説明

粒子測定装置

【課題】大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の小さな粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能な粒子測定装置の提供。
【解決手段】試料空気を通過させる検出部4に導く導入管4aと、導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた照射光Lを検出部4に照射する投光部5と、照射光Lの偏光面内内にあり、検出部4を中心として照射光Lの光軸に対する交角が60〜120°の方向に集光光学系の光軸を有し、偏光成分を分離して散乱光を検出する受光部6と、受光部6により検出された散乱光の偏光解消度を分析する信号解析部3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の粒子をその粒子形状により分別して測定する粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリーンルームの空気清浄度の評価に用いられる計測器として、空気中の浮遊粒子の粒径および個数を測定し、粒子個数濃度を求める光散乱式気中粒子計測器(パーティクルカウンター)が知られている。近年、このパーティクルカウンターは大気浮遊微粒子の計測にも広く利用されるようになっている。パーティクルカウンターは、試料空気を吸引し、レーザー光と交差させることにより、空気中の浮遊粒子がレーザー光を横切る際の散乱光を検出するものである。
【0003】
しかしながら、従来のパーティクルカウンターは、散乱光の全成分を検出するものであるため、粒子形状を判定することができない。したがって、大気中に浮遊する黄砂等を測定しようとしても、粒子形状を判定することができないので、硫酸塩、海塩の水溶液滴等の球形粒子との区別ができず、測定された浮遊粒子が黄砂等であるのかどうか判定することができないという問題がある。
【0004】
また、血液サンプル中の細胞等の粒子の型を区別して分析する装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の装置は、異なる粒子の型に特有の異なる偏光解消構造特性に基づいて粒子の型を分析するものであり、異なる型の粒子の型を含む粒子の懸濁液を光学測定区域に導き、この懸濁液の流れ方向に平行である直線偏光を交差させ、照射光の偏光面に垂直な面内で偏光解消された散乱光を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−113345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置の分析対象は、血液サンプル中の細胞等の粒子であり、集光角はできるだけ小さい方が良く、その範囲は2〜17°の間で調節可能であり、実施例では最大でも14.5°、さらに14.5°はあまり適当ではないとされている。集光角が大きくなると分別が難しくなるためである。
【0007】
一方、大気中に浮遊する黄砂等の粒子は粒径0.5〜20μm程度であり、血液サンプル中の細胞等の粒子よりも小さい粒子を多く含む。このような黄砂も含まれる粒径0.5〜20μm程度の小さな粒子では、急激に散乱光強度が落ちてしまうため、特許文献1に記載の装置では分別が難しい。
【0008】
そこで、本発明においては、大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の小さな粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能な粒子測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の粒子測定装置は、試料空気を検出部に導く導入管と、導入管の出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた光を検出部に照射する投光部と、投光部から照射された光(以下、「照射光」と称す。)の偏光面内にあり、検出部を中心として照射光の光軸に対する交角が60〜120°の方向に集光光学系の光軸を有し、偏光成分を分離して散乱光を検出する受光部と、受光部により検出された散乱光の偏光解消度を分析する信号解析部とを有するものである。
【0010】
本発明の粒子測定装置によれば、導入管の出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光された照射光を検出部の試料空気に対して交差させ、試料空気中に浮遊する粒子が横切った際の散乱光を、照射光の偏光方向に平行で、かつ、照射光の光軸に対する交角が60〜120°の方向に集光光学系の光軸を有する受光部によって、偏光成分を分離して検出し、信号解析部により偏光解消度を分析することで、粒子形状を判別することができる。
【0011】
このとき、本発明の粒子測定装置では、導入管の出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた光を用いることで、散乱光強度を大きくするために集光角を20〜45°と大きく取っても、球形粒子の偏光解消度を小さくすることができるので、試料空気に含まれる粒径0.5〜20μmの粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導入管の出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた照射光を検出部の試料空気に対して交差させ、この照射光の光軸に対する交角が60〜120°の散乱光を検出し、偏光解消度を分析することで、大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の小さな粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における粒子測定装置の概略構成図である。
【図2】光軸交角60°の場合であって、(a)は球形粒子による偏光解消度を示す図、(b)は球形粒子による相対散乱光強度を示す図である。
【図3】光軸交角90°の場合であって、(a)は球形粒子による偏光解消度を示す図、(b)は球形粒子による相対散乱光強度を示す図である。
【図4】光軸交角120°の場合であって、(a)は球形粒子による偏光解消度を示す図、(b)は球形粒子による相対散乱光強度を示す図である。
【図5】偏光方向の違いによる球形粒子による散乱光の偏光解消度の粒径依存性を示す図である。
【図6】光軸交角の違いによる球形粒子による散乱光強度の粒径依存性を示す図である。
【図7】球形粒子と非球形粒子について偏光方向の違いによる偏光比の測定結果を示す図である。
【図8】粒子測定装置による計測結果を偏光解消度と散乱光パルス強度の相関図で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の実施の形態における粒子測定装置の概略構成図である。図1において、本発明の実施の形態における粒子測定装置1は、偏光させた光を試料空気に照射し、散乱光を検出する偏光センサー部2と、偏光センサー部2からの入力信号に基づいて試料空気中の粒子の粒子形状、粒子径や個数等を解析する信号解析部3とから構成される。なお、本実施形態における粒子測定装置1の測定対象は、大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の粒子である。
【0015】
偏光センサー部2は、試料空気を検出部4に導入する導入管4aと、検出部4の中心部の導入管4aの出口の試料空気に対して光を照射する投光部5と、投光部5から照射された照射光Lを試料空気中の粒子が横切る際の散乱光を検出する受光部6とから構成される。受光部6は、3つの受光センサー6a,6b,6cおよび偏光ビームスプリッター7から構成される。
【0016】
投光部5は、導入管4aの出口の試料空気の流れ方向(図1の表面に対して垂直方向)に対して直交方向(図1の矢印で示す方向。以下、「水平方向」と称す。)に偏光させた光(照射光L)を、検出部4に照射し、検出部4の試料空気に対して交差させるものである。投光部5の光源としては、例えば、波長780nmの半導体レーザーを用いることができる。
【0017】
受光部6は、照射光Lの偏光面内にあり、検出部4を中心として照射光Lの光軸に対する交角が半時計回りに60°および時計回りに120°の方向にそれぞれ集光光学系の光軸を有する。受光センサー6aは、投光部5から照射する照射光Lの光軸に対する交角(以下、「光軸交角」と称す。)が60°の散乱光を検出するものである。一方、受光センサー6b,6cは、光軸交角が120°であり、偏光ビームスプリッター7によって偏光成分を分離した散乱光を検出するものである。なお、受光センサー6a,6b,6cの集光角は45°となっている。
【0018】
受光センサー6bには、照射光Lの偏光方向に垂直な成分(S偏光成分)が偏光ビームスプリッター7を介して入射される。受光センサー6cには、照射光Lの偏光方向に平行な成分(P偏光成分)が偏光ビームスプリッター7を介して入射される。
【0019】
信号解析部3は、光軸交角60°の受光センサー6aの信号強度から主に粒子1つずつの粒子径を測定する。また、信号解析部3は、光軸交角120°の受光センサー6b,6cの信号強度を比較することにより、粒子1つずつの偏光解消度を分析して、個々の粒子について球形または非球形の別を判定する。また、信号解析部3は、受光センサー6a,6b,6cにより測定した粒子をカウントすることにより、試料空気中の粒子の個数を測定する。
【0020】
上記構成の粒子測定装置1では、導入管4aを通じて検出部4内に試料空気を通過させ、この検出部4内の導入管4aの出口付近の試料空気に対して投光部5より照射光Lを照射し、この照射光Lを試料空気中の粒子が横切る際の散乱光を受光部6により検出し、信号解析部3により試料空気中の粒子の粒子径や個数等を測定するとともに、粒子1つずつについて球形または非球形の別を判定することができる。
【実施例】
【0021】
上記粒子測定装置1の受光センサー6a,6b,6cの集光角の検証のための数値シミュレーションを行った。検証は、光軸交角60°、90°、120°の場合について、球形粒子による散乱光のそれぞれの偏光解消度(偏光比)と相対散乱光強度をシミュレーションすることにより行った。集光角は、2°、20°、45°、70°、90°の5通りについて検証した。検証結果は、図2〜図4に示した。
【0022】
図2〜図4から分かるように、粒径0.5〜10μmの粒子について偏光解消度が概ね10%以下となるのは、光軸交角60°では集光角90°以下(図2(a)参照。)、光軸交角90°では集光角70°以下(図3(a)参照。)、光軸交角120°では集光角45°以下(図4(a)参照。)のときである。偏光解消度が概ね10%以下であれば、粒子形状が球形か非球形かを判別することが可能である。偏光解消度を小さくするためには、集光角はできるだけ小さい方が良く、光軸交角60〜120°の条件において集光角は45°以下に設定することが望ましい。
【0023】
一方で、集光角をあまり小さくすると、散乱光強度が弱くなり、粒子そのものの検出が困難となるため(図2(b)、図3(b)、図4(b)参照。)、できるだけ大きく設定することが必要である。集光角については、相対散乱光強度が概ね1×10-14以上となる20°以上に設定することが望ましく、上記粒子測定装置1では、集光角45°に設定している。
【0024】
次に、偏光方向が横(導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向(水平方向))の場合(実施例)と縦(導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して平行方向(垂直方向))の場合(比較例)とについて、集光角を45°に設定し、光軸交角を変化させて、球形粒子による散乱光の偏光解消度の数値シミュレーションを行った。結果は図5に示した。
【0025】
図5(a)に示すように、実施例では粒径0.5〜10μmの球形粒子において光軸交角120°以下で、偏光解消度(偏光比)が概ね10%以下となっており、粒子形状を判別することが可能となっている。但し、粒径が0.5μm未満の粒子では、球形粒子であっても偏光解消度が高くなっており(図5には示していない。)、粒子形状の判別は難しくなる。一方、図5(b)に示すように、比較例では偏光解消度が実施例と比較して非常に大きくなっており、粒径0.5μm以上の粒子の形状判別を目的として集光角を大きくするためには偏光方向を横方向とする(試料空気の流れ方向に対して直交させ、照射光Lの偏光面内に集光光学系の光軸を配置する)ことが望ましいことが分かる。
【0026】
次に、光軸交角について検証した。光軸交角の選択にあたっては、球形粒子に対する偏光解消が小さいこと、散乱光強度の粒径依存性が比較的小さいことを考慮した。後者は、粒径による散乱光強度の変化が小さい方が、広い粒径範囲をカバーしやすいことによる要求である。図6に光軸交角30°、60°、90°、120°、150°について球形粒子による散乱光を数値シミュレーションし、0.5μmの散乱光強度を1とした相対散乱光強度を示している。
【0027】
前述のように、偏光方向が横であって、集光角が45°の場合、球形粒子の偏光解消度が概ね10%以下となるのは、光軸交角が120°以下の場合である(図5(a)参照。)。なお、光軸交角が小さい程、偏光解消度は小さいが、光軸交角が小さすぎると、非球形粒子の偏光解消度は小さくなる傾向がある。
【0028】
一方、光軸交角が小さくなると、図6に示すように、散乱光強度の粒径依存性が大きくなってしまう。最も粒径依存性が小さいのは光軸交角が120°の場合であった。光軸交角120°の場合、0.5〜10μmの間で散乱光強度の違いは100倍以下であり、単一のアンプ系で信号処理が可能となり、広い粒径範囲にわたって充分な散乱光強度が得られる。
【0029】
ここで、球形粒子(ポリスチレンラテックス粒子)と非球形粒子(塩化ナトリウム結晶)をサンプル粒子として、光軸交角90°、集光角45°の場合に偏光方向を変えて平均的な散乱光強度を計測した結果を図7に示す。図7(a)は偏光方向が横(導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向(水平方向))の場合(実施例)を示し、同図(b)は偏光方向が縦(導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して平行方向(垂直方向))の場合(比較例)の場合を示している。
【0030】
図7(b)に示すように偏光方向が縦(比較例)の場合、球形粒子と非球形粒子との区別ができていないが、図7(a)に示すように偏光方向が横(実施例)の場合、球形粒子と非球形粒子とを偏光比(偏光解消度)によって可能であることが分かる。
【0031】
また、図8は平成23年4月14日に山梨県甲府市で黄砂らしきものが観測されたときの粒子測定装置1による計測結果を、偏光比とパルス波高値の相関図で示したものである。図8から分かるように、偏光比0.2(偏光解消度0.17に対応)程度のところに頻度の極小領域があり、これより偏光解消度が小さい粒子は球形粒子に対応し、大きい粒子は非球形粒子(黄砂など)に対応するものと考えられる。
【0032】
以上により、本発明の粒子測定装置では、導入管4aの出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた光を用い、光軸交角60〜120°の散乱光を検出し、偏光解消度を分析することで、散乱光強度を大きくするために集光角を20〜45°と大きく取っても、偏光解消度を小さくすることが可能であり、試料空気に含まれる粒径0.5〜20μmの粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の粒子測定装置は、大気中に浮遊する黄砂等の粒径0.5〜20μm程度の粒子を測定する装置として有用であり、特に本発明は、粒子をその粒子形状により分別して測定することが可能な粒子測定装置として好適であり、黄砂の飛来判定や工場における浮遊粒子種の判定などへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 粒子測定装置
2 偏光センサー部
3 信号解析部
4 検出部
4a 導入管
5 投光部
6 受光部
6a,6b,6c 受光センサー
7 偏光ビームスプリッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料空気を検出部に導く導入管と、
前記導入管の出口の試料空気の流れ方向に対して直交方向に偏光させた光を前記検出部に照射する投光部と、
前記投光部から照射された光(以下、「照射光」と称す。)の偏光面内にあり、前記検出部を中心として前記照射光の光軸に対する交角が60〜120°の方向に集光光学系の光軸を有し、偏光成分を分離して散乱光を検出する受光部と、
前記受光部により検出された散乱光の偏光解消度を分析する信号解析部と
を有する粒子測定装置。
【請求項2】
前記受光部の集光角が20〜45°である請求項1記載の粒子測定装置。
【請求項3】
前記試料空気に含まれる粒子の粒径が0.5〜20μmである請求項1または2に記載の粒子測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−233822(P2012−233822A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103666(P2011−103666)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(301032067)株式会社山梨技術工房 (5)