説明

粒径測定装置の校正用液滴生成装置及び校正用液滴生成方法ならびに粒径測定装置の校正方法

【課題】測定対象試料と同じ材料からなる、所望の粒径を持った液滴を生成可能な校正用液滴生成装置を提供する。
【解決手段】校正用液滴生成装置は、試料液を貯留する容器(2)と、その容器(2)内の試料液に対して所定の圧力を加える加圧装置(6、7)と、容器(2)の一面に配置され、容器(2)内の試料液に対して所定周期の振動を与える振動子(4)と、容器(2)の他の一面に配置され、容器(2)内の試料液に加えられた所定の圧力及び所定の振動に基づいて、所定の粒径を持つ試料液の液滴を吐出する少なくとも一つの吐出穴(10)を有するオリフィス(3)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径測定装置の校正に使用するための液滴を生成する液滴生成装置及び液滴生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定対象試料の粒子にレーザ光を照射し、その回折光または散乱光の強度分布を測定して、測定対象試料の粒径または粒径分布を測定する粒径測定装置が使用されている。このような粒径測定装置では、試料の粒径を正確に測定するために、予め粒径の分かっているマスタ粒子が、粒径測定装置を校正するために使用される。例えば、特許文献1には、ガラスなどの透明部材の内部に、球形に形成された既知の径を有する粉体のマスタ粒子を包含した校正用標準サンプル板が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−165846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の校正用標準サンプル板に包含されたマスタ粒子と異なる材質の試料の粒径を測定する場合、マスタ粒子と測定対象試料の物性の差、例えば、屈折率、透過率などの差により、測定対象試料にレーザ光を照射したときの回折光及び散乱光の強度分布は、校正用標準サンプル板にレーザ光を照射したときの回折光及び散乱光の強度分布とは異なるものとなる。したがって、校正用標準サンプル板を用いて校正した粒径測定装置によって、測定対象試料の粒径を測定しても、正確な測定値を得ることはできなかった。そのため、測定対象試料の正確な粒径を求めるためには、得られた測定値を、試料とマスタ試料の物性の差異を考慮して補正しなければならず、その補正に用いる補正係数などを別途求める必要があった。特に、測定対象試料が液体の場合、その試料を包含した校正用標準サンプル板を作成することは困難であるため、上記の補正を行うことが必須となっていた。
【0005】
そこで本発明は、測定対象試料と同じ材料からなる、所望の粒径を持った液滴を生成可能な校正用液滴生成装置及び校正用液滴生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の形態によれば、粒径測定装置の校正用液滴生成装置が提供される。係る校正用液滴生成装置は、試料液を貯留する容器(2)と、その容器(2)内の試料液に対して所定の圧力を加える加圧装置(6、7)と、容器(2)の一面に配置され、容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与える振動子(4)と、容器(2)の他の一面に配置され、容器(2)内の試料液に加えられた所定の圧力及び所定の振動に基づいて、所定の粒径を持つ試料液の液滴を吐出する少なくとも一つの吐出穴(10)を有するオリフィス(3)とを有する。
係る校正用液滴生成装置は、吐出穴の直径、試料液に与える圧力及び振動周波数を適切に調整することにより、粒径測定装置による測定対象と同じ材料で形成された、所望の粒径の液滴を供給できる。そのため、粒径測定装置の校正を簡便に行うことができる。さらに、この液滴生成装置によって生成された液滴を用いて校正された粒径測定装置は、測定時における、物性の差異を補償するための補正を省略することができる。
【0007】
また請求項2に記載のように、オリフィス(3)に形成された少なくとも一つの吐出穴(10)の流路長が、その吐出穴(10)の直径の略10倍以下であることが好ましい。
流路長をこのように設定することで、吐出穴から試料液がスムーズに吐出されるようになるので、液滴を容易に生成することができる。さらに、流路長をさらに短くすることにより、吐出穴から吐出される試料液が拡散されることを防止できるので、所望の粒径の液滴を生成することが容易となる。
【0008】
また請求項3に記載のように、オリフィス(3)は、複数の吐出穴(10)を有することが好ましい。
さらに請求項4に記載のように、複数の吐出穴(10)は、互いに異なる直径を有することが好ましい。係る構成により、校正用液滴生成装置は、複数の液滴、場合によっては、粒径の異なる液滴を同時に生成できるので、粒径測定装置が実際に測定を行う場合の測定条件により近い液滴のマスタを生成することができる。また、異なる粒径の液滴に対して粒径測定装置を校正できるので、粒径測定装置の測定精度を向上できる。
【0009】
また請求項5に記載のように、振動子(4)は、オリフィス(3)と対向して配置され、吐出穴(10)の流路に略平行な方向に振動を与えることが好ましい。係る構成により、振動子によって試料液に加えられる圧力波が容器の内壁で反射されて重畳することによる、生成される液滴の粒径の不安定化を防止できる。
【0010】
さらに、請求項6に記載のように、振動子(4)は振動の所定周波数を調整可能であり、かつ、校正用液滴生成装置は、振動子(4)に接続され、吐出穴(10)から吐出される液滴の粒径を小さくするほど所定周波数が高くなるように振動子(4)を制御する制御装置(8)を有することが好ましい。
あるいは、請求項7に記載のように、加圧装置(6、7)は所定の圧力を調整可能であり、かつ、校正用液滴生成装置は、加圧装置(6、7)に接続され、吐出穴(10)から吐出される液滴の粒径を小さくするほど所定の圧力が低くなるように加圧装置(6、7)を制御する制御装置(8)を有することが好ましい。
このような制御装置を有することにより、校正用液滴生成装置は、生成される液滴の粒径を所望の値に調節することができる。
【0011】
また、本発明の請求項8に記載の形態によれば、粒径測定装置の校正用液滴生成方法が提供される。係る校正用液滴生成方法は、容器(2)内に貯留された試料液に対して所定の圧力を加えるステップと、容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与えることにより、容器(2)の一面に形成された吐出穴(10)から試料液の液滴を吐出させるステップとを有する。
【0012】
さらに、本発明の請求項9に記載の形態によれば、粒径測定装置の校正方法が提供される。係る粒径測定装置の校正方法は、容器(2)内に貯留された試料液に対して所定の圧力を加えるステップと、容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与えることにより、容器(2)の一面に形成された吐出穴(10)から、所定の粒径を有する試料液の液滴を吐出させるステップと、試料液の液滴の粒径を、粒径測定装置で測定するステップと、粒径測定装置で測定された粒径と、所定の粒径が一致するように、粒径測定装置を校正するステップとを有する。
【0013】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置について詳細に説明する。係る校正用液滴生成装置は、微小径の吐出穴が形成されたオリフィスを有する容器内に満たされた液体に、一定の圧力及び一定周波数の振動を与えることにより、その吐出穴から所定の粒径を有する液滴を吐出するものである。
【0015】
図1に、本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置1を示す。校正用液滴生成装置1は、マスタ容器2、オリフィス3、振動子4、加圧容器5、エアポンプ6、圧力調整弁7および制御装置8を有する。
【0016】
マスタ容器2は、粒径測定装置によって測定される試料と同じ材料からなる試料液を貯留する容器であり、マスタ容器2の内部は試料液で満たされている。
図2に、マスタ容器2の分解側面断面図を示す。図1及び図2に示すように、マスタ容器2の下面には、液滴を吐出するための吐出穴10が形成されたオリフィス3が設置されている。さらに、マスタ容器2の上面には、オリフィス3と対向して振動子4が設置されている。なお、オリフィス3及び振動子4を、マスタ容器2の側面に配置してもよい。
【0017】
オリフィス3とマスタ容器2の間には、マスタ容器2内の試料液が漏れないように、シール部材としてOリング21が配置されている。同様に、振動子4とマスタ容器2の間にも、Oリング22が配置されている。さらに、オリフィス3及び振動子4は、固定治具23、24により、マスタ容器2に固定される。
【0018】
マスタ容器2の内部は、略円柱状に形成される。このようにマスタ容器2を形成することで、振動子4からの振動による圧力波がマスタ容器2の内壁で不規則に反射されて重畳することにより、吐出穴10の付近で振動周波数が変動して、生成される液滴の粒径が不規則に変化することを防止することができる。
また、マスタ容器2は、一方の側面に、試料液をマスタ容器2内に供給するための供給口25を有している。その供給口25には、管路9が連結される。そして、マスタ容器2は、管路9を通じて加圧容器5と連結されている。そして、加圧容器5に設けられたエアポンプ6により、マスタ容器2内の試料液に所望の圧力を加えることが可能となっている。また、エアポンプと加圧容器5の間には、圧力調整弁7が設置されている。圧力調整弁7は、エアポンプ6から供給される空気の量を調整し、加圧容器5の内部を所定の圧力に設定する。なお、エアポンプ6及び圧力調整弁7として、公知の装置を含む、様々な装置を使用することができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0019】
オリフィス3は、マスタ容器2内に満たされた試料液を液滴化して吐出する。
図3に、オリフィス3の概略側面断面図を示す。オリフィス3の略中央には、漏斗状に形成された吐出穴10が形成されている。また吐出穴10を、柱状(例えば、円柱状、四角柱状)に形成してもよい。ここで、生成される液滴の粒径は、吐出穴10の下端における直径Dの1.9倍以上となることが知られている。そこで、吐出穴の直径Dは、生成しようとする液滴の粒子径の半分以下の値に設定される。なお、液滴の粒径と吐出穴の直径の関係については、以下の文献を参照されたい。
・今井攻、橋本英典著、「ラム 流体力学」、東京図書株式会社、1981年、p.249-254
・谷一郎著、「流体力学の進歩 乱流」、丸善、1980年、p.177-219
・「流体力学 安定性と乱流」、東京大学出版会、p.54-57
【0020】
また吐出穴10の流路長Lは、吐出穴10の直径Dの略10倍以下であることが好ましい。流路長Lをこのように短くすることで、吐出穴10から試料液がスムーズに吐出されるようになるので、液滴を容易に生成することができる。さらに、流路長Lと直径Dの比L/Dをさらに小さくすることにより、吐出穴10から吐出される試料液が拡散されることを防止できるので、所望の粒径の液滴を生成することが容易となる。
【0021】
吐出穴10の流路長Lと直径Dの比を変化させて、その比によって生成される液滴がどのように変化するかをシミュレーションした。その結果を以下に示す。
一般に、オリフィスから試料液を吐出させる場合、オリフィスの吐出穴の出口を覆うように試料液の液膜が形成される。そのため、試料液に加えられる圧力が低いと、その液膜による表面張力のために、試料液がほとんど吐出されず、液滴の生成も困難となる。そこで、このシミュレーションでは、液滴が生成できる条件を、吐出穴10から試料液が吐出される条件、すなわち、吐出穴10の出口に形成された試料液の液膜による表面張力よりも、吐出穴10の出口において、マスタ容器2の内部から試料液に加えられる力の方が高い場合とした。
【0022】
ここで、吐出穴10から吐出される試料液の吐出流量は、以下の式で表すことができる。
【数1】

ただし、Qは吐出流量、P1は加圧容器5を通じて試料液に加えられる圧力、Dは吐出穴10の直径、Lは吐出穴10の流路長、μは試料液の粘性係数である。
一方、吐出流量Qと、吐出穴10の出口において試料液に掛かる吐出圧力P2は、以下の関係式で表される。
【数2】

ただし、ρは試料液の密度であり、cは流量係数である。
また、試料液が吐出される条件は、上記のように、吐出穴10の出口に形成された試料液の液膜による表面張力よりも、吐出穴10の出口において、マスタ容器2の内部から試料液に加えられる力の方が高いことであるので、この条件を以下の式で表すことができる。
【数3】

ただし、Tは試料液の液膜による表面張力である。
【0023】
図4に、上記の(1)〜(3)式に基づき、下記の条件にてL/Dを変化させたときのシミュレーション結果を示す。グラフの横軸は、L/Dを表し、縦軸は、吐出圧力P2を表す。またグラフ上の各点411〜416は、L/Dを変化させたときの吐出圧力P2の計算結果を表す。このシミュレーションにおいて、試料液はドライソルベント(密度ρ:0.79g/cm3、粘性係数μ:0.00091Pa・s、表面張力24.8dyn/cm)を用いるものとし、供給圧力P1を100kPa、流量係数cを0.7とした。このとき、(3)式を満たす吐出圧力P2の最小値は、グラフ上の横線401に相当する値となる。グラフから明らかなように、L/Dが略10以下の場合、吐出圧力P2は、横線401を上回る。したがって、試料液がスムーズに吐出され、液滴を容易に生成できるようにするためには、吐出穴10の流路長Lとその直径Dの比L/Dが10以下となることが必要であることが分かる。
【0024】
図5に、他の一例のオリフィス31の概略側面断面図を示す。図5に示すように、オリフィス31は、複数の吐出穴11、12を有している。また、それら複数の吐出穴11及び12の直径は互いに異なっている。複数の吐出穴を形成することで、校正用液滴生成装置1は、同時に生成される液滴の数を増やすことができるので、粒径測定装置(図示せず)が実際に測定を行う場合の測定条件により近い液滴のマスタを生成することができる。特に、オリフィスが、互いに異なる直径を持つ吐出穴を有することで、生成される液滴に粒径分布を持たせることができる。したがって、粒径測定装置を様々な粒径に対して校正することができる。なお、一つのオリフィスに形成される吐出穴は、1個まはた2個に限らず、3個以上であってもよい。さらに、生成される液滴の粒径を変更するために、吐出穴10の直径の異なるオリフィスを複数準備するとともに、マスタ容器2は、オリフィス3を交換可能としてもよい。
【0025】
振動子4は、マスタ容器2内の試料液に、所定周波数の振動を加える。このように試料液に振動を与えることにより、吐出穴10から吐出される試料液を液滴に形成することができる。また公知のように、液滴の粒径は、吐出穴10の直径と、試料液に加えられる圧力及び振動周波数によって決定される。そこで、様々な粒径の液滴を供給可能とするため、振動子4は、その振動周波数が可変であることが好ましい。そこで本実施形態では、振動子4をピエゾ振動子で構成した。しかし、振動子4を、音響型振動子など、他の様々な振動子を用いて構成してもよい。
【0026】
また振動子4は、マスタ容器2内の試料液に、試料液の液面に対して所定の周波数で垂直に振動する。そして、振動子4は、試料液に対してオリフィス3の吐出穴10の流路と略平行な方向の振動を与える。このように、振動子4をオリフィス3と対向して配置することで、振動子4により加えられた振動による圧力波が、マスタ容器2の側面で反射されて、試料液に重なって加えられることにより、液滴の粒径が不定期に変動することを防止できる。
【0027】
制御装置8は、例えば、演算装置と記憶装置とを有するパーソナルコンピュータ(PC)と、ディスプレイ及びキーボードなどの周辺機器と、PC上で動作するコンピュータプログラムなどで構成される。そして制御装置8は、振動子4と電気的に接続されており、振動子4を制御して、所望の周波数の振動を発生させる。また制御装置8は、エアポンプ6及び圧力調整弁7を制御する制御装置として用いてもよい。
【0028】
図6は、校正用液滴生成装置1による液滴生成手順のフローチャートを示す。
まず、事前準備として、生成しようとする液滴の粒径に対して適切な直径を有する吐出穴10を備えたオリフィス3を、マスタ容器2に取り付ける。上記のように、生成される液滴の粒径は、吐出穴10の直径の1.9倍以上となるので、例えば、生成しようとする液滴の粒径が100μmの場合、直径が50μm以下の吐出穴10を有するオリフィス3をマスタ容器2に取り付ける。また、異なる粒径を持つ液滴を同時に生成して、液滴に粒径分布を持たせたい場合は、互いに異なる直径を持った複数の吐出穴11、12を有するオリフィス31をマスタ容器2に取り付けてもよい。
【0029】
校正用液滴生成装置1は、加圧容器5からマスタ容器2内へ試料液を供給するとともに、その試料液に一定の圧力を加えて、マスタ容器2の内部に空気溜りが残らないように、エア抜きを行う(ステップS101)。
次に、圧力調整弁7を調整し、オリフィス3の吐出穴10から液柱が吐出されるようになるまで、試料液に加える圧力を高める(ステップS102)。
そして、吐出穴10から吐出される液柱を液滴に分離させるために、制御装置8から振動子4に制御信号を入力し、所定周波数の振動を発生させる(ステップS103)。振動子4が振動すると、マスタ容器2内の試料溶液を通じて液柱にその振動が伝わる。そして、液柱の表面に表面波が形成される。その表面波の振幅が液柱の直径と等しくなると、液柱が分断され、分断された部分が表面張力によって球状となり、液滴が形成される。
【0030】
上記のように、生成された液滴の粒径は、吐出穴10の直径と、試料溶液に加えられる圧力及び振動周波数により決定され、その関係は既知である。そこで、圧力調整弁7を調整して、マスタ容器2内の試料液に加える圧力を所望の値に設定し、かつ振動子4が発生する振動の周波数を調整することにより、校正用液滴生成装置1は、所望の粒径の液滴を生成できる。例えば、校正用液滴生成装置1は、所望する液滴の粒径が小さいほど、振動子4が発生する振動の周波数を高く設定する。
【0031】
以上説明してきたように、本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置1は、吐出穴10の直径、試料液に加える圧力及び振動周波数を適切に調整することにより、粒径測定装置で粒径を測定しようとする試料と同じ材質からなる、所望の粒径を持つ液滴を提供することができる。そのため、粒径測定装置の校正を簡便に行うことができるとともに、粒径測定装置を用いた液滴の粒径を測定する際の補正を省略することができる。例えば、特開2003−149123号公報に開示されるような、測定対象試料にレーザ光を照射する光源と、測定対象試料で散乱または回折された光を検出する検出器と、検出された光に基づいて測定対象試料の粒径を求める演算処理装置を有する粒径測定装置に対して、校正用液滴生成装置1で生成された所望の粒径を持つ液滴を標準粒子として提供する。その粒径測定装置は、提供された液滴を測定して得られた粒径が、液滴の粒径と一致するように、校正される。なお、校正のために用いる演算は公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
以下、校正用液滴生成装置1を用いて校正用の液滴を生成した実験結果について説明する。
・実験1
実験1として、単一の吐出穴を持つオリフィスを用いて、単一の粒径を持つ液滴を生成する実験を行った。試料液として、ドライソルベントを使用した。また、吐出穴の直径の異なる6種類のオリフィスを準備した。各オリフィスは、それぞれ、直径10、20、30、50、80、100μmの吐出穴を有する。
マスタ容器2内の圧力を、20kPaまたは40kPaに設定した。そして、振動子4を、振動周波数1kHz〜12kHzで発振させ、液滴を吐出させた。
図7に、直径80μmの吐出穴を持つオリフィスを用いた場合における、試料液に加えた圧力及び振動周波数と、生成された液滴の粒径の関係を表すグラフを示す。図7において、横軸は振動周波数を示し、縦軸は生成された液滴の粒径を示す。円で示された各測定点の群71は、圧力を20kPaとしたときの液滴の粒径を表す。一方、三角形で示された各測定点の群72は、圧力を40kPaとしたときの液滴の粒径を表す。図7に示すように、マスタ容器内の圧力及び振動周波数を上記のように調整することにより、校正用液滴生成装置1は、直径78μm〜116μmの均一径の液滴を生成することができた。
同様に、オリフィスを交換して、マスタ容器内の圧力及び振動周波数を適切に調整することにより、直径20μm〜200μmの均一径の液滴を生成することができた。
【0033】
図8(a)〜(e)に、校正用液滴生成装置1を用いて生成した液滴を撮影した写真を示す。図8(a)〜(e)に示す液滴81〜85は、それぞれ粒径146μm、105μm、75μm、62μm及び40μmを有する。図8(a)〜(e)に示すように、何れの粒径の液滴についても、均一な径を持つ液滴が連続的に生成されていることが分かる。
【0034】
・実験2
実験2として、異なる直径の二つの吐出穴を持つオリフィスを用いて、2種類の粒径を持つ液滴を同時に生成する実験を行った。試料液として、ドライソルベントを使用した。また、直径30μmの吐出穴と、40μmの吐出穴を有するオリフィスをマスタ容器に取り付けた。
そして、マスタ容器2内の圧力を、120kPaに設定し、振動子4を、振動周波数12kHzで発振させ、液滴を吐出させた。
その結果、校正用液滴生成装置1は、直径70μmの均一径の液滴と、直径80μmの均一径の液滴を生成することができた。
【0035】
上述してきた実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。例えば、校正用液滴生成装置1は、高速カメラ(例えば、1000フレーム/秒)をさらに有し、その高速カメラで生成された液滴を撮影した画像を制御装置8で解析して、生成された液滴の粒径を判定するようにしてもよい。さらに、制御装置8は、生成される液滴が所望の粒径を有するように、判定した液滴の粒径に基づいて振動子4または圧力調整弁7を調整し、試料液に加えられる圧力及び振動周波数を修正してもよい。例えば、生成された液滴の粒径が所望の液滴の粒径よりも小さい場合、制御装置8は、振動子4を、その振動周波数が低くなるように制御する。逆に、生成された液滴の粒径が所望の液滴の粒径よりも大きい場合、制御装置8は、振動子4を、その振動周波数が高くなるように制御する。また高速カメラによって液滴を撮影した画像からその液滴の粒径を判定するために、制御装置8は、周知の画像処理手法を利用することができる。例えば、制御装置8は、その画像を輝度の平均値で2値化した後、ラベリング処理を行って各液滴に対応する画像上の領域をそれぞれ求める。そして制御装置8は、各領域の最大幅を、液滴の粒径とすることができる。
【0036】
また、上記の実施形態に係る校正用液滴生成装置を複数有し、各校正用液滴生成装置から同時に液滴を生成する校正用液滴生成システムを構成してもよい。この場合において、各校正用液滴生成装置に取り付けられるオリフィスの吐出穴の直径は、互いに異なっていてもよい。このように構成することにより、校正用液滴生成装置ごとに独立して圧力及び振動周波数を調整できるので、校正用液滴生成システムは、様々な粒径を持つ液滴を同時に生成することができる。
このように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置の概略構成図である。
【図2】マスタ容器の分解側面断面図である。
【図3】オリフィスの概略側面断面図である。
【図4】吐出穴の流路長と直径の比と、液滴の生成条件との関係を示すシミュレーション結果を表すグラフである。
【図5】他の一例に係るオリフィスの概略側面断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置による校正用液滴の生成手順を示したフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置を用いて生成された液滴の粒径と吐出穴の直径との関係を示すグラフである。
【図8】(a)〜(e)は、本発明の一実施形態に係る校正用液滴生成装置を用いて生成された液滴を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0038】
1 校正用液滴生成装置
2 マスタ容器
3、31 オリフィス
4 振動子
5 加圧容器
6 エアポンプ
7 圧力調整弁
8 制御装置
9 管路
10、11、12 吐出穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を貯留する容器(2)と、
前記容器(2)内の試料液に対して所定の圧力を加える加圧装置(6、7)と、
前記容器(2)の一面に配置され、前記容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与える振動子(4)と、
前記容器(2)の他の一面に配置され、前記容器(2)内の試料液に加えられた前記所定の圧力及び所定周波数の振動に基づいて、所定の粒径を持つ試料液の液滴を吐出する少なくとも一つの吐出穴(10)を有するオリフィス(3)と、
を有することを特徴とする粒径測定装置の校正用液滴生成装置。
【請求項2】
前記オリフィス(3)は、前記少なくとも一つの吐出穴(10)の流路長が、該吐出穴(10)の直径の略10倍以下である、請求項1に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項3】
前記オリフィス(3)は、複数の吐出穴(10)を有する、請求項1または2に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項4】
前記複数の吐出穴(10)は、互いに異なる直径を有する、請求項3に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項5】
前記振動子(4)は、前記オリフィス(3)と対向して配置され、前記吐出穴(10)の流路に略平行な方向に振動を与える、請求項1〜4の何れか一項に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項6】
前記振動子(4)は、前記振動の所定周波数を調整可能であり、かつ、前記振動子(4)に接続され、前記吐出穴(10)から吐出される液滴の粒径を小さくするほど前記所定周波数が高くなるように前記振動子(4)を制御する制御装置(8)をさらに有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項7】
前記加圧装置(6、7)は、前記所定の圧力を調整可能であり、かつ、前記加圧装置(6、7)に接続され、前記吐出穴(10)から吐出される液滴の粒径を小さくするほど前記所定の圧力が低くなるように前記加圧装置(6、7)を制御する制御装置(8)をさらに有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の校正用液滴生成装置。
【請求項8】
粒径測定装置の校正用液滴生成方法であって、
容器(2)内に貯留された試料液に対して所定の圧力を加えるステップと、
前記容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与えることにより、前記容器(2)の一面に形成された吐出穴(10)から所定の粒径を有する試料液の液滴を吐出させるステップと、
を有することを特徴とする校正用液滴生成方法。
【請求項9】
粒径測定装置の校正方法であって、
容器(2)内に貯留された試料液に対して所定の圧力を加えるステップと、
前記容器(2)内の試料液に対して所定周波数の振動を与えることにより、前記容器(2)の一面に形成された吐出穴(10)から、所定の粒径を有する試料液の液滴を吐出させるステップと、
前記試料液の液滴の粒径を、前記粒径測定装置で測定するステップと、
前記粒径測定装置で測定された粒径と、前記所定の粒径が一致するように、前記粒径測定装置を校正するステップと、
を有することを特徴とする校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−36674(P2009−36674A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202137(P2007−202137)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】