説明

粒子挙動解析装置、プログラム

【課題】粒子挙動解析装置において遠距離相互作用力に関する解析処理時間を短縮する。
【解決手段】一定間隔ごとの粒子間距離と、各粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力とを対応付けたルックアップテーブルを用意する(S110)。粒子間距離rを算出し(S120)、接触力に関する処理後に、遠距離相互作用力を計算する粒子対を選択し、ルックアップテーブルを参照して、粒子間距離rの遠距離力を特定する(S152)。ルックアップテーブルを用いて遠距離力を特定するので、通常通り遠距離力を計算するよりも処理時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子挙動解析装置とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粉体や粒体などの粒子の挙動シミュレーションに関する仕組みが提案されている。特許文献2,3シミュレーション処理において、ルックアップテーブルを利用する仕組みが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−193152公報
【特許文献2】特開平08−185545号公報
【特許文献3】特開平06−083980号公報
【0004】
特許文献1では、複数のプロセッサの並列処理により力分割並列アルゴリズムに従って粒子挙動解析処理を行なう仕組みが提案されている。具体的には、複数の計算装置をネットワーク接続して、複数種類の粒子間相互作用を考慮しつつ、粒子挙動解析を高速に実現できるようにしている。たとえば、各粒子の磁気力、静電気力、接触力の各粒子間相互作用について、それぞれ各別の力マトリクスを用いて、特定プロセッサに分散して計算、特定プロセッサ間で通信し分散して計算した相互作用力の和を求め、各粒子の運動方程式を解いて位置座標を計算する。そして、各粒子の位置座標を特定プロセッサに通信し、計算情報を更新する。このような処理を予め決められた計算ステップに到達するまで、同様に繰り返す。
【0005】
特許文献2では、ロボットシミュレーションにおいて、物体同士の接近や衝突などの干渉情報を詳細かつ定量的に表示する仕組みが開示されている。たおてば、干渉情報を表示させたい物体表面を投影面とし、その物体表面に対して干渉情報を計算したい物体を投影物体とする投影処理により、干渉情報を表示させたい物体表面から干渉情報を計算したい物体までの距離画像を求める。そして、その距離画像をルックアップテーブルを参照してテクスチャ画像に変換し、求めたテクスチャ画像を、シーンの描画の際、干渉情報を表示させたい物体表面にテクスチャマッピングして干渉情報をテクスチャとして表示させる。
【0006】
特許文献3では、色彩シミュレーションにおいて、ハイライトを良好に保存し、同色系、有彩色−無彩色間にも良好に適用可能とする仕組みが開示されている。たとえば、明度−明度変換用ルックアップテーブル、彩度−彩度変換用ルックアップテーブル、明度−彩度変換用ルックアップテーブルを作成する。彩度−彩度変換用ルックアップテーブルおよび明度−彩度変換用ルックアップテーブルに対応する重み付け係数を算出し、両ルックアップテーブルと対応する重み付け係数に基づいて変更後の彩度を算出し、明度−明度変換用ルックアップテーブルに基づいて変更後の明度を得ることで、変更色として指定された色相を採用して色彩変更対象領域の色彩を変更する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遠距離相互作用力に関する解析処理を、本発明を適用しない場合よりも短時間でできる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、それぞれの粒子間距離と、各粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力と、を対応付けた対応情報を記憶する記憶部と、解析対象の粒子対の粒子間距離における遠距離相互作用力を、前記記憶部に記憶されている情報を参照して特定することで、粒子の挙動を計算する粒子挙動計算部と、を備えた粒子挙動解析装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記記憶部は、解析対象の遠距離相互作用力の種類が複数ある場合には、それぞれの粒子間距離と、その粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力の合計値、を対応付けた対応情報を記憶する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記記憶部は、解析対象の粒子の種類が複数ある場合には、前記粒子対を構成する粒子種の組合せの別に、前記対応情報を記憶する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の内の何れか一項に記載の発明において、前記記憶部は、予め決められた閾値以上の粒子間距離に関して前記対応情報を記憶し、前記粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の粒子間距離が前記閾値未満のときは遠距離相互作用力を計算し、解析対象の粒子対の粒子間距離が前記閾値以上のときは前記記憶部に記憶されている情報を参照して遠距離相互作用力を特定する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の内の何れか一項に記載の発明において、解析対象領域を複数の領域に分割して各領域の位置を示す番号を付与する領域分割部を備え、前記記憶部および粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の各粒子が存在するそれぞれの領域の番号の差分を前記粒子間距離として代用する。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記記憶部は、前記領域の番号の差分の正の値および負の値の何れか一方に関して前記対応情報を記憶し、前記粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の前記領域の番号の差分の符号が前記記憶部に記憶されている前記対応情報における前記差分の符号と異なる場合には、前記記憶部から参照した前記対応情報の符号を反転して使用する。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の内の何れか一項に記載の発明において、解析過程で前記対応情報を生成して前記記憶部に記憶させる対応情報生成部を備え、前記対応情報生成部は、解析過程において、解析対象の粒子対の粒子間距離に対応する前記記憶部の配列位置に遠距離相互作用力が記憶されていないとき、その粒子間距離に対応する前記粒子挙動計算部で計算された遠距離相互作用力を、その粒子間距離に対応する前記記憶部の配列位置に記憶させる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記記憶部は、記憶容量不足となったときには、参照頻度の少ないものを破棄する。
【0016】
請求項9に記載の発明は、解析対象の粒子対の粒子間距離における遠距離相互作用力を、それぞれの粒子間距離と、各粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力と、を対応付けた対応情報を記憶する記憶部に記憶されている対応情報を参照して特定することで、粒子の挙動を計算する粒子挙動計算部として電子計算機を機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1,9に記載の発明によれば、請求項1,9に係る発明を適用しない場合よりも、遠距離相互作用力に関する解析処理を短時間でできる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、解析上必要な遠距離相互作用力が複数種類ある場合に、請求項2に係る発明を適用しない場合よりも、遠距離相互作用力に関する解析処理を短時間でできる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、解析対象の粒子の種類が複数ある場合に、請求項3に係る発明を適用しない場合よりも、各組合せに応じた遠距離相互作用力を適正に特定することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、請求項4に係る発明を適用しない場合よりも、解析精度と解析処理時間のバランスをとることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、請求項5に係る発明を適用しない場合よりも、遠距離相互作用力に関する解析処理をさらに短時間でできる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、請求項6に係る発明を適用しない場合よりも、記憶部に記憶する対応情報の量を少なくできる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、請求項7に係る発明を適用しない場合よりも、解析処理時に参照されない対応情報を記憶部に記憶する無駄を防止できる。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、請求項8に係る発明を適用しない場合よりも、記憶容量不足となることによる弊害を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電子写真方式の画像形成装置の一構成例を示す図である。
【図2】粒子挙動解析システムの構成例を示すブロック図である。
【図3】主粒子挙動解析装置の第1実施形態を説明する図である。
【図3A】副粒子挙動解析装置の第1実施形態を説明する図である。
【図4】第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法に対する比較例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5A】第1実施形態の第1例で使用するルックアップテーブルの一例(その1)を説明する図である。
【図5B】第1実施形態の第1例で使用するルックアップテーブルの一例(その2)を説明する図である。
【図5C】比較例と第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法との対比を説明する図である。
【図6】第1実施形態の第2例において、ルックアップテーブルを参照する領域を説明する図である。
【図6A】第1実施形態の第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】主粒子挙動解析装置の第2実施形態を説明する図である。
【図7A】副粒子挙動解析装置の第2実施形態を説明する図である。
【図8】第2実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図8A】第2実施形態におけるルックアップテーブルの生成手法を説明する図である。
【図9】第2実施形態の第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】第2実施形態の第3例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図10A】第2実施形態の第3例の作用を説明する図である。
【図11】主粒子挙動解析装置の第3実施形態を説明する図である。
【図11A】副粒子挙動解析装置の第3実施形態を説明する図である。
【図12】第3実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図12A】第3実施形態における接触判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図12B】第3実施形態の第1例で使用するルックアップテーブルの一例を説明する図である。
【図12C】比較例および第1実施形態の第1例と第3実施形態の第1例の粒子挙動解析手法との対比を説明する図である。
【図13】第3実施形態の第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図13A】第3実施形態の第2例においてルックアップテーブルを参照する領域を説明する図である。
【図14】第3実施形態の第3例(その1)の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図14A】第3実施形態の第3例(その2)の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図14B】第3実施形態の第3例で使用するルックアップテーブルの一例を説明する図である。
【図14C】第3実施形態の第3例の特徴点を説明する図である。
【図15】第3実施形態の第4例(その1)の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図15A】第3実施形態の第4例(その2)の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図15B】第3実施形態の第4例(その3)の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【図15C】第3実施形態の第4例におけるルックアップテーブルの生成手法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下においては、情報処理装置が適用される具体例として、粒子挙動解析装置を例に説明する。粒子挙動解析装置の解析対象粒子が存在する装置としては、たとえば、プリンタ装置、ファクシミリ装置、またはそれらの機能を有する複合機などの画像形成装置を例に説明する。
【0027】
解析対象粒子との関係においては、トナー粒子のみまたはキャリア粒子とトナー粒子からなる現像剤を用いる電子写真方式による画像形成装置の現像装置における現像剤挙動解析に着目する。ただしこれは一例であって、解析対象粒子が存在する装置は画像形成装置に限定されない。
【0028】
<画像形成装置の概要>
図1は、印刷装置(プリンタ)や複写装置(コピー機)などの電子写真方式の画像形成装置の一構成例を示す図である。図示のように、画像形成装置1は、感光体10を中心として、その近傍に配された直流電源22、交流バイアス電源24、および帯電部26を具備した帯電装置20と、レーザ光源32やポリゴンミラー34やモータ36を具備した露光装置30と、図示しない攪拌機構を備えた現像装置40と、転写電源52および転写部54を具備した転写装置50と、ブレード機構を持つクリーニング装置60と、用紙搬送路上の後流側の予め決められた位置に配されたロール機構を具備した定着装置70とを備えている。
【0029】
現像装置40には、現像剤粒子102が充填されている。図では、1つの現像剤粒子102を便宜的に1つの丸で示している。実際には、現像剤粒子102はたとえば、それぞれ物性や粒径の異なる磁性体から構成されたキャリア粒子と非磁性のトナー粒子(たとえば各色のトナー粒子)を主成分として含有する2成分方式のものである。キャリア粒子とトナー粒子の対によって、全体として磁性粉体が形成されるようにしている。トナー粒子は、キャリア粒子に静電力により互いに吸着されている。一般的には、キャリア粒子の粒径の方がトナー粒子の粒径よりも大きい。なお、トナー粒子としては、磁性トナーを使用してもよい。
【0030】
また、現像剤102には、前述のキャリア粒子およびトナー粒子の他に、粉体流動性、帯電性、転写性、あるいはクリーニング性を確保するための粒子径(平均粒子径で約1〜50ナノメートル)の小さな物質(外添剤)が混合されている。外添剤としては、たとえば酸化チタンやシリコーンオイル含有シリカなどが用いられる。
【0031】
現像装置40は、収納容器101内に、表面に現像剤粒子102を担持する担持ロールの一例である現像ロール140(マグロール、マグネットローラ、磁気搬送ローラとも言われる)を、周面が開口部101aから少し突き出すように備える。現像ロール140内には、その内周縁に沿って、予め決められた間隔で予め決められた数のマグネット142が配置されている。
【0032】
また、現像装置40は、現像ロール140の近傍に、高さ規制部材や層形成部材として機能する規制ブレード150(トリミングブレードブロック)を備え、マグネット142による磁力線に沿ってできた現像剤粒子102の磁気ブラシ(穂立ち)の高さを規制するようになっている。
【0033】
現像ロール140は、矢印X方向に回転される感光体10とともに、感光体10と対向する側のその表面の回転移動方向が、感光体10の移動方向Xと同じ向き(矢印Y方向)に回転される。感光体10の移動方向Xと逆向きに回転駆動するようにしてもよい。
【0034】
現像剤粒子102は、攪拌機能を持つ攪拌搬送ロール(図示せず)により攪拌され摩擦帯電されつつ現像ロール140側に搬送される。規制ブレード150によって現像剤粒子102の現像ロール140への吸着量が規制され一定の高さで現像ロール140の周縁に現像剤粒子102が付着する。キャリア粒子は、現像ロール140に内蔵されたマグネット142からの磁場により磁気ブラシを構成する。トナー粒子はキャリア粒子とともに、感光体10に対向する部分まで搬送される。
【0035】
画像形成装置1を複写装置として構成する場合、帯電装置20によって、直流電源22からの直流電圧に交流バイアス電源24からの交流バイアス電圧を重畳させて帯電電位(初期電位)を生成し、この帯電電位で感光体10の表面を一様な表面電位に帯電させる。
【0036】
この後、原稿を図示しない読取装置によってスキャンして得た画像データに従って感光体10の表面に露光装置30に備えられるレーザ光源32から発せられるレーザ・ビームを、モータ36により回転駆動されるポリゴンミラー34でスキャンすることによって、感光体10の表面を露光して潜像電位からなる静電潜像を形成する。
【0037】
続いて、現像装置40は、図示しない攪拌機構において出力色のトナー粒子やキャリア粒子などでなる現像剤粒子102を混合しながら、その現像剤粒子102中のトナー粒子を感光体10の表面に形成されている静電潜像に重畳することでトナー像を感光体10の表面に形成させる。これによって、感光体10の表面に形成された潜像は現像化される。現像処理後のキャリア粒子と、感光体10側に飛翔されなかったトナー粒子とは、収納容器101内に回収される。
【0038】
この後、転写装置50は、感光体10の表面に形成されているトナー像を、外部から搬送されてきた印刷用紙上に転写する。感光体10と転写部54とが対向する予め決められた範囲を転写領域と称する。
【0039】
転写済の用紙は定着装置70側に搬送され、定着装置70にて加熱溶融・圧着作用によりトナー像を転写体としての印刷用紙上に定着する。定着済の用紙は、図示しない排出装置によって、画像形成装置1の外に排紙される。
【0040】
一方、クリーニング装置60は、転写装置50による転写後の感光体10の表面に残留する残留トナーを除去する。清掃後の感光体10の表面には残留電位が残っているが、帯電装置20で初期電位を印加してから次の電子写真プロセスに利用される。
【0041】
なお、カラー画像形成用の画像形成装置1を構成する場合、画像形成に関わる主要部の構成としては、たとえば転写装置50にて直接に用紙に感光体10のトナー像を転写体である用紙に転写させるのではなく、たとえば、K(黒),Y(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン)の出力色に対応する複数のエンジンを、たとえばK→Y→M→Cの順にインライン状に配列し、K,Y,M,Cの画像を4つのエンジンで並列的(同時進行的)に処理する、すなわち配置位置に応じた時間を隔てて、1色ずつ中間転写ベルトに感光体10のトナー像を転写(特に1次転写という)させ、その後、中間転写ベルト上のトナー像を用紙に転写(特に2次転写という)させるように構成したタンデム型のカラー画像形成装置にしてもよい。
【0042】
このような電子写真プロセスでは、感光体10に対する帯電、スキャンした原稿イメージの露光、現像すなわち感光体10へのトナー重畳、用紙へのトナー転写およびトナー定着、感光体10のクリーニングという複数の工程からなる。電子写真プロセスでは、たとえば、攪拌、現像、転写などの各プロセスにおいて粉体挙動解析シミュレーションを適用することで、現実に画像形成実験を行なうことなく、形成される画像を予測し評価する。キャリア粒子およびトナー粒子の挙動の解析が、電子写真装置本体や現像装置40の開発にとって重要な要素となる。
【0043】
たとえば、現像装置40の解析では、攪拌プロセスや現像プロセスなどが解析対象となる。たとえば、規制ブレード150の攪拌搬送ロール側の予め決められた範囲領域を層形成領域と称し、現像剤粒子102についての粒子挙動解析では、磁場および重力場の作用を考慮する。攪拌搬送ロールにより攪拌・搬送される予め決められた範囲領域を攪拌搬送領域と称し、現像剤粒子102についての粒子挙動解析では、重力場の作用を考慮する。
【0044】
攪拌搬送領域と層形成領域との間の現像剤粒子102が現像ロール140に磁気吸着される予め決められた範囲領域をピックアップ領域と称し、現像剤粒子102についての粒子挙動解析では、磁場および重力場の作用を考慮する。
【0045】
感光体10と現像ロール140の各周縁が対向し現像作用の行なわれる範囲領域を現像ニップ領域と称し、現像剤粒子102についての粒子挙動解析では、電場、磁場、重力場の作用を考慮する。現像剤粒子102の回収される予め決められた範囲領域をピックオフ領域と称し、現像剤粒子102についての粒子挙動解析では、磁場および重力場の作用を考慮する。
【0046】
感光体10の表面は、記録画像に応じて帯電されており、トナー粒子は、静電力により感光体10の表面に飛翔する。感光体10の表面には、飛翔したトナー粒子が付着し、記録画像に応じたトナー像が形成される。このとき、トナー粒子の感光体10への吸着のされ方によって、記録画像の画質が左右される。トナー粒子は、キャリア粒子により感光体10に搬送されているので、トナー粒子の感光体10への吸着のされ方は、現像ロール140と感光体10との間の現像ニップ領域でのキャリア粒子およびトナー粒子の挙動により決定される。
【0047】
また、転写装置50における転写プロセスでは、感光体表面粗さや、感光体・中間転写ベルトや用紙などの転写体間の速度差、転写体の接触幅などの転写プロセスにおける条件パラメータを変更しながら、粉体挙動解析シミュレーションを繰り返し行なっていくことで、転写プロセスを再現しながら形成される画質の評価を行なう。因みに、転写プロセスについての粒子挙動解析では、現像剤粒子102(特にトナー粒子)に作用する電場および重力場を考慮する。
【0048】
<粒子挙動解析システム>
図2は、粒子挙動解析システムの一構成例を示すブロック図である。粒子挙動解析システムにおいては、各相互作用の解析を行なう際、多くのプロセッサを用いた並列計算処理では、並列処理効率に飽和傾向が出る。その対策として、粒子分割、力分割、領域分割などの各種の分割手法を用いて解析する。以下では、特段の断りのない限り、力分割法を適用した粒子挙動解析を行なうものとして説明する。力分割法を用いて粒子挙動解析を行なう仕組みそのものについては特許文献1に記載のものと同様で良く、ここではその説明を割愛する。
【0049】
粒子挙動解析システム200Aは、それぞれ粒子挙動解析機能を有する複数台の粒子挙動解析装置202がネットワーク接続されて構成されている。各粒子挙動解析装置202は、1つの筐体内(半導体基板上)に計算処理を行なうコア部分(いわゆるCPUの部分)が1つのシングルコアのものである。
【0050】
各粒子挙動解析装置202は、主要の処理データを相互にネットワーク209を介して伝達し合い、粒子挙動解析処理を並列的に実行可能になっており、粒子挙動解析システム200Aとしては、事実上の並列型計算装置(クラスタ計算機)として構成されている。ネットワーク209は、通信状態がルーティング機能を持つネットワーク管理装置208で管理されるようになっている。
【0051】
各粒子挙動解析装置202は、一例として、一般の電子計算機と同様のもので構成するのがよい。また、図示した例では、粒子挙動解析システム200Aを構成する各粒子挙動解析装置202の内の1台が全体を統括する計算管理ノードの機能を持つ主粒子挙動解析装置202aとして機能するようになっている。主粒子挙動解析装置202aに対して残りの粒子挙動解析装置202が、主粒子挙動解析装置202aにより制御される副粒子挙動解析装置202bとしてネットワーク接続されている。
【0052】
ここで、本実施形態の副粒子挙動解析装置202bは、詳細は後述するが、力分割法を適用する際に使用される力マトリクス(力行列)における行方向ごとに各副粒子挙動解析装置202bにより得られた解析結果を纏めて出力する機能部(行方向処理結果出力処理部)を具備する代表ノード用のもの(代表副粒子挙動解析装置202b_1)と、それ以外の一般ノード用のもの(一般副粒子挙動解析装置202b_2)とに分けられる。
【0053】
なお、図では便宜的に、ネットワーク管理装置208から1本のネットワーク線を出し、そのネットワーク線上に主粒子挙動解析装置202aと副粒子挙動解析装置202bとを接続する態様で示しているが、実際には、ネットワーク管理装置208に備えられる個別のポートに各粒子挙動解析装置202が接続され、各粒子挙動解析装置202間の通信は、このネットワーク管理装置208を介してなされるようになっている。
【0054】
主粒子挙動解析装置202aには、粒子挙動解析処理用の各種の操作を行なうためのキーボードやマウスなどの指示入力装置210と、処理結果を操作者に画像情報として提示する表示装置212とが接続されている。
【0055】
このような基本構成のシステム構成を採ることで、複数種類の多体粒子間相互作用がある系について粒子挙動解析処理を行なうに当たり、各粒子の磁気相互作用、静電相互作用、または機械的相互作用(接触力;壁などと粒子間の接触力や粒子間接触)などの各相互作用について、予め定められた分割法を適用して並列処理にて挙動解析を実行する。なお、機械的相互作用は、たとえば、壁やその他の物体と粒子間の接触力や粒子間接触による接触力である。壁(壁面)は、解析対象粒子の挙動を解析する際の解析領域の運動境界となるものである。
【0056】
たとえば、キャリア粒子については Maxwell方程式を基礎とした磁場解析法などを利用して主に磁気力を算出し、トナー粒子については主にクーロン力に着目した静電界解析を行ない、さらに、キャリア粒子、トナー粒子の接触力を粒子の接触量から算出し、最終的には、各作用力を組み合わせて運動方程式を解き、現像剤粒子102の挙動を高精度で予測する。
【0057】
特に本実施形態では、各粒子挙動解析装置202において各相互作用の解析を行なう際、領域分割法(SD;Spatial Decomposition Method)や粒子分割法(PD;Particle Decomposition Method あるいはRD;Replicated Data Method)ではなく力分割法(力マトリクスを用いたアルゴリズム)を用いて解析することで、全プロセッサ(本実施形態の各粒子挙動解析装置202)間の計算用データの通信量を低減させる。計算用データの通信量を低減させることで、多プロセッサ使用時のプログラムの並列化性能を向上させ、計算時間を大幅に短縮する。
【0058】
なお、図2に示した粒子挙動解析システム200Aの基本構成では、事実上の並列型計算装置(クラスタ計算機)の構成で示したが、これは一例に過ぎない。図示を割愛するが、特許文献1の図3の構成のように、それぞれ粒子挙動解析機能を有する複数台の粒子挙動解析装置を第1ネットワークにてネットワーク接続されて並列型計算装置として構成されている複数の粒子挙動解析システムを、さらに、別の第2ネットワークで接続して構成されたものとしてもよい。この場合、各粒子挙動解析システムは、主要の処理データを相互に外部ネットワーク(第2ネットワーク)を介して伝達し合い、それぞれ対象の異なる粒子挙動解析処理を並列的に実行可能になり、このような変形例の粒子挙動解析システムとしては、事実上の並列型計算装置をネットワーク接続してなるグリッド型計算装置として構成される。また、複数のコア部分(いわゆるCPUの部分)を1つの筐体(半導体チップ)に収容したマルチコアを有するものとしてもよい。
【0059】
また、ここでは、力分割法を適用した解析結果をファイル出力する際の効率を高めるべく、副粒子挙動解析装置202bを、代表副粒子挙動解析装置202b_1と、それ以外の一般副粒子挙動解析装置202b_2とに分けているが、このことも必須ではない。
【0060】
<粒子挙動解析装置:第1実施形態>
図3〜図3Aは、粒子挙動解析装置202の第1実施形態の構成例を示すブロック図である。ここで、図3は、特に計算管理ノードの機能を具備した主粒子挙動解析装置202a(代表ノードの代表副粒子挙動解析装置202b_1を含む)について示している。図3Aは、代表ノード以外の一般ノードの機能を具備した一般副粒子挙動解析装置202b_2について示している。
【0061】
第1実施形態は、ルックアップテーブルのデータ記憶部238への記憶を物体挙動の解析を行なう前に予め行ない、解析中に出現した物体間距離に対してはルックアップテーブルに記憶された値から遠距離相互作用力を参照する点に特徴がある。
【0062】
このため、図3に示すように、第1実施形態の粒子挙動解析装置202は、主粒子挙動解析装置202aは、データ入力部220、データ処理部230、情報提示部240、移動粒子判定部260、LUT取得部280を備えている。データ入力部220と情報提示部240とLUT取得部280は、主粒子挙動解析装置202aの計算管理ノードに相当する部分に設けられている。データ入力部220は指示入力装置210などを利用して処理対象データを取り込む。データ処理部230は、粒子挙動解析処理を行なう。情報提示部240は、処理結果を表示装置212などを利用して操作者に提示する。
【0063】
また、粒子挙動解析装置202は、主粒子挙動解析装置202aの計算管理ノードに相当する部分に、分割処理部250を備えている。分割処理部250は、処理対象要素を力分割法により分割するに当たり、それぞれ計算装置で構成され力分割法による粒子挙動解析を行なう各計算システム(プロセッサとも称する;図1では粒子挙動解析装置202)に各分割部分を割り当てる。
【0064】
データ入力部220は、指示入力装置210を構成するキーボードやマウスを介して操作者より入力されるコマンドやデータを受け付け、データ処理部230や分割処理部250にそれぞれで必要とされるデータを渡す。
【0065】
分割処理部250は、縦N・横Nの力マトリクスを使用するように設定し、各力マトリクスに解析対象粒子を割り当てる。なお、分割処理部250は、各ノードでの計算負荷が概ね均等となるようにすることも考慮するのがよい。たとえば、処理対象要素を予め決められた分割法により分割するに当たり、それぞれ複数の計算装置で構成された各計算システム(粒子挙動解析システム200)における同一範囲時点での計算時間(ステップ当たりの計算時間)が同等となるように解析対象要素を配分する解析負荷分散処理部を具備する構成とする。この解析負荷分散処理部は、分割処理部250が兼用する構成(解析負荷分散処理部250aと記す)としてもよいし、分割処理部250とは別の機能要素として設けてもよい。
【0066】
解析負荷分散処理部250aは、静電相互作用、磁気相互作用、機械的相互作用(接触力)、または付着力などの複数種類の粒子間相互作用を考慮する場合や、現像剤102を構成する物性の異なる複数種類の粒子(本例ではキャリア粒子、トナー粒子、外添剤)を解析対象とする場合においても、並列解析処理時の各数値演算処理部(粒子挙動計算部)間の計算時間差が確実に小さくなるように、解析対象の作用力の相違や粒子種の相違を勘案して解析対象要素を配分する分割処理を行なう。
【0067】
また解析負荷分散処理部250aは、粒子挙動解析システム200を構成する各粒子挙動解析装置202や、粒子挙動解析システム201を構成する各粒子挙動解析システム200の処理性能(計算能力)をも勘案して、解析対象要素を配分するのがよい。そして、解析負荷分散処理部250aは、分割担当領域や分割担当粒子(のグループ)をそれぞれ複数の計算装置(粒子挙動解析装置202)で構成された計算システム(粒子挙動解析システム200)に割り当てる。データ処理部230では、他の分割部分に関しての処理を担当する他の各数値演算処理部との間でデータ通信を行なうとともに、分割された担当する分割部分について、力分割法による粒子挙動解析を行なう。
【0068】
力分割法を適用したデータ処理時には、粒子間距離と相互作用力との関係(相互作用力の距離依存性)を考慮して、解析対象粒子種を複数とする複数成分粒子系の解析時には複数のカットオフを設定してもよい。たとえば、解析対象の相互作用力が距離の近い粒子との相互作用についてのみ着目すればよい相互作用力(近距離力もしくは短距離力と称する)であるときにはカットオフを小さく設定し、距離の近い粒子とだけでなく距離の離れた粒子との相互作用についても着目する必要のある相互作用力(遠距離力もしくは長距離力と称する)であるときにはカットオフを大きく設定する。
【0069】
データ処理部230は、データ入力部220から入力されたデータに基づいて後述する粒子挙動解析処理を行なう。データ処理部230は、より詳細には、データ受付部232、数値演算処理部234(粒子挙動計算部)、出力データ処理部236、データ記憶部238を有している。
【0070】
データ記憶部238は、相互作用を計算するためのパラメータ表のデータを記憶する装置であり、メモリバスを介して数値演算処理部234に接続される。ここで、データ記憶部238は、粒子挙動解析装置202ごとに設けられる一時記憶部238aおよび外部記憶装置238bで構成される。
【0071】
一時記憶部238aは、CPUと同一の半導体基板上に内蔵されるいわゆるキャッシュメモリ(Cache Memory)である。外部記憶装置238bは、いわゆるメインメモリとも称される外部の半導体製の記憶媒体(たとえば数100MB〜数GB程度の容量のもの)、およびメインメモリより大容量(数100GB以上)のハードディスク装置(HDD)などである。周知のように、CPUのアクセスは、メインメモリよりもキャッシュメモリの方が高速である。
【0072】
データ処理部230は、副粒子挙動解析装置202bに含まれる。ここで、主粒子挙動解析装置202aが代表ノードに該当するときには、図示のように、副粒子挙動解析装置202bとしては、代表副粒子挙動解析装置202b_1を含む。一方、主粒子挙動解析装置202aが代表ノードに該当しないときには、代表副粒子挙動解析装置202b_1に代えて一般副粒子挙動解析装置202b_2にする。
【0073】
データ受付部232は、データ入力部220から入力されたデータを外部記憶装置238bに記憶し、数値計算時に必要なデータを数値演算処理部234に供給する。外部記憶装置238bには、たとえば、解析の対象としている現像装置40の構成および現像剤粒子102の座標、物性値に関するデータなどが記憶される。
【0074】
数値演算処理部234は、分割処理部250による分割処理により割り当てられた分割部分について、決められた分割法に従ってデータ記憶部238との間でデータ(情報)の入出力(メモリアクセス)を行ないながら計算を行なう粒子挙動計算部として機能する。
【0075】
粒子挙動解析装置202はさらに、図3に示すように、代表副粒子挙動解析装置202b_1の部分は、行方向処理結果出力処理部290を備える。行方向処理結果出力処理部290は、自身が属する同一行の各一般副粒子挙動解析装置202b_2の出力データ処理部236から、それぞれの解析結果を取得する。そして、行方向処理結果出力処理部290は、自身の出力データ処理部236からの解析結果を含めて、当該行の各解析結果を纏めて計算管理ノードの情報提示部240にファイル出力する。
【0076】
また、図3Aに示すように、一般副粒子挙動解析装置202b_2は、代表副粒子挙動解析装置202b_1における行方向処理結果出力処理部290を備えていない。出力データ処理部236は、それぞれの解析結果を、自身が属する同一行の代表副粒子挙動解析装置202b_1の行方向処理結果出力処理部290にファイル転送する。
【0077】
各数値演算処理部234は、供給されたデータに基づき、粒子の一例である現像剤粒子102(詳細にはキャリア粒子やトナー粒子など)について、磁気相互作用、静電相互作用、または機械的相互作用(接触力)など、複数の相互作用を同時に考慮した粒子挙動を、力分割法を適用してシミュレーション処理にて解析する。数値演算処理部234は、その解析結果の出力ファイルを予め決められたタイミングごとに出力データ処理部236に供給する。
【0078】
たとえば、先ず、主粒子挙動解析装置202aは、現時点において粒子挙動解析処理に使用可能な粒子挙動解析システム200を構成する粒子挙動解析装置202の数(プロセッサ数)を特定する。この後、計算に必要な各種物理パラメータや粒子の初期配置や力分割法で特に必要となる解析対象粒子数などの計算条件を読み込む。そして、特定した各粒子挙動解析装置202(プロセッサ)を、力分割法に従ってマトリクス配置して、解析対象の粒子(現像剤102を構成するキャリア粒子やトナー粒子)を割り当てる。
【0079】
次に、複数種類の多体粒子間相互作用力を、特定プロセッサ(他の数値演算処理部234)に分散して計算する。このとき、複数種類の多体粒子間相互作用に対しては、それぞれ別の力マトリックスを用いて計算する。たとえば、担当マトリクス中の相手粒子との間における磁気相互作用を、当該磁気相互作用解析用の力マトリックスを用いて解析処理する。次に、出力データ処理部236を介して特定プロセッサ間で通信し、磁気相互作用について、分散して計算した磁気相互作用力の総和値を求める。
【0080】
同様にして、担当マトリクス中の相手粒子との間における静電相互作用を、当該静電相互作用解析用の力マトリックスを用いて解析処理する。次に、出力データ処理部236を介して特定プロセッサ間で通信し、静電相互作用について、分散して計算した静電相互作用力の総和値を求める。
【0081】
また、担当マトリクス中の相手粒子との間における機械的相互作用(接触力)を、当該機械的相互作用解析用の力マトリックスを用いて解析処理する。次に、出力データ処理部236を介して特定プロセッサ間で通信し、機械的相互作用について、分散して計算した機械的相互作用力の総和値を求める。
【0082】
さらに、磁気相互作用、静電相互作用、および機械的相互作用(接触力)のそれぞれについて求めた各総和値を加算して全総和値を求める。次に、磁気相互作用、静電相互作用、および機械的相互作用(接触力)の全総和値を使用して、各粒子の運動方程式を解き、位置座標を計算する。そして、このようにして求めた各粒子の位置座標を、相互作用マトリクスに関係する特定プロセッサ(数値演算処理部234)に送り、計算情報を更新する。この後、予め決められた計算ステップに到達するまで、同様の処理を繰り返す。
【0083】
出力データ処理部236は、各計算ステップでの計算データの受け渡しを各数値演算処理部234間で行なう以外に、予め決められた計算ステップごとに、数値演算処理部234での計算結果の出力ファイルを予め決められている他(この例では力分割法の行方向のもの)の粒子挙動解析装置202(数値演算処理部234)から受け取り、情報提示部240に渡す。情報提示部240は、各粒子挙動解析装置202からのデータを集約して、表示データに変換し、表示装置212に供給する。表示装置212は、情報提示部240から供給された表示データに基づく処理結果画像を表示する。実際には確認困難な現像剤粒子102の挙動を視覚的に把握できるように、現像剤粒子102の挙動予測を可視化して表示装置212上に表示するのである。
【0084】
なお、プロセッサは、数値演算処理部234として機能するだけでなく、その他の一般的な演算処理機能や制御機能など、一般的なCPUが備える機能を実現し得るものである。副粒子挙動解析装置202bには、CPUがプログラム処理により各機能部として機能するようにするための仕組みとして、一般的な電子計算機(コンピュータ)と同様の構成も備え、コンピュータシステムを構築している。
【0085】
本実施形態において、粒子の挙動を解析する仕組みは、ハードウェア処理回路により構成することに限らず、その機能を実現するプログラムコードに基づき電子計算機(コンピュータ)を用いてソフトウェア的に実現することも可能である。よって、本実施形態に係る仕組みを、電子計算機(コンピュータ)を用いてソフトウェアで実現するために好適なプログラムまたはこのプログラムを格納したコンピュータ読取可能な記録媒体(記憶媒体)が発明として抽出される。ソフトウェアにより実行させる仕組みとすることで、ハードウェアの変更を伴うことなく、処理手順などが容易に変更されることとなる。
【0086】
一連の粒子挙動解析処理はハードウェアまたはソフトウェアの単独に限らずその両者の複合構成によっても実現され得る。ソフトウェアによる処理を実行する場合、処理手順を示したプログラムを、ハードウェアに組み込まれたコンピュータ内の記憶媒体に組み込んで(インストールして)実行させたり、各種処理が実行可能な汎用の電子計算機にプログラムを組み込んで実行させる。
【0087】
粒子挙動解析処理機能をコンピュータに実行させるプログラムは、CD−ROMなどの記録媒体を通じて配布される。または、このプログラムは、CD−ROMではなくFDに格納されてもよい。また、MOドライブを設け、MOに前記プログラムを格納してもよく、またフラッシュメモリなどの不揮発性の半導体メモリカードなど、その他の記録媒体にプログラムを格納してもよい。
【0088】
ソフトウェアを構成するプログラムは、記録媒体を介して提供されることに限らず、有線または無線などの通信網を介して提供されてもよい。たとえば、他のサーバなどからインターネットなどのネットワークを経由してプログラムをダウンロードして取得したり、または更新したりしてもよい。粒子挙動解析処理を行なう機能を実現するプログラムコードを記述したファイルとしてプログラムが提供されるが、この場合、一括のプログラムファイルとして提供されることに限らず、コンピュータで構成されるシステムのハードウェア構成に応じて、個別のプログラムモジュールとして提供されてもよい。
【0089】
たとえば、コンピュータシステムは、プロセッサコアが機能する中央制御部910、読出専用の記憶部であるROM(Read Only Memory)、または随時読出し・書込みが可能なメモリであるRAM(Random Access Memory)などを具備する記憶部912、操作部914、図示を割愛したその他の周辺部材を有する。ROMには粒子挙動解析処理機能用の制御プログラムなどが格納される。操作部914は、利用者による操作を受け付けるためのユーザインタフェースである。
【0090】
なお、コンピュータシステムの制御系としては、メモリカードなどの図示を割愛した外部記録媒体を挿脱可能に構成し、またインターネットなどの通信網との接続が可能に構成するとよい。このためには、制御系は、中央制御部910や記憶部912の他に、可搬型の記録媒体の情報を読み込むメモリ読出部920や外部との通信インタフェース手段としての通信I/F922を備えるようにするとよい。メモリ読出部920を備えることで外部記録媒体からプログラムのインストールや更新ができる。通信I/F922を備えることで、通信網を介しプログラムのインストールや更新を行ない得るようになる。
【0091】
なお、本実施形態の粒子挙動解析処理を実現するための情報処理装置の各部(機能ブロックを含む)の具体的手段は、ハードウェア、ソフトウェア、通信手段、これらの組み合わせ、その他の手段を用いてよく、このこと自体は当業者において自明である。また、機能ブロック同士が複合して1つの機能ブロックに集約されてもよい。また、コンピュータにプログラム処理を実行させるソフトウェアは、組合せの態様に応じて分散してインストールされ得る。
【0092】
図示を割愛するが、副粒子挙動解析装置202bを、代表副粒子挙動解析装置202b_1とそれ以外の一般副粒子挙動解析装置202b_2とに分けないシステム構成にする場合は、行方向処理結果出力処理部290を取り外す。そして、各副粒子挙動解析装置202bの出力データ処理部236が各別にファイル出力処理を行なう、または、何れか1つのノード(プロセッサ)にファイル出力データを集合させるためにデータ通信を行ない、その1つのノードの出力データ処理部236が代表してファイル出力処理を行なう。
【0093】
各プロセッサのデータ処理部230(数値演算処理部234)は、個々の粒子の挙動を運動方程式に基づいて追跡する個別要素法を適用した粒子挙動解析手法を適用する。個別要素法は粉体を構成する個々の粒子の挙動を、運動方程式に基づいて時々刻々追跡し、精度良く粉体挙動をシミュレートする方法である。電子写真プロセスを採用した図1に示す画像形成装置1におけるキャリアやトナー粒子をはじめ、種々の粉体挙動シミュレーションに適用され得る。
【0094】
しかしながら、個別要素法に基づいた粒子挙動計算アルゴリズムでは、微小時間ごとに、粒子の受ける力(機械的接触力、電磁気的遠距離力など)を算出し運動方程式に従って粒子の座標を更新していくが、実際の粉体プロセスを再現するためには膨大な数の粒子を考慮しなければならない。一般的な手法では、概ね粒子数の2乗で解析負荷が増大するので、粒子数が多くなると、計算量が膨大になり、いくら計算機の性能が向上したとはいっても、実際の系と同等の粒子数での計算を実行することは困難な場合が多い。現実的な計算時間で大規模な解析を行なうことは困難である。
【0095】
そこで、粒子挙動解析方法において、計算時間の短縮を目的として、プログラムがインストールされた電子計算機を複数台使用し、各プログラムの並列化動作による分散処理を行なうことが提案されている。各電子計算機では、個別要素法にて挙動解析を行なう。
【0096】
本実施形態でも、個別要素法を適用する際に、領域分割法、力分割法、粒子分割法、またはこれらを任意に組み合わせた方法、さらにはその他の分割法の何れかを適用した複数コンピュータによる並行処理手法を採用する。領域分割法は、処理対象要素である解析領域(計算対象領域)を分割して、分割した領域別にその領域内に存在する全粒子を各プロセッサに割り当てていく手法である。粒子分割法は、処理対象要素である計算対象粒子を所定数ずつ分割して各プロセッサに割り当てていく手法である。力分割法は、力マトリックスを用いたアルゴリズムを利用する手法である。
【0097】
分割処理部250は、解析対象の装置の全体について、纏めて分割対象とするのではなく、解析対象領域を複数の領域に分割し、この分割した各解析対象領域の別に、さらに領域分割法や粒子分割法や力分割法などを適用するのがよい。たとえば現像装置40の全体について解析する場合、攪拌搬送領域、ピックアップ領域、層形成領域、現像ニップ領域、ピックオフ領域の別に解析を行なうようにするとよい。
【0098】
また、個別要素法では、各種の分割法を適用するか否かに関わらず、近距離相互作用力(近距離力とも称する:典型例としては接触力)だけでなく、遠距離相互作用力(遠距離力とも称する)の計算も必要になり、計算負荷がさらに増大する。たとえば、電子写真プロセスにおいては、キャリア粒子やトナー粒子に働く電磁気的遠距離相互作用力を考慮しなければならない。
【0099】
遠距離力の計算負荷を低減する方法として、磁気力などの遠距離力をある一定の距離以上はなれた粒子間では無視するカットオフ法や、機械的接触力の計算方法を簡易化した剛体球モデルなどがある。しかしながら、これらの方法では、計算速度が速くなり計算効率は向上するが、その反面で解析精度が悪化し解析結果の信頼性が低下してしまう難点がある。たとえば、磁気力のカットオフ法では遠距離物体間の磁気相互作用力を無視するため解析精度の低下は避けられない。
【0100】
したがって、より現実の系に近い条件において精度良く粉体挙動をシミュレートするためには、計算速度(計算効率)と解析精度(解析結果の信頼性)を両立した遠距離力計算の高速化手法の開発が求められている。
【0101】
本実施形態では、分割法を適用するか否かや分割法が何であるかを問わず、同一の解析系、処理ステップの中でも、それぞれの粒子ごとに、動的に、遠距離力の解析手法を変える手法を採る。基本的な考え方は、個別要素法における物体に作用する遠距離力の計算負荷の低減(換言すると処理の高速化)を図るもので、ルックアップテーブル(LUT:Look Up Table )を使用して遠距離力の計算を割愛することでそれを実現する。時々刻々変化する物理量として粒子間距離に着目し、粒子間距離に基づきルックアップテーブルを参照するか否かを切り分けるのである。
【0102】
このような仕組みとするため、第1実施形態の粒子挙動解析装置202は、先ず、主粒子挙動解析装置202aの計算管理ノードの部分はLUT取得部280を備え、さらに、副粒子挙動解析装置202bの部分は移動粒子判定部260を備える。
【0103】
LUT取得部280は、遠距離相互作用力のルックアップテーブルを取得し、取得したルックアップテーブルの情報を各副粒子挙動解析装置202bのデータ記憶部238に記憶する。このLUT取得部280は、詳細には、図3に示すように、物体間距離に応じた遠距離相互作用力を対応付けたルックアップテーブルを作成するLUT生成部282(対応情報生成部)と、予め外部で作成されたルックアップテーブルを受け付けるLUT受付部286(対応情報受付部)の何れかを有するものとする。ルックアップテーブルは、一定間隔での粒子間距離r_nごとに、その粒子間距離r_nにおける遠距離力を対応付けたもので、数値演算処理部234は、配列にない粒子間距離rにおける遠距離力を、配列にある粒子間距離r_nでの遠距離力を元に代用や補間などの手法で特定する。
【0104】
LUT取得部280は、計算するべき遠距離相互作用力が複数種類ある場合にはその種類に応じてルックアップテーブルも複数用意する。たとえば、キャリア粒子とトナー粒子に着目する場合、キャリア粒子については Maxwell方程式を基礎とした磁場解析法などを利用して磁気力を算出し、トナー粒子についてはクーロン力に着目した静電界解析を行なう。よって、クーロン力用のルックアップテーブルと磁気力用のルックアップテーブルを各別に用意する。また、別の手法として、計算するべき遠距離相互作用力が複数ある場合に、各相互作用力の合計値を遠距離相互作用力としてルックアップテーブルに記憶するようにしてもよい。
【0105】
移動粒子判定部260は、数値演算処理部234による各粒子の挙動の計算結果に基づいて、移動量が予め定められている閾値を超える粒子を判定し、その判定結果を数値演算処理部234に通知する。
【0106】
移動粒子判定部260は、移動粒子特定部262と閾値設定受付部266を有する。閾値設定受付部266は、操作者から閾値の指定を受け付け、その情報を移動粒子特定部262に通知する。閾値設定受付部266は、副粒子挙動解析装置202bごとではなく、計算管理ノードの部分に設け、各副粒子挙動解析装置202bの移動粒子特定部262に指定された閾値の情報を通知するようにしてもよい。
【0107】
移動粒子特定部262は、粒子ごと、数値演算処理部234からの移動量の計算結果と閾値設定受付部266を介して指定された閾値とを比較して、粒子間距離(たとえば中心間距離)が閾値を超えない粒子については、個別要素法で従来より一般的に使用されている遠距離力計算方法に基づき遠距離力を求める。一方、粒子間距離が閾値を超える粒子については、ルックアップテーブルを参照して、求めた粒子間距離に対応する遠距離力を読み出し、その読み出した値をこのステップでの遠距離力として使用する。なお、閾値をゼロに設定することで、実質的に、他の物質(他の粒子や壁)と接触していない全ての粒子について、ルックアップテーブルを参照して、求めた粒子間距離に対応する遠距離力を読み出し、その読み出した値をこのステップでの遠距離力として使用することになる。
【0108】
つまり、数値演算処理部234は、処理ステップごとに、かつ、粒子ごとに、粒子が接触しているか否かや粒子間距離が閾値(ゼロを除く)を超えるか否かなどに応じて、遠距離力についてルックアップテーブルを参照するか否かを切り替える。ルックアップテーブルを参照することで、そのステップでは遠距離力の計算を割愛するのである。計算を行なわずにルックアップテーブルを参照して遠距離力を求めるため、通常通り遠距離力を計算するよりは処理効率が向上する(つまり解析処理時間の短縮が図られる)。
【0109】
以下、本実施形態の仕組みについて、具体的に説明する。
【0110】
<粒子挙動解析処理:第1実施形態の第1例>
図4〜図5Cは、第1実施形態の粒子挙動解析装置202における第1例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図4は、第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法に対する比較例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。個別要素法(DEM)の基本フローチャートと相違はないと考えてよい。図5は、粒子間の遠距離力の計算負荷を低減する第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図5A〜図5Bは、第1実施形態(第2実施形態でも)の第1例で使用するルックアップテーブルの一例を説明する図である。図5Cは、比較例と第1実施形態の第1例の粒子挙動解析手法との対比を説明する図である。
【0111】
図5に示す第1実施形態の第1例は、個別要素法における物体に作用する遠距離力の計算負荷の低減(換言すると処理の高速化)を、ルックアップテーブルを使用して遠距離力の計算を割愛することで実現する方法である。後述する他の実施形態にも共通する、全ての実施形態で最も基本となるものである。図5では、一例として、時々刻々変化する物理量として粒子(物体の一例)の距離(たとえば中心間距離)に着目し、粒子間距離に基づきルックアップテーブルを参照する場合で示している。なお、この第1例では、移動粒子判定部260は、閾値設定受付部266を備えている必要はない。
【0112】
先ず、図4に示すように、比較例では、数値演算処理部234は、データ受付部232から、数値計算時に必要なデータを取り込む。その中には、現像剤粒子102の初期の座標データ(粒子の配置位置のデータ)が存在する。数値演算処理部234は、初期の粒子配置を特定する(S100)。そして、物体間距離に対応して、近距離力(ここでは接触力)や遠距離力(たとえば磁気力やクーロン力)を特定していく。すなわち、先ず、各粒子対の接触判定処理(S121)では、粒子の座標データに基づいて粒子間距離を求め(S124)、さらに各粒子対の接触判定を行なう(S126)。接触していると判断しなかった粒子対に対しては接触力の計算を行なわず(S126−NO)、接触していると判断した粒子対に対しては接触力計算を行ない接触力を求める(S126−YES,S128)。たとえば、個別要素法で従来より一般的に使用されている粘弾性モデルに基づいた高精度の接触力計算を行なう。
【0113】
その後、遠距離相互作用力を計算する粒子対(物体ペア)を選択して、個別要素法で従来より一般的に使用されている手法で遠距離力の厳密計算を行ない(S150)、遠距離力の作用する方向を特定し、特定した方向に応じて符号調整をしてから(S180)、接触力や遠距離力を元に粒子座標を更新する(S190)。
【0114】
なお、遠距離力の計算は、必ず実施されると言うものではない。たとえば、電子写真プロセスにより画像形成を行なう画像形成装置1での粒子挙動解析では遠距離力の計算を行なうが、ホッパーからのガラスビーズの堆積挙動解析の場合には遠距離力計算が不要である。
【0115】
この後、ファイル出力条件を満たす計算ステップに到達するまで、ステップS124に戻り、同様の処理を繰り返す(S194−NO)。ファイル出力条件を満たす計算ステップに到達すると(S194−YES)、出力処理を行なう(S196)。ここで、「出力処理」とは、たとえば、解析結果のファイル出力を意味する。なお、このファイル出力は、必ず実施されると言うものではない。
【0116】
この後、終了条件を満たす計算ステップに到達するまで、ステップS124に戻り、同様の処理を繰り返す(S198−NO)。ここで“終了条件を満たす計算ステップ”とは、解析対象の全粒子が、概ね安定した位置に納まった状態となるまでとすればよい。
【0117】
一方、第1実施形態の第1例では、図5に示すように、物体挙動の解析を行なう前に、一定間隔の粒子間距離ごとに、粒子間距離とその粒子間距離におけるクーロン力や磁気力などの遠距離力を対応づけた遠距離相互作用力のルックアップテーブルを予め用意しておく(S110)。
【0118】
なお、粒子間距離だけの考えでルックアップテーブルを用意するときは、着目粒子と他方の粒子の距離が同じであれば、着目粒子に対して他方の粒子が第1、第2、第3、第4象限の何処にあろうと関係なく、遠距離力は同じであり、作用方向の区別もない。
【0119】
たとえば、LUT生成部282が一定間隔(たとえば1mmステップ)ごとの物体間距離rに応じた遠距離力F[r]を対応付けたルックアップテーブルを作成してデータ記憶部238に記憶してもよいし、予め外部で作成されたルックアップテーブルをLUT受付部286が受け付けてデータ記憶部238に記憶してもよい。
【0120】
ルックアップテーブルの構成としては、たとえば、計算するべき遠距離力F[r]が、たとえば磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r]などのように複数種類ある場合には、図5Aに示すように、その種類応じて、磁気力Fp[r]用のルックアップテーブルLUT_1 とクーロン力Fq[r]用のルックアップテーブルLUT_2 を各別に用意する。なお、ルックアップテーブルLUT_3 は、粒子間距離rに対して、磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r]を纏めたルックアップテーブルであるが、これは、実質的には、計算するべき遠距離相互作用力が複数種類ある場合に、その種類に応じてルックアップテーブルも複数用意するものに該当する。
【0121】
また、別の方法として、図5Bに示すように、各相互作用力(たとえば磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r])の合計値(Fp[r]+Fq[r])を遠距離相互作用力(合計相互作用力Fsum [r])とするルックアップテーブルLUT_4 を用意するようにしてもよい。各別に用意する場合に比べ、ルックアップテーブルに必要な配列数が減るので、ルックアップテーブルに必要になるメモリ数は少なくて済むし、ルックアップテーブルの参照回数も減る。メモリ削減と処理の高速化が図られる。
【0122】
また、キャリア粒子とトナー粒子と外添剤などを含む現像剤粒子102のように解析対象の粒子種が複数種類存在する場合には、粒子対を構成する粒子種の組合せの別にルックアップテーブルも複数用意するのがよい。これは、遠距離力が同じ種類のもので粒子間距離が同じであっても、組合せの粒子種が異なると遠距離力が異なるからである。たとえば、磁気力Fp[r]、クーロン力Fq[r]、合計相互作用力Fsum [r]に関して、トナー粒子とトナー粒子の対、トナー粒子と外添剤の対、キャリア粒子とキャリア粒子の対、キャリア粒子と外添剤の対、外添剤と外添剤の対の別にルックアップテーブルを用意する。磁気力Fp[r]に関してはトナー粒子とトナー粒子の対、クーロン力Fq[r]に関してはキャリア粒子とキャリア粒子の対でのルックアップテーブルは無くてもよい。
【0123】
そして比較例と同様に、接触力に関する処理をした後、遠距離相互作用力を計算する粒子対(物体ペア)を選択する。ここで、第1実施形態では、比較例とは異なり、粒子間距離をデータ記憶部238に記憶してある遠距離力用のルックアップテーブルに突き合わせて、対応する遠距離力(磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r]や合計相互作用力Fsum [r])を読み出す。すなわち、ステップS124で算出した粒子間距離に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S152)。
【0124】
解析上、計算するべき遠距離相互作用力が複数種類ある場合に、各別のルックアップテーブルが用されている場合には、各遠距離相互作用力に関して、粒子間距離に対応する遠距離相互作用力をそれぞれのルックアップテーブルから参照する。たとえば、前例では、磁気力Fp[r]に関しては磁気力Fp[r]用のルックアップテーブルLUT_1 を参照し、クーロン力Fq[r]に関しては、クーロン力Fq[r]用のルックアップテーブルLUT_2 を参照する。または、磁気力Fp[r]およびクーロン力Fq[r]の何れに関してもルックアップテーブルLUT_3 を参照する。そして、磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r]を加算して、その粒子間距離における遠距離力を特定する。
【0125】
また、解析上、計算するべき遠距離相互作用力が複数種類ある場合に、複数の遠距離相互作用力の合計値を遠距離相互作用力合計値とするルックアップテーブルが用意されている場合には、粒子間距離に対応する合計値を読み出すことで、1回のルックアップテーブルの参照で複数の遠距離相互作用力を物体挙動に反映する。たとえば、前例では、磁気力Fp[r]とクーロン力Fq[r]を加算した合計相互作用力Fsum [r]用のルックアップテーブルLUT_4 を参照する。
【0126】
ここで、実際の粒子間距離rに該当するものがルックアップテーブルの配列に存在しないときには、最も近いものを読み出して代用するか、または、近接する2つの値を読み出して補間演算で遠距離力を計算してもよい。補間演算は、単純平均でもよいし、距離差に関する重付け平均としてもよい。重付け平均の式としては、たとえば、近接する2つの値をFq[x],Fq[x+1]としたとき、Fq[r]=(1−x/r)×Fq[x]+x/r×Fq[x+1]とする第1式やFq[r]={1−(x/r)^2}×Fq[x]+{(x/r)^2}×Fq[x+1]とする第2式が考えられる。これらの中では、重付け平均を使うのが、最も解析精度が良好な手法である。補間演算は、個別要素法で従来より一般的に使用されている手法で遠距離力の厳密計算を行なう場合よりも計算負荷は小さい。
【0127】
粒子間距離に対応する遠距離力をルックアップテーブルから参照した後には、遠距離力の作用する方向を特定し、特定した方向に応じて符号調整してから(S180)、接触力や遠距離力を元に粒子座標を更新する(S190)。
【0128】
粒子間距離における遠距離力そのものは正の値であるから、一方の粒子(着目粒子)に対して他方の粒子が存在する位置に関わらず、粒子間距離が同じであれば同じ値である。挙動計算においては、ルックアップテーブルから参照した値に対して、お互いの粒子座標を参照して、つまり着目粒子に対しての他方の粒子が存在する位置を参照して、遠距離力の作用する方向を特定する。
【0129】
具体的には、ルックアップテーブルを参照するときの参照基準になるのは、粒子間距離(必ず正の値)で、参照された遠距離力の作用方向を決めるのに、x,y方向それぞれの座標の差分(正負どちらも取り得る)の符号を用いる。他方の粒子が第1象限にあるときにはx方向の作用方向は「+」でy方向の作用方向は「+」であり、他方の粒子が第2象限にあるときにはx方向の作用方向は「−」でy方向の作用方向は「+」であり、他方の粒子が第3象限にあるときにはx方向の作用方向は「−」でy方向の作用方向は「−」であり、他方の粒子が第4象限にあるときにはx方向の作用方向は「+」でy方向の作用方向は「−」である。
【0130】
図5には、この符号調整の詳細手順が示されている。ルックアップテーブルから参照した遠距離力を、粒子座標関係に基づきx方向の遠距離力の成分とy方向の遠距離力の成分に分ける。そして、x方向の座標の差分値が正であるか否かを判定し(S182)、負であればx方向の遠距離力の符号を反転する(S182−NO,S184)。同様にして、y方向の座標の差分値が正であるか否かを判定し(S186)、負であればy方向の遠距離力の符号を反転する(S186−NO,S188)。
【0131】
このように、第1実施形態の第1例では、粒子間距離に対応する遠距離力をルックアップテーブルを参照して特定するので、補間演算を行なう場合であっても、通常通り遠距離力を計算するよりは処理効率が向上する。そのステップでの遠距離力の計算を間引く場合には解析精度が低下するが、第1実施形態の第1例では、そのステップでの遠距離力の特定を間引くものではないので、間引く場合のような解析精度が低下することもない。このように、第1実施形態の処理手法によれば、処理速度と解析精度の両立を図るようにしている。解析精度を維持しつつ解析系全体としての処理効率を上げるのである。解析結果の信頼性を低下させることなく、全体としての解析処理時間は短くなる。
【0132】
図5Cに、比較例と第1実施形態の第1例について、ある解析条件での計算時間(規格化した値)を示している。ここで、規格化した値とは、全計算時間、遠距離力計算時間、粒子間間距離計算時間のそれぞれについて、比較例を「1」とすることを意味する。
【0133】
たとえば、第1の粒子の容量をq1とし、第2の粒子の容量をq2とすると、クーロン力Fq[r]は「K×q1×q2÷r÷r」で規定される。遠距離力を計算する比較例を適用して、実際に対象となる計算を実行したとき、クーロン力Fq[r]の計算には、「実数掛算2回+実数割算2回=4.24sec/M回」の計算時間が必要であった。これに対して、ルックアップテーブルを参照して遠距離力を特定する第1実施形態の第1例を適用して比較例と同様のものについて処理を実行したときは、「配列サーチ+値の代入=0〜3.1sec/M回」の処理時間で済んだ。比較例に対して、第1実施形態の第1例の手法の方が、処理時間(計算時間)は短縮されている。
【0134】
なお、第1実施形態の第1例で、計算時間にバラつきがあるのは、ルックアップテーブルの配列のどの位置に対応する値が記憶されているかにより配列サーチに要する時間が異なるためである。
【0135】
なお、ルックアップテーブルへの粒子間距離rの配列に当たっては、図5A,図5Bに示すように配列の上位側に粒子間距離rの小さい方を配置する手法と、図示しないが配列の上位側に粒子間距離rの大きい方を配置する手法の何れを採ってもよい。配列の上位側から配列サーチを行なう場合、前者の場合は実際の粒子間距離rが大きいときほど配列サーチに要する時間が長くなり、後者の場合は実際の粒子間距離rが小さいときほど配列サーチに要する時間が長くなる。配列の下位側から配列サーチを行なう場合、前者の場合は実際の粒子間距離rが小さいときほど配列サーチに要する時間が長くなり、後者の場合は実際の粒子間距離rが大きいきほど配列サーチに要する時間が長くなる。変形例として、双方の配列のルックアップテーブルを用意して、両方のルックアップテーブルを同時に上位側(または下位側)から順に参照することで、全体的な配列サーチに要する時間を略半分にすることが考えられる。
【0136】
<粒子挙動解析処理:第1実施形態の第2例>
図6〜図6Aは、第1実施形態の粒子挙動解析装置202における第2例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図6は、第2例において、ルックアップテーブルを参照する領域を説明する図である。図6Aは、第1実施形態の第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。
【0137】
第1実施形態の第2例は、解析精度と解析処理時間のバランスをとるもので、図6に示すように、粒子対が閾値Th1(たとえばr3)より近距離にある場合には、比較例と同様に遠距離相互作用力を計算し、閾値Th1を超える(以上の)遠距離にある場合の遠距離相互作用力の特定にのみルックアップテーブルを参照する点に特徴がある。因みに、第1例と同様に、計算するべき遠距離力F[r]が、たとえば磁気力Fp[rとクーロン力Fq[r]などのように複数種類ある場合には、その種類応じて各別にルックアップテーブルを用意するか、または、それらの合計値(Fp[r]+Fq[r])の合計相互作用力Fsum [r]のルックアップテーブルを用意する。さらに、キャリア粒子とトナー粒子と外添剤などを含む現像剤粒子102のように解析対象の粒子種が複数種類存在する場合には、粒子対を構成する粒子種の組合せの別にルックアップテーブルも複数用意する。
【0138】
以下、図6Aに示すフローチャートについて、第1例との相違点に着目して説明する。第1例と同様に、接触力に関する処理をした後には、先ず、移動粒子判定部260は、ステップS124で算出した粒子間距離を閾値設定受付部266により指定された閾値Th1と比較し(S130)、その結果を数値演算処理部234に通知する。数値演算処理部234は、粒子間距離が閾値Th1未満であれば、比較例と同様に、個別要素法で従来より一般的に使用されている手法で遠距離力の厳密計算を行なう(S130−YES,S150)。一方、数値演算処理部234は、粒子間距離が閾値Th1を超える(以上である)場合は、第1例と同様に、ステップS124で算出した粒子間距離に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S130−NO,S152)。
【0139】
この第1実施形態の第2例では、粒子間距離rが閾値Th1未満のときにはルックアップテーブルを参照せずに実際に遠距離力を厳密計算するので、図6に示すように、粒子間距離rが閾値Th1未満に関しては、ルックアップテーブルの配列も不要になる。
【0140】
第1実施形態の第2例の手法は、粒子間距離と閾値Th1と比較し、その比較結果に応じてルックアップテーブルを参照して遠距離力を特定するか厳密に遠距離力を計算するかを切り替えるようにしている。このため、比較的近距離に存在する粒子間に作用する遠距離相互作用力は、全領域に対してルックアップテーブルからの参照値を用いる第1例に比べて、解析精度が良好になる。これは、実際の粒子間距離rに該当するものがルックアップテーブルの配列に存在するときには精度差がないが、該当するものがルックアップテーブルの配列に存在しないときは、最も近いものを読み出して代用するか、または、近接する2つの値を読み出して補間演算で遠距離力を計算することに起因する。遠距離力は一般的に距離差の2乗に反比例するので、たとえ距離の2乗で重付けする第2式で重付け平均をとっても、遠距離相互作用力に無視できない誤差が生じる可能性があるためである。つまり、第1実施形態の第2例の手法では、実際の距離と、ルックアップテーブル上で記憶されている距離の誤差が、相互作用力計算に及ぼす影響が大きくなってしまう領域については、厳密に遠距離力を計算し精度の低下を抑えるのである。
【0141】
<粒子挙動解析装置:第2実施形態>
図7〜図7Aは、粒子挙動解析装置202の第2実施形態の構成例を示すブロック図である。ここで、図7は、特に計算管理ノードの機能を具備した主粒子挙動解析装置202a(代表ノードの代表副粒子挙動解析装置202b_1を含む)について示している。図7Aは、代表ノード以外の一般ノードの機能を具備した一般副粒子挙動解析装置202b_2について示している。
【0142】
第2実施形態は、ルックアップテーブルのデータ記憶部238への記憶を物体挙動の解析を行なう前に予め行なわず、解析中に初めて出現した粒子間距離となる粒子対(物体ペア)に対しては遠距離相互作用力を計算するとともにその値をルックアップテーブルに記憶し、解析中に2回目以降に出現した粒子間距離に対してはルックアップテーブルに記憶された値から遠距離相互作用力を参照する点に特徴がある。解析処理時に参照されない対応情報をデータ記憶部238に記憶する無駄が回避され、その結果、ルックアップテーブルに必要になる配列数は少なくて済む。
【0143】
ここで、「解析中に初めて出現した粒子間距離」や「解析中に2回目以降に出現した粒子間距離」は、一定間隔での粒子間距離r_nについての配列でルックアップテーブルを構成することを考慮する。つまり、代表的な距離を基準としたルックアップテーブルを用いる点に配慮する。以下、この点に考慮して、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0144】
図7〜図7Aに示すように、第2実施形態の粒子挙動解析装置202は、LUT生成部282を、副粒子挙動解析装置202bの部分に備える点が第1実施形態と異なる。これは、各副粒子挙動解析装置202bでの解析結果を元にそれぞれでルックアップテーブルを生成することを考慮したものである。因みに、何れかの副粒子挙動解析装置202bで、ある粒子間距離rについての遠距離力を特定したら、その情報を他の副粒子挙動解析装置202bに通知することで、実質的に、それぞれのルックアップテーブルの情報を共通にするように構成してもよい。また、第1実施形態のように、LUT生成部282を主粒子挙動解析装置202aの計算管理ノードの部分に備えるように構成し、各副粒子挙動解析装置202bでの解析中に初めて出現した粒子間距離の情報をLUT生成部282に通知してLUT生成部282にてルックアップテーブルを生成するようにしてもよい。また、LUT生成部282の機能を数値演算処理部234が兼ねるものとしてもよい。
【0145】
<粒子挙動解析処理:第2実施形態の第1例>
図8〜図8Aは、第2実施形態の粒子挙動解析装置202における第1例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図8は、粒子間の遠距離力の計算負荷を低減する第2実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図8Aは、第2実施形態におけるルックアップテーブルの生成手法を説明する図である。
【0146】
第2実施形態では、解析過程でルックアップテーブルを生成していくので、第1実施形態のステップS110はなく、接触力に関する処理をした後に、粒子間距離が解析中に初めて出現したものであるか否かを判定する。粒子間距離が解析中に初めて出現したものであるか否かの判定に当たっては、図8Aに示すように、一定間隔での粒子間距離r_n_nごとに、その粒子間距離r_nにおける遠距離力を対応付けたルックアップテーブルを構成するべく、次のような判定処理を行なう。粒子間距離r_nにおける「n」は図5Aなどの1〜zと対応するもので、r_0はゼロとする。なお、以下では、数値演算処理部234とは別にLUT生成部282が存在するものとして、第1実施形態の第1例との相違点との相違点に着目して説明する。
【0147】
先ず、数値演算処理部234は、粒子間距離rがr_1/2を超えるか否かを判定する(S132)。粒子間距離rがr_1/2以下であるときは、数値演算処理部234は、第1実施形態の第1例と同様に、ステップS124で算出した粒子間距離に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S132−NO,S152)。因みに、この場合において、粒子間距離r_1での遠距離力が未だルックアップテーブルに存在しないときは、数値演算処理部234はその粒子間距離r(≦r_1/2)での遠距離力を計算する(S150)。
【0148】
粒子間距離rがr_1/2を超えるときは、粒子間距離rの情報をLUT生成部282に通知してルックアップテーブルの生成を指示する。LUT生成部282は、粒子間距離rをルックアップテーブルの配列の粒子間距離r_nに対応付けるべく、(r_n−r_n-1)/2<r≦(r_n+r_n+1)/2を満たすnを特定し(S133)、さらに、粒子間距離r_nでの遠距離力がルックアップテーブルに存在するか否かを判定する(S134)。
【0149】
粒子間距離r_nでの遠距離力がルックアップテーブルに存在するとき、LUT生成部282はその旨を数値演算処理部234に通知する。数値演算処理部234は、第1実施形態の第1例と同様に、ステップS124で算出した粒子間距離に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S134−YES,S152)。
【0150】
粒子間距離r_nでの遠距離力がルックアップテーブルに存在しないとき(S134−NO)、LUT生成部282は粒子間距離rや粒子間距離r_nでの遠距離力の計算を数値演算処理部234に指示する。数値演算処理部234は、その粒子間距離rまたは粒子間距離r_nでの遠距離相互作用力を計算しその値を遠距離相互作用力とするとともに、LUT生成部282に通知する(S135)。LUT生成部282は、数値演算処理部234から通知された遠距離相互作用力をルックアップテーブルの粒子間距離r_nの配列に記憶する(S138)。
【0151】
ここで、粒子間距離rでの遠距離力を計算し、その値をルックアップテーブルの粒子間距離r_nの配列に記憶するよりも、粒子間距離r_nでの遠距離力を計算し、その値をルックアップテーブルの粒子間距離r_nの配列に記憶する方が好ましい。つまり、その時点の粒子間距離rに対応する遠距離相互作用力のルックアップテーブルが作成されていない場合は、ルックアップテーブルの配列の粒子間距離r_nを粒子間距離として用いて従来通りの方法で遠距離相互作用力を計算し、その値をルックアップテーブルとして記憶するのがよい。これは、図8A(2)に示すように、実際の(その時点の)粒子間距離rそのもので遠距離力を計算すると、最悪のケースでは、(r_n−r_n-1)/2<r≦(r_n+r_n+1)/2の両端に該当する粒子間距離r(近い方同士はr_aや遠い方同士はr_b)で粒子間距離r_nでの遠距離力を代表することになることを避けるためである。粒子間距離以外の粒子の物性値としてはその時点の値を使うが、粒子間距離に関してはルックアップテーブルの配列に該当する粒子間距離r_nを使うことで、より適切なルックアップテーブルとするのである。
【0152】
因みに、その時点の粒子間距離rでの遠距離力の精度を考慮すると、粒子間距離r_nでの遠距離力をルックアップテーブルの粒子間距離r_nの配列に記憶する場合でも、その時点の遠距離に関しては、その時点の粒子間距離r_nでの遠距離力も計算し、その値を遠距離力とすることが考えられる。しかしながら、この場合、遠距離力の計算が2回必要になり計算負荷が増えるので好ましくない。この計算負荷を避けるには、r_n-1やr_n+1に対応する遠距離相互作用力のルックアップテーブルが作成されている場合は、ここで作成したr_nでの遠距離力も含むルックアップテーブルから第1実施形態の第1例と同様に参照するようにしてもよい。つまり、r_n-1やr_n+1に対応する遠距離力で代用するか、r_n-1、r_n、r_n+1での各遠距離力を使った補間演算をすることで、粒子間距離rでの遠距離力を特定するということである。補間演算をすると、r_n-1やr_n+1に対応する遠距離力で代用する場合よりも遠距離力の精度を低下させずに済む。
【0153】
第2実施形態の第1例の手法は、解析過程でルックアップテーブルを完成させていくので、解析過程で現われない粒子間距離rについてのメモリが不要になる。ルックアップテーブルに必要になる配列数が少なくて済み、解析に必要なメモリ数の削減が期待される。すなわち、解析過程で現われない粒子間距離rが事前に予想される場合は、その分だけルックアップテーブルに用意するメモリを少なくしてよい。
【0154】
<粒子挙動解析処理:第2実施形態の第2例>
図9は、第2実施形態の粒子挙動解析装置202における第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。第2実施形態の第2例は、第1実施形態の第2例に第2実施形態の第1例の仕組みを適用したものである。詳細な説明は割愛するが、第2実施形態の第2例では、粒子間距離rが閾値Th1未満のときにはルックアップテーブルを参照せずに実際に遠距離力を厳密計算するので、図6に示したように、粒子間距離rが閾値Th1未満に関しては、ルックアップテーブルの配列も不要になる。そのため、粒子間距離rが閾値Th1以上のときに第2実施形態の第1例の仕組みを適用する。
【0155】
<粒子挙動解析処理:第2実施形態の第3例>
図10〜図10Aは、第2実施形態の粒子挙動解析装置202における第3例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図10は、第2実施形態の第3例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図10Aは、その作用を説明する図である。なお、図10は、第2実施形態の第1例への適用例で示しているが、この第3例は、第2実施形態の第2例に対しても同様に適用される。
【0156】
第2実施形態の第3例は、ルックアップテーブルに用意するメモリ数を削減しつつメモリ削減に伴う弊害を防止するものである。第2実施形態の第1例では、ルックアップテーブルに必要になる配列数が少なくて済むことを説明したが、想定では現われない粒子間距離rとしていたものが解析過程で現われる場合、メモリ不足で破綻を来たす虞れがある。
【0157】
そこで、第3例では、メモリ容量不足になるときは使用頻度の少ないものを破棄することで対処する。具体的には、ルックアップテーブルの参照があったときには、参照された配列値(粒子間距離r_n)に対応付けて参照時点の情報(たとえば参照時点のステップ回数)やそれまでの累積参照回数を記憶し(S153)、また、ルックアップテーブルに配列値を記憶するときはその時点の情報(たとえば記憶時点のステップ回数)も記憶する(S139)。そして、ルックアップテーブルに配列値を記憶することが必要になったときに、ルックアップテーブルの作成に必要なメモリが規定量に達したときには(S136−YES)、古い配列値や参照度合いの少ない配列値用のメモリの値を破棄して(S137)、最新のものに置き換える(S138)。
【0158】
たとえば、図10Aに示すように、解析過程における前半と中盤と後半で粒子の集合体の位置が大きく異なるようなケースで、全体としての粒子の振る舞いが、前半と後半では移動が大きいが中盤では移動が小さい場合を想定する。この場合、前半と後半では粒子間距離rの大きなものの出現頻度が高く粒子間距離rの小さなものの出現頻度が低く、メモリ不足となるときには、参照度合いの少ない粒子間距離rの小さなもののメモリの値を破棄するとよい。一方、中盤では粒子間距離rの小さなものの出現頻度が高く粒子間距離rの大きなものの出現頻度が低く、メモリ不足となるときには、参照度合いの少ない粒子間距離rの大きなもののメモリの値を破棄するとよい。
【0159】
<粒子挙動解析装置:第3実施形態>
図11〜図11Aは、粒子挙動解析装置202の第3実施形態の構成例を示すブロック図である。ここで、図11は、特に計算管理ノードの機能を具備した主粒子挙動解析装置202a(代表ノードの代表副粒子挙動解析装置202b_1を含む)について示している。図11Aは、代表ノード以外の一般ノードの機能を具備した一般副粒子挙動解析装置202b_2について示している。
【0160】
第3実施形態は、解析対象領域を複数の領域(小分割セルと称する)に分割し、各領域の位置を示す番号を順番に付与し、粒子間距離rは小分割セル番号の差分で代用する点に特徴がある。すなわち、遠距離力の解析対象となる粒子の存在する範囲を小分割セルに分け、各小分割セルに位置を規定する番号を付与し、解析対象粒子(その中心)が存在する小分割セル番号を特定することで解析対象粒子の大まかな位置を特定する。そして、遠距離相互作用力を計算する粒子対の各解析対象粒子が存在する小分割セル番号の差分を粒子間距離rの代用値とする。また、これに対応して、ルックアップテーブルも、小分割セル番号の差分に対応したものとする。
【0161】
このため、第3実施形態の粒子挙動解析装置202は、LUT受付部286を備えず、また、領域分割部264を備える。図では、移動粒子判定部260が領域分割部264を備える例で示しているが、これは一例に過ぎない。領域分割部264は、遠距離力の解析対象となる粒子の存在する範囲を小分割セルに分け、各小分割セルに位置を規定する番号を付与しておく。領域分割部264は、数値演算処理部234から解析対象粒子の座標位置が通知されると、その解析対象粒子が存在する小分割セル番号を特定し、その情報を数値演算処理部234に通知する。数値演算処理部234は、遠距離相互作用力を計算する粒子対の各解析対象粒子が存在する小分割セル番号の差分を求め、その差分に基づきルックアップテーブルを参照する。ここで、粒子対のうちの着目粒子のx方向のセル番号をxa、y方向のセル番号をya、他方の粒子のx方向のセル番号をxb、y方向のセル番号をybとしたとき、x方向の小分割セル番号の差分をxb−xa、小分割セル番号のy方向の差分をyb−yaと定義する。
【0162】
<粒子挙動解析処理:第3実施形態の第1例>
図12〜図12Cは、第3実施形態の粒子挙動解析装置202における第1例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図12は、粒子間の遠距離力の計算負荷を低減する第3実施形態の第1例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図12Aは、第3実施形態における接触判定処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップ番号を300番台で示し、第1実施形態と同様・類似のステップには第1実施形態と同様の10番台・1番台の番号を付す。図12Bは、第3実施形態の第1例で使用するルックアップテーブルの一例を説明する図である。図12Cは、比較例および第1実施形態の第1例と第3実施形態の第1例の粒子挙動解析手法との対比を説明する図である。
【0163】
第3実施形態の第1例は、第1実施形態の第1例に対する変形例である。以下、第1実施形態の第1例との相違点に着目して説明する。
【0164】
第3実施形態の第1例では、図12に示すように、物体挙動の解析を行なう前に、領域分割部264は、遠距離力の解析対象となる粒子の存在する範囲を小分割セルに分け、各小分割セルに位置を規定する番号を付与しておく(S302)。なお、小分割セルのサイズは、たとえば、解析対象の全粒子の最大サイズと同程度にする、その数倍とするなど、最大粒子の直径を超えていれば任意でよい。小分割セルのサイズを最大粒子直径以上にしておけば、着目粒子に接触する可能性がある粒子は全て、隣接したセル内に含まれ、触時の判定時にサーチするセル数を減らせるため、計算速度的に有利になるためである。
【0165】
これに対応して、LUT取得部280は、図12Bに示すように、セル番号差ごとに、セル番号差と小分割セル番号の差分におけるクーロン力や磁気力などの遠距離力を対応づけた遠距離相互作用力のルックアップテーブルを予め用意しておく(S310)。
【0166】
基本的には、粒子対のうちの着目粒子をx方向、y方向の原点においたとき、小分割セル番号のx方向の差分(xb−xa)とy方向の差分(yb−ya)について、他方の粒子が第1〜第4象限のそれぞれにあるときの遠距離力F[x][y]のルックアップテーブルを用意する。後述のように、着目粒子に対しての他方の粒子が存在する象限によって遠距離力の作用する方向が異なるので、着目粒子に作用するx方向の遠距離力Fx[x][y]とy方向の遠距離力Fy[x][y]で分けておく。
【0167】
因みに、第1実施形態と同様に、計算するべき遠距離力F[x][y]が、たとえば磁気力Fp[x][y]とクーロン力Fq[x][y]などのように複数種類ある場合には、その種類応じて各別にルックアップテーブルを用意するか、または、それらの合計値(Fp[x][y]+Fq[x][y])の合計相互作用力Fsum [x][y]のルックアップテーブルを用意する。さらに、キャリア粒子とトナー粒子と外添剤などを含む現像剤粒子102のように解析対象の粒子種が複数種類存在する場合には、粒子対を構成する粒子種の組合せの別にルックアップテーブルも複数用意する。図12Bでは、着目粒子に作用するx方向のクーロン力Fqx[x][y]とy方向のクーロン力Fqy[x][y]を纏めてFq[x][y]として示している。
【0168】
なお、遠距離力Fx[x][y]におけるxが正のときは、着目粒子の存在するセルの位置に対して他の粒子の存在するセルの位置は右側であることを示し、Fx[x][y]におけるxが負のときは、着目粒子の存在するセルの位置に対して他の粒子の存在するセルの位置は左側であることを示す。Fy[x][y]におけるyが正のときは、着目粒子の存在するセルの位置に対して他の粒子の存在するセルの位置は上側であることを示し、Fy[x][y]におけるyが負のときは、着目粒子の存在するセルの位置に対して他の粒子の存在するセルの位置は下側であることを示す。
【0169】
つまり、xが正でyが正のときは他方の粒子が第1象限に存在する場合であり、xが負でyが正のときは他方の粒子が第2象限に存在する場合であり、xが負でyが負のときは他方の粒子が第3象限に存在する場合であり、xが正でyが負のときは他方の粒子が第4象限に存在する場合である。また、x,yの絶対値が同じ場合、着目粒子に作用するx方向の遠距離力Fx[x][y]は、xが正であるときとxが負であるときでは反対方向(つまり符号が逆)になり、同様に、着目粒子に作用するy方向の遠距離力Fy[x][y]は、yが正であるときとyが負であるときでは反対方向(つまり符号が逆)になる。
【0170】
領域分割部264は、数値演算処理部234から解析対象粒子の座標位置の通知を受けると、その解析対象粒子の大まかな位置を求めるため、解析対象粒子を小分割セルに格納することで、その解析対象粒子が存在する小分割セル番号を特定し、その情報を数値演算処理部234に通知する(S316)。数値演算処理部234は、遠距離相互作用力を計算する粒子対の各解析対象粒子が存在する小分割セル番号の差分とその絶対値を求め(S320)、さらに各粒子対の接触判定処理(図12Aを参照)を行なう(S321)。
【0171】
接触判定処理では、数値演算処理部234は先ず、小分割セル番号の差分の絶対値が1以下であるか否かを判定する(S322)。小分割セル番号の差分の絶対値が1を超えるときは(S322−NO)、接触の可能性がないので接触力計算が不要である。小分割セル番号の差分の絶対値が1以下であるときは(S322−YES)、接触の可能性があるので、ステップS124〜S128と同様の処理を行なう。すなわち、数値演算処理部234は、粒子の座標データに基づいて粒子間距離を求め(S324)、さらに各粒子対の接触判定を行なう(S326)。接触していると判断しなかった粒子対に対しては接触力の計算を行なわず(S326−NO)、接触していると判断した粒子対に対しては接触力計算を行ない接触力を求める(S326−YES,S328)。
【0172】
その後、小分割セル番号の差分をデータ記憶部238に記憶してある遠距離力用のルックアップテーブルに突き合わせて、対応する遠距離力(磁気力Fp[x][y]とクーロン力Fq[x][y]や合計相互作用力Fsum [x][y])を読み出す。すなわち、ステップS320で求めた小分割セル番号の差分に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S352)。
【0173】
第3実施形態の第1例の処理では、数値演算処理部234は、小分割セル番号の差分に対応したルックアップテーブルを参照することで、粒子間距離の計算を行わずに済むため、第1・第2実施形態と比較して、さらに解析処理の高速化が図られる。
【0174】
図12Cに、比較例、第1実施形態の第1例、第3実施形態の第1例について、ある解析条件での計算時間(規格化した値)を示している。第3実施形態の第1例では、粒子間距離の代用値としてそれぞれの粒子が格納されている小分割セル番号の差分を用いるので、粒子間距離を使用するケースに比べて解析処理時間は短縮される。
【0175】
たとえば、3次元空間を仮定すると、粒子間距離rは式(1)で規定される。なお、x,y,zは粒子座標を表わし、その添え字のA,Bは粒子を表している。
【0176】
【数1】

【0177】
粒子間距離を使用する比較例を適用して、実際に対象となる計算を実行したとき、粒子間距離rの計算に「実数引算3回+実数掛算3回+平方根=9.01sec/M回」の計算時間が必要であった。これに対して、小分割セル番号の差分を用いる第3実施形態を適用して比較例と同様のものについて処理を実行したときは、「整数引算3回=0.81sec/M回」の処理時間で済んだ。比較例や第1実施形態の第1例に対して、第3実施形態の第1例の手法の方が、粒子間距離の特定に関する処理時間は短縮されている。
【0178】
<粒子挙動解析処理:第3実施形態の第2例>
図13〜図13Aは、第3実施形態の粒子挙動解析装置202における第2例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図13は、第3実施形態の第2例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図13Aは、第2例において、ルックアップテーブルを参照する領域を説明する図である。
【0179】
第3実施形態の第2例は、第1実施形態の第2例に第3実施形態の第1例の仕組みを適用したものである。以下、図13に示すフローチャートについて、第1例との相違点に着目して説明する。
【0180】
第1例と同様に、接触力に関する処理をした後には、先ず、移動粒子判定部260は、ステップS320で算出した小分割セル番号の差分の絶対値を閾値設定受付部266により指定された閾値Th2(たとえば10)と比較し(S330)、その結果を数値演算処理部234に通知する。数値演算処理部234は、小分割セル番号の差分の絶対値が閾値Th2以下であれば、個別要素法で従来より一般的に使用されている手法で遠距離力の厳密計算を行なう(S330−YES,S350)。一方、数値演算処理部234は、小分割セル番号の差分の絶対値が閾値Th2を超える場合は、第1例と同様に、ステップS320で算出した小分割セル番号の差分に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S330−NO,S352)。
【0181】
ここで、小分割セル番号の差分の絶対値と閾値Th2の比較に当たっては、x方向とy方向の2次元に着目したとき、次の2つの手法を代表的に採り得る。第1の手法は、図13Aに示す手法であり、x・y方向の小分割セル番号の差分の絶対値を「x方向の小分割セル番号の差分の絶対値+y方向の小分割セル番号の差分の絶対値」とし、x・y方向の小分割セル番号の差分の絶対値と閾値Th2を比較する。
【0182】
第2の手法では、図示しないが、x方向の小分割セル番号の差分の絶対値と閾値Th2を比較するとともに、y方向の小分割セル番号の差分の絶対値と閾値Th2を比較し、x方向およびy方向の何れもが、小分割セル番号の差分の絶対値が閾値Th2を超える場合は、第1例と同様に、ステップS320で算出した小分割セル番号の差分に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する。
【0183】
第3実施形態の第2例では、小分割セル番号の差分の絶対値が閾値Th2以下のときにはルックアップテーブルを参照せずに実際に遠距離力を厳密計算するので、図13に示すように、小分割セル番号の差分の絶対値が閾値Th2未満に関しては、ルックアップテーブルの配列も不要になる。
【0184】
<粒子挙動解析処理:第3実施形態の第3例>
図14〜図14Cは、第3実施形態の粒子挙動解析装置202における第3例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図14〜図14Aは、第3実施形態の第3例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図14に示す「その1」は、第3実施形態の第1例に対しての適用例であり、図14Aに示す「その2」は、第3実施形態の第2例に対しての適用例である。図14Bは、第3実施形態の第3例で使用するルックアップテーブルの一例を説明する図である。図14Cは、第3実施形態の第3例の特徴点を説明する図であり、第3実施形態の第1例に対しての適用例である図14に示す「その1」の場合で示している。
【0185】
第3実施形態の第3例は、小分割セル番号の差分のx(またはy)が正または負の何れか一方についてのみのルックアップテーブルを用意し、x方向およびy方向のそれぞれについて、解析対象の粒子対の小分割セル番号の差分x(またはy)の符号がルックアップテーブルの符号と同じであるか否かを判定し、異なる場合には符号を変えて正しい遠距離相互作用力として使用する。これは、第1例で使用するルックアップテーブルでは、x,yの絶対値が同じ場合、着目粒子に作用するx方向(またはy方向)の遠距離力は、x(またはy)が正であるときとx(またはy)が負であるときでは反対方向(つまり符号が逆)になるという点に着目したものである。以下、第1例や第2例との相違点に着目して、代表して図14について説明する。
【0186】
LUT取得部280は、粒子対のうちの着目粒子をx方向、y方向の原点においたときに、小分割セル番号のx方向の差分(xb−xa)とy方向の差分(yb−ya)について、他方の粒子が第1〜第4象限の何れかに存在するときで、小分割セル番号の差分におけるクーロン力や磁気力などの遠距離力を対応づけた遠距離相互作用力のルックアップテーブルを予め用意しておく(S311)。図14Bでは、他方の粒子が第1象限に存在するときのルックアップテーブルとしている。因みに、本例では「その1」のようにx方向とy方向を分けて記憶する必要はなく、「その2」のようにx方向とy方向を纏めて記憶してよい。
【0187】
接触力に関する処理をした後に、数値演算処理部234は、第1例と同様に、ステップS320で算出した小分割セル番号の差分に対応する遠距離相互作用力をルックアップテーブルから参照する(S352)。さらに、数値演算処理部234は、粒子対の内の着目粒子に対しての他方の粒子が存在する象限と、ルックアップテーブルの配列で採用している象限(本例では第1象限)を比較する(S354)。換言すると、小分割セル番号のx方向の差分の符号とルックアップテーブルの配列で採用している小分割セル番号のx方向の差分の符号を比較するとともに、小分割セル番号のy方向の差分の符号とルックアップテーブルの配列で採用している小分割セル番号のy方向の差分の符号を比較する。
【0188】
粒子対の内の着目粒子に対しての他方の粒子が存在する象限とルックアップテーブルの配列で採用している象限が異なる場合(S354−NO)、数値演算処理部234は、ルックアップテーブルから読み出した値について、象限の相違に応じて、x方向および/またはy方向の符号を変えて正しい遠距離力として取得する(S356)。換言すると、x方向の符号のみが異なる場合にはx方向についてのみ符号を変え、y方向の符号のみが異なる場合にはy方向についてのみ符号を変え、x方向およびy方向の符号が異なる場合にはx方向およびy方向について符号を変える。
【0189】
たとえば、図14Cに示すように、粒子#1(差分は[7][5])は第1象限に存在するのでx方向およびy方向の符号を変更する必要はなく、粒子#2(差分は[−3][4])は第2象限に存在するのでx方向の符号のみを負に変更し、粒子#3(差分は[−6][−6])は第3象限に存在するのでx方向およびy方向の符号を負に変更し、粒子#4(差分は[4][−2])は第4象限に存在するのでy方向の符号のみを負に変更する。
【0190】
第3実施形態の第3例では、第3実施形態の第1例や第2例に比べて、ルックアップテーブルの配列量が1/4で済み、必要になるメモリ数が削減される。
【0191】
<変形例>
第3実施形態の第3例の考え方は、小分割セルでなく粒子間距離を用いる場合においても適用し得る。この場合、粒子間距離だけを計算するのではなく、x、y方向それぞれ座標を(絶対値をとらずに)引算することで他方の粒子が着目粒子からみてどの象限に存在するかを求めることができるため、同様の考え方が適用できる。
【0192】
つまり、第1実施形態では、粒子間距離のみに基づきルックアップテーブルを用意しているが、粒子間距離および着目粒子に対する他方の粒子が存在する位置に基づくx,y方向別のルックアップテーブにしてもよい。こうすることで、ルックアップテーブルの考え方は、概ね第3実施形態と似通ったものとなる。その場合、全象限について(つまり作用方向も加味して)各別に値を用意する第3実施形態(第1例)の手法や、1つの象限について値を用意しておき、参照後に方向を特定する第3実施形態(第3例)の手法の何れをも採り得る。
【0193】
第3実施形態(第3例)の手法を採る場合、テーブルを参照するときの参照基準になるのは、物体間距離(必ず正の値)で、参照された遠距離力の作用方向を決めるのに、x,y方向それぞれの座標の差分(正負どちらも取りうる)の符号を用いる。つまり、物体間距離がセル番号差分の絶対値に相当し、x,y方向それぞれの座標の差分がセル番号の差分に相当する。
【0194】
<粒子挙動解析処理:第3実施形態の第4例>
図15〜図15Cは、第3実施形態の粒子挙動解析装置202における第4例の粒子挙動解析手法を説明する図である。ここで、図15〜図15Bは、粒子間の遠距離力の計算負荷を低減する第3実施形態の第4例の粒子挙動解析手法の処理手順を示すフローチャートである。図15Cは、第3実施形態の第4例におけるルックアップテーブルの生成手法を説明する図である。
【0195】
第3実施形態の第4例は、第3実施形態の仕組みに、解析中にルックアップテーブルを生成する第2実施形態の仕組みを適用するものであり、図15に示す「その1」は第3実施形態の第1例、図15Aに示す「その2」は第3実施形態の第2例、図15Bに示す「その3」は第3実施形態の第3例(閾値Th2との比較処理あり)への適用例で示している。
【0196】
粒子挙動解析装置202の構成例については図示を割愛するが、領域分割部264を備える第3実施形態の構成において、たとえば、第2実施形態と同様に、LUT生成部282を副粒子挙動解析装置202b側に備えるように構成すればよい。
【0197】
以下、第1例や第2例や第3例との相違点に着目して、代表して図15Bについて説明する。因みに、ルックアップテーブルは、第1象限での値で記憶する場合で説明する。
【0198】
第3実施形態の第4例では、第2実施形態と同様に、ルックアップテーブルのデータ記憶部238への記憶を物体挙動の解析を行なう前に予め行なわず、解析中に初めて出現した小分割セル番号の差分となる粒子対(物体ペア)に対しては遠距離相互作用力を計算するとともにその値をルックアップテーブルに記憶し、解析中に2回目以降に出現した小分割セル番号の差分に対してはルックアップテーブルに記憶された値から遠距離相互作用力を参照する点に特徴がある。
【0199】
このため、第3実施形態の第4例では、解析過程でルックアップテーブルを生成していくので、第1例、第2例のステップS310や第3例のステップS311はなく、接触力に関する処理をした後に、粒子間距離が解析中に初めて出現したものであるか否かを判定する。
【0200】
接触力に関する処理や閾値Th2との比較処理の後に、数値演算処理部234は、小分割セル番号の差分x,yの絶対値が閾値Th2を超える場合は(S330−NO)、小分割セル番号の差分x,yの情報をLUT生成部282に通知してルックアップテーブルの生成を指示する。LUT生成部282は、その小分割セル番号の差分x,yに対する遠距離力がルックアップテーブルに存在するか否かを判定する(S334)。本例では、第1〜第4象限の何れか1つでルックアップテーブルを作成するので、小分割セル番号の差分x,yの絶対値同士が同じものの有無で判定すればよい。
【0201】
小分割セル番号の差分x,yに対応する遠距離力F[x][y]がルックアップテーブルに存在するとき、LUT生成部282はその旨を数値演算処理部234に通知する。数値演算処理部234は、第3実施形態の第1例〜第3例と同様に、ステップS320で算出した小分割セル番号の差分x,yに対応する遠距離力F[x][y]をルックアップテーブルから参照する(S334−YES,S352)。
【0202】
小分割セル番号の差分に対応する遠距離力F[x][y]がルックアップテーブルに存在しないとき(S334−NO)、LUT生成部282は小分割セル番号の差分x,yでの遠距離力の計算を数値演算処理部234に指示する。数値演算処理部234は、その小分割セル番号の差分x,yでの遠距離力F[x][y]を計算しその値を遠距離相互作用力とするとともに、LUT生成部282に通知する(S335)。LUT生成部282は、数値演算処理部234から通知された遠距離力F[x][y]をルックアップテーブルの小分割セル番号の差分x,yの配列位置の値(Fq[x][y])として記憶する(S338)。
【0203】
このとき、「その3」では、LUT生成部282は、ルックアップテーブルを第1〜第4象限の何れで作成するかを考慮してFq[x][y]の符号を調整する(S337)。たとえば、第1象限用の場合はx方向は「正」の値でy方向も「正」の値、第2象限用の場合はx方向は「負」の値でy方向は「正」の値、第3象限用の場合はx方向は「負」の値でy方向も「負」の値、第4象限用の場合はx方向は「正」の値でy方向は「負」の値とする。「その1」や「その2」ではこの符号調整は不要である。
【0204】
ここで、粒子間距離rの代用値として各粒子の中心間距離での遠距離力を計算し、その値をルックアップテーブルの小分割セル番号の差分x,yの遠距離力F[x][y]として記憶するよりも、各粒子が格納されている小分割セルの重心座標間の距離(セルの中心同士の距離)での遠距離力を計算し、その値をルックアップテーブルの小分割セル番号の差分の遠距離力F[x][y]に記憶する方が好ましい。つまり、その時点の小分割セル番号の差分に対応する遠距離相互作用力のルックアップテーブルが作成されていない場合は、ルックアップテーブルの配列の小分割セル番号の差分を規定するセルの中心同士の距離を粒子間距離として用いて従来通りの方法で遠距離相互作用力を計算し、その値をルックアップテーブルとして記憶するのがよい。
【0205】
これは、図15Cに示すように、第3実施形態では基本的には粒子間距離を計算せずに解析対象粒子(その中心)が存在する小分割セル番号を特定することで解析対象粒子の大まかな位置を特定する点と、実際の(その時点の)粒子間距離rそのもので遠距離力を計算すると、最悪のケースでは、セルの両端(近い方同士や遠い方同士)に該当する粒子間距離で小分割セル番号の差分での遠距離力を代表することになることを避けるためである。粒子間距離以外の粒子の物性値としてはその時点の値を使うが、小分割セル番号の差分に相当する粒子間距離に関してはルックアップテーブルの配列の小分割セル番号の差分に対応するセルの中心同士の距離を使うことで、より適切なルックアップテーブルとするのである。
【0206】
第3実施形態の第4例の手法は、第2実施形態と同様に、解析過程でルックアップテーブルを完成させていくので、解析過程で現われない小分割セル番号の差分についてのメモリが不要になる。ルックアップテーブルに必要になる配列数が少なくて済み、解析に必要なメモリ数の削減が期待される。すなわち、解析過程で現われない小分割セル番号の差分が事前に予想される場合は、その分だけルックアップテーブルに用意するメモリを少なくしてよい。
【0207】
なお、第2実施形態の第3例で説明したことから推測されるように、第3実施形態の第4例では、ルックアップテーブルに必要になる配列数が少なくて済むが、想定では現われない小分割セル番号の差分としていたものが解析過程で現われる場合、メモリ不足で破綻を来たす虞れがある。この対処のため、図示しないが、第2実施形態の第3例のように、メモリ不足で破綻を来たす虞れを解消する仕組みを適用するとよい。
【0208】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で前記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0209】
また、前記の実施形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0210】
たとえば、前記実施形態は、情報処理装置が適用される具体例として粒子挙動解析装置を例に説明するとともに、解析対象粒子が存在する装置としてはトナー粒子のみやキャリア粒子とトナー粒子からなる現像剤を用いる電子写真方式による画像形成装置を例に説明したが、これは一例に過ぎない。
【0211】
また、粒子挙動解析は、画像形成装置の現像装置における攪拌プロセスや現像プロセスへの適用に限定されない。たとえば、電子写真方式の転写装置における転写プロセスや、クリーニング装置における清掃プロセスにも適用してよい。また、粒子種や作用力を問わず、あらゆる粒子(粉体)を取り扱うシステムのシミュレーションにも同様に適用してよい。電子写真方式以外では、岩石などの落石シミュレーション、ホッパー内の粉の流動シミュレーション、製薬用製剤装置内の粉末体の流動シミュレーションなどへ適用してもよい。
【符号の説明】
【0212】
1…画像形成装置、20…帯電装置、30…露光装置、40…現像装置、50…転写装置、60…クリーニング装置、70…定着装置、102…現像剤粒子、200…粒子挙動解析システム、202…粒子挙動解析装置、202a…主粒子挙動解析装置、202b…副粒子挙動解析装置、208…ネットワーク管理装置、209…ネットワーク、210…指示入力装置、212…表示装置、220…データ入力部、230…データ処理部、232…データ受付部、234…数値演算処理部(粒子挙動計算部)、236…出力データ処理部、238…データ記憶部、240…情報提示部、250…分割処理部、250a…解析負荷分散処理部、260…移動粒子判定部、262…移動粒子特定部、264…領域分割部、266…閾値設定受付部、280…LUT取得部、282…LUT生成部、286…LUT受付部、290…行方向処理結果出力処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの粒子間距離と、各粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力と、を対応付けた対応情報を記憶する記憶部と、
解析対象の粒子対の粒子間距離における遠距離相互作用力を、前記記憶部に記憶されている情報を参照して特定することで、粒子の挙動を計算する粒子挙動計算部と、
を備えた粒子挙動解析装置。
【請求項2】
前記記憶部は、解析対象の遠距離相互作用力の種類が複数ある場合には、それぞれの粒子間距離と、その粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力の合計値、を対応付けた対応情報を記憶する
請求項1に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項3】
前記記憶部は、解析対象の粒子の種類が複数ある場合には、前記粒子対を構成する粒子種の組合せの別に、前記対応情報を記憶する
請求項1または2に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項4】
前記記憶部は、予め決められた閾値以上の粒子間距離に関して前記対応情報を記憶し、
前記粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の粒子間距離が前記閾値未満のときは遠距離相互作用力を計算し、解析対象の粒子対の粒子間距離が前記閾値以上のときは前記記憶部に記憶されている情報を参照して遠距離相互作用力を特定する
請求項1〜3の内の何れか一項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項5】
解析対象領域を複数の領域に分割して各領域の位置を示す番号を付与する領域分割部を備え、
前記記憶部および粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の各粒子が存在するそれぞれの領域の番号の差分を前記粒子間距離として代用する
請求項1〜4の内の何れか一項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記領域の番号の差分の正の値および負の値の何れか一方に関して前記対応情報を記憶し、
前記粒子挙動計算部は、解析対象の粒子対の前記領域の番号の差分の符号が前記記憶部に記憶されている前記対応情報における前記差分の符号と異なる場合には、前記記憶部から参照した前記対応情報の符号を反転して使用する
請求項5に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項7】
解析過程で前記対応情報を生成して前記記憶部に記憶させる対応情報生成部を備え、
前記対応情報生成部は、解析過程において、解析対象の粒子対の粒子間距離に対応する前記記憶部の配列位置に遠距離相互作用力が記憶されていないとき、その粒子間距離に対応する前記粒子挙動計算部で計算された遠距離相互作用力を、その粒子間距離に対応する前記記憶部の配列位置に記憶させる
請求項1〜6の内の何れか一項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項8】
前記記憶部は、記憶容量不足となったときには、参照頻度の少ないものを破棄する
請求項7に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項9】
解析対象の粒子対の粒子間距離における遠距離相互作用力を、それぞれの粒子間距離と、各粒子間距離における粒子対に作用する遠距離相互作用力と、を対応付けた対応情報を記憶する記憶部に記憶されている対応情報を参照して特定することで、粒子の挙動を計算する粒子挙動計算部と
して電子計算機を機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図6A】
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【図7】
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【図7A】
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【図8】
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【図8A】
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【図9】
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【図10】
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【図10A】
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【図11】
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【図11A】
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【図12】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図13A】
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【図14】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【公開番号】特開2010−198399(P2010−198399A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43334(P2009−43334)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)