説明

粒子状医薬組成物

【課題】薬物運搬システムに好適な粒子状医薬組成物における薬物の封入安定性を向上させる。
【解決手段】疎水性ポリマー鎖セグメント2bを内側に向けると共に親水性ポリマー鎖セグメント2aを外側に向けた状態で放射状に配置されたブロックコポリマーユニット2と、薬物4と、薬物4の電荷とは反対の電荷を帯びた荷電脂質3とを含有し、当該荷電脂質3が疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられた状態で配置され、薬物3が疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも内側に配置された、粒子状医薬組成物1とする。この医薬組成物1によれば、薬物4の粒子外への脱落が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状担体組成物に薬物が内包された、薬物運搬システム(DDS)として利用し得る粒子状医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や核酸といった生体高分子を利用するバイオ医薬品は、低分子化合物を利用する従来型の医薬品に比べ、酵素で分解されたり免疫系によって排除されたりし易い。特許文献1〜3は、生体内におけるバイオ医薬品の安定性を高める観点から、脂質二重膜からなるリポソームに生体高分子を内包させたDDSを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2001/034115号パンフレット
【特許文献2】国際公開第1998/58630号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/092389号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載の従来型のDDSでは、薬物としての生体高分子を脂質二重膜で保護することによって、生体内における薬物の安定性を向上できるものの、薬物が担体から放出されにくくなる。そして、こうした従来型のDDSは、その粒子径の大きさや脂質二重膜を構成する脂質が有する電荷に起因して、肺、肝臓及び脾臓といった細網内皮系に捕捉され易いため、投薬対象物に到達する以前に血中から除去されてしまう場合がある。
【0005】
疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーユニットによって構成された高分子ミセルを担体とするDDSは、リポソームを使用した従来型のDDSに比べてDDS粒子を大幅に小型化(例えば、平均粒径100nm以下)できる。しかし、こうした高分子ミセルを担体とするDDSは、後述する比較例に示すように生体高分子をDDS粒子内に保持する作用が弱すぎることによって、やはり投薬対象物に薬物を適切に輸送し難くなる場合がある。また、こうしたDDSでは、製造後のストック期間中に担体から薬物が脱離してしまう場合もある。
【0006】
本発明者等は、帯電性物質を誘引し得る電荷を粒子外周面が帯びることが防止された高分子ミセルDDSの開発を進めてきた(特願2009−200681)。かかるDDSは、投薬対象物への薬物運搬の妨害に帰結し得る担体表面への生体分子の付着を防止できるものの、薬物をより長期的に保持させる観点からはさらに改善できる余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーユニットと、薬物と、薬物の電荷とは反対の電荷を帯びた荷電脂質とを含有する粒子状医薬組成物であって、複数の前記ブロックコポリマーユニットが、前記疎水性ポリマー鎖セグメントを内側に向けると共に前記親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けた状態で放射状に配置され、前記荷電脂質が、前記疎水性ポリマー鎖セグメント側に引き寄せられた状態で配置され、前記薬物が、前記疎水性ポリマー鎖セグメントよりも粒子内側に存在することによって、当該薬物の粒子外への脱落が防止された、粒子状医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DDSに適した医薬組成物における薬物の封入安定性を向上できる。かかる医薬組成物は、従来型のDDSに比べてより確実に薬物を輸送できる。特に、到達に時間が掛かる投薬対象物への薬物送達に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)及び図1(b)は、本発明の医薬組成物の代表的な構造を説明するための図である。
【図2】図2(a)及び図2(b)は、凍結融解操作による粒子内の薬物分布の変化を説明するための図である。
【図3】図3は、医薬組成物の封入安定性評価の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、医薬組成物の血中滞留性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以降の説明では、本発明の把握を容易にするために、図1及び図2を参照する。しかし、図1及び図2は何れも模式図であり、本発明はいかなる意味においても、これらの図に限定されるものではない。図1及び図2では、荷電脂質がカチオン性脂質であり、薬物がアニオン性薬物である場合を示しているが、本発明はこの態様に限定されない。
【0011】
図1(a)に、本発明の粒子状医薬組成物(以降、単に「医薬組成物」という場合がある)の代表的な構造を示す。医薬組成物1は、ブロックコポリマーユニット2と、荷電脂質3と、薬物4とを含有する。図1(b)に、ブロックコポリマーユニット2を拡大して示す。ブロックコポリマーユニット2は、親水性ポリマー鎖セグメント2aと疎水性ポリマー鎖セグメント2bとを有し、疎水性ポリマー鎖セグメント2bを内側に向けると共に親水性ポリマー鎖セグメント2aを外側に向けた状態で、医薬組成物1内に放射状に配置される。荷電脂質3は、薬物4の電荷とは反対の電荷を帯び、疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられた状態で配置される。
【0012】
本発明による医薬組成物1において、薬物は、図1(a)に示すように、疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも内側に存在している。なお、これは、医薬組成物1に内包される全ての薬物4が疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも内側に偏在した状態に限定する意図ではなく、一部の薬物4が疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも外側に存在した状態を排除しない。本発明による医薬組成物1は、薬物4が当該位置に存在することによって、薬物4の脱落が防止された、換言すれば薬物4の封入安定性が向上した、状態にある。
【0013】
医薬組成物1は、例えば、疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも外側の領域に薬物が内包された状態にある医薬組成物前駆体に、凍結融解操作を施すことによって形成できる。なお、医薬組成物前駆体1’は、後述のように、公知の方法によって担体組成物に薬物を内包させることで容易に形成できる。図2(a)に、凍結融解操作前の医薬組成物前駆体1’における粒子内の薬物4分布を示し、図2(b)に、凍結融解操作後の医薬組成物1における粒子内の薬物4分布を示す。図2(a)に示すように、医薬組成物前駆体1’においては、疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも粒子外側に存在していた薬物4が、凍結融解操作を施すと、粒子内側に向かって移動し、図2(b)に示すように、疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも内側に存在する医薬組成物1が得られることになる。このように、本発明の医薬組成物1は、医薬組成物前駆体1’において疎水性ポリマー鎖セグメント2bの外側に配置されている薬物4を、凍結融解を経ることで疎水性ポリマー鎖セグメント2bの内側に移動させることによって形成できる。こうした薬物移動が生じる理由は定かではないが、担体組成物を構成するブロックコポリマー2および荷電脂質3の配置が凍結融解操作によって乱され、これに付随して生じる隙間を介して粒子のより内部に薬物4が格納されるものと考えられる。凍結融解操作は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上実施することが好ましい。凍結融解操作を繰り返すことで、薬物4の粒子内部への格納を促進できる。
【0014】
凍結融解操作は、組成物を凍結する操作と、凍結した組成物を融解する操作とからなる。その条件は制限されるものではないが、例えば次のとおりである。凍結操作は、組成物を、−200℃以上、好ましくは−100℃以上、また、−10℃以下、好ましくは−20℃以下の温度で、1時間以上、好ましくは5時間以上、また、72時間以下、好ましくは24時間以下に亘って保持することにより行う。融解操作は、組成物を、4℃以上、好ましくは10℃以上、また、40℃以下、好ましくは30℃以下の温度で、30分以上、好ましくは1時間以上、また、24時間以下、好ましくは5時間以下に亘って保持することにより行う。
【0015】
薬物4が疎水性ポリマー鎖セグメント2bよりも内側に存在する状態は、例えば、医薬組成物1のゼータ電位の絶対値が、当該医薬組成物1と同一の組成を有する一方で凍結融解操作を経ずに形成した薬物内包粒子のゼータ電位の絶対値よりも高いことに基づいて特定できる。これは、凍結融解操作を施すと薬物4が粒子のより内側に向かって移動して粒子の外表面から離れるため、医薬組成物1のゼータ電位の絶対値における荷電脂質3の影響が増加することに起因する。
【0016】
本明細書において、荷電脂質3とは、生理的pH(例えば、pH7.4)の水性媒体中において正電荷より多くの負電荷を有するアニオン性脂質、及び当該水性媒体中において負電荷より多くの正電荷を有するカチオン性脂質を意味する。このため、本明細書では、カチオン性基及びアニオン性基を有するいわゆる両性荷電脂質についても、上記の基準に基づいて取り扱うこととする。
【0017】
荷電脂質3は、薬物4を静電結合によって医薬組成物1内に保持する。荷電脂質3は、少なくとも医薬組成物1のストック環境下において、薬物の電荷とは反対の電荷を帯びていればよい。荷電脂質3及び薬物4は、血中に代表される生理環境下(例えば、pH7.4)においても反対の電荷を帯びていることが好ましい。
【0018】
荷電脂質3は、次のメカニズムによって、疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられた状態で配置される。本発明の医薬組成物1の素材になる担体組成物は、例えば、ブロックコポリマーユニット2と荷電脂質3を水溶液中で懸濁する工程を含んで形成できる。ブロックコポリマーユニット2の疎水性ポリマー鎖セグメント2bは、疎水性であるために、水溶液中では拡散せず凝集して存在する。親水性ポリマー鎖セグメント2aは、水溶液中で拡散し自由に運動し得る。このため、ブロックコポリマーユニット2は、水溶液中で、疎水性ポリマー鎖セグメント2bを内側に、親水性ポリマー鎖セグメント2aを外側に向けた放射状に配置される。そして、荷電脂質は、疎水性が強く、水や親水性ポリマー鎖セグメント2aに比べて疎水性ポリマー鎖セグメント2bとの親和性が高いため、疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられる。こうして、荷電脂質3は、担体組成物の外周面から離れて配置されることとなる。そして、後述する凍結融解操作を経ても、荷電脂質3が疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられた状態は維持される。
【0019】
本発明の医薬組成物1は、荷電脂質3が疎水性ポリマー鎖セグメント2b側に引き寄せられて配置されているため、荷電脂質3とは反対の電荷を帯びた帯電性物質(例えば、血中のタンパク質)を誘引し得る電荷を医薬組成物1の外周面が帯びることが防止された状態にある。こうした状態は、例えば、医薬組成物1から測定されるゼータ電位の絶対値が所定値以下の範囲にあることによって特定できる。より具体的には、医薬組成物1については、ゼータ電位の絶対値が15mV以下であることが望ましく、12mV以下、更には6mV以下、特に3mV以下であることが好ましい。ゼータ電位は、pHが7.4である10mMのHEPESバッファー溶液に、担体組成物及び医薬組成物1に含有される荷電脂質の総量が1ミリリットルの当該バッファー溶液あたり0.1mgになるように添加して測定することとする。
【0020】
荷電脂質3に対するブロックコポリマーユニットの割合は、重量比で表示して、1.0以上であることが望ましく、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、また、50以下であることが望ましく、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。当該割合を高めるほど、医薬組成物1のゼータ電位の絶対値を低くできる。他方、荷電脂質3の割合が高くなるほど、薬物をより積極的に粒子内に取り込むことができるため、上記のとおり当該割合は50以下に制限することが望ましい。
【0021】
脂質は、単純脂質、複合脂質及び誘導脂質の何れであってもよく、リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴイド類及びステロール類を例示できる。より具体的には、カチオン性脂質として、例えば、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、N−(2,3−ジオレイルオキシプロパン−1−イル)−N,N,N−トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、1,2−ジオレオイルオキシプロピル−3−ジエチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)、3β−[N−(N’N’−ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)が挙げられる。アニオン性脂質としては、例えば、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N−スクシニルホスファチジルエタノールアミン(N−スクシニルPE)、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエチレングリコール、コレステロールコハク酸が挙げられる。医薬組成物1は、2種以上の荷電脂質3を含有できる。
【0022】
親水性ポリマー鎖セグメント2aは、ポリエチレングリコール又はポリオキシエチレンからなる水溶性ポリマー由来のセグメントであることが好ましい。親水性ポリマー鎖セグメント2aの分子量は、2,500Da以上であることが望ましく、好ましくは5,000Da以上、より好ましくは8,000Da以上であり、また、200,000Da以下であることが望ましく、好ましくは20,000Da以下、より好ましくは15,000Da以下である。疎水性ポリマー鎖セグメント2bは、ポリアミノ酸鎖由来のセグメントであることが好ましい。かかるポリアミノ酸鎖は、医薬組成物1中で、その一部又は全部がαヘリックスを形成し得る。このため、荷電脂質3は、ポリアミノ酸鎖のαヘリックス部分に引き寄せられた状態で、換言すればαヘリックス部分の周辺に分散した状態で、配置され得る。疎水性ポリマー鎖セグメント2bの反復単位数は、10個以上であることが望ましく、好ましくは20個以上であり、また、200個以下であることが望ましく、好ましくは100個以下、より好ましくは60個以下である。医薬組成物1のゼータ電位の絶対値を低くする、換言すれば医薬組成物1の表面電荷を小さくする(中性に近づける)観点からは、ブロックコポリマーユニット2において、親水性ポリマー鎖セグメント2aのサイズ(分子量)を、疎水性ポリマー鎖セグメント2bのサイズ(反復単位数)に比べて大きくすることが好ましい。親水性ポリマー鎖セグメント2a及び疎水性ポリマー鎖セグメント2bは、分岐構造を有していても構わない。例えば、一方のセグメントに対し2本以上のセグメントが結合した状態にあってもよい。
【0023】
親水性ポリマー鎖セグメント2a及び疎水性ポリマー鎖セグメント2bは、帯電性物質を誘引し得る電荷を医薬組成物1の粒子外周面が帯びることを防止できる程度であれば、アミノ基及びカルボキシル基に代表される荷電性の置換基をさらに含有していても構わない。
【0024】
親水性ポリマー鎖セグメント2aと疎水性ポリマー鎖セグメント2bは、主鎖の末端同士を共有結合を介して結合させたものを用いることができる。より具体的には、ブロックコポリマーユニット2として、次の一般式(I)及び一般式(II)で表示される化合物を例示できる。医薬組成物1は、2種類以上のブロックコポリマーユニット2によって形成されていてもよい。
【化1】

【化2】

【0025】
一般式(I)及び一般式(II)において、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又はR8(R9)CH(CH2q−で表される基を表し(ただし、R8及びR9は、i)それぞれ独立して、水素原子、C1-6アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールC1-3オキシ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、トリ−C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基、シリルアミノ基である、ii)一緒になって、C1-3アルキル基で置換されていている若しくは未置換のエチレンジオキシ基又はプロピレンジオキシ基を形成する、又はiii)それらが結合しているCH基と一緒になってホルミル基を形成する)、qは0〜10の整数であり、R2は水素原子、飽和若しくは不飽和のC1〜C29脂肪族カルボニル基又はアリールカルボニル基であり、R4は水酸基、飽和若しくは不飽和のC1〜C30脂肪族オキシ基又はアリール−低級アルキルオキシ基であり、R5は−O−又は−NH−であり、R6は水素原子、フェニル基、ベンジル基、−(CH2)4−フェニル基、未置換の又はアミノ基若しくはカルボニル基で置換されたC4〜C16アルキル基、又は、ステロール誘導体の残基であり、R7はメチレン基であり、nは55〜4,600の範囲にある整数であり、xは10〜200の範囲にある整数であり、mは0〜200の範囲にある整数であり(ただし、mが1以上である場合、(COCHNH)のユニットと(COR7CHNH)のユニットとの結合順は任意であり、mが2以上である場合、R6は1つのブロックコポリマー内の各アミノ酸ユニットにおいて各々独立に選択され、ランダムに存在するが、R6が水素原子である場合はR6全体の75%以下である)、yは1又は2であり、L1は−NH−、−O−、−O−Z−NH−、−CO−、−CH2−、及び−O−Z−S−Z−NH−(ここで、Zは独立してC1〜C6アルキレン基である。)から選ばれる連結基であり、L2は−OCO−Z−CO−、及び−NHCO−Z−CO−(ただし、ZはC1〜C6アルキレン基である)から選ばれる連結基である。
【0026】
一般式(I)及び一般式(II)において、nは、好ましくは110以上、より好ましくは180以上、また、好ましくは460以下、より好ましくは340以下の整数であり、xは、好ましくは20以上、また、好ましくは100以下、より好ましくは60以下の整数であり、mは、好ましくは100以下、より好ましくは60以下の整数である。
【0027】
ブロックコポリマーユニット2は、例えば、親水性ポリマー鎖を有するポリマー及びポリアミノ酸鎖を有するポリマーをそのまま、又は必要により分子量分布を狭くするように精製した後、公知の方法によりカップリングすることによって形成できる。一般式(I)のブロックコポリマーユニット2については、例えば、R1を付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成した後、成長末端側にアミノ基を導入し、そのアミノ末端からβ−ベンジル−L−アスパルテート、γ−ベンジル−L−グルタメート、Nε−Z−L−リシンといった保護されたアミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させることによっても形成できる。
【0028】
担体組成物は、例えば、次のようにして形成できる。まず、ブロックコポリマーユニットと荷電脂質、及び必要であれば中性の脂質を、有機溶媒を含有する形成溶液に溶解又は分散させ、十分に溶解又は分散した後に当該有機溶媒を蒸散除去する。有機溶媒としては、アセトン、ジクロロメタン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォオキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、メタノールを例示できる。形成溶液は、2種以上の有機溶媒を含有でき、少量の水を更に含有してもよい。得られた固形物又はペーストに、水又は適当な塩若しくは安定化剤などの添加物を含んだ水溶液を加え、攪拌することによりブロックコポリマーユニットと脂質を懸濁させる。これを超音波照射、高圧乳化機又はエクストルーダーなどの手段を用いて分散・微小化することによって、担体組成物を形成できる。
【0029】
薬物4は、荷電脂質3との静電結合によって医薬組成物1内に保持される。このように、荷電脂質3と薬物4との結合状態は可逆的であり、化学的構造変化を伴わない。薬物4は、担体組成物の形成過程において形成溶液中に添加することによっても、薬物4の溶液に担体組成物を添加することによっても、担体組成物に内包させることができる。
【0030】
薬物4としては、生理的pH(例えば、pH7.4)の水性媒体中において正電荷より多くの負電荷を有するアニオン性化合物、及び当該水性媒体中において負電荷より多くの正電荷を有するカチオン性化合物が挙げられる。化合物は、高分子化合物が好ましい。
【0031】
薬物4に適用できる高分子化合物としては、ペプチド及びタンパク質を例示できる。こうしたペプチド及びタンパク質としては、アルブミン、オブアルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、ペプシノーゲン、α−ラクトアルブミン、カタラーゼ、カーボニックアンヒドラーゼ、インシュリン、TGF−β、G−CSF、インターフェロン、t−PA、TNF−α、IL−2、IL−6、IL−12といったインターロイキン類、エリスロポエチン、成長ホルモン(GH)、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、ゴセレリン、リュープロレリンといったLH−RH誘導体、ブセレリン、ナファレリンといったGnRH誘導体、ゴナトトロピン、IGF−1、グルカゴン、L−アスパラギナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、リゾチーム、セラチオペプチダーゼ、チトクロムC、リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、α−キモトリプシン、コラーゲン、ヒストン、プロタミン、抗体又はこれと類似の活性を有する誘導体、及び免疫治療に用いられる抗原ペプチドを例示できる。
【0032】
薬物4として適用できる、ペプチド及びタンパク質以外の高分子化合物としては、ポリ−L−リジン、ポリエチレンイミン、キトサン及びポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーといったカチオン性高分子、並びにデキストラン硫酸、デキストラン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルタマン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケタラン硫酸、デキストランといった糖鎖、オリゴ若しくはポリ二本鎖RNA、オリゴ若しくはポリ二本鎖DNA、オリゴ若しくはポリ一本鎖DNA及びオリゴ若しくはポリ一本鎖RNAといった核酸、ポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸コポリマー、イソプロピルアクリルアミド−アクリルピロリドンコポリマー、アニオン性デンドリマー、ポリ乳酸及びポリ乳酸ポリグリコール酸を例示できる。
【0033】
核酸に含有されるヌクレオチドは天然型であっても、化学修飾された非天然型のものであっても、またアミノ基、チオール基、蛍光化合物などの分子が付加されたものであっても構わない。核酸の長さは、好ましくは4塩基以上、より好ましくは10塩基以上、更に好ましくは18塩基以上、また、好ましくは20,000塩基以下、より好ましくは10,000塩基以下、更に好ましくは30塩基以下である。核酸は、プラスミドDNA、siRNA(低分子干渉RNA)、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンス核酸、デコイ核酸、アプタマー及びリボザイムであってよい。
【0034】
薬物4としては、特にsiRNAが好ましい。siRNAは、標的とする遺伝子及びポリヌクレオチドに特異的に作用するように、公知の方法で設計すればよい。このsiRNAには、ヌクレオチド18〜30個の長さを有する一本鎖又は二本鎖のRNAであって、当該技術分野で公知の化合物、また、それらと同様な作用又は機能を有するすべてのヌクレオチドが包含される。遺伝子としては、非小細胞肺癌に関係するPKCα、悪性黒色腫に関係するBCL−2、クローン病に関係するICAM−1、C型肝炎に関係するHCV、関節リュウマチ及び乾癬に関係するTNFα、喘息に関係するアデノシンAI受容体、卵巣癌に関係するc−rafキナーゼ、膵臓癌に関係するH−ras、冠動脈疾患に関係するc−myc、大腸癌に関係するPKA Ria、エイズに関係するHIV、固形癌に関係するDNAメチルトランスフェラーゼ、腎臓癌に関係するリボヌクレオチド還元酵素、CMV性網膜炎に関係するCMV IE2、前立腺癌に関係するMMP−9、悪性グリオーマに関係するTGFβ2、多発性硬化症に関係するCD49d、糖尿病に関係するPTP−1B、乳癌に関係するEGFR、癌に関係するVEGF受容体、c−myb、mdr1、オータキシン(autotaxin)及びGLUT−1を例示できる。
【0035】
薬物4が血中等において医薬組成物1から早期に脱離してしまうことを抑制すると共に、薬物4が医薬組成物1内に過剰な期間保持され続けることを防止する観点からは、医薬組成物1における荷電脂質3と薬物4との電荷比を、所定範囲に制御することが好ましい。当該電荷比は、例えば、薬物4として核酸を使用する場合、[医薬組成物に含有される荷電脂質中のカチオン性基のモル濃度]/[核酸中のリン酸基のモル濃度]によって規定され、また例えば、タンパク質に代表される両性の荷電性基を有する薬物4を使用する場合、[医薬組成物に含有される荷電脂質中の荷電性基のモル濃度]/([荷電脂質の電荷と反対の電荷を有する、薬物中の荷電性基のモル濃度]−[荷電脂質の電荷と同じ電荷を有する、薬物中の荷電性基のモル濃度])によって規定される。当該電荷比は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、また、好ましくは50以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
【0036】
担体組成物及び医薬組成物1の平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、また、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0038】
I.粒子状医薬組成物の調製:
次に記載する手順に従って粒子状医薬組成物を調製し、後述の各種測定に供した。
【0039】
重量平均分子量(Mw)10000のα−メトキシ−ω−アミノ−ポリエチレングリコール(以降、「PEG」と表示する場合がある)(日油株式会社)5gをジメチルスルホキシド50mlに溶解し、γ−ベンジル−L−グルタメート(以降、「PBLG」と表示する場合がある)のN−カルボン酸無水物(NCA)5.5g(ポリエチレングリコールに対し42等量)を加え、40℃で24時間反応を行った。この反応溶液をヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(体積比1:1)1L中へ滴下することで、ポリマーを析出させた。減圧濾過によりポリマーを回収し、更に乾燥させることで、8.6gの固形物を得た。これをDMF86mlに溶解し、無水酢酸432μlを加え、40℃で24時間反応を行った。反応溶液をヘキサン及び酢酸エチルの混合溶媒(体積比1:1)1L中へ滴下することで、ポリマーを析出させた。ポリマーは減圧濾過により回収し、更に乾燥させることで、8.1gのポリエチレングリコール−ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)−Acブロックコポリマー(以降、「PEG−PBLG」と表示する場合がある)を得た。PEG−PBLGの構造式を下記に示す。1H−NMRによる解析から、PBLGブロックの重合度は40であった。
【0040】
【化3】

【0041】
以上の手順により得られたブロックコポリマーユニットであるPEG−PBLG(10−40)と、カチオン性脂質であるDOTAPと、中性脂質であるDOPEとを、クロロホルム中で、2.5/1/1の重量比となるように混合し、減圧下で乾固させた。この混合物に10mMのHEPESバッファー(pH7.4)を加え、4℃で終夜攪拌した後、超音波を照射して粒子化を行い、更に0.22μmのフィルターを通すことで、脂質ミセル(粒子状担体組成物)の溶液を得た。
【0042】
siRNAを10mMのHEPESバッファー(pH7.4)に溶解させ、40μMのsiRNA溶液を調製した。このsiRNA溶液を、脂質ミセル(粒子状担体組成物)の溶液、10mMのHEPESバッファー及び50%スクロース溶液と混合することにより、薬物として各試験例に記載のsiRNAを内包する脂質ミセル(粒子状医薬組成物)の溶液を得た。この際、粒子状医薬組成物溶液中のsiRNA濃度は10μMに、スクロース濃度は10%となるように調製を行った。また、カチオン性脂質(DOTAP)の正電荷(カチオン性基)の濃度とsiRNAの負電荷(リン酸基)の濃度との比である電荷比(+/−)が8となるように、混合量比を調整した。
【0043】
なお、siRNAとしては、次に説明するものを用いた。これらsiRNAは、株式会社日本イージーティーを通じて入手できる。
・siRNA(Luc):ウミホタルルシフェラーゼ遺伝子を標的として設計され、センス鎖として5’−CUUACGCUGAGUACUUCGAdTdT−3’(配列番号1)、アンチセンス鎖として5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’(配列番号2)を用い、常法により2重鎖を形成させたsiRNAである。
・siRNA(Plk1):ヒトPlk1(Polo-like kinase 1)遺伝子を標的として設計され、センス鎖として5’−CCAUUAACGAGCUGCUUAAdTdT−3’(配列番号3)、アンチセンス鎖として5’−UUAAGCAGCUCGUUAAUGGdTdT−3’(配列番号4)を用い、常法により2重鎖を形成させたsiRNAである。Plk1遺伝子は、細胞分裂のM期において重要なキナーゼである。siRNA(Plk1)は、細胞内に導入された場合にアポトーシスを誘導する。
・F−siRNA(Luc):siRNA(Luc)において、配列番号2のアンチセンス鎖の5’末端にCy3標識を付したアンチセンス鎖(5’−Cy3−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’)を用いて形成したsiRNAである。
【0044】
得られたsiRNA内包脂質ミセル(粒子状医薬組成物)の溶液を未処理のまま、或いは凍結融解処理を1回、2回、又は3回行い、以下の各種測定に供した。なお、各凍結融解処理は、−80℃で12時間放置して凍結させた後、室温で1時間放置して融解させることにより行った。
【0045】
以降、未処理の粒子状医薬組成物を「参考例1の医薬組成物」、凍結融解を1回行った粒子状医薬組成物を「実施例1の医薬組成物」、凍結融解を2回行った粒子状医薬組成物を「実施例2の医薬組成物」、凍結融解を3回行った粒子状医薬組成物を「実施例3の医薬組成物」、と表示する場合がある。また、これらを総称して単に「試料」と表示する場合がある。
【0046】
なお、参考例1及び実施例1〜3の各医薬組成物は、何れも、荷電脂質(DOTAP)が、薬物(siRNA)を静電結合によって粒子内に保持する一方、疎水性ポリマー鎖セグメント側に引き寄せられた状態で配置されることによって、荷電脂質とは反対の電荷を帯びた帯電性物質を誘引し得る電荷を粒子外周面が帯びることが防止された状態にある。また、参考例1及び実施例1〜3の各医薬組成物は、ポリアミノ酸鎖由来の疎水性ポリマー鎖セグメント(PBLG)がαヘリックスを形成し、荷電脂質(DOTAP)はこのαヘリックスの周辺に分散していると考えられる。更に、実施例1〜3の各医薬組成物は、何れも、薬物が疎水性ポリマー鎖セグメントよりも粒子内側に存在する状態にある。
【0047】
II.粒子状医薬組成物の各種測定:
II−1.光散乱測定:
siRNAとしてsiRNA(Luc)を用い、上記「I.粒子状医薬組成物の調製」の手順に従って調製した、参考例1(未処理)、実施例1(凍結融解1回)、実施例2(凍結融解2回)及び実施例3(凍結融解3回)の各医薬組成物を試料として、以下の測定に供した。
【0048】
各試料を10mMのHEPESバッファーで10倍に希釈し、siRNA濃度を1μMとして用いた。光散乱分析装置(Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により、各試料中のミセルの粒子径、散乱強度及びゼータ電位を測定した。
【0049】
粒子径及びゼータ電位の測定結果を表1に示す。参考例1(未処理)の医薬組成物と比べ、実施例1(凍結融解1回)、実施例2(凍結融解2回)及び実施例3(凍結融解3回)の各医薬組成物では、ミセルの粒子径及び散乱強度については大きな変化は見られず安定であったが、ゼータ電位が増加するという現象がみられた。理由としては、(i)ミセル中から脂質が解離してしまったこと、及び、(ii)siRNAがミセルの内部に移行し、ミセル表面の正電荷が相対的に増加したこと、が考えられる。しかし、上記(i)の場合には粒子径や散乱強度にも大きな変化が生じるはずであるのに対し、実際には上述のように粒子径や散乱強度に大きな変化は生じていない。よって、上記(ii)のように、siRNAがミセルの内部へ移行したためであると考えられる。
【0050】
【表1】

【0051】
II−2.内包率の測定:
siRNAとしてsiRNA(Luc)を用い、上記「I.粒子状医薬組成物の調製」の手順に従って調製した、参考例1(未処理)、実施例1(凍結融解1回)、実施例2(凍結融解2回)及び実施例3(凍結融解3回)の各医薬組成物を試料として、以下の測定に供した。
【0052】
II−2−1.検量線の作成:
40μMのsiRNA溶液を10mMのHEPESバッファーで希釈し、1/3の希釈系列を50μLずつ作製した(40μMから0.68nMまでの11段階)。得られた希釈系列の各siRNA溶液50μLについて、以下の手順で蛍光強度を測定し、検量線を作成した。すなわち、各siRNA溶液50μLに、10mMのHEPESバッファー750μL及び1%TRITONX-100水溶液200μLを加えてよく混合した。得られた混合液のうち100μLを96ウェルプレート(黒色)のウェルに移した。各ウェルにPicoGreen(登録商標)溶液(10mMのHEPESバッファーで200倍希釈したもの)100μLを加えて混合し、遮光下、室温で5分間放置した後に、プレートリーダーで蛍光強度を測定し、検量線を作成した。得られた検量線は、siRNA濃度が1.48μMから2nMまでの範囲がリニアであったため、この範囲で試料の測定を行った。
【0053】
II−2−2.試料の測定:
各試料を、10mMのHEPESバッファー(pH7.4)によりsiRNA濃度が1μMとなるように希釈して(規格化して)用いた。この溶液500μLを超遠心(100,000×g、4℃、1時間)処理してミセルを沈殿させ、上清50μLを静かに採取した。得られた上清について、上記「II−2−1.検量線の作成」に記載の手法で蛍光強度を測定し、得られた蛍光強度を上記の検量線と照合することで、各試料由来の上清中に存在するsiRNA濃度である規格化された非内包siRNA濃度を算出した。次式より、各試料中のミセルのsiRNA内包率を求めた。
siRNA内包率(%)=(1−x)×100
x:規格化された非内包siRNA濃度(μM)
【0054】
II−2−3.結果:
得られたsiRNA内包率の結果を表2に示す。参考例1、実施例1〜3の何れの医薬組成物を用いた場合でも、超遠心後の上清中に存在するsiRNAは殆どなく、ほぼ全てのsiRNAがミセルに内包されていた。
【0055】
【表2】

【0056】
II−3.封入安定性の評価:
siRNAとしてsiRNA(Luc)を用い、上記「I.粒子状医薬組成物の調製」の手順に従って調製した、参考例1及び実施例3の各医薬組成物を試料として、以下の測定に供した。
【0057】
各試料に対して、アニオン性高分子であるデキストラン硫酸を添加し、デキストラン硫酸との置換によりミセルから放出されたsiRNAの比率(siRNA放出率)を測定することにより、各試料の封入安定性を評価した。より具体的には、次のように評価を行った。各試料に対してデキストラン硫酸を過剰量(siRNAに対し電荷比で80倍)加えた後、10mMのHEPESバッファー(pH7.4)によりsiRNA濃度が1μMとなるように希釈(規格化)した。この溶液500μLを超遠心(100,000×g、4℃、1時間)処理してミセルを沈殿させ、上清50μLを採取した。この上清について、上記「II−2−1.検量線の作成」に記載の手法で蛍光強度を測定し、得られた蛍光強度を上記「II−2.内包率の測定」の検量線と照合することで、各試料由来の上清中に存在する規格化されたsiRNA濃度を算出し、これを各試料のミセルから放出されたsiRNA量とした。次式に従って、siRNA放出率(ミセルに内包されたsiRNAに対する、デキストラン硫酸との置換によりミセルから放出されたsiRNAの比率)を求めた。
siRNA放出率(%)={(y−x)/1}{y−x}×100
x:規格化された非内包siRNA濃度(μM)y:ミセルから放出されたsiRNA量(μM)
【0058】
結果を図3に示す。実施例3の医薬組成物では、参考例1の医薬組成物に比べ、siRNA放出率は約半分に減少した。
【0059】
II−4.血中滞留性評価:
siRNAとしてF−siRNA(Luc)を用い、上記「I.粒子状医薬組成物の調製」の手順に従って調製した、参考例1及び実施例3の各医薬組成物を試料として、以下の測定に供した。
【0060】
Balb/cマウス(日本チャールズリバー)の尾静脈に各試料を投与し、その1時間後に下大静脈から血液200μlを採取した。各サンプルの投与量は、マウス体重に対するF−siRNAの比率が1mg/kgとなるように調整した。採取した血液を4℃、2000×gで10分遠心し、上清から80μlの血漿を得た。この血漿の蛍光強度を、プレートリーダー(POWERSCAN HT、大日本製薬)により測定(励起波長485nm、蛍光波長528nm)し、血中に残存するF−siRNAを定量して、血中残存性の指標とした。
【0061】
結果を図4に示す。実施例3の医薬組成物と参考例1の医薬組成物とを比較すると、実施例3の医薬組成物の方が、血中に残存するF−siRNA量が多く、血中滞留性が高かった。
【符号の説明】
【0062】
1 医薬組成物
1’ 医薬組成物前駆体
2 ブロックコポリマーユニット
2a 親水性ポリマー鎖セグメント
2b 疎水性ポリマー鎖セグメント
3 荷電脂質
4 薬物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーユニットと、薬物と、薬物の電荷とは反対の電荷を帯びた荷電脂質とを含有する粒子状医薬組成物であって、
複数の前記ブロックコポリマーユニットが、前記疎水性ポリマー鎖セグメントを内側に向けると共に前記親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けた状態で放射状に配置され、前記荷電脂質が、前記疎水性ポリマー鎖セグメント側に引き寄せられた状態で配置され、前記薬物が、前記疎水性ポリマー鎖セグメントよりも粒子内側に存在することによって、当該薬物の粒子外への脱落が防止された、粒子状医薬組成物。
【請求項2】
凍結融解を経て形成される、請求項1に記載の粒子状医薬組成物。
【請求項3】
前記疎水性ポリマー鎖セグメントがポリアミノ酸鎖由来のセグメントである、請求項1又は2に記載の粒子状医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリアミノ酸鎖の一部又は全部がαヘリックスを形成している、請求項3に記載の粒子状医薬組成物。
【請求項5】
前記荷電脂質が前記αヘリックスの周辺に分散している、請求項4に記載の粒子状医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−162512(P2011−162512A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29486(P2010−29486)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【特許番号】特許第4653242号(P4653242)
【特許公報発行日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(597144679)ナノキャリア株式会社 (8)
【Fターム(参考)】