説明

粉体成形用組成物

【構成】ポリマー分子構成単位として、芳香族ビニル化合物単量体単位を20〜50重量%有し、数平均分子量が20000〜50000である芳香族ビニル化合物−ブタジエンブロック共重合体の水素化物を含有する粉体成形用組成物。
【目的】ソフト感に富み、可塑剤が原因の欠点である成型品のベトツキ、フォギング等を起こさず、粉体流動性等の成形加工性の良好な粉体成形用組成物を提供することを目的とするものである。
【効果】本発明組成物は、自動車用表皮材料として厳格に要求されるソフト感、成形性を充足する粉末成形用組成物を提供し、ベトツキなどの悪い感触がなく、成形加工性、貯蔵ブロッキング防止性にも優れた粉末成形用として有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車内装用表皮材料等に適する粉体成形用の芳香族ビニル化合物とエチレン、ブチレンとからなるブロック共重合体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】クラッシュパッド、コンソールボックス、ヘッドレスト、アームレスト等の最近の自動車内装用表皮材料への要求は、軽量でソフト感があり、且つレザー模様やステッチ模様のある高級な感覚を与えることであり、またデザインにおいても深いアンダーカット等が要求されるようになり、従来からの物性に対する要求ばかりでなく、手触り感触、意匠性等の感覚的要求をも同時に充足することが必須となっている。従来、これらの表皮材料に使用されてきた材料は、軟質PVC、ABS樹脂あるいはペーストPVC等であり、成形法は真空成形、ゾルスラッシュ成形あるいはゾル回転成形等が主として利用されてきた。しかしながら、軟質PVC系樹脂やABS樹脂を使用した真空成形による表皮材料は、軽量化は達成できるが成形品は硬い感触のものしか得られないばかりでなく、真空成形時に絞流れ、ステッチ模様の流れが生じ高級感のある製品とならず、また深絞りやアンダーカットのある成形が難しいという欠点があった。また、ペーストPVC系樹脂によるゾル成形品は、ソフト感や高級感は達成できるもののゾル粘度が高いため肉厚化の傾向が避けられず、厚さの均一性を保つことが難しいとともに軽量化の達成が不可能であるという欠点があった。また、成形時に金型からのゾルの排出に時間がかかったり、色替え時のタンク、配管等のクリーニングに時間を要したりし、生産性に大きな問題点があった。これらの問題点を解決するために、最近粉体スラッシュ成形、流動浸漬成形あるいは粉体回転成形等のいわゆる粉体成形法が注目されており、特に自動車内装用表皮材料の成形には粉体スラッシュ成形が多く利用されるようになっているこのような粉体成形に供する粉体材料組成物は、その成形工程の特徴から粉体流動性や成形性に優れたものでなければならない。ところで、自動車内装用表皮材料の粉体スラッシュ成形に適用されている組成物は現在では大部分が塩化ビニル系組成物であり、これらの組成物で得られる表皮成形物は真空成形で得られる表皮成形物よりも優れた感触、光沢、意匠性を持っている。ところが、最近では、塩化ビニルの粉体スラッシュ成形で得られるものよりも、さらに、感触の良好なソフト感のある高級感覚の自動車内装用表皮材料が求められ、これに対して塩化ビニル系樹脂に従来よりも多量の可塑剤を添加してソフト感を得ようとする試みがなされている。しかし、大量の可塑剤を塩化ビニル系樹脂に添加すると、成型品のソフト感は向上するものの、可塑剤のベトツキ感が生じたり、フォギング等の不都合が生じたりする。また、塩化ビニル系樹脂の可塑剤吸収能力の限度一杯に可塑剤を添加すると、塩化ビニル系樹脂粒子の表面に大量の可塑剤が浸出してその粘着性によって、粉体流動性が悪化して表皮成形材料に要求される薄肉成形品における正確な厚さが得られないという成形性上の欠点が発生する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、ソフト感に富み、可塑剤が原因の欠点である成型品のベトツキ、フォギング等を起こさず、粉体流動性等の成形加工性の良好な粉体成形用組成物を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来技術における可塑剤添加に起因する欠点の発生に鑑み、可塑剤の添加以外の手法によって、ソフト感を達成せんとして、鋭意研究の結果、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体を水素化したものが、適度の分子量範囲を選択すれば、可塑剤がなくともソフト感が良好なこと、及び、可塑剤によるベトツキ等がないため粉体成形性も良いことを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ポリマー分子構成単位として、芳香族ビニル化合物単量体単位を20〜50重量%有し、数平均分子量が20,000〜50,000である芳香族ビニル化合物−ブタジエンブロック共重合体の水素化物を含有する粉体成形用組成物を提供するものである。
【0005】本発明に用いる芳香族ビニル化合物−ブタジエンブロック共重合体の水素化物とは、ブタジエン連鎖単位の2重結合部分が水素化処理によって飽和されているものであり、水素化されたブタジエン単量体単位はそのポリマー中の結合態様が、1,4結合か1,2結合かによって、ブタジエン単量体単位は2個のエチレン単量体単位又はエチル基側鎖を有する1個のブテン−1単量体単位になる。したがって、芳香族ビニル化合物とブタジエンブロック共重合体の水素化物は、水素化処理後のポリマー分子構造を観点を変えて見れば、芳香族ビニル化合物単量体単位の連鎖ブロック及びエチレン単量体単位とブテン−1単量体単位とからなる共重合連鎖ブロックにより構成されているブロック共重合体である。以下において、この種類の共重合体であって本発明に用いる共重合体を本発明水素化物という。
【0006】本発明水素化物のブロック構造は、ポリマー1分子中に、芳香族ビニル化合物ブロックと水素化されたブタジエン連鎖単位のブロックをそれぞれ1個以上有する線状若しくは分岐状ブロックポリマーである。線状構造としては、S−B型、S−B−S型、B−S−B型、S−B−S−B型などのブロック共重合体を使用することができる。ここにSは芳香族ビニル化合物ブロック連鎖であり、Bは水添ブタジエン単位ブタジエン連鎖である。これらのブロック共重合体は、例えば、ブチルリチウム触媒などを用いた公知のリビング重合方式によって容易に製造することができる。本発明水素化物に用いる芳香族ビニル化合物は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレンなどを使用することができる。
【0007】本発明水素化物は、芳香族ビニル化合物単位の含有量が10〜50重量%、好ましくは、20〜40重量%、水添ブタジエン単位の含有量は90〜50重量%、好ましくは、80〜60重量%である。芳香族ビニル化合物含有量が10重量%未満の場合は、必然的に芳香族ビニル化合物ブロック連鎖が少なくなり、流動性が大きくなり過ぎて、成形時にメルトドリップが生じ、貯蔵の際にブロッキングを起こす不都合がある。また、芳香族ビニル化合物含有量が50重量%を超えると成形温度が高くなり過ぎて、生産性の低下、成形品の硬度が大きくなり、ソフト感の低下、感触の悪化を齎す。本発明水素化物は、数平均分子量20,000〜50,000、好ましくは、30,000〜40,000のものを使用する必要がある。
【0008】数平均分子量が20,000未満の場合は、流動性が大きくなる結果、成形時のメルトドリップ、貯蔵時のブロッキングを起こす。また、数平均分子量が50,000を超えると良好な焼結性を得ることができないので、粉体成形方法を適用することができなくなる。本発明水素化物における水添ブタジエン単位のブロック連鎖における水添前のブタジエン単位の結合方式は1,2結合及び1,4結合があるが、これらの割合は本発明に影響は少ない。本発明水素化物には、本発明の目的であるソフト感及び粉体成形性を損なわない範囲で、連鎖ブロックの構成単位として他の単量体単位を他の材料との接着性等を改良する目的で使用することができる。ここに用いる他の単量体単位としては、芳香族ビニル化合物単位ブロック連鎖には、例えば、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メチルアクリレートなどの単量体を共重合することができ、ブタジエン単位ブロック連鎖には、例えば、スチレン、イソプレン、1,3−ペンタジエンなどの単量体を使用することができる。また、エポキシ基又は活性水素を有する極性基を導入するために、エポキシ基、カルボン酸基、水酸基等を含有する単量体、例えば、グリシジルビニルエーテル、アクリル酸を共重合させるか、共重合後に処理してエポキシ基を導入したり、加水分解により水酸基又はカルボン酸基を生成させることにより、発泡ポリウレタン等の他の材料との接着性を向上させることができる。
【0009】本発明粉体成形用組成物には、ソフト感及び成形加工性を損なわない範囲で他のポリマー、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン、SBR等を少量配合することができる。本発明粉体成形用組成物には、所望に応じて種々の添加剤を添加することができる。例えば、成形時の離型性向上及び貯蔵時のブロッキング防止のために、バリウムステアレート、カルシウムステアレート、マグネシウムステアレート、亜鉛ステアレート、アルミニウムステアレート等の金属石鹸類、多価アルコールの脂肪酸エステル類を添加することができる。その他の添加剤として、公知の各種安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料等を添加することができる。また、公知の可塑剤もベトツキ、成形性を損なわない範囲で添加することができる。
【0010】本発明粉体成形用組成物は、本発明水素化物に所望により前記成分を適宜配合して、押出機、加熱ロール等によって加熱混合して得たものを粉砕して粉末状組成物として粉末成形用材料として使用することができる。本発明組成物の製造における粉末工程には、例えば、ターボミル、ローラミル、ボールミル、遠心力粉砕機、パルペライザー等の粉砕機によって粉末にすることができる。本発明組成物は、粉砕工程によって、平均粒径50〜500μm、好ましくは、100〜300μmに粉砕して使用するのが望ましい。平均粒径が50μm未満にするのは、粉砕工程の効率が悪い上に、貯蔵時に凝集し易くなる。また、500μmを超えると、成形品のキメが荒くなり、厚さの薄い成形品の場合にはピンホールが発生し易くなるので、平均粒径を500μ以下にするのが望ましい。本発明粉体成形用組成物は、粉体スラッシュ成形、流動浸漬成形又は粉体回転成形等の種々の粉体成形方法に使用でき、特に自動車内装用表皮材料の粉末成形材料として好適に使用することができる。
【0011】
【実施例】本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。第1表に示すスチレン含有量と数平均分子量のスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素化物A〜Jをリビング重合法により合成して、これらを用いて得た粉末成形用組成物を使用して成形品の物性を測定した。水素化処理の前のブロック共重合体は、S−B−S型のブロック共重合体であり、Bブロック連鎖のビニル含有量は、約30%であった。
【0012】
【表1】


【0013】なお、該ブロック共重合体の水素化物の結合スチレン量はNMRによって測定した。該ブロック共重合体の水素化物A〜Jの表示の結合スチレン量以外は、すべて水添されたブタジエン単量体単位である。また、数平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定された分子量分布曲線から、分子量既知の標準ポリスチレンの分析結果より予め求められた検量線を基に算出した。
試験材料の作成第1表に示すスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素化物100重量部に、マグネシウムステアレート1.0重量部、ヒンダードアミン型紫外線吸収剤0.3重量部、ヒンダードフェノール型酸化防止剤0.2重量部、顔料1.0重量部を添加し、押出機(単軸型、φ65mm)を用いてヘッドダイス温度150℃にして加熱混合した後、径約3mm、長さ約5mmのペレットを作成した。更に、このペレットをターボミル型粉砕機にかけ所定の平均粒子径からなる粉体成形用材料を作成した。
【0014】このようにして得られた、粉体成形用材料をオイル加熱式スラッシュ成形機に幅200mm長さ750mmのハーフインストルメントパネルの金型を装着したものによりシートを作成した。この時の金型はニッケル製、絞付き電鋳金型を用いた。また、成形条件は、オイル加熱により金型表面が240℃になった時点で、上記の粉体成形用材料をチャージし5秒間放置後、金型を反転させ余剰の粉末を排除し、そのままの状態で30秒間放置して重合体組成物の溶融を促進させた。その後で、冷却用オイルを流してさらに60秒間放置し、成形品温度が約50℃になった時点で冷却オイルの循環を停止した。このようにして成形したシートの一端を持ち、速度約200mm/秒、角度約60度で剥離、脱型させ、そのときの成形品の伸び具合および成形品の性状を評価した。評価材料の種類、粉体の平均粒子径および評価結果を第2表に示す。
【0015】
【表2】


【0016】評価試料に用いた成形品板厚は、1mmである。第2表中の※印は、溶融状態が不十分で焼結シートを作製できなかったので測定不能であった。なお、成形品性状の判断は以下の基準の5段階評価法で行った。
◎:表面の絞は完全に転写され、裏面も完全に溶融状態にある。成形中の溶融流動はほとんど生じていない。
○:表面の絞は完全に転写され、裏面はやや溶融が不充分な場所か、成形中の溶融流動が若干認められるが、製品の使用上の支障はない。
△:表面にピンホールがやや多い。または、裏面の溶融が不充分な部分か、成形中の溶融流動が認められる。若干の成形条件の変更で対処できる。
×:表面にピンホールが多数存在する。または、シートは完全に溶融しておらず本来の物性が発現していないか、溶融過剰でシート板厚が不均一である。
××:シートは溶融せず、粉状の状態で残っている。
【0017】
【発明の効果】本発明は、自動車用表皮材料として厳格に要求されるソフト感、成形性を充足する粉末成形用組成物を提供し、また、本発明組成物は、可塑剤を用いないのでベトツキなどの悪い感触がなく、さらに、可塑剤のないことにより、粉体成形加工性、貯蔵ブロッキング防止性にも優れた粉末成形用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリマー分子構成単位として、芳香族ビニル化合物単量体単位を20〜50重量%有し、数平均分子量が20,000〜50,000である芳香族ビニル化合物−ブタジエンブロック共重合体の水素化物を含有する粉体成形用組成物。

【公開番号】特開平5−279484
【公開日】平成5年(1993)10月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−105772
【出願日】平成4年(1992)3月31日
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【出願人】(000108214)ゼオン化成株式会社 (10)