粒子線治療装置
【課題】リーフの異常を検出した際に、リーフ異常の原因となった故障個所が装置内のどの範囲にあるかを絞り込める粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【解決手段】駆動制御信号SDとリーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部12と、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号SSを生成する模擬信号出力部43と、所定部分に出力される信号を模擬信号SSまたはリーフ位置信号SPのいずれかに切替える信号切替部42とを有し、リーフ異常検出部12がリーフ位置の異常を検出したときに、所定部分に出力する信号を模擬信号SSに切替えてリーフ異常検出部12にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部13を備えるように構成した。
【解決手段】駆動制御信号SDとリーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部12と、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号SSを生成する模擬信号出力部43と、所定部分に出力される信号を模擬信号SSまたはリーフ位置信号SPのいずれかに切替える信号切替部42とを有し、リーフ異常検出部12がリーフ位置の異常を検出したときに、所定部分に出力する信号を模擬信号SSに切替えてリーフ異常検出部12にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部13を備えるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線を患者の病変部に照射して治療する粒子線治療装置に関するものであり、とくに、回転ガントリに支持されたマルチリーフコリメータにより、様々な角度から所望の照射形状で照射を行うことができる粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置では、治療計画にもとづいた照射形状で粒子線を照射するために、マルチリーフコリメータを用いている。設定通りの照射形状を実現するには、リーフを精度よく位置決めできているかどうかが重要である。そこで、構造的な停止部材を用い、リーフを停止部材に当接させることでリーフの実位置が妥当かどうかを診断している粒子線治療装置(例えば、特許文献1参照。)や、マルチリーフコリメータの下流にリーフと連動して移動する線量率計測部を備え、照射野の境界を検出して、リーフの実位置の妥当性を診断している放射線治療装置(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−195877号公報(0015、図2)
【特許文献2】特開平7−227434号公報(0023〜0029、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、マルチリーフコリメータでは、コリメータを形成する複数のリーフの一つ一つを制御する必要があり、機械的なリーフ移動機能やリーフ位置出力機能を有するリーフ駆動部、リーフ位置信号ケーブル、駆動制御信号ケーブル、リーフ駆動電源、リーフ駆動制御部、リーフ位置診断部など多くの部品で構成されている。また、回転ガントリを用いた粒子線治療装置では、マルチリーフコリメータは回転ガントリの回転に伴い、制御や故障診断を行う制御部に対して回転移動することになる。そのため、マルチリーフコリメータと制御部との間を結ぶケーブルは、マルチリーフコリメータの回転移動に追随できるよう巻き取り式のケーブルスプールを介して接続され、その長さは数十mにもおよぶ。そのため、回転ガントリを用いた粒子線治療装置では、マルチリーフコリメータ本体のみならず、周辺部品やケーブル、コネクタなど、リーフ位置異常の原因となりうる故障部位の範囲が広範囲におよぶ。そのため、上記のような方法でリーフの実位置が妥当であるか否かを検出しても、点検対象を絞り込むことができず、保守員の経験と勘で故障個所を特定する必要があった。
【0005】
一方、粒子線治療を行える施設の数は限られており、一日に多くの患者に対して治療を行えるよう、分単位で粒子線治療装置の利用計画が設定されている。このように分単位のスケジュールにも関わらず、リーフ位置に異常が検出された場合は、故障部位の特定、交換、治療再開といった一連の補修作業が完了するまでの間、照射を中止する必要があり、患者は長時間待たされることになる。さらに、作業時間がかかりすぎると、その日に治療を受けることができず、日程変更を強いられることさえあった。これは、患者にとって心労上の負担が大きいばかりではなく、医師にとっても予定外の治療計画の見直し作業の発生といった問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、リーフ位置の異常を検出した際に、リーフ異常の原因となった故障個所が装置内のどの範囲にあるかを絞り込むことにより、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することが可能となる粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粒子線治療装置は、粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部が回転ガントリ内に設置されるとともに、前記マルチコリメータ部を制御するリーフ制御装置が前記回転ガントリと隔てて設置され、前記マルチコリメータ部と前記リーフ制御装置間の信号入出力が信号ケーブルを介して行われる粒子線治療装置において、前記マルチリーフコリメータ部は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフと、前記複数のリーフのそれぞれを独立して駆動させる駆動部と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号を前記リーフ制御装置に対して前記信号ケーブルを介して出力する信号処理部とを有し、前記リーフ制御装置は、前記複数のリーフのそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号を前記マルチコリメータ部に対して前記信号ケーブルを介して出力するリーフ駆動制御部と、前記駆動制御信号と前記リーフ位置信号に基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部とを有し、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号を生成する模擬信号出力部と、所定部分に出力される信号を前記模擬信号または前記リーフ位置信号のいずれかに切替える信号切替部とを有し、前記リーフ異常検出部が前記リーフ位置信号に基づくリーフ位置の異常を検出したときに、前記所定部分に出力する信号を前記模擬信号に切替えて前記リーフ異常検出部にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と前記所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、前記リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部を備えたことを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明の粒子線治療装置によれば、模擬信号を所定部分に出力してリーフ位置の異常を検出することにより、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位が装置内のどの範囲にあるかを診断できるようにしたので、点検範囲を絞り込め、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図(各実施の形態共通)である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置におけるリーフ位置を検出するための信号波形を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の変形例の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図12】本発明の実施の形態5にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1〜図4は、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置および粒子線治療装置の故障範囲診断方法を説明するためのもので、図1は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図2と図3は粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフローチャート、図4は粒子線治療装置におけるリーフ位置の異常を検出する際の信号を説明するための信号波形図である。また、図5は、粒子線治療装置の変形例の故障範囲診断機能を説明するためのフローチャートである。
【0011】
粒子線治療装置は、加速器から供給された粒子線を回転ガントリに設置された照射部(図示せず)に導き、患者に対して照射角度を変えて粒子線を照射(多門照射)するものであり、図1においては、そのうちの回転ガントリに設置され、入射した粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部3およびマルチリーフコリメータ部3を制御するリーフ制御装置1とのつながりをブロック図として示している。
【0012】
図において、図示しない制御室に据え付けられたリーフ制御装置1内には、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12と故障範囲診断部13とを有している。リーフ駆動制御部11は、マルチリーフコリメータ部3に対して各リーフ51の駆動を制御するための駆動制御信号SDを発信するとともに、マルチリーフコリメータ部3からの各リーフ51の位置を示す差動リーフ位置信号SPを受信することにより、各リーフ51の位置を制御する。これにより、マルチリーフコリメータ部3を通過した粒子線は、治療計画に基づく照射形状に成形され、患者に向けた照射できるようになる。そして、リーフ異常検出部12は、駆動制御部11が出力した駆動制御信号SDに対する差動リーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置が正常であるか否かを判定し、異常を検出すると異常信号をリーフ駆動制御部11に出力し、異常信号を受けたリーフ駆動制御部11は、図示しない粒子線治療装置の制御部に異常診断情報を出力し、粒子線照射(治療)を中断させるとともに故障個所を特定するための故障範囲診断部13を起動させ、故障個所の範囲が判明した場合、点検が必要な範囲の情報を異常診断情報に追加して出力し、粒子線治療装置の管理者に対して表示できるようにする。
【0013】
回転ガントリ部2は、加速器から導かれた粒子線を治療計画に基づいた照射形状に成形して照射するための図示しない照射部を有し、患者の病変部に照射角度を変えて照射するために、患者(正確にはアイソセンタ)を中心として照射部を回転させる装置である。図において、回転ガントリ部2は上述した制御室とは別の図示しない回転ガントリ室内に設置されている。なお、図中、説明を簡略にするため、回転ガントリ部2の形状は模式化しており、構成についても、照射部のうちのマルチリーフコリメータ部3とマルチリーフコリメータ部3とリーフ制御装置1とを結ぶケーブル系のみを示している。
【0014】
マルチリーフコリメータ部3は、信号処理部4と、複数のリーフ部5a,5b,・・・・によりマルチリーフコリメータを構成するリーフ装置5とを有している。マルチリーフコリメータとは、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフを並列配置したもので、各リーフの位置によって粒子線の透過形状、つまり照射形状を形作るものである。そのため、リーフ装置5の各リーフ部は基本的に同仕様であり、それぞれ、リーフ51a,51b,・・・(a,b,は個々のリーフに対応するIDであり、まとめてリーフ51と称する)と、各リーフを独立して駆動させるためのリーフギヤLGとモータDMとを備えたリーフ駆動部52a,52b,・・・まとめてリーフ駆動部52と称する)とを備えている。リーフ駆動部52のモータDMは、エンコーダ付きDCモータであり、それぞれ、駆動制御信号SDa,SDb,・・・(まとめてSDと称する)により回転駆動され、回転軸に直結したリーフギヤLGが連動して回転する。リーフギヤLGはピニオンギアであり、その回転運動が、リーフ51に刻まれたラックRに伝達され、リーフ51が直線移動する。このとき、モータDMの回転の際に発せられるパルス信号WPa,WPb,・・・(まとめてWPと称する)がリーフ位置を示す情報として出力される。
【0015】
信号処理部4は、信号の統合・振分けや切替を行う信号切替部42と、リーフ装置5の各リーフ部から入力したパルス信号WPを差動リーフ位置信号SPに変換するため、各リーフ部に対応して設けられた複数の差動変換回路41a,41b,・・・からなる差動変換部41と、差動リーフ位置信号Spを模擬する模擬差動リーフ信号SSを生成出力する模擬リーフ信号出力部43とを備えている。そして、リーフ制御装置1の駆動制御部11から入力された駆動制御信号SDは、信号切替部42でリーフ毎の駆動制御信号SDa,SDb,・・・に振分け(実際には信号毎にケーブル内の独立した配線を経由して入力されている)され、各リーフ部5a,5b,・・・に入力される。そして各リーフ部から出力されたパルス信号WPa,WPb,・・・は、それぞれ、差動変換部41内で差動リーフ位置信号SPa,SPb,・・・に変換され、リーフ制御装置1の駆動制御部11に向けて出力される。
【0016】
また、模擬リーフ信号出力部43は、制御部1の故障範囲診断部13からの制御信号SCを受けると、上述した差動リーフ位置信号SPを模擬する模擬リーフ差動信号SSを生成し、制御信号SCとともに信号切替部42に出力する。信号切替部42は、制御信号SCが入力されると、駆動制御部11に出力する信号を差動変換部41からの差動リーフ位置信号SPの代わりに模擬リーフ信号出力部43からの模擬リーフ差動信号SSに切替える。つまり、模擬リーフ信号出力部43と信号切替部42は、故障範囲診断部13とともに故障範囲を診断する機能を受け持つ。なお、後述する異常診断方法を採用する場合、模擬リーフ信号出力部43の信号生成回路は各リーフに対応させて存在する必要はなく、リーフが複数存在しても1回路だけで十分である。
【0017】
信号処理部4とリーフ装置5とは、物理的にマルチリーフコリメータ部3内に一体として収められており、両者の信号は固定した配線により伝達されている。一方、マルチリーフコリメータ部3は、回転部分の半径が数mにもなる回転ガントリ部2内に設置されたものであり、信号処理部4は、駆動制御部11に対して回転移動する。そこで、信号処理部4と駆動制御部11間の信号ケーブル系は、結線や取り換えが容易なように駆動制御部11側のケーブルCB1と信号処理部側のケーブルCB2をガントリ部2に設けたガントリコネクタCN1を介して接続するようにしている。さらに、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SPといったリーフの駆動制御に必要な信号を伝達する制御用信号ケーブルは、回転移動の際に回転ガントリ2と共に回転する滑車部PL1と固定された制御装置1間の経路長が数十m単位で変化する。そのため、ケーブルCB1は、数十mもの長さのケーブルをケーブルスプールRW1に巻き取らせ、所定の張力でケーブルを張るようにしている。したがって、回転ガントリ部2がどのような角度位置になっても、ケーブルCB1部のRW1〜制御装置1間の長さを経路長に対応して変化させることができる。
【0018】
また、模擬リーフ信号出力部43と故障範囲診断部13間の診断用ケーブル系も、ケーブルCB6がケーブルスプールRW2に巻き取られるケーブルCB5とガントリコネクタCN2を介して接続されている。また、電源23も、ケーブルスプール等を介して図示しない元電源から供給される電力をマルチリーフコリメータに適した電圧や周波数に変換し、ケーブルCB4を介してマルチリーフコリメータ部3に電力Powを供給する。
【0019】
次に動作について説明する。
<正常動作時>
リーフ制御装置1が起動すると、図2に示すように(ステップS10)と、リーフ駆動制御部11は、治療計画に基づいた照射形状を形成するよう各リーフの位置を所定位置に移動させるため、マルチリーフコリメータ部3に対して各リーフの駆動を制御するための駆動制御信号SDを出力する。入力された駆動制御信号SDは、信号切替部42にて、リーフ毎の駆動制御信号SDa,SDb,・・・に分離され、各リーフ部5a,5b、・・・に出力される。駆動制御信号が入力されると駆動制御信号に応じてリーフ駆動部52のエンコーダ付きDCモータDMおよびリーフギヤLGが回転し、回転に応じた距離だけ、リーフ51が直線移動(ステップS20)する。そしてDCモータDMの回転量に応じてパルス信号WPが信号処理部4に出力され、信号処理部内で変換処理され、差動リーフ位置信号SSとしてリーフ制御部11に出力される。
【0020】
このとき、リーフ異常検出部12は、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SSとを比較し、リーフ部5のうち、モータDMを駆動する信号を受けたリーフ部に対して、適切な差動リーフ位置信号が返ってこないリーフ部がない場合は、リーフ位置が正常であると判断(ステップS30で「N」)し、ステップS40に移行する。上記動作をリーフの移動が完了するまで繰返し(ステップS40で「N」)、リーフが所定位置に移動し終わったら(ステップS40で「Y」)、粒子線治療のための照射を開始する(ステップS50)。
【0021】
<リーフ位置異常判定方法>
ここで、リーフ位置の異常の有無の判定方法について具体的に説明する。駆動制御信号SDを受け回転駆動したモータDMからは、図4(a)に示すようなTTL(Transistor-Transistor-Logic)レベルのパルス波形をなすパルス信号WPが出力される。パルス波形の周波数は、通常DCモータの回転数によって変化するが、本実施の形態1にかかる粒子線照射装置では、リーフ駆動部52の各モータDMを、「加速・一定速度回転・減速・停止」の順で動作させている。ここで、モータが一定速度で回転しているときは、パルス信号WPの周波数も一定となるので、この一定部分が有るか否かを判断すれば、複雑なロジックを用いなくても、モータDMが稼働しているか否かを判定できる。つまり、駆動を指令したリーフ部のモータDMが稼働していない場合、そのリーフ部のリーフ位置は異常であることがわかる。
【0022】
なお、図4(a)のようなTTL波形の場合、H(High)部分とL(Low)部分の位置で波形を判定することになる。しかし、一般的に、パルス波形にはノイズが乗りやすいので、パルス信号WPは、差動変換部41において図4(b)に示すような差動信号である差動リーフ位置信号SPに変換されて、リーフ制御部11に出力される。そして、差動リーフ位置信号SPは、リーフ駆動装置11にて、再度、差動信号からTTL信号に戻してリーフ位置診断部12に入力される。リーフ位置診断部12は、差動信号からTTL信号に戻したパルス波形のHigh時間およびLow時間を測定する回路を備え、この時間が許容範囲内にあれば正常、許容範囲外であれば異常と判断する。ここで、例えば、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SPのうち、実際に駆動を指令した駆動制御信号が例えばSDmだった場合、リーフ部5mから出力された差動リーフ位置信号SPmから変換したパルス波形に対して、High時間およびLow時間が許容範囲内にあるか否か、つまり上述した一定部分が有るか否かを判定する。一定回転速度の場合、HighとLowは、数百μ秒のオーダーで変化するので、例えばHigh時間やLow時間が数秒間継続する場合は、一定部分がなかったとして、リーフ異常ありを示す異常発生信号をリーフ制御部11に出力する。
【0023】
なお、本実施の形態においては、位置異常を発生したリーフを特定するという目的に特化して、回路を簡略化してHigh時間やLow時間を所定範囲内にあるか否かによって、異常の有無の判定を実現しているが、異常診断についてはこの方法に限られることはない。例えば、モータの回転速度が可変であったり、回転数自体を指定してモータを駆動させたりする場合、周波数やパルス数をカウントして判断するようにしてもよい。また、リーフの位置を、位置センサーや加速度センサー等の位置を特定するための情報を出力するセンサー等によって管理している場合、センサーからの信号に基づいて異常診断を行うようにしてもよい。
【0024】
<リーフ位置異常検出時>
上記のようにしてリーフに異常が発生したことがわかると、リーフ異常検出部12から異常発生信号がリーフ駆動制御部11に出力される(ステップS30で「Y」)。すると、リーフ駆動制御部11は、図示しない粒子線治療装置の制御部に対しリーフ位置に異常があったことを示す異常診断情報を出力する。制御部が異常診断情報を受けると、粒子線治療装置本体は照射治療を中断する所定のシーケンス(ステップS60)に入る。つぎに、リーフ駆動制御部11は、検出したリーフ位置の異常が、どの部位の故障により生じたのかを特定するため、故障範囲診断部13を起動させ(ステップS70)、故障範囲診断動作を開始する(ステップS70からポイントD(図3)へ)。なお、ポイントD以降のステップは、詳細な説明は省略するが、主として故障範囲診断部13からの制御により実行される。
【0025】
<故障範囲診断動作>
起動した故障範囲診断部13は、故障範囲診断を実施するための制御信号SCを駆動制御信号SDを伝達するケーブル系とは別の診断用ケーブル系(ケーブルCB5、コネクタCN2、ケーブルCB6)を経由して信号処理部4の模擬リーフ信号出力部43に出力する。信号切替部42には、模擬リーフ信号出力部43を経由して制御信号SCが入力されるので、差動変換部41からの差動リーフ位置信号SSの代わりに模擬リーフ信号出力部43からの模擬リーフ差動信号SSを駆動制御部11に出力するよう接続を切替える(ステップS100)。そして、模擬リーフ信号出力部43が生成した、図4(b)に示す差動リーフ位置信号SPを模擬する各リーフ共通の模擬リーフ差動信号SS(SSa=SSb=・・・)が、信号切替部42、制御用ケーブルを経てリーフ制御装置1にむけて出力される(ステップS110)。
【0026】
つぎに、リーフ異常検出部12は、異常ありと判定したリーフ部5mに対応する模擬リーフ差動信号SSmに対し、ステップS30での判定と同様の基準で一定部分が有るか否か、つまりリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS120)。
【0027】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS120で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフ差動信号SSmがリーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する部位のうち、リーフ制御装置1内の部位、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、電源系統(電源23、ケーブルCB3、ケーブルCB4)、信号切替部42は、異常検出原因候補から除外される。そこで、これらを除いたリーフ装置5および信号処理部4、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の駆動制御信号SD伝達用配線、の範囲内の故障部位を補修すれば粒子線治療装置の機能を回復させることができる。ただし、信号切替部42については、模擬リーフ信号出力部43との接続系統(補助系統)は正常で、差動変換部41との接続系統(主系統)に不具合がある場合もある。したがって、信号処理部4を理論的には点検対象から除外することはできないが、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮すると、信号処理部4を点検対象から除外してもよい。
【0028】
そこで、リーフ装置5(リーフ部5m)および信号処理部4(信号切替部42の主系統、差動変換部41m)、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の駆動制御信号SD伝達用配線、信号切替部42の主系統からなる範囲A1を、例えば故障範囲はA1に限定されるという趣旨の表示を行う(ステップS140)。
【0029】
一方、異常を検出した場合(ステップS120で「Y」:異常と判定)は、模擬リーフ差動信号SSmがリーフ異常検出部12まで伝達されなかったか、伝達されていてもリーフ異常検出部12が誤判定したかのいずれかになる。したがって、故障範囲診断に関わる部分(故障範囲診断部13〜模擬リーフ信号出力部43)が正常に機能していることを前提とすると、リーフ部5mに関する部位に対して少なくとも信号切替部42、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2、滑車部PL1)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、リーフ駆動制御部11、電源系の中に故障原因が存在する。なお、この段階のように、リーフ部5mに対して「異常がない」という判定結果が出ていない場合、故障個所が1か所のみであることが明白な場合を除いて他の部分を故障原因から除外することはできない。つまり、故障範囲を限定することはできない。しかし、少なくとも、リーフ部5mに関する部位のうち、信号切替部42、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2、滑車部PL1)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、リーフ駆動制御部11、電源系の中に故障を有する部位が存在することは確かなので、その範囲を故障原因が明らかに存在する範囲A2とし、表示する。ただし、この場合、故障範囲はA2内に限定されることはなく、他の範囲においても故障個所がある可能性があるので、例えば、最低限点検を必要とする範囲が範囲A2である趣旨の表示を行う(ステップS130)。
【0030】
これにより、保守員は、表示された対象範囲のみを点検すればよく、調査範囲が絞られることにより、異常部位特定までの時間短縮を図ることができる。その結果、治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0031】
<変形例>
また、上記故障範囲診断においては、模擬リーフ信号出力部43は、リーフ異常と判定されたリーフ部5mに対し、駆動制御出力SDmの有無にかかわらず、模擬リーフ差動信号SSmを出力するようにしたが、模擬リーフ差動信号SSを駆動制御出力SDが発せられたリーフに対して出力できるようにしてもよい。そして、変形例として、駆動制御出力SDmの有無にかかわらず、模擬リーフ差動信号SSmを出力して異常の有無を判定するステップS120で「N」となったときに、図5に示すように、模擬リーフ信号出力部43を駆動制御出力SDが発せられたリーフ部にのみ模擬リーフ差動信号SSを出力させるモードに変更する(ステップAS100)。そして、駆動制御部11から制御用信号ケーブルを経由して少なくとも異常と判定されたリーフ部5mに対する駆動制御信号SDmを出力させ(ステップAS110)、模擬リーフ信号出力部43から駆動制御出力SDが発せられたリーフ部5に対する模擬リーフ差動信号SSを出力させて、再度リーフ異常検出部12にリーフ部5mの異常の有無を判定させる(ステップAS120)。ステップS140の代わりにこれらのステップを実行すれば、対象範囲A1から駆動制御信号SDを伝達する配線に特定するか除くかを判断(ステップAS130、140)することができる。
【0032】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置によれば、粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部3が回転ガントリ2内に設置されるとともに、マルチコリメータ部3を制御するリーフ制御装置1が回転ガントリ2と隔てて設置され、マルチコリメータ部3とリーフ制御装置1間の信号入出力が信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して行われる粒子線治療装置であって、マルチリーフコリメータ部3は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフ51と、複数のリーフ51のそれぞれを独立して駆動させる駆動部52と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号SPをリーフ制御装置1に対して信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して出力する信号処理部4とを有し、リーフ制御装置1は、複数のリーフ51のそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号SDをマルチコリメータ部3に対して信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して出力するリーフ駆動制御部11と、駆動制御信号SDとリーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部12とを有し、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号SSを生成する模擬信号出力部43と、所定部分に出力される信号を模擬信号SSまたはリーフ位置信号SPのいずれかに切替える信号切替部42とを有し、リーフ異常検出部12がリーフ位置信号SPに基づくリーフ位置の異常を検出したときに、所定部分に出力する信号を模擬信号SSに切替えてリーフ異常検出部12にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部13を備えるように構成したので、長尺で伸縮自在の信号ケーブルを含む装置内で、リーフ異常の原因となった故障個所がどの範囲にあるかを絞り込むことにより、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することが可能となる粒子線治療装置を得ることができる。
【0033】
とくに、信号処理部4は、駆動部52のモータDMの回転を示す信号をリーフ位置信号SPとして出力し、リーフ異常検出部12は、モータDMを駆動させる駆動制御信号SDmが出力されたリーフ51mからリーフ位置信号SPmが出力されたか否かにより、当該リーフ51mのリーフ位置の異常の有無を検出するように構成したので、簡単な回路で模擬信号SSを生成・出力でき、マルチリーフコリメータ部3の構成を複雑化することなく故障範囲の絞り込みが可能となる。
【0034】
さらに、模擬信号出力部43を、モータDMを駆動させる駆動制御信号SDmが出力されたリーフ51m毎に模擬信号SSmを出力するように構成したので、リーフ位置異常が駆動制御信号SDの不備によるか否かを区別することができる。
【0035】
また、信号処理部4は、駆動部52のモータDMの回転に伴い出力されるパルス波形WPを差動信号に変換し、変換した差動信号をリーフ位置信号SPとして出力する差動変換部41を有し、故障範囲診断部13は、差動信号を模擬する模擬信号SSを差動変換部41の出力部分(制御用信号ケーブル系の手前)に出力するように構成したので、信号処理部4やリーフ装置5側の不備によるか否かを区別することができる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、リーフ異常検出部12における位置異常の診断が、High時間やLow時間が所定範囲内にあるか否かによって行われているため、模擬リーフ信号出力部43からは、模擬リーフ差動信号SSとして、図3(b)のような、一定の差動信号を出力するようにしているが、これに限定されることはない。リーフ異常検出部12での異常診断方法に応じて、例えば駆動制御信号に対応して周波数やパルス数を変化させた信号を出すようにしてもよい。また、リーフの位置を、位置センサーや加速度センサー等の位置を特定する情報を出力するセンサー等によって管理している場合、センサーからの信号、あるいはその信号に所定の加工を加えた信号を模擬するようにしてもよい。そのために、例えば、駆動信号に対応したリーフ位置信号のパターンを記録するLUT(Look Up Table)等を備えるようにしてもよい。また、一定の信号でよい場合、故障範囲診断部13からの指令によらず、模擬リーフ差動信号SSを常時出力しておき、信号切替部で切替えた時に駆動制御部11に伝達されるようにしてもよい。
【0037】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる粒子線治療装置では、実施の形態1に対して模擬リーフ出力装置から、パルス波形も出力できるようにし、マルチリーフコリメータ部の点検対象範囲をさらに絞り込めるようにしたものである。具体的には信号処理部内において、第2の信号切替器を設置し、模擬信号の波形と出力先を変化させるようにした。そのため、リーフ制御装置内の故障範囲診断部も模擬信号の波形や経路といった模擬信号モードを切り替えるための制御信号を出力するようにしている。他の部分については実施の形態1と同様であるので説明を省略する。図6と図7は、本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図6は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図7は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。また、実施の形態1における図3に示すフローチャートも本実施の形態において共通して使用する。
【0038】
図6に示すように、信号処理部204には、第2の信号切替部244を新たに備えるとともに、模擬リーフ信号出力部243を模擬リーフ差動信号SSと模擬リーフパルス信号SSPの2種類の信号を出力できるようにしている。そして、模擬リーフ信号出力部243は、制御信号SC2に応じ、模擬リーフ差動信号SSの生成を要求された場合は、生成した模擬リーフ差動信号SSを信号切替部42に出力し、模擬リーフパルス信号SSPを要求された場合は、生成した模擬リーフパルス信号SSPを第2の信号切替部443に出力する。一方、第2の信号切替器244は、リーフ装置5と差動変換部41間に接続され、通常(主系統)は、リーフ装置5から入力されたパルス信号WPを差動変換部41にそのまま出力し、制御信号SC2に応じて模擬リーフ信号出力部243から出力された模擬リーフパルス信号SSPを差動変換部41に出力するようになっている。
【0039】
つぎに、動作について説明する。
図7のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびステップS120において「Y」であった時の動作では、第2の信号切替部244は、モータDMから出力されたパルス信号WPをそのまま差動変換部41に出力しているだけなので、実施の形態1における動作と同様となり、説明を省略する。そして、本実施の形態2においては、ステップS120において「N」であったとき、限定点検範囲A1のうちの、信号処理部204とリーフ装置5の2つに対し、一方を対象からはずすためにステップS210以降のステップを実行する。なお、限定点検範囲A1のうち、制御用信号ケーブルの駆動制御信号用配線については、上述した実施の形態1の変形例(図5)にて除外すべきか否かが判定できるので、本実施の形態および以降の実施の形態では説明を省略する。
【0040】
限定点検範囲A1まで絞り込まれた段階で、故障範囲診断部213から信号処理部204に出力された制御信号SC2中の制御命令により、模擬リーフ信号出力部243、信号切替部42、第2の信号切替部244の動作を変更し、マルチリーフコリメータ部203内の故障範囲分離動作に入る。具体的には、模擬リーフ信号出力部243は、出力する模擬リーフ信号を、模擬リーフ差動信号SSから模擬リーフパルス信号SSPに切り替える。そして、信号切替部42は差動変換部41から入力した信号を出力する主系統に回路を切替え、第2の信号切替部244は、モータDMからのパルス信号WPに代わり、模擬リーフ信号出力部243から出力された模擬リーフパルス信号SSPを差動変換部41に出力する(ステップS210)。
【0041】
つぎに、リーフ異常検出部12は、ステップ120と同様にリーフ部5mに対してリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS220)。
【0042】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS220で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフパルス信号SSPが差動変換部42にて正常に差動信号に変換され、リーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する限定範囲A1のうち、差動変換部41は正常に機能することになる。ここでも、信号切替部42と244については、模擬リーフ信号出力部243との接続系統(補助系統)は正常で、差動変換部41との接続系統(主系統)に不具合がある場合もある。しかし、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮し、差動変換部41だけでなく、信号処理部204全体を点検対象から除外してもよい。そこで、限定点検範囲A1から信号処理部204を除外して表示する(ステップS240)。つまり、点検対象範囲は限定点検範囲A1からリーフ装置5と駆動制御信号用の制御用信号ケーブルに絞られる。
【0043】
一方、再度異常を検出した(ステップS220で「Y」:異常と判定)場合は、限定点検範囲A1から絞り込める要素はない。よって、限定点検範囲A1を維持し、表示する(ステップS230)。
【0044】
この判定により、正常を検出した場合は、実施の形態1において絞り込んだ点検対象を、さらに絞り込むことができ、さらなる治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0045】
以上のように、本実施の形態2にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部213は、駆動部52のモータDMの回転に伴い出力されるパルス波形WPを模擬する模擬信号を差動変換部41の入力部(モータDMの出力部分)に出力するように構成したので、信号処理部204に不備があるか否かを区別することができる。
【0046】
実施の形態3.
本実施の形態3にかかる粒子線治療装置では、実施の形態1および2に対してリーフ制御装置内でも模擬信号をやり取りし、リーフ制御装置について点検対象範囲を絞り込めるようにしたものである。具体的にはリーフ制御装置内において、第2の模擬リーフ信号出力部と第3の信号切替器を設置し、リーフ制御装置内でのリーフ信号の経路を変えてリーフ位置異常の有無を確認し、リーフ装置内に異常が有るか否かを診断できるようにした。他の部分については実施の形態2と同様であるので説明を省略する。
【0047】
図8と図9は、本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図8は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図9は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。なお、第2の模擬リーフ信号出力部314は、実施の形態1における模擬リーフ信号出力部43と同様に、模擬リーフ差動信号SSを出力する仕様である。
【0048】
図8に示すように、リーフ制御装置301には、第2の模擬リーフ信号出力部314と、第3の信号切替部315を新たに備え、故障範囲診断部313は、診断の過程において第2の模擬リーフ信号出力部314と、第3の信号切替部315を用いた模擬信号経路によるリーフ位置異常診断を実施するようにした。そして、模擬リーフ信号出力部314は、制御信号SC3に応じて生成した模擬リーフ差動信号SSを第3の信号切替部315に出力する。一方、第3の信号切替器315は、制御用ケーブルCB1とリーフ駆動制御部11間に接続され、通常(主系統)は、リーフ駆動制御部11から入力された駆動制御信号SDをそのまま信号処理部204に出力するとともに、信号処理部204から入力された差動リーフ位置信号SPをそのままリーフ制御部11に出力する。一方、第2の模擬リーフ信号出力部314を経由して制御信号SC3が入力されると、信号処理部304からの差動リーフ位置信号SPの代わりに模擬リーフ信号出力部314から入力された模擬作動リーフ信号SSをリーフ制御部11に出力する。
【0049】
つぎに、動作について説明する。
図9のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびポイントD以降において、ステップS120で「N」であった時の動作までは実施の形態2における動作と同様であり、説明を省略する。そして、本実施の形態3においては、ステップS120において「Y」であったとき、最低点検範囲A2のうちの、リーフ制御装置について絞り込みを行うため、ステップS310以降のステップを実行する。
【0050】
最低点検範囲A2を特定した段階で、故障範囲診断部313から第2の模擬リーフ信号出力部314、第3の信号切替部315に出力された制御信号SC3中の制御命令により、第2の模擬リーフ信号出力部314、信号切替部315の動作を変更し、リーフ制御装置301内の故障範囲分離動作に入る。具体的には、第2の模擬リーフ信号出力部314は、模擬リーフ差動信号SSを生成して第3の信号切替部315に出力する。そして、第3の信号切替部315は、信号処理部2044からの差動リーフ位置信号SPに代わり、第2の模擬リーフ信号出力部314から出力された模擬リーフ差動信号SSをリーフ駆動制御部11に出力する(ステップS310)。
【0051】
つぎに、リーフ異常検出部12は、ステップ120と同様にリーフ部5mに対してリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS320)。
【0052】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS320で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフ差動信号SSがリーフ駆動制御部11内でTTL波形に変換されてリーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する最低点検範囲A1のうち、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12は正常に機能していることになる。ここでも、第3の信号切替部315については、第2の模擬リーフ信号出力部314との接続系統(補助系統)は正常で、信号処理部204との接続系統(主系統)のみに不具合がある場合もある。しかし、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮し、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12だけでなく、リーフ制御装置301全体を点検対象から除外してもよい。そこで、最低点検範囲A2からリーフ制御装置301を除外した範囲を最低点検範囲D1として表示する(ステップS340)。つまり、点検対象範囲は限定最低点検範囲A2から信号切替部42、制御用信号ケーブルのうちの差動リーフ位置信号用配線、および電源系に絞られる。
【0053】
一方、再度異常を検出した(ステップS320で「Y」:異常と判定)場合は、リーフ制御装置1内に故障個所が必ず存在することになる。よって、リーフ制御装置1を限定点検範囲D2として表示する(ステップS330)。
【0054】
この判定により、正常を検出した場合は、実施の形態1や2において絞り込んだ点検対象を、さらに絞り込むことができ、さらなる治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0055】
なお、本実施の形態3においては、駆動制御信号については、第3の信号切替部315を経由せず、直接制御用信号ケーブルに接続されているのと同様の動作であった。しかし、本実施の形態3にかかる粒子線治療装置においても、実施の形態1の変形例のように、第2の模擬リーフ信号出力部をリーフ毎の駆動制御信号に応じて、リーフ毎に模擬リーフ信号を出力できる仕様とし、駆動制御信号を第3の模擬リーフ信号出力部314に入力されるように第3の信号切替器315の仕様を変更すれば、リーフ駆動制御部が正常に駆動制御信号を出力することができているかいないかを診断することも可能である。
【0056】
以上のように、本実施の形態3にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部13は、模擬信号SSをリーフ制御装置301内のリーフ駆動制御部11に出力するように構成したのでリーフ制御装置に不備があるかを区別することができる。
【0057】
実施の形態4.
本実施の形態4にかかる粒子線治療装置では、診断用ケーブル系を介した故障範囲診断部と信号処理部間の通信を上記各実施の形態のような故障範囲診断部から信号処理部への単方向ではなく、双方向通信するようにし、信号処理部の動作状況を確認できるようにしたものである。具体的には、故障範囲診断部は制御信号の前に要求信号を発し、信号処理部から応答信号が返ってくるか否かによって信号処理部内に異常があるか否かを診断できるようにした。他の部分については実施の形態3と同様であるので説明を省略する。
【0058】
図10と図11は、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図10は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図11は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。
【0059】
図10に示すように、リーフ制御装置401の故障範囲診断部413と信号処理部404の模擬リーフ信号出力部443間は、双方向通信が可能な診断用ケーブル系(ケーブルスプールRW402を有するケーブルCB405、ガントリコネクタCN402、ケーブルCB406)を介して接続されている。そして、故障範囲診断部413は、制御信号SC2を出力する前に、要求信号SRを模擬リーフ信号出力部443に向けて出力し、模擬リーフ信号出力部443は、要求信号SRを受信すると応答信号SAを故障範囲診断部413に向けて返すようにしている。
【0060】
つぎに、動作について説明する。
図11のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびステップS100以降の動作については、実施の形態3における動作と同様であり、説明を省略する。そして、本実施の形態4においては、ポイントDとステップS100の間に、信号処理部の動作を確認するためのステップを実行する。
【0061】
リーフ位置に異常が有ることが分かり、故障範囲診断動作が開始されると、故障範囲診断部413は、要求信号SRを信号処理部404の模擬リーフ信号出力部443に向けて出力する(ステップS80)。
【0062】
つぎに、故障範囲診断部413は、出力した要求信号SRに対して、所定時間内に模擬リーフ信号出力部443から応答信号SAが受信できるか否かを判定する(ステップS82)。
【0063】
このとき、応答が返ってきた場合(ステップS82で「Y」:正常と判定)は、信号処理部4(少なくとも模擬リーフ信号出力部443)は起動していることになる。そこで、上述したステップS100以降の診断を実行していく。
【0064】
一方、応答信号SAをあらかじめ決めた時間内に受信できなかった場合(ステップS82で「N」:異常と判定)は、故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443の間に機能していない部位が有ることになる。ただし、上記部位は故障診断のときのみ機能し、リーフの実際の駆動には関係ない部分であるが、模擬リーフ信号出力部443が機能しない原因として信号処理部404に電力が供給されていないことも考えられる。ところが、信号処理部404への電源が機能していない場合は、駆動をかけた全てのリーフが異常と判断されるはずである。したがって、リーフの一部が異常と診断された場合に、応答が返ってこなかった場合には、電源系ではなく、故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443の間に故障が存在することになる。
【0065】
そこで、ステップS82で異常の場合、ステップS30において正常な位置を示すリーフが有るか否かにより、正常なリーフが一つでもあったなら(ステップS84で「Y」:あり)、故障範囲の絞り込み動作を実施するための事前点検範囲E2として故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443からなる故障診断系統部位の事前点検を進める表示を行う(ステップS88)。一方、ステップS30における異常検出で、正常なリーフが全くない場合(ステップS84で「N」:なし)、電源系を最低点検範囲E1として表示する(ステップS86)。
【0066】
したがって、全リーフが異常となった場合、信号処理部が点検対象とすべきか否かを判断し、原因の絞り込みができる場合がある。
【0067】
以上のように、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置によれば、診断用ケーブル系を介した故障範囲診断部413と信号処理部404間の通信を双方向通信するようにしたので、信号処理部404の動作状況を確認することができる。
【0068】
実施の形態5.
本実施の形態5にかかる粒子線治療装置では、故障範囲診断部と信号処理部間の通信を上記各実施の形態のような有線ケーブルではなく、無線により行うようにした。その他については、上記各実施の形態と同様で、無線通信以外の機能については実施の形態4と同様であるので説明を省略する。
【0069】
図12は、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図である。図において、リーフ制御装置501の故障範囲診断部513と信号処理部504の模擬リーフ信号出力部543は、それぞれ双方向の無線通信機能を有し、故障範囲診断部513から模擬リーフ位置信号出力部543へは、要求信号SRと制御信号SC2が伝達され、模擬リーフ信号出力部543から故障範囲診断部513へは、要求信号SRが伝達されるようになっており、これらの信号のやり取りの仕方は実施の形態4と同様である。
【0070】
本実施の形態5にかかる粒子線治療装置では、通信する信号が単純な要求信号SRと制御信号SC2と応答信号SAのみなので、各リーフに対応する駆動制御信号SDや差動リーフ位置信号SP等のように有線のケーブルを用いなくとも確実に通信が可能である。そのため図12に示すように、模擬リーフ信号出力部543と故障範囲診断部513間が無線にすることで、すでに据え付けられている粒子線治療装置に対しケーブル追加工事をおこなうことなく、部位特定の診断機能の追加が可能となり、現地工事の工数削減が可能となる。
【0071】
以上のように、本発明の実施の形態5にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部513と信号処理部504間の通信を無線により行うようにしたので、ケーブル追加工事のような大掛かりな工事をおこなうことなく、故障範囲の絞り込みを行えるようになる。
【0072】
なお、上記各実施の形態では、実施の形態が進むにつれ、前の実施の形態の機能を累積的に取り入れるような形態となっているが、それに限られることはない。例えば、実施の形態1の粒子線治療装置に対し、実施の形態3と実施の形態2の差分に相当するリーフ制御装置内に模擬信号を出力する機能を追加したような形態をとってもよい。その他、各実施の形態の直前の実施の形態との差分に相当する分を適宜組み合わせてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態1〜5では、故障範囲診断部は、リーフ異常検出部が異常を検出した際に起動し、主系統から補助系統に信号系統の切り換えをおこなうことで、部位の特定(故障範囲診断)をおこなうように構成しているが、故障範囲診断の実行は、治療中の異常発生時に限定する必要はない。例えば、一日の治療が終了した後にリーフを試験的に駆動させて異常部位がないか確認をおこない、異常があれば、故障範囲診断動作を開始(ステップS70)し、故障位置の特定をおこなうことで、夜間の保全作業の短縮化も可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 リーフ制御装置(11 リーフ駆動制御部、12 リーフ異常検出部、 13 故障範囲診断部)、
2 回転ガントリ部、
3 マルチリーフコリメータ部、 4 信号処理部(41 差動変換部、42 信号切替部、43 模擬リーフ信号出力部)、 5 リーフ装置(51 リーフ、52 リーフ駆動部(LG リーフギヤ、DM モータ)。
SD:駆動制御信号、SP:差動リーフ位置信号、SS:模擬リーフ差動信号、SSP:模擬リーフパルス信号、WP:パルス信号、SC:制御信号、SA:応答信号、SR:要求信号。
100位の数字は変形例を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線を患者の病変部に照射して治療する粒子線治療装置に関するものであり、とくに、回転ガントリに支持されたマルチリーフコリメータにより、様々な角度から所望の照射形状で照射を行うことができる粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置では、治療計画にもとづいた照射形状で粒子線を照射するために、マルチリーフコリメータを用いている。設定通りの照射形状を実現するには、リーフを精度よく位置決めできているかどうかが重要である。そこで、構造的な停止部材を用い、リーフを停止部材に当接させることでリーフの実位置が妥当かどうかを診断している粒子線治療装置(例えば、特許文献1参照。)や、マルチリーフコリメータの下流にリーフと連動して移動する線量率計測部を備え、照射野の境界を検出して、リーフの実位置の妥当性を診断している放射線治療装置(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−195877号公報(0015、図2)
【特許文献2】特開平7−227434号公報(0023〜0029、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、マルチリーフコリメータでは、コリメータを形成する複数のリーフの一つ一つを制御する必要があり、機械的なリーフ移動機能やリーフ位置出力機能を有するリーフ駆動部、リーフ位置信号ケーブル、駆動制御信号ケーブル、リーフ駆動電源、リーフ駆動制御部、リーフ位置診断部など多くの部品で構成されている。また、回転ガントリを用いた粒子線治療装置では、マルチリーフコリメータは回転ガントリの回転に伴い、制御や故障診断を行う制御部に対して回転移動することになる。そのため、マルチリーフコリメータと制御部との間を結ぶケーブルは、マルチリーフコリメータの回転移動に追随できるよう巻き取り式のケーブルスプールを介して接続され、その長さは数十mにもおよぶ。そのため、回転ガントリを用いた粒子線治療装置では、マルチリーフコリメータ本体のみならず、周辺部品やケーブル、コネクタなど、リーフ位置異常の原因となりうる故障部位の範囲が広範囲におよぶ。そのため、上記のような方法でリーフの実位置が妥当であるか否かを検出しても、点検対象を絞り込むことができず、保守員の経験と勘で故障個所を特定する必要があった。
【0005】
一方、粒子線治療を行える施設の数は限られており、一日に多くの患者に対して治療を行えるよう、分単位で粒子線治療装置の利用計画が設定されている。このように分単位のスケジュールにも関わらず、リーフ位置に異常が検出された場合は、故障部位の特定、交換、治療再開といった一連の補修作業が完了するまでの間、照射を中止する必要があり、患者は長時間待たされることになる。さらに、作業時間がかかりすぎると、その日に治療を受けることができず、日程変更を強いられることさえあった。これは、患者にとって心労上の負担が大きいばかりではなく、医師にとっても予定外の治療計画の見直し作業の発生といった問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、リーフ位置の異常を検出した際に、リーフ異常の原因となった故障個所が装置内のどの範囲にあるかを絞り込むことにより、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することが可能となる粒子線治療装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粒子線治療装置は、粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部が回転ガントリ内に設置されるとともに、前記マルチコリメータ部を制御するリーフ制御装置が前記回転ガントリと隔てて設置され、前記マルチコリメータ部と前記リーフ制御装置間の信号入出力が信号ケーブルを介して行われる粒子線治療装置において、前記マルチリーフコリメータ部は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフと、前記複数のリーフのそれぞれを独立して駆動させる駆動部と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号を前記リーフ制御装置に対して前記信号ケーブルを介して出力する信号処理部とを有し、前記リーフ制御装置は、前記複数のリーフのそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号を前記マルチコリメータ部に対して前記信号ケーブルを介して出力するリーフ駆動制御部と、前記駆動制御信号と前記リーフ位置信号に基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部とを有し、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号を生成する模擬信号出力部と、所定部分に出力される信号を前記模擬信号または前記リーフ位置信号のいずれかに切替える信号切替部とを有し、前記リーフ異常検出部が前記リーフ位置信号に基づくリーフ位置の異常を検出したときに、前記所定部分に出力する信号を前記模擬信号に切替えて前記リーフ異常検出部にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と前記所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、前記リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部を備えたことを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明の粒子線治療装置によれば、模擬信号を所定部分に出力してリーフ位置の異常を検出することにより、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位が装置内のどの範囲にあるかを診断できるようにしたので、点検範囲を絞り込め、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図(各実施の形態共通)である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置におけるリーフ位置を検出するための信号波形を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置の変形例の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフロー図である。
【図12】本発明の実施の形態5にかかる粒子線治療装置の構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1〜図4は、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置および粒子線治療装置の故障範囲診断方法を説明するためのもので、図1は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図2と図3は粒子線治療装置の故障範囲診断機能を説明するためのフローチャート、図4は粒子線治療装置におけるリーフ位置の異常を検出する際の信号を説明するための信号波形図である。また、図5は、粒子線治療装置の変形例の故障範囲診断機能を説明するためのフローチャートである。
【0011】
粒子線治療装置は、加速器から供給された粒子線を回転ガントリに設置された照射部(図示せず)に導き、患者に対して照射角度を変えて粒子線を照射(多門照射)するものであり、図1においては、そのうちの回転ガントリに設置され、入射した粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部3およびマルチリーフコリメータ部3を制御するリーフ制御装置1とのつながりをブロック図として示している。
【0012】
図において、図示しない制御室に据え付けられたリーフ制御装置1内には、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12と故障範囲診断部13とを有している。リーフ駆動制御部11は、マルチリーフコリメータ部3に対して各リーフ51の駆動を制御するための駆動制御信号SDを発信するとともに、マルチリーフコリメータ部3からの各リーフ51の位置を示す差動リーフ位置信号SPを受信することにより、各リーフ51の位置を制御する。これにより、マルチリーフコリメータ部3を通過した粒子線は、治療計画に基づく照射形状に成形され、患者に向けた照射できるようになる。そして、リーフ異常検出部12は、駆動制御部11が出力した駆動制御信号SDに対する差動リーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置が正常であるか否かを判定し、異常を検出すると異常信号をリーフ駆動制御部11に出力し、異常信号を受けたリーフ駆動制御部11は、図示しない粒子線治療装置の制御部に異常診断情報を出力し、粒子線照射(治療)を中断させるとともに故障個所を特定するための故障範囲診断部13を起動させ、故障個所の範囲が判明した場合、点検が必要な範囲の情報を異常診断情報に追加して出力し、粒子線治療装置の管理者に対して表示できるようにする。
【0013】
回転ガントリ部2は、加速器から導かれた粒子線を治療計画に基づいた照射形状に成形して照射するための図示しない照射部を有し、患者の病変部に照射角度を変えて照射するために、患者(正確にはアイソセンタ)を中心として照射部を回転させる装置である。図において、回転ガントリ部2は上述した制御室とは別の図示しない回転ガントリ室内に設置されている。なお、図中、説明を簡略にするため、回転ガントリ部2の形状は模式化しており、構成についても、照射部のうちのマルチリーフコリメータ部3とマルチリーフコリメータ部3とリーフ制御装置1とを結ぶケーブル系のみを示している。
【0014】
マルチリーフコリメータ部3は、信号処理部4と、複数のリーフ部5a,5b,・・・・によりマルチリーフコリメータを構成するリーフ装置5とを有している。マルチリーフコリメータとは、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフを並列配置したもので、各リーフの位置によって粒子線の透過形状、つまり照射形状を形作るものである。そのため、リーフ装置5の各リーフ部は基本的に同仕様であり、それぞれ、リーフ51a,51b,・・・(a,b,は個々のリーフに対応するIDであり、まとめてリーフ51と称する)と、各リーフを独立して駆動させるためのリーフギヤLGとモータDMとを備えたリーフ駆動部52a,52b,・・・まとめてリーフ駆動部52と称する)とを備えている。リーフ駆動部52のモータDMは、エンコーダ付きDCモータであり、それぞれ、駆動制御信号SDa,SDb,・・・(まとめてSDと称する)により回転駆動され、回転軸に直結したリーフギヤLGが連動して回転する。リーフギヤLGはピニオンギアであり、その回転運動が、リーフ51に刻まれたラックRに伝達され、リーフ51が直線移動する。このとき、モータDMの回転の際に発せられるパルス信号WPa,WPb,・・・(まとめてWPと称する)がリーフ位置を示す情報として出力される。
【0015】
信号処理部4は、信号の統合・振分けや切替を行う信号切替部42と、リーフ装置5の各リーフ部から入力したパルス信号WPを差動リーフ位置信号SPに変換するため、各リーフ部に対応して設けられた複数の差動変換回路41a,41b,・・・からなる差動変換部41と、差動リーフ位置信号Spを模擬する模擬差動リーフ信号SSを生成出力する模擬リーフ信号出力部43とを備えている。そして、リーフ制御装置1の駆動制御部11から入力された駆動制御信号SDは、信号切替部42でリーフ毎の駆動制御信号SDa,SDb,・・・に振分け(実際には信号毎にケーブル内の独立した配線を経由して入力されている)され、各リーフ部5a,5b,・・・に入力される。そして各リーフ部から出力されたパルス信号WPa,WPb,・・・は、それぞれ、差動変換部41内で差動リーフ位置信号SPa,SPb,・・・に変換され、リーフ制御装置1の駆動制御部11に向けて出力される。
【0016】
また、模擬リーフ信号出力部43は、制御部1の故障範囲診断部13からの制御信号SCを受けると、上述した差動リーフ位置信号SPを模擬する模擬リーフ差動信号SSを生成し、制御信号SCとともに信号切替部42に出力する。信号切替部42は、制御信号SCが入力されると、駆動制御部11に出力する信号を差動変換部41からの差動リーフ位置信号SPの代わりに模擬リーフ信号出力部43からの模擬リーフ差動信号SSに切替える。つまり、模擬リーフ信号出力部43と信号切替部42は、故障範囲診断部13とともに故障範囲を診断する機能を受け持つ。なお、後述する異常診断方法を採用する場合、模擬リーフ信号出力部43の信号生成回路は各リーフに対応させて存在する必要はなく、リーフが複数存在しても1回路だけで十分である。
【0017】
信号処理部4とリーフ装置5とは、物理的にマルチリーフコリメータ部3内に一体として収められており、両者の信号は固定した配線により伝達されている。一方、マルチリーフコリメータ部3は、回転部分の半径が数mにもなる回転ガントリ部2内に設置されたものであり、信号処理部4は、駆動制御部11に対して回転移動する。そこで、信号処理部4と駆動制御部11間の信号ケーブル系は、結線や取り換えが容易なように駆動制御部11側のケーブルCB1と信号処理部側のケーブルCB2をガントリ部2に設けたガントリコネクタCN1を介して接続するようにしている。さらに、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SPといったリーフの駆動制御に必要な信号を伝達する制御用信号ケーブルは、回転移動の際に回転ガントリ2と共に回転する滑車部PL1と固定された制御装置1間の経路長が数十m単位で変化する。そのため、ケーブルCB1は、数十mもの長さのケーブルをケーブルスプールRW1に巻き取らせ、所定の張力でケーブルを張るようにしている。したがって、回転ガントリ部2がどのような角度位置になっても、ケーブルCB1部のRW1〜制御装置1間の長さを経路長に対応して変化させることができる。
【0018】
また、模擬リーフ信号出力部43と故障範囲診断部13間の診断用ケーブル系も、ケーブルCB6がケーブルスプールRW2に巻き取られるケーブルCB5とガントリコネクタCN2を介して接続されている。また、電源23も、ケーブルスプール等を介して図示しない元電源から供給される電力をマルチリーフコリメータに適した電圧や周波数に変換し、ケーブルCB4を介してマルチリーフコリメータ部3に電力Powを供給する。
【0019】
次に動作について説明する。
<正常動作時>
リーフ制御装置1が起動すると、図2に示すように(ステップS10)と、リーフ駆動制御部11は、治療計画に基づいた照射形状を形成するよう各リーフの位置を所定位置に移動させるため、マルチリーフコリメータ部3に対して各リーフの駆動を制御するための駆動制御信号SDを出力する。入力された駆動制御信号SDは、信号切替部42にて、リーフ毎の駆動制御信号SDa,SDb,・・・に分離され、各リーフ部5a,5b、・・・に出力される。駆動制御信号が入力されると駆動制御信号に応じてリーフ駆動部52のエンコーダ付きDCモータDMおよびリーフギヤLGが回転し、回転に応じた距離だけ、リーフ51が直線移動(ステップS20)する。そしてDCモータDMの回転量に応じてパルス信号WPが信号処理部4に出力され、信号処理部内で変換処理され、差動リーフ位置信号SSとしてリーフ制御部11に出力される。
【0020】
このとき、リーフ異常検出部12は、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SSとを比較し、リーフ部5のうち、モータDMを駆動する信号を受けたリーフ部に対して、適切な差動リーフ位置信号が返ってこないリーフ部がない場合は、リーフ位置が正常であると判断(ステップS30で「N」)し、ステップS40に移行する。上記動作をリーフの移動が完了するまで繰返し(ステップS40で「N」)、リーフが所定位置に移動し終わったら(ステップS40で「Y」)、粒子線治療のための照射を開始する(ステップS50)。
【0021】
<リーフ位置異常判定方法>
ここで、リーフ位置の異常の有無の判定方法について具体的に説明する。駆動制御信号SDを受け回転駆動したモータDMからは、図4(a)に示すようなTTL(Transistor-Transistor-Logic)レベルのパルス波形をなすパルス信号WPが出力される。パルス波形の周波数は、通常DCモータの回転数によって変化するが、本実施の形態1にかかる粒子線照射装置では、リーフ駆動部52の各モータDMを、「加速・一定速度回転・減速・停止」の順で動作させている。ここで、モータが一定速度で回転しているときは、パルス信号WPの周波数も一定となるので、この一定部分が有るか否かを判断すれば、複雑なロジックを用いなくても、モータDMが稼働しているか否かを判定できる。つまり、駆動を指令したリーフ部のモータDMが稼働していない場合、そのリーフ部のリーフ位置は異常であることがわかる。
【0022】
なお、図4(a)のようなTTL波形の場合、H(High)部分とL(Low)部分の位置で波形を判定することになる。しかし、一般的に、パルス波形にはノイズが乗りやすいので、パルス信号WPは、差動変換部41において図4(b)に示すような差動信号である差動リーフ位置信号SPに変換されて、リーフ制御部11に出力される。そして、差動リーフ位置信号SPは、リーフ駆動装置11にて、再度、差動信号からTTL信号に戻してリーフ位置診断部12に入力される。リーフ位置診断部12は、差動信号からTTL信号に戻したパルス波形のHigh時間およびLow時間を測定する回路を備え、この時間が許容範囲内にあれば正常、許容範囲外であれば異常と判断する。ここで、例えば、駆動制御信号SDと差動リーフ位置信号SPのうち、実際に駆動を指令した駆動制御信号が例えばSDmだった場合、リーフ部5mから出力された差動リーフ位置信号SPmから変換したパルス波形に対して、High時間およびLow時間が許容範囲内にあるか否か、つまり上述した一定部分が有るか否かを判定する。一定回転速度の場合、HighとLowは、数百μ秒のオーダーで変化するので、例えばHigh時間やLow時間が数秒間継続する場合は、一定部分がなかったとして、リーフ異常ありを示す異常発生信号をリーフ制御部11に出力する。
【0023】
なお、本実施の形態においては、位置異常を発生したリーフを特定するという目的に特化して、回路を簡略化してHigh時間やLow時間を所定範囲内にあるか否かによって、異常の有無の判定を実現しているが、異常診断についてはこの方法に限られることはない。例えば、モータの回転速度が可変であったり、回転数自体を指定してモータを駆動させたりする場合、周波数やパルス数をカウントして判断するようにしてもよい。また、リーフの位置を、位置センサーや加速度センサー等の位置を特定するための情報を出力するセンサー等によって管理している場合、センサーからの信号に基づいて異常診断を行うようにしてもよい。
【0024】
<リーフ位置異常検出時>
上記のようにしてリーフに異常が発生したことがわかると、リーフ異常検出部12から異常発生信号がリーフ駆動制御部11に出力される(ステップS30で「Y」)。すると、リーフ駆動制御部11は、図示しない粒子線治療装置の制御部に対しリーフ位置に異常があったことを示す異常診断情報を出力する。制御部が異常診断情報を受けると、粒子線治療装置本体は照射治療を中断する所定のシーケンス(ステップS60)に入る。つぎに、リーフ駆動制御部11は、検出したリーフ位置の異常が、どの部位の故障により生じたのかを特定するため、故障範囲診断部13を起動させ(ステップS70)、故障範囲診断動作を開始する(ステップS70からポイントD(図3)へ)。なお、ポイントD以降のステップは、詳細な説明は省略するが、主として故障範囲診断部13からの制御により実行される。
【0025】
<故障範囲診断動作>
起動した故障範囲診断部13は、故障範囲診断を実施するための制御信号SCを駆動制御信号SDを伝達するケーブル系とは別の診断用ケーブル系(ケーブルCB5、コネクタCN2、ケーブルCB6)を経由して信号処理部4の模擬リーフ信号出力部43に出力する。信号切替部42には、模擬リーフ信号出力部43を経由して制御信号SCが入力されるので、差動変換部41からの差動リーフ位置信号SSの代わりに模擬リーフ信号出力部43からの模擬リーフ差動信号SSを駆動制御部11に出力するよう接続を切替える(ステップS100)。そして、模擬リーフ信号出力部43が生成した、図4(b)に示す差動リーフ位置信号SPを模擬する各リーフ共通の模擬リーフ差動信号SS(SSa=SSb=・・・)が、信号切替部42、制御用ケーブルを経てリーフ制御装置1にむけて出力される(ステップS110)。
【0026】
つぎに、リーフ異常検出部12は、異常ありと判定したリーフ部5mに対応する模擬リーフ差動信号SSmに対し、ステップS30での判定と同様の基準で一定部分が有るか否か、つまりリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS120)。
【0027】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS120で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフ差動信号SSmがリーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する部位のうち、リーフ制御装置1内の部位、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、電源系統(電源23、ケーブルCB3、ケーブルCB4)、信号切替部42は、異常検出原因候補から除外される。そこで、これらを除いたリーフ装置5および信号処理部4、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の駆動制御信号SD伝達用配線、の範囲内の故障部位を補修すれば粒子線治療装置の機能を回復させることができる。ただし、信号切替部42については、模擬リーフ信号出力部43との接続系統(補助系統)は正常で、差動変換部41との接続系統(主系統)に不具合がある場合もある。したがって、信号処理部4を理論的には点検対象から除外することはできないが、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮すると、信号処理部4を点検対象から除外してもよい。
【0028】
そこで、リーフ装置5(リーフ部5m)および信号処理部4(信号切替部42の主系統、差動変換部41m)、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2)中の駆動制御信号SD伝達用配線、信号切替部42の主系統からなる範囲A1を、例えば故障範囲はA1に限定されるという趣旨の表示を行う(ステップS140)。
【0029】
一方、異常を検出した場合(ステップS120で「Y」:異常と判定)は、模擬リーフ差動信号SSmがリーフ異常検出部12まで伝達されなかったか、伝達されていてもリーフ異常検出部12が誤判定したかのいずれかになる。したがって、故障範囲診断に関わる部分(故障範囲診断部13〜模擬リーフ信号出力部43)が正常に機能していることを前提とすると、リーフ部5mに関する部位に対して少なくとも信号切替部42、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2、滑車部PL1)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、リーフ駆動制御部11、電源系の中に故障原因が存在する。なお、この段階のように、リーフ部5mに対して「異常がない」という判定結果が出ていない場合、故障個所が1か所のみであることが明白な場合を除いて他の部分を故障原因から除外することはできない。つまり、故障範囲を限定することはできない。しかし、少なくとも、リーフ部5mに関する部位のうち、信号切替部42、制御用信号ケーブル(ケーブルスプールRW1を有するケーブルCB1、ガントリコネクトCN1、ケーブルCB2、滑車部PL1)中の差動リーフ位置信号SP伝達用配線、リーフ駆動制御部11、電源系の中に故障を有する部位が存在することは確かなので、その範囲を故障原因が明らかに存在する範囲A2とし、表示する。ただし、この場合、故障範囲はA2内に限定されることはなく、他の範囲においても故障個所がある可能性があるので、例えば、最低限点検を必要とする範囲が範囲A2である趣旨の表示を行う(ステップS130)。
【0030】
これにより、保守員は、表示された対象範囲のみを点検すればよく、調査範囲が絞られることにより、異常部位特定までの時間短縮を図ることができる。その結果、治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0031】
<変形例>
また、上記故障範囲診断においては、模擬リーフ信号出力部43は、リーフ異常と判定されたリーフ部5mに対し、駆動制御出力SDmの有無にかかわらず、模擬リーフ差動信号SSmを出力するようにしたが、模擬リーフ差動信号SSを駆動制御出力SDが発せられたリーフに対して出力できるようにしてもよい。そして、変形例として、駆動制御出力SDmの有無にかかわらず、模擬リーフ差動信号SSmを出力して異常の有無を判定するステップS120で「N」となったときに、図5に示すように、模擬リーフ信号出力部43を駆動制御出力SDが発せられたリーフ部にのみ模擬リーフ差動信号SSを出力させるモードに変更する(ステップAS100)。そして、駆動制御部11から制御用信号ケーブルを経由して少なくとも異常と判定されたリーフ部5mに対する駆動制御信号SDmを出力させ(ステップAS110)、模擬リーフ信号出力部43から駆動制御出力SDが発せられたリーフ部5に対する模擬リーフ差動信号SSを出力させて、再度リーフ異常検出部12にリーフ部5mの異常の有無を判定させる(ステップAS120)。ステップS140の代わりにこれらのステップを実行すれば、対象範囲A1から駆動制御信号SDを伝達する配線に特定するか除くかを判断(ステップAS130、140)することができる。
【0032】
以上のように、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療装置によれば、粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部3が回転ガントリ2内に設置されるとともに、マルチコリメータ部3を制御するリーフ制御装置1が回転ガントリ2と隔てて設置され、マルチコリメータ部3とリーフ制御装置1間の信号入出力が信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して行われる粒子線治療装置であって、マルチリーフコリメータ部3は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフ51と、複数のリーフ51のそれぞれを独立して駆動させる駆動部52と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号SPをリーフ制御装置1に対して信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して出力する信号処理部4とを有し、リーフ制御装置1は、複数のリーフ51のそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号SDをマルチコリメータ部3に対して信号ケーブルCB1、CN1、CB2を介して出力するリーフ駆動制御部11と、駆動制御信号SDとリーフ位置信号SPに基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部12とを有し、リーフ位置が正常であることを示す模擬信号SSを生成する模擬信号出力部43と、所定部分に出力される信号を模擬信号SSまたはリーフ位置信号SPのいずれかに切替える信号切替部42とを有し、リーフ異常検出部12がリーフ位置信号SPに基づくリーフ位置の異常を検出したときに、所定部分に出力する信号を模擬信号SSに切替えてリーフ異常検出部12にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部13を備えるように構成したので、長尺で伸縮自在の信号ケーブルを含む装置内で、リーフ異常の原因となった故障個所がどの範囲にあるかを絞り込むことにより、故障検出から治療再開までの復旧時間を短縮することが可能となる粒子線治療装置を得ることができる。
【0033】
とくに、信号処理部4は、駆動部52のモータDMの回転を示す信号をリーフ位置信号SPとして出力し、リーフ異常検出部12は、モータDMを駆動させる駆動制御信号SDmが出力されたリーフ51mからリーフ位置信号SPmが出力されたか否かにより、当該リーフ51mのリーフ位置の異常の有無を検出するように構成したので、簡単な回路で模擬信号SSを生成・出力でき、マルチリーフコリメータ部3の構成を複雑化することなく故障範囲の絞り込みが可能となる。
【0034】
さらに、模擬信号出力部43を、モータDMを駆動させる駆動制御信号SDmが出力されたリーフ51m毎に模擬信号SSmを出力するように構成したので、リーフ位置異常が駆動制御信号SDの不備によるか否かを区別することができる。
【0035】
また、信号処理部4は、駆動部52のモータDMの回転に伴い出力されるパルス波形WPを差動信号に変換し、変換した差動信号をリーフ位置信号SPとして出力する差動変換部41を有し、故障範囲診断部13は、差動信号を模擬する模擬信号SSを差動変換部41の出力部分(制御用信号ケーブル系の手前)に出力するように構成したので、信号処理部4やリーフ装置5側の不備によるか否かを区別することができる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、リーフ異常検出部12における位置異常の診断が、High時間やLow時間が所定範囲内にあるか否かによって行われているため、模擬リーフ信号出力部43からは、模擬リーフ差動信号SSとして、図3(b)のような、一定の差動信号を出力するようにしているが、これに限定されることはない。リーフ異常検出部12での異常診断方法に応じて、例えば駆動制御信号に対応して周波数やパルス数を変化させた信号を出すようにしてもよい。また、リーフの位置を、位置センサーや加速度センサー等の位置を特定する情報を出力するセンサー等によって管理している場合、センサーからの信号、あるいはその信号に所定の加工を加えた信号を模擬するようにしてもよい。そのために、例えば、駆動信号に対応したリーフ位置信号のパターンを記録するLUT(Look Up Table)等を備えるようにしてもよい。また、一定の信号でよい場合、故障範囲診断部13からの指令によらず、模擬リーフ差動信号SSを常時出力しておき、信号切替部で切替えた時に駆動制御部11に伝達されるようにしてもよい。
【0037】
実施の形態2.
本実施の形態2にかかる粒子線治療装置では、実施の形態1に対して模擬リーフ出力装置から、パルス波形も出力できるようにし、マルチリーフコリメータ部の点検対象範囲をさらに絞り込めるようにしたものである。具体的には信号処理部内において、第2の信号切替器を設置し、模擬信号の波形と出力先を変化させるようにした。そのため、リーフ制御装置内の故障範囲診断部も模擬信号の波形や経路といった模擬信号モードを切り替えるための制御信号を出力するようにしている。他の部分については実施の形態1と同様であるので説明を省略する。図6と図7は、本発明の実施の形態2にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図6は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図7は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。また、実施の形態1における図3に示すフローチャートも本実施の形態において共通して使用する。
【0038】
図6に示すように、信号処理部204には、第2の信号切替部244を新たに備えるとともに、模擬リーフ信号出力部243を模擬リーフ差動信号SSと模擬リーフパルス信号SSPの2種類の信号を出力できるようにしている。そして、模擬リーフ信号出力部243は、制御信号SC2に応じ、模擬リーフ差動信号SSの生成を要求された場合は、生成した模擬リーフ差動信号SSを信号切替部42に出力し、模擬リーフパルス信号SSPを要求された場合は、生成した模擬リーフパルス信号SSPを第2の信号切替部443に出力する。一方、第2の信号切替器244は、リーフ装置5と差動変換部41間に接続され、通常(主系統)は、リーフ装置5から入力されたパルス信号WPを差動変換部41にそのまま出力し、制御信号SC2に応じて模擬リーフ信号出力部243から出力された模擬リーフパルス信号SSPを差動変換部41に出力するようになっている。
【0039】
つぎに、動作について説明する。
図7のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびステップS120において「Y」であった時の動作では、第2の信号切替部244は、モータDMから出力されたパルス信号WPをそのまま差動変換部41に出力しているだけなので、実施の形態1における動作と同様となり、説明を省略する。そして、本実施の形態2においては、ステップS120において「N」であったとき、限定点検範囲A1のうちの、信号処理部204とリーフ装置5の2つに対し、一方を対象からはずすためにステップS210以降のステップを実行する。なお、限定点検範囲A1のうち、制御用信号ケーブルの駆動制御信号用配線については、上述した実施の形態1の変形例(図5)にて除外すべきか否かが判定できるので、本実施の形態および以降の実施の形態では説明を省略する。
【0040】
限定点検範囲A1まで絞り込まれた段階で、故障範囲診断部213から信号処理部204に出力された制御信号SC2中の制御命令により、模擬リーフ信号出力部243、信号切替部42、第2の信号切替部244の動作を変更し、マルチリーフコリメータ部203内の故障範囲分離動作に入る。具体的には、模擬リーフ信号出力部243は、出力する模擬リーフ信号を、模擬リーフ差動信号SSから模擬リーフパルス信号SSPに切り替える。そして、信号切替部42は差動変換部41から入力した信号を出力する主系統に回路を切替え、第2の信号切替部244は、モータDMからのパルス信号WPに代わり、模擬リーフ信号出力部243から出力された模擬リーフパルス信号SSPを差動変換部41に出力する(ステップS210)。
【0041】
つぎに、リーフ異常検出部12は、ステップ120と同様にリーフ部5mに対してリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS220)。
【0042】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS220で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフパルス信号SSPが差動変換部42にて正常に差動信号に変換され、リーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する限定範囲A1のうち、差動変換部41は正常に機能することになる。ここでも、信号切替部42と244については、模擬リーフ信号出力部243との接続系統(補助系統)は正常で、差動変換部41との接続系統(主系統)に不具合がある場合もある。しかし、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮し、差動変換部41だけでなく、信号処理部204全体を点検対象から除外してもよい。そこで、限定点検範囲A1から信号処理部204を除外して表示する(ステップS240)。つまり、点検対象範囲は限定点検範囲A1からリーフ装置5と駆動制御信号用の制御用信号ケーブルに絞られる。
【0043】
一方、再度異常を検出した(ステップS220で「Y」:異常と判定)場合は、限定点検範囲A1から絞り込める要素はない。よって、限定点検範囲A1を維持し、表示する(ステップS230)。
【0044】
この判定により、正常を検出した場合は、実施の形態1において絞り込んだ点検対象を、さらに絞り込むことができ、さらなる治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0045】
以上のように、本実施の形態2にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部213は、駆動部52のモータDMの回転に伴い出力されるパルス波形WPを模擬する模擬信号を差動変換部41の入力部(モータDMの出力部分)に出力するように構成したので、信号処理部204に不備があるか否かを区別することができる。
【0046】
実施の形態3.
本実施の形態3にかかる粒子線治療装置では、実施の形態1および2に対してリーフ制御装置内でも模擬信号をやり取りし、リーフ制御装置について点検対象範囲を絞り込めるようにしたものである。具体的にはリーフ制御装置内において、第2の模擬リーフ信号出力部と第3の信号切替器を設置し、リーフ制御装置内でのリーフ信号の経路を変えてリーフ位置異常の有無を確認し、リーフ装置内に異常が有るか否かを診断できるようにした。他の部分については実施の形態2と同様であるので説明を省略する。
【0047】
図8と図9は、本発明の実施の形態3にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図8は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図9は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。なお、第2の模擬リーフ信号出力部314は、実施の形態1における模擬リーフ信号出力部43と同様に、模擬リーフ差動信号SSを出力する仕様である。
【0048】
図8に示すように、リーフ制御装置301には、第2の模擬リーフ信号出力部314と、第3の信号切替部315を新たに備え、故障範囲診断部313は、診断の過程において第2の模擬リーフ信号出力部314と、第3の信号切替部315を用いた模擬信号経路によるリーフ位置異常診断を実施するようにした。そして、模擬リーフ信号出力部314は、制御信号SC3に応じて生成した模擬リーフ差動信号SSを第3の信号切替部315に出力する。一方、第3の信号切替器315は、制御用ケーブルCB1とリーフ駆動制御部11間に接続され、通常(主系統)は、リーフ駆動制御部11から入力された駆動制御信号SDをそのまま信号処理部204に出力するとともに、信号処理部204から入力された差動リーフ位置信号SPをそのままリーフ制御部11に出力する。一方、第2の模擬リーフ信号出力部314を経由して制御信号SC3が入力されると、信号処理部304からの差動リーフ位置信号SPの代わりに模擬リーフ信号出力部314から入力された模擬作動リーフ信号SSをリーフ制御部11に出力する。
【0049】
つぎに、動作について説明する。
図9のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびポイントD以降において、ステップS120で「N」であった時の動作までは実施の形態2における動作と同様であり、説明を省略する。そして、本実施の形態3においては、ステップS120において「Y」であったとき、最低点検範囲A2のうちの、リーフ制御装置について絞り込みを行うため、ステップS310以降のステップを実行する。
【0050】
最低点検範囲A2を特定した段階で、故障範囲診断部313から第2の模擬リーフ信号出力部314、第3の信号切替部315に出力された制御信号SC3中の制御命令により、第2の模擬リーフ信号出力部314、信号切替部315の動作を変更し、リーフ制御装置301内の故障範囲分離動作に入る。具体的には、第2の模擬リーフ信号出力部314は、模擬リーフ差動信号SSを生成して第3の信号切替部315に出力する。そして、第3の信号切替部315は、信号処理部2044からの差動リーフ位置信号SPに代わり、第2の模擬リーフ信号出力部314から出力された模擬リーフ差動信号SSをリーフ駆動制御部11に出力する(ステップS310)。
【0051】
つぎに、リーフ異常検出部12は、ステップ120と同様にリーフ部5mに対してリーフ位置異常を検出するか否かを判定する(ステップS320)。
【0052】
このとき、異常を検出できなかった(ステップS320で「N」:正常と判定)場合は、模擬リーフ差動信号SSがリーフ駆動制御部11内でTTL波形に変換されてリーフ異常検出部12まで伝達されたことになる。したがって、リーフ部5mに関する最低点検範囲A1のうち、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12は正常に機能していることになる。ここでも、第3の信号切替部315については、第2の模擬リーフ信号出力部314との接続系統(補助系統)は正常で、信号処理部204との接続系統(主系統)のみに不具合がある場合もある。しかし、実用上、構造が単純な切替器の故障率が低いことを考慮し、リーフ駆動制御部11とリーフ異常検出部12だけでなく、リーフ制御装置301全体を点検対象から除外してもよい。そこで、最低点検範囲A2からリーフ制御装置301を除外した範囲を最低点検範囲D1として表示する(ステップS340)。つまり、点検対象範囲は限定最低点検範囲A2から信号切替部42、制御用信号ケーブルのうちの差動リーフ位置信号用配線、および電源系に絞られる。
【0053】
一方、再度異常を検出した(ステップS320で「Y」:異常と判定)場合は、リーフ制御装置1内に故障個所が必ず存在することになる。よって、リーフ制御装置1を限定点検範囲D2として表示する(ステップS330)。
【0054】
この判定により、正常を検出した場合は、実施の形態1や2において絞り込んだ点検対象を、さらに絞り込むことができ、さらなる治療再開(復旧時間)の短縮化が可能となる。
【0055】
なお、本実施の形態3においては、駆動制御信号については、第3の信号切替部315を経由せず、直接制御用信号ケーブルに接続されているのと同様の動作であった。しかし、本実施の形態3にかかる粒子線治療装置においても、実施の形態1の変形例のように、第2の模擬リーフ信号出力部をリーフ毎の駆動制御信号に応じて、リーフ毎に模擬リーフ信号を出力できる仕様とし、駆動制御信号を第3の模擬リーフ信号出力部314に入力されるように第3の信号切替器315の仕様を変更すれば、リーフ駆動制御部が正常に駆動制御信号を出力することができているかいないかを診断することも可能である。
【0056】
以上のように、本実施の形態3にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部13は、模擬信号SSをリーフ制御装置301内のリーフ駆動制御部11に出力するように構成したのでリーフ制御装置に不備があるかを区別することができる。
【0057】
実施の形態4.
本実施の形態4にかかる粒子線治療装置では、診断用ケーブル系を介した故障範囲診断部と信号処理部間の通信を上記各実施の形態のような故障範囲診断部から信号処理部への単方向ではなく、双方向通信するようにし、信号処理部の動作状況を確認できるようにしたものである。具体的には、故障範囲診断部は制御信号の前に要求信号を発し、信号処理部から応答信号が返ってくるか否かによって信号処理部内に異常があるか否かを診断できるようにした。他の部分については実施の形態3と同様であるので説明を省略する。
【0058】
図10と図11は、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置を説明するためのもので、図10は粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図、図11は粒子線治療装置の故障診断機能を説明するためのフローチャートである。
【0059】
図10に示すように、リーフ制御装置401の故障範囲診断部413と信号処理部404の模擬リーフ信号出力部443間は、双方向通信が可能な診断用ケーブル系(ケーブルスプールRW402を有するケーブルCB405、ガントリコネクタCN402、ケーブルCB406)を介して接続されている。そして、故障範囲診断部413は、制御信号SC2を出力する前に、要求信号SRを模擬リーフ信号出力部443に向けて出力し、模擬リーフ信号出力部443は、要求信号SRを受信すると応答信号SAを故障範囲診断部413に向けて返すようにしている。
【0060】
つぎに、動作について説明する。
図11のフローチャートに示すように、ポイントD以前の動作、およびステップS100以降の動作については、実施の形態3における動作と同様であり、説明を省略する。そして、本実施の形態4においては、ポイントDとステップS100の間に、信号処理部の動作を確認するためのステップを実行する。
【0061】
リーフ位置に異常が有ることが分かり、故障範囲診断動作が開始されると、故障範囲診断部413は、要求信号SRを信号処理部404の模擬リーフ信号出力部443に向けて出力する(ステップS80)。
【0062】
つぎに、故障範囲診断部413は、出力した要求信号SRに対して、所定時間内に模擬リーフ信号出力部443から応答信号SAが受信できるか否かを判定する(ステップS82)。
【0063】
このとき、応答が返ってきた場合(ステップS82で「Y」:正常と判定)は、信号処理部4(少なくとも模擬リーフ信号出力部443)は起動していることになる。そこで、上述したステップS100以降の診断を実行していく。
【0064】
一方、応答信号SAをあらかじめ決めた時間内に受信できなかった場合(ステップS82で「N」:異常と判定)は、故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443の間に機能していない部位が有ることになる。ただし、上記部位は故障診断のときのみ機能し、リーフの実際の駆動には関係ない部分であるが、模擬リーフ信号出力部443が機能しない原因として信号処理部404に電力が供給されていないことも考えられる。ところが、信号処理部404への電源が機能していない場合は、駆動をかけた全てのリーフが異常と判断されるはずである。したがって、リーフの一部が異常と診断された場合に、応答が返ってこなかった場合には、電源系ではなく、故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443の間に故障が存在することになる。
【0065】
そこで、ステップS82で異常の場合、ステップS30において正常な位置を示すリーフが有るか否かにより、正常なリーフが一つでもあったなら(ステップS84で「Y」:あり)、故障範囲の絞り込み動作を実施するための事前点検範囲E2として故障範囲診断部413〜診断用ケーブル系〜模擬リーフ信号出力部443からなる故障診断系統部位の事前点検を進める表示を行う(ステップS88)。一方、ステップS30における異常検出で、正常なリーフが全くない場合(ステップS84で「N」:なし)、電源系を最低点検範囲E1として表示する(ステップS86)。
【0066】
したがって、全リーフが異常となった場合、信号処理部が点検対象とすべきか否かを判断し、原因の絞り込みができる場合がある。
【0067】
以上のように、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置によれば、診断用ケーブル系を介した故障範囲診断部413と信号処理部404間の通信を双方向通信するようにしたので、信号処理部404の動作状況を確認することができる。
【0068】
実施の形態5.
本実施の形態5にかかる粒子線治療装置では、故障範囲診断部と信号処理部間の通信を上記各実施の形態のような有線ケーブルではなく、無線により行うようにした。その他については、上記各実施の形態と同様で、無線通信以外の機能については実施の形態4と同様であるので説明を省略する。
【0069】
図12は、本発明の実施の形態4にかかる粒子線治療装置の構成を示すためのブロック図である。図において、リーフ制御装置501の故障範囲診断部513と信号処理部504の模擬リーフ信号出力部543は、それぞれ双方向の無線通信機能を有し、故障範囲診断部513から模擬リーフ位置信号出力部543へは、要求信号SRと制御信号SC2が伝達され、模擬リーフ信号出力部543から故障範囲診断部513へは、要求信号SRが伝達されるようになっており、これらの信号のやり取りの仕方は実施の形態4と同様である。
【0070】
本実施の形態5にかかる粒子線治療装置では、通信する信号が単純な要求信号SRと制御信号SC2と応答信号SAのみなので、各リーフに対応する駆動制御信号SDや差動リーフ位置信号SP等のように有線のケーブルを用いなくとも確実に通信が可能である。そのため図12に示すように、模擬リーフ信号出力部543と故障範囲診断部513間が無線にすることで、すでに据え付けられている粒子線治療装置に対しケーブル追加工事をおこなうことなく、部位特定の診断機能の追加が可能となり、現地工事の工数削減が可能となる。
【0071】
以上のように、本発明の実施の形態5にかかる粒子線治療装置によれば、故障範囲診断部513と信号処理部504間の通信を無線により行うようにしたので、ケーブル追加工事のような大掛かりな工事をおこなうことなく、故障範囲の絞り込みを行えるようになる。
【0072】
なお、上記各実施の形態では、実施の形態が進むにつれ、前の実施の形態の機能を累積的に取り入れるような形態となっているが、それに限られることはない。例えば、実施の形態1の粒子線治療装置に対し、実施の形態3と実施の形態2の差分に相当するリーフ制御装置内に模擬信号を出力する機能を追加したような形態をとってもよい。その他、各実施の形態の直前の実施の形態との差分に相当する分を適宜組み合わせてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態1〜5では、故障範囲診断部は、リーフ異常検出部が異常を検出した際に起動し、主系統から補助系統に信号系統の切り換えをおこなうことで、部位の特定(故障範囲診断)をおこなうように構成しているが、故障範囲診断の実行は、治療中の異常発生時に限定する必要はない。例えば、一日の治療が終了した後にリーフを試験的に駆動させて異常部位がないか確認をおこない、異常があれば、故障範囲診断動作を開始(ステップS70)し、故障位置の特定をおこなうことで、夜間の保全作業の短縮化も可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 リーフ制御装置(11 リーフ駆動制御部、12 リーフ異常検出部、 13 故障範囲診断部)、
2 回転ガントリ部、
3 マルチリーフコリメータ部、 4 信号処理部(41 差動変換部、42 信号切替部、43 模擬リーフ信号出力部)、 5 リーフ装置(51 リーフ、52 リーフ駆動部(LG リーフギヤ、DM モータ)。
SD:駆動制御信号、SP:差動リーフ位置信号、SS:模擬リーフ差動信号、SSP:模擬リーフパルス信号、WP:パルス信号、SC:制御信号、SA:応答信号、SR:要求信号。
100位の数字は変形例を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部が回転ガントリ内に設置されるとともに、前記マルチコリメータ部を制御するリーフ制御装置が前記回転ガントリと隔てて設置され、前記マルチコリメータ部と前記リーフ制御装置間の信号入出力が信号ケーブルを介して行われる粒子線治療装置において、
前記マルチリーフコリメータ部は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフと、前記複数のリーフのそれぞれを独立して駆動させる駆動部と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号を前記リーフ制御装置に対して前記信号ケーブルを介して出力する信号処理部とを有し、
前記リーフ制御装置は、前記複数のリーフのそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号を前記マルチコリメータ部に対して前記信号ケーブルを介して出力するリーフ駆動制御部と、前記駆動制御信号と前記リーフ位置信号に基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部とを有し、
リーフ位置が正常であることを示す模擬信号を生成する模擬信号出力部と、所定部分に出力される信号を前記模擬信号または前記リーフ位置信号のいずれかに切替える信号切替部とを有し、前記リーフ異常検出部が前記リーフ位置信号に基づくリーフ位置の異常を検出したときに、前記所定部分に出力する信号を前記模擬信号に切替えて前記リーフ異常検出部にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と前記所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、前記リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部を備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記駆動部のモータの回転を示す信号を前記リーフ位置信号として出力し、
前記リーフ異常検出部は、モータを駆動させる駆動制御信号が出力されたリーフから前記リーフ位置信号が出力されたか否かにより、当該リーフのリーフ位置の異常の有無を検出することを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記模擬信号出力部は、モータを駆動させる駆動制御信号が出力されたリーフ毎に前記模擬信号を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記駆動部のモータの回転に伴い出力されるパルス波形を差動信号に変換し、変換した差動信号を前記リーフ位置信号として出力する差動変換部を有し、
前記故障範囲診断部は、前記差動信号を模擬する模擬信号を前記差動変換部の出力部分に出力することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記故障範囲診断部は、前記駆動部のモータの回転に伴い出力されるパルス波形を模擬する模擬信号を前記駆動部の出力部分に出力することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記故障範囲診断部は、前記模擬信号を前記リーフ駆動制御部に出力することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項1】
粒子線を所定の照射形状に成形するマルチリーフコリメータ部が回転ガントリ内に設置されるとともに、前記マルチコリメータ部を制御するリーフ制御装置が前記回転ガントリと隔てて設置され、前記マルチコリメータ部と前記リーフ制御装置間の信号入出力が信号ケーブルを介して行われる粒子線治療装置において、
前記マルチリーフコリメータ部は、粒子線の中心軸に対して離反または接近方向に移動可能な複数のリーフと、前記複数のリーフのそれぞれを独立して駆動させる駆動部と、駆動したリーフの位置を示すリーフ位置信号を前記リーフ制御装置に対して前記信号ケーブルを介して出力する信号処理部とを有し、
前記リーフ制御装置は、前記複数のリーフのそれぞれの駆動を制御するための駆動制御信号を前記マルチコリメータ部に対して前記信号ケーブルを介して出力するリーフ駆動制御部と、前記駆動制御信号と前記リーフ位置信号に基づいて、リーフ位置の異常の有無を検出するリーフ異常検出部とを有し、
リーフ位置が正常であることを示す模擬信号を生成する模擬信号出力部と、所定部分に出力される信号を前記模擬信号または前記リーフ位置信号のいずれかに切替える信号切替部とを有し、前記リーフ異常検出部が前記リーフ位置信号に基づくリーフ位置の異常を検出したときに、前記所定部分に出力する信号を前記模擬信号に切替えて前記リーフ異常検出部にリーフ位置の異常の有無を再検出させ、再検出時に異常を検出するか否かの結果と前記所定部分の当該装置内での信号入出力における位置とに基づいて、前記リーフ位置の異常の原因となりうる故障部位の範囲を診断する故障範囲診断部を備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記駆動部のモータの回転を示す信号を前記リーフ位置信号として出力し、
前記リーフ異常検出部は、モータを駆動させる駆動制御信号が出力されたリーフから前記リーフ位置信号が出力されたか否かにより、当該リーフのリーフ位置の異常の有無を検出することを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記模擬信号出力部は、モータを駆動させる駆動制御信号が出力されたリーフ毎に前記模擬信号を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記駆動部のモータの回転に伴い出力されるパルス波形を差動信号に変換し、変換した差動信号を前記リーフ位置信号として出力する差動変換部を有し、
前記故障範囲診断部は、前記差動信号を模擬する模擬信号を前記差動変換部の出力部分に出力することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記故障範囲診断部は、前記駆動部のモータの回転に伴い出力されるパルス波形を模擬する模擬信号を前記駆動部の出力部分に出力することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記故障範囲診断部は、前記模擬信号を前記リーフ駆動制御部に出力することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−147592(P2011−147592A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10932(P2010−10932)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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