説明

粒子線照射装置及び治療計画装置

【課題】スキャニング照射における照射野半影帯を縮小し、正常組織への線量寄与を小さくする。
【解決手段】粒子線をスキャニング照射するための粒子線照射装置において、複数のビーム形状を設定するためのビーム形状設定手段(コリメータ32、散乱体34、リッジフィルタ36)と、スキャニング途中でビーム形状を変更するための手段(コリメータ制御装置33、散乱体制御装置35、フィルタ制御装置37)と、を備え、スキャニングポイントに適したビーム形状を選択しながらスキャニング照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線をスキャニング照射するための粒子線照射装置及び治療計画装置に係り、特に、スキャニング照射における照射野半影帯を縮小し、正常組織への線量寄与を小さくすることが可能な粒子線照射装置、及び、この粒子線照射装置に用いる治療計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陽子線、重粒子線等の粒子線を用いた放射線治療装置が注目されている。粒子線の照射法には、照射すべき領域全体を覆うように3次元(横方向x、y、深さ方向z)に拡げたビームを一気に照射する拡大照射法と、3次元的に局所集中した線量分布を持つ粒子線によるスポットビームで腫瘍部(標的部)を3次元的に塗り潰すように照射するスキャニング照射法がある。スキャニング照射で、スポットビームが3次元的に局所集中するスポット位置は、予め治療計画により設定され、横方向と縦方向を水平と垂直の2台の走査電磁石で制御し、深さ方向をエネルギの変更により制御する。これにより複雑な形状の腫瘍部に対しても3次元的形状に合った照射を行なえる。
【0003】
従来のスキャニング照射法では、特許文献1に例示されるように、円形で固定のビームサイズで照射を行なっており、拡大照射法に比べて、複雑なターゲット形状に対応し、ビームの照射時間を変えることによって線量分布に濃淡を付けられるという特徴を有する。
【0004】
【特許文献1】特開2003−126278号公報(段落[0002]、図9)
【特許文献2】特開2001−212253号公報
【特許文献3】特開2006−346120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来は、照射位置や線量等の管理が複雑になることを避けて、ビームサイズにある程度の大きさのものを用いるため、図1(A)に示す如く、プロードビームに比べて照射野半影帯が大きくなり、正常組織への線量寄与が大きくなるという問題点を有していた。
【0006】
なお、特許文献2には、照射対象に応じて複数のスポットビーム径を切り替えることが記載され、特許文献3には、レンジシフタを用いてビームの照射深度を調整することが記載されているが、いずれも1回のスキャニング照射途中でビーム形状を変更するものではなかった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、スキャニング照射における照射野半影帯を縮小し、正常組織への線量寄与を小さくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粒子線をスキャニング照射するための粒子線照射装置において、複数のビーム形状を設定するためのビーム形状設定手段と、スキャニング途中でビーム形状を変更するための手段と、を備え、スキャニングポイントに適したビーム形状を選択しながらスキャニング照射することにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、前記ビーム形状設定手段は、複数の深さ形状、複数の断面形状、複数のスポットサイズのいずれか、又は、これらの組合せを設定することができる。
【0010】
又、前記ビーム形状設定手段を、コリメータ、散乱体、リッジフィルタ、電磁石、スリットの少なくともいずれかとすることができる。
【0011】
又、前記ビーム形状を変更する手段を、コリメータ制御装置、散乱体制御装置、フィルタ制御装置の少なくともいずれかとすることができる。
【0012】
本発明は、又、粒子線を被検体にスキャニング照射する際に用いる治療計画装置において、照射可能な複数のビーム形状を記憶するための手段と、線量分布に応じて、スキャニング途中でビーム形状を変更するように設定するための手段と、を備えたことを特徴とする治療計画装置を提供するものである。
【0013】
ここで、照射野の周辺縁部は小さいビームサイズ、中心部は大きいビームサイズを用いて連続スキャンすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アイソセンターでのビーム形状(例えばスポットサイズ)を、図1(B)に例示する如く、スキャニング途中でb1、b2、b3、b4と変更することにより、照射野半影帯を縮小して、正常組織への線量寄与を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明が適用される治療計画装置及び粒子線照射装置は、図2に示す如く構成される。即ち、まず治療計画装置10で、線量分布に応じて最適なビーム形状を選択し、治療計画を立てる。次に、制御装置20で、ビーム形状変調装置30及びスキャニング照射装置40を制御する。
【0017】
具体的には、図3に示す如く、加速器(図示省略)からのビーム6の形状を、エネルギ変調装置(リッジフィルタ)、コリメータ、電磁石、散乱体、スリット等を含んで構成されるビーム形状変調装置30で変更し、形状変更後のビーム8を、走査電磁石42で走査し、例えば、線量モニタ50を介して患者4に照射する。
【0018】
ここで、ビームのスポットサイズ・形状を変更するために、前記ビーム形状変調装置30には、図4及び図5に示すコリメータ32とコリメータ制御装置33が設けられており、このコリメータ制御装置33を制御することによって、スキャニングの途中でビームのスポットサイズ及び断面形状が変更される。形状変更後のビームは、X方向及びY方向の走査電磁石42X、42Yで走査される。
【0019】
又、ビームの断面形状を変更するために、図6に示す如く、例えば2種類の厚さを持つ散乱体34と、そのビームへの挿入位置を制御するための散乱体制御装置35を設けることができる。この場合には、図7に例示する如く、薄い散乱体34aを挿入してビームの深さ方向ピーク形状を鋭くしたり、厚い散乱体34bを挿入してビーム径を大きくすることができる。
【0020】
又、ビームの深さ方向の厚み(ブラッグピークの幅)を変更するために、図8に示す如く、例えば3種類の高低差を選択可能なリッジフィルタ36と、そのビームへの挿入位置を変えるためのフィルタ制御装置37を設けることができる。この場合には、図9に例示する如く、高低差が中間のフィルタ36bに対して、高低差が大きなフィルタ36aを挿入してブラッグピークの幅を広げたり、高低差が小さなフィルタ36cを挿入してブラッグピークの幅を狭くすることができる。
【0021】
図9に示したような深さ形状が異なるビームをスキャンして、三次元の照射野を形成する。
【0022】
走査ビームの深さ方向線量分布(幾何学的な形状ではなく、一本のビームが寄与する深さ毎の線量)を三角形や四角形に変形した例を、図10(三角形)、図11(四角形)に示す。これらの例のように、専用にデザインされたリッジフィルタを用いることにより、走査ビームの深さ方向線量分布を変化させながら照射野を形成することができる。最適な深さ方向線量分布を持つ走査ビームを用いることにより、スキャニング照射における照射野半影帯を縮小し、正常組織への線量寄与を小さくすることが可能となる。
【0023】
図12に、治療計画の流れを示す。ステップ100でCT画像を入力し、ステップ110で照射範囲を決定し、ステップ120で照射方向を決定し、ステップ130で、本発明を行うために照射野の辺縁を探し、ステップ140で、半影帯が小さくなるような、効率的なスポット形状、照射スポットの配置、及び、ウエイトを決定する。
【0024】
このようにして、図1(B)に例示した如く、スキャニングポイントがビーム垂直面内の照射野辺縁部である場合には、中央部のビームb1に比べてビーム径が小さいビームb2、b3、b4、若しくは照射野の形状に類似した形状のビームを照射し、ビーム深さ方向の照射野辺縁部にはピーク形状が鋭いビームを照射することで、正常組織への線量寄与を減少させることができる。
【0025】
又、スキャニングポイントが照射野中央部の平坦な照射野部分である場合では、ビーム体積の大きなビームを走査させることで、走査スポット数が減り、照射時間を短縮することができる。特に、心臓や肺等の移動性臓器への照射では、照射時間を短縮することにより、正確な線量分布を照射できる。
【0026】
ビームサイズが小さい時(A)と大きい時(B)の線量分布の一例を図13に、ビームサイズを変化させたときの輪郭部の線量分布の一例を図14に示す。
【0027】
なお、前記実施形態においては、ビームのスポットサイズや断面形状を変更するための手段としてコリメータ、散乱体が用いられ、ビームの深さ形状を変更するための手段としてリッジフィルタが用いられていたが、スポットサイズ、断面形状、深さ形状を変更する手段は、これらに限定されず、例えばスリットや電磁石を用いてスポットサイズや形状を変更することも可能である。又、ビーム形状変調装置の挿入位置も走査電磁石の入側に限定されない。
【0028】
更に、図15に示す第2実施形態の如く、ビームプロファイルを検出するための位置モニタ60を設けてビーム位置やビーム径を補正することも可能である。図において、5は、ガン等の病変部、62は、加速器から取り出されたビーム6の飛程を調節するレンジシフタ、64は、ビーム径を変更する四極電磁石である。
【0029】
なお、偏向電磁石として、図では走査電磁石42X、42Yの補正を示しているが、別にステアリング電磁石を設置しても良い。又、電磁石の極数も4に限定されない。
【0030】
更に、照射対象も人間に限定されず、動物であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A)従来のビームサイズ固定の場合と(B)本発明によりビーム形状を変化させた例を比較して示すビームの断面図
【図2】本発明に係る粒子線照射装置の全体構成を示すブロック図
【図3】同じくビームの流れを示す図
【図4】ビーム形状変調装置の一例であるコリメータを示す斜視図
【図5】コリメータの詳細を示す斜視図
【図6】ビーム形状変調装置の一例である散乱体を示す斜視図
【図7】散乱体の厚さによるビーム断面形状の違いを示す図
【図8】ビーム形状変調装置の一例であるリッジフィルタを示す斜視図
【図9】リッジフィルタの高低差の違いによるビーム深さ形状の違いを示す図
【図10】ビーム深さ形状を三角形とした例を示す図
【図11】ビーム深さ形状を四角形とした例を示す図
【図12】本実施形態における治療計画の手順を示す流れ図
【図13】ビームサイズが異なる2つの線量分布を比較して示す図
【図14】同じくビームサイズを変化させたときの輪郭部の線量分布を比較して示す図
【図15】本発明の第2実施形態の全体構成を示す斜視図
【符号の説明】
【0032】
10…治療計画装置
20…制御装置
30…ビーム形状変調装置
32…コリメータ
33…コリメータ制御装置
34…散乱体
35…散乱体制御装置
36…リッジフィルタ
37…フィルタ制御装置
40…スキャニング照射装置
42、42X、42Y…走査電磁石
50…線量モニタ
60…位置モニタ
64…四極電磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線をスキャニング照射するための粒子線照射装置において、
複数のビーム形状を設定するためのビーム形状設定手段と、
スキャニング途中でビーム形状を変更するための手段と、
を備え、
スキャニングポイントに適したビーム形状を選択しながらスキャニング照射することを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
前記ビーム形状設定手段が、複数の深さ形状を設定するようにされている請求項1に記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記ビーム形状設定手段が、複数の断面形状を設定するようにされている請求項1又は2に記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記ビーム形状設定手段が、複数のスポットサイズを設定するようにされている請求項1乃至3のいずれかに記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記ビーム形状設定手段が、コリメータ、散乱体、リッジフィルタ、電磁石、スリットの少なくともいずれかである請求項1乃至4のいずれかに記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記ビーム形状を変更する手段が、コリメータ制御装置、散乱体制御装置、フィルタ制御装置の少なくともいずれかである請求項1に記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
粒子線を被検体にスキャニング照射する際に用いる治療計画装置において、
照射可能な複数のビーム形状を選択するための手段と、
線量分布に応じて、スキャニング途中でビーム形状を変更するように設定するための手段と、
を備えたことを特徴とする治療計画装置。
【請求項8】
照射野の周辺縁部は小さいビームサイズ、中心部は大きいビームサイズで連続スキャンすることを特徴とする請求項7に記載の治療計画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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