説明

粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材及びその製造方法

【課題】粗大結晶粒組織模様を意匠として利用したアルミニウム素材であって、より改良された意匠性を有するアルミニウム素材を提供する。
【解決手段】粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材であって、当該素材表面の平均結晶粒径が2〜100mmであり、且つ、結晶粒の一部又は全部は、当該素材表面において結晶方位が連続的に変化していることを特徴とするアルミニウム素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム素材は、建材、インテリア材、電気機器のボディ材、自動車などの内装材として広く使用されている。従来、アルミニウム素材としての箔や板は、圧延や型付けによって模様を付与したり、研磨などの表面処理により鏡面やマット面に加工したり、着色したりすることにより意匠性を付与している。
【0003】
近年、アルミニウム素材の結晶を制御して粗大な再結晶粒を成長させ、エッチング処理を経て再結晶粒どうしの結晶方位の差を光学的に発現させた、新たな意匠を有するアルミニウム素材の開発がなされている。このような技術を開示する特許文献としては、下記の特許文献1〜4が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、「アルミニウム部材に熱処理を施して結晶粒を粗大化させ、さらにエッチング処理を施して表面の汚れ等を取り除き、これにより結晶粒を浮かび上がらせ、この結晶粒模様により装飾性を高める方法を発明した。」ことが記載されている(特許文献1の[解決しようとする課題]欄)。
【0005】
特許文献2には、アルミニウムやアルミニウム合金の押出材や板材の表面に結晶粒模様を発現させる表面処理方法として、「濃度15〜2500ppmの亜鉛イオンを含み液温40〜60℃,pH12以上のアルカリ性水溶液に、平均結晶粒径が1mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金を5〜60分浸漬処理することを特徴とするアルミニウム材料の表面処理方法。」が記載されている(特許文献2の[請求項1])。
【0006】
特許文献3には、特定組成を有する結晶粒組織模様発現用アルミニウム合金素材、及びそれをエッチング処理することにより、結晶粒組織模様が得られることが記載されている(特許文献3の特許請求の範囲、実施例1)。
【0007】
特許文献4には、特定の結晶粒組織模様発現用アルミニウム素材、及びそれをエッチング処理することにより、結晶粒組織模様が得られることが記載されている(特許文献4の特許請求の範囲)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−257196号公報
【特許文献2】特開2001−64784号公報
【特許文献3】特開2005−325420号公報
【特許文献4】特開2006−97059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、粗大結晶粒組織模様を意匠として利用したアルミニウム素材であって、より改良された意匠性を有するアルミニウム素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記の粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材及びその製造方法に関する。
1. 粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材であって、当該素材表面の平均結晶粒径が2〜100mmであり、且つ、結晶粒の一部又は全部は、当該素材表面において結晶方位が連続的に変化していることを特徴とするアルミニウム素材。
2. アルミニウム鋳塊を塑性加工することにより箔状又は板状のアルミニウム材料を得る工程1、前記アルミニウム材料を180〜430℃で熱処理することにより一次再結晶粒を生成させる工程2、一次再結晶粒を430℃以上で熱処理することにより二次再結晶粒を生成させる工程3、二次再結晶粒を生成させたアルミニウム材料をエッチング処理する工程4を順に有する粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材の製造方法であって、
工程2と工程3の間で、箔状又は板状のアルミニウム材料の一部又は全部に、箔状又は板状の表面が連続的に湾曲するように応力を付加するとともに、
工程3と工程4の間で、前記湾曲させたアルミニウム材料を平滑な箔状又は板状に戻すことを特徴とする製造方法。
3. 前記アルミニウム材料をコイル状に巻き取ることにより応力を加える、上記項2に記載の製造方法。
4. 前記アルミニウム材料が湾曲するようにプレスすることにより応力を加える、上記項2に記載の製造方法。

以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材
本発明の粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材(以下、「アルミニウム素材」)は、粗大結晶粒組織を有し、当該素材表面の平均結晶粒径が2〜100mmであり、且つ、結晶粒の一部又は全部は、当該素材表面において結晶方位が連続的に変化していることを特徴とする。上記特徴を有する本発明のアルミニウム素材は、とりわけ結晶粒の一部又は全部が、結晶粒中で結晶方位が連続的に変化しているため、各結晶粒中で結晶方位が一定な従来品のアルミニウム素材と比べて意匠性が改良されている。
【0013】
本発明のアルミニウム素材は、その形状は限定的ではないが、箔状又は板状が好ましい。箔状又は板状のアルミニウム素材の厚さは限定されないが、0.05〜5mmが好ましく、0.1〜2mmがより好ましい。
【0014】
本発明のアルミニウム素材は、その表面に粗大結晶粒組織を有している。結晶粒は粗大結晶粒に限定されないが、表面の平均結晶粒径は2〜100mmであり、その中でも5〜50mmが好ましい。本明細書における平均結晶粒径の測定方法は目視法であり、図1に示すように、箔表面の圧延方向に対して直角な方向の結晶粒径を意味する。実務的には、板又は箔表面に一定長さ(例えば10cm)の線分を引き、その線分上に存在する結晶粒の数から結晶粒径を求めることができる。特に必須ではないが、例えば板又は箔表面上で30〜50mm程度の間隔で3本程度の線分を引き、その平均値を求める場合には、測定位置に関わりなくほぼ同様な結果が得られる。
【0015】
本発明のアルミニウム素材は、その表面において、結晶粒の一部又は全部が、結晶粒中の結晶方位が連続的に変化している。つまり、一つの結晶粒を観察した場合に、結晶粒中で結晶方位が連続的に変化するものが含まれている。このような結晶方位が連続的に変化する結晶粒は結晶粒の全粒であっても良いし、一部であってもよい。図1で例示すると、一つの結晶粒中に黒色が濃い部分〜薄い部分という連続的な濃淡のグラデーションが観察される。これは、一つの結晶粒中で結晶方位が連続的に変化していることによって、目視した際に連続的な濃淡のグラデーションとして観察されることに基づく。なお、本明細書における結晶方位は、その結晶粒内の色調差から自明のことであるが、EBSP法(電子後方散乱回折像法)等によっても特定することができる。
【0016】
粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材の製造方法
本発明のアルミニウム素材の製造方法は、アルミニウム鋳塊を塑性加工することにより箔状又は板状のアルミニウム材料を得る工程1、前記アルミニウム材料を180〜430℃で熱処理することにより一次再結晶粒を生成させる工程2、一次再結晶粒を430℃以上で熱処理することにより二次再結晶粒を生成させる工程3、二次再結晶粒を生成させたアルミニウム材料をエッチング処理する工程4を順に有する粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材の製造方法であって、
工程2と工程3の間で、箔状又は板状のアルミニウム材料の一部又は全部に、箔状又は板状の表面が連続的に湾曲するように応力を付加するとともに、
工程3と工程4の間で、前記湾曲させたアルミニウム材料を平滑な箔状又は板状に戻すことを特徴とする。
【0017】
工程1ではアルミニウム鋳塊を塑性加工することにより箔状又は板状のアルミニウム材料を得る。
【0018】
アルミニウム鋳塊としては限定されないが、Si=500ppm以下、Fe=500ppm以下であって残部がAlのものが好ましい。この中でも、Si=30ppm、Fe=20ppm、Cu=50ppm及び残部がAlのものがより好ましい。このようなアルミニウム鋳塊は、規定組成に調整されたアルミニウム浴湯をいわゆるDC(Direct Chill)法又はCC(Continuous Casting)法等でスラブ、ビレット等の鋳塊に鋳造することにより得られる。鋳造された鋳塊は、必要に応じて加熱保持されて均質化処理される。均質化処理条件は、アルミニウム組成に応じて変化するが、450〜550℃、1〜24時間の範囲から適宜選択する。なお、加熱は1段でも良く、2段でもよい。
【0019】
アルミニウム鋳塊は、圧延、押出等により好ましくは箔状又は板状に熱間塑性加工する。このとき、均質化処理を行った場合には、冷却後、再度加熱して熱間塑性加工してもよい。熱間組成加工の後、圧延材の場合には目的厚さとなるように冷間圧延する。このような塑性加工により、厚さが0.05〜5mm程度の箔状又は板状のアルミニウム材料となる。
【0020】
工程2では、前記アルミニウム材料を180〜430℃で熱処理することにより一次再結晶粒を生成させる。熱処理時間は限定的ではないが、1〜50時間程度である。
【0021】
上記熱処理により平均結晶粒径10〜200μmの一次再結晶粒が得られる。
【0022】
本発明では、上記工程2と後続の工程3の間で、箔状又は板状のアルミニウム材料の一部又は全部に、箔状又は板状の表面が連続的に湾曲するように応力を付加する(つまり、加工歪を導入する)ことを特徴とする。ここで当該応力(圧縮応力及び/又は引張応力)を加えた状態で後続の二次再結晶粒の生成が進行すると、粗大な二次再結晶粒が得られる。本発明では、表面を連続的に湾曲させる領域は、当該アルミニウム材料の表面の一部でも全部でもよい。一部を湾曲させた場合には、当該一部に最終的に結晶方位の連続的な変化が生じる。また、全部を湾曲させた場合(例えばロール状湾曲)には、全面に最終的に結晶方位の連続的な変化が生じる。
【0023】
応力の付加方向を箔状又は板状の表面において連続的に変化させる方法として、例えば、アルミニウム材料をコイル状に巻き取ることにより全面を湾曲させて応力を加える方法や、アルミニウム材料の表面が部分的に湾曲(例えば、波板状に湾曲)するようにプレスすることにより応力を加える方法が挙げられる。上記加工時、曲率半径により結晶の連続的な方位差の発生程度に差が現れる。つまり、小さい曲率にするほど連続的な方位差が強く現れる。この曲率を決めるのは、使用目的に応じればよい。
【0024】
工程3では、工程2の後に加えた応力を保持しながら一次再結晶粒を430℃以上で熱処理することにより二次再結晶粒を生成させる。熱処理温度は430℃以上であればよく、上限値は550℃程度である。また、熱処理時間は温度により調整すればよいが、0.5時間〜4時間程度である。4時間を超える熱処理はエネルギー浪費であり不利である。
【0025】
上記熱処理により平均結晶粒径2〜100mmの二次再結晶粒が得られる。
【0026】
本発明では、上記工程3と後続の工程4の間で、前記湾曲させたアルミニウム材料を平滑な箔状又は板状に戻す。このように、二次再結晶粒を生成させた材料を元の平滑な箔状又は板状に戻すことにより、連続的に変化した結晶粒が得られる。元の平滑な箔状又は板状に戻す方法としては、ストレッチャーなどによる歪矯正や全面プレス・圧延などの手法が利用できる。
【0027】
工程4では、二次再結晶粒を生成させた平滑なアルミニウム材料をエッチング処理する。当該エッチング処理すると結晶方位に応じて腐食溶解し、平均結晶粒径で2〜100mmの結晶粒組織模様が発現したアルミニウム素材が得られる。
【0028】
エッチング処理は、水酸化ナトリウム溶液で表面の酸化膜を除去した後に水洗し、硝酸水溶液でデスマットし、水洗した後に、タッカー氏液(塩酸:硝酸:ふっ酸=3:1:1)を用い、室温で20秒間保持してエッチングし、水洗する方法等で再結晶粒を鮮明に発現できる。
【0029】
このようにして結晶粒組織模様が発現されているアルミニウム素材は、インテリア部品や建材とされる。またカメラや電気機器の筐体等の成形体にプレス加工等で成形される。
所要の形状に成形された成形体はクリア塗装、ヘアライン加工等の後処理を付すこともできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材は、粗大結晶粒組織を有し、当該素材表面の平均結晶粒径が2〜100mmであり、且つ、結晶粒の一部又は全部は、当該素材表面において結晶方位が連続的に変化していることを特徴とする。上記特徴を有する本発明のアルミニウム素材は、とりわけ結晶粒の一部又は全部が結晶粒中で結晶方位が連続的に変化しているため、各結晶粒中で結晶方位が一定な従来品のアルミニウム素材と比べて意匠性が改良されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で作製した粗大結晶粒組織の写真コピーである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0033】
実施例1(コイル巻取り)
アルミニウム鋳塊(Si=30ppm、Fe=20ppm、Cu=50ppm及び残部Al)を常法にて面削、熱間圧延、冷間圧延により180μmの箔とした後、350℃で3時間の一次焼鈍を行って再結晶(一次再結晶)させた。
【0034】
次いで材料を10mmφのロッドに巻き付けてコイル状にした状態で、昇温速度10℃/分で600℃まで昇温して1時間保持した(二次再結晶)。冷却後、当該コイルを平滑にした後、塩酸/硝酸=1/1の溶液(40℃)に30秒浸漬し、結晶組織を出現させた。
【0035】
作製した粗大結晶粒組織の写真コピーを図1に示す。
【0036】
実施例2(湾曲プレス)
アルミニウム鋳塊(Si=30ppm、Fe=20ppm、Cu=50ppm及び残部Al)を常法にて面削、熱間圧延、冷間圧延により180μmの箔とした後、350℃で3時間の一次焼鈍を行って再結晶(一次再結晶)させた。
【0037】
次いで材料を波板プレス機にて、JIS G 3316:波型2号(小波)に規定されたトタン板状に成形した状態で、昇温速度10℃/分で600℃まで昇温して1時間保持した(二次再結晶)。冷却後、当該トタン板状を平滑にした後、塩酸/硝酸=1/1の溶液(40℃)に30秒浸漬し、結晶組織を出現させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材であって、当該素材表面の平均結晶粒径が2〜100mmであり、且つ、結晶粒の一部又は全部は、当該素材表面において結晶方位が連続的に変化していることを特徴とするアルミニウム素材。
【請求項2】
アルミニウム鋳塊を塑性加工することにより箔状又は板状のアルミニウム材料を得る工程1、前記アルミニウム材料を180〜430℃で熱処理することにより一次再結晶粒を生成させる工程2、一次再結晶粒を430℃以上で熱処理することにより二次再結晶粒を生成させる工程3、二次再結晶粒を生成させたアルミニウム材料をエッチング処理する工程4を順に有する粗大結晶粒組織を有するアルミニウム素材の製造方法であって、
工程2と工程3の間で、箔状又は板状のアルミニウム材料の一部又は全部に、箔状又は板状の表面が連続的に湾曲するように応力を付加するとともに、
工程3と工程4の間で、前記湾曲させたアルミニウム材料を平滑な箔状又は板状に戻すことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム材料をコイル状に巻き取ることにより応力を加える、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム材料が湾曲するようにプレスすることにより応力を加える、請求項2に記載の製造方法。

【図1】
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