説明

粉末成形体の成形方法および成形装置

【課題】金型からの粉末成形体の離型を容易にし、金型にカジリが発生することを防止するために、容易にキャビティの内面に潤滑剤を均一に塗布することができる粉末成形体の成形方法を提供する。
【解決手段】上型となる上ポンチ3と、下型となる下ポンチ4と、側部の型となるダイ5と、からなる金型2によって形成されるキャビティ6に対して、ノズル7から潤滑剤8を噴霧してキャビティ6に潤滑剤8を塗布した後、キャビティ6に対して、金属粉末10を充填し、金型2によって、キャビティ6に充填された金属粉末10をプレスすることにより粉末成形体1を成形する粉末成形体1の成形装置11であって、キャビティ6に塗布された潤滑剤8をキャビティ6の外部へ流出させるための流出経路Qを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末成形体の成形方法および成形装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金の製造工程において、焼結の前工程では、金属粉末を金型で圧縮して粉末成形体(圧粉体)が成形される。粉末成形体の成形工程では、金型に形成されるキャビティ(金型面)に金属粉末を充填する前に、キャビティに潤滑剤を塗布しておいて、粉末成形体を離型しやすくした粉末成形体の成形方法が広く採用されている。
【0003】
従来、キャビティに対する潤滑剤の塗布方法は、竪穴状のキャビティに対して、キャビティの上側開口部からノズルによって潤滑剤の水溶液を噴霧して、キャビティに潤滑剤を塗布する構成としている。しかしながらこのような構成では、キャビティのより深い部位に対しては、噴霧された潤滑剤が到達しにくい。また、キャビティの底部で潤滑剤の流路が行き止まりとなるため、噴霧された潤滑剤がキャビティ内で十分に拡散せず、キャビティ底部の隅々には潤滑剤が行き渡らなかった。
このため、キャビティの内部では潤滑剤の塗布状態が不均一となり、粉末成形体の離型が困難となったり、金型にカジリが発生したりする、という問題が生じていた。
【0004】
そこで、キャビティに潤滑剤を均一に塗布するための技術が、種々検討されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され、公知となっている。
係る特許文献1に開示されている従来技術では、キャビティの下面部を形成する下ポンチを、潤滑剤を塗布するタイミングでは下方に下げた状態としておくことにより、金属粉末が充填されるタイミングでキャビティの下面部となる部位の周辺では、均一に潤滑剤を塗布する構成としている。
【0005】
しかしながら、この手法ではこれ以前の手法と同様に、キャビティの下面部で潤滑剤の流路が行き止まりとなっているため、噴霧された潤滑剤が拡散しにくく、隅々にまで潤滑剤を行き渡らせるためには時間が掛かっていた。また、キャビティの深さが深くなると、この手法でキャビティの下面部に潤滑剤を均一に塗布することが困難となっていた。
【特許文献1】特許第3309970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、係る現状を鑑みて成されたものであり、金型からの粉末成形体の離型を容易にし、金型にカジリが発生することを防止するために、容易にキャビティの内面に潤滑剤を均一に塗布することができる粉末成形体の成形方法および成形装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、上型となる上ポンチと、下型となる下ポンチと、側部の型となるダイと、からなる金型によって形成されるキャビティに対して、ノズルから潤滑剤を噴霧することによって、前記キャビティに前記潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程と、前記キャビティに対して、金属粉末を充填する金属粉末充填工程と、前記金型によって、前記キャビティに充填された前記金属粉末をプレスして粉末成形体を成形するプレス成形工程と、を備える粉末成形体の成形方法であって、前記潤滑剤塗布工程より以前に実行され、前記キャビティに塗布された前記潤滑剤をキャビティ外部へ流出させるための流出経路を形成する流出経路形成工程を備えるものである。
【0009】
請求項2においては、前記流出経路は、前記ダイに形成され、前記ダイのキャビティ面における、前記金属粉末充填工程での前記下ポンチのキャビティ面よりも下方位置に開口しており、前記キャビティと前記金型の外部とを連通する流路によって形成され、前記流出経路形成工程において、前記下ポンチを前記金属粉末充填工程における前記下ポンチの配置位置に比して下方に変位し、前記キャビティを下方に拡大させて、前記流路を前記ダイのキャビティ面に開口させることにより、前記キャビティに塗布された前記潤滑剤が前記流路を通じてキャビティ外部へ流出可能となるものである。
【0010】
請求項3においては、前記流路は、前記ダイの下面に形成され、前記キャビティの拡大された部位と前記ダイの外部とを連通する切欠き部によって形成するものである。
【0011】
請求項4においては、前記流出経路は、前記流出経路形成工程において、前記キャビティ内に整流板を挿入して、該整流板によって、前記キャビティを互いに連通する流入側キャビティと流出側キャビティに分割して、前記流出側キャビティによって、前記流出経路を形成するものである。
【0012】
請求項5においては、上型となる上ポンチと、下型となる下ポンチと、側部の型となるダイと、からなる金型によって形成されるキャビティに対して、ノズルから潤滑剤を噴霧して前記キャビティに前記潤滑剤を塗布した後、前記キャビティに対して、金属粉末を充填し、前記金型によって、前記キャビティに充填された前記金属粉末をプレスすることにより粉末成形体を成形する粉末成形体の成形装置であって、前記キャビティに塗布された前記潤滑剤をキャビティ外部へ流出させるための流出経路を形成したものである。
【0013】
請求項6においては、前記流出経路は、前記ダイに形成され、前記ダイのキャビティ面における、前記金属粉末充填工程での前記下ポンチのキャビティ面よりも下方位置に開口しており、前記キャビティと前記金型の外部とを連通する流路によって形成され、前記下ポンチを、前記金属粉末を前記キャビティに対して充填する際の前記下ポンチの配置位置に比して下方に変位し、前記キャビティを下方に拡大させて、前記流路を前記ダイのキャビティ面に開口させることにより、前記キャビティに塗布された前記潤滑剤を、前記流路を通じてキャビティ外部へ流出させるものである。
【0014】
請求項7においては、前記流路は、前記ダイの下面に形成され、前記キャビティの拡大された部位と前記ダイの外部とを連通する切欠き部によって形成するものである。
【0015】
請求項8においては、前記キャビティ内に整流板を挿入することにより前記キャビティを分割して、互いに連通する流入側キャビティと流出側キャビティとを形成し、前記流出側キャビティを前記流出経路として構成したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路を形成することによって、潤滑剤をキャビティに対して均等に塗布することができる。
【0018】
請求項2においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出流路を容易に形成することができる。
【0019】
請求項3においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路となる流路を容易に形成することができる。
【0020】
請求項4においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路を容易に形成することができる。
【0021】
請求項5においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路を形成することによって、潤滑剤をキャビティに対して均等に塗布することができる。
【0022】
請求項6においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出流路を容易に形成することができる。
【0023】
請求項7においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路となる流路を容易に形成することができる。
【0024】
請求項8においては、キャビティから潤滑剤が流出するための流出経路を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の第一実施例に係る金型2による粉末成形体の成形方法について、図1〜図5を用いて説明する。図1は本発明の第一実施例に係る金型を備える成形装置を示す模式図であり、(a)金型を分解した状態の側面側断面模式図、(b)金型を組み合わせた状態の側面側断面模式図、図2は本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(潤滑剤塗布工程)を示す模式図であり、(a)潤滑剤塗布前の状態を示す側面側断面模式図、(b)潤滑剤塗布状態を示す側面側断面模式図、図3は本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(金属粉末充填工程)を示す側面側断面模式図、図4は本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(プレス成形工程(プレス前))を示す側面側断面模式図、図5は本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(プレス成形工程(プレス状態))を示す側面側断面模式図である。
【0026】
図1(a)に示す如く、本発明の第一実施例に係る粉末成形体の成形方法において使用する金型2は、上ポンチ3、下ポンチ4、およびダイ5からなり、粉末成形体の成形装置11における成形部を構成している。
上型となる上ポンチ3の下面部には上型面3aが形成され、下型となる下ポンチ4の上面部には下型面4aが形成される。また、ダイ5には、ダイ5を上下方向に貫通する竪穴状の孔部5aが形成され、該孔部5aによって、側型面5bを形成している。
【0027】
平面視において、孔部5aの形状と、上ポンチ3の挿入部3bの形状および下ポンチ4の挿入部4bの形状は略一致しており、孔部5aに比して各挿入部3b・4bを若干小さめにして、微小なクリアランスを確保しながら、孔部5aに対して、各挿入部3b・4bを挿入することが可能な構成としている。
【0028】
さらに、ダイ5の下端面5eと側型面5bによって形成される肩部を部分的に切欠いて、孔部5aに連通する切欠き部5cを形成している。そして、切欠き部5cによって、孔部5aと、ダイ5の外部(即ち、金型2の外部)とを連通する流路Pを形成している。
尚、本実施例では、切欠き部5cによって、流路Pを形成する場合を例示しているが、流路Pは、例えば、孔部5aと、ダイ5の外部(即ち、金型2の外部)とを連通する孔をダイ5に穿設する態様とすることも可能である。
【0029】
図1(b)に示す如く、ダイ5の孔部5aに対して、上ポンチ3および下ポンチ4の各挿入部3b・4bを挿入して、金型2が組み合わされる。下ポンチ4は、挿入部4bが孔部5aに挿入された状態で上下方向に摺動することが可能であり、少なくとも金属粉末が充填される際の配置となる位置A(以後、金属粉末充填位置Aと呼ぶ)と、潤滑剤が塗布される際の配置となる位置B(以降、潤滑剤塗布位置Bと呼ぶ)に変位可能な構成としている。
【0030】
そして、金型2を構成する各部材3・4・5が組み合わされるとき、孔部5aにおいて、上型面3a、下型面4a、側型面5bによって囲まれる空隙部たるキャビティ6が形成される。すなわち、前記上型面3a、下型面4a、側型面5bはキャビティ面に構成されている。
ただし、キャビティ6は、上ポンチ3が取り外されて、上型面3a側が開放される態様となる場合があるため、本説明では、少なくとも、下型面4aおよび側型面5bによって囲まれる空間が形成されている場合であれば、その空間をキャビティ6と呼ぶものとする。
【0031】
(潤滑剤塗布工程)
本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、まず始めに潤滑剤塗布工程を実施する。
図2(a)・(b)に示す如く、潤滑剤塗布工程では、上ポンチ3(図2では図示せず)を孔部5aから取り外して、キャビティ6の上型面3a側が開放された状態とする。これにより、成形装置11のノズル7によって、キャビティ6の上方から潤滑剤8を噴霧して、下型面4aや側型面5bに潤滑剤8を塗布することが可能になる。
【0032】
潤滑剤塗布工程では、下ポンチ4は、金属粉末充填位置Aに比して低い位置となる潤滑剤塗布位置Bに配置され、キャビティ6が下方に拡大される。このキャビティ6が拡大された部位(以後、拡大部6aと呼ぶ)には、切欠き部5cによって形成される流路Pが連通している(流路Pがダイ5の側型面5bに開口している)ため、下ポンチ4が潤滑剤塗布位置Bに配置されることによって、キャビティ6内から流路Pを介して金型2の下方に連通する、すなわちキャビティ6と金型2の外部とを連通する流出経路Qが形成される。
これにより、キャビティ6に塗布された潤滑剤8が流出経路Qを通じてキャビティ6外部へ流出可能となる。
尚、本実施例では、下ポンチ4を潤滑剤塗布位置Bに変位させて流出経路Qを形成する場合を例示しているが、下ポンチ4とダイ5の相対位置を変化させることによって流出経路Qを形成することができればよく、例えば、下ポンチ4は静止させておいて、ダイ5を上方に変位させることによって、流出経路Qを形成する構成とすることも可能である。
【0033】
即ち、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法、およびそれに使用する成形装置11では、流出経路Qは、ダイ5に形成され、ダイ5のキャビティ面における、金属粉末充填工程での下ポンチ4のキャビティ面よりも下方位置に開口しており、キャビティ6と金型2の外部とを連通する流路Pによって形成され、流出経路形成工程において、下ポンチ4を金属粉末充填工程における下ポンチ4の配置位置(金属粉末充填位置A)に比して下方に変位し、キャビティ6を下方に拡大させて、流路Pをダイ5のキャビティ面に開口させることにより、キャビティ6に塗布された潤滑剤8が流路Pを通じてキャビティ6の外部へ流出可能となるものである。
これにより、キャビティ6から潤滑剤8が流出するための流出経路Qを容易に形成することができる。
【0034】
また、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法およびそれに使用する成形装置11では、流路Pは、ダイ5の下端面5eに形成され、キャビティ6の拡大部6aとダイ5の外部とを連通する切欠き部5cによって形成するものである。
これにより、キャビティ6から潤滑剤8が流出するための流出経路Qとなる流路Pを容易に形成することができる。
【0035】
図2(b)に示す如く、下ポンチ4を潤滑剤塗布位置Bに配置した状態で、キャビティ6に対して、ノズル7から潤滑剤8を噴霧する場合、流出経路Qから潤滑剤8を排出させながら、下型面4aや側型面5bに潤滑剤8を塗布することができる。つまり、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法で使用する金型2では、潤滑剤塗布工程において、ノズル7からキャビティ6に噴霧された潤滑剤8の流れが、下ポンチ4によって行き止りとなることがない。
【0036】
また、孔部5aのコーナー部は潤滑剤8が塗布されにくい部位となるが、コーナー部の周辺に切欠き部5cを形成することによって、コーナー部周辺に潤滑剤8の流れを到達させることが可能となる。つまり、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、切欠き部5cの配置や大きさ等を調整することによって、容易に潤滑剤8の塗布状態を調整することができる。
【0037】
尚、キャビティ6から潤滑剤8を排出する経路を形成するために、下ポンチ4を孔部5aから抜き去ってしまうことによって、孔部5aを下方に向けて開放して、排出経路を形成することも可能である。しかしながら、下ポンチ4と孔部5aのクリアランスが微少であり、抜き去った下ポンチ4を孔部5aに再度差し込むことが困難となることや、下ポンチ4を孔部5aに差し込む際に下ポンチ4やダイ5を傷める可能性があること等を考慮すれば、本実施例に示す如く、下ポンチ4を孔部5aから抜いてしまわずに、切欠き部5cを設けることによって流出経路Qを確保する構成とするのが、製造工程の短縮や金型の寿命確保の観点等から見てより好ましいと言える。
【0038】
(金属粉末充填工程)
図3に示す如く、下型面4aや側型面5bに潤滑剤8が塗布されたキャビティ6に対して、成形装置11が備えるフィーダー9によって金属粉末10を供給する。
フィーダー9は、ダイ5の上端面5d上をスライドすることが可能であり、上端面5d上をスライドしながら金属粉末10を供給することによって、キャビティ6内に均等に金属粉末10を供給することが可能である。
【0039】
図4に示す如く、所定量の金属粉末10がキャビティ6に供給された後、上ポンチ3を再度配置する。このとき上ポンチ3の上型面3aには予め潤滑剤8を塗布しておく。
これにより、隈なく潤滑剤8が塗布された状態のキャビティ6に対して、金属粉末10が充填された状態とすることができる。
尚、下ポンチ4を金属粉末充填位置Aに配置した状態では、キャビティ6(より詳しくは拡大部6a)に連通する切欠き部5cによる流路Pは、下ポンチ4の挿入部4bによって封止されているため、流出経路Qは形成されない。これにより、キャビティ6に充填される金属粉末10が、流出経路Qから排出されることはない。
【0040】
(粉末成形体成形工程)
図5に示す如く、上ポンチ3を下方に変位させることによってキャビティ6を縮小させる。そして、キャビティ6内に充填された金属粉末10(図5には図示せず)をプレスして、粉末成形体1が成形される。
尚、粉末成形体成形工程においては、下ポンチ4は金属粉末充填位置Aに配置した状態を保持しており、流出経路Qは形成されない。つまり、ダイ5に切欠き部5cによる流路Pを形成した場合であっても、粉末成形体成形工程に影響を及ぼすことはなく、粉末成形体1の品質を確保することができる。
【0041】
そして、成形された粉末成形体1は、金型2から取り出される。本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、短時間でキャビティ6に隈なく潤滑剤8を塗布することができるため、金型2から粉末成形体1を取り出す際に粉末成形体1と金型2との間で生じる摩擦力が低減され、粉末成形体1の取り出しが容易となって、成形工程が短縮できる。さらに、金型2にカジリが発生することも防止できるため、金型2の長寿命化が図られる。
【0042】
即ち、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法においては、上型となる上ポンチ3と、下型となる下ポンチ4と、側部の型となるダイ5と、からなる金型2によって形成されるキャビティ6に対して、ノズル7から潤滑剤8を噴霧することによって、キャビティ6に潤滑剤8を塗布する潤滑剤塗布工程と、キャビティ6に対して、金属粉末10を充填する金属粉末充填工程と、金型2によって、キャビティ6に充填された金属粉末10をプレスして粉末成形体1を成形するプレス成形工程と、を備える粉末成形体1の成形方法であって、潤滑剤塗布工程より以前に実行され、潤滑剤8の流出経路Qを形成する流出流路形成工程を備えるものである。
【0043】
また、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形装置11は、上型となる上ポンチ3と、下型となる下ポンチ4と、側部の型となるダイ5と、からなる金型2によって形成されるキャビティ6に対して、ノズル7から潤滑剤8を噴霧してキャビティ6に潤滑剤8を塗布した後、キャビティ6に対して、金属粉末10を充填し、金型2によって、キャビティ6に充填された金属粉末10をプレスすることにより粉末成形体1を成形する粉末成形体1の成形装置11であって、キャビティ6に塗布された潤滑剤8をキャビティ6の外部へ流出させるための流出経路Qを形成したものである。
このように、キャビティ6から潤滑剤8が流出するための流出経路Qを形成することによって、潤滑剤8をキャビティ6に対して均等に塗布することができる。
【0044】
次に、本発明の第二実施例に係る金型22による粉末成形体1の成形方法について、図6、図7を用いて説明する。図6は本発明の第二実施例に係る金型を備える成形装置を示す模式図であり、(a)金型を分解した状態の側面側断面模式図、(b)金型を組み合わせた状態の側面側断面模式図、図7は本発明の第二実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(潤滑剤塗布工程)を示す側面側断面模式図である。
【0045】
図6(a)に示す如く、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法において使用する金型22は、上ポンチ23、下ポンチ24、およびダイ25からなり、粉末成形体の成形装置31における成形部を構成している。
上型となる上ポンチ23の下面部には上型面23aが形成され、下型となる下ポンチ24の上面部には、下型面24aが形成される。また、ダイ25には、ダイ25を上下方向に貫通する竪穴状の孔部25aが形成され、該孔部25aによって、側型面25bを形成している。
【0046】
平面視において、孔部25aの形状と、上ポンチ23の挿入部23bの形状および下ポンチ24の挿入部24bの形状は略一致しており、孔部25aに比して各挿入部23b・24bを若干小さめにして、微小なクリアランスを保持しながら、孔部25aに対して、各挿入部23b・24bを挿入することが可能な構成としている。尚、第一実施例に係る金型2を構成するダイ5とは異なり、ダイ25の下端面25eには、切欠き部を形成していない。
【0047】
図6(b)に示す如く、孔部25aに対して、各ポンチ23・24の各挿入部23b・24bを挿入して、金型22を組み合わされる。そして、金型22を構成する各部材23・24・25が組み合わされるとき、上型面23a、下型面24a、側型面25bによって囲まれる空隙部たるキャビティ26が形成される。すなわち、前記上型面23a、下型面24a、側型面25bはキャビティ面に構成されている。
ただし、キャビティ26は、上ポンチ23が取り外されて、上型面23a側が開放される態様となる場合があり、少なくとも、下型面24aおよび側型面25bによって囲まれる空間が形成されていれば、その空間をキャビティ26と呼ぶものとする。
【0048】
(潤滑剤塗布工程)
本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、まず始めに潤滑剤塗布工程を実施する。
図7に示す如く、潤滑剤塗布工程では、上ポンチ23(図7では図示せず)を孔部25aから取り外した状態として、キャビティ26の上型面23a側が開放された状態とする。これにより、ノズル7によって、キャビティ26の上方から潤滑剤8を噴霧して、下型面24aや側型面25bに潤滑剤8を塗布することが可能になる。
【0049】
次に、キャビティ26に対して、上方から整流板28を挿入する。さらに本実施例では、孔部25aと上端面25dの境界部付近に遮蔽板29・29を配置する。
これにより、キャビティ26は、整流板28によって、互いに連通する流入側キャビティ26aと流出側キャビティ26bに分割される。このとき、整流板28は、下端部28aがキャビティ26の底部となる下型面24aから離間する深さに挿入されるため、流入側キャビティ26aと流出側キャビティ26bはキャビティ26の底部において連通している。これにより、流出側キャビティ26bによって、流入側キャビティ26aから潤滑剤8が流出する経路となる流出経路Rを形成している。
【0050】
キャビティ26を整流板28によって、流入側キャビティ26aと流出側キャビティ26bに分割した状態で、ノズル7によって潤滑剤8を流入側キャビティ26aへ噴霧すると、流入側キャビティ26aから流出側キャビティ26bへの潤滑剤8の流れができ、流出経路Rから潤滑剤8を排出しながら、下型面24aや側型面25bに潤滑剤8を塗布することができる。つまり、本発明の第二実施例に係る金型22では、ノズル7からキャビティ26に噴霧された潤滑剤8の流れが、下ポンチ24によって行き止りとなることがない。
【0051】
また、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、潤滑剤塗布工程の際に下ポンチ24を下方に変位させる必要はなく、下ポンチ24は、前述した本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法で示した金属粉末充填位置Aに相当する一定の位置が保持される。
【0052】
また、遮蔽板29・29は、孔部25aと上端面25dの境界部付近に配置され、ノズル7から噴霧された潤滑剤8が上端面25dに付着することを防止する役割を果たしている。これにより、上端面25dに付着して固化した潤滑剤8が、キャビティ26に充填された金属粉末10に混入することを防止している。
【0053】
また、孔部25aのコーナー部は潤滑剤8が塗布されにくい部位となるが、整流板28の形状や挿入位置・深さ等を調整することによって、コーナー部周辺に潤滑剤8の流れを到達させることが可能となる。つまり、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、整流板28の形状や挿入位置・深さ等を調整することによって、容易に潤滑剤8の塗布状態を調整することができる。
尚、本実施例では、整流板28をキャビティ26内に下降させて流出経路Rを形成する場合を例示しているが、整流板28とキャビティ26の相対位置を変化させることによって流出経路Rを形成することができればよく、例えば、整流板28をキャビティ26の上方で静止させておいて、下ポンチ24およびダイ25を上方に変位させて流出経路Rを形成する構成とすることも可能である。
【0054】
(金属粉末充填工程〜粉末成形体成形工程)
本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法においては、金属粉末充填工程から粉末成形体成形工程に至るまでの各工程は、前述した本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法と同様であるので、ここでの説明は割愛するが、粉末成形体成形工程の後、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法によって成形された粉末成形体1は、金型22から取り出される。
【0055】
本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法では、短時間でキャビティ26に隈なく潤滑剤8を塗布することができるため、金型22から粉末成形体1を取り出す際に粉末成形体1と金型22との間で生じる摩擦力が低減され、粉末成形体1の取り出しが容易となって、成形工程が短縮できる。さらに、金型22にカジリが発生することも防止できるため、金型22の長寿命化が図られる。
【0056】
即ち、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法においては、流出経路形成工程において、キャビティ26内に整流板28を挿入して、整流板28によって、キャビティ26を互いに連通する流入側キャビティ26aと流出側キャビティ26bに分割して、流出側キャビティ26bによって、流出経路Rを形成するものである。
【0057】
また、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形装置31は、キャビティ26内に整流板28を挿入することによりキャビティ26を分割して、互いに連通する流入側キャビティ26aと流出側キャビティ26bとを形成し、流出側キャビティ26bを流出経路Rとして構成したものである。
これにより、キャビティ26から潤滑剤8が流出するための流出経路Rを容易に形成することができる。
【0058】
また、本実施例では、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法と、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法をそれぞれ個別に適用した場合を例示したが、本発明の第一実施例に係る粉末成形体1の成形方法と、本発明の第二実施例に係る粉末成形体1の成形方法を組み合わせて適用することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第一実施例に係る金型を備える成形装置を示す模式図であり、(a)金型を分解した状態の側面側断面模式図、(b)金型を組み合わせた状態の側面側断面模式図。
【図2】本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(潤滑剤塗布工程)を示す模式図であり、(a)潤滑剤塗布前の状態を示す側面側断面模式図、(b)潤滑剤塗布状態を示す側面側断面模式図。
【図3】本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(金属粉末充填工程)を示す側面側断面模式図。
【図4】本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(プレス成形工程(プレス前))を示す側面側断面模式図。
【図5】本発明の第一実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(プレス成形工程(プレス状態))を示す側面側断面模式図。
【図6】本発明の第二実施例に係る金型を備える成形装置を示す模式図であり、(a)金型を分解した状態の側面側断面模式図、(b)金型を組み合わせた状態の側面側断面模式図。
【図7】本発明の第二実施例に係る金型による粉末成形体の成形工程(潤滑剤塗布工程)を示す側面側断面模式図。
【符号の説明】
【0060】
1 粉末成形体
2 金型
3 上ポンチ
4 下ポンチ
5 ダイ
6 キャビティ
7 ノズル
8 潤滑剤
10 金属粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型となる上ポンチと、
下型となる下ポンチと、
側部の型となるダイと、
からなる金型によって形成されるキャビティに対して、
ノズルから潤滑剤を噴霧することによって、
前記キャビティに前記潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程と、
前記キャビティに対して、金属粉末を充填する金属粉末充填工程と、
前記金型によって、
前記キャビティに充填された前記金属粉末をプレスして粉末成形体を成形するプレス成形工程と、
を備える粉末成形体の成形方法であって、
前記潤滑剤塗布工程より以前に実行され、
前記キャビティに塗布された前記潤滑剤をキャビティ外部へ流出させるための流出経路を形成する流出経路形成工程を備える、
ことを特徴とする粉末成形体の成形方法。
【請求項2】
前記流出経路は、
前記ダイに形成され、前記ダイのキャビティ面における、前記金属粉末充填工程での前記下ポンチのキャビティ面よりも下方位置に開口しており、前記キャビティと前記金型の外部とを連通する流路によって形成され、
前記流出経路形成工程において、
前記下ポンチを前記金属粉末充填工程における前記下ポンチの配置位置に比して下方に変位し、前記キャビティを下方に拡大させて、前記流路を前記ダイのキャビティ面に開口させることにより、
前記キャビティに塗布された前記潤滑剤が前記流路を通じてキャビティ外部へ流出可能となる、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉末成形体の成形方法。
【請求項3】
前記流路は、
前記ダイの下面に形成され、前記キャビティの拡大された部位と前記ダイの外部とを連通する切欠き部によって形成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の粉末成形体の成形方法。
【請求項4】
前記流出経路は、
前記流出経路形成工程において、
前記キャビティ内に整流板を挿入して、
該整流板によって、
前記キャビティを互いに連通する流入側キャビティと流出側キャビティに分割して、
前記流出側キャビティによって、
前記流出経路を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉末成形体の成形方法。
【請求項5】
上型となる上ポンチと、
下型となる下ポンチと、
側部の型となるダイと、
からなる金型によって形成されるキャビティに対して、
ノズルから潤滑剤を噴霧して前記キャビティに前記潤滑剤を塗布した後、
前記キャビティに対して、金属粉末を充填し、
前記金型によって、前記キャビティに充填された前記金属粉末をプレスすることにより粉末成形体を成形する粉末成形体の成形装置であって、
前記キャビティに塗布された前記潤滑剤をキャビティ外部へ流出させるための流出経路を形成した、
ことを特徴とする粉末成形体の成形装置。
【請求項6】
前記流出経路は、
前記ダイに形成され、前記ダイのキャビティ面における、前記金属粉末充填工程での前記下ポンチのキャビティ面よりも下方位置に開口しており、前記キャビティと前記金型の外部とを連通する流路によって形成され、
前記下ポンチを、前記金属粉末を前記キャビティに対して充填する際の前記下ポンチの配置位置に比して下方に変位し、前記キャビティを下方に拡大させて、前記流路を前記ダイのキャビティ面に開口させることにより、
前記キャビティに塗布された前記潤滑剤を、前記流路を通じてキャビティ外部へ流出させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の粉末成形体の成形装置。
【請求項7】
前記流路は、
前記ダイの下面に形成され、前記キャビティの拡大された部位と前記ダイの外部とを連通する切欠き部によって形成する、
ことを特徴とする請求項6に記載の粉末成形体の成形装置。
【請求項8】
前記キャビティ内に整流板を挿入することにより前記キャビティを分割して、
互いに連通する流入側キャビティと流出側キャビティとを形成し、
前記流出側キャビティを前記流出経路として構成した、
ことを特徴とする請求項5に記載の粉末成形体の成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−94688(P2010−94688A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265665(P2008−265665)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)