説明

粒子数濃度標準液の製造法

【課題】気中パーティクルカウンターを用いた粒径100nm以下の特定の粒径の粒子数濃度標準液の製造法を提供する。
【解決手段】粒径100nm以下の特定の粒径の非水溶性の単分散エアロゾル粒子を生成してエアロゾル流を形成し、エアロゾル流を等分に2つに分岐させ、分岐した一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタに導きエアロゾル流中のエアロゾル粒子の全個数Nを求め、分岐した他方のエアロゾル流を水蒸気凝縮手段に導き、エアロゾル粒子に水蒸気を凝縮させて大きな液滴に成長させ、成長した液滴を、容器に収容した純水の液面に慣性沈着させて捕集し、捕集終了後に容器に収容した液体の体積Vを測定し、液中粒子数濃度n=N/Vを求め、捕集終了後の容器に収容された液体を前記特定粒径の液中粒子数濃度がnである粒子数濃度標準液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル技術を用いた粒子数濃度標準液の製造法に関する。特に、半導体製造プロセスにおける品質管理等に使用される、液中に浮遊する汚染粒子の個数濃度を測定する液中パーティクルカウンタの校正に使用するための粒子数濃度標準液の製造法に関するものであって、粒径100nm以下、とりわけ粒径60nm以下の粒子数濃度標準液の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける品質管理の分野では、歩留まり向上を妨げる洗浄用超純水中に浮遊する汚染粒子に対する品質管理維持が重要視されている。2009年現在、超純水中の粒径20nm以上の粒子数濃度を測定する技術が非常に強く求められている。集積回路の製造技術の進歩に伴い、管理対象となる汚染粒子の粒子径は、10年後の2019年においては6nmとなると予測されている(国際半導体技術ロードマップ2007年度版参照)。
図5に示すように、液中の粒子数濃度測定には、液中パーティクルカウンタが使われており、この液中パーティクルカウンタの校正には、粒子数濃度標準液が使用される。液中パーティクルカウンタの校正は、粒子数濃度および粒径が値づけされた粒子数濃度標準液を液中パーティクルカウンタにサンプルさせることにより、ある粒径における粒子検出効率ηが評価・校正される。
【0003】
これまでの液中の粒子数濃度の標準液の製造は、液中での化学反応により、例えばポリスチレンの球状の粒子を生成する技術に基づいていた(非特許文献1−2参照)。しかしながら、液中の化学反応プロセスにより製造された粒子数濃度標準液には以下の問題があった。
第一に、生成させる液中の粒子数濃度を、製造過程において厳密に制御することはできないので、製造後、他の測定法で評価することにより、初めて粒子数濃度の値づけが行われる。現状では、粒径100nm以下のナノ粒子の領域においては、信頼できる液中の粒子数濃度の測定法が存在しないため、信頼性の高い粒子数濃度標準液を製造することができない。
第二に、粒径100nm以下のナノ粒子の領域において、粒径が小さくなるにつれて、粒径の単分散性が低くなるので、とりわけ粒径60nm以下においては、粒径の不確かさが大きい(例えば、相対標準偏差[k=2]が約15%以上)。すなわち、標準液中の粒子のサイズが十分に揃っていないため、液中パーティクルカウンタの「粒径毎の粒子検出効率」に対する信頼できる校正を行うことができない。
【0004】
一方、現状の液中パーティクルカウンタの測定可能な粒径範囲が100nm以上であるのに対し、気中パーティクルカウンタは、粒径3nm以上のエアロゾル粒子を正確に測定することができる。また、気中にて100nm以下のナノ粒子を生成する技術も1980年代前半に完成されている(非特許文献3参照)。また、エアロゾル中のナノ粒子に過飽和状態の溶剤の蒸気を凝縮させて粒径10μm以上の大きな液滴に成長させる技術も、1980年代に完成されており(非特許文献4参照)、層流中にて過飽和状態の水蒸気をエアロゾル中のナノ粒子へと凝縮成長させる技術も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6712881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】笠井,“ポリスチレン系粒子”,「SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)」,社団法人繊維学会,2004年7月,Vol.60,No.7,p.367−370
【非特許文献2】日方幹雄,佐久間都,深井芳和,“ポリスチレン標準粒子の製造とその利用”,「エアロゾル研究」,日本エアロゾル学会,2007年,Vol.22,No.4,p.282−288
【非特許文献3】Scheibel H.G.,Porstendoerfer J.,“Generation of monodisperse silver and sodium chloride aerosols with particle diameters between 2 and 300 nm.”,「Journal of AerosolScience」,(1983年),Vol.14,p.113−126
【非特許文献4】McMurry P. H.,“The History of Condensation Nucleus Counters”,「Aerosol Science and Technology」,(2000年),Vol.33,p.297−322
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の液中での化学反応で粒子を生成する場合の上記問題点を解決するために、気中での粒子計測技術の優れた点を、粒子数濃度標準液の製造法に適用して、気中で粒子を生成し、気中において粒子の正確な個数を計測するとともに、気中で生成した粒子を速やかに液体に捕集することにより、粒子径100nm以下の正確な粒子数濃度標準液を製造できる粒子数濃度標準液の製造法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の粒子数濃度標準液の製造法は、粒径100nm以下の特定の粒径の非水溶性の単分散エアロゾル粒子を生成してエアロゾル流を形成し、前記エアロゾル流を等分に2つに分岐させ、等分に2つに分岐した一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタに導き、気中パーティクルカウンタでエアロゾル中のエアロゾル粒子の粒子数濃度を測定し、等分に2つに分岐した他方のエアロゾル流を水蒸気凝縮手段に導き、水蒸気凝縮手段でエアロゾル粒子に水蒸気を凝縮させて粒径10μm以上の大きな液滴に成長させ、前記成長した液滴を、容器中の純水の液面に慣性沈着させて捕集し、捕集終了後に容器中の液体の体積Vを測定し、前記一方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子の粒子数濃度が、前記他方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子の粒子数濃度に等しいものとして、一定時間内に容器に収容した純粋に捕集された全粒子数Nを算出し、当該全粒子数Nを前記体積Vで除することにより液中粒子数濃度n=N/Vを求め、捕集終了後の容器中の液体を前記特定粒径の液中粒子数濃度がnである粒子数濃度標準液とすることを特徴とする。
また、本発明の粒子数濃度標準液の製造法は、気中パーティクルカウンタにより測定された、2つに等しく分岐した一方のエアロゾル中の粒子数濃度C(t)[個/cm]を、分岐後のエアロゾル流量Q([cm/sec]:一定)で掛算することにより粒子検出頻度へと変換し、N=Q∫C(t)dtの式を捕集開始時点から捕集終了時点まで時間積分することによって、一定時間内に気中パーティクルカウンタにサンプルされた全粒子数Nを求め、このNが同じ一定時間内に純水中に捕集された全粒子数とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水溶性の単分散のエアロゾル粒子を発生させてエアロゾル流とし、エアロゾル流中のエアロゾル粒子を気中パーティカルカウンタで個数を測定するから、粒径100nm以下の粒子であっても正確に測定することができ、そのため、正確な粒子数濃度標準液を得ることができる。
また、本発明によれば、2つに分岐した他方のエアロゾル流中の非水溶性の単分散のエアロゾル粒子に、水蒸気を凝縮させて粒径約10μm以上の大きな液滴に成長させ、当該成長させた液滴を、容器中の液体の液面に慣性沈着させて捕集できるので、速やかな捕集が実現できる。
捕集終了後の容器中の液体の体積V[cm]を測定し、全粒子数Nを体積Vで除算した値を求めれば、この値(N/V)が容器に収容された液体の液中粒子数濃度n(=N/V)である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のエアロゾル技術を応用した粒子数濃度標準液の製造法の概要図。
【図2】本発明の、非水溶性の単分散エアロゾル粒子の発生を説明する図。
【図3】本発明の、気中パーティクルカウンタによるエアロゾル粒子の測定を説明する図。
【図4】本発明の、エアロゾル粒子に水蒸気を凝縮して粒径を成長させ、成長した液滴を液中に慣性沈着させて捕集する説明図。
【図5】粒子数濃度標準液を使った液中パーティクルカウンタの校正の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明のエアロゾル技術を応用した粒子数濃度標準溶液の製造法の概略を示した図である。
まず、エアロゾル技術により非水溶性の単分散エアロゾル粒子を発生させて、エアロゾル流とする。エアロゾル技術による生成可能な粒径範囲は3〜300nmであるが、本発明では、粒径100nm以下の、所望のある特定の粒径(粒径のばらつき5%以下)のエアロゾル粒子を生成し、エアロゾル流とする。
次に、このエアロゾル流を2つに等分に分岐し、2つに等分に分岐した一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタに導き粒子数濃度(C(t)[個/cm])を測定し、その経時変化を記録する。
2つに等分に分岐した他方のエアロゾル流の流量をQ([cm/sec]:一定)とし、当該他方のエアロゾル流中の粒子を、容器中の液体へと捕集する。捕集開始時間tから終了時間tの間に容器中に捕集された全粒子数Nは、N=Q∫C(t)dtの式をt=tからt=tまで時間積分することによって算出する。
エアロゾル流を2つに分岐する際には等分にしているため、2つに分岐した一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタで測定してエアロゾル中の粒子数濃度を測定し、捕集開始時間tから終了時間tの間に気中パーティクルカウンタにサンプルされた全粒子数を求めれば、この値を、そのまま、等分に2つに分岐した他方のエアロゾル流に含まれる全粒子数、すなわち、液体に捕集された全粒子数の値Nとすることができる。
捕集が終了したときの容器に収容された液体の体積Vを測定し、捕集された全粒子数Nを体積Vで除算して容器中の液体の液中粒子数濃度n=N/Vを算出する。
この容器中の液体を液中粒子数濃度nの粒子数濃度標準液とする。
【実施例】
【0012】
図2は、図1で示した本発明のエアロゾル技術を応用した粒子数濃度標準液の製造法の概略中の、非水溶性の単分散エアロゾル粒子を発生させる部分を説明した図である。金属・セラミック系等のナノ粒子を気中で発生する手段は既存のエアロゾル技術を用いることができる。発生できる粒径範囲は、約3〜300nmが可能であるが、特定の粒径の粒子を発生しようとしても、粒径分布が図のごとく広がるので、粒径をそろえるためには、市販の電気移動度分級器(例えば、TSI社(米国)製Model3081又は3085等)を用いて、狭い粒径範囲の粒子のみを取り出すことにより、粒子径100nm以下の特定の粒子径のエアロゾル粒子を発生させる。
発生させたエアロゾル粒子によるエアロゾル流を等分に2つに分岐させて、等分に2つに分岐させた一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタに導き、等分に2つに分岐した他方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子を、容器に収容された純水に捕集する。
【0013】
図3は、図1で示した本発明のエアロゾル技術を応用した粒子数濃度標準液の製造法の概略中の、2つに分岐した一方のエアロゾル流の気中パーティクルカウンタによる測定について説明した図である。気中パーティクルカウンタは、市販のもの、例えば、TSI社(米国)製Model3772又は3776等を使用すればよい。図示のように、気中パーティクルカウンタに導かれたエアロゾル流中のエアロゾル粒子は、気中パーティクルカウンタ内の凝縮部において、粒子が凝縮核となり液滴へと成長し、次に、気中パーティクルカウンタ内の検出部において、成長した液滴がレーザと光電検出器により検出され、検出された個数がカウントされる。市販の気中パーティクルカウンタにおける検出可能な粒径範囲は3nm以上、検出可能な粒子数濃度の範囲は約10個/cm以下である。
エアロゾル流を等分に2つに分岐しておけば、等分に2つに分岐した一方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子の全粒子数を気中パーティクルカウンタで測定でき、この値は、そのまま、等分に2つに分割した他方のエアロゾル流に含まれる全粒子数、すなわち、捕集される全粒子数Nの値に等しいとすることができる。なお、一方のエアロゾル流の流量は、気中パーティクルカウンタの定格の吸引流量で決まるので、等分に2つに分岐するには、他方のエアロゾル流の流量が前記吸引流量に等しくなるようにする必要があるが、例えば、他方のエアロゾル流を前記吸引流量と等しい流量で吸引したり(水蒸気凝着手段・容器側からの吸引)、あるいは、エアロゾル流を形成する際に前記吸引流量の2倍の流量のエアロゾル流を形成しておけば、等分に2つに分岐されることとなる。
【0014】
図4は、図1で示した本発明のエアロゾル技術を応用した粒子数濃度標準液の製造法の概略中の、2つに分岐した他方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子を液中へ捕集する捕集法について説明した図である。図のように、等分に2つに分岐した他方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子に水蒸気を凝縮させ、粒径約10μm以上の大きな液滴へと成長させる。当該成長して大きくなった液滴を、容器に収容した純水の液面に慣性沈着させて、容器の純水中に速やかに捕集する。なお、このようにエアロゾル粒子に水蒸気を凝着させて粒径約10μm以上の大きな液滴に成長させてやらないと、粒子径100nm以下のエアロゾル粒子をそのままで純水の液面に慣性沈着させようとしても、慣性沈着させることは困難であり、容器中の純水に捕集することができない。
【0015】
捕集終了時の容器に収容された純水の体積Vを測定する。そして上記捕集された全粒子数Nを前記体積Vで除算すれば、容器に収容された純水の液中粒子数濃度n(=N/V)を算出することができ、これを、液中粒子数濃度がnの純水の粒子数濃度標準液となる。なお、捕集後に容器に純水を追加してVの値を調整すれば、nの値を調整することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明では、純水の粒子数濃度標準液としたが、他の液体にも適用可能である。
また、本発明では、純水中にナノ粒子を捕集する手法として、ナノ粒子を一旦凝縮成長させ慣性沈着する手法を利用したが、もうひとつの手法として、Nucleporeメンブレンフィルタにナノ粒子を一旦気中にて捕集し、純水中にて超音波を発生させNucleporeメンブレンフィルタ上より捕集された全ての粒子を純水中へと離脱させ、液中に均一に分散させる方法も可能である。
また、非水溶性の単分散のエアロゾル粒子については、金属・セラミック系以外のものであっても、エアロゾル粒子を生成できるものであれば適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径100nm以下の特定の粒径の非水溶性の単分散エアロゾル粒子を生成してエアロゾル流を形成し、
前記エアロゾル流を等分に2つに分岐させ、
等分に2つに分岐した一方のエアロゾル流を気中パーティクルカウンタに導き、気中パーティクルカウンタでエアロゾル流中のエアロゾル粒子の粒子数濃度を測定し、
等分に2つに分岐した他方のエアロゾル流を水蒸気凝縮手段に導き、水蒸気凝縮手段でエアロゾル粒子に水蒸気を凝縮させて粒径10μm以上の大きな液滴に成長させ、
前記成長した液滴を、容器中の純水の液面に慣性沈着させて捕集し、
捕集終了後に容器中の液体の体積Vを測定し、前記一方のエアロゾル流中のエアロゾル粒子の粒子数濃度が、前記他方のエアロゾル中のエアロゾル粒子の粒子数濃度に等しいものとして、一定時間内に容器に収容した純粋に捕集された全粒子数Nを算出し、当該全粒子数Nを前記体積Vで除することにより液中粒子数濃度n=N/Vを求め、
捕集終了後の容器中の液体を前記特定粒径の液中粒子数濃度がnである粒子数濃度標準液とすることを特徴とする粒子数濃度標準液の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の粒子数濃度標準液の製造方法において、
気中パーティクルカウンタで測定した一方のエアロゾル中の粒子数濃度をC(t)、分岐後のエアロゾル流量をQで表せば、両者を掛算することにより粒子検出頻度へと変換し、さらにこれを時間積分すること、すなわち、N=Q∫C(t)dtの式を捕集開始時点から捕集終了時点まで時間積分することによって、一定時間内に気中パーティクルカウンタにサンプルされた全粒子数Nを算出することを特徴とする粒子数濃度標準液の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196902(P2011−196902A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65665(P2010−65665)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)