(対照区)。
【0084】
鰹節だし(対照区)中のβ−ダマセノンおよびセドロールの量を上記の方法で分析したところ、β−ダマセノンおよびセドロールのピークは検出されず、いずれも検出限界(β−ダマセノン 0.1ppb、セドロール 0.5ppb)以下であることが分かった。
【0085】
前記の鰹節だしにβ−ダマセノンを20ppbの濃度になるように添加し、混合して、実施例7(β−ダマセノン20ppb含有)を調製した。
【0086】
調製した鰹節だし(対照区)にセドロールを100ppbの濃度になるように添加して調製しただし汁を比較例3(セドロール100ppb含有)、調製した鰹節だし(対照区)にβ−ダマセノン20ppbおよびセドロール100ppbを添加して調製しただしを実施例8(β−ダマセノン20ppbおよびセドロール100ppb含有)とした。
【0087】
各サンプルについて、実施例1と同様な方法で官能評価を行なった。
【0088】
結果を表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4から分かるように、セドロール単独添加区(比較例3)では節風味は強くなるが、風味としては好ましくないため好まれないが、β−ダマセノンと同時に添加すると(実施例8)、β−ダマセノン単独添加区(実施例7)よりも節風味が強くなり、かつ風味としても好まれた。このことから、セドロールはβ−ダマセノンと相乗的に節風味を向上させることが分かった。
【0091】
実施例9および10(β−ダマセノンおよびセドロールを含有する麺つゆ)
(麺つゆの調製)
実施例7と同様にして鰹節だしを調製し、調製しただしを表2に示す配合割合で他の成分とよく混合して、麺つゆ(2倍濃縮)を調製した。
【0092】
調製した2倍濃縮の麺つゆを水で2倍の容量に希釈した(対照区)。
【0093】
希釈した麺つゆ(対照区)中のβ−ダマセノンとセドロールの量を上記の方法で分析したところ、β−ダマセノンおよびセドロールのピークとも検出されず、いずれも検出限界(β−ダマセノン 0.1ppb、セドロール 0.5ppb)以下であることが分かった。
【0094】
対照区にβ−ダマセノンを20ppbの濃度になるように添加し、混合して、実施例9(β−ダマセノン20ppb含有)を調製した。
【0095】
対照区にセドロールを100ppbの濃度になるように添加して調製した麺つゆを比較例4(セドロール100ppb含有)、対照区にβ−ダマセノン20ppbおよびセドロール100ppbを添加して調製した麺つゆを実施例10(β−ダマセノン20ppbおよびセドロール100ppb含有)とした。
【0096】
(麺つゆの官能評価)
各サンプルについて、実施例4と同様な方法で官能評価を行なった。
【0097】
結果を表5に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
表5から分かるように、セドロール単独添加区(比較例4)では、節風味は強くなるが、風味としては好ましいものではなかった。一方、β−ダマセノン単独添加区(実施例9)では、節風味の強さが強くなり、同時に風味としては好ましいものになったが、β−ダマセノンおよびセドロール添加区(実施例10)ではさらに節風味が強くなり、風味としても一層好まれるものになった。このことから、セドロールはβ−ダマセノンと相乗的に節風味を向上させることが分かった。
【0100】
実施例11および12(β−ダマセノンおよびセドロール含有煮物調味液)
実施例1と同様に調製した鰹節だし(β−ダマセノン未添加)を用いて表6に示す配合割合で他の成分と混合して、煮物調味液を調製した(対照区)。
【0101】
【表6】

【0102】
対照区の煮物調理液にβ−ダマセノン40ppbを添加し、混合して、β−ダマセノンを40ppb含有する煮物調味液を調製した(実施例11)。同様にβ−ダマセノンを40ppb、セドロール200ppbを添加し、混合して、β−ダマセノン40ppbおよびセドロール200ppbを含有する煮物調味液(実施例12)を調製した。
【0103】
これらの煮物調味液200mLを沸騰させ、沸騰した調味液に凍り豆腐16gを入れ、5分間煮た。
【0104】
調味液を染み込ませた凍り豆腐について、官能評価したところ、実施例11の煮物調味液を用いて煮た凍り豆腐は、対照区の煮物調味液を用いて煮た凍り豆腐よりも、節風味のまろやかさが向上していた。実施例12の煮物調味液を用いて調理した凍り豆腐は、実施例11の煮物調味液を用いて煮た凍り豆腐よりもさらに節風味が向上していた。
【0105】
実施例13および14(β−ダマセノンおよびセドロール含有だし風味調味料)
市販のだし風味調味料(商品名 本だし、味の素株式会社製)4gに、95%エタノール溶液を用いて調製したβ−ダマセノン20ppm溶液を0.03g添加して、よく混合して、β−ダマセノン含有だし風味調味料を調製した(実施例13)。
【0106】
また、市販だしの素4gに、前記のβ−ダマセノン20ppm溶液、および95%エタノール溶液を用いて調製したセドロール100ppm溶液を、各0.03g添加して、よく混合し、β−ダマセノンおよびセドロール含有だし風味調味料を調製した(実施例14)。
【0107】
市販だし風味調味料を4g秤量し、これを596gの沸騰した湯に溶解してだし汁を調製した(対照区)。
【0108】
実施例13のβ−ダマセノン含有だし風味調味料、および実施例14のβ−ダマセノンおよびセドロール含有だし風味調味料をそれぞれ4g秤量し、対照区と同様に596gの沸騰した湯に溶解して、それぞれβ−ダマセノン含有だし汁(β−ダマセノン10ppb含有)、β−ダマセノンおよびセドロール含有だし汁(β−ダマセノン10ppbおよびセドロール50ppb含有)を調製した。
【0109】
調製しただし汁を官能的に評価したところ、対照区と比較して、実施例13のだしの素を用いて調製したβ−ダマセノン含有だし汁は、節風味の強さが増しており節風味もまろやかになっており、対照区よりも好まれた。
【0110】
さらに、実施例14のだし風味調味料を用いて調製したβ−ダマセノンとセドロール含有だし汁は、β−ダマセノン含有だし汁よりも、さらに節風味の強さが向上しており、風味もまろやかで、さらに好まれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
節類抽出物または節類抽出物入り調味料にβ−ダマセノンを添加することを特徴とする、節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法。
【請求項2】
節類抽出物または節類抽出物入り調味料の使用時におけるβ−ダマセノンの濃度が5〜60ppbになるようにβ−ダマセノンを添加することを特徴とする、請求項1に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法。
【請求項3】
さらに、セドロールを添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法。
【請求項4】
節類抽出物がだしであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法。
【請求項5】
節類抽出物入り調味料が、麺つゆ、煮物調味料、またはだし風味調味料であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の節類抽出物または節類抽出物入り調味料の風味向上方法。
【請求項6】
β−ダマセノンを含有することを特徴とする、節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤。
【請求項7】
さらに、セドロールを含有することを特徴とする、請求項6に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤。
【請求項8】
節類抽出物がだしであることを特徴とする、請求項6または7に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤。
【請求項9】
節類抽出物入り調味料が、麺つゆ、煮物調味料、またはだし風味調味料であることを特徴とする、請求項6または7に記載の節類抽出物用または節類抽出物入り調味料用節風味向上剤。