説明

粒子線照射装置及び粒子線治療装置

【課題】リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、特許文献2の装置で得られるものと同等な、均一な線量分布を達成することを目的とする。
【解決手段】荷電粒子ビーム1が通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタ6と、荷電粒子ビーム1を偏向する偏向器2と、荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6の前記厚さ分布を通過するように偏向器2を制御する制御器を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子線を用いて癌等を治療する粒子線照射装置及び粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置は、「体の内部奥深くで選択的に効果を発揮する」といった粒子線の特徴を活かした、癌や腫瘍等を治療するための装置であり、その技術内容はさまざまな文献よりうかがい知ることができる(例えば、特許文献1)。
【0003】
粒子線が「体の内部奥深くで選択的に効果を発揮する」ことは、粒子線のもつブラッグピークを有する性質に由来する。特許文献1の図1に示されているように、各種放射線の中、X線、ガンマ線などの質量の小さな放射線ビームは、体の表面に近い部分で相対線量が最大となり、体の表面からの深さが増加するとともにその相対線量は低下する。一方、陽子線、炭素線などの質量の大きな粒子線ビームは体の表面から深い部分でそれらのビームが止まる位置、すなわちその粒子線ビームの飛程の直前に相対線量がピーク値となる。このピーク値が、ブラッグピークBP(Bragg Peak)と呼ばれている。
【0004】
このブラッグピークBPは、簡単に言えば、「体の内部で選択的に効果を発揮する場所は、点のように狭い」ことに相当するが、粒子線ビームを照射目標の全体に一様な線量分布となるように照射したいため、粒子線の「照射野(照射フィールド)の拡大」が行なわれる。
【0005】
照射野拡大は、粒子線の進行方向(Z方向)への拡大と、Z方向と直行する方向(XY平面方向)への拡大がある。本明細書では特許文献1にならって、Z方向への拡大を「深さ方向の照射野拡大」とよび、XY平面方向への拡大を「横方向の照射野拡大」とよぶことにする。
【0006】
典型的なパッシブ方式の横方向照射野拡大に、散乱体法があげられる。散乱体法は、粒子線照射装置の粒子線照射部において粒子線ビームを散乱体に照射することにより、粒子線ビームに横方向の拡がりを持たせ、その中心部分の一様な線量部分を切り取って、目標部位に照射する方法である。散乱体が一枚であると、一様な線量部分を充分に大きくすることができない場合には、2枚の散乱体を用いて一様な線量部分を拡大することもあり、これは二重散乱体法と呼ばれている。
【0007】
典型的なアクティブ方式の横方向照射野拡大に、ペンシルビーム走査法(スキャニングともいう)があげられる。ペンシルビーム走査法は、粒子線照射装置の粒子線照射部の上流部分に設けられた偏向電磁石を用いて粒子線ビームをXY面内で走査し、その粒子線ビームの照射位置を時間とともに移動させることにより、広い照射野を得る方法である。この方法では、一様な線量分布は、細い径のペンシルビームの隣り合う照射スポットを適切に重ね合わせることにより得ることができる。ペンシルビームの走査方法として、時間に対して連続的に走査するラスター法、時間に対してステップ状に走査するスポット法がある。なお、この方法では、粒子線ビームは、通常ペンシルビームと呼ばれる細い径でそのまま目標部位に向けて照射されるが、薄い散乱体を用いてペンシルビームの径を少し拡大することもある。
【0008】
パッシブ方式とアクティブ方式の中間の方式も考えられている。典型的な中間方式の横方向照射野拡大に、ワブラー法があげられる。ワブラー法は、粒子線照射装置の粒子線照
射部の上流部分に設けられる2台の偏向電磁石を用いて、粒子線ビームをドーナツ状に走査させ、このドーナツ状に走査される粒子線ビームを散乱体に照射して、横方向照射野を拡大する方法である。
【0009】
次に、深さ方向の照射野拡大について述べる。前述のように、粒子線ビームの照射方向におけるブラッグピークBPの幅は狭いが、このブラッグピークBPの照射方向における幅を拡大するのが深さ方向の照射野拡大である。この照射方向における幅を拡大したブラッグピークBPは、拡大ブラッグピークSOBP(Spread-Out Bragg Peak)と呼ばれる。
【0010】
典型的なパッシブ方式の深さ方向照射野拡大に、リッジフィルタまたはレンジモジュレータを用いる方法があげられる。リッジフィルタまたはレンジモジュレータは、いずれも粒子線ビームの照射方向において、エネルギー変調器の材料の厚さが変調されている。これらのリッジフィルタまたはレンジモジュールは、その変調された厚さに応じて粒子線ビームのエネルギーを減少させ、エネルギーをその変調された厚さに応じて変化させ、結果として強さの変化する多種のエネルギーが混ざった粒子線ビームを照射目標に向けて照射する。エネルギーの強さに応じて粒子線ビームの飛程が変化するので、多種の飛程を持った粒子線ビームを照射目標に照射することができる。このように、リッジフィルタ又はレンジモジュレータを用いれば、深さ方向に照射野を拡大することができる。しかし、前記多種の飛程は一様であるため、患者の体内へと照射された粒子線は、一様の体内深さ部分で効果を発揮する。簡単な例でこのことを説明する。例えば、加速器によって、ブラッグピークの位置が体内深さ15cmとなるように粒子線が加速されているとする。このとき、リッジフィルタ又はレンジモジュレータを用いると、拡大されたブラッグピークは、一様に例えば体内深さ10cm〜15cmとなるが、患部の形状に拠らず一様な値となってしまうところに問題がある。
【0011】
そこで、リッジフィルタまたはレンジモジュレータを用いるときは、あわせて、ボーラスという装置を利用する。ボーラスは、特許文献1の図2に示すように、ディスタル形状(深さ方向における被治療部位の変化形状)に合わせて、患者毎に加工されたエネルギー変調器であり、ポリエチレンまたはワックスを用いて作られる。このボーラスBLを用いることにより、X、Y平面に一様な照射線量を照射しながら、しかもブラッグピークBPをディスタル形状に合わせることができる。
【0012】
リッジフィルタは、一般的に、例えば特許文献2の図2に示すように、概三角柱を組み合わせた形状を有し、特許文献2の図3のような断面形状であり、特許文献2の図1のように照射系に組み込まれる。
【0013】
リッジフィルタを用いた粒子線治療装置においては、特許文献2などに示されているように、散乱が不十分になる問題が報告されている。粒子線が陽子線である場合は、粒子線が比較的軽いため空気と被照射体とによって充分散乱され、粒子線は照射野において空間的に充分混合され得ることになる。しかし、粒子線が炭素線などの比較的重い粒子の粒子線である場合、散乱が生じ難いため粒子線の飛程終端では均一な照射線量分布とはならず、リッジフィルタ10のリッジの山に相当する位置で線量の谷ができてしまう。つまり、飛程終端位置付近の線量分布には、特許文献2の図4(2)に示すような縞状の周期分布ができてしまうという問題点があった。
【0014】
特許文献2には、上記のリッジフィルタを用いるときに生じる散乱が不十分となる問題に対して、照射野の飛程終端に均一な線量分布を形成することを目的とし、粒子線照射中にこのリッジフィルタを、粒子線の進行方向と直交する方向に駆動させることによって解決する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第WO2006/082651号パンフレット
【特許文献2】特開2007−75245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
たしかに、特許文献2に開示されているように、リッジフィルタを並進もしくは回転により機械的に揺動させることによって、均一な線量分布を効果的に達成することが先行技術として示されている。
【0017】
しかし、例えば特許文献2の図1にみられるように、リッジフィルタは患者に近い場所に設置されており、そのリッジフィルタを駆動させることは、騒音をともない、患者に対して不快感や不安感を与えてしまうという問題点があった。
【0018】
本発明の目的は、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、特許文献2の装置で得られるものと同等な、均一な線量分布を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、荷電粒子ビームがリッジフィルタの前記厚さ分布を通過するように偏向器を制御する制御器を備えた。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る粒子線照射装置は、荷電粒子ビームがリッジフィルタの異なる厚さ分布を通過するように制御されるので、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の粒子線治療装置の概略構成図である。
【図2】図1の粒子線照射装置を示す構成図である。
【図3】図1の粒子線照射装置を示す鳥瞰図である。
【図4】図1の他の粒子線照射装置を示す構成図である。
【図5】本発明の実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図7】本発明の実施の形態4における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における粒子線治療装置の概略構成図である。図2は粒子線照射装置を示す構成図であり、図3は粒子線照射装置の鳥瞰図である。図3(b)は図3(a)のAで示された部分を拡大した図である。粒子線治療装置51は、イオンビーム発生装置52と、イオンビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58bとを備える。イオンビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、シンクロトロン54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリー(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリーを有しない治療室に設置される。イオンビーム輸送系59の役割はシンクロトロン54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。イオンビーム輸送系59の一部は回転ガントリー(図示せず)に設置され、その部分には複数の偏向電磁石55a、55b、55cを有する。
【0023】
イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビーム1は、前段加速器53で加速され、シンクロトロン54に入射される。荷電粒子ビーム1は、所定のエネルギーまで加速される。シンクロトロン54から出射された荷電粒子ビーム1は、イオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置58a、58bに輸送される。粒子線照射装置58a、58bは荷電粒子ビーム1を照射対象(図示せず)に照射する。
【0024】
図2及び図3に基づいて、本発明の実施の形態1における粒子線治療装置の粒子線照射装置の構成について説明する。イオンビーム発生装置52で発生され、所定のエネルギーまで加速された荷電粒子ビーム1は、イオンビーム輸送系59を経由し、粒子線照射装置58へと導かれる。粒子線照射装置58は、ビームの進路を偏向する偏向電磁石2、偏向電磁石3、偏向電磁石4及び偏向電磁石5と、深さ方向の照射野を拡大するリッジフィルタ6と、偏向電磁石2乃至5を制御する制御器(図示せず)と、から構成される。偏向電磁石2乃至5は偏向器であり、偏向電磁石2及び偏向電磁石3はリッジフィルタ6の上流側に配置される上流側偏向器であり、偏向電磁石4及び偏向電磁石5はリッジフィルタ6の下流側に配置される下流側偏向器である。
【0025】
リッジフィルタは、一般的に、例えば特許文献2の図2に示すように、概三角柱を組み合わせた形状を有し、特許文献2の図3のような断面形状である。リッジフィルタは、荷電粒子ビーム1が通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有する。本発明の実施の形態1におけるリッジフィルタ6は、様々な深さ方向の照射野の厚みが実現できるよう、図2及び図3に示すように、異なった高さの概三角注で構成し、すなわち異なる厚さ分布の山を複数有するように構成する。これにより、ビームがリッジフィルタ6のどの場所を通過させるかを制御することによって、深さ方向の照射野の厚みを変えることができる。
【0026】
粒子線照射装置58の動作につて説明する。偏向電磁石2、偏向電磁石3、偏向電磁石4及び偏向電磁石5は、2つの機能のために用いる。1つ目の機能は、荷電粒子ビーム1を偏向し、リッジフィルタ上の通過位置を変えることである。2つ目の機能は、荷電粒子ビーム1を揺動し、線量分布を均一にすることである。この2つの機能を実現するため、本発明の実施の形態1の偏向電磁石2、偏向電磁石3、偏向電磁石4及び偏向電磁石5は、それぞれ荷電粒子ビーム1を走査する方向が同じ方向(図2では左右方向、X方向)になるよう、配置する。偏向電磁石2と偏向電磁石3を組み合わせることで、荷電粒子ビーム1のビーム軸7に平行な平行ビームを得ることができる。偏向電磁石2と偏向電磁石3とで偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きに、偏向電磁石4と偏向電磁石5とで偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きにすることにより、荷電粒子ビーム1を照射目標であるアイソセンタへと導くことができる。図2において、ビーム軸7の方向はZ方向であり、図2の紙面に垂直な方向はY方向である。
【0027】
このように、偏向電磁石2乃至5は荷電粒子ビーム1を走査する方向がすべて同じ方向であるため、ワブラー電磁石の組やスキャニング電磁石の組などの一般的なビーム走査手段と違って、偏向電磁石2乃至5は磁極間の距離をすべて等しくすることができる。したがって、他の偏向電磁石の下流側に設置されていても、磁極間の距離を狭いままにでき、偏向電磁石を駆動する電源を大容量とする必要がない。
【0028】
制御器(図示せず)は、偏向電磁石2と偏向電磁石3とで偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きに、偏向電磁石4と偏向電磁石5とで偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きになるよう、偏向電磁石2乃至5を制御する。これにより1つ目の機能が実現される。また、制御器は、荷電粒子ビーム1を揺動するよう、具体的には図2において荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6の少なくともリッジ1山分の位置関係にある状態aと状態bとを繰り返すよう、すなわち荷電粒子ビーム1aと荷電粒子ビーム1bとを繰り返すよう、偏向電磁石2乃至5を制御する。これにより2つ目の機能が実現される。なお、荷電粒子ビーム1は、ひとつのスポットを照射している時間内に、荷電粒子ビーム1aの状態と荷電粒子ビーム1bの状態との間を少なくとも1回揺動されていればよい。
【0029】
実施の形態1の粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1をリッジフィルタ6の異なる位置を通過するように揺動するので、リッジフィルタ6の駆動を不要にできる。しがたって、リッジフィルタ6を駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、特許文献2の装置で得られるものと同等な、均一な線量分布を達成することができる。
【0030】
実施の形態1の粒子線照射装置58は、リッジフィルタ6の上流側の偏向電磁石を一対の偏向電磁石2及び3で構成したので、荷電粒子ビーム1のビーム軸7に平行な平行ビームを得ることができる。リッジフィルタ6を通過する荷電粒子ビーム1をビーム軸7に平行な平行ビームにすることで、荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6を斜めに通過する場合に比べてビーム径を小さくすることができる。ビーム径を小さくした深さ方向に均一な線量分布を得る場合に有効である。
【0031】
実施の形態1の粒子線照射装置58は、異なる厚さ分布の山を複数有する、すなわち多種類のリッジを有するリッジフィルタ6を備え、荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6を通過する位置を変更するように上流の偏向電磁石2及び3を制御するので、患者毎にリッジフィルタを交換する必要がなく、リッジフィルタ交換の手間が省ける。また、厚みに偏差があるような患部に対してもリッジフィルタ6を通過する位置を変更することで、リッジフィルタ交換時間を省けるので、短時間で照射を行うことができる。
【0032】
実施の形態1の粒子線照射装置58は、リッジフィルタ6の上流側の偏向電磁石を一対の偏向電磁石2及び3と、リッジフィルタ6の下流側の偏向電磁石を一対の偏向電磁石4及び5との二対(上流、下流)の偏向電磁石を用いて、上流側の偏向電磁石で偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きに、下流側の偏向電磁石で偏向する荷電粒子ビーム1の角度を同じ大きさで反対の向きにすることにより、粒子線照射装置58のアイソセンタの変動を防止することができる。アイソセンタが変動しないので、移動したアイソセンタに合わせて患者を移動させることがなく、照射の位置決め時間を短縮することができる。
【0033】
なお、荷電粒子ビーム1を偏向する1つの偏向電磁石2だけで、荷電粒子ビーム1をリッジフィルタ6の異なる位置を通過するように揺動する場合でも、リッジフィルタ6の駆動を不要にできる。図4は他の粒子線照射装置を示す構成図である。荷電粒子ビーム1を偏向し、リッジフィルタ上の通過位置を変え、荷電粒子ビーム1を荷電粒子ビーム1aと荷電粒子ビーム1bとを繰り返すように揺動することで、線量分布を深さ方向に均一にすることができる。図2の粒子線照射装置に比べて、リッジフィルタ6を通過した荷電粒子ビーム1はビーム径が広くなるが、偏向電磁石を少なくすることができるメリットがある。したがって、図4に示した粒子線照射装置は、リッジフィルタ6を駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、特許文献2の装置で得られるものと同等な、均一な線量分布を達成することができる。
【0034】
以上のように実施の形態1の粒子線照射装置58によれば、荷電粒子ビーム1が通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタ6と、荷電粒子
ビーム1を偏向する偏向器2と、荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6の前記厚さ分布を通過するように偏向器2を制御する制御器を備えるので、リッジフィルタ6を駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布を達成することができる。
【0035】
実施の形態1の粒子線治療装置51によれば、荷電粒子ビーム1を発生させ、加速器54により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置52と、イオンビーム発生装置52により加速された荷電粒子ビーム1を輸送するイオンビーム輸送系59と、イオンビーム輸送系59で輸送された荷電粒子ビーム1を照射対象に照射する粒子線照射装置58とを備え、粒子線照射装置58は、荷電粒子ビーム1が通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタ6と、荷電粒子ビーム1を偏向する偏向器2と、荷電粒子ビーム1がリッジフィルタ6の前記厚さ分布を通過するように偏向器2を制御する制御器を有するので、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布の荷電粒子ビームを用いた粒子線治療を実現することができる。
【0036】
なお、荷電粒子ビーム1aと荷電粒子ビーム1bはリッジフィルタ6のリッジの1山分の位置関係にある場合で説明したが、同じ高さの山が連続して複数ある場合には、荷電粒子ビーム1aと荷電粒子ビーム1bとがリッジの1山分以上の位置関係になるように制御器が制御を行えば、均一な線量分布を得ることができる。
【0037】
また、下流側の偏向電磁石で偏向する荷電粒子ビーム1の角度を、上流側の偏向電磁石で偏向する荷電粒子ビーム1の角度とは異なる角度にしても構わない。下流側の偏向電磁石で荷電粒子ビーム1のビーム径を絞るので、小さなビーム径の平行ビームで深さ方向に均一な線量分布を得ることができる。
【0038】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態1の粒子線照射装置とはペンシルビーム走査法で用いる照射系21を有する点で異なる。ペンシルビーム走査法で用いる照射系21は、横方向照射野拡大部20と、荷電粒子ビーム1の通過位置を検出する位置モニタ12a、12bと荷電粒子ビーム1の線量を検出する線量モニタ13を有する。横方向照射野拡大部20は、X方向スキャニング電磁石10とY方向スキャニング電磁石11と、X方向スキャニング電磁石10及びY方向スキャニング電磁石11への制御入力を出力するスキャニング電源(図示せず)を有する。X方向スキャニング電磁石10及びY方向スキャニング電磁石11は、ビーム走査手段である。深さ方向照射野拡大部14は、偏向電磁石2乃至4と、リッジフィルタ6と、図示しない制御器を有する。深さ方向照射野拡大部14は実施の形態1で説明した粒子線照射装置の構成である。
【0039】
横方向照射野拡大部20は、X方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11を用いて、粒子線ビームをXY面内で走査し、その粒子線ビームの照射位置を時間とともに移動させることにより、横方向に広い照射野を得ることができる。
【0040】
実施の形態2の粒子線照射装置58は、深さ方向照射野拡大部14とペンシルビーム走査法で用いる照射系21を有するので、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布で深さ方向及び横方向の照射野拡大を達成することができる。
【0041】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形
態2の粒子線照射装置とはワブラー法で用いる照射系23を有する点で異なる。ワブラー法で用いる照射系23は、横方向照射野拡大部22と、荷電粒子ビーム1の通過位置を検出する位置モニタ12a、12bと荷電粒子ビーム1の線量を検出する線量モニタ13を有する。横方向照射野拡大部22は、X方向ワブラー電磁石15とY方向ワブラー電磁石16と、X方向ワブラー電磁石15及びY方向ワブラー電磁石16への制御入力を出力するスキャニング電源(図示せず)を有する。X方向ワブラー電磁石15及びY方向ワブラー電磁石16は、ビーム走査手段である。図示しないが、散乱体、コリメータ、レンジシフタ、ボーラス等も配置される。
【0042】
横方向照射野拡大部22は、X方向ワブラー電磁石15及びY方向ワブラー電磁石16を用いて、荷電粒子ビーム1をドーナツ状にXY面内で走査させ、このドーナツ状に走査される荷電粒子ビーム1を散乱体に照射することにより、横方向に広い照射野を得ることができる。
【0043】
実施の形態3の粒子線照射装置58は、深さ方向照射野拡大部14とワブラー法で用いる照射系23を有するので、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布で深さ方向及び横方向の照射野拡大を達成することができる。
【0044】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態2の粒子線照射装置とは、ペンシルビーム走査法で用いる照射系24にX方向スキャニング電磁石10がない点で異なる。深さ方向照射野拡大部14の下流側の偏向電磁石4、5をペンシルビーム走査法で用いるX方向スキャニング電磁石としても用い、兼用したものである。この場合、偏向電磁石5はX方向スキャニング電磁石に相当し、偏向電磁石4はX方向スキャニング電磁石に導くように偏向するX方向下流側偏向器に相当する。
【0045】
深さ方向照射野拡大部14の下流側の偏向電磁石4、5をペンシルビーム走査法で用いるX方向走スキャニング磁石に兼用したので、ペンシルビーム走査法で用いる照射系24におけるスキャニング電磁石は、Y方向スキャニング電磁石11のみで、実施の形態4の粒子線照射装置はペンシルビーム走査法を実現できる。
【0046】
実施の形態4の粒子線照射装置58は、実施の形態2に比べて小型にすることができる。したがって、実施の形態2に比べて小型の粒子線照射装置で、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布で深さ方向及び横方向の照射野拡大を達成することができる。
【0047】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態3の粒子線照射装置とは、ワブラー法で用いる照射系25にX方向ワブラー電磁石15がない点で異なる。深さ方向照射野拡大部14の下流側の偏向電磁石4、5をワブラー法で用いるX方向ワブラー電磁石としても用い、兼用したものである。この場合、偏向電磁石5はX方向ワブラー電磁石に相当し、偏向電磁石4はX方向ワブラー電磁石に導くように偏向するX方向下流側偏向器に相当する。
【0048】
深さ方向照射野拡大部14の下流側の偏向電磁石4、5をワブラー法で用いるX方向ワブラー電磁石に兼用したので、ワブラー法で用いる照射系25におけるワブラー電磁石は、Y方向ワブラー電磁石16のみで、実施の形態5の粒子線照射装置はワブラー法を実現できる。
【0049】
実施の形態5の粒子線照射装置58は、実施の形態3に比べて小型にすることができる。したがって、実施の形態3に比べて小型の粒子線照射装置で、リッジフィルタを駆動することに伴う騒音をなくし、患者に対して不快感や不安感を与えることなく、均一な線量分布で深さ方向及び横方向の照射野拡大を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明に係る粒子線照射装置および粒子線治療装置は、医療用や研究用に用いられる粒子線治療装置に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 荷電粒子ビーム 1a 荷電粒子ビーム
1b 荷電粒子ビーム 2 偏向電磁石
3 偏向電磁石 4 偏向電磁石
5 偏向電磁石 6 リッジフィルタ
7 ビーム軸 10 X方向スキャニング電磁石
11 Y方向スキャニング電磁石 15 X方向ワブラー電磁石
16 Y方向ワブラー電磁石 52 イオンビーム発生装置
54 シンクロトロン 58 粒子線照射装置
58a 粒子線照射装置 58b 粒子線照射装置
59 イオンビーム輸送系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器により加速された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置であって、
前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、前記荷電粒子ビームを偏向する偏向器と、前記荷電粒子ビームが前記リッジフィルタの前記厚さ分布を通過するように前記偏向器を制御する制御器を備えた粒子線照射装置。
【請求項2】
前記偏向器は、前記荷電粒子ビームが入射するビーム軸から離れる向きに偏向する第1の上流側偏向器と、前記第1の上流側偏向器の下流側に配置され、前記荷電粒子ビームを前記ビーム軸に平行な向きに偏向する第2の上流側偏向器を有することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記リッジフィルタの下流側に前記荷電粒子ビームを偏向する下流側偏向器を有し、
前記下流側偏向器は、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビーム軸の方へ偏向する第1の下流側偏向器と、前記第1の下流側偏向器の下流に配置され、前記荷電粒子ビームを前記ビーム軸に平行な向きに偏向する第2の下流側偏向器を有することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記下流側偏向器は、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビーム軸に一致させることを特徴とする請求項3記載の粒子線照射装置。
【請求項5】
前記リッジフィルタの下流側に、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビーム軸に交差するXY面内で走査するビーム走査手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項6】
前記下流側偏向器の下流側に、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビーム軸に交差するXY面内で走査するビーム走査手段を有することを特徴とする請求項3または4に記載の粒子線照射装置。
【請求項7】
前記ビーム走査手段は、前記荷電粒子ビームをX方向に走査するX方向スキャニング電磁石と、前記荷電粒子ビームをY方向に走査するY方向スキャニング電磁石を有することを特徴とする請求項5または6に記載の粒子線照射装置。
【請求項8】
前記ビーム走査手段は、前記荷電粒子ビームが前記ビーム軸を中心に回転させるX方向ワブラー電磁石及びY方向ワブラー電磁石を有することを特徴とする請求項5または6に記載の粒子線照射装置。
【請求項9】
前記リッジフィルタの下流側に、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビーム軸に交差するXY面内で走査するビーム走査手段を有し、
前記ビーム走査手段は、前記リッジフィルタの側に配置され、前記荷電粒子ビームをX方向に走査するX方向ビーム走査手段と、前記荷電粒子ビームをY方向に走査するY方向スキャニング電磁石を有し、
前記X方向ビーム走査手段は、前記荷電粒子ビームをX方向に走査するX方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の上流に配置され、前記リッジフィルタを通過した荷電粒子ビームを前記X方向スキャニング電磁石に導くように偏向するX方向下流側偏向器を有する請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項10】
前記リッジフィルタの下流側に、前記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームが入射するビ
ーム軸に交差するXY面内で走査するビーム走査手段を有し、
前記ビーム走査手段は、前記荷電粒子ビームが前記ビーム軸を中心に回転させるX方向ワブラー電磁石及びY方向ワブラー電磁石を有し、
前記X方向ワブラー電磁石は前記リッジフィルタの側に配置され、
前記X方向ワブラー電磁石の上流に配置され、前記リッジフィルタを通過した荷電粒子ビームを前記X方向ワブラー電磁石に導くように偏向するX方向下流側偏向器を有する請求項1または2に記載の粒子線照射装置。
【請求項11】
前記リッジフィルタは前記異なる厚さ分布の山を複数有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。
【請求項12】
荷電粒子ビームを発生させ、前記加速器により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置と、前記イオンビーム発生装置により加速された荷電粒子ビームを輸送するイオンビーム輸送系と、前記イオンビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置とを備え、
前記粒子線照射装置は、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の粒子線照射装置であることを特徴とする粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115563(P2011−115563A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225607(P2010−225607)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】