説明

粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法

【課題】硬度や引張強度、耐磨耗性等の機械的特性や、高温特性等が改善された、高強度軽量化材料として自動車産業等で使用でき、しかも、合金としての性質を保持するのに十分な量のマグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】粒子強化アルミニウム合金複合材において、溶融したアルミニウム又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム以外の金属酸化物の粒子とマグネシウムとを添加して撹拌し、撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させて、マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、耐磨耗性、高温特性に優れた粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子分散強化アルミニウム合金複合材料は、溶融アルミニウム合金への強化粒子を直接撹拌混合する混合法や、強化粒子の粒子プリフォームへ溶融したアルミニウム合金を圧力に加えて含浸させる圧力鋳造法(含浸法)や、金属酸化物の粉末を溶融したアルミニウム合金中に添加して酸化アルミニウム(アルミナ)粒子をin−situ(インサイチュー)生成する反応法(in−situ法:インサイチュー法)等によって製造される。
【0003】
この粒子分散強化アルミニウム合金複合材においては、溶融合金に数μm(ミクロン)以下の微細粒子・粉末を含有させると、合金複合材の機械的強度が向上することが知られており、粒子分散アルミニウム合金複合材料の機械的特性をさらに向上するには、粒径の細かい粒子の複合が望まれ、特にナノオーダーの粒子のアルミニウム合金への複合技術の開発が望まれている。
【0004】
しかしながら、従来技術における製造方法においては、それぞれ以下のような問題があり、溶融金属に数μm以下の粒径ミクロンオーダーやナノオーダーの微細粒子・粉末をアルミニウム合金へ複合させることは非常に困難となっている。
【0005】
つまり、混合法では、溶融アルミニウムと強化粒子との濡れ性が良くないため、粒径十μm以下の粒子を溶融合金への分散は非常に難しいという問題がある。また、圧力鋳造法では、予め粒子プリフォームを作製する必要があるが、粒径5μm以下の粒子を用いる場合には、プリフォームの作製が非常に困難となるという問題がある。更に、反応法では、混合法と同様に、粒径10μm以下の金属酸化物粒子を用いると、この混合が非常に難しくなるという問題がある。
【0006】
一方、強化材として、酸化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム等の酸化物セラミックスを用いる場合、その酸化物は溶融金属中のマグネシウム成分と反応し、スピネル(MgAl2 4 )のような化合物を生成させる。このスピネル粒子は強化粒子としての効果を発揮することができる。
【0007】
このスピネル粒子を強化粒子に使用するものとして、例えば、金属マトリックス中に金属酸化物の強化粒子が分散している金属基複合材料の製造方法において、アルミニウム(Al)−マグネシウム(Mg)合金等の金属溶湯に、その成分元素の少なくとも一つ(Al,Mg)よりも酸化物生成傾向が低い金属酸化物(酸化ケイ素(SiO2 )等)の粒子と、更に金属粒子(ニッケル(Ni),チタン(Ti))を添加して、超音波振動を印加して金属溶湯中のin−situ反応により、前記少なくとも一つの成分元素の酸化物(スピネル(MgAl2 4 ),酸化アルミニウム(Al2 3 ))を生成させる金属基複合材料の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、多量に添加した酸化ケイ素に見合った量のマグネシウムを添加していないので、アルミニウム−マグネシウム合金中のマグネシウムが消耗され、合金の成分が変わってしまうという問題がある。特に、アルミニウム−ケイ素、アルミニウム−銅等の合金では、マグネシウムの含有量が少なく、酸化ケイ素のような金属酸化物を添加した場合、化学量論的に求まる量のマグネシウムを添加しないと、組織的にはアルミナ粒子とスピネル粒子が混在し、また、マグネシウムが消耗されるため、アルミニウム合金本来のマグネシウムによる熱処理効果がなくなる。従って、化学反応によりアルミニウム合金中にその場でスピネル粒子のようなセラミックス粒子を生成させる場合では、合金本来の機能を発揮させるために、十分なマグネシウム量を確保する必要がある。
【0009】
このように、従来の製造法では、溶融金属中のマグネシウムは酸化アルミニウム等の酸化物との反応で消耗されるため、マグネシウム元素を含有させたことによるアルミニウム合金の強度の向上における効果が無くなり、複合材料の機械的特性が劣化してしまう。そのため、従来技術では、強化材として酸化物をマグネシウム含有のアルミニウム合金に複合させるとき、この酸化物とマグネシウムとの反応を防ぐため、酸化物の表面を窒化物等でコーティングしたりしている。
【0010】
また、本発明者は、特願2005−323828号にて特許出願しているが、酸化アルミニウム(アルミナ)粒子を添加したアルミニウム合金中にマグネシウムを添加することにより酸化アルミニウム粒子とマグネシウムとの反応を引き起し、酸化アルミニウム粒子とその場で生成したスピネル粒子で強化したアルミニウム複合材を提案している。
【0011】
しかしながら、酸化アルミニウム粒子を添加すると、溶湯中で溶湯中のマグネシウムとin−situ反応しても、酸化アルミニウム粒子の100%がスピネル粒子に変換されず、ミクロン以上の酸化アルミニウム粒子も残留することになるので、機械的特性が向上しないという問題がある。
【特許文献1】特開平10−306334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、硬度や引張強度、耐磨耗性等の機械的特性や、高温特性等が改善された、高強度軽量化材料として自動車産業等で使用でき、しかも、合金としての性質を保持するのに十分な量のマグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような目的を達成するための粒子強化アルミニウム合金複合材は、粒子強化アルミニウム合金複合材において、溶融したアルミニウム又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム以外の金属酸化物の粒子とマグネシウムとを添加して撹拌し、撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させて、マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させて構成する。
【0014】
酸化アルミニウム(アルミナ)以外の金属酸化物とするのは、酸化アルミニウム粒子があると、この酸化アルミニウム粒子は、アルミニウムとマグネシウムとが置換する反応でスピネルを生成するが、酸化アルミニウム粒子の表面だけが反応して、撹拌によりスピネルが剥離されても、酸化アルミニウムが100%全部スピネルに変換されず、内部に酸化アルミニウムの部分は残る可能性がある。一方、本発明のように、酸化アルミニウム以外の金属酸化物を添加すると、この金属酸化物はアルミニウムとマグネシウムと反応し、金属酸化物が還元されるという、酸化アルミニウムとマグネシウムとの反応とは異なった反応となる。これにより、微細なスピネル粒子を容易に生成させることができるようになる。
【0015】
なお、添加されるマグネシウムは金属マグネシウムでもよく、マグネシウムを多く含むAl−Mg系合金でもあってもよい。また、この金属酸化物粒子とマグネシウムは同時に添加してもよいが、分けて添加してもよい。更に、金属酸化物粒子を添加した後、酸化アルミニウム粒子分散アルミニウム複合材料を先に作製して、その複合材料を再度溶かした後でマグネシウムを添加してもよい。
【0016】
従って、この構成の粒子強化アルミニウム合金複合材では、粒径がミクロンオーダーやナノオーダーの強化粒子を含む粒子強化アルミニウム合金複合材とすることが容易であり、一方、この粒子強化アルミニウム複合材料においては、理論的には強化粒子が細かければ細かい程、強化粒子を含ませる効果が向上するので、硬度や引張強度等の機械的特性が向上させることが容易にできるようになる。
【0017】
また、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材において、前記添加するマグネシウムの量を、前記添加した金属酸化物の量に対して、金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとの反応によりスピネル粒子が生成する化学反応式において化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多く、かつ、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム合金において、反応後に要求されるマグネシウム量となる量以下とする。
【0018】
この構成により、化学反応式において化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多くするので、酸化アルミニウム(アルミナ)粒子の生成を防止して、酸化アルミニウム粒子とスピネル粒子の生成率を、酸化アルミニウム粒子0%でスピネル粒子100%、又は、それに近い値にすることができる。なお、この化学量論的に求まるマグネシウム量よりも少ないと、金属酸化物が還元され、一方で酸化アルミニウム粒子が生成することになり、酸化アルミニウム粒子0%でスピネル粒子100%又は、それに近い値にすることができなくなり、酸化アルミニウム粒子とスピネル粒子とが共存することになる。
【0019】
この酸化アルミニウム粒子が生成するということは、溶融母材中のマグネシウムがすべて消耗されたことを意味するので、合金中のマグネシウムが無くなって合金が成分規格外となり、合金の熱処理効果が無くなる。そのため、スピネル粒子が100%であることが好ましい。
【0020】
また、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム合金において、反応後に要求されるマグネシウム量の上限となる量以下とすることにより、アルミニウム合金における所望のマグネシウム量を得ることができる。なお、反応後とは、反応時における焼損分や歩留りを考慮してということである。この添加するマグネシウム量の上限の量は、アルミニウム合金における所望のマグネシウム量が決まると、実験や計算などにより、予め設定できる量である。
【0021】
また、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材において、前記金属酸化物の粒子を添加した後の撹拌時の温度を半凝固温度で行って前記スピネル粒子を生成させると、金属酸化物やマグネシウムが微細な粒子であってもアルミニウム合金中に容易に混合でき、分散させることができる。この分散により低い温度でもin−situ反応(その場反応)が行われ、スピネル粒子が生成されるようになる。この半凝固温度とは、溶融アルミニウムの場合には、アルミニウムの融点と、この融点プラス60℃の温度範囲の温度のことを言い、溶融アルミニウム合金の場合には、アルミニウム合金の共晶点と、この共晶点プラス60℃の温度範囲の温度のことを言う。
【0022】
また、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材において、前記金属酸化物としては、CuO,Cu2 O,SiO2 ,V2 5 ,MnO2 ,MoO3 ,WO3 ,Ta2 5 ,NiO,ZnO,TiO2 ,Cr2 3 ,Fe2 3 ,Fe3 4 等の内の一つ、又は、幾つかの組み合わせを用いることができる。
【0023】
そして、上記の目的を達成するための粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法において、溶融したアルミニウム又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム以外の金属酸化物の粒子とマグネシウムとを添加して撹拌し、撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させることを特徴とする。
【0024】
また、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法において、前記添加するマグネシウムの量を、前記添加した金属酸化物の量に対して、金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとの反応によりスピネル粒子が生成する化学反応式において化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多く、かつ、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム合金において、要求されるマグネシウム量となる量以下とすることを特徴とする。
【0025】
また、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法において、前記金属酸化物の粒子を添加した後の撹拌時の温度を半凝固温度で行って前記スピネル粒子を生成させたことを特徴とする。
【0026】
更には、上記の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法において、前記金属酸化物が、CuO,Cu2 O,SiO2 ,V2 5 ,MnO2 ,MoO3 ,WO3 ,Ta2 5 ,NiO,ZnO,TiO2 ,Cr2 3 ,Fe2 3 ,Fe3 4 等の内の一つ、又は、幾つかの組み合わせからなることを特徴とする。
【0027】
これらの粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法によれば、従来技術では、微細な強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材を作るのに、多く又は複雑な工程を必要としていたが、この酸化アルミニウム以外の金属酸化物粒子とマグネシウムの添加によるスピネル粒子のin−situ生成により、比較的容易に粒子強化アルミニウム合金複合材を製造でき、しかも、強化粒子の粒子径をミクロンオーダーやナノオーダーに小さくしたものも製造容易となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法によれば 粒径がナノオーダー又はサブミクロンオーダーのスピネル粒子により強化されているため、硬度や引張強度、耐磨耗性等の機械的特性や、高温特性等が改善された、高強度軽量化材料として自動車産業等で使用でき、しかも、合金としての性質を保持するのに十分な量のマグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた合金複合材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態の粒子強化アルミニウム合金複合材及びその製造方法について、説明する。
【0030】
本発明に係る粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法では、溶融したアルミニウム(Al)又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2 3 )以外の金属酸化物(MxOy:M−金属、O−酸素)の粒子とマグネシウム(Mg)とを添加して撹拌する。このアルミニウム合金母材としては、例えば、AC4Cアルミニウム合金(アルミニウム合金鋳物4種A:Al−Si−Mg系合金)等を使用することができる。
【0031】
また、金属酸化物は、CuO,Cu2 O,SiO2 ,V2 5 ,MnO2 ,MoO3 ,WO3 ,Ta2 5 ,NiO,ZnO,TiO2 ,Cr2 3 ,Fe2 3 ,Fe3 4 等の内の一つ、又は、幾つかの組み合わせを使用することができる。なお、この金属酸化物はマグネシウムとアルミニウムとの反応によって完全に還元されてしまうので、添加される金属酸化物の粒径は生成されるスピネル粒子に対して殆ど影響しない。そのため、製造の容易な粒子径が数μm以上の金属酸化物を用いることができる。
【0032】
この添加するマグネシウムの量(溶融母材中のマグネシウムを含む)を、添加した金属酸化物の量に対して、金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとの反応によりスピネル粒子が生成する化学反応式において、化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多くする。
【0033】
1種類の金属酸化物(MxOy)を添加する場合には、溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金の中で、この金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとで「4MxOy+yMg+2yAl=4xM+yMgAl2 4 」の反応が行われ、微細なスピネル(MgAl2 4 )粒子がその場で生成される。この反応で、金属酸化物から完全にスピネル粒子を生成させるためには、Aモル数の金属酸化物(MxOy)を添加した場合には、化学量論的に、A×y/4のモル数のマグネシウムを添加する必要がある。
【0034】
また、2種類以上の金属酸化物(Mx1 Oy1 ,Mx2 Oy2 ,・・・・・)を溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金に添加する場合には、「4Mx1 Oy1 +y1 Mg+2y1 Al=4x1 M+y1 MgAl2 4 」「4Mx2 Oy2 +y2 Mg+2y2 Al=4x2 M+y2 MgAl2 4 」・・・の反応でスピネル粒子が生成される。この反応で、添加された金属酸化物から完全にスピネル粒子を生成させるためには、A1 モルの金属酸化物(Mx1 Oy1 )とA2 モルの金属酸化物(Mx2 Oy2 )・・・を混合した場合には、化学量論的に(A1 ×y1 /4+A2 ×y2 /4+・・・・・)モル数のマグネシウムを溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金に添加する必要がある。
【0035】
なお、マグネシウムの添加量(モル)は化学量論的に添加される金属酸化物の量(モル)のy/4倍となるが、高温で撹拌による添加の場合には、アルミニウム合金中のMgの焼損があるので、この焼損分を考慮して添加する。なお、添加されるマグネシウムは金属マグネシウムでもよく、マグネシウムを多く含むAl−Mg系合金でもあってもよい。
【0036】
また、添加するマグネシウムの量は、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム又はアルミニウム合金において、要求されるマグネシウム量となる量以下とする。これにより、アルミニウム合金における所望のマグネシウム量を得ることができる。なお、反応後とは、反応時における焼損分や歩留りを考慮してということである。この添加するマグネシウム量の上限の量は、アルミニウム合金における所望のマグネシウム量が決まると、実験や計算などにより、予め設定できる量である。
【0037】
通常のアルミニウム合金では1.5wt%以下のマグネシウムを含んでいるが、Al−Mg系合金中では数%〜数十%のマグネシウムを含んでいる。このようにアルミニウム合金中にマグネシウムが含まれているので、Aモルの金属酸化物を溶融アルミニウム合金に添加した後に、マグネシウムを添加していない場合、又は、マグネシウムの添加量がA×y/4のモル数より少ない場合には、「2yAl+3MxOy=yAl2 3 +3xM」の反応で酸化アルミニウム粒子も生成し成長するので、酸化アルミニウム粒子とスピネル粒子とがアルミニウム合金中に混在することになる。また、多量のマグネシウムを含んだAl−Mg系合金の場合には、マグネシウムを添加しなくても十分な量のマグネシウムがあるため、金属酸化物はマグネシウムとアルミニウムと反応してスピネル粒子を生成する。しかしながら、その反応によって合金中のマグネシウムの濃度は大幅に低下し、合金の組成が変化してしまう。
【0038】
この金属酸化物粒子とマグネシウムは同時に添加してもよいが、分けて添加してもよい。但し、先に金属酸化物粒子のみを添加する場合には、先ず酸化アルミニウム粒子が生成する。その後、金属酸化物粒子を添加した溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金に更にマグネシウムを添加すると、スピネル粒子が生成する。
【0039】
また、金属酸化物粒子を添加した後、酸化アルミニウム粒子分散アルミニウム複合材料を先に作製して、その複合材料を再度溶かした後でマグネシウムを添加しても、スピネル粒子分散アルミニウム複合材料を得ることができる。この場合には、その場で生成した酸化アルミニウム粒子は微細であるので、酸化アルミニウム粒子を直接添加する場合よりもスピネル粒子が生成し易くなる。
【0040】
そして、この撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させる。これにより、マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材を製造する。
【0041】
この金属酸化物の粒子を添加した後の撹拌時の温度を半凝固温度で行う。この半凝固温度とは、溶融アルミニウムの場合には、アルミニウムの融点と、この融点プラス60℃の温度範囲の温度であり、溶融アルミニウム合金の場合には、アルミニウム合金の共晶点と、この共晶点プラス60℃の温度範囲の温度である。この半凝固温度は、Al−Si,Al−Mg,Al−Cu等の合金中のSi,Mg,Cuの含有量によって異なるが、基本的にはAl−Si系合金で580℃〜660℃程度、Al−Mg系合金で450℃〜660℃程度である。
【0042】
これにより、金属酸化物やマグネシウムが微細な粒子であってもアルミニウム合金中に容易に混合でき、分散させて均一化することができ、この分散により低い温度でもin−situ反応(その場反応)が行われ、スピネル粒子が生成されるようになる。
【0043】
この半凝固温度を1〜2時間程度継続した後、撹拌しながら、700℃〜900℃、例えば、750℃程度の鋳込み温度まで昇温させ、30分〜1時間程度撹拌を継続してin−situ反応を促進させ、100%スピネル粒子とする。なお、これらの撹拌速度は、例えば、200rpm〜600rpm程度である。このそれぞれの撹拌時間の長さは、反応の進行具合によって決まる。
【0044】
このスピネル粒子が生成し終わった状態の溶融金属を、所定の金型に入れて鋳込むことにより、所定の形状をした粒子強化アルミニウム合金複合材を作製する。
【0045】
この製造方法によれば、酸化アルミニウム粒子が殆どゼロで、粒径がナノサイズからミクロンサイズのスピネル粒子が強化粒子として分散したアルミニウム合金複合材を得ることができる。
【0046】
そして、粒子強化金属複合材料においては、理論的には強化粒子が細かければ細かい程、強化粒子を含ませる効果が向上するので、得られたアルミニウム合金複合材は、硬度、引張強度等の機械的特性が向上する。
【実施例】
【0047】
第1の実施例として、9.44kg分のAC4Cアルミニウム合金(アルミニウム合金鋳物4種A:Al−Mg系合金:Mg含有量0.4wt%(重量%))を600℃で熔解し、撹拌しながら、粒径2μmの酸化ケイ素(SiO2 )を0.386kg(6.43mol)、粒径5μmの酸化第2銅(CuO)を0.085kg(1.07mol)、マグネシウムを0.089kg(3.66mol)添加した。この金属酸化物粒子の分散過程の後、撹拌しながら、750℃に加熱した。このin−situ反応過程(その場反応過程)を経た後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化アルミニウム複合材料を得た。
【0048】
この組織をエネルギー分散型X線分析装置(EDS)付き走査電子顕微鏡で観察した結果、強化粒子は均一にアルミニウム合金中に分布し、スピネル粒子の含有量は5wt%で、その平均粒径は0.2μmであった。
【0049】
JIS規格のT6処理でこの複合材料を熱処理した後、硬さと引張強度を測定し、この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は151で、引張強度は352MPaとの結果を得た。また、合金中のマグネシウム量(スピネル(MgAl2 4 )を含まない可溶の部分)を分析した結果、その量は0.4wt%で、従来の合金中のマグネシウム量と変わらなかった。
【0050】
第2の実施例として、8.15kg分のAC7Cアルミニウム合金(アルミニウム合金鋳物7種A:Al−Mg系合金:Mg含有量3.65wt%)を500℃で熔解し、撹拌しながら、粒径2μmの酸化ケイ素を1.65kg(27.5mol)、粒径5μmの酸化第2銅を0.07kg(0.88mol)、マグネシウムを0.13kg(5.35mol)添加した。この金属酸化物粒子の分散過程の後、撹拌しながら、750℃に加熱した。この「その場反応過程」を経た後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化アルミニウム複合材料を得た。
【0051】
この組織をエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡で観察した結果、強化粒子は均一にアルミニウム合金中に分布し、スピネル粒子の含有量は21wt%で、その平均粒径は0.2μmであった。
【0052】
JIS規格のT6処理でこの複合材料を熱処理した後、硬さと引張強度を測定し、この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は165で、引張強度は360MPaとの結果を得た。また、酸化ケイ素が還元されたため、アルミニウムはケイ素(Si)を含むアルミニウム合金になり、ケイ素の含有量は11wt%となり、マグネシウムの含有量は1wt%となった。そのため、このアルミニウム合金の組成は、AC8A(アルミニウム合金鋳物8種A)と同じ組成となった。
【0053】
第3の実施例として、8.4kg分のアルミニウム(Mg含有量0wt%)を690℃で熔解し、撹拌しながら、粒径2μmの酸化ケイ素を1.26kg(21mol)、粒径5μmの酸化第2銅を0.04kg(0.5mol)を添加した後、マグネシウムを0.3kg(12.35mol)添加し、撹拌した。この撹拌ではin−situ反応が生じるが金属酸化物粒子の分散過程である。この後、撹拌しながら750℃に加熱した。このin−situ反応過程を経た後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化アルミニウム複合材料を得た。
【0054】
この組織をエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡で観察した結果、強化粒子は均一にアルミニウム合金中に分布し、スピネル粒子の含有量は16wt%で、その平均粒径は1.2μmであった。
【0055】
JIS規格のT6処理でこの複合材料を熱処理した後、硬さと引張強度を測定し、この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は155で、引張強度は355MPaとの結果を得た。また、酸化ケイ素が還元されたため、アルミニウムはアルミニウム合金になり、ケイ素の含有量は7.1wt%となり、マグネシウムの含有量は0.4wt%となった。そのため、このアルミニウム合金の組成は、AC4C(アルミニウム合金鋳物4種C)と同じ組成となった。
【0056】
比較例として、AC4Cアルミニウム合金(アルミニウム合金鋳物4種A:Al−Mg系合金:Mg含有量0.4wt%(重量%))を750℃で熔解し、平均粒径5μmの酸化アルミニウム粒子を7wt%、マグネシウムを1wt%添加し、撹拌した。その後、金型に鋳込んで、スピネル粒子強化アルミニウム複合材料を得た。
【0057】
この組織をエネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡で観察した結果、強化粒子は均一にアルミニウム合金中に分布し、酸化アルミニウム粒子とスピネル粒子の割合は6:4であった。また、酸化アルミニウム粒子の平均粒径は3.5μmで、スピネル粒子の平均粒径は0.7μmで、酸化アルミニウム粒子とスピネル粒子の2種類の粒子の平均粒径は2.5μmであった。
【0058】
JIS規格のT6処理でこの複合材料を熱処理した後、硬さと引張強度を測定し、この複合材料のビッカース硬さ(Hv)は146で、引張強度は337MPaとの結果を得た。
【0059】
これらの結果から、金属酸化物の量を多く添加すると、スピネル粒子の粒径が大きくなり、また、強化粒子の含有量が多くなると、引張強度が高くなることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子強化アルミニウム合金複合材において、溶融したアルミニウム又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム以外の金属酸化物の粒子とマグネシウムとを添加して撹拌し、撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させて、マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させたことを特徴とする粒子強化アルミニウム合金複合材。
【請求項2】
前記添加するマグネシウムの量を、前記添加した金属酸化物の量に対して、金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとの反応によりスピネル粒子が生成する化学反応式において化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多く、かつ、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム合金において、反応後に要求されるマグネシウム量の上限となる量以下とすることを特徴とする請求項1記載の粒子強化アルミニウム合金複合材。
【請求項3】
前記金属酸化物の粒子を添加した後の撹拌時の温度を半凝固温度で行って前記スピネル粒子を生成させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子強化アルミニウム合金複合材。
【請求項4】
前記金属酸化物が、CuO,Cu2 O,SiO2 ,V2 5 ,MnO2 ,MoO3 ,WO3 ,Ta2 5 ,NiO,ZnO,TiO2 ,Cr2 3 ,Fe2 3 ,Fe3 4 等の内の一つ、又は、幾つかの組み合わせからなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の粒子強化アルミニウム合金複合材。
【請求項5】
マグネシウムを含有するアルミニウム合金の母相に強化粒子を分散させた粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法において、溶融したアルミニウム又は溶融したアルミニウム合金からなる溶融母材に、酸化アルミニウム以外の金属酸化物の粒子とマグネシウムとを添加して撹拌し、撹拌された溶湯中において金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとを反応させることにより、スピネル粒子をin−situ生成させることを特徴とする粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法。
【請求項6】
前記添加するマグネシウムの量を、前記添加した金属酸化物の量に対して、金属酸化物とマグネシウムとアルミニウムとの反応によりスピネル粒子が生成する化学反応式において化学量論的に求まるマグネシウム量よりも多く、かつ、生成されたスピネル粒子を含まない部分のアルミニウム合金において、反応後に要求されるマグネシウム量の上限となる量以下とすることを特徴とする請求項5記載の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物の粒子を添加した後の撹拌時の温度を半凝固温度で行って前記スピネル粒子を生成させることを特徴とする請求項5又は6に記載の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物が、CuO,Cu2 O,SiO2 ,V2 5 ,MnO2 ,MoO3 ,WO3 ,Ta2 5 ,NiO,ZnO,TiO2 ,Cr2 3 ,Fe2 3 ,Fe3 4 等の内の一つ、又は、幾つかの組み合わせからなることを特徴とする請求項5、6又は7記載の粒子強化アルミニウム合金複合材の製造方法。

【公開番号】特開2007−291450(P2007−291450A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120684(P2006−120684)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】