説明

簡略行基葺き構造

【課題】従来のきき丈を長くする構成は、丸瓦の使用態様が、従来の構造と略同様であり、丸瓦の釘打ちを採用しないので、耐震性、耐久性等の面での課題、又は丸瓦は、面戸を有さず耐震性、耐風雨性等の面で課題がある。また平瓦と丸瓦の係止関係に配慮がされていなかったので、耐震性、耐風雨性等の面で課題がある。
【解決手段】本考案は、行基葺き平瓦の裏面に縦棧係止部を、表面に側面水返し及び水返し係止部を形成し、平瓦及び他の平瓦等の縦棧係止部を屋根地の縦棧に係止して葺設する。葺設時に平瓦の水返し係止部に他の平瓦の側面水返しを係止する。行基葺き丸瓦に切欠部と、その裏面に凹部を形成し、葺設時に丸瓦の切欠部に平瓦の頭小口を当接し、かつ丸瓦の凹部に他の丸瓦の水返しを係止する構成である。平瓦の重なり部が浅くなり、平瓦等の枚数及び屋根重量の減少が図れる。この減少で屋根の耐震性、耐久性の向上、又は丸瓦に面戸を設けたので耐風雨性の向上等を図れる。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、本瓦葺きの一種である簡略行基葺き構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の本瓦葺き(行基葺きを含める。)は、一枚の平瓦の上に、二枚の平瓦が順次重ね葺きされる構成となっており、きき丈は平瓦の全長の略1/3程度となっている。従って、平瓦の重なり部分が長くなることと、屋根の重量が増すとの弊害があった。このような施工方法における枚数及び重量の増加は、近時耐震性、耐久性等の面から色々と議論されている。さらに丸瓦の番線等による結縛方法も、当該番線の経時的な疲労による崩壊が、近時耐震性、耐風雨性等の面から色々と議論されている。この論議されている問題点の改良として、下記に示す文献(1)〜(3)が挙げられる。
【0003】
(1)特開平10-37389号の本葺型の平瓦であり、その内容は、曲面状の瓦本体と、この瓦本体の流れ方向の両側端に突設した膨出支持縁部と、この膨出支持縁部に連設する重合縁部とで構成されており、当該重合縁部に他の平瓦の膨出支持縁部が当接係止されるとともに、前記瓦本体の曲面状を利用して重ね合せ葺設された平瓦間に空所を設ける構成であり、前記空所からの空気の流れを利用して水の侵入防止と、前記当接係止で簡易な葺設及び位置決めを図ることにある。
【0004】
(2)特開平10-8639号の本瓦葺き用丸瓦及びこの丸瓦を使用した本瓦葺き工法であり、その要旨は、横棧木上に縦棧木を設け、この縦棧木間に平瓦を葺設するとともに、当該縦棧木に取付棒を固定し、この取付棒に丸瓦の嵌合溝を嵌め込み固定する構成であり、乾式本瓦葺きであって、耐震、耐風等に優れ、かつ屋根の軽量化及び葺設の容易・簡便化を図ることを目的とする。
【0005】
(3)特開平10-18513号の寺社等の本瓦棒屋根とその施工法であり、その内容は金属板製の平板瓦と丸板瓦とを主体としており、当該平板瓦を溝板瓦上に施工するとともに、当該平板瓦の両側端に楔形状の側面部を形成し、かつ当該平板瓦間と縦方向の瓦棒に丸板瓦を被包する構成であり、耐震効果を図ること、簡易な施工と屋根重量の軽減化を図ること、等を目的とする。
【0006】
【考案が解決しようとする課題】
前記(1)は、従来の重なり部分が長い課題は略解消されている。しかし、この発明は、丸瓦の使用態様が、従来の構造と略同様であり、次のような課題がある。即ち、丸瓦の釘打ちを採用しないので、耐震性、耐久性等の面での課題、又は丸瓦は、面戸を有さず耐震性、耐風雨性等の面での課題である。
【0007】
前記(2)は、従来の丸瓦の耐震性の課題は略解消されている。しかし、この発明は、平瓦の使用態様が、従来の構造と略同様であり、次のような課題がある。
即ち、平瓦の重なり部分が長くなることと、屋根の重量が大きく躯体の負担が増し、耐震性、耐久性等の面での課題、又は丸瓦は、面戸を有さず耐風雨性等の面での課題である。
【0008】
前記(3)は、平板瓦に立上り側面部を形成した点は、本考案の面戸と類似するが、他の構成と、瓦の素材が全く異なる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の考案は、平瓦の重なり部が浅くなり、平瓦等の枚数及び屋根重量の減少、及び耐震性、耐久性の向上が図れ、平瓦相互間、丸瓦相互間の係止・嵌り合せで葺設施工の容易化と簡略化が図れること、又は丸瓦に面戸を設けて耐風雨性の向上等を図る。
【0010】
請求項1は、行基葺き平瓦の裏面に屋根地の縦棧に係止される縦棧係止部を形成し、また当該平瓦の表面に側面水返し及び水返し係止部を形成し、当該平瓦及び同構成の他の平瓦等の縦棧係止部を前記縦棧に係止して順次葺設するとともに、この葺設時に前記平瓦の水返し係止部に前記他の平瓦の側面水返しを係止する平瓦及び他の平瓦等による行基葺きと、 行基葺き丸瓦の尻側に切欠部を形成し、また当該丸瓦の裏面の頭側に凹部を形成し、当該丸瓦を前記平瓦及び他の平瓦に順次葺設するときに、前記丸瓦の切欠部に前記平瓦の頭小口を当接するとともに、この丸瓦の凹部に他の丸瓦の水返しを係止する丸瓦及び他の丸瓦等による行基葺きと、 で構成される簡略行基葺き構造である。
【0011】
請求項2の考案は、丸瓦の釘打ちを介して耐震性の向上を図る。
【0012】
請求項2は、丸瓦及び他の丸瓦等の頂面上から縦棧に釘打ちする構成の簡略行基葺き構造である。
【0013】
請求項3の考案は、平瓦表面の尻側に設けた水返しと裏面頭側端に設けた水返しを介して耐風雨性、耐震性の向上を図る。
【0014】
請求項3は、平瓦及び他の平瓦等の表面の尻側であって、その尻側の中央部と、この中央部を挾む両側にそれぞれ水返しを設ける構成の簡略行基葺き構造である。
【0015】
請求項4の考案は、平瓦と丸瓦の接合を利用して葺設の容易化、又は接合隙間を無くし、丸瓦等の捲れ又は風雨の侵入防止を図る。
【0016】
請求項4は、丸瓦の流れ方向の両側に面戸を設ける構成とした簡略行基葺き構造である。
【0017】
請求項5の考案は、丸瓦の葺設の容易化、丸瓦のきき丈の均一化、又は風雨の侵入防止を図る。
【0018】
請求項5は、丸瓦の裏面頭側の凹部係止部に他の丸瓦表面の水返しの尻端を係止する構成の簡略行基葺き構造である。
【0019】
【考案の実施の形態】
平瓦の引掛けを、屋根地に設けた横棧に係止するとともに、この平瓦の縦棧係止部を屋根地に設けた縦棧に係止する。このような平瓦の縦横棧への係止を介して、当該平瓦は屋根地に確実かつ整然と葺設されていく。この葺設された平瓦は、釘止めされる(以下同じ)。この平瓦には、上段の平瓦が重ね葺きされるが、その際、平瓦の(尻側方向の)側面水返し内に他の平瓦の頭側が挿入されるとともに、この平瓦の水返し係止部に他の平瓦の(頭側方向の)側面水返しが係止する。この重ね合せの寸法は、全長の略1/3程度であり、かつこの重ね合せは、確実かつ強固になる。従って、風雨の侵入防止に有益であり、かつ耐震・耐風等の災害に強い屋根を構築できる。更に平瓦の葺設が整然かつ美麗に行えること、又は葺土・水糸等を必要としないこと、等の特徴がある。
【0020】
このようにして、二列に葺設された平瓦の上には、丸瓦が葺設される。この丸瓦の尻側を、平瓦の尻側に重ね合わせるように葺設すると、この丸瓦の両面戸が平瓦の両側面水返しに被さり、かつ瓦本体の流れ方向の端部(衿部)に当接される。従って、この丸瓦は、重ね葺きされた二枚の平瓦に被さり(跨り)設けられるとともに、当該丸瓦の尻側に設けた切欠部は、他の平瓦の頭小口に当接される。この葺設された丸瓦は釘を介して縦棧に固定される(以下同じ)。従って、丸瓦の強固な固定と葺設が図れる。尚、この丸瓦には、他の丸瓦が重ね葺きされるが、この丸瓦の表面尻側に設けた水返しの尻側には、他の丸瓦の裏面の頭側に設けた凹部の尻側面が外嵌係止される。従って、この丸瓦は、尻側の切欠部が平瓦の頭小口との衝止で、また表面尻側の水返しの尻端と他の丸瓦の裏面頭側の凹部係止部との衝止でそれぞれ規制される構成であり、ス゛レ防止に役立つ特徴がある。この丸瓦は、縦棧に打ち付け固止されることから、葺土・水糸が不要となり、丸瓦の葺設(施工)の容易化、丸瓦の耐震・耐風雨性の向上(地震、台風等の災害に強い屋根の構築)が図れる。更に丸瓦は蛇行がなく整然とかつ美麗に葺設される特徴がある。
【0021】
【実施例】
以下、本考案の一実施例を説明する。
【0022】
行基葺き構造は、平瓦Aと丸瓦Bで構成されている。尚、この平瓦Aと丸瓦Bに設けられている構成部品と、同じ構成部品を備えた他の平瓦A'と他の丸瓦B'等については同じ符号及び名称を使用する。
【0023】
平瓦Aは、頭側Aから尻側Aに向かって幅が狭まるテーハ゜ー形状となる瓦本体1と、この瓦本体1の裏面A-2の尻側Aに設けた屋根地Rに固定された横棧R-1に係止される引掛け11及び横棧R-1に固定された縦棧R-2に係止される縦棧係止部12と、またこの瓦本体1の表面A-1の流れ方向A-3に設けられた側面水返し13及び水返し係止部14とを主構成要素とする。尚、平瓦Aは、この平瓦Aの裏面A-2の頭側Aに設けた重なり凹面22と水切20を有する。この平瓦Aの瓦本体1の尻側Aには、他の平瓦A'の瓦本体1の頭側Aから全長の略1/3程度が重ね葺きされるとともに、重なり凹面22と水切20が他の平瓦A'の表面A-1の尻側Aの重ね合せ部A-4に嵌り被される。この重ね葺きにより、この平瓦Aの水返し係止部14に他の平瓦A'の(頭側A方向の)側面水返し13が係止される。この全長の略1/3程度の重ね合せ葺設は、この平瓦Aと他の平瓦A'の重ね合せを確実かつ強固にする。また平瓦A及び他の平瓦A'等に設けた釘孔15には釘2が打ち込まれる。この釘2は縦棧R-2に到る。図中16は瓦本体1の表面A-1の重ね合せ部A-4に設けた略山形状の水返し、17は瓦本体1の表面A-1の重ね合せ部A-4の両隅に設けた略弓形状の水返し、をそれぞれ示しており、この重ね合せ部A-4より侵入する風雨を防止する。図中18は面取り部、19は水返しをそれぞれ示す。
【0024】
丸瓦Bは頭側Bから尻側Bに向かって幅が狭まるテーハ゜ー形状となる瓦本体21と、瓦本体21の流れ方向B-3の両側に設けた面戸211、尻側Bに設けた水返し214と、この瓦本体21の裏面B-2の両翼の尻側Bに設けた切欠部212と、またこの瓦本体21の裏面B-2の頭側Bに設けた凹部213とを主構成要素とする。丸瓦Bの尻側Bを、平瓦Aの尻側Aに略重ね合わせるように葺設し、この丸瓦Bの両面戸211、211が平瓦Aと隣合う他の平瓦A"の相対する側面水返し13、13に被さり平瓦Aの瓦本体1の流れ方向A-3の衿部23に当接される。またこの丸瓦Bの瓦本体21の尻側Bには、他の丸瓦B'の瓦本体21の頭側Bの凹部213が嵌り合うように重ね葺きされるとともに、この重ね葺きにより丸瓦Bの凹部係止部213aに他の丸瓦B'の表面B-1に設けた水返し214(丸瓦Bも同じ)の尻端214aが係止される。またこの丸瓦Bの切欠部212は平瓦Aの頭小口A1に当接する。この水返し214、214の当接及び凹部213の係止又は前記両頭小口A1の当接により、丸瓦B、他の丸瓦B'及び/又は平瓦Aの葺設・係止関係の強化及び風雨の侵入防止等に役立つ。図中215は丸瓦Bの頭側Bに設けた面取り部で、216は釘217用の釘孔をそれぞれ示す。
【0025】
【考案の効果】
請求項1の考案は、行基葺き平瓦の裏面に縦棧係止部を形成し、またその表面に側面水返し及び水返し係止部を形成し、当該平瓦及び他の平瓦等の縦棧係止部を屋根地の縦棧に係止して順次葺設するとともに、重なり凹面と水切りが重ね合せ部に重なり、この葺設時に平瓦の水返し係止部に他の平瓦の側面水返しを係止する。行基葺き丸瓦の裏面に切欠部を形成し、またその裏面に凹部を形成し、当該丸瓦を平瓦及び他の丸瓦に順次葺設するときに、丸瓦の切欠部に平瓦の頭小口を当接するとともに、この丸瓦の凹部に他の丸瓦の水返しを係止する構成である。従って、平瓦の重なり部が浅くなり、平瓦等の枚数及び屋根重量の減少が図れ、かつこの減少により屋根の耐震性、耐久性の向上、又は丸瓦に面戸を設けたので耐風雨性の向上等が図れる。
【0026】
請求項2の考案は、丸瓦及び他の丸瓦等の頂面上から縦棧に釘打ちする構成である。従って、丸瓦の釘打ちを介して耐震性の向上が図れる。
【0027】
請求項3の考案は、平瓦及び他の平瓦等の表面の尻側であって、その尻側の中央部と、この中央部を挾む両側にそれぞれ水返しを設ける構成である。従って、平瓦の尻側に設けた水返しを介して耐風雨性、耐震性の向上が図れる。
【0028】
請求項4の考案は、丸瓦の流れ方向の両側に面戸を設ける構成である。従って、平瓦と丸瓦の接合を利用して葺設の容易化が図れること、又は接合隙間を無くし、丸瓦等の捲れ又は風雨の侵入防止が図れる。
【0029】
請求項5の考案は、丸瓦の凹部係止部に他の丸瓦の水返しの尻端を係止する構成である。従って、丸瓦の葺設の容易化、丸瓦のきき丈の均一化、又は風雨の侵入防止が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の平瓦の一例を説明する平面図である。
【図2】本考案の平瓦の一例を説明する裏面図である。
【図3】図1の正面図である。
【図4】図1の側面図である。
【図5】図1の使用状態を示す要部の模式図である。
【図6】本考案の丸瓦の一例を説明する平面図である。
【図7】本考案の丸瓦の一例を説明する裏面図である。
【図8】図6の正面図である。
【図9】図6の背面図である。
【図10】図6の使用状態を示す要部の模式図である。
【図11】本考案の使用状態を示す頭側より見た要部の縮尺模式図である。
【図12】本考案の使用状態を示す棟部の縮尺模式図である。
【符号の説明】
1 瓦本体
2 釘
11 引掛け
12 縦棧係止部
13 側面水返し
14 水返し係止部
15 釘孔
1617 水返し
18 面取り部
19 水返し
20 水切
21 瓦本体
22 重なり凹面
23 衿部
211 面戸
212 切欠部
213 凹部
213a 凹部係止部
214 水返し
214a 尻端
215 面取り部
216 釘孔
217 釘
A 平瓦
A' 他の平瓦
A" 隣合う平瓦
A 頭側
A1 頭小口
A 尻側
B 丸瓦
B' 他の丸瓦
B 頭側
B 尻側
A-1 表面
A-2 裏面
A-3 流れ方向
A-4 重ね合せ部
B-1 表面
B-2 裏面
B-3 流れ方向
R 屋根地
R-1 横棧
R-2 縦棧

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 行基葺き平瓦の裏面に屋根地の縦棧に係止される縦棧係止部を形成し、また当該平瓦の表面に側面水返し及び水返し係止部を形成し、当該平瓦及び同構成の他の平瓦等の縦棧係止部を前記縦棧に係止して順次葺設するとともに、この葺設時に前記平瓦の水返し係止部に前記他の平瓦の側面水返しを係止する平瓦及び他の平瓦等による行基葺きと、行基葺き丸瓦の尻側に切欠部を形成し、また当該丸瓦の裏面の頭側に凹部を形成し、当該丸瓦を前記平瓦及び他の平瓦に順次葺設するときに、前記丸瓦の切欠部に前記平瓦の頭小口を当接するとともに、この丸瓦の凹部に他の丸瓦の水返しを係止する丸瓦及び他の丸瓦等による行基葺きと、で構成される簡略行基葺き構造。
【請求項2】 上記の丸瓦及び他の丸瓦等の頂面上から縦棧に釘打ちする構成の請求項1に記載の簡略行基葺き構造。
【請求項3】 上記の平瓦及び他の平瓦等の表面の尻側であって、その尻側の中央部と、この中央部を挾む両側にそれぞれ水返しを設ける構成の請求項1に記載の簡略行基葺き構造。
【請求項4】 上記の丸瓦の流れ方向の両側に面戸を設ける構成とした請求項1に記載の簡略行基葺き構造。
【請求項5】 上記の丸瓦の裏面頭側の凹部係止部に他の丸瓦表面の水返しの尻端を係止する構成とした請求項1に記載の簡略行基葺き構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【登録番号】第3060044号
【登録日】平成11年(1999)4月7日
【発行日】平成11年(1999)7月21日
【考案の名称】簡略行基葺き構造
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平10−10192
【出願日】平成10年(1998)12月22日
【出願人】(598174521)有限会社 石保 (3)