説明

粗リグノフェノール誘導体塗料

【課題】耐久性に優れ、石油系合成化学物質を使用せず、廉価である自然系塗料を提供する。
【解決手段】少なくとも、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、その後、過剰の水を加えて分離された不溶区分の粗リグノフェノール誘導体と、天然系溶剤と、天然系乾性油と、天然系樹脂とを混合して、粗リグノフェノール誘導体塗料とする。天然系溶剤としては、α−ターピネオールが好ましい。また天然系乾性油としては、亜麻仁油が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材等のリグノセルロース系材料から得られる粗リグノフェノール誘導体を使用した自然系塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装業界においては、環境汚染物質に対する規制などの動向を受け、地球環境に優しい塗料が求められている。
また、住宅業界では、建築材料から揮発する有機化合物による居住者の健康被害が社会的問題となり、建築基準法が改正され法的な規制が設けられた。
そこで、動植物から採取した天然原料を主体とする自然系塗料の使用が広く検討されている。この自然系塗料は、石油系合成化学物質を含まないので、シックハウス症候群の発症を抑えることができるといった大きな利点がある。
【0003】
しかしながら、自然系塗料は、耐汚染性、耐水性、耐熱水性、耐候性および耐摩耗性などに劣り、耐久性に乏しく、外装建材の塗料としてはもちろんのこと、内装建材の塗料として用いた場合にも、窓際や水廻りの使用には問題があった。特に最近、光を居住空間に多く取り込むような住宅設計が広く採用されるようになったことも影響し、短期間で劣化してしまうのである。
その上、天然原料を使用しているので価格が高いといった欠点もある。
こうしたことから、自然系塗料はきわめて社会的要請が強いにも関わらず、広く一般に用いられるには至っておらず、今後の改良が強く望まれている。
【0004】
こうした中で、塗膜特性を向上させた自然系塗料として、特許文献1には、リグノフェノール誘導体を用いたものが開示されている。
リグノフェノール誘導体とは、天然原料であるリグノセルロース系材料をフェノール誘導体で誘導体化したものであり、クレゾール、キシレノール、ジメチルフェノール、プロピルフェノールなどによる誘導体があるが、クレゾールを用いたリグノクレゾールが最も一般的である。
特許文献1では、このリグノフェノール誘導体と溶剤を混合することにより、従来と比較して耐久性に優れた自然系塗料を提案している。
【0005】
また、特許文献2には、パルプ製造時の副産物であるトール油ピッチにリグノフェノール誘導体を混合することにより、トール油ピッチを自然系塗料として利用するものが開示されている。
【特許文献1】特開2003−226841号公報
【特許文献2】特開2004−238490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載のいずれの発明においても、固形分については天然原料を使用しているが、リグノフェノール誘導体を溶解させるためにキシレンやアセトンなどの非天然系溶剤を用いており、この点で自然系塗料として課題が残っている。
また、リグノフェノール誘導体の精製には、多大な時間と手間、高額のプラントを要し、アセトン、ジエチルエーテル等の危険な溶剤を用いる必要があるため、価格面の改善が十分なされているとはいえない。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するためのものであり、耐久性に優れ、非天然系溶剤を使用せず、廉価である自然系塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る発明の粗リグノフェノール誘導体塗料は、少なくとも、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、その後、過剰の水を加えて分離された不溶区分の粗リグノフェノール誘導体と、天然系溶剤と、天然系乾性油と、天然系樹脂とを混合してなるものである。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記天然系溶剤は、α−ターピネオールであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記天然系乾性油は、亜麻仁油であることを特徴とする。
【0011】
ここで、天然系溶剤、天然系乾性油、天然系樹脂において用いられている「天然系」なる字句は、動植物から採取した天然原料をもとに製造されたものであることを意味している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、粗リグノフェノール誘導体と、天然系溶剤と、天然系乾性油と、天然系樹脂とを混合することにより、耐久性に優れた自然系塗料を提供することができる。
また、天然系溶剤を用いるので、キシレンやアセトンなどの非天然系溶剤を用いる必要がなく、地球環境に優しい塗料とすることができる。
さらに、粗リグノフェノール誘導体は、リグノフェノール誘導体のように、多大な時間と手間、高額のプラントや、アセトン、エーテル等の危険な溶剤を用いて精製する必要がなく、廉価な製造が可能である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、天然系溶剤としてα−ターピネオールを用いるので、天然系溶剤であるテルペンやα−ピネン等に比べ溶解性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、天然系乾性油として亜麻仁油を用いるので、混合性を向上させるとともに、カシューナッツシェルオイル等の天然系乾性油と比較して廉価な製造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態に係る粗リグノフェノール誘導体塗料について説明する。
本発明の実施形態に係る粗リグノフェノール誘導体塗料は、少なくとも、粗リグノフェノール誘導体と、天然系溶剤と、天然系乾性油と、天然系樹脂とを混合してなるものである。
【0016】
ここで、粗リグノフェノール誘導体とは、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に無機酸を添加して混合し、その後、過剰の水を加えて分離された不溶区分のものをいう。
言い換えれば、粗リグノフェノール誘導体は、天然原料であるリグノセルロース系材料をフェノール誘導体で誘導体化してリグノフェノール誘導体を製造する途中の過程で得られる、精製前のリグノフェノール誘導体ということができる。
また、クレゾール、キシレノール、ジメチルフェノール、プロピルフェノールなどによる誘導体があるが、クレゾールを誘導体として用いた粗リグノクレゾールが最も一般的である。
なお、リグノセルロース系材料から粗リグノフェノール誘導体を経て、リグノフェノール誘導体を製造する方法については、特開2003−268116号公報、特開2004−224980号公報に詳細に記載されている。
【0017】
天然系溶剤は、動植物から採取した天然原料をもとに製造される溶剤であるが、そのほとんどが粗リグノフェノール誘導体の溶解性が悪い。しかしながらテルペン系アルコール、中でもα−ターピネオールが溶解性に優れている。またエタノールも混合使用される。
【0018】
天然系乾性油は、動植物から採取した天然原料をもとに製造される不揮発性の乾性油であり、造膜剤として機能し、耐候性や塗膜の肉持ち、目割れ防止の粘弾性を塗料に与えるものである。
天然系乾性油としては、カシューナッツシェルオイル、亜麻仁油、大豆油、桐油、サフラワー油、綿実油、魚油等が用いられる。中でも、亜麻仁油は混合性に優れ、廉価である。
【0019】
天然系樹脂は、動植物から採取した天然原料をもとに製造される樹脂であり、造膜剤として機能し、表面の硬度、ツヤ出し、ヤニ止めなどの効果を有するものである。
天然系樹脂としては、蜜蝋、セラック、ロジン、コーパル、ダンマル等が用いられる。
【0020】
このような材料を混合した本実施形態に係る粗リグノフェノール誘導体塗料は、耐汚染性、耐水性、耐熱水性、耐候性および耐摩耗性等の耐久性に優れる。
粗リグノフェノール誘導体は、木質繊維質との複合構造(IPN)を形成しやすく、紫外線吸収性や疎水性(耐水性)にも優れる。従って、この塗料を木質材料に塗布した場合、木材の木目に浸透して密着するので、乾燥が速いとともに、塗膜および木材の耐久性を高めることができるのである。
【0021】
また、石油系合成化学物質を主体とした塗料に見られるような環境汚染物質並びに環境ホルモンを含まないので、シックハウス症候群等の心配がない。さらに、塗装した木材を廃棄および焼却しても環境ホルモンを大気中や土壌に残留させることがない。
特に、本実施形態においてはα−ターピネオール等の天然系溶剤を用いるので、キシレンやアセトンなどの非天然系溶剤を用いる必要がなく、地球環境に優しい塗料とすることができる。
【0022】
さらに、粗リグノフェノール誘導体は、リグノフェノール誘導体のように、多大な時間と手間、高額のプラントや、アセトン、ジエチルエーテル等の危険な溶剤を用いて精製する必要がなく、廉価な製造が可能である。
また、上記で用いられる天然系の原料のうち、大豆油、亜麻仁油、セラックは、精製したリグノフェノール誘導体とは混合しないが、精製前の状態である粗リグノフェノール誘導体とは良好に混合させることができるものであり、粗リグノフェノール誘導体を用いることで天然系材料の選択肢を拡げることができる。
【0023】
なお、本実施形態に係る粗リグノフェノール誘導体塗料は、木質材料に塗布し建築材料(内装材、外装材)の表面性能を向上させることができるが、必ずしも木質材料に限るものではなく、例えばダンボールの梱包材や紙管に塗布して表面性能を向上させるなどの用途にも用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施形態を2つの実施例により説明し、それらと従来技術に係る自然塗料(4つの比較例)とを比較するための性能試験を行った。なお、本実施例において、「%」は重量%を示し、「部」は重量部を示す。
また、粗リグノフェノール誘導体としては、粗リグノクレゾールを用いた。
【0025】
(実施例1)
実施例1の塗料中の各成分は、粗リグノクレゾール6.8部、蜜蝋0.5部、セラック13.6部、ロジンエステル4.6部、カシューナッツシェルオイル4.6部、α−ターピネオール39.4部、エタノール30.6部である。
これらをすべて混ぜ合わせたのち、6%ナフテン酸コバルトドライヤーを0.1%添加し、十分に混合して塗料とした。
実施例1の固形分は30%に仕上がった。
【0026】
(実施例2)
実施例1のカシューナッツシェルオイルの代わりに亜麻仁油を用いて塗料化した。これによりコストダウンを図った。
実施例2の塗料中の各成分は、粗リグノクレゾール4.7部、蜜蝋0.5部、セラック14.0部、ロジンエステル4.7部、亜麻仁油4.7部、α−ターピネオール40.3部、エタノール31.3部である。
これらをすべて混ぜ合わせたのち、6%ナフテン酸コバルトドライヤーを0.1%添加し、十分に混合して塗料とした。
実施例2の固形分は40%に仕上がった。
【0027】
(比較例1)
実施例1の粗リグノクレゾールの代わりに、精製したリグノクレゾールを用いて塗料化した。
【0028】
(比較例2)
実施例1の成分から粗リグノクレゾールを除いたもので塗料化した。
【0029】
(比較例3)
実施例2の成分から粗リグノフェノールを除いたもので塗料化した。
【0030】
(比較例4)
現行の自然塗料で、樹脂率100%の油含浸タイプを用いた。
【0031】
[性能試験の内容]
ラジアータパイン無垢材に各塗料を2回塗布し、乾燥後、次の試験を行った。
1.耐液体性試験(水浸せき法)JIS K 5600−6.2に準じる
塗装試験片の周りから水が入ってこないようにアルミホイルを巻き、隙間をシリコンで埋め密封した。その後、20℃の水道水中に試験片を浸漬し、96時間放置し、塗膜の白化、割れ、はがれの有無などの塗膜外観の変化を調べた。
2.付着性試験(クロスカット法)JIS K 5600−5.6に準じる
試験体表面にクロスカットガイドを用いて、幅2mmの碁盤目状の切り傷を100マスつける。その後セロハンテープを貼り消しゴムでこすり完全に密着させてから瞬間的にはがす。塗膜のはがれを目視で観察する。
3.促進耐候性試験JIS K 5400−9.8.1に準じる
スガ試験機(株)製デューサイクルサンシャインウエザーメーターWELL−SUN−DC−B型に38時間ごとに暴露し塗膜の割れ、はがれがないかを目視で観察し、同時に光沢、及び色差を測定した。試験結果を、表1に示す。
なお、比較例4は造膜タイプでないため、耐水性試験と密着試験については比較対象外とした。
【0032】
【表1】

【0033】
表1のうち「付着性試験」の欄は、100マス碁盤目を形成して塗膜のはがれのなかったマス目の数を示している。また、「促進耐候性試験」の欄は、割れ、はがれが発生するまでに要した時間を示している。
【0034】
この試験結果から、実施例1、実施例2に係る粗リグノフェノール誘導体塗料はともに、すべての試験項目において比較例に示したものよりも優れていることが確認できた。
特に注目すべきは、粗リグノクレゾールの代わりに、精製したリグノクレゾールを用いた比較例1が、すべての試験項目で大きく劣っている点である。
すなわち、天然系溶剤、天然系乾性油、天然系樹脂と混合して塗料とする場合には、精製したリグノクレゾールを用いるよりも、未精製の状態である粗リグノクレゾールを用いた場合の方が、耐久性を高めることができると言える。
【0035】
この要因としては、未精製の状態である粗リグノクレゾールには、精製したリグノクレゾールには含まれない成分が存在し、塗料の耐久性を向上させるのに寄与していることが考えられる。
従って、精製したリグノクレゾール中では不純物と思われていた成分が、塗膜特性的には有効な成分であるということができる。
その成分としては、低分子区分のリグノクレゾール(フェノール類)、硫酸セルロース、リグニン硫酸エステル、グルコース、オリゴ糖などの糖分、タンニン、カテキン、没食子酸、フルフラールなどのポリフェノール類があげられる。酢酸セルロースが耐候性を向上させるのは周知のことであるが、同様に硫酸セルロースも耐候性を向上させ、リグニン硫酸エステルは塗膜を強固にし、糖は可塑的な性質を示し、ポリフェノールは高分子化に伴い配位結合を強固にすると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、その後、過剰の水を加えて分離された不溶区分の粗リグノフェノール誘導体と、天然系溶剤と、天然系乾性油と、天然系樹脂とを混合してなる粗リグノフェノール誘導体塗料。
【請求項2】
前記天然系溶剤は、α−ターピネオールであることを特徴とする請求項1に記載の粗リグノフェノール誘導体塗料。
【請求項3】
前記天然系乾性油は、亜麻仁油であることを特徴とする請求項1に記載の粗リグノフェノール誘導体塗料。

【公開番号】特開2006−193699(P2006−193699A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9593(P2005−9593)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(395018778)機能性木質新素材技術研究組合 (17)
【Fターム(参考)】