説明

簡易耐震診断処理方法及び装置

【課題】
簡易耐震診断において、算出される指標について確度に関する情報を合わせて利用可能とする。
【解決手段】
本方法は、評価階以上の床面積と壁長とから第1のパラメータを算出する工程と、整形性に関する指標値と辺長比に関する指標値と地下室に関する指標値と平面剛性に関する指標値とから形状指標値を特定する工程と、第1のパラメータと、予め定められた少なくとも上限値関数と下限値関数とから、第2のパラメータの上限値及び下限値を算出する工程と、経年に関する指標値と形状指標値及び第2のパラメータの上限値及び下限値とから、構造耐震指標の上限値及び下限値を算出する工程とを含む。利用者は構造耐震指標が取りうる範囲、すなわち確度についてのデータが利用可能となり、1つの数値しか示されない場合に比して耐震診断結果をより客観的に判断することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な耐震診断を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建物に対する様々な耐震診断方法が存在していた。例えば、特開2004−162399号公報には、特別な専門性がなくても短時間に耐震診断を行うための技術が開示されている。具体的には、地盤、基礎、建物主構造、建物2次部材、工作物の5つの評価要素の診断項目に分類すると共に、5つの評価要素のそれぞれをさらに中項目の診断細項目に分類して、各診断項目及び診断細項目に重み係数を設定し、入力処理部より各診断細項目のそれぞれに採点を入力することにより、診断処理部、総合診断処理部により各重み係数にしたがって各診断項目のそれぞれの得点及び総合得点を求めて耐震性の診断を行い診断結果を出力する。このようにすれば、各診断細項目にしたがってそれぞれに採点を入力するだけで、特別な専門性がなくても短時間に耐震診断を行うことができるとされている。
【0003】
また、特開2004−295851号公報には、専門家でなくとも、簡易、迅速に建築物の耐震診断をすることができ、又、増改築後における建築物の耐震診断をも容易にできるようにする技術が開示されている。具体的には、建築物の概略構成及び建築物の補強形態を表示することができるようにした建築構成表示部と、建築物の構成要素である壁面部、扉、窓等の開口部を形態及び寸法を考慮しつつ選択することができるようにした構成要素選択部と、建築構成部材を補強する耐震補強金具等の免震部品を形態及び寸法を考慮しつつ選択することができるようにした免震部品選択部と、からなる建築構成画面をコンピュータ画面上に表示し、前記構成要素選択部から適宜形態及び寸法の壁面部、開口部を選択し、次いで、前記建築構成表示部の適宜位置にその壁面部、開口部を配置して、建築物の概略構成を前記建築構成表示部に表示し、前記免震部品選択部から適宜形態及び寸法の免震部品を選択し、次いで、前記建築構成表示部に表示された壁面部、開口部の適宜位置にその免震部品を配置して、建築物の補強形態を前記建築構成表示部に表示するものである。
【0004】
さらに、特開平10−142112号公報には、既存建築物全体としての耐震性能の評価が曖昧でその評価基準が統一されていない状態において、既存建築物群相互間の耐震性能を相対評価して改修優先順位を客観的に判断するための技術が開示される。具体的には、既存建築物群の個々についてその主要構造体と非構造体と建築設備との各項目に関する耐震性能の数値化されたデータを記憶格納する手段と、各建築物用途等に応じて該各項目の耐震性能の重要度を数値化した重み付けデータを記憶格納する手段と、これらのデータを入力する入力手段と、該重み付けデータと耐震性能データとの数値から各項目毎の評価得点を求めて該評価得点を平均して該既存建築物の耐震性能の総合評価得点とし、該総合評価得点順にソートした既存建築物の改修優先順位を一覧リストデータにして出力する演算表示制御手段12と、該出力データを表示する表示手段14とを備えるものである。
【特許文献1】特開2004−162399号公報
【特許文献2】特開2004−295851号公報
【特許文献3】特開平10−142112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上で述べた従来技術では、建物の耐震診断を可能な限り簡単に実施できるようにしようとする試みがなされているが、簡易な耐震診断の故に生ずる問題について考慮されていない。すなわち、簡易になれば算出される指標の値の確度が落ちることは明らかであるのに、その確度に関する情報を何ら利用者に提示できていない。
【0006】
従って本発明の目的は、利用者の客観的な判断を補助することを可能とする簡易耐震診断技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る簡易耐震診断処理方法は、処理装置により、評価階以上の床面積と壁長とから第1のパラメータを算出し、記憶装置に格納する第1パラメータ算出ステップと、処理装置により、整形性に関する指標値と辺長比に関する指標値と地下室に関する指標値と平面剛性に関する指標値とから形状指標値を特定し、記憶装置に格納する形状指標値特定ステップと、処理装置により、記憶装置に格納された第1のパラメータと、予め定められた少なくとも上限値関数と下限値関数とから、第2のパラメータの上限値及び下限値を算出し、記憶装置に格納するステップと、処理装置により、経年に関する指標値と記憶装置に格納された形状指標値及び第2のパラメータの上限値及び下限値とから、構造耐震指標の上限値及び下限値を算出し、記憶装置に格納する構造耐震指標算出ステップとを含む。
【0008】
このように構造耐震指標については上限値及び下限値という範囲のデータが利用可能となる。このような上限値及び下限値を利用者に提示することにより、利用者は構造耐震指標について可能性のある範囲、すなわち確度についてのデータが利用可能となり、1つの数値しか示されない場合に比して耐震診断結果をより客観的に判断することができるようになる。
【0009】
また、上で述べた第1パラメータ算出ステップにおいて、壁長を床面積で除することにより第1のパラメータを算出するようにしてもよい。
【0010】
さらに、上で述べた形状指標値特定ステップにおいて、整形性に関する指標値と辺長比に関する指標値と地下室に関する指標値と平面剛性に関する指標値とに対応して形状指標値が登録されたテーブルを検索して、形状指標値を特定するようにしてもよい。
【0011】
さらに、上限値関数と下限値関数とが、指数関数である場合もある。なお、上限値関数及び下限値関数は、例えば実例から回帰的に求めた関数である。
【0012】
また、上で述べた構造耐震指標算出ステップにおいて、処理装置により、経年に関する指標値と形状指標値と第2のパラメータの上限値との積を構造耐震指標の上限値として算出し、記憶装置に格納するステップと、処理装置により、経年に関する指標値と形状指標値と第2のパラメータの下限値との積を構造耐震指標の下限値として算出し、記憶装置に格納するステップとを含むようにしてもよい。
【0013】
さらに、処理装置により、構造耐震指標値の上限値及び下限値と予め定められた閾値とを比較し、詳細な耐震診断の必要性の判断を行うステップをさらに含むようにしてもよい。例えば、上限値及び下限値が閾値より上であれば詳細な耐震診断の必要性はないと判断するものである。また、上限値及び下限値の範囲のうち閾値を上回る範囲が所定の割合以上であれば、詳細な耐震診断の必要性はないと判断するようにしても良い。
【0014】
また、上で述べた壁長が、簡易耐震診断対象の建物の第1の方向についての壁長と第2の方向についての壁長とを含む含むようにすることも可能である。これにより、いずれの方向について耐震強化が必要か判断できるようになる。また、平面剛性に関する指標についても第1及び第2の方向それぞれについて値を含む場合もある。
【0015】
さらに、処理装置により、簡易耐震診断対象の建物が建築確認時期に関する条件を満たしており且つ当該建物の構造種別が予め定められた構造を有するか判断する判断ステップをさらに含むようにしてもよい。この場合、判断ステップにおいて簡易耐震診断対象の建物が建築確認時期に関する条件を満たしており且つ当該建物の構造種別が予め定められた構造を有すると判断された場合に、第1パラメータ算出ステップ以降のステップを実行するようにしてもよい。このように、ある程度の耐震強度が確保されている場合には、上で述べた簡易耐震診断処理を省略するものである。
【0016】
本発明に係る方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することも可能であり、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体又は記憶装置に格納される。また、ネットワークを介してディジタル信号にて頒布される場合もある。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建物の簡易耐震診断において、利用者の客観的な判断が促進されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に本発明の一実施の形態に係る簡易耐震診断装置100の機能ブロック図を示す。簡易耐震診断装置100は、診断適格性判断処理部40と、壁長入力部1と、面積入力部3と、経年指標入力部5と、壁長格納部7と、面積格納部9と、経年指標格納部11と、L/S算出部13と、L/S格納部15と、形状指標算出指標入力部17と、形状指標算出指標格納部19と、保有性能基本指標算出部21と、保有性能基本指標格納部23と、形状指標算出部25と、形状指標格納部27と、形状指標算定テーブル29と、構造耐震指標算出部31と、構造耐震指標格納部33と、判断処理部35と、出力部37とを有する。
【0019】
診断適格性判断処理部40は、利用者からの入力を受け付け、本簡易耐震診断を行おうとする建物が診断の対象となるか判断する。なお、診断の対象となると判断された場合には、壁長入力部1、面積入力部3、経年指標入力部5及び形状指標算出指標入力部17に処理を行うように指示し、診断の対象とならないと判断された場合には出力部37にその旨出力させる。
【0020】
壁長入力部1は、利用者から壁長についての入力を受け付け、壁長格納部7に格納する。面積入力部3は、利用者から床面積についての入力を受け付け、面積格納部9に格納する。経年指標入力部5は、経年指標についての入力を受け付け、経年指標格納部11に格納する。L/S算出部13は、壁長格納部7から壁長Lと面積格納部9から床面積Sを読み出し、L/Sを算出し、算出結果をL/S格納部15に格納する。保有性能基本指標算出部21は、L/S格納部15からデータを読み出し、予め設定された関数に従って保有性能基本指標E0を算出し、保有性能基本指標格納部23に格納する。
【0021】
形状指標算出指標入力部17は、利用者から形状指標算出のための指標についての入力を受け付け、形状指標算出指標格納部19に格納する。形状指標算出部25は、形状指標算出指標格納部19に格納されたデータと形状指標算定テーブル29に格納されたデータとを読み出し、形状指標SDを特定し、形状指標格納部27に格納する。
【0022】
構造耐震指標算出部31は、経年指標格納部11と保有性能基本指標格納部23と形状指標格納部27とに格納されたデータを読み出し、構造耐震指標を算出し、構造耐震指標格納部33に格納する。判断処理部35は、構造耐震指標格納部33に格納されたデータを読み出し、予め定められた閾値との比較処理及び詳細な耐震診断の必要性について判断を行う。出力部37は、判断処理部35の出力及び他の格納部に格納されたデータを表示装置やプリンタなどの出力装置に出力する。
【0023】
次に、図2乃至図13を用いて簡易耐震診断装置100の処理について説明する。まず、診断適格性判断処理部40は、診断適格性判断処理を実施する(ステップS1)。この処理については図3を用いて説明する。診断適格性判断処理部40は、利用者に対して建築確認年月日又は竣工年の入力を促し、利用者から建築確認年月日又は竣工年の入力を受け付け、メインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS21)。可能な限り建築確認年月日の入力を求めるものであるが、もし建築確認年月日が不明であれば代わりに竣工年の入力を求める。そして、入力されたデータが建築確認年月日なのか竣工年なのかを確認する(ステップS23)。
【0024】
もし、建築確認年月日が入力されていると判断された場合には、建築確認年月日が特定の年月日(具体的には1981年6月1日)以降であるか確認する(ステップS29)。1981年6月1日には新耐震設計法が施行され、これ以降に建築確認を得たものについては簡易耐震診断を行わなくとも良い程度の耐震強度を有する建物であると判断するものである。従って、建築確認年月日が1981年6月1日以降であると判断された場合には、診断不要を設定する(ステップS27)。そして元の処理に戻る。一方、建築確認年月日が1981年6月1日より前であると判断された場合には、ステップS31に移行する。
【0025】
一方、建築確認年月日ではなく竣工年が入力されたと判断された場合には、竣工年が特定年(具体的には1984年)以降であるか判断する(ステップS25)。建築確認年月日が特定できなければ正確には判断できないが、竣工年が1984年以降であれば建築確認年月日も1981年6月1日以降であると推測されるためである。もし、竣工年が1984年以降であると判断されれば、ステップS27に移行する。一方、竣工年が1984年より前であると判断された場合には、ステップS31に移行する。
【0026】
建築確認年月日が1981年6月1日より前であると判断された場合、又は竣工年が1984年より前であると判断された場合には、構造図の有無について利用者に入力を促し、利用者から構造図の有無について利用者の入力を受け付ける(ステップS31)。そして、「構造図あり」という入力がなされたか判断する(ステップS33)。「構造図あり」という入力がなされたと判断された場合には、構造種別の入力を利用者に促し、構造種別の入力を利用者から受け付け、メインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS35)。そして、構造種別がRC造であるか判断する(ステップS37)。RC造であると判断された場合には、本建物は以下で行われる診断に適格であるため、適格を設定する(ステップS39)。そして元の処理に戻る。
【0027】
一方構造種別がRC造ではない場合にはSRC造であるか判断する(ステップS41)。SRC造であると判断された場合には、利用者に対して鉄骨形式の入力を促し、利用者による鉄骨形式の入力を受け付け、メインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS43)。そして、鉄骨形式が非充腹形であるか判断する(ステップS45)。鉄骨形式が非充腹形であると判断された場合には、ステップS39に移行し、RC造と見なして、本建物が以下で行われる診断に適格であるとして適格を設定する。一方、鉄骨形式が非充腹形以外であると判断された場合には、診断に不適格であるので、不適格を設定する(ステップS47)。
【0028】
ステップS41でSRC造ではなく構造種別が不明である場合には、利用者に対して階数又はスパン長の入力を促し、利用者による階数又はスパン長の入力を受け付け、メインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS49)。そして、階数が7階以上又は最大スパン長9m以上という所定の条件を満たしているか判断する(ステップS51)。階数が7階以上又は最大スパン長9m以上という所定の条件を満たしていると判断された場合には、SRC造と仮定してステップS47に移行する。すなわち、本建物が以下で行われる診断に不適格であると判断する。一方、階数が7階以上又は最大スパン長9m以上という所定の条件を満たしていない場合には、利用者に対して内・外壁の造の入力を促し、利用者の内・外壁の造の入力を受け付け、メインメモリなどの記憶装置に格納する(ステップS53)。そして、利用者に対して主な内・外壁がコンクリート造又は乾式といった所定の造であるか判断する(ステップS55)。もし、内・外壁がコンクリート造又は乾式といった所定の造であると判断された場合には、本建物が以下で行われる診断に適格であるとして適格を設定する。一方、それ以外の造又は確認不能の場合には、本建物が以下で行われる診断に不適格であるとして不適格を設定する。
【0029】
また、ステップS33において構造図がないと判断された場合には、利用者に対して意匠図有無の入力を促し、利用者から意匠図の有無の入力を受け付ける(ステップS57)。そして、意匠図があるか判断する(ステップS59)。もし、意匠図ありと判断されると、ステップS49に移行する。一方、意匠図無しと判断された場合には、判断できないので、端子Cを介してステップS47に移行する。
【0030】
このような処理を行うことにより、診断の前処理が行われる。
【0031】
図2の説明に戻って、診断適格性判断処理部40は、ステップS1で適格が設定されているか判断する(ステップS3)。もし不適格又は診断不要が設定されていると判断された場合には、診断適格性判断処理部40は、出力部37に対して診断不適又は診断不要のメッセージを出力すべく指示を出し、出力部37は診断不適又は診断不要のメッセージを表示装置に表示する(ステップS19)。そして処理を終了する。
【0032】
一方、適格と設定されていると判断された場合には、適格性判断処理部40は、壁長入力部1、面積入力部3、経年指標入力部5、及び形状指標算出指標入力部17に対して処理を開始すべく指示を出力する。
【0033】
そこで、例えば図4のような表示を行って利用者に対して入力及び確認を促す。図4では、診断における各段階が提示されており、段階1では、利用者に対して評価階の設定及び壁長さの測定を行うように促しており、段階2では、利用者に対して壁長さLと評価階以上の床面積Sの入力を促し、L/Sの算出結果を提示し、さらに保有性能基本指標E0の算出結果を提示している。また、段階3では、利用者に対して経年指標Tの入力を促し、段階4では、利用者に対して整形性指標Gi_a、辺長比指標Gi_b、地下室指標Gi_c、平面剛性指標Gi_dの入力を促している。このように、本実施の形態では、計算の途中経過についても利用者に提示するようになっている。
【0034】
まず、利用者は、評価階を設定し、構造図又は意匠図に従って壁長さL及び評価階以上の床面積Sの測定を行う必要がある。評価階については、原則として1階とする。但し、1階が基準階の平面プランと異なり、基準階の方が極端に壁量が少ないと判断される場合には、基準階のうち最下階を評価階とする。また、壁長さについては、図5に示すように、評価階の柱グリッド方向(X,Y)に分けて測定する。図5の例では、X方向については柱間隔3つ分の長さとなり、Y方向については柱間隔5つ分の長さとなる。なお、長さを測定する対象の壁は、原則として鉄筋コンクリート造のものとする。但し、構造図が無く、止むを得ない場合には、主な内・外壁の構造を概略確認した上で、RC造と判断される壁を対象とする。さらに、図6(a)乃至(d)に示すように、両側又は片側が柱に付いている壁の長さのみを測定する。その際図6(e)に示すように、柱の幅を除く壁長さが連続して45cm以上の部分のみを壁長さとして算入するものとする。
【0035】
このようにして利用者は、構造図又は意匠図に従って壁長さL及び評価階以上の床面積Sを測定しておく。
【0036】
そして、壁長入力部1及び面積入力部3は、図4に示すように、利用者に対してXY方向それぞれについて壁長さL及び評価階以上の床面積Sの入力を促し、利用者からの入力を受け付け、壁長さLについては壁長格納部7に、床面積Sについては面積格納部9に格納する(ステップS5)。図4に示すように、表示画面においては、XY方向それぞれについての壁長さL、評価階以上の床面積Sを入力するためのテーブル201を提示し、太線202で囲まれた枠に入力を促す。なお、床面積Sについては便宜上XとYそれぞれに入力するようになっているが、同じ値を入力すればよい。図4の例では、X方向の壁長さLは60mであり、Y方向の壁長さLは80mであり、床面積Sは3000m2である。
【0037】
なお、通常耐震診断では壁長さではなく壁面積を用いることが多いが、構造図がない場合には壁厚さの測定が困難な場合もあるため、ここでは壁長さSを用いている。
【0038】
次に、L/S算出部13は、壁長格納部7と面積格納部9からデータを読み出し、壁長さL/床面積Sを算出し、L/S格納部15に格納する(ステップS6)。本実施の形態では、図4のテーブル201にL/Sの算出結果がX方向及びY方向それぞれについて表示されている。図4の例では、L/Sの値はX方向が0.02であり、Y方向が0.027となる。
【0039】
さらに、保有性能基本指標算出部21は、L/S格納部15に格納されたデータを用いて、保有性能基本指標E0を算出し、保有性能基本指標格納部23に格納する(ステップS7)。本願の発明者は、過去の多数の標準的な事例からL/Sと保有性能基本指標E0の関係は、図7に示すような関係があることを非自明に特定した。すなわち、事例は非常に広い分布を示しているが、基本的には指数関数E0=axb(xは変数でL/Sの値を入力する)という形式で表すことができ、広い分布を有するため上限値及び下限値にて特定しなければ値の信頼性が低くなるということである。従って、本実施の形態では、曲線pで表される上限値関数E0max=amaxbmaxと、曲線rで表される下限値関数E0min=aminbminとを用意しておき、X方向についてのL/SとY方向についてのL/Sとの両方について保有性能基本指標の上限値E0maxと下限値E0minとを算出する。上限値関数及び下限値関数についても回帰計算にて求められる。なお、全体の事例の回帰式として曲線qで表されるE0rec=arecbrecをも用意しておき、この値についても算出するようにしても良い。なお、amax=1.15、amin=0.57、arec=0.57程度である。また図7では、点線矩形にてE0の該当範囲を示している。
【0040】
図4の例では、E0の範囲を表すテーブル203には、上限値、全体の回帰式、下限値のそれぞれについて、X方向のE0と、Y方向のE0が提示されている。
【0041】
なお、立体図から極短柱の存在を判断することは、袖壁、垂壁、腰壁が付いていて容易でないため、極短柱の評価は行わないものとする。
【0042】
図2の説明に戻って、経年指標入力部5は、利用者に対して経年指標Tの入力を促し、利用者から経年指標Tの入力を受け付け、経年指標格納部11に格納する(ステップS8)。図4の例では、経年指標Tの算定基準テーブル204が利用者に提示されるようになっており、利用者は建築年数から経年指標Tの値を特定し、入力欄205に特定した経年指標Tの値を入力する。なお、算定基準テーブル204は、財団法人日本建築防災協会「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準 同解説」における第1次診断法に用いる経年指標Tの算定表のうち建築年数の部分に相当する。
【0043】
次に、形状指標算出指標入力部17は、利用者に対して整形性指標Gi_a、辺長比指標Gi_b、地下室指標Gi_c及び平面剛性指標Gi_dの入力を促し、利用者からの入力を受け付け、これらの指標値を形状指標算出指標入力部19に格納する(ステップS9)。
【0044】
整形性指標Gi_aについては、建物の平面形状により判定される。例えば図8(a)に示すような矩形又はほぼ矩形であれば1.0とし、図8(b)に示すような矩形以外のL字形、T字形、U字形などであれば0.8とする。また、辺長比指標Gi_bについては、建物の平面形状の細長さ(辺長比)により判定される。例えば図9(a)に示すような長辺長さ40で短辺長さ10の場合、長辺/短辺=4が辺長比となる。一方、図9(b)に示すような長辺長さ63で短辺長さ7の場合には、長辺/短辺=9が辺長比となる。本実施の形態では、辺長比指標Gi_bは、辺長比が8を超える場合には0.8となり、辺長比が8以下であれば1.0となる。すなわち図9(a)の場合にはGi_b=1.0となり、図9(b)の場合にはGi_c=0.8となる。
【0045】
地下室指標Gi_cについては、建物の地下室の有無により判定する。本実施の形態では、地下室ありの場合には1.0とし、地下室なしの場合には0.8とする。平面剛性指標Gi_dについては、両側又は片側柱付き壁の平面的な配置の偏りにより、X及びY方向について判定する。例えば図10(a)のように偏っていない場合にはGi_d=1.0となり、図10(b)のようにやや偏っている場合にはGi_d=0.9となり、図10(c)のように偏っている場合にはGi_d=0.8となる。
【0046】
図4の例であれば、整形性指標Gi_aの算定基準テーブル206が利用者に提示されるようになっており、利用者は平面図などから整形性指標Gi_aの値を特定し、入力欄207に入力する。また、辺長比指標Gi_bの算定基準テーブル208が利用者に提示されるようになっており、利用者は平面図などから辺長比指数Gi_bの値を特定し、入力欄209に入力する。また、地下室指標Gi_cの算定基準テーブル210が利用者に提示されるようになっており、利用者は地下室の有無から地下室指標Gi_cの値を特定し、入力欄211に入力する。さらに、平面剛性指標Gi_dの算定基準テーブル212が利用者に提示されるようになっており、利用者は平面図などから平面剛性指標Gi_dの値をX方向及びY方向について特定し、入力欄213に入力する。
【0047】
図2の処理の説明に戻って、形状指標算出部25は、形状指標算出指標格納部19に格納されたデータ(Gi_a、Gi_b、Gi_c、Gi_d)と形状指標算定テーブル29とを用いて、形状指標SDを特定し、形状指標格納部27に格納する(ステップS11)。形状指標算定テーブル29は、例えば図11に示すようなテーブルである。図11の例では、整形性指標の列と、辺長比指標の列と、地下室指標の列と、平面剛性指標の列と、対応する形状指標SDの列とを含む。このテーブルから、整形性指標と辺長比指標と地下室指標と平面剛性指標とから特定される行の形状指標SDの値が特定される。
【0048】
なお、本実施の形態における形状指標SDは、財団法人日本建築防災協会「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準 同解説」における第2次診断法に用いている形状指標SDの算定項目のうち、「整形性」「辺長比」「地下室の有無」「平面剛性」についてをほぼ行うものである。なお、第2次診断法において規定されている、くびれ、エキスパンジョンジョイント、吹き抜け、層高の均等性、ピロティの有無、上下層の(剛/重)比については考慮していない。
【0049】
図4の続きとして出力部37は図12のような表示を途中計算結果として提示する。すなわち、段階5では、形状指標SDの算出結果、段階6では、構造耐震指標Isの算出結果及びL/SとIsとの関係を表すグラフを提示している。
【0050】
図12において形状指標SDの算定テーブル220には、入力されたGi_a、Gi_b、Gi_c、及びGi_dの値と、それらから特定される形状指標SDの値が示されている。なお、Gi_dについてはX方向及びY方向で値が異なるので、Gi_a、Gi_b、Gi_cについてはX方向及びY方向で値が同じとして形状指標SDについてX方向及びY方向の値を算出している。
【0051】
図2の処理の説明に戻って、構造耐震指標算出部31は、経年指標格納部11と保有性能基本指標格納部23と形状指標格納部27とに格納されたデータを読み出し、構造耐震指標を算出し、構造耐震指標格納部33に格納する(ステップS13)。上記の第2次診断法に準じて算出される。
【0052】
なお、E0については最低限上限値及び下限値が算出されており、併せてX方向Y方向があるので、少なくとも4つの構造耐震指標の値が算出される。
【0053】
図12の例では、段階6において利用者に提示される構造耐震指標の算定テーブル230において、構造耐震指標Isの算出過程が示されている。すなわち、L/Sと、E0の分類、E0、SD、T、そしてIsが提示されている。上でも述べたがIsはX方向及びY方向が別々に算出され、図12の例ではE0について上限値及び下限値だけではなく回帰式の値についても提示し、対応する構造耐震指標についても算出して提示している。
【0054】
また、ここまで処理されると、出力部37は、図12の段階6の下段に示されたグラフを提示することができる。グラフ240において縦軸はIsを表し、横軸はL/Sを表す。菱形のプロットは既存データを示しており、Is=0.6の直線は構造耐震指標の閾値(判定値)を表している。また、L/S=0.02における太線240aはX方向のIs値の範囲(上限値から下限値)を表しており、太点線240bはY方向のIs値の範囲(上限値から下限値)を表している。
【0055】
そして、判断処理部35は、構造耐震指標格納部33に格納された構造耐震指標Isの値を用いて、詳細な耐震診断が必要か否かを判断する(ステップS15)。本実施の形態では、現行の建築基準法で設計された建物と比べて耐震性能が低い可能性が高く、大地震時に地震の振動や衝撃に対して、建物が倒壊あるいは崩壊する可能性があるかを、上で述べたIs値の閾値で判定する。例えば、X方向とY方向とのいずれかが、その上限値及び下限値の両方が上で述べたIs値の閾値未満である場合には、詳細な耐震診断が必要と判断する。また、例えばX方向とY方向とのいずれかが、その上限値及び下限値で特定される範囲の内閾値未満である範囲が所定の割合以上となっている場合に、詳細な耐震診断が必要と判断するようにしても良い。
【0056】
その後、出力部37は、判断処理部35からの指示に応じて、これまでの処理に基づき診断結果報告書を出力する(ステップS17)。例えば図13のような診断結果報告書を出力する。図13の例では、構造耐震指標Isの算式の解説と、ステップS13で算出されたX方向の構造耐震指標Isの値の範囲及びY方向の構造耐震指標Isの値の範囲と、L/SとIsの関係を表すグラフ(図12と同じ)と、総合評価とを含む報告書例が示されている。構造評価については、例えば判定処理部35における判定に基づき、予め登録されている雛形の文章を出力するようになっている。利用者が入力して文章を完成させるようにしても良い。
【0057】
このような報告書や図4及び図12のような出力を行うことにより、利用者及び利用者の顧客は、検討対象の建物について詳細な耐震診断が必要か否かについて初期的な判断を行うことができるようになる。また、利用者についてもほとんど専門的な知識が無くとも、ガイダンスに従って入力を行うことにより、簡易耐震診断ができるようになる。また、最終的な判断の基礎となる構造耐震指標Isの値は、上限値及び下限値という範囲で特定されるため、利用者及び利用者の顧客は、1つの値しか提示されない場合に比して、どの程度構造耐震指標Isが変動する可能性があるのかを把握することができ、当該構造耐震指標Isの確度についての目安を得ることができるようになる。従って、詳細な耐震診断を行うべきかについて、より客観的な判断を行いやすくなる。
【0058】
以上本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば図1に示した機能ブロック図は一例であって、必ずしも各ブロックがプログラムモジュールに対応するものではない。また、図4及び図12についても一表示例であって、例えば計算結果を提示しないようにして、最後に算出された構造耐震指標Isのみを提示するようにしても良い。
【0059】
また、簡易耐震診断装置100はコンピュータ装置であって、図14に示すように当該コンピュータ装置においては、メモリ2501(記憶部)とCPU2503(処理部)とハードディスク・ドライブ(HDD)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。オペレーティング・システム(OS)及びWebブラウザを含むアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。必要に応じてCPU2503は、表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、必要な動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、メモリ2501に格納され、必要があればHDD2505に格納される。このようなコンピュータは、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及び必要なアプリケーション・プログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施の形態に係る簡易耐震診断装置の機能ブロック図である。
【図2】簡易耐震診断装置による処理のフローを示す図である。
【図3】診断適格性判断処理の処理フローを示す図である。
【図4】第1の表示画面例を示す図である。
【図5】壁長さの測定を説明するための図である。
【図6】(a)乃至(e)は、壁長さの測定を説明するための図である。
【図7】L/Sと保有性能基本指標E0の関係を表すグラフである。
【図8】(a)及び(b)は、整形性指標を特定するための例を示す図である。
【図9】(a)及び(b)は、辺長比指標を特定するための例を示す図である。
【図10】(a)乃至(c)は、平面剛性指標を特定するための例を示す図である。
【図11】形状指標算定テーブルの一例を示す図である。
【図12】第2の表示画面例を示す図である。
【図13】耐震診断結果報告書の一例を示す図である。
【図14】コンピュータの機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 壁長入力部 3 面積入力部 5 経年指標入力部
7 壁長格納部 9 面積格納部 11 経年指標格納部
13 L/S算出部 15 L/S格納部
17 形状指標算出指標入力部 19 形状指標算出指標格納部
21 保有性能基本指標算出部 23 保有性能基本指標格納部
25 形状指標算出部 27 形状指標格納部
29 形状指標算定テーブル 31 構造耐震指標算出部
33 構造耐震指標格納部 35 判断処理部
37 出力部 40 診断適格性判断処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理装置と記憶装置とを有するコンピュータにより実行される簡易耐震診断処理方法であって、
前記処理装置により、評価階以上の床面積と壁長とから第1のパラメータを算出し、前記記憶装置に格納する第1パラメータ算出ステップと、
前記処理装置により、整形性に関する指標値と辺長比に関する指標値と地下室に関する指標値と平面剛性に関する指標値とから形状指標値を特定し、前記記憶装置に格納する形状指標値特定ステップと、
前記処理装置により、前記記憶装置に格納された前記第1のパラメータと、予め定められた少なくとも上限値関数と下限値関数とから、第2のパラメータの上限値及び下限値を算出し、前記記憶装置に格納するステップと、
前記処理装置により、経年に関する指標値と前記記憶装置に格納された前記形状指標値及び前記第2のパラメータの上限値及び下限値とから、構造耐震指標の上限値及び下限値を算出し、前記記憶装置に格納する構造耐震指標算出ステップと、
を含む簡易耐震診断処理方法。
【請求項2】
前記第1パラメータ算出ステップにおいて、
前記壁長を前記床面積で除することにより前記第1のパラメータを算出する
ことを特徴とする請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項3】
前記形状指標値特定ステップにおいて、
前記整形性に関する指標値と前記辺長比に関する指標値と前記地下室に関する指標値と前記平面剛性に関する指標値とに対応して前記形状指標値が登録されたテーブルを検索して、前記形状指標値を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項4】
前記上限値関数と前記下限値関数とが、指数関数であることを特徴とする請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項5】
前記構造耐震指標算出ステップにおいて、
前記処理装置により、前記経年に関する指標値と前記形状指標値と前記第2のパラメータの上限値との積を前記構造耐震指標の上限値として算出し、前記記憶装置に格納するステップと、
前記処理装置により、前記経年に関する指標値と前記形状指標値と前記第2のパラメータの下限値との積を前記構造耐震指標の下限値として算出し、前記記憶装置に格納するステップと、
を含む請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項6】
前記処理装置により、前記構造耐震指標値の上限値及び下限値と予め定められた閾値とを比較し、詳細な耐震診断の必要性の判断を行うステップ
をさらに含む請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項7】
前記壁長が、簡易耐震診断対象の建物の第1の方向についての壁長と第2の方向についての壁長とを含む請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項8】
前記処理装置により、簡易耐震診断対象の建物が建築確認時期に関する条件を満たしており且つ当該建物の構造種別が予め定められた構造を有するか判断する判断ステップ
をさらに含み、
前記判断ステップにおいて前記簡易耐震診断対象の建物が建築確認時期に関する条件を満たしており且つ当該建物の構造種別が予め定められた構造を有すると判断された場合に、前記第1パラメータ算出ステップ以降のステップを実行する
請求項1記載の簡易耐震診断処理方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つ記載の簡易耐震診断処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
評価階以上の床面積と壁長とから第1のパラメータを算出し、記憶装置に格納する手段と、
整形性に関する指標値と辺長比に関する指標値と地下室に関する指標値と平面剛性に関する指標値とから形状指標値を特定し、前記記憶装置に格納する手段と、
前記記憶装置に格納された前記第1のパラメータと、予め定められた少なくとも上限値関数と下限値関数とから、第2のパラメータの上限値及び下限値を算出し、前記記憶装置に格納する手段と、
経年に関する指標値と前記記憶装置に格納された前記形状指標値及び前記第2のパラメータの上限値及び下限値とから、構造耐震指標の上限値及び下限値を算出し、前記記憶装置に格納する手段と、
を有する簡易耐震診断処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−275854(P2006−275854A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97111(P2005−97111)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】