説明

粒子挙動解析装置、及び粒子挙動解析方法

【課題】転がり摩擦モーメントを考慮した粒子挙動解析において、転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度に比べて大きい場合においても精度良く粒子挙動を計算することができる。
【解決手段】粒子挙動解析装置が、次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止閾値を計算し、粒子に作用する転がり摩擦モーメントを計算し、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合に、転がり摩擦モーメントの値を回転停止閾値と等しい値に設定するか、次の時間ステップでの粒子の回転速度をゼロにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子挙動解析装置に関し、さらに詳しくは、回転運動を伴う粒子の挙動を決定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子挙動シミュレーションは、粒子(粉体)の動きを数値計算によって求める手法であり、電子写真における現像剤の挙動や土砂積み込み過程における土砂の堆積状態など広い分野で用いられている。
【0003】
粒子挙動解析では、各粒子は常に他の物体(例えば、他の粒子、容器壁などの構造物)と接触状態にあるため、粒子と他の物体との間の接触力を求める必要がある。したがって、接触力が支配的な系を計算できる離散要素法(DEM)が一般的に用いられている。
DEMについては、非特許文献1などに具体的な計算方法が説明されているので、ここでは特徴のみを簡単に説明する。DEMは粒子に働く力や回転モーメントをもとに運動方程式を解くことにより各時間の粒子の挙動を求める方法であり、2物体間に作用する接触力として、バネ−ダッシュポットモデルに基づいた弾性反発力と粘性減衰力を、また粒子に働く回転モーメントとして接触力によるモーメントを定義する。また、容器壁などとの接触においても、粒子間接触と同様のモデルを適用することにより、粒子と容器壁間の接触を扱うことができる。これにより、攪拌部材などによる粒子の攪拌状態について、DEMを用いて解析できるようになる。
【0004】
また、粒子特性の一つである流動性を表す方法として転がり摩擦モーメントを考慮する方法がある。転がり摩擦モーメントを扱うモデルは様々存在するが、その一例として、非特許文献2に記載されている弾性エネルギー損失によるモデルがある。このモデルによる転がり摩擦モーメントMreは、転がり摩擦係数をμ、当該粒子と他の物体の接触半径をb、当該粒子と他の物体との接触面に垂直な方向の力をfnとすると、

Mre=(−3/8)μb|fn| (式1)

で表わされる。本方法の詳細は、非特許文献2に記述されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中他,日本機会学会論文集(B編),57,534,60(1991)
【非特許文献2】川口他、粉体工学会1993年春期研究発表会講演要旨集、106(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転がり摩擦モーメントを考慮した粒子挙動シミュレーションでは、転がり摩擦係数μが大きい場合に、実現象では起こりえない粒子の逆回転や振動が発生することがある。このような不具合について、図8を用いて説明する。図8(a)は、従来の粒子挙動シミュレーションの結果を示しており、斜面201に1つの粒子202を設置し、斜面201から平面203に向けて粒子202を転がした場合の粒子の挙動を示している。
【0007】
実現象であれば、図8(a)の系においては、粒子202は斜面201を転がり、回転運動をしながら平面203に向かい、平面203上に到達すると転がり摩擦の影響により次第に減速しながら、最終的には平面203上で停止する。
【0008】
しかしながら、粒子挙動シミュレーションでは粒子の挙動を時間方向に離散化して計算するために、ある時間ステップの計算において転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度を上回ることがある。この場合、次の時間ステップでは、粒子が逆向きに回転することとなり、場合によってはこのような回転方向の逆転が時間ステップ毎に発生することにより、粒子の振動となって現れる。このような不具合は、転がり摩擦係数が大きい場合、時間ステップの間隔(刻み時間Δt)が大きい場合、粒子の回転速度が非常に小さい場合などに発生しやすい。図8(a)は、振動の発生により、粒子202が本来停止すべき位置の周りで振動する様子を示している。
図8(b)も、従来の粒子挙動シミュレーションの結果であり、ホッパー301から多数の粒子302を円形板303上に落としたときの粒子302の挙動を示している。左から順に時間の経過を示している。所定の時間が経過しても粒子302の挙動が安定せず、円形板303上に堆積した粒子302が本来形成されるべき安息角を形成しないことがわかる。上記課題は、いずれも転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度に比べて大きいことが原因と推測される。
【0009】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、転がり摩擦モーメントを考慮した粒子挙動解析において、転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度に比べて大きいことにより発生する粒子の逆回転運動や振動現象などの不具合を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様は、時間ステップごとの粒子の運動を数値計算する粒子挙動解析装置であって、次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止閾値を計算する回転停止閾値計算部と、粒子に作用する転がり摩擦モーメントを計算する転がり摩擦モーメント計算部と、前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値を用いて粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止判定部と、前記回転停止判定部において停止すると判定した場合、粒子の回転を強制的に停止する回転運動停止部と、を有することを特徴とする粒子挙動解析装置である。
【0011】
本発明の第2態様は、時間ステップごとの粒子の運動を数値計算する粒子挙動解析方法であって、コンピュータが、次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止閾値を計算する回転停止閾値計算ステップと、粒子に作用する転がり摩擦モーメントを計算する転がり摩擦モーメント計算ステップと、前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値を用いて粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止判定ステップと、前記回転停止判定ステップにおいて停止すると判定した場合、粒子の回転を強制的に停止する回転運動停止ステップと、を実行することを特徴とする粒子挙動解析方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転がり摩擦モーメントを考慮した粒子挙動解析において、転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度に比べて大きいことにより発生する粒子の逆回転運動や振動現象などの不具合を解消することが可能となり、シミュレーション精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】粒子挙動解析装置の機能構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態の転がり摩擦計算部の機能構成を示すブロック図。
【図3】粒子挙動解析装置のハードウェア構成を示すブロック図。
【図4】第1実施形態の転がり摩擦計算部の処理を示すフローチャート。
【図5】第1実施形態のシミュレーション結果を示す図。
【図6】第2実施形態の転がり摩擦計算部の処理を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態のシミュレーション結果を示す図。
【図8】従来のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下に、本発明の実施形態について必要に応じて図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本実施形態にかかる粒子挙動解析装置の機能構成を示すブロック図である。この粒子挙動解析装置は、粒子(粉体)の運動を数値計算(シミュレーション)する装置であり、例えば、電子写真における現像剤(トナー)粒子の挙動の解析や、土砂積み込み過程における土砂の堆積状態の解析など、幅広い分野に適用可能である。本実施形態ではDEMを用いて粒子の運動を計算するが、他の計算手法を用いてもよい。また、以下の説明では2次元シミュレーションの場合を例にとり説明することとする。また、本発明の特徴を簡単に説明するため、転がり摩擦モーメント以外のモーメントは粒子に働かないとして説明することとする。
【0015】
図1において、符号100は「制御部」であり、処理の順番やデータの引渡しなどの全体制御を担っている。符号111は「初期条件設定部」であり、粒子の初期配置や半径、比重などの物性値、解析領域を構成する剛性構造物(容器壁など)の形状、寸法、位置、並びに、刻み時間、ステップ数などの計算条件の設定を行う。符号112は「粒子同士の作用力計算部」であり、2粒子間の作用力である接触力の計算を行う。符号113は「粒子と部材との作用力計算部」であり、粒子と、粒子に関連して配された容器壁などの部材間の作用力である接触力の計算を行う。符号114は「粒子に働く外力の計算部」であり、粒子に作用する重力などの外力の計算を行う。符号115は「粒子運動計算部」であり、粒子に働く力をもとに運動方程式を解き、粒子の並進速度と変位、角速度と角度の計算を行う。符号116は「粒子挙動表示部」であり、各時間ステップの粒子と部材の位置を表示する。符号117は粒子挙動解析装置で使用する各種データである。データ117は、各粒子の半径、質量、位置、速度、角速度などを含む。
【0016】
上記構成において、初期条件設定部111が計算条件を読み込むと、計算部112〜115が指定されたステップ数だけ処理を繰り返し、各時間ステップにおける粒子の速度と変位を算出する。この計算結果は粒子挙動表示部116に表示されるか、データ117に保存される。これにより時間進展に伴う粒子の挙動を求めることができる。
【0017】
次に、図2を参照して、本実施形態の粒子挙動解析装置の特徴部分について説明する。本実施形態では、粒子の回転速度に応じて転がり摩擦モーメントの値を適宜補正することにより、従来問題となっていた転がり摩擦モーメントによる回転速度の変化が粒子の回転速度に比べて大きいことにより発生する粒子の逆回転運動や振動現象などの不具合を解消する。このような補正処理を実現するための追加的機能として、本実施形態では、図1に示す「粒子と部材との作用力計算部」113に対し転がり摩擦計算部410を設けている。
【0018】
転がり摩擦計算部410は、粒子の転がり摩擦の計算を行う機能であり、回転停止閾値計算部421、転がり摩擦モーメント計算部422、回転停止判定部423、回転運動強制停止部(回転運動停止部)424を有している。回転停止閾値計算部421では、次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する閾値である回転停止閾値を計算する。転がり摩擦モーメント計算部422では、粒子の回転運動を抑制する転がり摩擦モーメントを計算する。転がり摩擦モーメントの計算方法については、公知手法を用いて計算できるため(例えば非特許文献2を参照)、ここでは説明を省略する。回転停止判定部
423では転がり摩擦モーメントと回転停止閾値の大小関係を比較する。回転運動強制停止部424では、回転停止判定部423の結果に基づいて、粒子の転がり摩擦モーメントを回転停止閾値の値に置き換える。
【0019】
ここで、本発明の特徴の1つである粒子の回転停止閾値計算部について、さらに説明する。回転停止閾値は、次の時間ステップにおいて粒子の回転が0になるために必要な回転モーメントとして定義する。次の時間ステップの粒子の回転は、運動方程式の解法として前進差分による陽解法を用いた場合、以下の式2で表すことができる。

ωt+Δt=ω +(−Mu・Δt/I) (式2)

ここでIは粒子の慣性モーメントを、Δtは時間ステップを、ω、ωt+Δtはそれぞれ、時間t、t+Δtの粒子の回転速度を、Muは粒子に働く回転モーメントを表す。なお、ここでは、Muを粒子の回転を減速させるモーメントとして考えるため、ωと逆方向の意味としてMuの前にマイナスの符号をつけている。
時間t+Δtの粒子の回転速度であるωt+Δtが0となるためのMuの値は、式2の左辺を0として得られる式3で定義できる。

Mu=(ω ・I/Δt) (式3)

この値を回転停止閾値と定義する。
【0020】
次に、回転速度の強制停止について説明する。転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合には、転がり摩擦モーメントの値をそのまま用いて運動方程式を計算すると次の時間ステップでは回転速度が逆方向の値を持つことになる。そこで、本発明では、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合、粒子の回転を強制的に停止することでその不具合を解消する。本実施形態1では、転がり摩擦モーメントの値を式3で求めた回転停止閾値の値に設定することで、運動方程式で得られる次の時間ステップの粒子回転の値を0にする。
【0021】
本装置は、図3に示すように、CPU500、RAM501、表示装置502、入力部503、外部記憶装置504、バス505などを備える汎用のコンピュータ(情報処理装置)により構成される。更に、RAM501は、プログラム格納部501a、粒子パラメータデータ格納部501b、粒子運動データ格納部501c、回転停止閾値データ格納部501d、粒子転がり摩擦モーメントデータ格納部501eを備えている。図1及び図2に示した各機能は、外部記憶装置504に記憶されたプログラムがプログラム格納部501aに読み込まれ、CPU500により実行されることで実現されるものである。
【0022】
上記各部の構成を詳述すると、CPU500は、中央処理装置であり、バス505を介して接続された上記各部を制御する。RAM501の各格納部501a〜501eには、プログラム、粒子パラメータデータ、粒子運動データ、回転停止閾値データ、粒子転がり摩擦モーメントデータがそれぞれ格納される。表示装置502は、ディスプレイやプリンタ等から構成され、CPU500の制御により表示すべきデータを表示する。入力部503は、キーボードやマウス等から構成され、外部からの入力データを装置内に入力する。外部記憶装置504は、ハードディスク等で構成されており、各種データを記憶する。
【0023】
ここで、各データの内容を説明する。「粒子パラメータデータ」とは、粒子に関する物理量(粒径、粒子の比重、ヤング率、ポアッソン比、粒子数、粒子位置)、及び粒子間または他の構造物間との相互作用パラメータ(すべり摩擦係数、転がり摩擦係数)である。「粒子運動データ」とは、粒子の運動にかかわる力、速度である。「回転停止閾値データ
」とは、次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する閾値である。「粒子転がり摩擦モーメントデータ」とは、粒子の転がり摩擦モーメントの値である。
【0024】
次に、図4のフローチャートを参照して、転がり摩擦計算部410の処理の流れの好適な一例を説明する。
【0025】
1) 回転停止閾値計算部421は、式3を用いて回転停止閾値を計算し、その値を回転停止閾値データ格納部501dに格納する(ステップS601)。
【0026】
2) 転がり摩擦モーメント計算部422は、式1を用いて粒子の転がり摩擦モーメントを計算し、粒子転がり摩擦モーメントデータ格納部501eに格納する(ステップS602)。
3) 回転停止判定部423は、粒子の転がり摩擦モーメントと回転停止閾値の絶対値の大小関係を比較する(ステップS603)。
4) 転がり摩擦モーメントが回転停止閾値より大きい場合、転がり摩擦モーメント修正部424は、転がり摩擦モーメントの値を回転停止閾値の値に置き換える(ステップS604)。補正後の転がり摩擦モーメントの値は、粒子転がり摩擦モーメントデータ格納部501eに格納される。
【0027】
この処理によれば、転がり摩擦モーメントの値が回転停止閾値の値を超えないように補正するため、転がり摩擦モーメントの値が大きいことによる逆回転運動や振動現象の発生がなく、安定して精度よく計算することができるようになる。
【0028】
図5に、本実施形態の粒子挙動シミュレーションの計算結果の一例を示す。図5(a)は、1つの粒子702の転がりを模擬した結果である。斜面701に1つの粒子702を設置し、斜面701から平面703に向けて粒子702を転がした。粒子702は、斜面701上を回転しながら平面703に向かい、平面703に到達すると次第に減速し停止した。この計算結果は、実現象における粒子の挙動に極めて一致していることが確認できた。図5(b)は、ホッパー801から多数の粒子802を円形板803上に落としたときの粒子802の堆積状態を模擬した結果である。粒子802の挙動が速やかに安定し、安息角が再現されることが確認できた。なお、この計算では、粒子間の作用力計算部においても、本手法を用いた転がり摩擦計算を行った。
【0029】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
上記第1実施形態では、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合に転がり摩擦モーメントの値を補正する構成を採用した。この補正により多くのケースでは良好なシミュレーション結果が得られる。しかしながら、例えば粒子間の転がり摩擦係数が大きい場合などの特定の条件下では、2粒子間で転がり摩擦モーメントを修正しても、他の粒子との相互作用によって、粒子が逆回転や振動などの挙動を示すことがわかった。そこで、第2実施形態では、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合に、粒子の回転速度をゼロに設定するという構成を採用する。
【0030】
なお、具体的な処理プログラムの機能構成は、第1の実施形態と同じであり、回転運動強制停止部424の処理の内容のみが異なる。回転運動強制停止部424は、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値よりも大きい場合、次の時間ステップでの粒子の回転速度をゼロに設定する機能をもつ。
【0031】
第1の実施形態における図4に対し、第2の実施形態の特徴である回転運動強制停止部424の処理内容を置き換えた場合について、図6のフローチャートを参照して説明する

【0032】
1) 回転停止閾値計算部421は、式3を用いて回転停止閾値モーメントを計算し、回転停止閾値データ格納部501dに格納する(ステップS601)。
2) 転がり摩擦モーメント計算部422は、式1を用いて粒子の転がり摩擦モーメントを計算し、粒子転がり摩擦モーメントデータ格納部501eに格納する(ステップS602)。
3) 回転停止判定部423は、粒子の転がり摩擦モーメントと回転停止閾値の、絶対値の大小関係を比較する(ステップS603)。
4) 転がり摩擦モーメントが回転停止閾値より大きい場合、回転運動強制停止部424は、次の時間ステップの粒子の回転速度をゼロに設定する(ステップS1001)。なお、転がり摩擦モーメントが回転停止閾値以下の場合には、粒子の運動計算部115において、粒子に働く作用力から回転速度を計算する。
【0033】
上記処理を用いることにより、転がり摩擦モーメントの値が大きい場合においても、逆回転運動や振動現象の発生がなく、安定して精度よく計算することができるようになる。特に、本実施形態を用いることで、粒子が複数の物体と接触している場合においても安定して計算することが可能となる。
【0034】
図7に、本実施形態の粒子挙動シミュレーションの計算結果の一例を示す。図7は、ホッパー1101から多数の粒子1102を円形板1103上に落としたときの粒子1102の堆積状態を模擬した結果である。(a)は粒子の転がり摩擦係数が小さい場合の計算結果、(b)は粒子の転がり摩擦係数が大きい場合の計算結果を示している。この結果から、転がり摩擦係数が大きく且つ多粒子の系であっても、粒子の挙動が速やかに安定し、安息角が再現されることが確認できた。なお、この計算では、粒子間の作用力計算部においても、本手法を用いた転がり摩擦計算を行った。
【0035】
以上述べたように本発明の第1及び第2実施形態によれば、転がり摩擦モーメントを考慮した粒子挙動解析において、転がり摩擦モーメントによる速度の変化が回転速度に比べて大きいことにより発生する粒子の逆回転運動や振動現象の発生を抑制し、実現象に近いシミュレーション結果を得ることが可能となる。
【0036】
なお、上記説明では、前進差分による陽解法を用いて運動方程式を計算するとしているが、他の運動方程式の計算方法においても、運動方程式に計算方法に応じた回転停止閾値の導出式を用いることで、本発明を適用することは容易に可能である。また、式3は粒子の回転速度の値を用いて回転停止閾値を導出しているが、例えば、粒子表面上の点(粒子の回転中心から距離rの点)の速度を用いて導出することも可能である。また、上記説明では、粒子に働くモーメントとして、転がり摩擦モーメントのみが働くとしているが、他のモーメント、例えば接触面に対する接線方向の接触力によって働くモーメントを考慮して計算することも可能である。具体的には回転停止閾値を導出する際に転がり摩擦モーメントのみを用いる方法や、他のモーメントを考慮して導出する方法などを用いることで、実現することができる。また、上記説明では、複数の接触点に働く転がり摩擦モーメントの計算については特に言及していないが、個々の接触点に対して本発明を適用してもよいし、転がり摩擦モーメントの合力モーメントに対して本発明を適用してもかまわない。
また、上記説明では、この計算では、粒子と部材との作用力計算において本発明の転がり摩擦計算を実施するとしているが、粒子間の作用力計算においても本発明を用いることが可能である。
また、本方法は、2次元のシミュレーションだけでなく3次元のシミュレーションへも適用可能である。その場合、モーメントは3次元ベクトルとして算出されるが、例えば回転停止判定部423において、モーメントの絶対値を用いて判断してもよいし、回転速度
ベクトルに対する方向余弦の値を用いてもよい。いずれの方法を用いても、本発明は実現可能である。
【符号の説明】
【0037】
421:回転停止閾値計算部、422:転がり摩擦モーメント計算部、423:回転停止判定部、424:回転運動強制停止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間ステップごとの粒子の運動を数値計算する粒子挙動解析装置であって、
次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止閾値を計算する回転停止閾値計算部と、
粒子に作用する転がり摩擦モーメントを計算する転がり摩擦モーメント計算部と、
前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値を用いて粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止判定部と、
前記回転停止判定部において停止すると判定した場合、粒子の回転を強制的に停止する回転運動停止部と、
を有することを特徴とする粒子挙動解析装置。
【請求項2】
前記回転運動停止部は、次の時間ステップの粒子の回転速度を0に設定することを特徴とする請求項1に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項3】
前記回転運動停止部は、転がり摩擦モーメントの値を前記回転停止閾値の値に設定することを特徴とする請求項1に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項4】
前記回転停止判定部は、前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値の比較により判定することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項5】
前記回転停止閾値は、粒子の回転速度、慣性モーメント、時間ステップをもとに、回転の運動方程式を用いて得られる回転モーメントの値であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項6】
時間ステップごとの粒子の運動を数値計算する粒子挙動解析方法であって、
コンピュータが、
次の時間ステップの粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止閾値を計算する回転停止閾値計算ステップと、
粒子に作用する転がり摩擦モーメントを計算する転がり摩擦モーメント計算ステップと、
前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値を用いて粒子の回転を停止するかどうかを判定する回転停止判定ステップと、
前記回転停止判定ステップにおいて停止すると判定した場合、粒子の回転を強制的に停止する回転運動停止ステップと、を実行することを特徴とする粒子挙動解析方法。
【請求項7】
前記回転運動停止ステップは、次の時間ステップの粒子の回転速度を0に設定することを特徴とする請求項6に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項8】
前記回転運動停止ステップは、転がり摩擦モーメントの値を前記回転停止閾値の値に設定することを特徴とする請求項6に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項9】
前記回転停止判定ステップは、前記回転停止閾値と前記転がり摩擦モーメントの値の比較により判定することを特徴とする請求項6乃至8のうちいずれか1項に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項10】
前記回転停止閾値は、粒子の回転速度、慣性モーメント、時間ステップをもとに、回転の運動方程式を用いて得られる回転モーメントの値であることを特徴とする請求項6乃至9のうちいずれか1項に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項11】
請求項6乃至10のうちいずれか1項に記載の粒子挙動解析方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−180961(P2011−180961A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46428(P2010−46428)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)