説明

粉体圧縮成形体の製造方法

【課題】立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体を杵から容易に取り出すことができる粉体圧縮成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、粉体圧縮成形体を製造する方法である。本発明の製造方法は、貫通口21を有する臼体2と、貫通口21内に上杵3及び下杵4を備える。下杵4は、上面に凹部41と、その中央部分に凹部貫通口42とを有する。本発明の製造方法は、凹部貫通口42の下方側から挿入されるコア5を備える。本発明の製造方法は、原料を充填する充填工程と、下杵4及びコア5と上杵3とを突き合わせて粉体圧縮成形体10を形成する圧縮形成工程と、粉体圧縮成形体10を臼体2の貫通口21から排出する排出工程とを備える。排出工程においては、コア5を上方に移動させ、コア5の上面で粉体圧縮成形体10を突き上げて臼体2から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体を含む原料を圧縮成型し、粉体圧縮成形体を製造する粉体圧縮成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体圧縮成形体に意匠性を付与して高級感を高める目的で、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体が求められている。例えば特許文献1には圧縮成型時に超音波を付与することにより、上面に凸状部を備えた略扁平な形状の固形粉末化粧料の製造方法が開示されている。
また一方で、粉体圧縮成形体の製造装置は、求める粉末圧縮成形体を得るために様々な改良がなされている。例えば、特許文献2には、有核錠を製造する製造装置として、臼の上下に上杵及び下杵を上下揺動可能に保持させており、上杵及び下杵がそれぞれ中心杵と該中心杵の外周を取り巻く外杵とから形成されている回転式圧縮成型機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−053082号公報
【特許文献2】WO2006/022290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
更にデザイン性の自由度を高め、美観に優れた意匠の粉体圧縮成形体を製造するため、近年、上面にも下面にも立体的なデザインが付された成形体が求められている。特にデザインの自由度の向上の点から成形体の側面に垂直な部分を極力持たないデザインの粉体圧縮成形体が求められている。
特許文献1および特許文献2のように、下杵が平面である粉体圧縮成形体を製造すると、臼の側面を粉体の圧縮時に積極的に用いて、上杵、下杵、臼の側面で粉体を圧縮成型するため、製造された粉体圧縮成形体の側面には、垂直な部分が形成されてしまい、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体を製造することが難しい。
【0005】
そこで本発明者らは上杵との対向面にすり鉢状の凹部を有する下杵と上杵を用いて圧縮成型を行う事により、デザイン性の高い粉体圧縮成形体の製造を試みた。しかし、圧縮成型後、粉体圧縮成形体が下杵凹部へ嵌まり込み、粉体圧縮成形体が下杵から取り出せず、特に成型後粉末圧縮成形体にスプリングバック現象が起こる場合は成形体の取り出しは困難であった。
【0006】
したがって、本発明は、デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体を下杵から容易に取り出すことができる粉体圧縮成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粉体を含む原料を圧縮成型して、粉体圧縮成形体を製造する粉体圧縮成形体の製造方法であって、鉛直方向に延びる貫通口を有する臼体と、前記貫通口の上方側から挿入され該貫通口内を上下動可能に配される上杵と、前記貫通口の下方側から挿入され、前記上杵との対向面に凹部を有し且つ該凹部の底部中央部に鉛直方向に貫通する凹部貫通口を有する下杵と、前記凹部貫通口の下方側から挿入され前記凹部の前記凹部貫通口内を上下動可能に配されるコアとを用い、前記コア、前記下杵及び前記臼体で画成される空間に、粉体を含む前記原料を充填する充填工程と、前記下杵及び前記コアと前記上杵とを突き合わせて圧縮成型を行い、粉体圧縮成形体を形成する圧縮形成工程と、前記上杵を上方に移動させた後、形成された前記粉体圧縮成形体を前記臼体の貫通口から排出する排出工程とを備え、前記排出工程においては、前記コアを前記下杵の凹部底部より上方に移動させ、前記コアの上面で前記粉体圧縮成形体を突き上げて前記臼体から排出する粉体圧縮成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体を、凹部を有する下杵から容易に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施態様の粉体圧縮成形体の製造方法で製造される粉体圧縮成形体の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す粉体圧縮成形体の側面図である。
【図2】図2は、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法に用いられる好適な装置の全体の概略を示す断面図である。
【図3】図3(a)は、下杵の底とコアの上面とが一致した状態を示す図であり、図3(b)は下杵の底からコアの上面が上昇した状態を示す図である。
【図4】図4は、原料に圧力をかける際のコア及び下杵と上杵との配置関係を示す要部拡大断面図である。
【図5】図5は、図2に示す装置を用いた粉体圧縮成形体の製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法を、その好ましい実施態様に基づき、図面を参照しながら説明する。しかしながら本発明の実施態様は以下のものに限定されるものではない。
【0011】
先ず、本実施態様により製造される粉体圧縮成形体10について説明する。
粉体圧縮成形体10は、図1(a),図1(b)に示すように、下部11と上部12を有している。ここで、成形体の下部11に断面積が小さくなる下すぼみ形状を備えるものに好適であり、さらに下部11の周面に曲面を備えるものに好適であり、下部11の外周面が曲面で構成されるものが好ましい。例えば、下部11が底部を頂部とするドーム形状、またはすり鉢状のものが挙げられ、特に図1(a),図1(b)で示されるようなすり鉢状の形状であることが好ましい。ここで、「すり鉢状」とは、図1(b)に示すように、断面視して、下部11の側面に垂直な部分が形成されておらず、側面が曲面で形成されている形状のことを言い、底面中央部に向かって凸状に湾曲する面を有する形状のことを言う。本願発明の製造方法により製造される粉体圧縮成形体は、本願発明の製造方法に用いられる製造装置の上杵及び下杵の形状によって、様々な立体デザインを取ることが可能であり、例えば、花や、キャラクター等の形状をイメージして形成することができる。例えば本実施態様により製造される粉体圧縮成形体10は、図1(a),(b)に示すように、花をイメージして形成されたものであり、粉体圧縮成形体10におけるすり鉢状の下部11は、花びらの集合体を底面側からイメージして立体的に形成されたものである。粉体圧縮成形体10における上部12も、立体デザイン性に富んだ形状をしており、花びらの集合体を天面側からイメージして立体的に形成されたものである。
【0012】
粉体圧縮成形体10は、上部12と下部11との間に環状突条部13を有しているが、環状突条部13の平均厚み(t)は、7.0mm以下であり、5.0mm以下であることが好ましく、特に4.0mm以下であることが好ましい。環状突条部13の厚み(t)の下限は時に制限されるものではなく、薄いほど好ましい。
粉体圧縮成形体10の平均厚み(t1)は、15〜35mmであることが好ましく、粉体圧縮成形体10を上面から見た際の最大幅(w)は、40〜110mmであることが好ましい。尚、粉体圧縮成形体10の最大幅(w)とは、粉体圧縮成形体10の最も広い位置での長さを示す。
下部11の厚み(t2)は、3mm以上、特に7mm以上であることが好ましい。
粉体圧縮成形体10の平均厚み(t1)に対する環状突条部13の平均厚み(t)の比(t/t1)は、0.09〜0.47であることが好ましく、0.14〜0.40であることが更に好ましい。
【0013】
粉体圧縮成形体10の形成材料である粉体を含む原料としては、各種の粉末原料及び必要に応じて配合される油性成分等の各種成分を含み、これらの成分が混合されたものからなる。例えば、粉体圧縮成形体10が入浴剤のタブレットである場合には、原料としては、例えば、重層、炭酸ナトリウム、コハク酸、フマル酸、デキストリン、香料、色素等が挙げられる。
【0014】
図2には、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法に好適に用いられる粉体圧縮成形装置全体の概略を示す断面図が記載されている。粉体圧縮成形装置1は、粉体を含む原料を圧縮成型して、粉体圧縮成形体10を製造する装置であり、図2に示すように、鉛直方向に延びる貫通口21を有する臼体2と、貫通口21の上方側から挿入され貫通口21内を上下動可能に配される上杵3と、貫通口21の下方側から挿入され、上杵3との対向面に凹部41を有し且つ凹部41の底部中央部に鉛直方向に貫通する凹部貫通口42を有する下杵4と、凹部貫通口42の下方側から挿入され凹部41の凹部貫通口42内を上下動可能に配されるコア5とを備えている。尚、図中のY方向は、粉体圧縮成形装置1の上下方向であり、鉛直方向であり、図中のX方向は、Y方向に垂直な方向であり、水平な方向である。以下、粉体圧縮成形装置1について具体的に説明する。
【0015】
粉体圧縮成形装置1は、図2に示すように、水平方向に取り付けられた打錠テーブル6を備えている。打錠テーブル6の中央部にはY方向に貫通する貫通孔が設けられており、その貫通孔に臼体2が嵌合されている。臼体2は、金属の剛体からなり、Y方向に延びる円筒状の貫通口21を有する筒状の形状をしている。
【0016】
上杵3は、図2に示すように、貫通口21の上方側から挿入され、貫通口21内を上下動可能に配されている。詳述すると、上杵3は、金属の剛体からなり、上杵3の上方側に配される上杵ホルダー31により一体的に保持されており、上杵ホルダー31は、クランク軸に接続されたコネクティングロッド(不図示)によって支持されている。このコネクティングロッド(不図示)によって、上杵ホルダー31に一体的に保持された上杵3が、臼体2の貫通口21のY方向の上方側から僅かな隙間を空けて挿入され、貫通口21内を上下動可能となっている。上杵3の下面(下杵4との対向面)は、平面でも良いが、粉体圧縮成形体10の上面にデザイン性を付与する観点から粉体圧縮成形装置1においては、下杵4との対向面32に凹凸部を有している。上杵3の凹凸部は、粉体圧縮成形装置1においては、粉体圧縮成形体10の上部12に対応する形状に形成されている。移動手段はクランク軸に接続されたコネクティングロッドに限定されず、他に油圧シリンダ、エアシリンダ、電動モータを用いたボールネジプレス等の機器を用いても良い。
【0017】
下杵4は、図2に示すように、貫通口21の下方側から挿入され、上杵3との対向面に凹部41を有し、凹部41の底の中央部分に鉛直方向に貫通する凹部貫通口42を有している。詳述すると、下杵4は、金属の剛体からなり、下杵4の下方側に配される下杵ホルダー43により一体的に保持されており、下杵ホルダー43に一体的に保持された下杵4が、臼体2の貫通口21のY方向の下杵側から僅かな隙間を空けて挿入されている。下杵4の凹部41は中央部に向かって陥没しており、臼体2近傍から中央部に向かって少なくとも一部は曲面を備えるものが好ましく、下に凸の凹陥状であることが好ましい。下杵4の凹部41の底にある凹部貫通口42の上端面は、平面視した際に後述するコア5の上端の水平断面と同型であれば良い。例えば粉体圧縮成形装置1においては、図3(a)に示すように、コア5と同型、すなわち平面視して円形状に形成されており、下杵ホルダー43もY方向に貫通している。粉体圧縮成形装置1においては、下杵4は、臼体2の貫通口21に挿入された状態で固定されているが、上杵ホルダー31と同様に、下杵ホルダー43をコネクティングロッド(不図示)によって支持し、このコネクティングロッド(不図示)によって、下杵4を貫通口21内で上下動可能にしてもよい。
【0018】
下杵4は、粉体圧縮成形装置1においては、図2に示すように、後述するコア5の周辺部に、エアーブロー用の吹き出し孔44を有している。詳述すると、吹き出し孔44は、図3(a),図3(b)に示すように、コア5の周辺部、即ち、凹部貫通口42の周辺部の凹部41に、複数個配されている。吹き出し孔44は、2〜8配されていることが好ましく、粉体圧縮成形装置1においては、図3(a),図3(b)に示すように、4個配されている。4個の吹き出し孔44が、それぞれ、等間隔を空けて、凹部貫通口42の周辺部に配されている。吹き出し孔44は、下杵4の内部に形成された管を通して高圧エアー供給ノズル45に接続されている。高圧エアー供給ノズル45は高圧空気源(不図示)に更に接続されている。これによって、粉体圧縮成形装置1により製造される粉体圧縮成形体10に、吹き出し孔44から、高圧エアーが噴射されるようになっている。吹き出し孔44の直径は、0.1〜1.5mmであることが好ましく、0.4〜1.0mmであることが更に好ましい。吹き出し孔44から噴射されるエアーの圧力は、0.1〜0.6MPaであることが好ましい。
【0019】
コア5は、図2に示すように、凹部貫通口42の下方側から挿入され臼体2の貫通口21内を上下動可能に配されている。詳述すると、コア5は、金属の剛体からなり、コア5の水平断面は粉末圧縮成形体の下部形状として許容できる形状であればどのような形状でも良いが、汎用性の面から円形又は略円形であることが好ましい。図2に示すように、粉体圧縮成形装置1においては、円筒状の形状をしている。また、コア5の上面は平面でも、凸面でも凹面でも良いが、粉末圧縮成形体の取り出しやすさの観点から、平面であることが好ましい。コア5は、図2に示すように、下方側に配されるコア昇降レバー51にピン(不図示)を介してピン接合されている。コア昇降レバー51はカム(不図示)により、上下方向に揺動するようになされており、このコア昇降レバー51の揺動により、コア5が、下杵4の凹部貫通口42の下方側から僅かな隙間を空けて挿入され、図3(a),図3(b)に示すように、臼体2の貫通口21内を上下動可能となっている。移動手段は、カムによるコア昇降レバー51の揺動に限定されず、エアシリンダ、油圧シリンダ等の機器を用いても良い。
【0020】
図2に示すように、粉体圧縮成形装置1を断面視した場合、コア5の最大幅A(粉体圧縮成形装置1においては水平断面が円形であるコア5の直径と同じであり、下杵4の凹部貫通口42の内径と略同じ)は、粉末圧縮成形体の取り出しやすさの観点から、粉体圧縮成形装置1のように臼体2とコア5とが同心円の場合であれば、臼体2の貫通口21の内径から凹部貫通口42の内径を差し引いた値の半分の値よりも長いことが好ましい。例えば、コアAの幅と凹部41の一方の側部の幅Bの2倍の長さとの総和が70mmの場合、コア5の幅Aは、25〜40mmであることが好ましく、25〜35mmであることが更に好ましく、凹部41の一方の側部の幅Bは、15〜22.5mmであることが好ましく、17.5〜22.5mmであることが更に好ましい。凹部41の一方の側部の幅Bに対するコア5の幅Aの比(A/B)は、1.11〜2.67であることが好ましい。尚、水平断面が円形でないコアの場合の最大幅Aとは、コアの最も広い位置での長さを示す。
また、図3(a)に示すように、下杵4の凹部41の底とコア5によって形成される水平な面の面積(C)(点線で囲った領域)とコア5の上面の面積(D)の比(D/C)は、0.7〜1.0であることが好ましい。
【0021】
粉体圧縮成形装置1においては、図3(a)に示すように、コア5の上面と下杵4の凹部41の内面とで、粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状が画成可能になされている。詳述すると、粉体を含む原料が臼体2の貫通口21に供給される際には、図3(a)に示すように、コア5の上面と下杵4の凹部41の底とが、連なるように、Y方向の同じ位置に配されることにより、コア5の上面と下杵4の凹部41の内面とで、粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状が画成される。
【0022】
また、粉体圧縮成形装置1においては、図4に示すように、粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状が画成される状態のコア5及び下杵4と、上杵3とを突き合わせて、上杵3の下面32の周縁部33と下杵4の周縁部46とを近接することにより、コア5、下杵4及び上杵3の間に粉体圧縮成形体10の形状に対応する空間が画成可能になされている。詳述すると、上述したように、上杵3は、下杵4との対向面(下面)32に、粉体圧縮成形体10の上部12に対応する形状に形成されている凹凸部を有している。図4に示すように、コア5の上面と下杵4の凹部41の底とが連なるように、Y方向の同じ位置に配され、コア5の上面と下杵4の凹部41の内面とで、粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状が画成された状態で、上杵3の下面32の周縁部33と下杵4の周縁部46とを近接させて、コア5及び下杵4と上杵3とを突き合わせる。このように突き合わせることにより、コア5の上面及び下杵4の内面と、上杵3の下面32との間に、粉体圧縮成形体10の形状に対応する空間が画成される。
【0023】
粉体圧縮成形装置1は、図2に示すように、打錠テーブル6の上面に、粉体を含む原料を臼体2の貫通口21に供給するフィードシュー7を備えることもできる。フィードシュー7は、上方側に配されるホッパー(不図示)に接続されており、ホッパー(不図示)から粉体を含む原料が連続的に供給されるようになっている。フィードシュー7は、X方向の前後方向に移動可能になされており、臼体2の貫通口21上に移動しながらフィードシュー7の底面側にある供給口(不図示)を通して原料が貫通口21に供給される。移動の際には、フィードシュー7の底面と、打錠テーブル6及び臼体2それぞれの上面とが段差がなく面一となるように形成されている。また、コア5が上昇した際には、フィードシュー7の底面と、コア5の上面とが段差がなく面一となるように形成されている。また、フィードシュー7は、臼体2の貫通口21上に移動しながら、製造された粉体圧縮成形体10を押して、粉体圧縮成形体10をX方向の前方向に移動させるように形成されている。
【0024】
次に、上述した粉体圧縮成形装置1を用いて粉体圧縮成形体10を製造する方法について、図5を参照しながら説明する。
【0025】
先ず、コア5、下杵4及び臼体2で画成される空間に、粉体を含む原料を充填する(充填工程)。本実施態様においては、コア5の上面が下杵4の凹部41の底部に位置するように下杵4とコア5を配した臼体2に、粉体を含む原料を充填する。詳述すると、図5(a)に示すように、臼体2の貫通口21の下方側に下杵4を固定する。固定する位置は、製造する目的物、原料の充填量に応じて適宜変更する。この時、コア5の上面から下杵4の凹部41の底は、連なる位置にあり、コア5の上面と下杵4の凹部41の内面とで、製造される粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状を画成する。この状態の臼体2の貫通口21内に、フィードシュー7を用いて粉体を含む原料を充填する。原料の充填後、フィードシュー7はX方向の後方側に移動させる。
【0026】
次いで、下杵4及びコア5と上杵3とを突き合わせて圧縮成形を行い粉体圧縮成形体10を形成する(圧縮形成工程)。詳述すると、図5(b)に示すように、クランク軸に接続されたコネクティングロッド(不図示)により、臼体2の貫通口21の上方側から上杵3を挿入し、粉体圧縮成形体10の下部11に対応する形状を画成した状態のコア5及び下杵4と、上杵3とを突き合わせて、上杵3の下面32の周縁部33と下杵4の周縁部46とを近接させることにより、コア5、下杵4及び上杵3の間に粉体圧縮成形体10の形状に対応する空間を画成する。詳述すると、コア5の上面及び下杵4の内面と、上杵3の下面32との間に、粉体圧縮成形体10の形状に対応する空間が画成され、この状態で、圧縮成型を行い粉体圧縮成形体10を形成する。コア5及び下杵4から画成した形状は下杵4の凹部41の上端面からコア5に向かって断面積が縮小した下すぼみの凹部であることが好ましく、コア5に向かって凹部41が曲面状にすぼむ凹部であることがより好ましい。特に図4に示されるようなすり鉢状になっていることが好ましい。
ここで、成形体の下部11に断面積が小さくなる下すぼみ形状を備えるものに好適であり、さらに下部11の周面に曲面を備えるものに好適であり、下部11の外周面が曲面で構成されるものが好ましい。例えば、下部11が底部を頂部とするドーム形状、またはすり鉢状のものが挙げられ、
【0027】
コア5及び下杵4と、上杵3とによる圧縮の圧力は、製造する目的物に応じて適宜変更することができるが、圧縮形成工程における圧縮時の圧力は、コアの許容圧縮応力、下杵の薄肉部(縁部)の許容曲げ応力の観点から、0.2〜800MPaであることが好ましく、5.1〜25.5MPaであることがより好ましく、6.4〜24.2MPaであることが更に好ましい。特に、例えば、浴用剤のタブレットを製造する場合には、7.7〜23.0MPaであることが好ましく、10.2〜20.4MPaであることが更に好ましい。
【0028】
本実施態様においては、コア5及び下杵4と、上杵3とによる圧縮の際に、臼体2の側面は積極的に関与していない。このように臼体2の側面が積極的に関与していないので、図1(a),図1(b)に示すような、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体10を製造することができる。尚、上杵3の下面32の周縁部33と下杵4の周縁部46とを近接させて圧縮成型を行う際、図4に示すように、上杵3の下面32の周縁部33と、下杵4の周縁部46との間には、間隔が開いているが、この間隔は、粉体圧縮成形体10の成型前の充填量と成型後の圧縮率から決定される。充填量は臼体2内における下杵4の位置を、上下方向に動かす事で変更する事が可能であり、下杵4を動かす場合には、圧縮率が変わらない様に、上杵3の臼体2への侵入深さも同時に変更する。また、コア5、下杵4及び上杵3の間に形成された、粉体圧縮成形体10の形状に対応する空間内の原料に、目的とする圧縮率を与えるには、上杵3の周縁部33と下杵4の周縁部46との間隔の影響は少ないが、粉体圧縮成形体10の環状突条部13の成形性の観点から、上杵3の周縁部33と下杵4の周縁部46との間隔は2〜7mmが好ましく、特に3〜4mmが好ましい。
【0029】
次いで、上杵3を上方に移動させた後、形成された粉体圧縮成形体10を臼体2の貫通口21から排出する(排出工程)。排出工程においては、コア5を上方に移動させ、コア5の上面で粉体圧縮成形体10を突き上げて臼体2から排出する。詳述すると、図5(c)に示すように、クランク軸に接続されたコネクティングロッド(不図示)により、臼体2の貫通口21から上杵3を引き上げた後、臼体2の貫通口21に下杵4を固定した状態のまま、コア昇降レバー51により、コア5の上面と、打錠テーブル6及び臼体2それぞれの上面とが段差がなく連なる位置まで、コア5を上昇させる。このようにコア5を上昇させることにより、コア5の上面で下杵4の凹部41にある粉体圧縮成形体10を突き上げ、コア5の上昇とともに粉体圧縮成形体10を上昇させる。次いで、フィードシュー7をX方向の前方に移動させることにより、フィードシュー7の先端で粉体圧縮成形体10を押すことにより臼体2から排出する。下杵4は、充填工程、以下に述べる圧縮形成工程、及び以下に述べる排出工程の間、その位置を、臼体2の貫通口21内に固定している。
【0030】
ここで、コア5及び下杵4と上杵3とによる圧縮後、上杵3を除く際に発生するスプリングバックにより、すり鉢状の下部11に対応する形状の下杵4の凹部41には、粉体圧縮成形体10が強固に固定されており、粉体圧縮成形体は容易に取り出すことができない。このような問題は圧縮成型を行うことにより発生し、特に15.3MPa以上の圧力で圧縮成型する場合には顕著に発生する問題である。しかしながら、粉体圧縮成形装置1を用いた粉体圧縮成形体の製造方法によれば、下杵4の凹部貫通口42に挿入されたコア5を上昇させて粉体圧縮成形体10を突き上げることにより、下杵4の凹部41から、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体10を、破損することなく、容易に離すことができる。このような効果は、コア5及び下杵4と上杵3とによる圧縮の圧力が高く、発生するスプリングバックの力が大きい、例えば、浴用剤のタブレットを製造する場合に特に有効である。
【0031】
尚、上述したように、粉体圧縮成形装置1は、下杵4が吹き出し孔44を備えている。その為、排出工程においては、コア5を上方に移動させる前に、吹き出し孔44を通して空気を粉体圧縮成形体10の下部11に噴射し、粉体圧縮成形体10を下杵4の凹部41から外した後、コア5を上方に移動させて粉体圧縮成形体10を排出してもよい。詳述すると、コア5及び下杵4と上杵3との間で粉体圧縮成形体10を形成し、上杵3を上方に移動させた後、コア昇降レバー51によりコア5を上方に移動させる前に、高圧エアー供給ノズル45から吹き出し孔44を通して粉体圧縮成形体10の下部11に高圧エアーを噴射する。高圧エアーを噴射するタイミングは、上杵3を上方に移動させ始めてからコア5を上方に移動させる前までの間であれば、いつでもよく、例えばコア5を上方に移動させる直前であってもよい。このように、高圧エアーを噴射することにより、スプリングバックによって下杵4の凹部41に強固に固定された、立体デザイン性に富んだ粉体圧縮成形体10を、更に破損することなく凹部41から容易に外すことができる。以降は、上述した工程と同様に、この凹部41から外れた粉体圧縮成形体10を、コア昇降レバー51によりコア5とともに上昇させ、次いで、フィードシュー7により臼体2から排出する。以降は、図5(a),図5(b),図5(c)に示す工程を繰り返すことにより、粉体圧縮成形体10を連続して製造することができる。
【0032】
このように、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法によれば、立体性に富んだ粉体圧縮成形体10を、すり鉢状の凹部41を有する下杵4から容易に取り出すことができ、図1(a),図1(b)に示すような、立体デザイン性に富んだ高付加価値の高い粉体圧縮成形体10を連続して製造することができる。
また、粉体圧縮成形体10の下部11の厚み(t2)(図1(b)参照)が厚い場合、具体的には、厚み(t2)が3mm以上、特に7mm以上である場合、言い換えれば、下杵4の凹部41の深さが深い場合、具体的には、3mm以上、特に7mm以上の場合であっても、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法によれば、容易に粉体圧縮成形体を取り出すことができ、高付加価値の高い粉体圧縮成形体を製造することができる。
【0033】
また、断面視して側面が曲面で形成されている形状(すり鉢状)である場合、粉体圧縮成形体10が下杵4に嵌まり込みやすくなるため取り出し難いが、本発明の粉体圧縮成形体の製造方法によれば、容易に粉体圧縮成形体を取り出すことができる。更に図1(a),図1(b)に示すように、デザイン性を向上させるため、凹部41の表面に更に凹凸形状を付加すると、この凹凸形状に対応する下杵4の凹凸形状部分がアンカー効果を有するため、粉体圧縮成形体10の下杵4への嵌まり込みが顕著になるが、このような形状であっても本願発明の製造方法であれば、容易に粉体圧縮成形体を製造することができる。
【0034】
本発明の粉体圧縮成形体の製造方法に用いられる装置は、上述した粉体圧縮成形装置1に何ら制限されるものではなく、適宜変更可能である。
【0035】
例えば、粉体圧縮成形装置1は、上杵3の下面32に、粉体圧縮成形体10の上部12に対応する形状の凹凸部が形成されているが、目的とする固形粉末成形体の形状に応じて形成されていればよく、形成されていなくてもよい。
また、粉体圧縮成形装置1は、高圧打錠のみならず低圧打錠装置としても使用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 粉体圧縮成形装置
2 臼体
21 貫通口
3 上杵
31 上杵ホルダー
32 上杵の対向面(下面)
33 上杵の周縁部
4 下杵
41 凹部
42 凹部貫通口
43 下杵ホルダー
44 吹き出し孔
45 高圧供給ノズル
46 下杵の周縁部
5 コア
51 コア昇降レバー
6 打錠テーブル
7 フィードシュー
10 粉体圧縮成形体
11 粉体圧縮成形体の下部
12 粉体圧縮成形体の上部
13 粉体圧縮成形体の環状突条部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を含む原料を圧縮成型して、粉体圧縮成形体を製造する粉体圧縮成形体の製造方法であって、
鉛直方向に延びる貫通口を有する臼体と、
前記貫通口の上方側から挿入され該貫通口内を上下動可能に配される上杵と、
前記貫通口の下方側から挿入され、前記上杵との対向面に凹部を有し且つ該凹部の底部中央部に鉛直方向に貫通する凹部貫通口を有する下杵と、
前記凹部貫通口の下方側から挿入され前記凹部の前記凹部貫通口内を上下動可能に配されるコアとを用い、
前記コア、前記下杵及び前記臼体で画成される空間に、粉体を含む前記原料を充填する充填工程と、
前記下杵及び前記コアと前記上杵とを突き合わせて圧縮成型を行い、粉体圧縮成形体を形成する圧縮形成工程と、
前記上杵を上方に移動させた後、形成された前記粉体圧縮成形体を前記臼体の貫通口から排出する排出工程とを備え、
前記排出工程においては、前記コアを前記下杵の凹部底部より上方に移動させ、前記コアの上面で前記粉体圧縮成形体を突き上げて前記臼体から排出する
粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮形成工程においては、前記コアの上面と前記凹部の内面とで、製造される前記粉体圧縮成形体の下部に対応する形状を画成し、該下部に対応する形状を画成した状態の該コア及び該下杵と、前記上杵とを突き合わせて、該上杵の下面と該下杵の周縁部とを近接することにより、前記コア、前記下杵及び前記上杵の間に前記粉体圧縮成形体の形状に対応する空間を画成する請求項1に記載の粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項3】
前記下杵は、前記コアの周辺部に、吹き出し孔を有し、
前記排出工程においては、前記コアを上方に移動させる前に、前記吹き出し孔を通して空気を前記粉体圧縮成形体に噴射し、該粉体圧縮成形体を前記下杵の前記凹部から外した後、前記コアを上方に移動させて該粉体圧縮成形体を排出する請求項1又は2に記載の粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮形成工程における圧縮時の圧力が0.2〜800MPaである請求項1〜3の何れか1項に記載の粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項5】
前記充填工程、前記圧縮形成工程、及び前記排出工程の間、前記下杵の位置を固定する請求項1〜4の何れか1項に記載の粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項6】
前記下杵の前記凹部の深さが3mm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉体圧縮成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造された浴用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115892(P2012−115892A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270057(P2010−270057)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)