説明

粒度分布測定装置

【目的】 分散飛翔状態の粒子群に光を照射したときに生ずる光散乱現象を利用し、光散乱法に基づいて粒度分布を選定することにより、分布が広範囲に亘る粒子群の粒度分布を選定できるようにする。
【構成】 粒子群による回折/散乱光の内、前方所定角度以下の回折/散乱光はレンズ4で集光してアレイセンサ5によってその強度分布を測定するとともに、粒子群による散乱光の内、所定角度を越える前方散乱光、側方散乱光及び後方散乱光がアレイセンサ5とは別個に設けた光センサ6〜8によって測定する。この場合、アレイセンサ5及び光センサ6〜8の出力のデジタル変換データをA−D変換器11を介して演算部13に採り込み、統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するための予め設定された変換係数行列を用いた演算により粒子群の粒度分布を一挙に算出する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は分散飛翔状態の粒子群に光を照射したときに生ずる光散乱現象を利用した、いわゆる光散乱法に基づく粒度分布測定装置に関し、特に分布が広範囲に亘る粒子群の粒度分布を測定するのに適した粒度分布測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ミーの散乱理論ないしフラウンホーファ回折理論を用いた粒度分布測定装置においては、従来、レンズを用いて被測定粒子群からの回折/散乱光を集光して、リングデテクタ等のアレイセンサの受光面上に回折/散乱像を結ばせ、その出力から回折/散乱光の空間強度分布を得て、これを粒度分布に換算する構造のものが主として実用化されている。
【0003】また、従来、被測定粒子群からの回折/散乱光を、互いに所定の角度をあけて配置した光ファイバの端面に入射し、その各光ファイバの他端にはそれぞれ光センサを設けた構造のものも提案されている。
【0004】ここで、汎用的な粒度分布測定装置においては、一般に、サブミクロン〜千数百μmにおよぶ非常に広い測定範囲が要求される。リングデテクタ等のアレイセンサを用いた前者の方式が実用化機において主流を占める理由は、大きい粒子の場合、その散乱光は、前方の角度の極めて狭い範囲(散乱角0゜近傍)で激しく変化するが、リングデテクタ等のアレイセンサでは回折/散乱角の0゜近傍に相当する部分を非常に細かく分割することができ、この激しく変化する領域における光強度を高分解能でしかも連続的に測定できるからに他ならない。これに対し光ファイバを用いた方式では、散乱角0゜近傍を上記のように細分化することは不可能で、しかも光導入端である光ファイバの端面の面積は小さい円形であるため、リングデテクタ等のアレイセンサを用いた構造に比してセンサに導く光量を確保できないという問題点もある。
【0005】このように、特に大径の粒子の測定に関してはリングデテクタ等のアレイセンサを用いる方式が有利であるが、リングデテクタ等のアレイセンサは、一般にシリコンウエハから作成されるため、その大きさに制約があり、回折/散乱角の測定限界は前方の約40゜以下程度になる。ここで、小さい粒子、特にサブミクロン粒子を測定する場合には、全体的に散乱光の散乱角度に依存した変化が緩慢となり、前方だけでなく側方おおよび後方をも含めた全体的な変化を検出する必要が生じる。
【0006】そこで、従来、リングデテクタ等のアレイセンサを用いた方式の装置において、前記したような広い測定範囲をカバーするため、前方の約40゜よりも大きな角度の散乱光については別途1個または複数個の光センサを設けてその光強度を測定することが実用化されている。この場合、大きな角度の散乱光は強度が弱くなるため、これを測定する光センサについては通常は被測定粒子に近づけるとともに、前記したように変化が緩慢であるため受光面積の大きなセンサを用いることが一般的である。
【0007】そして、このようなリングデテクタ等のアレイセンサと他の光センサを組み合わせた装置においては、従来、アレイセンサと他のセンサとは異種のセンサとなって、アレイセンサのみを用いる場合のように各センサ間の特性的ないしは空間的な共通性が失われることになるため、従来のこの種の装置では、リングデテクタ等のアレイセンサによる回折/散乱光強度分布データを粒度分布に換算する一方、他のセンサによる散乱光強度分布データについては別途粒度分布に別途粒度分布に換算して、最後に両者を結合することによって被測定粒子群の全体の粒度分布を求めている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】リングデテクタ等のアレイセンサを用いることにより、大径の粒子による前方微小角度の回折/散乱光を高分解能のもとに測定し、しかも別途側方ないしは後方用の光センサを設けてサブミクロン粒子の測定をも可能にした従来の広範囲可能な粒度分布測定装置では、前方微小角散乱(回折)光の強度分布パターンと、それ以外の前方、側方および後方散乱光の強度分布パターンとは全く別々に取り扱われており、それぞれのデータに基づいて別々に求められた粒度分布を後で接続するという点において理論的な根拠があいまいであり、正確な粒度分布が得られているという保証はない。つまり、従来の粒度分布測定装置では、広範囲の粒度分布を正確に測定することは困難であった。
【0009】本発明はこのような点に鑑みなされたもので、広範囲にわたる粒度分布を正確に測定することのできる粒度分布測定装置の提供を目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、分散飛翔状態の粒子群に平行光束を照射することによって得られる、粒子群による回折/散乱光の強度分布を測定することによって、粒子群の粒度分布を測定する装置において、粒子群による回折/散乱光の内、前方所定角度以下の回折/散乱光を集光するレンズと、そのレンズによって集光された回折/散乱光の強度分布を検出するアレイセンサと、粒子群による散乱光の内、側方散乱光および後方散乱光のいずれかを入射してその強度を検出する1個もしくは複数の光センサと、上記アレイセンサおよび上記光センサの出力をそれぞれの出力を採り込んで、その各データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により、粒子群の粒度分布を一挙に算出する演算手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
【作用】粒子にレーザ光等の光を照射すると、空間的に回折/散乱光の強度分布パターンが生ずるが、このパターンは、粒子の大きさによって変化する。種々の大きさの粒子が混在している粒子群に光を照射した場合、粒子群から生ずる光強度分布パターンはそれぞれの粒子からの回折/散乱光の重ね合わせとなる。
【0012】これをベクトル、行列で表現すると、r = Afとなる。ここで,rは光強度分布ベクトルで、fは粒度分布ベクトルである。また、Aは、粒度分布ベクトルfを、光強度分布ベクトルrに変換する係数行列である。実際の計算手法において、rの成分(要素)は各回折/散乱角度においてアレイセンサないしは光センサによって検出される光強度データである。
【0013】従って、アレイセンサおよびそれとは別の光センサによる、前方微小角散乱/回折光とそれ以外の前方散乱光、側方散乱光および後方散乱光の全データを統一的な光強度分布ベクトルrの要素として取り扱うことの理論的矛盾はなく、このようなrを用いるとともに、変換行列行列Aを求めておくことによって(後述)、一挙に粒度分布ベクトルfの成分を求めるとができる。
【0014】
【実施例】図面は本発明実施例の構成図である。
【0015】レーザ光源1から出たレーザ光はフローセル2に照射される。フローセル2内には、被測定粒子群を媒液中に分散された懸濁液3が紙面に直行する方向に流されており、照射されたレーザ光は粒子によって散乱ないしは回折される。
【0016】照射レーザ光の進行方向、フローセル2の前方にはレンズ4が配設されているとともに、更にその前方にはその焦点位置にリングデテクタ5が配設されている。リングデテクタ5は、レンズ4の光軸を中心として互いに半径の異なるリング状ないしは半リング状の受光面を持つ光センサを複数個同心状に配列したもので、フローセル2内の粒子による散乱/回折光の内、40°以内の散乱/回折角の光はレンズ4によってこのリングデテクタ5上に集光される。
【0017】フローセル2の周囲には、レンズ4およびデテクタ5と異なる角度で、例えば3個の光センサ6,7および8が配設されており、それぞれの配設角度に応じて、フローセル2内の粒子による40°を越える所定角度の前方散乱光、側方散乱光および後方散乱光の強度を検出することができる。
【0018】リングデテクタ5の各素子、および各光センサ6,7,8からの出力信号は、それぞれプリアンプ9・・・・9、マルチプレクサ10を介してA−D変換器11に導かれて順次デジタル変換され、入出力インターフェース12を経由して演算部13に採り込まれる。
【0019】演算部13はCPU13a、ROM13b、RAM13c等を備えたコンピュータシステムを主体として構成されており、リングデテクタ5内の各素子および各光センサ6,7,8からの光強度データをRAM13c内に採り込み、これらデータを用いて、ROM13bに書き込まれた後述する変換式により、被測定粒子の粒度分布を一挙に算出することができる。なお、この演算部13には、粒度分布の算出結果を印字および表示するプリンタ14およびCRT15が接続されている。
【0020】次に、演算部13における演算の手法について述べる。フローセル2内には大きさの異なる粒子が混在しており、これらによる散乱/回折光の強度分布パターンは各粒子からの散乱/回折光の重ね合わせとなり、前記したようにマトリクスで表現すると、r = Af ・・・・ (1)
となる。ただし、
【0021】
【式1】


【0022】
【式2】


である。rは光強度分布ベクトルであり、その要素ri (i=1,2,・・・・m)は、リングデテクタ5の各素子によって検出される前方微小角散乱/回折光の強度である。ri (i=m+1,m+2,・・・・,p)は、光センサ6,7,8により検出された前方、側方、後方散乱光の強度である。fは粒度分布ベクトルである。粒度分布範囲を有限とし、この範囲内をn分割し、それぞれの分割区間内を一つの粒子径Dj で代表させる。fの要素fj (j=1,2,・・・・n)は、粒子径Dj に対応する粒子量である。Aは、粒度分布fを,光強度分布rに変換する係数行列である。Aの要素ai,j (i=1,2,・・・・m,m+1,・・・・,p;j=1,2,・・・・,n)の物理的意味は、粒子径Dj の単位粒子量の粒子群によって回折/散乱した光のi番目の素子に対する入射光強度である。ai,j の数値は、光源の波長、偏光成分、光学系の配置等に基づいて、理論的に計算することができる。これには、粒子径が光源となるレーザ光の波長に比べて充分に大きい場合には、フラウンホーファ回折理論を用いる。
【0023】しかし、粒子径がレーザ光の波長と同程度か、あるいはそれより小さいサブミクロン領域の場合には、ミー散乱理論を用いる必要がある。フラウンホーファ回折理論は、前方微小角散乱において、粒子径が波長に比べて充分大きな場合に有効なミー散乱理論の優れた近似であると考えることができる。
【0024】さて、(1)〜(3)式は、レンズ4によって集光された前方微小角散乱光の強度分布パターンと、それ以外の前方、側方、後方散乱光の強度パターンが統一的に扱われており、これらの式に基づけば、広範囲の粒度分布を一挙に計算して求めることができる。この計算方法は一般的にインバースプロブレム(逆問題)と呼ばれるものであり、様々な手法がある。例えば、最小自乗法を用いると、(1)式に基づいて粒度分布(ベクトル)fは,次の(4)式によって計算できる。 f = (AT A)-1T r ・・・・ (4)
ただし、AT は、Aの転置行列であり、()-1は逆行列を表す。(4)式の右辺において、前記したように光強度分布(ベクトル)rの各要素はリングデテクタ5および前方、側方、後方に置かれた光センサ6,7,8で検出される光強度の値であり、また、係数行列Aは、フラウンホーファ回折理論あるいはミー散乱理論を用いて、あらかじめ計算できるので、それらの既知のデータを用いて(4)式の計算を実行すれば粒度分布(ベクトル)fが一挙に求まることになる。
【0025】ところで、上記と同様な考え方に基づき、より広範囲で高分解能な粒度分布を測定する手法について説明する。すなわち、光源の波長、偏光成分、光学系の配置(レンズ4の焦点距離、センサ、デテクタの配置等)などの測定条件を変化させた場合について考えてみる。
【0026】ある測定条件(仮に条件kとする)において、前方微小角散乱光および前方、側方、後方散乱光の光強度分布パターンについて、合計pk の数の入射光量のデータを得たとする。
【0027】測定条件が異なれば、粒度分布(ベクトル)が同じであっても、光強度分布(ベクトル)と係数行列も異なる。
【0028】測定条件kにおける光強度分布ベクトルをrk 、係数行列をAk とすると、(1)と同様に、rk = Ak f ・・・・(5)
の関係が成り立つ。同一のサンプル(同一の粒度分布)に対してq回の異なった測定条件で散乱光の強度分布パターンの測定を行ったとすると、それらを合成して次の(6)式で表現できる。
【0029】r’ = A’f ・・・・(6)
ただし、
【0030】
【式3】


である。ここで、rk (k=1,2,・・・・,q)は、それ自身がベクトルであり、Ak (k=1,2,・・・・,q)は、それ自身が行列である。従って、r’は(p1 +p2 +・・・・pk +・・・・pq )次のベクトルであり、A’は(p1 +p2 +・・・・pk +・・・・pq )×n次の行列となる。
【0031】このような方法で異なった複数の測定条件で得られた光強度分布パターンを統一的に取り扱えば、(1)式と同様に、(4)式のような手法でより広範囲で高分解能で、かつ、より正確な粒度分布を一挙に計算して求めることができる。従って、図面の実施例において、光源1の波長、偏光成分を変更し得るようにするとともに、光学系の配置(レンズ4の焦点距離やデテクタ5、センサ6等の配置等)を可変にすることにより、これを実現できる。
【0032】なお、この場合、光源はレーザ光源に限らず、ハロゲン光源から取り出した複数の単一波長光を用いることもできる。また、偏光フィルタによって光の偏光成分を変更することによっても測定条件は変えられる。
【0033】更に、前方微小角散乱光用の集光レンズの焦点距離の可変機構は、レンズの変更のほか、ズームレンズの採用によっても実現可能である。
【0034】更にまた、本発明では、前記した実施例のようなデテクタと散乱光集光用レンズの配置のほか、レンズを光源としてフローセールの間に配設する。いわゆる逆フーリエ変換と称される光学系を用いたものにも同様に適用し得ることは勿論である。
【0035】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、集光用のレンズとアレイセンサにより測定された前方微小角散乱光の強度分布パターンと、これとは別に配設された光センサによる側方および後方散乱光の強度分布パターンとを統一的に取り扱い、これを用いて、変換係数行列によって一挙に粒度分布を測定するので、従来のように別々に算出した粒度分布を後で接続する手法に比べて、広範囲の粒度分布をより正確に、かつ、高分解能で測定することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である粒度分布測定装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
1・・・・・レーザ光原
2・・・・・フローセル
3・・・・・懸濁液
4・・・・・レンズ
5・・・・・リングデテクタ
6、7、8・・・・・光センサ
9・・・・・プリアンプ
11・・・・・A−D変換器
13・・・・・演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分散飛翔状態の粒子群に平行光束を照射することによって得られる、粒子群による回折/散乱光の強度分布を測定することによって、粒子群の粒度分布を測定する装置において、粒子群による回折/散乱光の内、前方所定角度以下の回折/散乱光を集光するレンズと、そのレンズによって集光された回折/散乱光の強度分布を検出するアレイセンサと、粒子群による散乱光の内、側方散乱光および後方散乱光のいずれかを入射してその強度を検出する1個もしくは複数の光センサと、上記アレイセンサおよび上記光センサの出力をそれぞれの出力を採り込んで、その各データを統一的な散乱光強度分布ベクトルの成分として用い、そのデータから、散乱光強度分布ベクトルを粒度分布ベクトルに変換するためのあらかじめ設定されている変換係数行列を用いた演算により、粒子群の粒度分布を一挙に算出する演算手段を備えたことを特徴とする粒度分布測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開平9−126984
【公開日】平成9年(1997)5月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−226814
【分割の表示】特願平7−69787の分割
【出願日】平成1年(1989)9月29日
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)