説明

粉末成形体の搬送装置

【課題】重量が大きくて真空吸着パッドによる上面の吸着保持もできない粉末成形体であっても、搬送装置によるプレス金型からの払い出しを、搬送に起因した変形や破損を生じさせずに行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】対向一対のチャックハンド2,2と、そのチャックハンドの開閉駆動源3と、チャックハンドを取り出し部Sから払い出し部Eに移動させる移送機構4と、真空吸着装置5を有する。この装置を、例えば、真空吸着パッド5aの先端が粉末成形体Aの側面に接する位置までチャックハンド2,2を閉じ、この状態で真空吸着パッド5aにより粉末成形体Aを吸着し、その吸着による保持力にチャックハンド2,2による締め付け力を加算した力で粉末成形体を保持するように作動させて保持した粉末成形体をプレス金型上から払い出し部に移動させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレス金型から押し出された焼結部品用の粉末成形体を変形や破損を抑制して搬送することを可能にした粉末成形体の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結歯車や可変バルブタイミング機構用の焼結カムなどの各種焼結部品は、原料粉末の圧粉成形工程と、得られた粉末成形体を焼結する焼結工程を経て製造される。
【0003】
このうち、圧粉成形工程では、原料粉末がプレス金型によって成形され、ここで得られた粉末成形体が焼結炉に移送される。その移送には、例えば、下記特許文献1に開示されるような搬送装置が利用されている。
【0004】
特許文献1に開示された搬送装置は、プレス機のキャビティから押し出された粉末成形体を対向一対のチャックハンドで掴み、そのチャックハンドをガイドで案内しながら搬送シリンダで移動させて掴んだ粉末成形体をシュートの位置まで搬送する。シュートは、前下がり傾斜のシュートであり、チャックハンドによる把持の解かれた粉末成形体は、このシュート上を滑り降りて次の搬送ラインに乗り移る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−252504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来は、成形機のプレス金型から押し出された粉末成形体をチャックハンドで掴んでシュートの位置まで搬送していた。しかしながら、この方法では、チャックハンドによる掴みによって粉末成形体が変形することがあり、また、極端なケースでは破損することもあった。
【0007】
チャックハンドの把持面には、保護用のゴムを取り付けているが、それでも、上記の変形、破損の問題が生じている。
【0008】
なお、チャックハンドの把持力は、エアーシリンダで生じさせており、そのエアーシリンダの出力を下げて把持力を弱めることを試みたところ、重量の大きい粉末成形体の搬送、中でも、掴みが安定し難いバリの生じた粉末成形体の搬送や、搬送距離の長い状況での搬送では、チャックハンドによる把持が不十分で満足のいく搬送ができなかった。
【0009】
ここで、ワークを掴まずに搬送できる装置として、ワークの上面を真空吸着パッドで吸着し、この状態でワークを吊り下げて搬送する装置が知られているが、この種の装置は、上面に凹凸のある粉末成形体や、上面の幅が狭かくて十分な吸着面積を確保できないリング状の粉末成形体などの搬送には利用することができない。
【0010】
この発明は、重量が大きくて真空吸着パッドによる上面の吸着保持ができない粉末成形体であっても、搬送装置によるプレス金型からの払い出しを、搬送に起因した変形や破損を生じさせずに行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、プレス金型から押し出された粉末成形体を間にして対向配置する一対のチャックハンドと、そのチャックハンドを開閉させる開閉駆動源と、前記チャックハンドを前記プレス金型上から払い出し部に移動させる移送機構と、前記対のチャックハンドの各々にそれぞれ取り付ける真空吸着パッドが含まれた真空吸着装置を有する粉末成形体の搬送装置を提供する。
【0012】
この搬送装置は、チャックハンドと真空吸着装置を組み合わせており、吸着を主体にした粉末成形体の保持が行える。真空吸着パッドで粉末成形体の側面を吸着するので、粉末成形体の上面に吸着を阻害する凹凸があったり、上面が十分な吸着面積を確保できない状況になっていたりしても、吸着保持を行うことができる。
【0013】
また、対のチャックハンドに真空吸着パッドを取り付けて粉末成形体を対向位置から吸着するので、片側吸着に比べて吸着の安定性も高まる。
【0014】
その吸着を主体にした保持を行うことで、チャックハンドによる把持力を従来装置に比べて小さくすることが可能になり(粉末成形体の大きさによっては、十分にゼロに近づけることが可能)、それによって、粉末成形体の変形や破損を抑制することが可能になる。
【0015】
この搬送装置の好ましい形態を以下に列挙する。
i)前記チャックハンドのワーク把持面から突出させた前記真空吸着パッドの先端が前記粉末成形体の側面に接する位置まで前記チャックハンドを閉じ、この状態で対向位置の真空吸着パッドで前記粉末成形体を吸着保持し、その吸着保持の力に前記チャックハンドによる締め付け力を加算した力で前記粉末成形体を保持してプレス金型上から払い出し部に移動させるように構成されたもの。なお、ここで言う粉末成形体の側面には、外周面も含まれる。
ii)前記真空吸着パッドを、各チャックハンドにそれぞれ複数個設けたもの。
iii)粉末成形機に原料粉末投入用として設けられる給粉ボックスの移動機構を前記移送機構として併用し、前記給粉ボックスが前記プレス金型のキャビティ上に移動した位置で、前記チャックハンドが前記粉末成形体の払い出し部に到達するようにしたもの。
iv)前記チャックハンドに、前記粉末成形体が保持すべき位置にあることと保持位置から離れたことを検出するセンサを設け、そのセンサからの検出信号に基づいてチャックハンドの動作制御を行なうようにしたもの。
【0016】
上記i)の構成を備える搬送装置は、真空吸着パッドで粉末成形体の側面を吸着するので、粉末成形体の上面に吸着を阻害する凹凸があったり、上面が十分な吸着面積を確保できない状況になっていたりしても、吸着保持を行うことができる。
【0017】
また、各チャックハンドに真空吸着パッドをそれぞれ複数個設けたものは、粉末成形体の側面の広範な領域に保持力を働かせることができ、保持安定が高まる。
【0018】
また、粉末成形機の給粉ボックスの移動機構を、チャックハンド移動用の移送機構として併用するものは、専用の移送機構を設ける必要がない。また、チャックハンドの移動と給粉ボックスの移動を同時進行させることになるので、タクトタイムの短縮にもつながる。
【0019】
さらに、チャックハンドに粉末成形体の存在を検出するセンサを設けたものは、チャックハンドによるいわゆるチャックミスが起こらず、いわゆる2度掴みなどによる粉末成形体の破損などが防止される。
【発明の効果】
【0020】
この発明の搬送装置は、チャックハンドと真空吸着装置を組み合わせているので、吸着を主体にした粉末成形体の保持と、チャックハンドによる保持の助勢を行うことができる。これにより、重量が大きく、かつ、上面の吸着保持ができない粉末成形体であっても、搬送装置によるプレス金型からの払い出しを、搬送に起因した変形や破損を生じさせずに行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の粉末成形体の搬送装置の一形態を示す平面図
【図2】図1の搬送装置の側面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の粉末成形体の搬送装置の実施の形態を、添付図面の図1、図2に基づいて説明する。例示の搬送装置1は、対向一対のチャックハンド2,2と、そのチャックハンド2,2を開閉させる開閉駆動源3と、チャックハンド2,2をプレス金型10上の成形体の取り出し部Sから払い出し部Eに移動させる移送機構4と、真空吸着装置5と、センサ6を組み合わせて構成されている。
【0023】
チャックハンド2,2は、一方が移送機構4の可動フレームに固定され、他方が開閉駆動源3に駆動され、その駆動により他方のチャックハンドが一方のチャックハンドに対して接近離反して開閉するものを示した。このチャックハンド2,2は、双方が駆動されるものであってもよい。
【0024】
そのチャックハンド2,2に、真空吸着装置5に含ませる真空吸着パッド5aが取り付けられている。各チャックハンド2,2は、ここでは搬送対象の粉末成形体Aが円筒状の部品であるので、各々のワーク把持面2aを粉末成形体Aの外周に沿う円弧の凹面にしている。
【0025】
そのチャックハンド2,2の各々に、真空吸着パッド5aを、ゴムのパッドが装着された先端を各チャックハンド2,2のワーク把持面2aから内向きに突出させてそれぞれ3個設けている。各チャックハンド2,2に設ける真空吸着パッド5aの数は、最低で1個あればよいが、その数を増やせば、粉末成形体Aの表面の広範な領域を吸着することができる。
【0026】
センサ6は、片方のチャックハンド2に設ける投光部と他方のチャックハンド2に設ける受光部を組み合わせたものであり、粉末成形体Aが存在することをそのセンサ6で検出してチャックハンド2を作動させるようにしている。また、このセンサ6で、保持解除後の粉末成形体Aが確実に放出されたことを検出し、同成形体の破損を招くいわゆる2度掴みなどを防止できるようにしている。
【0027】
チャックハンド2,2を作動させる開閉駆動源3は、スライダ3aとそれを案内する直線のスライドガイド3bと、スライダを進退させるエアーシリンダ3cとで構成され、他方のチャックハンド2が平行移動して開閉するものを示した。ただし、これに限定されるものではない。対のチャックハンド2,2の動作も、少なくとも片方のチャックハンドが観音開きの状態に駆動されて開閉するものであってもよい。
【0028】
ここで示した移送機構4は、粉末成形機に原料粉末投入用として設けられる給粉ボックス11の移動機構12が併用されている。その移動機構12には、アクチュエータ13で押し引きして図示しないガイドに沿って移動させる可動フレーム14が含まれており、その可動フレーム14に、給粉ボックス11と、プレス金型のダイ(図示せず)の上面に落ちた粉末をプレス金型のキャビティ(これも図示せず)に掻き落す落粉スクレパー15が取り付けられている。
【0029】
以上の通りに構成された例示の搬送装置1は、取り出し部Sにおいてプレス金型のキャビティから押し出された粉末成形体Aを受け取り、それを払出し部Eに移動させる。
【0030】
チャックハンド2,2が図1の位置にある状態で粉末の成形が完了する。そして、粉末成形機の上パンチ10aが上昇し、粉末成形体Aがプレス金型10のキャビティから取り出し部Sに押し出される。
【0031】
その粉末成形体Aをセンサ6が検出して搬送装置1が駆動され、真空吸着パッド5aの先端が粉末成形体Aの側面に接する位置までチャックハンド2,2が閉じる。このときのチャックハンドの掴みは、図示の装置については、スライダ3aの移動終点を機械的ストッパ(図示せず)で設定するようにしており、機械的ストッパの位置調整によってチャックハンドによる掴み力を調整することができる。
【0032】
チャックハンドが閉じた位置で対向配置の真空吸着パッド5aが粉末成形体Aを吸着保持し、その吸着保持の力にチャックハンド2,2による締め付け力(その力は不足分を補えればよく、可及的にゼロに近づけることが可能)が加算された力で粉末成形体Aの保持が行われる。
【0033】
その後、保持した粉末成形体Aが取り出し部Sから払い出し部Eに搬送される。
【0034】
可動フレーム14が、アクチュエータ13に駆動されて給粉ボックス11がプレス金型のキャビティ上(取り出し部Sの位置)に来たときに、搬送装置1のチャックハンド2,2が払い出し部Eに移動し、そこで、チャックハンド2,2による保持が解かれて粉末成形体Aが次段の搬送ラインに移される。
【0035】
払い出し部Eには、前下がり傾斜のシュート16が設けられており、搬送装置1による把持が解かれた粉末成形体Aは、そのシュート16上を滑り降りて次段の搬送ライン(図示せず)に乗り移る。
【0036】
なお、給粉ボックスの移動機構12を移送機構4として利用する例示の搬送装置1は、移送した粉末成形体の払い出しと、キャビティに対する給粉ボックス11からの粉末の投入が同時進行の形で行なわれる。この構造によれば駆動源の共通化ができて好ましいが、粉末成形体を保持したチャックハンド2の移動は、給粉ボックス用の移動機構12から独立した専用の移送機構を設けて行っても構わない。
【0037】
例示の搬送装置を試作し、直径が約φ100mm、重さが約360gのリング状粉末成形体の搬送試験を行った。その結果、搬送された製品の真円度(焼結後に調べてた)が、ワークハンドによる把持力のみで粉末成形体を掴んで搬送したときに比べて向上し、粉末成形体が壊れることもなかった。
【0038】
また、片方のチャックハンドの真空吸着パッド5aのみで粉末成形体を吸着することを試みたが、それでは安定保持ができなかったのに対し、真空吸着パッド5aを対のチャックハンドの双方に設置したものは、その安定保持がなされた。
【符号の説明】
【0039】
1 搬送装置
2 チャックハンド
2a ワーク把持面
3 開閉駆動源
3a スライダ
3b スライドガイド
3c エアーシリンダ
4 移送機構
5 真空吸着装置
5a 真空吸着パッド
6 センサ
10 プレス金型
10a 上パンチ
11 給粉ボックス
12 移動機構
13 アクチュエータ
14 可動フレーム
15 落粉スクレパー
16 シュート
A 粉末成形体
S 取り出し部
E 払い出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス金型(10)から押し出された粉末成形体(A)を間にして対向配置する一対のチャックハンド(2,2)と、そのチャックハンド(2,2)を開閉させる開閉駆動源(3)と、前記チャックハンド(2,2)を前記プレス金型(10)上から払い出し部に移動させる移送機構(4)と、前記対のチャックハンド(2,2)の各々にそれぞれ取り付ける真空吸着パッド(5a)が含まれた真空吸着装置(5)を有する粉末成形体の搬送装置。
【請求項2】
前記チャックハンド(2,2)のワーク把持面(2a)から突出させた前記真空吸着パッド(5a)の先端が前記粉末成形体(A)の側面に接する位置まで前記チャックハンド(2,2)を閉じ、この状態で対向位置の真空吸着パッド(5a)で前記粉末成形体(A)を吸着保持し、その吸着保持の力に前記チャックハンド(2,2)による締め付け力を加算した力で前記粉末成形体(A)を保持してプレス金型上から払い出し部に移動させるように構成された請求項1に記載の粉末成形体の搬送装置。
【請求項3】
前記真空吸着パッド(5a)を、各チャックハンド(2,2)にそれぞれ複数個設けた請求項1又は2に記載の粉末成形体の搬送装置。
【請求項4】
粉末成形機に原料粉末投入用として設けられる給粉ボックス(11)の移動機構(12)を前記移送機構(4)として併用し、前記給粉ボックス(11)が前記プレス金型(10)のキャビティ上に移動した位置で、前記チャックハンド(2,2)が前記粉末成形体(A)の払い出し部に到達するようにした請求項1〜3のいずれかに記載の粉末成形体の搬送装置。
【請求項5】
前記チャックハンド(2,2)に、前記粉末成形体(A)が保持すべき位置にあることと保持位置から離れたことを検出するセンサ(6)を設け、そのセンサからの検出信号に基づいてチャックハンドの動作制御を行なうようにした請求項1〜4のいずれかに記載の粉末成形体の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−250269(P2012−250269A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125968(P2011−125968)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)