説明

粉末圧縮成形体の製造方法

【課題】凹凸の立体形状を有する成形体における厚み方向の硬度むら及び幅方向の硬度むらの発生が効果的に抑制された成形体を製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】臼体2と、臼体2内に配置された下杵4の成形面42とによって形成された成形空間に、粉体を含む原料50を充填する充填工程と、臼体2内に上杵3を降下させ、原料50を圧縮成形する成形工程とを備える。下杵として、その成形面に凹部を有するものを用いる。充填工程において、原料50を成形空間内に充填しつつ、又は充填完了後に、臼体2の開口端形状よりも小さい形状のプッシャー8によって、成形空間内に充填された原料50の上部を部分的に押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末圧縮成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末圧縮成形体に意匠性を付与して高級感を高める目的で、立体デザイン性に富んだ粉末圧縮成形体が求められている。そのような成形体においては、その表面が平坦ではなく、凹凸の立体形状を有しているので、表面が平坦な成形体を成形する場合に比べて、成形にトラブルが起こりやすい傾向にある。例えば、成形体の各部を均等に圧縮できないことに起因して硬度にむらが生じることがある。
【0003】
そこで、粉体原料を成形するのに先立ち予備成形して、圧縮を均一に行うことが提案されている。例えば特許文献1では、凸型固形粉体化粧料の製造方法において、まず、粉体化粧料を深い凹型プレスヘッドを有する雄型で圧縮して中央凸部に粉体化粧料を移動させ、しかる後に、目的とする凸型固形粉体化粧料の凸面に相当する凹型プレスヘッドを有する雄型で打型を行っている。
【0004】
特許文献2には、既に充填してある化粧料粉体を、円錐形の凹状押圧部を有した押型で予備圧縮して該充填粉体の上面を中央部で盛り上げ、この盛り上げ状態で充填粉体を圧縮治具で圧縮しその成形を行うことが記載されている。このようにすることで、中央部の豊富な粉体が圧縮中に周辺へと移動し、均一に圧縮成形することが可能になると同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−201829号公報
【特許文献2】特開平7−010721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来行われていた予備成形はいずれも、臼内に充填された粉体の全面に対して成形荷重を加えて予備成形をしている。詳細には、特許文献1においては、粉体の全面に対して行った予備成形によって臼の中央部に該粉体を移動させた後、本成形することによって、成形方向と直交する方向における粉体圧縮率の差が小さくなり、得られた成形体の圧縮率が均一化したものと考えられる。特許文献2においては、粉体の全面に対して行った予備成形によって臼の中央部で粉体を盛り上げ、その状態で粉体を成形することによって、結果的に成形体の圧縮率が均一化したものと考えられる。このような予備成形を有する粉末圧縮成形体の製造方法は、下杵の成形面が平滑である場合には有効であり、予備成形後の粉体の全面を圧縮すれば、臼内で粉体が効率良く移動していた。しかし、下杵としてその成形面が凹であるものを用た場合には、上述の予備成形を行ったとしても、硬度が均一な成形体を得ることは容易ではなかった。
【0007】
したがって本発明は、前述した従来技術では解決できなかった課題である、下杵が凹型である場合に生じる厚み方向及び幅方向の硬度むらの発生を解消し得る粉末圧縮成形体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、臼体と、該臼体内に配置された下杵の成形面とによって形成された成形空間に、粉体を含む原料を充填する充填工程と、該臼体内に上杵を降下させ、該原料を圧縮成形する成形工程とを備えた粉末圧縮成形体の製造方法であって、
下杵として、その成形面に凹部を有するものを用い、
充填工程において、原料を成形空間内に充填しつつ、又は充填完了後に、臼体の開口端形状よりも小さい形状のプッシャーによって、成形空間内に充填された原料の上部を部分的に押圧する粉末圧縮成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、立体デザイン性に富んだ複雑な凹凸の立体形状を有する成形体における厚み方向の硬度むら及び幅方向の硬度むらの発生が効果的に抑制される。したがって本発明の製造方法によれば、成形体の立体的デザインの自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、本発明の製造方法で得られる粉末圧縮成形体の一例を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す粉末圧縮成形体の側面図である。
【図2】図2は、本発明の製造方法を実施するために好適に用いられる粉末圧縮成形装置の概略を示す断面図である。
【図3】図3は、プッシャーによる原料の予備的な押圧を行うときの粉末圧縮成形装置の状態を示す模式図である。
【図4】図4(a)ないし(c)は、プッシャーによる原料の予備的な押圧過程の説明図である。
【図5】図5(a)ないし(c)は、本発明の製造方法による粉末圧縮成形体の成形過程の説明図である。
【図6】図6(a)ないし(c)は、従来の製造方法による粉末圧縮成形体の成形過程の説明図である。
【図7】図7(a)ないし(c)は、実施例1で得られた粉末圧縮成形体における硬度分布を示すグラフである。
【図8】図8(a)ないし(c)は、比較例1で得られた粉末圧縮成形体における硬度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1(a)及び(b)には、本発明の製造方法に従い好適に製造される粉末圧縮成形体の一例が示されている。図1(b)に示す粉末圧縮成形体10は、紙面の上下方向を圧縮方向にして圧縮成形されたものである。粉末圧縮成形体10は、立体デザイン性に富んだ下部11を有している。下部11は底面に向かって断面積が減少する下すぼみの形状を有しており、図1(a)及び(b)で示されるようなすり鉢状である。粉末圧縮成形体10は、その製造過程において用いられる上杵及び下杵の成形面の形状に応じて、様々な立体デザインを取ることが可能である。例えば、花や、キャラクター等の形状をイメージして形成することができる。図1(a)及び(b)に示す粉末圧縮成形体10は、花をイメージして形成されたものである。成形体10におけるすり鉢状の下部11は、花びらの集合体を底面側からイメージして立体的に形成されたものである。粉末圧縮成形体10における上部12も、立体デザイン性に富んだ形状をしており、花びらの集合体を天面側からイメージして立体的に形成されたものである。従来、このような立体性に富んだ成形体を圧縮成形によって製造すると、各部において硬度を均一にすることが容易ではなかった。特に、粉末圧縮成形体10における上部の中央域での硬度が、周縁域での硬度よりも低くなる傾向にあった。この傾向は、粉末圧縮成形体10における上部12に高低差が大きい複数の凹凸があるときに顕著であり、更に凹凸の接線とX軸(図2参照)とで形成される角度が、原料粉体の安息角よりも大きいときに極めて顕著になることが、発明者らの検討により明らかになった。しかし、本発明の製造方法によれば各部における硬度が均一な成形体を容易に製造することができる。
【0012】
図2には、図1(a)及び(b)に示す粉末圧縮成形体10の製造に好適に用いられる粉末圧縮成形装置全体の概略を示す断面図が示されている。同図に示す粉末圧縮成形装置1は、粉体を含む原料を圧縮成形して、立体デザイン性に富んだ粉末圧縮成形体10を製造する装置である。図2に示すように、粉末圧縮成形装置1は、鉛直方向に延びる貫通口21を有する臼体2と、貫通口21の上方側から下方に向けて挿入される上杵3と、貫通口21の下方側から上方に向けて挿入される下杵4とを備えている。図中のY方向は、粉末圧縮成形装置1の上下方向であり、かつ鉛直方向である。図中のX方向は、Y方向に直交する方向であり、かつ水平な方向である。
【0013】
粉末圧縮成形装置1は、水平方向に取り付けられた打錠テーブル6を備えている。打錠テーブル6の中央部には貫通孔が設けられており、その貫通孔に臼体2が嵌合されている。臼体2は、金属の剛体からなり、Y方向に延びる円筒状の貫通口21を有する筒状の形状をしている。
【0014】
上杵3は、貫通口21の上方側から挿入され、貫通口21内を上下動可能になっている。上杵3は金属の剛体からなる。上杵3は、その上方側に配される上杵ホルダー31によって該ホルダー31と一体的に保持されている。上杵ホルダー31は、クランク軸に接続されたコネクティングロッド(図示せず)によって支持されている。上杵3が臼体2の貫通口21内に挿入された状態においては、上杵3と臼体2の壁面との間には僅かなクリアランスが形成される。このクリアランスが形成された状態で上杵3は貫通口21内を上下動可能となっている。上杵3の移動手段は、クランク軸に接続されたコネクティングロッドに限定されず、他に油圧シリンダ、エアシリンダ、電動モータを用いたボールネジプレス等を用いてもよい。
【0015】
上杵3の底面、つまり下杵4との対向面は成形面32になっている。成形面32は、平坦面又は凹凸部を有する面(以下、単に凹凸面という。)とすることができる。目的とする粉末圧縮成形体10の上部12にデザイン性を付与する観点からは、上杵3の成形面は凹凸面であることが好ましく、その面に複数の凹凸を有する方がより好ましい。該成形面は、目的とする粉末圧縮成形体10の上部12の形状と相補形状になっている。
【0016】
下杵4は、臼体2の貫通口21の下方側から挿入され、貫通口21内を上下動可能になっている。下杵4は、上述した上杵3と同様に金属の剛体からなる。下杵4は、その下方側に配される下杵ホルダー(図示せず)によって該ホルダーと一体的に保持されている。下杵4が臼体2の貫通口21内に挿入された状態においては、下杵4と臼体2の壁面との間には僅かなクリアランスが形成される。このクリアランスが形成された状態で下杵4は貫通口21内を上下動可能となっている。
【0017】
下杵4の上面、つまり上杵3との対向面は成形面42になっている。成形面42は凹面である。該成形面42は、目的とする粉末圧縮成形体10の下部11の形状と相補形状になっている。
【0018】
下杵4が臼体2の貫通口21内に挿入された状態においては、下杵4の成形面42と、臼体2の壁面とによって、粉体を含む原料が充填される成形空間が形成される。
【0019】
下杵4の成形面42の中央部には、下杵4を鉛直方向に貫く下杵貫通孔41が設けられている。下杵貫通孔41内には、該下杵貫通孔41と相補形状をなす突き出しコア5が挿入されている。突き出しコア5は、その上端面が下杵4の成形面42からの連続面となるように、該上端面が該成形面42と滑らかに連なった状態で下杵貫通孔41内に設置されている。成形面42からの連続面となる。コア5の上端面は平面であることが好ましいがこれに限られず、成形面42からの連続面となる限り、凸面や凹面でもよい。コア5の上端面は、下杵4の成形面42の一部をなしている。
【0020】
コア5の下端は、該コア5の昇降手段(図示せず)に接続されている。昇降手段としては、例えばエアシリンダ、油圧シリンダ、カム機構、電動モータを用いたボールネジプレスなどを用いることができる。
【0021】
粉末圧縮成形装置1は、打錠テーブル6の上面に、粉体を含む原料を臼体2の貫通口21に供給するフィードシュー7を備える。フィードシュー7は、該フィードシュー7の上方側に配されるホッパー(図示せず)に接続されている。粉体を含む原料は、ホッパー(図示せず)からフィードシュー7へ連続的に供給されるようになっている。フィードシュー7と打錠テーブル6とは、X方向に相対的に移動可能になっている。
【0022】
フィードシュー7が臼体2の貫通口21上に移動すると、フィードシュー7の底面側にある供給口(図示せず)を通して原料が成形空間内に供給される。移動の際には、フィードシュー7の底面と、打錠テーブル6及び臼体2それぞれの上面とが段差がなく面一となる。成形空間内に供給された原料は該成形空間内を満たし、かつフィードシュー7の底面によって擦り切られる。これによって一定量の原料が成形空間内に充填される。
【0023】
フィードシュー7にはプッシャー8が取り付けられている。プッシャー8は、フィードシュー7のハウジング7aに取り付けられた支持部材(図示せず)に支持されており、フィードシュー7とともに移動する。
【0024】
図3には、フィードシュー7が、下杵4の成形面42と臼体2の内壁とによって形成される成形空間上に位置している状態が示されている。プッシャー8は、押圧部8aと、支持部8bと、昇降部8cとを備えている。押圧部8aは、上面及び下面を有する平板状の部材からなる。押圧部8aは、フィードシュー7のハウジング7a内に位置している。押圧部8aは、これを平面視したときの輪郭形状が、臼体2を平面視したときの開口端形状よりも小さい形状となっている。押圧部8aは成形時の硬度むらをより抑制する観点から、フィードシュー7が成形空間上に位置している状態で、下杵4の成形面42における凹部の最も深い部分に対応する位置に配置されるのが好ましい。図3においてはフィードシュー7が、成形空間上に位置している状態では、押圧部8aの下面が下杵4の成形面42と対向している。すなわち押圧部8aは、平面視した臼体2の開口端の略中央部に位置している。
【0025】
プッシャー8の支持部8bは、その下端が押圧部8aの上面と接続されている一方、その上端が昇降部8cと接続されている。昇降部8cは、例えばエアシリンダや油圧シリンダ等からなる。これによってプッシャー8の押圧部8aは上下に昇降可能になっている。
【0026】
図2に示す成形装置1を用いた粉末圧縮成形体の製造方法においては、図4(a)に示すように、臼体2と下杵4の成形面42によって形成された成形空間内に、粉体を含む原料50を充填する充填工程を行う。原料50の充填は、先に述べたとおりフィードシュー7を用いて行う。この状態においては、フィードシュー7に取り付けられたプッシャー8における押圧部8aは、フィードシュー7のハウジング7aにおける天面付近に待避した状態になっている。したがって、プッシャー8の押圧部8aの下面と、下杵4の成形面42との間には原料50が存在した状態になっている。
【0027】
フィードシュー7によって原料50を成形空間内に充填しつつ、又は成形面42内に原料50が満充填されたら、図4(b)に示すようにプッシャー8を降下させて原料50を弱い力で押圧する。先に述べたとおり、プッシャー8の押圧部8aは、これを平面視したときの輪郭形状が、臼体2を平面視したときの開口端形状よりも小さい形状となっているので、プッシャー8による原料50の押圧は、部分的なものとなる。具体的には、成形空間内に充填された原料50の上部が部分的に押圧される。原料50のうち、プッシャー8によって押圧された部分は、押圧されていない部分に比べて圧密化された圧密化部位50aとなる。プッシャー8の押圧部8aは、臼体2の開口端の略中央部に位置しているので、圧密化部位50aは、成形空間内に充填された原料50のうちの上部の略中央部に生じる。圧密化部位50aにおいては、該圧密化部位50aを構成する粒子が、押圧を受けていない部位に存在している粒子よりも流動性は低下している。しかし、圧密化部位50aを構成する粒子どうしは押し固められておらず、流動性は有している。
【0028】
降下によって原料50を押圧したプッシャー8は、次いで図4(c)に示すように上昇し、その押圧部8aがフィードシュー7のハウジング7aにおける天面付近にまで待避する。プッシャー8の上昇によって、プッシャー8の押圧部8aの下側に空間が生じ、該空間に未圧密状態の原料が流れ込む。その結果、プッシャー8の押圧部8aの下面と、成形空間との間は、原料50で満たされる。
【0029】
図4(b)及び図4(c)に示すプッシャー8の降下及び上昇の一往復の動作を1回又は2回以上行った後、フィードシュー7を成形空間の位置から水平方向へ待避させる。かつフィードシュー7のハウジング7aによって該成形空間内に充填された原料50を摺り切ったら、臼体2内に上杵3を降下させる。そして、上杵3と下杵4とを突き合わせて、原料50を圧縮成形する圧縮成形工程を行う。これによって、目的とする粉末圧縮成形体10を得る。
【0030】
このようにして粉末圧縮成形体10が製造されたら、上杵3を上昇させて待避位置まで待避させる。また上杵3の待避とともに、又は上杵3の待避が完了したら、下杵4の貫通孔41内に挿入されている突き出しコア5を上方に向けて突き出して、下杵4内の成形体10を取り出す。
【0031】
原料50を弱い力で部分的に押圧する工程を有する本実施形態の製造方法によれば、同じ密度の成形体で比較した場合、従来の成形方法で得られた成形体に比べ、硬度が高く、かつ各部位間での硬度のばらつきが小さい粉末圧縮成形体10が得られる。このような有利な効果が奏される理由については、その詳細は不明であるが、以下の説明のようなメカニズムのためであると本発明者らは考えている。以下、そのメカニズムを図5を参照しながら説明する。
【0032】
図5(a)に示すように、プッシャー8によって原料50を弱い力で部分的に押圧すると、押圧によって生じた圧密化部位50aは、原料50におけるその他の部位よりも流動性が低下する。先に述べたとおり、圧密化部位50aは、成形空間内に充填された原料50における上部の略中央部に形成されている。この状態下に上杵3を降下させて圧縮成形を行うと、流動性の高い部位である圧密化部位50a以外の部位が、下杵4の壁面に沿って成形空間の中心方向に向かって移動する。具体的には図5(b)に示すように、原料50のうち、上部の略中央部に形成されている圧密化部位50aの周囲に位置している部分が、成形空間の中心方向に向かって積極的に移動する。一方、圧密化部位50aは、流動性が低下しているので、原料50における他の部位よりも移動しづらく、上杵3の直下部付近に留まる。これらの理由によって、図5(c)に示すように、圧縮成形の完了時においては、原料50が、成形空間の中央部付近に集まり、成形体の深さ方向の圧縮率が成形体全体で均一となる。このような理由によって、従来の成形方法では硬度を高めることが困難であった部位である成形体上部の中央域の硬度を高めることが可能となり、得られた粉末圧縮成形体10においては、各部の硬度が均一になる。しかも硬度を高くすることも可能である。また、プッシャー8による押圧の程度を調整することで、原料の充填性や、得られる成形体10の上部中央域の硬度を容易にコントロールすることができる。
【0033】
これに対して図6(a)に示すように、プッシャー8の押圧部8aの平面視での輪郭形状が、臼体2の開口端形状と略同一である場合、すなわち成形空間内に充填された原料50の上部を全面的に押圧した場合には、原料50のうち、上部の全域が圧密化されて圧密化部位50a’が形成される。圧密化部位50a’はその全域において粉体の流動性が低下している。この状態下に上杵3を降下させて図6(b)に示すように圧縮成形を行うと、原料50はその上部の全域において粉体の流動性が低下しているので、原料50は上部から下部に向けて徐々に圧縮されることになる。この動作は基本的には図6(a)に示す動作と同じである。図6(b)に示す状態から更に圧縮成形が進んで図6(c)に示す状態になっても、原料50のうち流動性の高い部位である、成形空間の下部寄りに位置する粉体が成形空間の形状に沿って圧縮されるだけである。したがってこの方法は、図6(a)に示す全面的な圧密化を行わず、直接に本圧縮を行う方法と何ら変わるところがない。このようにして得られた成形体においては、成形体の各部位の圧縮率が一定にならないため、硬度むらが生じてしまう。特に成形体の上部中央域における圧縮率が、他の部位に比べて著しく低下してしまうため、上部中央域における硬度が低下する。とりわけ硬度むらの発生は、上杵3の成形面が凹凸面である場合に一層顕著となり、凹凸の付いた上杵3によって圧縮される部位である成形体上部の中央域における硬度が、周辺域における硬度よりも低くなる傾向にあることを本発明者らは見出した。
【0034】
本実施形態において、上述した有利な効果を一層顕著なものとする観点から、プッシャー8による押圧での原料50の圧密化は、粉体同士の結合力が生じない程度の低い圧力であることが好ましい。具体的には、プッシャー8による押圧時の圧力は、原料50の具体的な材質等にもよるが、圧縮成形を行うときの成形圧力の0.1〜20.0%、特に0.5〜10.0%とすることが好ましい。具体的には、例えば100〜1020kPa、特に200〜820kPaとすることが好ましい。これに対して、圧縮成形を行うときの成形圧力は、プッシャー8による押圧時の圧力よりも高くして、粉体同士が結合するようにする。具体的には圧縮成形を行うときの成形圧力は、プッシャー8による押圧時の圧力よりも高いことを条件として、5〜35MPa、特に10〜30MPaとすることが好ましい。
【0035】
また、プッシャー8による原料50の押圧は、1回又は2回以上行うことができる。本発明者らの検討の結果、プッシャー8による押圧を1回のみ行っても、所望の効果が得られることが判明した。したがって成形体10の生産性を考慮すると、プッシャー8による押圧の回数は1回のみ行うことが有利である。プッシャー8による押圧に関連して、プッシャー8を昇降させるときの速度は、5〜500mm/sec、特に20〜100mm/secとすることがプッシャー8の押圧部8aの下面によって押圧される粉体を確実に圧縮し、効率よく成形体の密度を上昇させる点から好ましい。
【0036】
プッシャー8を降下させる程度は、プッシャー8を、臼体2の上面よりも高い位置から降下させた最降下位置において、該プッシャー8の押圧部8aの下面が、臼体2の上面と同一の位置になるような程度とすることが、成形体10の硬度を一層高める点から好ましい。プッシャー8の最降下位置における押圧部8aの下面が、臼体2の上面と同一の位置であると、押圧によって生じた圧密化部位50aの配置や大きさが最適となり、より効果的に成形体の硬度むらを抑制することができるためである。
【0037】
プッシャー8の押圧部8aの平面視での形状が、臼体2の平面視での開口端形状よりも小さいことは上述のとおりであるところ、該押圧部8aの平面視での面積は、臼体2の平面視での開口端の面積の10〜70%、特に15〜60%であることが、一層均一な硬度を有する成形体10を首尾よく得ることができる点から好ましい。
【0038】
プッシャー8による原料50の押圧によって圧密化部位50aを予備的に形成することによって、成形空間内に存在する原料50の質量は、プッシャー8による押圧を行わない場合に成形空間内に存在する原料50の質量よりも増加する。したがって、プッシャー8による押圧を行わない場合に製造される成形体の質量と同質量の成形体を、プッシャー8による押圧を行って製造する場合には、臼体2の貫通口21の下方側から上方に向けて挿入される下杵4の挿入の程度を、プッシャー8による押圧を行わない場合よりも大きくして、成形空間の体積をプッシャー8による押圧を行わない場合よりも小さくしておく。
【0039】
本実施形態で用いる下杵4の成形面42における凹部の最も深い部分が略平坦面になっている場合には、プッシャー8として、その押圧部8aの平面視での輪郭形状が、前記の略平坦面の平面視における輪郭形状と略同形であるものを用いることが好ましい。これによって、圧密化部位50aを効果的に生じさせることができ、その結果、各部における硬度が一層均一な成形体10を得ることができる。
【0040】
粉末圧縮成形体10の原料50は、例えば各種の粉末及び必要に応じて配合される油性成分等の各種成分を含み、これらの成分が混合されたものからなる。プッシャー8による原料50の押圧後、該プッシャー8が上方に待避して生じる空間に、未押圧の原料50が流れ込みやすくする観点から、原料50として安息角が小さいものを用いることが好ましい。粉末圧縮成形体10が例えば入浴剤のタブレットである場合には、原料50として例えば重層、炭酸ナトリウム、コハク酸、フマル酸、デキストリン、香料及び色素等を含む粉末原料を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0042】
〔実施例1〕
図2に示す粉末圧縮成形装置1を用い、図1(a)及び(b)に示す形状の粉末圧縮成形体10を製造した。成形体10における最大厚みは28mmであり、平面視での最大直径は70mmであった。成形体10の原料50は、以下の表1に示すとおりとした。上杵3の成形面32は凹凸形状を有し、下杵4の成形面42は凹形状を有していた。下杵4の成形面42における最も深い部分は平坦面になっており、その一部が突き出しコア5の上端面に相当する。
【0043】
【表1】

【0044】
プッシャー8として、その押圧部8aが直径35mmの円板であるものを用いた。この押圧部8aの形状は、下杵4の成形面42における最も深い部分に位置する平坦面の形状と略同一であった。臼体2の内壁と下杵4の成形面42とで形成される成形空間内に、フィードシュー7によって原料50が充填された後、プッシャー8を速度50mm/secで降下させ、原料50の押圧を行った。押圧時の圧力は203kPaであった。プッシャー8を、その最降下位置において0.5秒間保持した。そして降下速度と同速度でプッシャー8を上昇させた。プッシャー8の最降下位置においては、円板状の押圧部8aの下面と、臼体2の上面とが同一位置となった。次いでフィードシュー7によって原料50を臼体2の上面の位置で摺り切った後、上杵3を降下させて成形空間内の原料50を圧縮成形した。成形圧力は16.87MPaであり、成形時間は2秒とした。成形完了後、上杵3を上昇させ、更に突き出しコア5も上昇させて、成形された成形体10を取り出した。得られた成形体10全体の平均密度は、その寸法値と重量から計算した結果、1.31g/cm3であった。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1においてプッシャー8による押圧を行わず、上杵3の降下による圧縮成形を直接行い、成形体を得た。圧縮は、実施例1で得られた成形体の密度と同密度になるように成形圧力を調整して行った。
【0046】
〔評価〕
実施例及び比較例において得られた粉末圧縮成形体における各部の硬度を測定した。測定は次の手順で行った。フライス盤を用いて成形体をその水平方向に沿って切削し硬度測定用の平面部を形成した。切削は、成形体の厚さ方向に沿って2mm間隔で行った。形成された平面部の硬度を、マイクロゴム硬度計MD−1(高分子計器(株)製、触針φ0.16mm、長さ0.5mm)によって測定した。測定位置は、成形体の平面視における中央域9箇所と、周縁域の12箇所の合計21箇所とした。中央域は平面視での成形体における中心から半径15mm内の円形の部位である。周縁域は、平面視での成形体における中心から半径15mm〜22.5mmの範囲の円環状の部位である。測定結果を図7及び図8に示す。なお図7及び図8中、Rは硬度のばらつきの程度を示す。
【0047】
図7及び図8に示す結果から明らかなように、実施例で得られた成形体は、その厚み方向及び平面方向における硬度のばらつきが、比較例で得られた成形体よりも小さいことが判る。また、硬度の値自体が、比較例で得られた成形体よりも高いことも判る。
【符号の説明】
【0048】
1 粉末圧縮成形装置
2 臼体
3 上杵
4 下杵
6 打錠テーブル
7 フィードシュー
8 プッシャー
8a 押圧部
10 粉末圧縮成形体
11 粉末圧縮成形体の下部
12 粉末圧縮成形体の上部
21 貫通口
32 成形面
42 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臼体と、該臼体内に配置された下杵の成形面とによって形成された成形空間に、粉体を含む原料を充填する充填工程と、該臼体内に上杵を降下させ、該原料を圧縮成形する成形工程とを備えた粉末圧縮成形体の製造方法であって、
下杵として、その成形面に凹部を有するものを用い、
充填工程において、原料を成形空間内に充填しつつ、又は充填完了後に、臼体の開口端形状よりも小さい形状のプッシャーによって、成形空間内に充填された原料の上部を部分的に押圧する粉末圧縮成形体の製造方法。
【請求項2】
プッシャーを、臼体の上面よりも高い位置から該上面と同一の位置まで降下させて原料を押圧する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
充填工程において、プッシャーで原料を押圧した後に、該原料を臼体の上面の位置で摺り切る請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
プッシャーによって原料を押圧時の圧力が、上杵によって原料の圧縮成形を行うときの成形圧力の0.1〜20%である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
下杵の成形面における凹部の最も深い部分が略平坦面になっており、
プッシャーとして、その原料押圧面の形状が、前記の略平坦面の平面視における輪郭形状と略同形であるものを用いる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上杵として、その成形面が凹凸を有するものを用いる請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240097(P2012−240097A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114195(P2011−114195)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)