説明

粒度代表値推定装置及び粒度代表値推定方法

【課題】装置ごとの条件に依存せず、精度よく粒度代表値を推定する装置及び方法を提供する。
【解決手段】粒度代表値推定装置1は、粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光を、粉末試料に照射する光照射装置2と、検出器4により検出された粉末試料の減光度と、既知の基準粉末試料の減光度と粒度代表値との関係とから粉末試料の粒度代表値を推定する演算装置6とを備える。測定セル5は、積分球3に付設された測定セル5の面以外の粉末試料の周囲を、粉末試料に照射された光を吸収する光吸収部材で囲むように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒度代表値推定装置及び粒度代表値推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、粒子粉末の粒度、例えば、粒子粉末の粒径の平均値、中央値等は、種々の製造プロセスにおいて品質評価指標として用いられ、また、製品の機能や性質を決定する重要要素であることから、粒子粉末の粒度について簡便で精度がよい推定方法及び推定装置が求められている。
【0003】
粒子粉末の粒度推定方法には、粉末試料における光の吸収波長を利用した方法(非特許文献1)や、レーザ回折・散乱法(非特許文献2)等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小嶋 純、「赤外分光分析による石英粉塵の粒度分布推計」、分析化学、社団法人日本分析化学会、1996年、第45巻、第11号、p.999−1004
【非特許文献2】株式会社島津製作所の「レーザ回折式粒度分布測定装置 SALD−2200」の製品カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1及び2の方法はいずれも、粒子粉末を十分に溶媒等に分散させる必要があり、簡便な粒度推定方法とは言えない。また、非特許文献2の方法は、粉末試料に光を照射して粉末試料から反射した光の光量により、粒度を推定するものであるが、同じ粉末試料について粒度を推定する場合でも、粒度測定装置ごとに異なる粒子粉末の分散条件やサンプリング条件により検出される光の光量が異なり、推定した粒度が粒度測定装置ごとに異なる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、装置構成が簡易で、装置ごとに異なる測定条件設定に依存せず、精度よく粒度を推定する粒度代表値推定装置及び粒度代表値推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、測定セル内の粉末試料に光を照射し、該粉末試料の粒度代表値を推定する粒度代表値推定装置である。
【0008】
本発明者等は、粒度測定装置ごとに異なる測定条件を簡素化すると共に、複雑な装置構成を簡素化し、粉末試料の粒度代表値、例えば、粒径の平均値、中央値等を容易に推定することができる装置について鋭意検討した。
【0009】
その結果、粉末試料に対して照射された光の散乱の影響を排除することにより、粉末試料からの光において粉末試料の粒度代表値の大きさに応じた光量及び減光度を検出できることを知見した。
【0010】
そして、減光度と粒度代表値との関係を利用することにより、粒度測定装置ごとに異なる粒子粉末の分散条件等の測定条件を簡素化し、さらに簡素化された構成で粒度代表値を精度よく推定できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、前記課題を解決するために、本発明の粒度代表値推定装置は、
粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光を、該測定セル内の該粉末試料に照射する光照射装置と、
該測定セルを付設し、該粉末試料からの光を拡散する積分球と、
該積分球に設けられ、該積分球により拡散した光の光量を検出する検出器と、
該検出器により検出された、該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量、及び粒度代表値が既知の該測定セル内の基準粉末試料からの光の光量から算出された該基準粉末試料の減光度と、該基準粉末試料の粒度代表値との関係を記憶する記憶装置と、
該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量、及び該検出器により検出された該測定セル内の該粉末試料からの光の光量から算出された該粉末試料の減光度と、該記憶装置に記憶された該基準粉末試料の減光度と該基準粉末試料の粒度代表値との関係とから該粉末試料の粒度代表値を推定する演算装置とを備え、
該測定セルは、該積分球に付設された該測定セルの面以外の該粉末試料の周囲を、該粉末試料に照射された該光を吸収する光吸収部材で囲むように構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の粒度代表値推定装置によれば、まず、光照射装置により、粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光が、積分球に付設された測定セル内の粉末試料に照射される。
【0013】
粉末試料に照射された光は、粉末試料に吸収され、散乱、すなわち、粉末試料に対して反射し、又は粉末試料を透過するが、反射又は透過した光は、他の粉末試料に再び入射し、新たな吸収、反射、透過が起き、このような現象を繰り返すことになる。
【0014】
ここで、粉末試料が充填される測定セルは、積分球に付設された測定セルの面以外の粉末試料の周囲を光吸収部材で囲むように構成されている。そのため、積分球に付設された測定セルの面以外の光吸収部材で囲まれた測定セルの面では、光吸収部材に入射した光が吸収され、それ以外の測定セルの面から、粉末試料の粒度代表値の大きさに応じた光量の(粉末試料から反射した)光が、積分球に入射する。
【0015】
次に、積分球に設けられた検出器により、積分球に入射し拡散した粉末試料からの光の光量が検出される。測定セルが付設された積分球は、粉末試料からの光を積分球の内壁で拡散反射を繰り返し、積分球の中は光の入射角度に依存することなく、積分球の内壁に照射される単位面積あたりの光量は均一となる。検出器は、積分球に付設された検出器の位置に関わらず、同一の光量を検出することができる。
【0016】
次に、演算装置により、検出器を用いて検出された、光照射装置から測定セル内に照射された光の光量と、測定セル内の粉末試料からの光の光量とから、粉末試料の減光度が算出される。減光度とは、入射光(I0)に対する反射光(I)の対数光量比(−log(I/I0))と定義され、減光度の値が大きくなるほど、光の吸収量が多いことを意味する。
【0017】
そして、演算装置により、記憶装置に記憶された基準粉末試料の減光度と粒度代表値との関係に基づいて、算出された粉末試料の減光度に対する粉末試料の粒度代表値を推定する。
【0018】
測定セル内の粉末試料の周囲を光吸収部材で囲まない場合、測定セルの内壁により反射された光の光量が粉末試料により反射された光の光量に加わった光量が検出器で検出され、粉末試料の粒度代表値の大きさに応じた光量を検出することは困難である。しかし、測定セル内の粉末試料の周囲を光吸収部材で囲む場合、測定セルの内壁により反射された光の影響を排除するので、粉末試料により反射され、測定セルから積分球に入射する光の光量、そして減光度が、粉末試料の粒度代表値の大きさに応じて敏感に変化し、感度が向上する。
【0019】
従って、本発明の粒度代表値推定装置によれば、記憶装置に記憶された基準粉末試料の減光度と粒度代表値との関係を利用することにより、粉末試料の減光度に対する粉末試料の粒度代表値を、簡便かつ精度よく推定することができる。その結果、複雑な光学系を必要としない簡易な構成で、また、検出器ごとの測定条件に依存せずに、粒度代表値を推定することができる。
【0020】
本発明の粒度代表値推定装置において、前記光は近赤外光であり、前記光吸収部材は近赤外光吸収部材であり、前記粉末試料はキチン粉末であることが好ましい。
【0021】
本発明の粒度代表値推定装置によれば、近赤外光の波長域の光はキチン粉末に吸収されにくいので、測定セルの光吸収部材を近赤外光吸収部材にすることにより、粉末試料の粒度代表値と測定セル内の粉末試料からの光の光量、さらには減光度との相関が強くなり、精度のよい粒度代表値を推定することができる。
【0022】
さらに、前記課題を解決するために、本発明の粒度代表値推方法は、光照射装置から積分球に付設された測定セル内の粉末試料に光を照射し、該粉末試料の粒度代表値を推定する粒度代表値推定方法であって、粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光を該光照射装置から該測定セル内の該粉末試料に照射する工程と、該積分球に設けられた検出器により、該積分球で拡散した該粉末試料からの光の光量を検出する工程と、該検出器により検出された該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量と、該検出器により検出された該測定セル内の該粉末試料からの光の光量とから、該粉末試料の減光度を算出する工程と、算出された該粉末試料の減光度から、該粉末試料の粒度代表値を推定する工程とを備え、該測定セルは、該積分球に付設された該測定セルの面以外の該粉末試料の周囲を、該粉末試料に照射された該光を吸収する光吸収部材で囲むように構成されることを特徴とする。
【0023】
本発明の粒度代表値推方法によれば、検出器ごとに異なる測定条件に依存せず、粉末試料の減光度に対する粉末試料の粒度代表値を簡便に推定することができる。
【0024】
本発明の粒度代表値推定方法において、前記粉末試料の粒度代表値を推定する工程は、例えば、前記光照射装置から前記測定セル内に照射された光の光量、及び粒度代表値が既知の前記測定セル内の基準粉末試料からの光の光量から算出された前記基準粉末試料の減光度と前記基準粉末試料の粒度代表値との関係と、算出された前記粉末試料の減光度から、該粉末試料の粒度代表値を推定することも好ましい。
【0025】
本発明の粒度代表値推方法によれば、精度のよい粒度代表値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の粒度代表値推定装置の構成図。
【図2】粒度代表値推定装置の測定セル5の拡大図。
【図3】粒度代表値の異なる粉末試料に対して、200nm〜2500nmの範囲の波長と、減光度との関係を示す図。
【図4】粒度代表値の異なる粉末試料に対して、700nm〜100nmの範囲の波長と、減光度との関係を示す図。
【図5】粒度代表値と光の波長との相関分析を行った結果を示す図。
【図6】粒度代表値と減光度との関係を示す図。
【図7】本発明の粒度代表値推定装置の変形例。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1及び図2に示すように、本実施形態の粒度代表値推定装置1は、光照射装置2と、積分球3と、光の光量を検出する検出器4と、粉末試料が充填される測定セル5と、検出器4で検出された光量を用いて粒度代表値を推定する演算装置6と、推定演算処理に用いられる、粒度代表値と減光度との関係を記憶する記憶装置7とを備える。
【0029】
光照射装置2は、測定セル5に充填された粉末試料に光を照射する装置であり、光源8と回折格子を用いた回折格子型分光器9、例えば、Czerny-Turner型の分光器とを有する。光源8は、レーザー光源、LED等の単色光源、又は、ハロゲンランプ等を用いることができる。
【0030】
光照射装置2の光源8から出射された光は、分光器9を介して光を波長ごとに分離され、所望波長の光が選択されて、分光器9から積分球3に出射される。光照射装置2から照射される光は、粒度代表値との相関値が0.994以上の波長の光である。例えば、粉末試料がキチン粉末である場合、近赤外光の波長域、特に、1000nm〜1200nmの範囲の波長の光は、キチン粉末試料に吸収されにくく、キチン粉末試料に照射された光はキチン粉末試料にほとんど吸収されることなく、反射され、又は透過する。
【0031】
積分球3は、光照射装置2からの光を積分球3に導入する導入開口部(図示せず)と、積分球3内の光を通過させて測定セル5内の粉末試料に照射し、粉末試料からの反射光を積分球3に導く測定セル用開口部(図示せず)と、粉末試料からの光を通過させて検出器4に導く検出器用開口部(図示せず)とを備えた光学部品である。
【0032】
測定セル用開口部を通過し、粉末試料から積分球3に入射した光は、積分球3の内壁で拡散反射を繰り返すので、積分球3の内壁における単位面積あたりの光量は任意の位置で等しくなり、積分球3の中は光の入射角度に依存することなく、均一な光の光量分布となり、検出器用開口部から検出器4に均一化された光量の光が出射される。
【0033】
検出器4は、積分球3内に入射し、積分球3の検出器用開口部を通過した光の光量を検出する装置であって、検出器用開口部に着脱可能に取り付けられ、検出器用開口部を通過した光の光量を検出し、演算装置6に出力する。
【0034】
測定セル5は、所定量の粉末試料が充填される、積分球3に付設される測定用セルである。具体的に、測定セル5は、積分球3の測定セル用開口部から測定セル5内の粉末試料に光が入射され、粉末試料により反射された光が積分球3の測定セル用開口部を通過して積分球3に反射することができるように取り付けられ、例えば、測定セル用開口部に着脱可能に取り付けられる。
【0035】
図2に示すように、測定セル5は、積分球3の測定セル用開口部に取り付け可能な面が石英窓10で形成され、石英窓10以外、すなわち、測定セル用開口部に取り付けられる面以外の粉末試料11の周囲を光吸収部材12で囲むように構成されている。
【0036】
例えば、粉末試料11がキチン粉末である場合、光吸収部材12は近赤外光吸収部材であり、光吸収部材12を形成する樹脂等の材料に、近赤外光を吸収する機能性色素を添加することで生成することができる。
【0037】
演算装置6は、検出器4から出力された光量を用いて、光照射装置2から測定セル5に照射された光の光量と、検出器4により検出された測定セル5内の粉末試料からの光の光量とから粉末試料の減光度を算出するとともに、既知の粉末試料の減光度と粒度代表値との関係に基づいて、算出された粉末試料の減光度から粒度代表値の推定演算処理を行う。
【0038】
演算装置6は、推定演算処理が行われるCPU(中央演算装置)と、CPUが演算処理途中のデータを記憶するために使用するRAM(Random Access Memory)と、CPUが実行するプログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)とを備える。また、演算装置6は、既知の粉末試料の減光度と粒度代表値との関係、例えば、検量線を表すデータ、データテーブル等を記憶する記憶装置7を備える。
【0039】
次に、本実施形態に係る粒度代表値推定装置1による粒度代表値推定方法の原理について、図3〜図5を用いて説明する。
【0040】
本実施形態の粒度代表値推定方法では、光照射装置2から積分球3に付設された測定セル5内の粉末試料に光を照射し、粉末試料の減光度と粒度代表値との関係に基づいて、粉末試料の粒度代表値を推定する。
【0041】
粉末試料の粒度代表値を測定する場合、粉末試料に入射した光は、粉末試料に吸収され、反射され、又は粉末試料を透過する以外に、多重散乱により、他の粉末試料での吸収、反射、透過を繰り返す。
【0042】
そこで、測定セルの内壁により反射された光の影響を排除した、粉末試料から反射する光を検出するために、測定セル5の石英窓10以外の領域を近赤外光吸収部材で構成することにより、粉末試料の粒度代表値の大きさに応じた粉末試料からの反射光の光量及び減光度を検出する。
【0043】
粉末試料を近赤外光吸収部材で囲むことにより、測定セル内部で繰り返される反射又は透過により近赤外光吸収部材に吸収される光が増大すると共に、測定セルの内壁により反射される光の影響が排除される。その結果、減光度が上昇し、粒度代表値の大きさに対して鋭敏に変化し、減光度と粒度代表値との関係に基づいて精度のよい粒度代表値の推定が可能となる。
【0044】
粒度代表値推定装置1において、粉末試料としてキチン粉末を用いて、粒度代表値としての粒径中央値が異なる粉末試料に対して、200nm〜2500nmの波長域の光を照射し、減光度を検出した結果を、図3及び図4に示す。図3において、縦軸は減光度を、横軸は波長を示す。図4は、700〜100nmの波長域における図3の拡大図である。図3及び図4が示すように、粒度代表値の相違に対して、減光度が鋭敏に変化することを分かる。
【0045】
200nm〜2500nmの波長域の光の波長と、粒度代表値としての粒径中央値との関係を、PLS回帰(Partial Least Squares Regression)モデルによりモデル化し、粒度代表値としての粒径中央値と光の波長との相関分析を行った結果を、図5に示す。図5が示すように、相関値が0.994以上で相関が高い波長域は、1000nm〜1200nm、特に1100nm付近、すなわち、粉末試料において吸収されにくい近赤外光の波長域であることが分かる。
【0046】
そして、光照射装置2から測定セル5内に照射された光の光量、及び粒度代表値が既知の測定セル5内の基準粉末試料からの光の光量から算出された基準粉末試料の減光度と、基準粉末試料の粒度代表値との関係とを予め求め、予め求められた関係に基づいて、検出された粉末試料の減光度から、該粉末試料の粒度代表値を推定する。
【0047】
以下、本実施形態に係る粒度代表値推定装置1による粒度代表値推定方法について説明する。
【0048】
本実施形態の粒度代表値推定方法では、まず、粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光が、光照射装置2から積分球3を介して測定セル5内の粉末試料に照射される。
【0049】
光照射装置2から積分球3の導入開口部を介して積分球3に入射した光は、積分球3の内壁で拡散反射を繰り返し空間的に積分され、積分球3内で均一な光の光量分布となり、測定セル用開口部からを通じて測定セル5内の粉末試料に照射される。
【0050】
次に、積分球3に設けられた検出器4により、粉末試料から反射し測定セル用開口部から積分球3に入射し拡散された光の光量が検出される。検出器4により検出された光の光量は演算装置6に出力され、出力された光量は演算装置6で減光度を算出するために使用される。
【0051】
次に、演算装置6により、検出器4から出力された、光照射装置2から測定セル5内の粉末試料に照射された光の光量と、測定セル5の粉末試料から反射して石英窓10を介して積分球3に入射した光の光量とから、粉末試料の減光度が算出される。
【0052】
ここで、演算装置6が備える記憶装置7には、粒度代表値推定装置1を用いて、粒度代表値が既知の基準粉末試料に照射された光の光量と、既知の基準粉末試料から反射して石英窓10を介して積分球3に入射した光の光量とから算出された基準粉末試料の減光度との粒度代表値との関係、例えば、検量線を表すデータ、データテーブル等が予め記憶されている。
【0053】
そして、演算装置6により、算出された粉末試料の減光度を用いて、記憶装置7に記憶された基準粉末試料に対する減光度と粒度代表値との関係に基づいて、粉末試料の粒度代表値が推定される。
【0054】
以下に、本実施形態の粒度代表値推定装置1に使用される粉末試料の減光度と粒度代表値との関係の一例を示す。使用された粒度代表値推定装置1は、積分球として日本分光株式会社製IST723、検出器として日本分光株式会社製紫外可視近赤外分光光度計V−670、測定セルとして日本分光株式会社製PSH−002、及び、光吸収部材として黒色ゴム材を備える。
【0055】
まず、試料を粉砕し、6種類のキチン粉末試料(20μm未満、20〜38μm、38〜53μm、53〜90μm、90〜106μm、106μm以上)を準備した。
【0056】
キチン粉末試料のうち、20〜38μm、38〜53μm、53〜90μm、90〜106μm4種類について、粒度代表値として粒径中央値を求めた。粒度代表値は順に、29μm、46μm、72μm、98μmと求められた。
【0057】
次に、測定セルに、粒子径が90μm〜106μmの範囲のキチン粉末を測定セル内に、0.1g充填した。
【0058】
次に、200nmから2500nmの波長域の光の波長と、粒度代表値としての粒径中央値との関係を、PLS回帰モデルによりモデル化した。
【0059】
そして、測定セルの周囲に光吸収部材を備える場合(実線)と、測定セルの周囲に光吸収部材を備えない場合(破線)とに対して、粒度代表値としての粒径中央値と光の波長との相関が高い波長1100nmの光を粉末試料に照射した場合の粒度代表値と吸光度との関係を、図6に示す。図6において、縦軸は粒度代表値を、横軸は減光度を示す。さらに、4種類のキチン粉末試料に対する減光度と粒度代表値との関係を表す点をプロットし、プロットした点について最小二乗法により求めた直線を太実線で示す。
【0060】
図6が示すように、光吸収部材を備えた場合(実線)、備えない場合(破線)に対して、粒度代表値の変化に対して減光度の変化が大きくなり、感度が向上していることがわかる。また、図6が示すように、プロットした点について最小二乗法により求めた直線を外挿すると、減光度0.07付近が、粒度代表値推定装置1における測定セル5内の光吸収部材による吸収と推定できる。従って、本発明の粒度代表値推定装置によれば、粒度代表値が数μmから100μmを超える範囲で、精度よく粒度代表値を推定することができる。
【0061】
尚、本発明の粒度代表値推定装置は、粉末試料のオフライン粒度代表値モニタリング装置として利用できる。さらに、粉末試料のオンライン粒度代表値モニタリング装置としても実施可能である。
【0062】
例えば、オンライン粒度代表値モニタリング装置として使用する場合、粉末試料の層を厚くすることで、光吸収材料に吸収される光の影響は小さくなるので、光吸収部材を備えた測定セルは必ずしも必要としない。従って、図7に示すように、オンライン粒度代表値モニタリング装置として使用する場合、粉末試料搬送装置、例えば、ベルトコンベヤー13等の上を流れる粉末試料14の粒度代表値を推定することができる。
【0063】
また、粉砕機中の粒度代表値モニタリング装置等として使用する場合では、極めて厚い粉末試料の層とすることにより、測定セルに光吸収部材を設けた場合と同等の効果が期待でき、粉末試料の粒度代表値を推定することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…粒度代表値推定装置、2…光照射装置、3…積分球、4…検出器、5…測定セル、6…演算装置、7…記憶装置、8…光源、9…分光器、10…石英窓、11…粉末試料、12…光吸収部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定セル内の粉末試料に光を照射し、該粉末試料の粒度代表値を推定する粒度代表値推定装置であって、
粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光を、該測定セル内の該粉末試料に照射する光照射装置と、
該測定セルを付設し、該粉末試料からの光を拡散する積分球と、
該積分球に設けられ、該積分球により拡散した光の光量を検出する検出器と、
該検出器により検出された、該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量、及び粒度代表値が既知の該測定セル内の基準粉末試料からの光の光量から算出された該基準粉末試料の減光度と、該基準粉末試料の粒度代表値との関係を記憶する記憶装置と、
該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量、及び該検出器により検出された該測定セル内の該粉末試料からの光の光量から算出された該粉末試料の減光度と、該記憶装置に記憶された該基準粉末試料の減光度と該基準粉末試料の粒度代表値との関係とから該粉末試料の粒度代表値を推定する演算装置とを備え、
該測定セルは、該積分球に付設された該測定セルの面以外の該粉末試料の周囲を、該粉末試料に照射された該光を吸収する光吸収部材で囲むように構成されることを特徴とする粒度代表値推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の粒度代表値推定装置であって、
前記光は近赤外光であり、
前記光吸収部材は近赤外光吸収部材であり、
前記粉末試料はキチン粉末であることを特徴とする粒度代表値推定装置。
【請求項3】
光照射装置から積分球に付設された測定セル内の粉末試料に光を照射し、該粉末試料の粒度代表値を推定する粒度代表値推定方法であって、
粒度代表値との相関値が0.994以上の波長域の光を該光照射装置から該測定セル内の該粉末試料に照射する工程と、
該積分球に設けられた検出器により、該積分球により拡散した該粉末試料からの光の光量を検出する工程と、
該検出器により検出された該光照射装置から該測定セル内に照射された光の光量と、該検出器により検出された該測定セル内の該粉末試料からの光の光量とから、該粉末試料の減光度を算出する工程と、
算出された該粉末試料の減光度から、該粉末試料の粒度代表値を推定する工程とを備え、
該測定セルは、該積分球に付設された該測定セルの面以外の該粉末試料の周囲を、該粉末試料に照射された該光を吸収する光吸収部材で囲むように構成されることを特徴とする粒度代表値推定方法。
【請求項4】
請求項3記載の粒度代表値推定方法であって、
前記粉末試料の粒度代表値を推定する工程は、
前記光照射装置から前記測定セル内に照射された光の光量、及び粒度代表値が既知の前記測定セル内の基準粉末試料からの光の光量から算出された前記基準粉末試料の減光度と前記基準粉末試料の粒度代表値との関係と、算出された前記粉末試料の減光度から、該粉末試料の粒度代表値を推定することを特徴とする粒度代表値推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177679(P2012−177679A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9570(P2012−9570)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)