説明

粒子線照射装置及び粒子線照射方法

【課題】粒子ビームの径が小さい照射において、線量分布一様度の劣化を防止できる粒子線照射装置及び粒子線照射方法を提供することにある。
【解決手段】粒子線治療装置は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置5と、加速器2と、それらをつなぐ輸送系3とからなる。患部位置における患部サイズの高線量領域の形成する際に、患部サイズの高線量領域を複数の小サイズの高線量領域に分割して行う。エネルギー分布拡大装置部15は、小サイズの高線量領域を形成する際に用いられ、小サイズの高線量領域に対して、さらに分割されたサイズの高量領域を形成する。レンジシフタ16Bは、エネルギー分布拡大装置部15による照射に際し、粒子線の飛程を変える。レンジシフタ16Bにより飛程を変える毎にビーム照射して、複数回のビーム照射により小サイズの高量領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射装置及び粒子線照射方法に係り、特に、リッジフィルタを用いて線量分布の中で線量の高い領域を形成するのに好適な粒子線照射装置及び粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療システムは、がん治療の有効な手段の一つであり、今後、盛んに用いられる見込みである。粒子線治療では、患者の患部(標的領域)の線量分布を均一あるいは予め決められた分布に制御することが求められている。
【0003】
線量分布を均一等に制御する方法として、粒子ビームの進行方向に垂直な面(照射野)に、散乱体を用いて粒子ビームを広げる方法や、粒子ビーム半径の小さいビームを用いて照射野面を走査する方法がある。
粒子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、粒子ビームが停止する直前にエネルギーの大部分を放出してブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する特性と、そのブラッグカーブのピークであるブラッグピークの、深さ方向での位置は体内に入射する粒子ビームのエネルギーの大きさで制御できる特性を利用する。粒子線治療では、粒子ビームのエネルギーを適切に選択し、粒子ビームを患部近傍で停止させてエネルギーの大部分を患部のがん細胞に与えるようにしている。ここで、ブラッグピークの、深さ方向での幅は数mmである。通常、患部は深さ方向にそれ以上の厚みをもっている。このような患部において患部全体の深さ方向に渡って粒子線を効果的に照射するには、深さ方向で患部大に広がり一様度の高い高線量領域(SOBP;Spread Out Bragg Peak)を形成するように、粒子ビームのエネルギーと粒子ビームの照射量を制御する必要がある。
【0004】
粒子ビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の形成には、リッジフィルタやRMW(Range Modulation Wheel)を用いる方法、あるいは、加速器からのビームエネルギー種を変える方法で、SOBPを形成することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ここで、非特許文献1記載のSOBPの形成法では、リッジフィルタやRMWは、粒子ビームの照射で深さ方向にSOBPを1度に作ることができるが、患部形状が深さ方向に変化する患部では、患部以外に照射することになる。そのため、この方法では、形成するSOBP幅の大きさに対応したリッジフィルタやRMWを準備しておく必要があり、多数個を用意しておく必要がある。また、加速器からのビームエネルギーを変える方法では、患部形状に合わせて照射することが可能であるが、この方法では多数のエネルギー種を用意する必要がある。
【0006】
また、リッジフィルタを用いる別の方法として、患部を積層に分割して照射する方法、すなわち、患部の分割に応じた幅の小さいSOBP(患部大のSOBPと区別するために、以下、これを「線量分布幅の小さいSOBP」若しくは「幅の小さいSOBP」と称する)を複数個作り、それを合わせて、患部形状に合うSOBPを形成する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
非特許文献2記載の方法は、線量分布幅の小さいSOBPをつなぎ合わせて、患部大のSOBPを生成するので、SOBPの長さに応じたリッジフィルタを用意する必要がなく、リッジフィルタの個数を低減することができる。また、この照射を行うための線量分布幅の小さいSOBPの形成には、複数個のブラッグピーク幅を拡大して、また、ピーク強度を調整したエネルギー分布拡大装置(リッジフィルタ等の深さ方向にエネルギーを拡大する装置の総称)を用いる。
【0008】
【非特許文献1】W. T. Chu, B. A. Ludewigt and T. R. Renner, Rev. Sci. Instrum. 64, 2055-2122, 1993
【非特許文献2】B.Schaffner, et al. Med. Phys. 27 (4), 716-724, April 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エネルギー分布拡大装置は、粒子ビームの径が小さくなると、線量分布の形成の点から、エネルギー分布拡大装置の各段の幅を小さくする必要がある。すなわち、小さい径の粒子ビームに、エネルギー分布拡大装置を用いる場合、エネルギー分布拡大装置の、各段当たりの厚さや幅を小さくする必要がある。エネルギー分布拡大装置の段数が多いと、各段当たりの厚さや幅が更に小さくなり、加工性が低下する。加工性が悪いと所望の線量分布一様度から一様度が悪くなるという影響が出る。
【0010】
本発明の目的は、粒子ビームの径が小さい照射において、線量分布一様度の劣化を防止できる粒子線照射装置及び粒子線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と、それらをつなぐ輸送系とからなり、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成する際に、患部サイズの高線量領域を複数の小サイズの高線量領域に分割して行う粒子線治療装置であって、前記小サイズの高線量領域を形成する際に用いられ、前記小サイズの高線量領域に対して、さらに分割されたサイズの高線量領域を形成するエネルギー分布拡大手段と、前記エネルギー分布拡大装置による照射に際し、粒子線の飛程を変える飛程変更手段とを備え、前記飛程変更手段により飛程を変える毎にビーム照射して、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成するようにしたものである。
かかる構成により、粒子ビームの径が小さい照射において、線量分布一様度の劣化を防止できるものとなる。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記飛程変更手段は、レンジシフタである。
【0013】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記レンジシフタは、粒子線の異なる飛程に調整する複数個のレンジシフタと、これらのレンジフタを搭載する架台とから構成され、前記架台を移動することで、レンジシフタを交換するものである。
【0014】
(4)上記(2)において、好ましくは、前記エネルギー分布拡大装置は、その段数とその幅を低減したエネルギー分布拡大装置である。
【0015】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記エネルギー分布拡大装置は、階段状に構成されたリッジフィルタから構成され、前記リッジフィルタの最下段(最下段は加速したビームのままで何も物質を通過させない)から、その上に、高さHの段を高さがN・H(Nは整数)の段を1段以上積み重ねた構成であり、最上段の幅Wに対して、その下の段の幅を、順次広がるように構成し、前記飛程変更手段は、前記リッジフィルタの段の高さHに相当する分の飛程(水等価厚さが同じである飛程)を変えて、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成するようにしたものである。
【0016】
(6)また、上記目的を達成するために、本発明は、加速器によって加速された粒子線を、粒子線照射装置により標的領域に照射し、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成する際に、患部サイズの高線量領域を複数の小サイズの高線量領域に分割して行う粒子線治療方法であって、前記小サイズの高線量領域を形成する際に、前記小サイズの等線量領域に対して、さらに分割されたサイズの高線量領域を形成し、該分割されたサイズの高線量領域の照射に際し、粒子線の飛程を変え、粒子線の飛程を変える毎にビーム照射して、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成するようにしたものである。
かかる方法により、粒子ビームの径が小さい照射において、線量分布一様度の劣化を防止できるものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粒子ビームの径が小さい照射において、線量分布一様度の劣化を防止し得るものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による粒子線治療システムの構成について説明する。ここでは、粒子線照射装置として、陽子線治療システムを例にして説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムのシステム構成図である。
【0019】
イオン源で発生したイオン(例えば、陽イオン(または炭素イオン))は、前段加速器(例えば直線加速器)1で加速される。前段加速器1から出射されたイオンビームは、加速器2に入射される。このイオンビームは、加速器2で、高周波加速空胴から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。
【0020】
加速器2の内部を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギーまでに高められた後、出射用の高周波印加装置から高周波がイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、高周波印加装置による高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタを通って加速器2から出射される。イオンビームの出射の際には、加速器2に設けられた四極電磁石及び偏向電磁石等の電磁石に導かれる電流が設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置への高周波電力の印加を停止することによって、加速器2からのイオンビームの出射が停止される。
【0021】
加速器2から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系3を経て陽子線照射装置5に達する。ビーム輸送系3の一部である逆U字部及び陽子線照射装置5は、回転可能なガントリー4に設置される。イオンビームを照射する対象である患者7は、患者カウチ8の上で陽子線照射装置5の下に位置決めされる。陽子線照射装置5の詳細構成については、図2を用いて後述する。
【0022】
走査電磁石磁場制御システム10は、陽子線照射装置5に備えられた走査電磁石に供給する電力を制御して、走査磁場を形成し、イオンビームを走査する。照射制御システム9は、陽子線照射装置5に備えられたリッジフィルタ等をイオンビームへの挿入を制御する。
【0023】
次に、図2を用いて、本実施形態による粒子線治療システムに用いる粒子線照射装置の構成について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる粒子線照射装置の構成図である。
【0024】
陽子線照射装置には、加速器側から陽子ビーム11が入射する。陽子線照射装置は、ビームプロファイル等のモニタ12と、陽子ビームの走査電磁石13と、陽子ビーム径を広げる散乱体14と、エネルギー分布拡大装置部15と、レンジシフタ16A,16Bと、線量モニタ17と、ブロックコリメータ18と、マルチリーフコリメータ19と、制御装置21と、エネルギー分布拡大装置駆動部22と、レンジシフタ駆動部24A,24Bとを備えている。符号20は、患者に陽子ビームを当てる中心になるアイソセンタである。
散乱体14は、陽子ビーム11のビーム径を広げるために用いられる。ビーム半径が小さいとビーム利用効率が大きくなるが、ビーム位置精度が厳しくなる。逆に、ビーム半径が大きいとビーム利用効率が小さくなるが、ビーム位置精度は緩和される。ここでは、散乱体14によって広げられたビーム半径としては、ペンシルビーム径より大きいものを用いる。
【0025】
陽子ビームの進行方向に垂直な照射野へ照射する方法としては、走査電磁石13を用いた、陽子ビームのスポット走査あるいはラスター走査、多重のワブラー走査、また、2重散乱体を用いる方法がある。
【0026】
エネルギー分布拡大装置部15は、線量分布幅の小さいSOBPをつなぎ合わせて、患部大のSOBPを生成するので、線量分布幅の小さいSOBPを形成するのに必要なリッジフィルタが備えられている。エネルギー分布拡大装置部15は、幅の異なる小さいSOBPを形成するための複数のリッジフィルタを備えている。エネルギー分布拡大装置駆動部22は、制御装置21からの制御指令に基づいて、陽子ビーム中に挿入するエネルギー分布拡大装置の種類(異なる幅のSOBPを形成するためのリッジフィルタの種類)を交換する。
【0027】
本実施形態では、2種類のレンジシフタ16A,16Bを備えている。
【0028】
レンジシフタ16Aは、線量分布幅の小さいSOBPを生成するエネルギー分布拡大装置で生成される線量分布幅の小さいSOBPの体表からの位置をシフトするのに用いられる。線量分布幅の小さいSOBPのシフト量が、6mm,12mm,18mm等である場合には、レンジシフタ16Aは、例えば、それぞれに応じた厚さの異なるレンジシフタ板から構成される。ただし、シフト量を6mm以外にしたい場合もあるため、レンジシフタ板の厚さは、2倍毎に厚さを増やしていくバイナリー方式を用い、例えば、1mm、2mm、4mm、8mm、16mm、32mm、…を用いている。例えば、2mmと4mmのレンジシフタ板を用いると、6mmとなり、4mmと8mmのレンジシフタ板を用いると、12mmとなる。
【0029】
さらに、本実施形態では、線量分布幅の小さいSOBPを、さらに線量幅の小さいSOBPを重ね合わせて生成するようにしているため、この重ね合わせの際のシフト用に用いられる。重ね合わせの際のシフト量は、線量分布幅の小さいSOBPのシフト量(例えば、6mm)よりも小さな値であり、例えば、1mm,2mm等である。従って、レンジシフタ16Bは、例えば、それぞれに応じた厚さの異なるレンジシフタ板から構成される。ただし、シフト量を1mm以外にしたい場合もあるため、レンジシフタ板の厚さは、2倍毎に厚さを増やしていくバイナリー方式を用いるようにする。
【0030】
レンジシフタ駆動部24A,24Bは、制御装置21からの制御指令に基づいて、陽子ビーム中に挿入するレンジシフタ板を選択し、陽子ビーム中に挿入する。
【0031】
次に、図3〜図5を用いて、本実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置15の構成及び動作について説明する。
最初に、図3を用いて、エネルギー分布拡大装置により形成されるSOBPについて説明する。
【0032】
図3は、エネルギー分布拡大装置により形成されるSOBPの説明図である。
【0033】
患部サイズのSOBPは、複数の小さいSOBPから構成される。小さいSOBPの生成には、エネルギー分布拡大装置15にビームを照射して行なう。第1の小さいSOBPを生成した後、レンジシフタ16Aにより、体表からの位置をシフトして、第2の小さいSOBPを生成する。ここで、レンジシフタ16Aによるシフト量をSF1とする。なお、図3には、SF1=H2と記載しているが、H2については、後述する。
【0034】
次に、図4及び図5を用いて、本実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置15の構成及び動作について説明する。なお、ここでは、従来のエネルギー分布拡大装置との相違がわかりやすいように、従来のエネルギー分布拡大装置の構成と対比して説明する。
【0035】
図4は、比較例である従来のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。図5は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能図である。
【0036】
最初に、図4を用いて、従来のエネルギー分布拡大装置について説明する。
【0037】
図4(a)に示すように、小さいSOBPを生成する際、例えば、図4(b)に示すような6段のリッジフィルタを用いる。なお、最近用いられているリッジフィルタは、10数段を有しているが、ここでは、説明の簡単のため、6段として説明する。
【0038】
図4(b)に示すように、6段のリッジフィルタの場合(最下段も1段と数える)、最下段の幅は最も広く、幅W2である。また、最上段の幅が最も狭く、幅W1である。
【0039】
また、リッジフィルタの各段の高さをH1とすると、図示するリッジフィルタの高さH2は、5・H1となっている。
【0040】
ここで、図4(b)に示すように、ビームは各段のリッジフィルタを通過する際、最下段を通過するビームに対して、最上段を通過するビームは、高さ5・H1分のフィルタの影響を受ける。したがって、リッジフィルタの段数によって、ビームの飛程が異なる。図4(a)において、P1は、最下段により形成されるブラッグカーブを示している。P2は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示している。最下段のブラッグカーブのピークと、下から2段目のブラッグカーブのピークの位置は、図4(a)に示すように、ずれている。このずれは、リッジフィルタの1段分の高さH1による飛程のずれ(水等価厚さでの飛程)である。図4(b)に示した6段のリッジフィルタを用いることで、図4(a)に示すように、互いにピーク位置のずれた6個のブラッグカーブP1,P2,P3,P4,P5,P6が得られる。これらの6個のブラッグカーブを合成すると、図4(a)に示す小さいSOBPを得ることができる。
【0041】
ここで、図3に示したように、第1の小さいSOBPを生成した後、レンジシフタ16Aにより、体表からの位置をシフトして、第2の小さいSOBPを生成する際、レンジシフタ16Aによるシフト量をSF1は、H2である。すなわち、図4(b)に示した6段のリッジフィルタの全体の高さH2(=5・H1)である。H2は水等価厚に換算した値であり、作成するリッジフィルタの材質により、その高さは異なる。
【0042】
図4(c)は、図4(b)に示す6段のリッジフィルタを用いて、3回照射した場合に患部に照射される照射線量を示している。1回目の照射を行い、その後同じ状態で2回目の照射をすることで、患部への照射線量は2倍となる。また、その後同じ状態で3回目の照射をすることで、患部への照射線量は3倍となる。このように、複数回の照射を繰り返すリペイント照射により、患部に必要な線量を照射することができる。
【0043】
次に、図5を用いて、本実施形態によるエネルギー分布拡大装置について説明する。
【0044】
図5(a)に示すように、小さいSOBPを生成する際、例えば、図5(b)に示すような2段のリッジフィルタを用いる。なお、図5(a)に示す小さいSOBPは、図4(a)に示す小さいSOBPと同じものである。
【0045】
図5(b)に示すように、2段のリッジフィルタの場合、最下段は、図4(b)の場合と同じ(最下段は加速したビームのままで何も物質を通過させない)である。下から2段目のリッジフィルタの高さH3は、3・H1としている。
【0046】
また、最下段の幅も最も広く、幅W2であり、この幅W2は、図4(b)に示した6段のリッジフィルタの幅W2と同じである。また、下から2段目の幅W3は、図4(b)に示す例で言うと、最上段、最上段から2段目、最上段から3段目の照射面の合計と同じ幅としている。2段目の上面から最下段の面までの高さH3は3・H1である。
【0047】
ここで、図5(b)に示すように、ビームは各段のリッジフィルタを通過する際、最下面を通過するビームに対して、下から2段目を通過するビームは、高さ3・H1分のフィルタの影響を受ける。したがって、リッジフィルタの段数によって、ビームの飛程が異なる。図5(a)において、P11は、最下面により形成されるブラッグカーブを示している。P12は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示している。最下段のブラッグカーブのピークP11と、下から2段目のブラッグカーブのピークP12の位置は、図5(a)に示すように、ずれている。このずれは、リッジフィルタの3段分の高さ3・H1による飛程のずれ(水等価厚に換算した値)である。
【0048】
また、図5(b)において、P21は、飛程をH1分ずらしたときに、最下段により形成されるブラッグカーブを示し、P22は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示している。飛程をH1ずらすには、図2に示したレンジシフタ16Bを用いる。さらに、また、図5(b)において、P31は、飛程をさらにH1分ずらしたときに、最下段により形成されるブラッグカーブを示し、P32は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示している。P11,P12のブラッグカーブに対して飛程を2・H1ずらすには、図2に示したレンジシフタ16Bを用いる。
【0049】
このように、図5(b)に示した2段のリッジフィルタと、飛程を2種類変えられるレンジシフタを用いることで、図5(a)に示すように、互いにピーク位置のずれた6個のブラッグカーブP11,P21,P31,P12,P22,P32が得られる。これらの6個のブラッグカーブを合成すると、図5(a)に示す小さいSOBPを得ることができ、このとき得られる小さいSOBPは、図4(b)に示した6段のリッジフィルタによる図4(a)に示した小さいSOBPと同じものとできる。
【0050】
ここで、図3に示したように、第1の小さいSOBPを生成した後、レンジシフタ16Aにより、体表からの位置をシフトして、第2の小さいSOBPを生成する際、レンジシフタ16Aによるシフト量SF1は、H2である。すなわち、図4(b)に示した6段のリッジフィルタの全体の高さH2(=5・H1)である(水等価厚に換算した値である)。
【0051】
レンジシフタ16Aとレンジシフタ16Bのシフト量についてみると、レンジシフタ16Aのシフト量はH2(=5・H1)であるの対して、レンジシフタ16Bのシフト量は、H1,2・H1であり、レンジシフタ16Aのシフト量よりも小さくしている。
【0052】
図5(c)は、図5(b)に示す2段のリッジフィルタを用いて、レンジシフタ16Bにより2回シフトしながら、合計3回照射した場合に患部に照射されるエネルギーを示している。この照射により、図4(c)に示した場合と同様に、患部に必要な照射線量を照射することができる。つまり、一つの照射面を複数回照射するリペイントの場合、1回当たりの照射の電荷量(線量)は従来と同じにでき、照射時間も同じにできる。
【0053】
これは、照射量が図4の場合と同じ時、図4の例では1回分の照射量が6個に分割されるが、図5に示す本実施形態では2個に分割さるので、ブラッグカーブP11,P12の強度が、図4の3倍になっているからである。なお、シフト量を変えるには、レンジシフタ16Bを挿入する代わりに、加速器エネルギーを変えることもできる。
【0054】
図5に示した本実施形態のリッジフィルタは、最下面の上に、階段状に積層した構成とする。図5の例では、2段である。ただし、実際には階段状の構造は、ブロックからの削りだしによるため、一体的な構造である。ここで、段の高さをH1とするとき、その上に積層される段の高さは、N・H1とする。Nは整数であり、図5の例では、3である。また、本実施形態では、レンジシフタ16Bを併用する。レンジシフタ16Bは、小さいSOBPをシフトするときに用いるレンジシフタ16Aのシフト量5・H1よりも小さく、段の高さH1を用いて、P・H1とする。Pは正の整数であり、図5の例では、1,2である。
【0055】
次に、図6を用いて、本実施形態による粒子線照射装置に用いるレンジシフタ16Bの構成について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置に用いるレンジシフタの構成を示す平面図である。
【0056】
架台16BFは、支持具16Sによって3分割されている。分割された3つの領域のうち2つには、厚さの異なるレンジシフタ16B1,16B2が設置されている。残りの一つの領域は、レンジシフタは設置されてない素通しのブランク領域BLKである。例えば、レンジシフタ16B1は、厚さH1であり、飛程をH1だけ変えられるレンジシフタである。レンジシフタ16B2は、厚さ2・H1であり、飛程を2・H1だけ変えられるレンジシフタである。
【0057】
ここで、レンジシフタ16Bのブランク領域BLKを挿入し、図5(b)に示したリッジフィルタにより、図5(a)のピークP11,P12を形成する。次に、架台16BFを回転することで、ビーム中にレンジシフタ16Bの厚さH1のレンジシフタ16B1を挿入し、図5(b)に示したリッジフィルタにより、図5(a)のピークP21,P22を形成する。次に、ビーム中にレンジシフタ16Bの厚さ2・H1のレンジシフタ16B2を挿入し、図5(b)に示したリッジフィルタにより、図5(a)のピークP31,P32を形成する。これにより、図5(a)に示した小さいSOBPを形成することができる。
【0058】
ここで、支持具16Sの幅を小さく押さえることで、交換に要する時間を短縮することができる。レンジシフタ16B1,16B2を通過するビームは、レンジシフタ内のどこを通過してもよいので、レンジシフタの交換時には、回転の助走をつけて、回転時間を更に短縮することもできる。レンジシフタの交換は、照射するスピルとスピルの間、あるいは、照射しているスピル中に、交換する。レンジシフタの交換は、架台の回転だけではなく、平行移動して交換することもできる。レンジシフタのセットは、複数個用意しておいて、その組み合わせでレンジシフタの厚さを決めるバイナリー方式を適用することもできる。
【0059】
また、図2に示した例では、2種類のレンジシフタ16A,16Bを示している。レンジシフタ16Aは、6・H1,12・H1,18・H1…のシフト量を有し、レンジシフタ16Bは、H1,2・H1のシフト量を備える。従って、H1を基準としてバイナリー方式を用いて、H1,2・H1,6・H1,12・H1,18・H1…のシフト量を可能とすれば、レンジシフタ16Aとレンジシフタ16Bを一体化することができる。
【0060】
従来、リッジフィルタの段数が増えるほど、各段当たりの厚さや幅が更に小さくなり、加工性が低下する。加工性が悪いと所望の線量分布一様度から一様度が悪くなるという影響が出る。
【0061】
それに対して、本実施形態では、従来よりも段数を少なくして、レンジシフタの併用により、従来と同等の小さいSOBPを形成することができる。従って、段数が少なくなった分、加工性が向上するため、所望の線量分布一様度を得ることができる。
【0062】
次に、図7を用いて、本実施形態による粒子線照射装置におけるSOBPの形成時の動作について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置におけるSOBPの形成時の動作を示すフローチャートである。
【0063】
ステップ50において、治療計画装置は、標的領域の位置、大きさをX線CT等で測定し、患者の標的領域の位置、大きさを決定する。
【0064】
次に、ステップ51において、粒子線照射装置の操作者は、用いるエネルギー分布拡大装置の種類を決定する。これから、小さいSOBPの幅が決まり、標的領域大のSOBPを積層に分割する分割数が決まる。次に、使用するエネルギー分布拡大装置の順番、小さいSOBP毎に対応して照射する照射線量を決定する。次に、標的領域の体表からの深さ位置に合わせて、用いるビームエネルギー種と使用する順番を決定する。加速器で準備しているビームエネルギー種の中で、体表からのビームの到達位置に適合するものがない場合には、飛程調整用のレンジシフタで調節する。用いるレンジシフタを決定する。各積層の照射野の形状に合わせて、マルチリーフコリメータをセットする順番を決める。使用する各エネルギー分布拡大装置で小さいSOBPを生成するのに必要なレンジシフタを決定する。なお、以下の説明では、小さいSOBPを生成する際に照射するビームのエネルギーをレンジシフタで変える場合について説明するが、加速器のエネルギーを変えることでも達成できる。
【0065】
次に、ステップ52において、照射制御システム9は、上記の飛程調整用のレンジシフタをセットする。
【0066】
更に、ステップ53において、照射制御システム9は、上記で使用する順番を定めたエネルギー分布拡大装置をセットする。
【0067】
次に、ステップ54において、照射制御システム9は、上記で使用する順番を定めたビームエネルギー種をセットする。
【0068】
さらに、ステップ55において、照射制御システム9は、上記で定めたマルチリーフコリメータをセットする。
【0069】
この条件で、次に、ステップ56において、照射制御システム9は、小さいSOBPを生成するのに必要なレンジシフタをセットし、ステップ57において、ビームを照射する。
【0070】
そして、ステップ58において、照射制御システム9は、小さいSOBPを生成するまで、ステップ56からステップ58を繰り返し、小さいSOBPを生成するのに必要なレンジシフタを交換してはセットし、これを行なう。
【0071】
次に、ステップ59において、照射制御システム9は、線量モニタ等のモニタで、線量を測定して、予め決めた照射線量に達しているかを判断する。達していない場合には、ステップ56に戻り、満了になるまでリペイント照射を繰り返し行い、その層での線量が満了にする。
【0072】
照射線量が満了すると、ステップ60において、照射制御システム9は、エネルギー分布拡大装置を用いて照射位置を変更して小さいSOBPが形成するかを判断する。照射位置を変更して照射する場合には、ビームエネルギーを変更し、マルチリーフコリメータを変更して照射する、ステップ54〜ステップ60を繰り返す。
【0073】
次に、ステップ61において、照射制御システム9は、エネルギー分布拡大装置を交換して、次の照射をするかを判断する段階に進む。予め決めたエネルギー分布拡大装置の使用順番に従って、エネルギー分布拡大装置を交換して次の照射をする場合、エネルギー分布拡大装置をセットする。
【0074】
以下、上記と同様のステップを繰り返す。予め決めたエネルギー分布拡大装置の使用順番に従って、次の照射をする必要がないと判断すると、ビーム照射は終了となる。これで、粒子線照射装置による標的領域大のSOBPの形成が終了となる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、エネルギー分布拡大装置の段数が減り、各段当たりの厚さ、幅を大きくすることができ、加工性が向上する。このように、エネルギー分布拡大装置の段数を多くすることなく、エネルギー分布拡大装置を製作できるので、線量分布を悪化させることなく、所望の線量分布を得ることができる。
【0076】
次に、図8及び図9を用いて、本発明の第2の実施形態による粒子線照射装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による粒子線治療システムの構成は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による粒子線治療システムに用いる粒子線照射装置の構成は、図2に示したものと同様である。
【0077】
図8は、比較例である従来のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。図9は、本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能図である。
【0078】
最初に、図8を用いて、従来のエネルギー分布拡大装置について説明する。なお、図8(a)と、図8(b)は、図4(a)と、図4(b)と同じものである。
【0079】
図8(c)は、図8(b)に示す6段のリッジフィルタを用いて、2回照射した場合に患部に照射されるエネルギーを示している。1回目の照射を行い、その後同じ状態で2回目の照射をすることで、患部へのエネルギー照射量は2倍となる。このように、複数回の照射を繰り返すリペイント照射により、患部に必要なエネルギーを照射することができる。
【0080】
次に、図9を用いて、本実施形態によるエネルギー分布拡大装置について説明する。
【0081】
図9(a)に示すように、小さいSOBPを生成する際、例えば、図9(b)に示すような2段のリッジフィルタを用いる。なお、図9(a)に示す小さいSOBPは、図8(a)に示す小さいSOBPと同じものである。
【0082】
図9(b)に示すように、3段のリッジフィルタの場合、最下段は図8(b)の場合と同じ(最下段は加速したビームのままで何も物質を通過させない)である。下から2段目のリッジフィルタの高さH5は、2・H1としている。また、下から3段目(最上段)のリッジフィルタの高さは、2・H1としているため、下から2段目と3段目をあわせた高さH6は、4・H1となっている。
【0083】
また、最下段の幅は最も広く、幅W2であり、この幅W2は、図8(b)に示した6段のリッジフィルタの幅W2と同じである。また、下から3段目の幅W4は、図8(b)に示す例で言うと、最上段と、最上段から2段目の照射面の合計と同じ幅としている。3段目の上面から最下段の面までの高さH7は、図8(b)に示す例で言うと、下から5段目の高さに相当する。
【0084】
ここで、図9(b)に示すように、ビームは各段のリッジフィルタを通過する際、最下面を通過するビームに対して、下から2段目を通過するビームは、高さ2・H1分のフィルタの影響を受ける。また、下から3段目を通過するビームは、高さ4・H1分のフィルタの影響を受ける。したがって、リッジフィルタの段数によって、ビームの飛程が異なる。図9(a)において、P11は、最下面により形成されるブラッグカーブを示している。P12は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示している。P13は、下から3段目により形成されるブラッグカーブを示している。最下面のブラッグカーブのピークP11と、下から2段目を通過したブラッグカーブのピークP12の位置は、図9(a)に示すように、ずれている。このずれは、リッジフィルタの2段分の高さ2・H1による飛程のずれである。下から3段目を通過したブラッグカーブのピークP13の位置は、図9(a)に示すように、ずれている。このずれは、リッジフィルタの高さ4・H1による飛程のずれである。
【0085】
また、図9(b)において、P21は、飛程をH1分ずらしたときに、最下段面により形成されるブラッグカーブを示し、P22は、下から2段目により形成されるブラッグカーブを示し、P23は、下から3段目により形成されるブラッグカーブを示している。飛程をH1ずらすには、図2に示したレンジシフタ16Bを用いる。
【0086】
このように、図9(b)に示した3段のリッジフィルタと、飛程を1種類変えられるレンジシフタを用いることで、図9(a)に示すように、互いにピーク位置のずれた6個のブラッグカーブP11,P21,P12,P22,P13,P23が得られる。これらの6個のブラッグカーブを合成すると、図9(a)に示す小さいSOBPを得ることができ、このとき得られる小さいSOBPは、図8(b)に示した6段のリッジフィルタによる図8(a)に示した小さいSOBPと同じものとできる。
【0087】
ここで、図3に示したように、第1の小さいSOBPを生成した後、レンジシフタ16Aにより、体表からの位置をシフトして、第2の小さいSOBPを生成する際、レンジシフタ16Aによるシフト量SF1は、H2である。すなわち、図8(b)に示した6段のリッジフィルタの全体の高さH2である。
【0088】
レンジシフタ16Aとレンジシフタ16Bのシフト量に着いてみると、レンジシフタ16Aのシフト量はH2(=5・H1)であるの対して、レンジシフタ16Bのシフト量は、H1であり、レンジシフタ16Aのシフト量よりも小さくしている。
【0089】
図9(c)は、図9(b)に示す3段のリッジフィルタを用いて、レンジシフタ16Bにより1回シフトしながら、合計2回照射した場合に患部に照射されるエネルギーを示している。この照射により、図8(c)に示した場合と同様に、患部に必要な照射線量を照射することができる。つまり、一つの照射面を複数回照射するリペイントの場合、1回当たりの照射の電荷量(照射量)は従来と同じにでき、照射時間も同じにできる。
【0090】
これは、照射量が図8の場合と同じ時、図8の例では1回分の照射量が6個に分割されるが、図9に示す本実施形態では3個に分割さるので、ブラッグカーブP11,P12、P13の強度が、図8の2倍になっているからである。なお、シフト量を変えるには、レンジシフタ16Bを挿入する代わりに、加速器エネルギーを変えることもできる。
【0091】
図9に示した本実施形態のリッジフィルタは、最下面の上に、階段状に積層した構成とする。図9の例では、3段である。ただし、実際には階段状の構造は、ブロックからの削りだしによるため、一体的な構造である。ここで、段の高さをH1とするとき、その上に積層される段の高さは、N・H1とする。Nは整数であり、図9の例では、2である。また、本実施形態では、レンジシフタ16Bを併用する。レンジシフタ16Bは、小さいSOBPをシフトするときに用いるレンジシフタ16Aのシフト量5・H1よりも小さく、段の高さH1を用いて、P・H1とする。Pは正の整数であり、図9の例では、1である。
【0092】
図6に示したレンジシフタ16Bは、分割された3つの領域のうち2つには、厚さの異なるレンジシフタ16B1,16B2が設置されている。残りの一つの領域は、レンジシフタは設置されてない素通しのブランク領域BLKである。
【0093】
それに対して、本実施形態で用いるレンジシフタ16Bは、分割された2つの領域のうち1つには、厚さH1のレンジシフタが設置され、残りの一つの領域は、レンジシフタは設置されてない素通しのブランク領域を用いる。
【0094】
ここで、レンジシフタ16Bのブランク領域BLKを挿入し、図9(b)に示したリッジフィルタにより、図9(a)のピークP11,P12,P13を形成する。次に、架台を回転することで、厚さH1のレンジシフタを挿入し、図9(b)に示したリッジフィルタにより、図9(a)のピークP21,P22,P23を形成する。これにより、図9(a)に示した小さいSOBPを形成することができる。
【0095】
また、図2に示した例では、2種類のレンジシフタ16A,16Bを示している。レンジシフタ16Aは、6・H1,12・H1,18・H1…のシフト量を有し、レンジシフタ16Bは、H1のシフト量を備える。従って、H1を基準としてバイナリー方式を用いて、H1,6・H1,12・H1,18・H1…のシフト量を可能とすれば、レンジシフタ16Aとレンジシフタ16Bを一体化することができる。
【0096】
従来、リッジフィルタの段数が増えるほど、各段当たりの厚さや幅が更に小さくなり、加工性が低下する。加工性が悪いと所望の線量分布一様度から一様度が悪くなるという影響が出る。
【0097】
それに対して、本実施形態では、従来よりも段数を少なくして、レンジシフタの併用により、従来と同等の小さいSOBPを形成することができる。従って、段数が少なくなった分、加工性が向上するため、所望の線量分布一様度を得ることができる。
【0098】
以上説明したように、本実施形態によれば、エネルギー分布拡大装置の段数が減り、各段当たりの厚さ、幅を大きくすることができ、加工性が向上する。このように、エネルギー分布拡大装置の段数を多くすることなく、エネルギー分布拡大装置を製作できるので、線量分布を悪化させることなく、所望の線量分布を得ることができる。
【0099】
なお、以上の説明は、従来のリッジフィルタの段数を6段とした場合に、同様な小さいSOBPを形成するための本実施形態のリッジフィルタの2つの構成についてであるが、他の段数についても、本発明は適用できる。例えば、従来のリッジフィルタの段数が20段の場合、本実施形態の一例としては、最下面の上に、段の高さH1に対して、5・H1の高さを有する段を3段重ね、4段の階段構造のリッジフィルタとする。幅は、最上段の幅に対して、段階的に拡げる幅とする。そして、レンジシフタによって、シフト量H1で、4回シフトして、5回照射することで、20段のリッジフィルタと同様の小さいSOBPを形成することができる。
【0100】
また、第2の例としては、最下面の上に、段の高さH1に対して、4・H1の高さを有する段を4段重ね、5段の階段構造のリッジフィルタとする。幅は、最上段の幅に対して、段階的に拡げる幅とする。そして、レンジシフタによって、シフト量H1で、3回シフトして、4回照射することで、20段のリッジフィルタと同様の小さいSOBPを形成することができる。
【0101】
また、第3の例としては、最下面の上に、段の高さH1に対して、2・H1の高さを有する段を10段重ね、11段の階段構造のリッジフィルタとする。幅は、最上段の幅に対して、段階的に拡げる幅とする。そして、レンジシフタによって、シフト量H1で、10回シフトして、11回照射することで、20段のリッジフィルタと同様の小さいSOBPを形成することができる。
【0102】
また、エネルギー分布拡大装置の段数削減は、加工精度が保持できるまで低減するか、加工精度が保持できる範囲でビームのエネルギー種をどこまで削減するか、リペイント数から照射時間をどこまで削減するか等から決める。
【0103】
さらに、以上の説明では、陽子ビームを用いた陽子線治療システムの照射装置を示したが、炭素、ヘリウム等の重粒子ビームを用いた粒子線治療システムの照射装置にも、本照射法は適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムのシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムに用いる粒子線照射装置の構成図である。
【図3】エネルギー分布拡大装置により形成されるSOBPの説明図である。
【図4】比較例である従来のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置に用いるレンジシフタの構成を示す平面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置におけるSOBPの形成時の動作を示すフローチャートである。
【図8】比較例である従来のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態による粒子線照射装置のエネルギー分布拡大装置の構成及び機能図である。
【符号の説明】
【0105】
1…前段加速器
2…加速器
3…輸送系
4…ガントリー
5…粒子線照射装置
7…患者
8…患者カウチ
9…照射制御システム
10…走査電磁石磁場制御システム
11…陽子ビーム
12…モニタ
13…走査電磁石
14…散乱体
15…エネルギー分布拡大装置部
16A,16B…レンジシフタ
17…線量モニタ
18…ブロックコリメータ
19…マルチリーフコリメータ
20…アイソセンタ
21…制御装置
22…エネルギー分布拡大装置駆動部
24A,24B…レンジシフタ駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を標的領域に照射する粒子線照射装置と、加速器と、それらをつなぐ輸送系とからなり、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成する際に、患部サイズの高線量領域を複数の小サイズの高線量領域に分割して行う粒子線治療装置であって、
前記小サイズの高線量領域を形成する際に用いられ、前記小サイズの高線量領域に対して、さらに分割されたサイズの高線量領域を形成するエネルギー分布拡大手段と、
前記エネルギー分布拡大装置による照射に際し、粒子線の飛程を変える飛程変更手段とを備え、
前記飛程変更手段により飛程を変える毎にビーム照射して、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記飛程変更手段は、レンジシフタであることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項2記載の粒子線照射装置において、
前記レンジシフタは、粒子線の異なる飛程に調整する複数個のレンジシフタと、これらのレンジフタを搭載する架台とから構成され、前記架台を移動することで、レンジシフタを交換することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記エネルギー分布拡大装置は、その段数とその幅を低減したエネルギー分布拡大装置であることを特徴とする照射装置からなる粒子線治療装置。
【請求項5】
請求項1記載の粒子線治療装置において、
前記エネルギー分布拡大装置は、階段状に構成されたリッジフィルタから構成され、
前記リッジフィルタは、段の高さHで、その上に、高さがN・H(Nは整数)の段を1段以上積み重ねた構成であり、
最上段の幅Wに対して、その下の段の幅を、順次広がるように構成し、
前記飛程変更手段は、前記リッジフィルタの段の高さHに相当する分の飛程(水等価厚さが同じである飛程)を変えて、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成することを特徴とする照射装置からなる粒子線治療装置。
【請求項6】
加速器によって加速された粒子線を、粒子線照射装置により標的領域に照射し、患部位置における患部サイズの高線量領域の形成する際に、患部サイズの高線量領域を複数の小サイズの高線量領域に分割して行う粒子線治療方法であって、
前記小サイズの高線量領域を形成する際に、前記小サイズの高線量領域に対して、さらに分割されたサイズの高線量領域を形成し、
該分割されたサイズの高線量領域の照射に際し、粒子線の飛程を変え、
粒子線の飛程を変える毎にビーム照射して、複数回のビーム照射により前記小サイズの高線量領域を形成することを特徴とする粒子線治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−148833(P2010−148833A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333254(P2008−333254)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】