説明

粒状緑藻防除剤、及び、粒状緑藻の防除方法

【課題】金属腐食のおそれがなく、さまざまな粒状緑藻に対して広範囲に殺藻効果を有し、かつ、低濃度の添加で高い効果が得られる粒状緑藻防除剤を提供する。
【解決手段】N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを有効成分として含有する粒状緑藻防除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状緑藻防除剤、及び、粒状緑藻の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環冷却水系におけるスライムコントロール剤として、イソチアゾリン系化合物、特に、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとの混合剤は、低濃度の添加でも有効であり、抗菌スペクトルが広く、さらに水溶性で取扱いが容易なことから広く使われてきた(米国特許第4241214号(特許文献1)、特公昭58−4682号公報(特許文献2))。
【0003】
この組合せ薬剤によれば、殆どの細菌類、真菌類、藻類に有効であるが、一部の粒状緑藻類に殆ど効果を示さない。実際、本混合液を長期間使用している冷却水系では、細菌類、真菌類及び他の藻類の繁殖は認められないものの、冷却塔の上部水槽や充填材に粒状緑藻が繁殖し、問題となることが多い。
【0004】
ここで、粒状緑藻類としては、テトラスポラ属、グロエオキスティス属、スフェロキスティス属、あるいはクロレラ属等に属するものなど、非常に多くの種類のものが存在するが、顕微鏡観察等によってもこれら粒状緑藻の種類の明確な区別は困難である場合が多い。
【0005】
これら多様な粒状緑藻は、いずれも鮮やかな緑色であり、繁殖の結果、水面を覆い、機器に付着して美観を著しく損ねるとともに、冷却塔の効率を低下させる。このうち、イソチアゾリン系化合物を藻類防除剤として長期間使用した水系水に発生した粒状緑藻に対しては、環境への負荷が少なくコスト的にも有利な低濃度の添加で有効な防除剤が少なく、しかも網羅的に効果のある防除剤としては、金属部材に対して強い腐食性を有し、その結果、使用できる環境が限定される塩素系殺菌剤以外は知られておらず、その他の既存の防除剤では粒状緑藻の種類によっては効果が得られたり、得られなかったりする点が問題であった。
【0006】
このため、現状では、粒状緑藻が発生した水系水をサンプリングし、既存の何種類もの防除剤を用いてラボテストを行い、検討した防除剤のうち、効果が得られた防除剤を実際の水系水に応用すると云う方法が採られているものの、この方法では、手間がかかり、かつ、防除完了までの日数が長くなると云う欠点があるとともに、用いた防除剤に耐性を有する(別の種類のものと思われる)粒状緑藻が繁殖しはじめる可能性もあり、その場合には対応は場当たり的となるとともに防除完了までにさらに多くの手間と日数を要する。
【0007】
このため、低濃度の添加で金属腐食のおそれがなく、かつ、さまざまな粒状緑藻に対して広範囲に殺藻効果を有する防除剤が求められていた。
【0008】
ここで、高級脂肪族ポリアミンは、従来、殺菌剤(特表2003−503321公報(特許文献3))、殺ウィルス剤用途(特表2005−514427公報(特許文献4))、消毒剤(特表2004−509138公報(特許文献5))、工業用防腐剤(特開平11−71210号公報(特許文献6))、海生生物付着防止剤(特開平10−77202号公報(特許文献7))などの用途に応用されることは公知であった。
【0009】
しかし、殺藻効果、特に、従来使用されている殺微生物剤が効きにくい粒状緑藻に対する殺藻効果については、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4241214号
【特許文献2】特公昭58−4682号公報
【特許文献3】特表2003−503321公報
【特許文献4】特表2005−514427公報
【特許文献5】特表2004−509138公報
【特許文献6】特開平11−71210号公報
【特許文献7】特開平10−77202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、金属腐食のおそれがなく、さまざまな粒状緑藻に対して広範囲に殺藻効果を有し、かつ、低濃度の添加で高い効果が得られる粒状緑藻防除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく、種々検討を行った結果、高級脂肪族ポリアミンの中でも、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンが、様々な粒状緑藻に対して全く想像することができない高い防除効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明の粒状緑藻防除剤は、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを有効成分として含有することを特徴とする粒状緑藻防除剤である。
【0014】
また、本発明の粒状緑藻の防除方法は、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを防除対象水系に添加することを特徴とする粒状緑藻の防除方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粒状緑藻防除剤によれば、金属腐食のおそれがなく、さまざまな粒状緑藻に対して広範囲に殺藻効果を有し、かつ、低濃度の添加で高い効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
化学式(1)にN,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンの構造式を示す。
【0017】
【化1】

【0018】
このようなN,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンはアルカリ性の黄色液体であり、その低濃度水溶液は塩素系殺菌剤のように銅や鉄に対して腐食を促進させる恐れはない。
【0019】
本発明の粒状緑藻防除方法において、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンの防除対象水系への添加量としては、1mg/L以上500mg/L以下であることが好ましい。添加量が1mg/L未満であると充分な粒状緑藻防除効果が得られないことがあり、また、500mg/Lを超えて添加しても、添加量の増加に見合う粒状緑藻防除効果の増加は得られにくく、かつ、添加水系での泡立ちが生じやすくなる。より好ましい添加範囲は1mg/L以上100mg/L以下、最適な添加範囲は5mg/L以上20mg/L以下である。
【0020】
本発明において、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを使用するに当たり、本発明の効果が妨げられない限り、さらにその特性を改良するなどの目的で、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩、などのスケール防止剤、例えば5-クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、臭素系殺菌剤およびヨウ素系殺菌剤、さらにピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアネート系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、四級ホスホニウム塩系化合物、ピリジニウム塩系化合物、ヨーネンポリマー等のカチオン系化合物、などのスライム防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の水処理剤を併用することができ、その場合も本発明に含まれる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の粒状緑藻防除剤の実施例について具体的に説明する。
【0022】
2倍に希釈したデトマー(Detmer)培地中に、イソチアゾリン(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとの併用)を常時使用して藻類の発生を防止してきたにもかかわらず、粒状緑藻が多量に発生した冷却水系(所在:茨城県つくば市)で稼働中の冷却塔より採取した粒状緑藻を、1mL当たりの乾燥重量が0.2mgとなるように懸濁し、15mL容のL型試験管に10mLずつ分注した。
【0023】
次に、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミン(略号:BAPDA)、及び、比較のために、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンに代わる公知のポリアミン系殺菌剤として、N,N−ビス(3−アミノプロピル)オクチルアミン(略号:BAPOA)、N−ドデシル−ジプロピレントリアミン(C1225−NH−C−NH−C−NH)(略号:DDPTA)、及び、ポリアミン系以外の公知の殺菌剤として、10重量%の5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと3重量%の2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを含む製剤(略号:CMI)のそれぞれを、表1に示す添加量となるように添加した後、10000lxの光を照射して30rpmで振とうしながら、30℃で7日間(接触時間)培養した。そして経日的に培養液の色調を観察し、緑色が初期と同程度である場合を+、増殖して緑色が濃くなった場合を++、さらに著しく増殖した場合を+++とし、一方、緑色が若干褪色した場合を士、完全に褪色して微黄白色となった場合を一と判定した。こうして調べた結果を、表1に併せて示した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1により、本発明の粒状緑藻防除剤は、上記粒状緑藻において、高い防除能を発揮することが判る。
【0026】
次にイソチアゾリンを常時使用する複数の冷却水系で発生した粒状緑藻に対しての防除効果について調べた。すなわち、上記冷却水系とは異なる、12箇所の冷却水系水で発生した粒状緑藻(A〜L)を用い、上記同様に本発明に係る粒状緑藻防除剤(N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミン)(略号:BAPDA)による殺藻試験を行い、このとき、充分な防除効果と云える、添加後7日間で粒状緑藻の緑色が完全に褪色して微黄白色となる最低添加濃度(mg/L)を調べた。
【0027】
また、同時に、N,N−ビス(3−アミノプロピル)オクチルアミン(略号:BAPOA)、及び、代表的な殺藻剤である、トリ−n−ブチル−n−ドデシルホスホニウムクロライド(略号:TBDP)、及び、上記で用いたイソチアゾリン系殺藻剤(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを重量でそれぞれ10重量%及び3重量%含有する混合剤)(略号:CMI)に付いても同様に、殺藻効果が得られた最低添加濃度(mg/L)を調べた。これら結果を表2に併せて示す。なお、表2で「100mg/Lで効果なし」及び「400mg/Lで効果なし」とは、それぞれ、薬剤を100mg/L、あるいは、400mg/Lとなるように添加したもの、粒状緑藻の防除効果が得られなかったことを示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、本発明に係る粒状緑藻防除剤によればこれら水系の粒状緑藻(A〜L)のすべてに対して、濃度が20mg/Lとなるよう添加した場合、充分な防除効果が得られることが理解できる。
【0030】
これに対して、その他の薬剤では、粒状緑藻(A〜L)のすべてに対して、本発明に係る粒状緑藻防除剤よりも高濃度での添加を必要とする。
【0031】
また、上記粒状緑藻(A〜L)はイソチアゾリン系殺藻剤が恒常的に添加されていた水系で繁殖したものであり、そのため、これら粒状緑藻は表3に示されるようにイソチアゾリン系殺藻剤に対しては高い耐性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを有効成分として含有することを特徴とする粒状緑藻防除剤。
【請求項2】
N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンを防除対象水系に添加することを特徴とする粒状緑藻の防除方法。

【公開番号】特開2010−229086(P2010−229086A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78767(P2009−78767)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】