説明

粒子線治療装置

【課題】必要なビームエネルギー変更回数が多い場合でも、偏向電磁石を大きくすることなく、高速にビームエネルギーを変更できる粒子線治療装置を提供する。
【解決手段】ビームエネルギー減衰部を備えたビームエネルギー変更部を複数設け、ビームが複数のビームエネルギー変更部を順次通過するようにビームを偏向し、一つのビームエネルギー変更部をビームが通過している間に、他のビームエネルギー変更部のビームエネルギー減衰量を変更するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線ビームを腫瘍など患部に照射して治療を行う粒子線治療装置、特に、粒子線ビームを患部3次元形状に合わせて照射する3次元照射の粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線による治療法では、光速の約70%まで加速された陽子や炭素線など、高エネルギ
ーの粒子線ビームが用いられる。これらの高エネルギーの粒子線ビームは体内に照射された際に、以下の特徴を有する。第一に、照射された粒子線ビームの殆どが粒子線ビームエネルギーの約1.7乗に比例した深さ位置に停止する。第二に、照射された粒子線が体内で
停止するまでに通過する経路に与えるエネルギー密度(線量と呼ばれる)は粒子線の停止位置で最大値を有する。通過した経路に沿って形成した特有の深部線量分布曲線はブラッグカーブと呼ばれる。線量値が最大の位置はブラッグピークと呼ばれる。
【0003】
粒子線ビームの3次元照射装置は、このブラッグピークの位置を腫瘍の3次元形状に合わせて走査し、各走査位置におけるピーク線量を調整しながら、予め画像診断で決めた標的である腫瘍領域において、所定の3次元線量分布を形成するように工夫されている。粒子線ビームの停止位置の走査は粒子線ビームの照射方向にほぼ垂直な横方向(X、Y方向)と、粒子線ビームの照射方向である深さ方向(Z方向)における走査がある。横方向における走査は患者位置を粒子線ビームに対して移動させる方法と、電磁石など使って粒子線ビームの位置を移動させる方法があり、一般的には電磁石を用いる方法が用いられている。深さ方向の走査は粒子線ビームエネルギーを変えるのが唯一の方法である。エネルギーを変える方法には、加速器で粒子線ビームエネルギーを変える方法と、粒子線ビームが通過する経路にエネルギー減衰体を挿入して、減衰体の減衰量を変化させる方法がある。このような減衰体の減衰量を変化させてビームエネルギーを変更する方法は、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0004】
実際の粒子線治療装置におけるビームエネルギーの変更回数は、標的サイズと用いる粒子線の種類、最大エネルギーに依存するが、多い時は照射中に100回程度ビームエネルギーを変更する必要がある。したがって、ビームエネルギー変更の高速化は、治療時間短縮と精度向上に繋がる。特許文献1の図2には、高速にビームエネルギーを変更するビームエネルギー変更装置が開示されている。この従来技術では、2組計4台の偏向電磁石を用いて、ビームエネルギー変更装置に入射されたビームを一度入射方向から偏向させ、ある位置に到達した粒子線ビームを再び反対方向へ曲げて、粒子線ビームの進行方向が入射ビームの入射方向の延長線にほぼ平行する軌道に乗せる。この平行軌道に沿って所定距離を進行した粒子線を再び粒子線ビームの入射方向の延長線上に戻すように粒子線ビームを曲げる。平行軌道の部分に厚みが異なる部分を有するレンジシフタ(エネルギー減衰体)を配置しておき、4台の電磁石のパラメータを変えることにより、平行軌道部がレンジシフタの異なる厚み部分となるようにして、入射粒子線ビームのエネルギーを変える。ビームエネルギーが変更された粒子線ビームは粒子線照射装置へ輸送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4115468号公報(段落番号0008−0013、図2)
【特許文献2】特開平10−199700号公報(段落番号0046、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図2に記載された方法では、特許文献2の図6に記載された機械的にレンジシフタを移動させる方法より非常に高速に粒子線ビームエネルギーを変えることができる。但し、必要なビームエネルギーの変更回数が多い場合、レンジシフタの寸法が大きくなり粒子線ビームを大きな角度まで偏向させる必要があるため、偏向電磁石が大きくなる。本発明の目的は、必要なビームエネルギー変更回数が多い場合でも、偏向電磁石を大きくすることなく、高速にビームエネルギーを変更できる粒子線治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決するために、本発明は以下の構成を用いる。すなわち、本発明に係る粒子線治療装置は、入射する粒子線ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー変更部と、このビームエネルギー変更部を制御するための指令を出力するビームエネルギー変更制御部と、ビームエネルギー変更部を出射した粒子線ビームを被照射体に照射する照射部と、被照射体に照射する粒子線ビームのエネルギーと位置とを制御するための指令を出力する照射制御部とを備えた粒子線治療装置において、ビームエネルギー変更部は、入射する粒子線ビームを複数の装置内ビーム軌道に順次偏向する偏向電磁石と、複数の装置内ビーム軌道のそれぞれの装置内ビーム軌道上にそれぞれ配置された可変エネルギー減衰部と、それぞれの可変エネルギー減衰部を通過した粒子線ビームが照射部において同一の軌道となるよう偏向する偏向電磁石とを備え、ビームエネルギー変更制御部は、照射制御部からの指令に基づき、可変エネルギー減衰部のうち一つの可変エネルギー減衰部を粒子線ビームが通過している間に、他の少なくとも一つの可変エネルギー減衰部のエネルギー減衰量を変更するように制御するように構成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粒子線治療装置にあっては、必要なビームエネルギー変更回数(必要なビームエネルギーの数)が多い場合でも、高速にエネルギー変更ができるとともに、ビームエネルギー変更のための偏向電磁石の偏向量を大きくする必要がない。従って、ビームエネルギー変更部及びこれを具備した粒子線治療装置の小型化と低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態全てに共通する粒子線治療装置のシステム概要を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態全てに共通する粒子線治療装置の照射部を示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態2によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図5】本発明の実施の形態3によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図6】本発明の実施の形態3による可変エネルギー減衰体を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図8】本発明の実施の形態5によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図9】本発明の実施の形態6によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【図10】本発明の実施の形態7によるビームエネルギー変更部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1による粒子線治療装置の構成と動作を、図1、図2および図3を用いて説明する。図2は本発明の実施の形態全てに共通する粒子線治療装置のシステム概要を示すブロック図である。図2において、1Sは粒子線ビームを所定エネルギーまで加
速する粒子線加速器、2Sは電磁石等からなる粒子線を輸送する粒子線輸送部、3Sは粒子線加速器の後に設置されるビームエネルギー変更部、4Sはビームエネルギー変更部を制御するための指令を出すビームエネルギー変更制御部である。5Sは粒子線ビームを被照射体(患部)に照射する照射部であり、走査磁石、ビームモニタ(図示せず)等を含む。6Sは粒子線を治療計画装置(図示せず)の指示に従って、照射部5Sを制御し、またビームエネルギー変更制御部に指令を出して、患部に照射する粒子線ビームを制御する照射制御部である。1はビームエネルギー変更部3Sに入射する入射粒子線ビームを、8はビームエネルギー変更部3Sから出射されるエネルギー変更後の粒子線ビームを示す。尚、図2では、粒子線輸送部2S、ビームエネルギー変更部3S、照射部5Sを別のブロックで表記したが、例えば、共通の電磁石を有するなど、各々の構成部分が他の部、あるいは他の部の一部を兼ねる場合もある。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態1によるビームエネルギー変更部3Sの概略構成を示す図である。図1において、図2と同様に、1は入射粒子線ビーム(以後の説明では“粒子線ビーム”を略して“ビーム”と記載することもある。)、8はエネルギー変更後の粒子線ビームを示す。21はエネルギー変更部の第一偏向電磁石、22は第二偏向電磁石、31は第三偏向電磁石、32は第四偏向電磁石である。11と12は入射粒子線ビーム1の軌道の延長線、または延長線に沿う粒子線ビーム軌道を示す。13は第一偏向電磁石21により曲げられた粒子線ビームの軌道を示す。4は形状可変容器からなる第一の可変エネルギー減衰部、5は同じく形状可変容器からなる第二の可変エネルギー減衰部である。41は形状可変容器のビーム入射面、42はビーム出射面を示す。43は形状可変容器を示し、例えばベローズ(蛇腹)のように形状が変わることができる部材で側面が形成されている。44は形状可変容器43に接続した管であり、管44を経由して形状可変容器43に例えば水など、粒子線ビームエネルギーを減衰させる(吸収する)流体を出し入れする。例えば、形状可変容器43に注入する水の量や水圧を変えることによって、ベローズで形成された形状可変容器43の側面が変形し、ビーム入射面41とビーム出射面42間に格納された水の厚みが変化する。同様に、51、52は第二の可変エネルギー減衰部5のビーム入射面とビーム出射面を示す。54は形状可変容器53に例えば水などの流体を出し入れする管を示す。第二の可変エネルギー減衰部5は第一の可変エネルギー減衰部4と同様な仕組みによって動作する。
【0012】
図1において、14は第二の可変エネルギー減衰部5を通過する粒子線ビームと軌道(以下の説明では、エネルギー変更部内ビーム軌道または装置内ビーム軌道と呼ぶこととする)を示す。場合によって、以下の説明では、11、12を第一装置内ビーム軌道、14を第二装置内ビーム軌道と呼ぶ。ΔXは第一装置内ビーム軌道12と第二装置内ビーム軌道14の間の距離を示す。ΔXは第一の可変エネルギー減衰部4と、第二の可変エネルギー減衰部5がお互いに干渉しないように設置できる距離にしている。ΔXは第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5の、ビーム軌道と垂直な方向の寸法に依存する。第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5の寸法が大きいほど、ΔXを大きくする必要がある。第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5のビームが通過する部分の断面寸法は、可変エネルギー減衰部4または5を通過した後のビームサイズよりも若干大きくする必要がある。
【0013】
図3は粒子線治療装置の照射部5Sおよび被照射部を示す概念図である。図3において、8は図1におけるエネルギー変更後の粒子線ビームであり、201と202はエネルギー変更後の粒子線ビーム8を走査して患部に照射するスキャン機構である。スキャン機構部は例えば偏向電磁石により構成される。また、9は患者体表面、10は被照射部である標的領域(腫瘍部、患部)である。101、102、103はそれぞれのビームエネルギーに対応した患部における照射スライスの例を示す。つまり、スライス103を照射するビームのエネルギーはスライス102を照射するビームのエネルギーより若干高い。ビームのエネルギーを変えることにより患部10の各深さ領域に粒子線ビームのブラッグピーク位置を移動させ、走査磁石201と202を用いて粒子線ビームを横方向に走査し、3次元照射を行うことができる。
【0014】
次に、本発明の実施の形態1による粒子線治療装置の動作を説明する。まず、治療計画装置(図示せず)によって、患部10を照射するために必要な最大ビームエネルギーE0が決定される。同時に、図3の101〜103に示すような、患部10の異なる深さ位置を照射するために必要なビームエネルギーEi, i=1,2,3,…nが決定される。また、患部1
0の各位置に照射するための横方向位置(Xi,Yi)も決定される。更に、各位置に対する照
射線量値も予め決定される。これらを含む計画情報は照射制御部6Sに送られる。
【0015】
ここで、まずこれから照射する位置に必要なビームエネルギーE1に対応して、ビームエネルギー変更制御部4Sは照射制御部6Sの指令に従い、ビームエネルギー変更部3Sのパラメータ設定を行う。具体的には、ビームエネルギー変更制御部4Sはビームエネルギー変更部3Sにある第一偏向電磁石21、第二偏向電磁石22、第三偏向電磁石31、第四偏向電磁石32のそれぞれの励磁電流値を予め決めておいた第一装置内ビーム軌道11、12(または第二装置内ビーム軌道13、14)に対応する値に設定する。図1で示した例では第一装置内ビーム軌道11、12に対応した設定は、ビームを偏向させない設定であるから、すべての偏向電磁石の励磁電流はゼロとなる。同時に、第一の可変エネルギー減衰部4の厚みをT1に設定する。T1は必要エネルギー減衰量(E0−E1)に相当する値である。ここで、E0はビームエネルギー変更部に入射する入射粒子線ビームのエネルギーである。
【0016】
第一の可変エネルギー減衰部4の厚み設定は具体的に、例えば管44を経由して、形状可変容器43内に満たしてある水の圧力を調整して、面41と面42間の距離を変えることで実現できる。そして、第一の可変エネルギー減衰部4の厚みT1の設定と上記すべての偏向電磁石の設定が完了し、ビームエネルギー変更制御部4Sは設定完了信号を照射制御部6Sに返す。また、同時に、照射制御部6Sは照射部5Sを含む他のすべての電磁石などの機器もエネルギーE1に対応した状態に制御する。
【0017】
照射制御部6Sからの指令により、粒子線加速器1Sは粒子線を、必要とする最大ビームエネルギーE0まで加速する。その粒子線ビームが粒子線輸送部2Sにより、所定の下流機器まで輸送される。そしてビームエネルギーがE0である入射粒子線ビーム1がビームエネルギー変更部3Sに入射される。
【0018】
上記設定では、入射粒子線ビーム1が第一装置内ビーム軌道11、12を通るように設定していたので、入射粒子線ビーム1は偏向を受けずに直進し、第一の可変エネルギー減衰部4を通過し、エネルギー変更後の粒子線ビーム8のビームエネルギーはE1となる。そして、ビームエネルギーE1を有するエネルギー変更後の粒子線ビーム8は照射部5Sに入射される。そして、エネルギー変更後の粒子線ビーム8は走査電磁石201、202によって計画した位置(X1,Y1)に照射され、その深さ位置Z1はビームエネルギーE1に対
応した位置になる。また、普通、治療計画では、同じビームエネルギーを必要とする照射位置をまとめて照射するように照射順を決めることができる。このため、図3に示すスライス103が例えばE1に対応したスライスとすれば、このビームエネルギーE1で走査磁石201、202を用いてスライス103内のすべての照射予定位置にビームを照射することができる。この1スライスの照射時間はビーム電流強度、腫瘍全体に照射する処方線量とスライスの深さ位置に依存するが、凡そ数百msecである。
【0019】
入射粒子線ビーム1を第一装置内ビーム軌道11、12に誘導して、第一の可変エネルギー減衰部4を通過させてE1に対応したスライス103への照射開始直後に、照射制御
部6Sはビームエネルギー変更制御部4Sに指令を出し、次に照射するスライス102におけるビームエネルギーE2に対応したエネルギー減衰量となるよう第二の可変ビームエネルギー減衰部5を制御する。そして、E1に対応しているスライス103の照射が終了した際、照射制御部6Sは次のビームエネルギーE2に対応する設定(エネルギー変更部3Sおよび照射部5Sを含むすべての設定必要機器の設定)が完了していることを確認したら、直ちにビームエネルギー変更制御部4Sによって、偏向電磁石21、22、31、32を粒子線ビームが第二装置内ビーム軌道13、14を通るように予め決めた値に励磁し、入射粒子線ビーム1を第二装置内ビーム軌道に誘導する。粒子線ビームはビームエネルギーE2に対応した厚みT2、すなわちエネルギー減衰量が(E0−E2)となるよう設定された第二の可変エネルギー減衰部5を通過し、ビームエネルギーE2を持つエネルギー変更後の粒子線ビーム8となる。そして、エネルギー変更後の粒子線ビーム8は粒子線走査磁石201、202によって、E2に対応したスライス102の患部領域を照射する。
【0020】
ここで、上記動作において、偏向電磁石21、22、31、32の励磁完了と同時に、次に照射するスライス101におけるビームのエネルギーE3に対応した厚みT3を再び第一の可変エネルギー減衰部4に設定する。厚みの変更に要する時間(以下では厚み変更時間とよぶ)は普通変更後の厚みT3と変更前の厚みT2との差に比例するが、スライス102に照射している間にこの変更が行われるので、厚み変更時間が総照射時間に及ぼす影響を少なくできる。例えば、厚み変更時間がスライス102の照射時間より短い場合、総照射時間は全く厚み変更時間に影響されないことになる。また、偏向電磁石21、22、31、32の励磁状態を“ゼロ励磁”状態から“励磁”状態にする切替時間は、図1の軌道間距離ΔXに比例し、ΔXが20mmとした場合、極普通の電磁石でも10msec以下である。つまり、本発明の装置を用いれば、ビームエネルギーをmsecオーダで高速に変更可能である。
【0021】
スライス102の照射が終了した後、直ちに第一可変エネルギー減衰部の厚み変更完了を確認し、偏向電磁石21、22、31、32の励磁をゼロに戻し、ビームエネルギーE3に対応した次のスライス101の照射を開始できる。
【0022】
上記で述べたように、入射粒子線ビーム1を第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5に交互に誘導し、第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5のエネルギー減衰量を交互に次のビームエネルギーに対応した減衰量に変更して、必要なビームエネルギーE1、E2………Enに対応した照射を高速に実現できる。
【0023】
本発明によれば、2台の可変エネルギー減衰部を交互に使用することにより、また、2台の可変エネルギー減衰部への粒子線ビームの切替は4台の電磁石の励磁と非励磁によって行うことで、数百段階のビームエネルギー変更も高速に行うことが可能である。また、それぞれの可変エネルギー減衰部のエネルギー減衰量の変更動作は1スライスの照射に必要な時間より短い時間内で完成すればよいので、エネルギー減衰量の変更のための厚み変更時の騒音と機械振動は無視できる程度にできる。
【0024】
また、本発明によれば、照射するスライス数が多い場合でも、必要なビームの偏向量ΔXは小さい値のままでよい。ビーム1のサイズを仮に5mmとした場合、本発明では偏向電
磁石に要求する偏向量ΔXは上記2台の可変エネルギー減衰部4と5の断面サイズ(いれずも5mmより大きくする必要がある)によって決まり、余裕を持って、ΔX=20mmとすれ
ば十分である。これに対して、特許文献1の図2によれば、偏向電磁石21、22、31、32による偏向量はスライス数nとした場合、n×ΔXが必要となる。例えば、n=10の場合、必要なビーム偏向量は約200mmとなる。これは、偏向電磁石そのものを大きくする必要があるだけでなく、かかる電磁石電源の容量も大きくなる。特に、炭素線などの比較的重い粒子線の場合では、本発明の効果がより顕著である。
【0025】
本発明は必要なビームエネルギー変更回数が多い場合でも、エネルギー変更を高速に行えると同時に、偏向電磁石の偏向量を大きくすることなく、ビームエネルギー変更部の小型化と低コスト化が実現できる効果がある。
【0026】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2によるビームエネルギー変更部3Sの構成図である。実施の形態1では、第一、第二、第三、第四の偏向電磁石の励磁量がすべてゼロのときに第一装置内ビーム軌道が形成される場合を説明したが、図4に示すように、第一装置内ビーム軌道11、15も偏向させて、すなわち第二装置内ビーム軌道13、14と逆方向に偏向させて第一装置内ビーム軌道を形成するようにしてもよい。このように、第一装置内ビーム軌道と第二装置内ビーム軌道を逆方向に偏向させて形成すれば、偏向電磁石21、22、31、32の励磁電流が図1のものよりもさらに少なくなり、偏向電磁石の寸法も小型になる。
【0027】
また、図4では、第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5を装置内ビーム軌道のビーム進行方向においてずれた位置に配置している。すなわち、第一装置内ビーム軌道15と第二装置内ビーム軌道14を含む平面に垂直で、第一可変エネルギー減衰部4を通過する第一装置内ビーム軌道15あるいは第二可変エネルギー減衰部を通過する第二装置内ビーム軌道14を含む平面への、第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5の投影像が重ならないように、第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5とを配置している。第一の可変エネルギー減衰部4と第二の可変エネルギー減衰部5とをこのようにずらして配置することにより、図1で示したものよりも、第一装置内ビーム軌道15と第二装置内ビーム軌道14の間隔ΔXをさらに小さくできるため、さらに偏向電磁石21、22、31、32を小型化できる。
【0028】
この、2つの可変エネルギー減衰部をずらして配置する構成は、本実施の形態2においてのみならず、本発明の他の実施の形態においても適用できるのは言うまでもない。
【0029】
実施の形態3.
実施の形態1および2では、可変エネルギー減衰部として、形状可変の容器に水を満たして、水の充填量を調節制御して、水の厚みを変える例を説明したが、これに限ることなく、可変エネルギー減衰部に、別形態の可変エネルギー減衰体を用いても良い。図5および図6はこの例を示す実施の形態である。図5において、40が第一の可変エネルギー減衰部、50が第二の可変エネルギー減衰部であり、図6(a)、(b)は図5における可変エネルギー減衰部の粒子線エネルギー減衰体を図5の横方向から見た図、すなわち側面図である。可変エネルギー減衰部40および50は、例えば図6(a)のように厚みがくさび状に変化する形状、あるいは図6(b)のように厚みが階段状に変化する形状の粒子線エネルギー減衰体と、この粒子線エネルギー減衰体を移動させる駆動機構を備えている。粒子線エネルギー減衰体を移動させる方向は、粒子線エネルギー減衰体の厚みが変化する方向である。図5では厚みが変化する方向を図5の紙面に垂直な方向、すなわち第一装置内ビーム軌道15と第二装置内ビーム軌道14とを含む平面に垂直な方向になるよう可変エネルギー減衰部40および50を設置している。
【0030】
図6(c)は、粒子線エネルギー減衰体のさらに別の設置方向を説明する図である。図6(c)は、可変エネルギー減衰部の位置で図5の上方から、すなわちビームの進行方向から見た図であり、第一装置内ビーム軌道15、第二装置内ビーム軌道14、第一の可変エネルギー減衰部40、第二の可変エネルギー減衰部50の位置関係を示している。第一
装置内ビーム軌道15と第二装置内ビーム軌道14とを含む平面Aと所定の角度θを持って粒子線エネルギー減衰体を設置してもよい。このように、エネルギー減衰体を設置する方向は、必ずしも第一装置内ビーム軌道15と第二装置内ビーム軌道14とを含む平面Aに垂直な方向でなくても、第一の可変エネルギー減衰部40の粒子線エネルギー減衰体と第二の可変エネルギー減衰部50の粒子線エネルギー減衰体が移動してもお互いに干渉しない向きに設置すれば良い。
【0031】
実施の形態1、2、3では、可変エネルギー減衰部を第二偏向電磁石22と第三偏向電磁石31の間に設置した例を示したが、これに限ることはなく、第一偏向電磁石21と第四偏向電磁石32の間であれば、どこに設置しても、上述した効果が得られる。但し、図1、図4および図5で示したように第二偏向電磁石と第三偏向電磁石の間に可変エネルギー減衰部を設置した方が、装置全体構成が簡単にできる効果がある。
【0032】
また、実施の形態1、2、3では、図1、図4および図5に示したように、第一装置内ビーム軌道と第二装置内ビーム軌道とは、互いに略平行する部分を有する。しかし、このような構成に限ることはなく、後述の実施の形態5で説明するように、複数の装置内ビーム軌道が、それぞれの装置内ビーム軌道に設けられた可変エネルギー減衰部が互いに干渉しない距離だけ離れていれば、必ずしも平行する部分を有していなくても良い。但し、複数の装置内ビーム軌道が、互いに略平行する部分を有する場合、この位置に可変エネルギー減衰部を設置すれば、複数の可変エネルギー減衰部を互いに平行に設置できるため、可変エネルギー減衰部を設置しやすく、装置の補修も容易にできる効果がある。
【0033】
実施の形態4.
図7は本発明の実施の形態4によるビームエネルギー変更部3Sの構成図である。図7において、図1と同一符号は同じまたは相当する部分を示す。実施の形態1、2、3では、装置内ビーム軌道を2個としたが、この実施の形態4では、第三の装置内ビーム軌道16を設け、装置内ビーム軌道を3個にしている。それに応じて、第三の可変エネルギー減衰部6を追加している。
【0034】
本実施の形態4では、可変エネルギー減衰部が計3個になったので、照射中において、3個の可変エネルギー減衰部を順番に用いながら、それぞれの厚みを次とその次に照射するビームエネルギーに対応した値にすることが可能である。このため、各可変エネルギー減衰部はその変更動作を2スライス分の照射時間内で終了できればよいことになる。従って、実施の形態1などに比べ、更に短いスライス照射時間に対応できるようになる。または、同じスライス照射時間の場合、可変エネルギー減衰部が2個のものに比べ、可変エネルギー減衰部の動作速度が遅くても良いため、さらに騒音や機械振動を少なくできる。
【0035】
また、装置内ビーム軌道は4以上であっても良く、装置内ビーム軌道は2以上、すなわち複数であれば、本発明の効果を奏するのは言うまでもない。
【0036】
実施の形態5.
図8は本発明の実施形態5によるビームエネルギー変更部3Sの構成図である。図8において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。実施の形態1〜4では、2組計4台の偏向電磁石を用いたが、本実施の形態5では、3台の電磁石を用いている。入射側のビーム偏向には偏向電磁石21および22の2台の偏向電磁石を用いているが、出射側のビーム偏向には偏向電磁石321の1台のみを用いている。それに応じて、3個の装置内ビーム軌道は互いに平行する部分が無い。
【0037】
本実施の形態5によれば、必要な偏向電磁石の台数が3台で足りるので、電源台数は削減できる。従って、実施の形態1〜4に比べ、装置構成を簡単にできる効果がある。また
、粒子線治療では、粒子線ビーム輸送部、照射部などで既にある偏向電磁石を図8の3つある偏向電磁石のうちの1個または2個に置き換えることが可能な場合がある。つまり、既存のビームラインにある偏向電磁石を用いて、本発明によるビームエネルギー変更部3Sを構築できる効果がある。これによって、装置の小型化と低コスト化が実現できる効果がある。
【0038】
実施の形態6.
図9は本発明の実施の形態6によるビームエネルギー変更部3Sの構成図である。本実施の形態6は、粒子線治療装置で使われる真上から患者に向かって照射できる垂直ビーム照射ラインと、360度回転して複数方向から患者にビームを照射できる回転ガントリー照
射装置に本発明を適用した実施の形態である。図9において、図1と同一符号は同一あるいは相当する部分を示す。301は追加した偏向電磁石である。302はビーム収束と偏向電磁石を含むビーム輸送電磁石を示す。210はビームを曲げる偏向電磁石の役目と2個の装置内ビーム軌道を形成する第一偏向電磁石の役目を担う偏向電磁石である。31および32は、それぞれ図1などの第三偏向電磁石31および第四偏向電磁石32と同じ、ビーム軌道をエネルギー変更後の粒子線ビーム8の軌道に戻すための偏向電磁石である。
【0039】
ビームエネルギー変更制御部4Sによって、偏向電磁石210、および第三偏向電磁石31、第四偏向電磁石32はそれぞれにある2つの励磁状態の間で移り変わり、入射粒子線ビーム1を異なる2つの装置内ビーム軌道に進行させて、最終的に可変エネルギー減衰部4または5の何れかを通過したエネルギー変更後の粒子線ビーム8となる。エネルギー変更後の粒子線ビーム8は走査電磁石201と202によって、被照射体300に照射される。
【0040】
本実施の形態の粒子線治療装置を用いれば、あまりスペースが無い垂直照射ビームライン、または回転照射装置のノズル内に、高速にビームエネルギーを変更するビームエネルギー変更部を設けることができる。また、可変エネルギー減衰部4と5を被照射体から比較的近くに設置できるので、可変エネルギー減衰部4または5を通過した粒子ビームの角度分散によるビームサイズ拡大による被照射部への影響を少なくできる。よって、高い精度の粒子線治療装置が得られる効果がある。
【0041】
実施の形態7.
図10は本発明の実施の形態7によるビームエネルギー変更部3Sの構成図である。図10において、図1と同一符号は同じまたは同等の部分を示す。本実施の形態では、第三偏向電磁石31の前に、第一と第二装置内ビーム軌道にあわせて、粒子線ビームサイズを制限するため、所定寸法の穴が開いたコリメータ部材33を追加し、また、第四偏向電磁石32の後に、粒子線ビームのサイズを制限する、所定寸法の穴が開いたコリメータ部材34を追加したことである。穴の形状は、通常円形にする。
【0042】
本実施の形態7による粒子線治療装置の動作は、実施の形態1による粒子線治療装置とほぼ同じである。但し、コリメータ部材33を追加したことにより、可変エネルギー減衰部4または5を通過して、幾分発散角が増大した粒子線ビームのうち、ビーム周辺部にある発散角の大きい成分をカットできる効果がある。よって、照射部に輸送される粒子線ビームは小さいサイズを維持しながら、ビームエネルギーの変更が可能となる。また、コリメータ34を追加したことによって、エネルギー変更後の粒子線ビーム8のサイズ増大を防げることに加えて、周辺部により多く存在するエネルギー分散の大きい部分をカットできるため、可変エネルギー減衰部4または5を通過したことにより増大したエネルギー分散も減らせることができる。従って、粒子ビーム8が被照射体に照射されるまで、そのビームサイズの増大が抑えられ、照射部にある電磁石などの小型化に貢献できる効果がある。
【0043】
なお、本実施の形態7では、コリメータ部材33およびコリメータ部材34の二つのコリメータ部材を設けた例を説明したが、いずれか一方のみのコリメータ部材を設けるだけでも良く、可変エネルギー減衰部から照射部までの間の粒子線ビームが通過する位置に、所定寸法の穴が開いたコリメータ部材を設けることで、上記効果があるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
1 入射粒子線ビーム
4、40、5、50 可変エネルギー減衰部
8 エネルギー変更後の粒子線ビーム
11、12、13、14、15、16 装置内ビーム軌道
21、22、31、32、210 偏向磁石
33、34 コリメータ部材
3S ビームエネルギー変更部
4S ビームエネルギー変更制御部
5S 照射部
6S 照射制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する粒子線ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー変更部と、このビームエネルギー変更部を制御するための指令を出力するビームエネルギー変更制御部と、上記ビームエネルギー変更部を出射した粒子線ビームを被照射体に照射する照射部と、上記被照射体に照射する粒子線ビームのエネルギーと位置とを制御するための指令を出力する照射制御部とを備えた粒子線治療装置において、
上記ビームエネルギー変更部は、上記入射する粒子線ビームを複数の装置内ビーム軌道に順次偏向する偏向電磁石と、上記複数の装置内ビーム軌道のそれぞれの装置内ビーム軌道上にそれぞれ配置された可変エネルギー減衰部と、それぞれの可変エネルギー減衰部を通過した粒子線ビームが上記照射部において同一の軌道となるよう偏向する偏向電磁石とを備え、
上記ビームエネルギー変更制御部は、上記照射制御部からの指令に基づき、上記可変エネルギー減衰部のうち一つの可変エネルギー減衰部を粒子線ビームが通過している間に、他の少なくとも一つの可変エネルギー減衰部のエネルギー減衰量を変更するように制御することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
複数の装置内ビーム軌道は、互いに平行している部分を有し、この平行している部分に可変エネルギー減衰部を設置したことを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
装置内ビーム軌道の数が2であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
装置内ビーム軌道の数が3であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
可変エネルギー減衰部は、形状が変化する部材で側面が形成された形状可変容器に水を水圧制御可能に注入する水注入管を備え、水圧を変えることで形状可変容器の粒子線ビームが通過する厚みを変更可能として構成したことを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
可変エネルギー減衰部は、一方向に厚みが変化する粒子線エネルギー減衰体を備え、この粒子線エネルギー減衰体の厚みが変化する方向を複数の装置内ビーム軌道を含む平面と所定の角度を持って傾かせて設置し、上記粒子線エネルギー減衰体を厚みが変化する方向に移動させてエネルギー減衰量を変化させることにより構成したことを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
所定の角度が90度であることを特徴とする請求項6に記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
可変エネルギー減衰部から照射部までの間の粒子線ビームが通過する位置に、所定寸法の穴が開いたコリメータ部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−273785(P2010−273785A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127803(P2009−127803)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】