説明

米飯用ほぐし剤

【課題】 本発明は、炊飯時に添加することにより、ほぐれが良く、食感および風味も良
好な米飯を炊飯することができる米飯用ほぐし剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 DE値が15%以下で、かつ5〜7重量%溶液の粘度が20℃で500Pas以下
であるLMペクチンを有効成分として含有することを特徴とする米飯用ほぐし剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯用ほぐし剤に関し、詳しくはDE値が15%以下で、かつ5〜7重量%溶液
の粘度が20℃で500Pas以下であるLMペクチンを有効成分として含む米飯用ほぐし剤に関
する。
【背景技術】
【0002】
従来の米飯用ほぐし剤としては、例えば、油脂に乳化剤を配合する方法が提案されてい
る。しかし、これらの組成物は、油脂が米飯中に均一に分散し難く、米飯のほぐれ改善効
果が十分に発揮されない。分散性を向上させるために、水中油型に乳化してなる乳化油脂
組成物(特許文献1)が提案されている。この組成物は、乳化物であることから炊飯時の水
の対流とともに分散するが、それでもほぐれの効果が十分には改善されていない。さらに、
油脂に乳化剤を配合する方法においてモノエステル純度が50%以上のジグリセリン脂肪
酸エステルを配合する方法が提案されている。この組成物は、油脂の分散は良好で、ほぐ
れ効果もある程度改善されているが、米飯がべたつく傾向があり、風味も悪くなるという
問題点がある(特許文献2)。
【0003】
一方、炊飯時において水溶性多糖類を含む組成物を添加する方法も数多く提案されてお
り、例えばペクチンを含む組成物を添加する方法が提案されている(特許文献3、4)。し
かし、これらの組成物は、水溶性であることから分散は容易であるが、ほぐれ効果は十分
に発揮されない。その他、水溶性のヘミセルロースからなる穀類加工用のほぐれ改良剤も
提案されている(特許文献5)。この組成物は、上記の方法と比べるとほぐれ効果は改善さ
れているが、米飯が堅くなる傾向があり、風味も悪くなるという問題点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平7-184541号公報
【特許文献2】特開平7-39325号公報
【特許文献3】特許3629122号公報
【特許文献4】特開2004-159629号公報
【特許文献5】特開2001-314161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炊飯時に添加することにより、ほぐれが良く、食感および風味も良好な米飯
を炊飯することができる米飯用ほぐし剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のLMペクチン
を有効成分として含む米飯用ほぐし剤を炊飯時に添加することで、ほぐれが非常に良好で、
かつ風味および食感が優れている米飯を炊飯することができることを見出し、本発明を完
成するに至った。
すなわち、本発明は、DE値が15%以下で、かつ5〜7重量%水溶液の粘度が20℃で
500Pas以下であるLMペクチンを有効成分として含むことを特徴とする米飯用ほぐし剤で
ある。
【0007】
本発明における米飯用ほぐし剤が、炊飯時に添加して優れた効果を発揮する理由につい
ての機構は定かではないが、例えば、米飯用ほぐし剤に含まれる上記特定性状のLMペク
チンが、炊飯時に米飯表面に付着して、表面で何らかの作用を及ぼして、米飯同士の付着
を防止していることが考えられる。さらには、乳化剤、特にジグリセンリン脂肪酸エステ
ルを併用することで、ほぐれ効果はさらに向上し、米飯の風味および食感をより改善する
ことが出来ると考えられる。また、乳化剤の併用によって、LMペクチンの添加量も軽減
することができ、多量にペクチンを添加した場合に起こる米飯の硬化を防ぐことができる。
さらに、水中油型乳化物にすると、炊飯時に添加する炊飯用油脂組成物を軽減することが
出来る。
【発明の効果】
【0008】
DE値が15%以下で、かつ5〜7重量%溶液の粘度が20℃で500Pas以下であるLMペク
チンを有効成分として含有する米飯用ほぐし剤を米の炊飯時に添加すると、米飯粒のほぐ
れ性が良好になり、食感および食味も損なわれない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ペクチンは、主に柑橘類やリンゴなどの果皮の部分に含まれるガラクテュロン酸が結合
した高分子で、このガラクテュロン酸に含まれるカルボン酸の一部がメチル化している。
このメチルエステルの形で存在するガラクテュロン酸の割合をDE値と呼び、このDE値に
よってペクチンの性質が異なる。DE値が50%以上のものがHMペクチン、50%以下のも
のがLMペクチンと称されている。
本発明におけるLMペクチンは、DE値が15%以下で、かつ分子量の目安として5〜7重
量%水溶液とした場合、粘度が20℃で500Pas以下であるペクチンが用いられる。DE値が
15%を超えるペクチンを使用した場合、米飯が硬くなるという問題点が生じる。さらに、
5〜7重量%溶液の粘度が20℃で500Pas以上になるペクチンを使用すると、組成物自体
の粘度も高くなる傾向にあるので、添加時の分散状態が悪く、またほぐれ効果も悪くなり、
炒飯等を製造する場合だまが出来やすくなる。
本発明の米飯類の製造においては、LMペクチンの添加量は、生米に対して、0.01〜1.0
重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%である。0.01重量%未満ではその機能が充分発揮さ
れず、また1.0重量%を越えると、米飯の食感が著しく硬くなる。
【0010】
本発明における乳化剤は、通常、食品用に使用される乳化剤であればよく、グリセリン
脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレング
リコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレ
ート、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド類、エ
リスリトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシ
チン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンなどを1種単独で、あるいは2種以上組み合
わせて使用することができる。これらのうち、特にモノエステル純度が50%以上のジグ
リセリン脂肪酸エステルが好ましい。
本発明における生米に対する乳化剤の添加量は、0.01〜0.5重量%、好ましくは0.1
〜0.4重量%である。0.01重量%未満ではその機能が充分発揮されず、また0.5重量%を
越えると米飯の風味が悪くなり、食感もべたつきが出てくる。
また、乳化剤の併用によって、LMペクチンの添加量も軽減することができる。例えば
LMペクチンを単独で使用した場合、ほぐれ効果が最大限に発揮される添加量の範囲は0.2
〜0.5重量%であるが、乳化剤を併用すると、LMペクチンの添加量が0.1重量%であって
も、それと同等の効果が得られる。
【0011】
本発明においては、ほぐれ効果のさらなる向上のために、食用油脂を乳化した組成物を
用いることもでき、この場合、炊飯時に添加する炊飯用油脂を軽減できる。
食用油脂としては、通常、食品用に使用される油脂であればよく、例えば大豆油、ナタ
ネ油、ひまわり油、オリーブ油、ハイオレイックナタネ油、パーム油、パーム核油、ヤシ
油、コーン油、ハイリノールサフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、綿実油、米油
等の植物油脂や牛脂、豚脂、羊脂、馬脂、魚油、乳脂等の動物油脂、さらにこれらの油脂
に水素添加(硬化)、エステル交換、分別等の物理的、化学的、または酵素的処理をしたも
のを挙げることができる。これらは1種単独で、あるいは2種以上で組み合わせて使用す
ることができる。
さらには、乳化物とする場合、乳化剤を用いる。用いる乳化剤としては、ジグリセリン
脂肪酸エステルの他に、本発明の効果を損なわない限りにおいては、グリセリン脂肪酸エ
ステル、グリセリン有機酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール
脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、シ
ョ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、アルキルグリコシド類、エリスリト
ール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、レシチン、酵
素分解レシチン、酵素処理レシチンなどを1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて使
用することができる。
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるも
のではない。
【0013】
実施例1〜17として、表1に示す本発明のほぐし剤を炊飯時にそれぞれ添加して白飯を
炊飯し、炒飯を製造した。
【0014】
白飯の炊飯および炒飯の製造方法は、以下の通り行った。
生米2.5kg(新潟産コシヒカリ)を洗米し、20℃の水に1時間浸漬した後、釜に付着
水とともに米飯用ほぐし剤を添加し、水を加えて、全量で6.0kgとし(1.4倍加水)た。
さらに、組成物に油脂が含まれている実施例14〜17以外においては、炊飯用油脂(菜種油
99.5重量%、サンソフトQ-182S(ポリグリセリン脂肪酸エステル、太陽化学(株))0.5
重量%)を生米に対して1%添加して、ガス炊飯器で炊飯した。ほぐし剤を添加する時に、
それらの水への分散性を観察した。分散性の評価は、それぞれ良好なものを◎、やや良好
なものを○、やや劣るものを△、劣るものを×とした。
炊飯開始から45分後にしゃもじでご飯を壊さないように軽くかき混ぜ粗熱を取り、4
kgのご飯を保温コンテナで15分間保温した。
その後、業務用炒め機((株)J-オイルミルズ製、クックマスターHEI‐50)を約4分
間加熱し、釜温度が220℃になった時点で消火し、炒め油80g(対ご飯2%)を入れ、釜
を2回転させ釜になじませた。その後、15分間保温しておいたご飯4kgを投入し再び着
火し4分間炒め、消火しすぐに炒めたご飯を特大バットに移し取り、ほぐれ度合いを評価
した。炒め工程ではご飯のかたまりにはいっさい手を入れずに行った。その後、すぐに真
空冷却機にて品温を25℃まで下げほぐれ度合いを評価した。また、炒めた後、別に弁当
用容器に各炒飯を200g採取して、20℃で24時間保管した。保管後、電子レンジで600W、
1分間でレンジアップして、ほぐれ度合いおよび米飯の状態を観察した。ほぐれ、食感お
よび風味の評価は、それぞれ良好なものを◎、やや良好なものを○、やや劣るものを△、
劣るものを×とした。
【0015】
比較例1〜17として、表2に示すほぐし剤を調製し、本発明によるほぐし剤に替えて、
実施例1〜17と同様にして白飯を炊飯し、炒飯を製造した。組成物に油脂が含まれてい
る比較例12〜17においては、炊飯用油脂は無添加であった。

【0016】
〔表1〕

実施例14〜17おいては、組成物は乳化して調製した。菜種油の配合量は生米に対
して油脂含有量が約1重量%となる様に配合した。なお、炊飯用油脂は無添加とした。
※ 実施例16および17では、DO100Vを菜種油に溶解して、組成物を調製した。
※LM-5CSJ;LMペクチン(DE値7.6%)、商品名「LM5CSJ」(三晶(株))
※DO100V;ジグリセリン脂肪酸エステル(HLB7.4、モノエステル純度50%以上)
商品名「ポエムDO100V」(理研ビタミン(株))
※A173E;ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB7.0、モノエステル純度50%以下)
商品名「サンソフトA173E」(太陽化学(株))
※J0381V;ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB12)
商品名「ポエムJ0381V」(理研ビタミン(株))

【0017】
〔表2〕

比較例12〜15おいては、組成物は乳化して調整した。菜種油の配合量は生米に対
して油脂含有量が約1重量%となる様に配合した。なお、炊飯用油脂は無添加とした。
※ 比較例14から17では、DO100Vを菜種油に溶解して、組成物を調製した。
※ LM-104AS;LMペクチン(DE値31%)、商品名「LM104AS」(三晶(株))
※ LM-105AS;LMペクチン(DE値46%)、商品名「LM105AS」(三晶(株))

【0018】
各ほぐし剤の添加時における分散性の評価結果を表3に示した。各ほぐし剤で配合した
ペクチン溶液の粘度は、RVA粘度計(測定温度20℃、測定時間20分、回転速度60rpm)で
測定した。粘度測定に使用したペクチン溶液は、以下の通り調製した。
500ml共栓ビンに蒸留水を採取して、90℃に加熱した状態で、ペクチンをダマにならな
いように少量づつ添加して、攪拌機で30分感攪拌して調製した。
【0019】
〔表3〕

【0020】
表3に示す通り、LM5CSJを配合した米飯用ほぐし剤は、いずれも添加時の分散性が良
好であった。
一方、5〜7重量%溶液で粘度が500Pasを超えるLM104ASおよび105ASを配合した米
飯用ほぐし剤は、いずれも分散性が悪かった。
【0021】
炒飯の評価結果を表4に示した。

【0022】
〔表4〕

【0023】
表4に示す通り、LM-5CSJを有効成分として含む米飯用ほぐし剤を生米に対するペクチ
ンの含有量が0.01〜0.1重量%となるように添加した実施例1〜17においては、いずれ
も炒飯のほぐれ、食感、風味が好ましい評価を得た。
LM-5CSJを単独で使用した場合、ほぐれ効果が最大限に発揮される含有量の範囲は0.2
〜0.5重量%であるが、特にLM-5CSJと乳化剤を併用した実施例7および11においては、
LMペクチンの含有量が0.1重量%であっても、それとほぼ同等のほぐれ効果が得られた。
一方、LM-5CSJの添加量が0.01〜1.0重量%の範囲外となる比較例5〜9においては、
ほぐれ、食感、風味のいずれかが劣る評価となった。特にペクチンの含有量が多い比較例
6では、食感も硬くなり、炒め時にだまが生成する現象が見られた。また炊飯油のみを添
加した比較例5では、解れが非常に悪かった。
また、ペクチンのDE値が15%以上であるLM-104ASおよび105ASを配合したほぐし剤
を添加した比較例1〜4においては、炒飯のほぐれが悪く、食感も硬くなる傾向が見られ
た。さらに、LM-104ASと乳化剤を併用した比較例9〜10および水中油型乳化した比較例
11〜14においても、同様に炒飯のほぐれが劣り、食感も硬くなる傾向が見られた。また、
従来のほぐれ剤の配合を想定した比較例16及び17では、ほぐれは良好であるが、食感、
風味が悪いという結果になった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE値が15%以下で、かつ5〜7重量%水溶液の粘度が20℃で500Pas以
下であるLMペクチンを有効成分として含むことを特徴とする米飯用ほぐし剤。
【請求項2】
乳化剤を有効成分として含んでなる請求項1記載の米飯用ほぐし剤。
【請求項3】
乳化剤がモノエステル純度50%以上のジグリセリン脂肪酸エステルであ
る請求項2に記載の米飯用ほぐし剤。
【請求項4】
食用油脂と請求項1〜3の何れかに記載の米飯用ほぐし剤とを水中油型乳
化してなる米飯用ほぐし剤。
【請求項5】
請求項1に記載の米飯用ほぐし剤を生米に対して有効成分であるLMペク
チンが0.01〜1.0重量%になるように添加してなる米飯類。
【請求項6】
請求2〜4の何れかに記載の米飯用ほぐし剤を生米に対して有効成分であ
るLMペクチンが0.01〜1.0重量%、乳化剤が0.01〜0.5重量%になるように添加してな
る米飯類。
【請求項7】
炊飯時において請求項1〜4の何れかに記載の米飯用ほぐし剤を用いるこ
とを特徴とする米飯類のほぐれ改良方法。


【公開番号】特開2007−306813(P2007−306813A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136721(P2006−136721)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】