説明

粉粒物質の加熱処理装置

【課題】粉または粒状物質を処理対象原料とし、これを正確に短時間加熱処理する安価な加熱処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、粉または粒状原料の押出し機を、原料の加圧・せん断を担うバレルと流量と圧力調節とを担う出口ノズルとで構成し、バレルのスクリュー外面およびシリンダー内面のそれぞれに羽根を付け、押し出される原料がこれらの羽根の間でせん断される構造とし、出口ノズルは押し出される原料の流れに抵抗を与える構造体を配置した構造にしてせん断熱で原料を加熱することでエネルギー効率が高く安価な加熱処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉または粒状の穀物原料等を短時間加熱する加熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、米糠や大豆などの粉状または粒状の物質を、例えば、摂氏130度(以下130℃と略す)で均一且つ正確に5秒間加熱するという適切な短時間加熱制御装置がなかった。押出し機(extruder)は原料が押出される過程で摩擦とせん断により原料自身で熱が発生するので加熱装置として適している。例えば、特許文献1および3の図1、特許文献2の図3にその例が示されている。しかし、摩擦とせん断が押出し機のシリンダー管面に集中するため、原料に温度むらが生じ、目的とする熱処理が均一に出来なかった。
【特許文献1】米国特許U.S.4,741,264 (図1)
【特許文献2】特許広報第2956622号 (3頁 図3)
【特許文献3】特許公開2004−209132 (図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粉や粒状の穀物や香辛料等を殺菌する場合、風味と栄養素を損なわずに殺菌する熱処理条件は、例えが150℃で5秒間加熱するというように短時間且つ正確な制御が必要になる。このような目的の超高温(Ultra High Temperature:UHT)粉体殺菌方法として過熱水蒸気法と二軸エクストルーダー法があるが、装置コストおよび運転コストが高いのが欠点である。本発明は一軸エクストルーダーでUHT殺菌および酵素失活を実現し、殺菌コストおよびエネルギー消費を大幅に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
押出し機は原料が押出される過程で原料自身の摩擦とせん断による発熱を利用できるので、構造が簡単でエネルギー効率が良く、低コストの加熱装置として適している。しかしながら、押出し機の場合は原料がバレル内で圧縮塊となるため、シリンダー管面に接する部分では摩擦とせん断熱により品温が上昇するが、それ以外の部分では発熱が少ないため原料の熱伝導率が悪いと品温に著しいむらが発生する。このため、熱処理が不均一となり、リパーゼ失活や殺菌が不十分になる。米糠は熱伝導率が極めて悪いため、実験によれば品温むらは50℃〜80℃と大きい。本発明はバレル内での原料が通路の中央付近で加圧・せん断されるように出口ノズルに抵抗体を配置することで、品温むらをなくし且つ低コストでエネルギー効率の良い加熱処理装置を提供しようとするものである。
【0005】
本発明は、粉または粒状原料の押出し機を、原料の加圧・せん断を担うバレルと流量と圧力調節を担う出口ノズルとで構成し、バレルのスクリュー外面およびシリンダー内面のそれぞれに羽根を付け押し出される原料がこれらの羽根の間でせん断される構造とし、出口ノズルは押し出される原料の流れに抵抗を与える構造体を配置した構造にしてせん断熱で原料を加熱することを特徴とする加熱処理装置に関わるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下のような作用が得られる。原料はスクリューとシリンダーで挟まれた通路をスクリュー羽根により出口方向に押出されるが、シリンダー内面に羽根があるために、これらの羽根の間でせん断される。原料の出口排出抵抗を大きくすれば、シリンダーの押し出し力によって原料は加圧され塊状になり大きなせん断熱が発生する。もし、通路間隙を5mmとし、両方の羽根の高さをそれぞれ2.4mmにしておけば、原料は管面ではなく通路の中央でせん断される。ここでせん断熱は中央から四方に広がるため品温むらは少なくなる。さらに出口ノズルの間隙を1mm以下と狭くし、ここでも原料のせん断が生じるようにすれば品温むらはさらに少なくなる。また、羽根の高さを、原料の入り口近くではバレル間隙一杯に高くして押出し力を確保し、出口に向けては1/2程度または1/3から2/3程度まで変化させて、原料が通路内の異なる位置でせん断されるように構成すれば押出し過程で原料が攪拌され品温の均一性は更に増す。ここで、原料の排出抵抗を可変できる構造体を出口側に設置してせん断熱の発生を目的に応じて調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を実施する最良の形態は図1の押出し機に図6の解砕機構付き出口ノズルを取り付けたものである。以下、原料が米糠の場合について説明するが、本発明はこれに限定されることなく、米、麦、豆、そば、とうもろこしおよびこれらの粉状体、ふすま(糠)、胚などに適用できる。また、穀物以外でも粉または粒状に加工した茶葉、香辛料、野菜、果物、キノコ、キノコ培地、植物、肉、魚介類、ペットフード、飼料にも適用できる。なお、米糠の加熱処理の目的は内因性リパーゼを失活させ、米糠に含まれる微生物を殺菌することである.このような目的の押出し機はその用途にちなんでスタビライザと呼ばれることが多いので、図1はスタビライザ全体図としてある。
【0008】
次に、上記図示例の作動を説明する。原料はホッパー3に注入されフィーダー2を通して押出し機バレルに注入される。押出し機の主要部は、バレル部と出口ノズル部と主モータ1とで構成される。バレル部はシリンダー15と羽根の付いたスクリュー16とで構成され、両者で挟まれた間隙が原料の通路5となり、押出し圧力と摩擦、せん断により原料を発熱させる。出口ノズル部は内輪9および外輪10とで構成され、出口部に図3,4,5,6に示す抵抗体が設置され、バレル内を通過する原料の流量と圧力が調節される。スクリュー16と出口のズル内輪9は機械的に結合しており、主モーター1により駆動され回転する。
【0009】
原料はシリンダー15とスクリュー16とで挟まれた間隙で構成される通路を通り、スクリュー羽根17により出口方向に押し出される。ここで、スクリュー羽根17より入り口側にある羽根の高さは通路間隙とほぼ等しくして、十分な押出し力を確保する。スクリュー羽根19から以降は羽根の高さを低くし、これと同時にシリンダー内面に破線で示すシリンダー羽根18を取り付ける。ここで、通路間隙をH、スクリュー羽根の高さをH1、シリンダー羽根の高さをH2とすると、H=H1+H2+αとなるようにそれぞれの羽根を機械加工する。なお、αは上下の羽根が接触しないようにするためのクリヤランスで通常は0.1〜0.3mmとする。
【0010】
羽根の高さは、例えば、原料の進行方向(スクリューの軸方向)に向かって、入り口付近ではH1=H−αとし、途中からはH1=(H−α)/2とする。また、シリンダー羽根とスクリュー羽根の角度は、互いに交差し、且つシリンダー羽根の角度(またはピッチ)はスクリュー羽根の角度(またはピッチ)より若干小さくする。なお、図1では、簡単のため両者の角度は同じ場合を示している。
【0011】
以上のようなバレルを使って、原料を押し出すと、原料は2つの羽根に挟まれた部分を通過する際にせん断され、自身で熱を発生する。発熱する場所が通路のほぼ中央になるため、熱は中心から四方に伝導し通路内での温度差は小さくなる。通常の押出し機バレルではシリンダーは中空で、内面には羽根がついていないため、摩擦とせん断はシリンダー管面で集中的に発生し、熱はシリンダー鉄管から外部に放出される。このため、通路のシリンダー管面は高温になるが、内側には熱が伝わらず、通過する原料に著しい温度むらが生じる。米糠の実験によれば、シリンダー管面が150℃の場合、スクリュー面は80℃で、70℃もの温度差が生じる。
【0012】
原料の温度はバレルの出口付近で急上昇する。もし、出口ノズルの出口が完全に閉じていれば(出口抵抗無限大)、原料は排出されずに押し戻されバレル内で摩擦とせん断を繰り返して高温加熱され、焦げる。出口ノズルの出口抵抗を小さくすると、原料は外部に排出される。この時のバレル内での発熱量は主モーター1の動力、シリンダーおよびスクリューの構造、形状、材質および原料の物性値(ポアソン比、比熱、密度、せん断係数、鋼との摩擦係数、熱伝導率、含水率)、出口ノズル(出口側抵抗体を含む)の構造および形状によって決まる。従って、出口抵抗体の構造および形状を調節することにより、加熱条件を制御できる。
【実施例1】
【0013】
図2はバレル部と出口ノズル部の接続方法を模式的に示す。出口ノズルの形状は出口側に向かって径が小さくなる円錐形、すなわち、ダイ型にしてある。この構造の特長は出口ノズル外輪10をスライドさせることによって、出口ノズル内輪9との間の出口ノズル間隙を容易に変化させることが出来ることである。出口ノズルの形状は出口側に向かって径が大きくなる円錐形、すなわち、コーン型にすることも出来る。この構造の特長は出口に向かって原料が出易くなることであり、バレル内部での目詰まりのリスクを減らすことが出来る。この他、出口ノズルの形状としては円錐型ではなく、円筒型にすることも出来る。
【0014】
出口ノズルは原料の流量と圧力を調節する役割を果たす重要な部分である。流量と圧力の調節は出口ノズル間隙の他に、ノズル間隙を通過する原料の動きを邪魔する溝や突起を付ける方法がある。図2に示すV字状の溝27はその実施例を示す。V溝の角度と方向は、外輪に対してはシリンダーの羽根とほぼ同じに螺旋状にし、内輪に対してはスクリュー羽根とほぼ同じに螺旋状にすることで、出口ノズル間隙を通過する原料にせん断を生じせしめることができる、V溝の深さはノズル間隙の1/2〜1/3程度が良い。V溝の代わりに突起をつけても良い。
【0015】
出口ノズル間隙に付加する溝または突起に関しては、螺旋状の他に、軸方向におよび円周方向に溝を付けることもできる。回転する内輪に対しては円周方向への連れまわりを抑制するために、軸方向に溝を付けるのが効果的である。溝や突起の数、深さ、高さ、間隔などは設計的事項であるが、突起の高さはノズル間隙の1/2、本数は90度間隔に4本、円周方向の溝は出口のズルの軸方向に等間隔に5mm間隔程度を目安とする。
【実施例2】
【0016】
バレルを通過する原料の圧力調整は、押し出される原料の流れに抵抗を与える構造体を出口側に配置することによっても実行できる。図3はその実施例を示す説明図である。原料は出口ノズルの外輪と内輪の間を矢印の方向に押し出される。出口ノズル外輪の出口側に網状体またはフィルター22を配置することによって、原料の流れに抵抗を与えることができる。網状体は既成のステンレスメッシュのメッシュの細かさ(メッシュ番号)の異なるものを複数組み合わせるなどにより、抵抗力を調整することができる。網状体の他にも各種のフィルターを単独または併用して用いることができる。図において符号21は多孔版で、網状体の機械的強度を補強する目的で使用する。
【実施例3】
【0017】
図4は出口ノズルに原料の流れに抵抗を与える他の実施例を示す説明図である。出口ノズル内輪の出口側に平行板バネ23を配置することによって、原料の流れに抵抗を与えることができる。板バネの厚さや材質、構造を種々組み合わせるなどにより、抵抗力を調整することができる。図において符号24は抵抗板で出口間隙の蓋の役割として使用する。材質は磨耗することを考慮して選択する。
【実施例4】
【0018】
図5は出口ノズルに原料の流れに抵抗を与える他の実施例を示す説明図である。出口ノズル内輪の出口側先端を円錐形の中子(なかご)にし、出口ノズル外輪先端がそれと適切な間隙をもってほぼ平行に配置された多孔円錐状キャップ25とで構成する。孔のサイズ、位置、個数を種々組み合わせるなどにより、抵抗力を調整することができる。
【実施例5】
【0019】
押し出された排出物は加熱され圧力を受けるので、出口ノズルの構造や形状に応じて変形する。例えば、実施例3の場合はメッシュサイズに相当する粒状、実施例4の場合は薄いフレーク状、実施例5の場合は細長いミミズ状である。また、これらの排出物は高温で水蒸気を含んでいるため、冷却と乾燥が必要になることが多い。変形された排出物の形状を元の粉粒状に戻し、且つ冷却と乾燥を加速する方法として、解砕機構を導入するのが有効である。
図6はその実施例を示す説明図である。実施例5の多孔円錐状キャップの外側に適切な間隙をもってほぼ平行に配置された回転体を接続し、この間隙と回転体を利用して排出物を解砕する。ここで、回転はスクリューおよび出口ノズル内輪を駆動する主モーターを動力源とするので経済的に実現できる特長がある。また、回転体に複数の孔を空けたり、一部を切り欠くなどにより、解砕効果を高めることができる。
【0020】
本発明は押し出し工程を経て排出される押し出し処理物を対象としており、解砕操作を押し出し工程内に取り込むことにより、プロセス全体としての簡素化、合理化を図ったものである。本発明の対象となる押し出し処理物は、円錐状(簑傘状)の構造物の表面に窄口(孔)したノズルより押し出され、例えば数mmから0.数mmの孔径から排出される。排出直後はミミズ状であるが、収納容器に落下する際に数mm程度の長さのペレット状に破断する。これをそのまま放置しておくと指先でかなりの力を要するか容易にはつぶすことのできない硬さを持つ粒子となる。解砕は、この間隔空間にもたらされる押し出し力とそれに相対して配置されるほぼ動形状と大きさの構造物との間で発生する剪断力によってもたらされる。
【実施例6】
【0021】
解砕、冷却、乾燥を同時に実現する他の方法として、排出物を振動篩にかけることもできる。振動篩は原料を強制的に振動させることで、空気との接触を増やし、篩上に被解砕物と共に‘こま’を混在させて粒子間の結合を解きほぐすものであって、衝突により原料の結合を崩壊させる。さらに送風により強制空冷すれば、水蒸気が飛散し冷却および乾燥効果を高めることができる。
【0022】
尚、本発明の加熱処理装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
風味や栄養を損なわないで、加熱殺菌するニーズは食品分野で旺盛である。この目的を実現するには超高温殺菌が必要であるが、装置が高価なため利用が限定されていた。本発明の一軸エクストルーダーで超高温殺菌が実現できれば、多くの食品原料に適用できる。また、米糠やおからは腐敗し易いため有効活用されずに廃棄されている。しかし、これらの原料は栄養価が高く食品として優れた健康効果があるので、その腐敗防止と殺菌を安価な装置で実現できれば、有効活用の道が開かれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】は加熱処理装置全体の機構図
【図2】はバレルと出口ノズルの関係の説明図
【図3】は出口ノズルの実施例の説明図
【図4】は出口ノズルの他の実施例の説明図
【図5】は出口ノズルの他の実施例の説明図
【図6】は解砕機構の説明図
【符号の説明】
【0025】
1は押出し機の主モーター、
2はフィーダー用押出し機、
3はホッパー、
4はブリッジ防止噴気ノズル、
5は原料の通路、
6はフィーダー用モーター、
7はギア、
8は流量制御モーター、
9は出口ノズル内輪、
10は出口ノズル外輪、
11は吸気口、
12は排出部温度センサ、
13はコントローラ、
14は出口部温度センサ、
15はシリンダー、
16はスクリュー、
17は入り口側スクリュー羽根、
18はシリンダー羽根、
19はスクリュー羽根、
20は排出物
21は多孔板
22は網状体及び/またはフィルター
23は平行板バネ
24は抵抗体
25は多孔円錐キャップ
26は解砕機構
27はV字状溝
である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉または粒状原料の押出し機を、原料の加圧・せん断を担うバレルと流量と圧力調節を担う出口ノズルとで構成し、バレルはスクリュー外面およびシリンダー内面のそれぞれに羽根を付け、押し出される原料がこれらの羽根の間でせん断される構造とし、出口ノズルは押し出される原料の流れに抵抗を与える構造体を配置した構造にしたことを特徴とする加熱処理装置
【請求項2】
請求項1の出口ノズル外輪および内輪にV字状の溝または突起を付け、その方向を、それぞれ、シリンダーの羽根およびスクリュー羽根とほぼ同じに螺旋状にし、出口ノズル間隙を通過する原料にせん断を生じせしめることを特徴とする加熱処理装置
【請求項3】
請求項1の原料の流れに抵抗を与える構造体を、単一または複数の網状体及び/又はフィルター及び・又は多孔体で構成したことを特徴とする加熱処理装置
【請求項4】
請求項1の原料の流れに抵抗を与える構造体を、流れ方向にほぼ直角に配置されたばね弾性体で構成したことを特徴とする加熱処理装置
【請求項5】
請求項1の原料の流れに抵抗を与える構造体を、出口ノズル内輪先端が円錐形の中子(なかご)で、出口ノズル外輪先端がそれと適切な間隙をもってほぼ平行に配置された多孔円錐状キャップとで構成したことを特徴とする加熱処理装置
【請求項6】
請求項1において、押し出される排出物を解砕する機構を設けたことを特徴とする加熱処理装置
【請求項7】
請求項6において、解砕機構をスクリューに結合させた回転体で構成したことを特徴とする加熱処理装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−11838(P2008−11838A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210324(P2006−210324)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(503063320)株式会社ライステック (2)
【Fターム(参考)】