説明

粗面化処理が施された高密度機能性粒子、その製造方法およびそれを用いた標的物質の処理方法

【課題】粒子の移動・凝集の点で標的物質の分離に好ましく、かつ、1粒子当たりに結合できる標的物質の量が多い粒子を提供すること。
【解決手段】標的物質が結合できる粒子であって、標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が粒子本体の表面に固定化されており、粒子の密度が3.5g/cm〜9.0g/cmであり、また、粒子本体の表面が粗面化されており、粒子の比表面積が、粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上であることを特徴とする粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などに適した比表面積を有する粗面化された機能性粒子に関する。また、本発明は、かかる粒子の製造方法、および、それを用いて標的物質を処理する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製または分析等の生化学用途に利用される機能材として、特定の標的物質と特異的に結合または反応する複合粒子が従来より知られている(特許文献1参照)。かかる複合粒子は、磁性を帯びており、例えば非磁性のビーズ中に磁性体材料を含ませることによって形成される。標的物質の分離に際しては、まず、標的物質が含まれる試料中に複合粒子を供し、複合粒子の表面に標的物質を結合させる。次いで、磁場の印加により複合粒子を移動させて集合・凝集させ、その後、集合・凝集した複合粒子を回収することによって、複合粒子に結合した標的物質を回収している。このような磁場または磁気を用いた手法(以下では「磁気分離法」または単に「磁気分離」とも呼ぶ)は、遠心分離法、カラム分離法または電気泳動法などの手法に比べて、少量の試料に対しても実施でき、また、標的物質を変性させずに短時間で実施できる特徴を有している。しかしながら、用いる複合粒子の密度が1.0g/cm〜3.4g/cmと小さいので、効率的に凝集させる点では複合粒子は決して好ましいものではなかった。このように複合粒子の密度が比較的小さい理由は、密度の低い樹脂やシリカを母材とし、その内部に磁性粉材料を分散させて複合粒子化しているからである。
つまり、複合粒子の密度は磁性粉材料の量に依存することになるところ、磁化量から計算すると磁性粉材料の含率は高々20重量%程度にすぎず、複合粒子の密度は母材の低い材料密度に近い値となっている。
【0003】
ここで、標的物質は粒子の表面に結合することになるので、1粒子当たりに結合できる標的物質の量は、粒子の比表面積に依存しているといえる。つまり、粒子の比表面積が小さいと、1粒子当たりに結合できる標的物質の量が減少することになる。1粒子当たりに結合できる標的物質の量が減少すると、標的物質の検出に際して、検出量が全体的に低下し、結果的に検出感度が低下してしまう。このように、粒子の比表面積はある程度大きいことが好ましい。しかしながら、一概には粒子の比表面積が大きければ良いという訳ではなく、粒子が三次元内部貫通ネットワーク(即ち、貫通孔)を持つものや、深い孔を持つものでは、標的物質が孔に入らなかったり、入っても必要な反応等が進まなかったり、あるいは外に出難いといった見掛け上の非特異結合も大きくなる。つまり、粒子の比表面積が必要以上に大きくなりすぎると、標的物質が孔に入れず大きな比表面積を有効利用できない、もしくは標的物質以外の物質が粒子に結合する「非特異結合」の影響が大きくなり得るために好ましくないといえる。例えば、特許文献2には、密度の大きいジルコニア粒子を使用している例が記載されているものの、特許文献2のジルコニア粒子は、三次元内部貫通ネットワーク(即ち、貫通孔)を持つものであり、比表面積が極めて大きいので標的物質の分離に際して非特異結合が必要以上に生じやすくなっている。即ち、特許文献2に記載されているような貫通孔を有するジルコニア粒子では、標的物質以外の物質が粒子により結合しやすく、所望の標的物質をより優先的に粒子に結合させて分離することが困難となっている。また、特許文献2のジルコニア粒子では、貫通孔や深い孔に入った標的物質が外に出難いといった見掛け上の非特異結合も大きくなっている。
ちなみに、特許文献2では「粒子の気孔サイズが、リガンドとしてまたは被吸着剤としてタンパクを収容するに十分なサイズである」こと及び「気孔サイズ」についての記載はあるものの、どの程度の気孔サイズ(細孔半径)がどの程度(積算細孔径体積)あればよいかという記載はない。
【特許文献1】特表平4−501956号公報
【特許文献2】特表平9−503989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、粒子の移動・凝集の点で標的物質の分離に好ましく、かつ、非特異結合がある程度抑えられた範囲において1粒子当たりに結合できる標的物質の量が多い粒子を提供することである。また、かかる粒子の製造方法、および、かかる粒子を用いた標的物質の分析、抽出、精製または反応等の処理を行う方法を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、
標的物質が結合できる粒子であって、
「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が粒子本体の表面に固定化されており、
粒子の密度が3.5g/cm〜9.0g/cmであり、また
粒子本体の表面が粗面化されており、粒子の比表面積が、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の滑らかな表面の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、粒子の単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となっていることを特徴とする粒子を提供する。本明細書にいう「粗面化」とは、粒子表面(より具体的には「粒子本体の表面」)の表面積を増加させる処理のことを実質的に意味している。また、本明細書にいう「細孔」とは、粒子の空隙部(より好ましくは粒子表面近傍に存在する空隙部)を実質的に意味しており、その中でも100nm〜10μmのマクロ孔と、1nm〜100nmのメソ孔の孔径(サイズ)を有する孔を想定しており、特に1nm〜100nmのメソ孔を想定している(尚、このようなマクロ孔とメソ孔とはいわゆる水銀圧入法で同時に測定できるものである)。
【0006】
本発明の粒子は、その表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されている。換言すれば、「標的物質と結合する物質または官能基」が固定化されている。従って、標的物質と粒子とを共存させると、標的物質が粒子に結合することができるので、標的物質の分離、精製または抽出などの種々の用途に対して本発明の粒子を用いることができるだけでなく、テーラーメード医療技術の用途に対しても本発明の粒子を用いることができる。ここで、「標的物質」とは、分離のみならず、抽出、定量、精製または分析などの種々の対象になり得る物質を実質的に意味しており、粒子に直接的または間接的に結合できるものであれば、いずれの種類の物質であってもかまわない。具体的な標的物質として、例えば、核酸、蛋白質(例えばアビジンおよびビオチン化HRPなども含む)、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等を挙げることができる。本発明の粒子は、このように種々の標的物質の分離、精製、抽出もしくは分析に用いることができる点で、種々の機能を奏するものといえる。従って、本発明の粒子は「機能性粒子」と呼ぶことができる。
【0007】
本発明の粒子は、粗面化処理されていることを特徴としている。具体的には、粒子本体の表面が粗面化されており、粒子の比表面積が、かかる粒子と同一粒径および同一密度を有する真球粒子(滑らかな表面を有する真球粒子)の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、本発明の粒子又は粒子本体の単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となっている。ここで、本明細書にいう「真球粒子」とは、幾何学的な球面形状が真球となった粒子のことを実質的に意味している。「真球」とは、中心を通る球直径が実質的に全て同一となっている球のことである。特に、「同一の粒径を有する真球粒子」とは、粒子表面が全体的に滑らかな又は平滑になっており、本発明の粒子の粒径と同一の粒径を有している真球粒子のことを実質的に意味している。ここで、本発明の粒子の粒子表面は、粗面化に起因して凹凸形状を有し得るので、「本発明の粒子の粒径」としては、実質的には、粒子(粒子本体にポリマーを被着させる場合には、被着しているポリマーの厚さをも含めた粒子)の電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて、ピクセル個数等から求めた粒子の面積と等しい面積を有する真円の直径を用いる。ただし比表面積は多数個の粒子の平均値として通常求められるため、上記のように写真に基づいて例えば300個の粒子の粒径を測定し、その数平均として算出した平均粒径を用いるのが適している場合が多い。以上のような写真からの(平均)粒径の測定には、画像処理ソフトウェア(例えば「Image-Pro Plus(Media Cybernetics,Inc.製)」)等を用いることができる。以上を鑑みて纏めると、本明細書における「本発明の粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積」とは、本発明の粒子写真の面積と同一面積の真円の直径の平均値Lに相当する直径Dを有する真球(かかる真球の密度は本発明の粒子の密度と同一)の比表面積のことを実質的に意味している。
【0008】
本発明の粒子は、粗面化処理に起因して比表面積が増加しているだけでなく、粒子表面に所望サイズの細孔がある一定量以上存在していることも特徴としている。より具体的には、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」および「標的物質」のサイズよりも大きい細孔がある一定量以上存在していることを特徴としている。従って、本発明の粒子では「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く固定化されているだけでなく、本発明の粒子の使用時において標的物質が「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」により多く結合できるようになっている。後者の場合について詳述する。粒子使用時では、標的物質は、粒子本体に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に結合するが、細孔内部に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に対しては、標的物質が細孔内に入り込んでから結合することになる。つまり、サイズの大きい標的物質はより小さい細孔の内部には入り込むことができず、細孔内部に存在する「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に結合できないといえる。この点、本発明の粒子は、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に対してのみならず「標的物質」に対してもサイズのより大きい細孔がある一定量以上存在しているので、粒子使用時における標的物質の結合量が増加するという効果が奏される。
【0009】
本発明の粒子では、粗面化処理に用いられた酸性物質に由来する化合物(具体的には「金属元素と酸性化合物とを含んで成る化合物」)が粒子本体表面に実質的には付着または残存していないことも特徴としている。即ち、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種類以上の酸性物質に由来する塩酸化合物、硫酸化合物および/または硝酸化合物等が粒子本体表面には実質的に付着または残存していない。
【0010】
更に、本発明の粒子は、密度が3.5g/cm〜9g/cmであり、標的物質の分離に一般的に用いられる粒子よりも密度(または比重)が大きいという特徴を有している。
【0011】
本発明の粒子は、粒子本体に貫通孔を有していてもよいし、あるいは、貫通孔を有していなくてもよい。ここで「粒子本体が貫通孔を有さない」とは、粒子本体が実質的に中実であり、粒子が内部貫通ネットワーク構造を有さないことを意味している。即ち、本明細書にいう「粒子本体が貫通孔を有さない」とは、「粒子本体または粒子本体コア部が中実である」、「粒子表面が凹凸状になっていても、凹部が粒子内部にまで存在しない」、及び「一般的な多孔質粒子と比べた場合、かさ密度がより大きいこと」と同義である。粒子本体に貫通孔を有していない場合、後述する「非特異吸着の低減効果」がより顕著に期待できる。
【0012】
また、本発明では、上述の粒子の製造方法も提供される。かかる製造方法は、標的物質が結合でき、粒子本体が貫通孔を有さず、かつ、3.5g/cm〜9.0g/cmの密度を有する粒子を製造する方法であって、
(I)原料粒子と、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質(リン酸を除く)とを接触させる工程、および
(II)「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」を原料粒子に固定化する工程
を含んで成る。
【0013】
本発明の製造方法は、工程(I)において、原料粒子の表面が粗面化され、粗面化された粒子の比表面積が、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、粒子または粒子本体の単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となることを特徴としている。また、本発明の製造方法は、工程(I)の後(必要に応じて洗浄を行った後)において、粗面化処理に用いた酸性物質に由来する化合物(特に「金属元素と酸性化合物とを含んで成る化合物」)が粒子本体表面に実質的に付着または残存していないことも特徴としている。即ち、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種類以上の酸性物質に由来する塩酸化合物、硫酸化合物および/または硝酸化合物等が粒子本体表面には実質的に付着または残存しないという特徴も有している。
【0014】
更に、本発明では、上述の粒子を用いた標的物質の分離方法も提供される。かかる分離方法は、上述した「表面が粗面化処理されたことを特徴とする本発明の粒子」を用いて、試料中から標的物質を分離する方法であり、以下に示す工程を含んで成る:
(i)標的物質を含んで成る試料と本発明の粒子とを接触させ、粒子と標的物質とを結合させる工程;
(ii)試料を静置に付して、試料中で粒子を自然沈降させる工程;および
(iii)試料中で沈殿した粒子を回収することによって、標的物質を試料から分離する又は標的物質が固定化された粒子を得る工程。
【0015】
本発明の方法は、標的物質が結合した粒子を自然沈降によって集合・凝集させるという特徴を有している。即ち、本発明の方法は、粒子の移動・凝集に磁場または磁気を用いておらず、粒子の自然沈降で標的物質を分離する特徴を有している。このように、粒子の自然沈降で標的物質を分離できるのは、粒子の自然沈降速度が従来よりも速くなっているからである。
【0016】
また、本発明の方法で用いられる粒子は、粗面化処理が施され、それによって粒子表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く固定化された粒子である。従って、本発明の方法は、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が大きく、1回の操作で「標的物質を試料からより多く分離できる」又は「より多くの標的物質が固定化された粒子を得ることができる」という特徴も有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粒子は、密度が3.5g/cm〜9g/cmと大きく、遠心分離法および磁気分離法を用いなくても、粒子の自然沈降による移動速度だけで十分な分離速度が得られる効果を有している。本明細書において「自然沈降」とは、重力の作用を受けて粒子が液体中を沈降することを指している。また、本明細書において「分離」とは、核酸、蛋白質、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等の標的物質を含んだ試料(例えば、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、粘膜、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等)から標的物質を分離することを指しており、より具体的には、試料中に含まれる標的物質を粒子に結合させた後、標的物質が結合した粒子を移動させることによって標的物質を試料から選別することを実質的に意味している。そして、「分離速度」とは、標的物質が結合した粒子が試料中を移動する速度を実質的に指しており、自然沈降に対して用いる場合では粒子の沈降速度を実質的に意味している。分離速度が大きい場合では、試料から標的物質を分離するのに要する時間が短くて済むことになる。なお、本発明の粒子が磁性を有する場合には、磁場の印加によって、分離速度を付加的に大きくできることを理解されよう。
【0018】
本発明の粒子は、自然沈降させるだけでも十分な分離速度を得ることができるので、本発明の粒子を用いると、複雑な機構を用いずに標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などの処理を行うことができる。換言すれば、本発明の粒子を用いると、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応を行う簡易なシステムが得られることになる。尚、本発明の粒子は、そのようなシステムの小型化またはチップ化にとっても有効である。
【0019】
ここで、本発明の粒子は粗面化処理が施され、増加した粒子表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く固定化された粒子であるので、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が多くなっている。その結果、効率よく標的物質の精製や分離を行うことができる。換言すれば、同じ操作を行っても、全体の検出量が増大することになり、検出感度の向上、簡便な測定または測定誤差の縮小といった有利な効果が奏されることになる。尚、粗面化によって比表面積が増加しているものの、粗面化に起因して増加した粒子表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されている。そのため、比表面積の増加に伴う非特異結合の増加以上に、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く固定化されていることになるので、比表面積の増加に伴う「非特異結合」が抑えられることとなる。特に、本発明の粒子では、単位表面積[cm]において細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となっており、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」および「標的物質」のサイズよりも大きい細孔がある一定量以上存在している。その結果、本発明の粒子では「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く粒子本体に固定化できているだけでなく、使用時(分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などの処理)において「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に標的物質がより多く結合できるようになっている。別の見方をすれば、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」の固定化や「標的物質」の結合に寄与せず、非特異結合の増加につながる「サイズがより小さい細孔(より具体的には細孔半径が20nm未満の細孔)」がより少なくなっているので、本発明の粒子では、非特異結合がある程度抑えられつつも1粒子当たりに結合できる標的物質の量が多くなっているといえる。
【0020】
ちなみに、本発明の粒子の本体表面にはポリマーが被着していてもよい。この場合、被着しているポリマー(以下では「被着ポリマー」ともいう)の表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を固定化させることができる。これによって、「標
的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を粒子本体に共有結合させることが困難な場合であっても、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を粒子表面に固定化できる。また、粒子本体表面に固定化された「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が、種々の使用条件下の用途において粒子本体表面から分離してしまうことが懸念される用途では、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」を被着ポリマーに固定化させることによって粒子本体からの分離を防止することができる。また、被着させるポリマーとして、各種分子または金属イオン等が透過しにくいポリマーを選択すると、粒子本体表面または粒子内部からの金属イオン(即ち、粒子の構成成分たる金属のイオン)の溶出をある程度抑えることができ、粒子の種々の用途において金属イオン等に起因した不要な反応を抑えることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、まず、本発明の粒子について詳細に説明し、その後、本発明の粒子の製造方法および本発明の分離方法について説明する。
【0022】
本発明の粒子は、標的物質の分離に好適な密度を有している。即ち、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、粘膜、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等の試料に粒子を分散させた際に粒子の沈降速度が比較的大きくなるような密度を粒子は有している。粒子の密度が3.5g/cmよりも小さくなると、自然沈降のみによる粒子の移動速度が実用上好ましくない一方、粒子の密度が9g/cmよりも大きくなると、標的物質を結合させる際に行う攪拌にとって好ましくない。従って、本発明の粒子の密度は、3.5g/cm〜9g/cmであり、より好ましくは5.0g/cm〜9.0g/cmであり、更に好ましくは、5.5g/cm〜7.0g/cmである。尚、場合によっては、本発明の粒子の密度が9.0g/cmより大きくてもよい場合(より具体的には、9.0g/cm(9.0g/cmを除く)〜23g/cm)もあり得る。ここで、本明細書にいう「密度」とは、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする真密度を意味しており、真密度測定装置ウルトラピクノメーター1000(ユアサアイオニクス社製)を使用することによって求めることができる値である。
【0023】
本発明の粒子は、粒子本体の表面が粗面化されており、粒子の比表面積が、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の平滑表面の比表面積の1.4倍〜100倍となっている。これは、粒径aを有する本発明の粒子の各々の比表面積が、粒径aを有する真球粒子(本発明と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.4倍〜100倍となっていることを意味しているか、あるいは、平均粒径aを有する本発明の粒子(即ち、複数個の粒子から成る粉末状の粒子群)の比表面積の平均値が、粒径aを有する真球粒子(本発明と同一の密度を有する真球粒子)の比表面積の1.4倍〜100倍となっていることを意味している。本発明の製造方法にて後述するように、本発明の粒子の粒子本体表面は、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質(リン酸を除く)を用いて処理することによって粗面化されている点で特徴を有している。より具体的には、原料粒子(または前駆体粒子)と上記酸性物質とを接触させることによって、粗面化が施された粒子であることが好ましい。このような粗面化処理が施されているので、本発明の粒子の比表面積は、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっている。つまり、本発明の粒子の比表面積の値をSP粒子(m/g)とし、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の値をSP真球(m/g)とすると、SP粒子=1.4×SP真球〜100×SP真球となっている。ここで、SP粒子<1.4×SP真球となると、1粒子あたりに結合できる標的物質の量が減少し、標的物質の全体的な検出量が減少してしまう一方、SP粒子>100×SP真球となると、標的物質以外の物質が粒子本体に結合する「非特異結合」が必要以上に増加し得るだけでなく、粒子本体の構造が脆くなってしまい実用上好ましくない。尚、好ましくはSP粒子=1.5×SP真球〜80×SP真球であり、より好ましくはSP粒子=1.6×SP真球〜60×SP真球である。尚、粗面化処理の条件および原料粒子の材質などの各種製造条件によっては、SP粒子=1.4×SP真球〜500×SP真球となり得る場合もある。
【0024】
なお、本明細書にいう「比表面積」は、比表面積細孔分布測定装置Belsorpmini(日本ベル社製)を使用することによって求めた比表面積のことを指している。また、「本発明の粒子と同一の粒径および密度を有する真球」における「粒径」とは、粒子(粒子本体にポリマーを被着させる場合には、被着しているポリマーの厚さをも含めた粒子)の写真の面積と同一面積の真円の直径を実質的に意味しており、「平均粒径」とは、粒子の電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個の粒子の粒径を測定し、その数平均として算出した粒径を実質的に意味している。
【0025】
本発明の粒子は、上述したように粒子本体の表面が粗面化されており、特に、単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となっている。「積算細孔体積」は、粗面化された粒子の細孔径分布が反映されているので、本発明の粒子は、細孔半径20nm以上の細孔がある一定以上の割合で存在している粒子である。
【0026】
本発明では、所望サイズ(つまり細孔半径20nm以上)の細孔がある一定量以上存在していることに意味がある。これについて詳述する。粒子の細孔サイズが小さすぎる場合、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」および「標的物質」が細孔内に入ることができず、細孔に起因して増加した粒子表面積が「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」の固定化に寄与しないだけでなく、粒子の使用時において標的物質が細孔内に入り込めず、細孔内部の「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に結合できなくなってしまう。これに対して、粒子の細孔がある程度の大きさを有していると、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」および「標的物質」が細孔内に入ることができ、細孔に起因して増加した粒子表面積が「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」の固定化に有効に寄与するだけでなく、粒子の使用時にて標的物質が細孔内部に入り込むことができ、細孔内部の「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」に結合できる。換言すれば、細孔サイズが「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」および「標的物質」よりも小さすぎると、「粒子調製時における固定化の観点」および「粒子使用時における標的物質の結合の観点」からは比表面積が大きくても細孔が実質的に存在していないのと同じとなるが、本発明の粒子では、そのようなサイズの小さい細孔が減じられ、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」の固定化および「標的物質」の結合に寄与する望ましいサイズの細孔がより多くなっている。このように、本発明は、全積算細孔体積ではなく、あるサイズ以上の細孔の積算体積に主眼を置いて為されたものである点に留意されたい。
【0027】
ここで、本発明では「所望サイズの細孔が存在している割合」を、個々の粒径サイズに依存しないように、粒子または粒子本体の単位表面積あたりの割合として評価している。具体的には、「所望サイズを満たしている細孔の体積を足し合わせた積算細孔体積」が粒子(粒子本体)の単位表面積あたりでどれくらいの値となっているかで評価している。このような「単位表面積あたりの積算細孔体積(所望サイズを満たす細孔の体積を足し合わせた積算体積)」は、「粒子または粒子本体1gを基準とした所定の細孔径以上の積算細孔体積(cm/g)」を「1gを基準とした同一の粒径および密度を有する真球粒子の平滑表面の表面積(cm/g)」で除することで算出できる。
【0028】
ここで、本発明の粒子では、細孔半径が20nm以上の積算細孔体積がある一定以上の割合となっている。具体的には、単位表面積[cm]における細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となっている。これにより、“「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」の固定化”および“「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」への標的物質の結合”に粒子細孔をより効果的に利用できるだけでなく、非特異結合の影響を相対的に小さくできる。また、単位表面積[cm]における細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上の場合、標的物質が貫通孔内部に一度取り込まれた後に出ることができなくなるという、詰まりによる見掛けの非特異吸着も減らすことができる。結果として、全体の非特異吸着量が減るため、実際に用いる際に従来よりも容易に用いることができる。換言すれば、単位表面積[cm]における細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]未満では、粒子調製時において「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」をより多く粒子本体に固定化させ難く、また、粒子使用時において「標的物質」を粒子へと結合させ難いので、結果的に非特異結合の影響が相対的に大きくなってしまい、その点で望ましくない。
【0029】
尚、上記のような「ある細孔半径以上の積算細孔体積」とは別の観点であるが、粒子の気孔率(気孔の含有率)は、90%以下であることが好ましい。なぜなら、粒子の気孔率が90%以下でないと、粒子内の細孔が多くなりすぎて粒子強度が低下し、使用時に粒子が破損するなど実用上問題となり得るからである。より好ましくは、粒子の気孔率は0.5%〜70%程度である。
【0030】
本発明の粒子は、粒子本体に貫通孔を有していても、有していなくてもよいが、非特異吸着の低減の観点からは貫通孔を有していない方が好ましい。粒子本体が貫通孔を有していない場合、単位表面積[cm]において細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が4.6×10−4[cm/cm]以下程度であることが好ましい。それゆえ、上述の要件と併せて考えると、本発明の粒子では、細孔半径20nm以上の積算細孔体積の割合が1×10−6〜4.6×10−4[cm/cm]であることが好ましいといえ、より好ましくは3×10−6〜1.5×10−4[cm/cm]、更に好ましくは5×10−6〜6.5×10−5[cm/cm](例えば、6×10−6〜8×10−6[cm/cm])である。このような場合、非特異吸着の低減効果がより顕著となることが期待される。
【0031】
本明細書にいう「積算細孔体積」の値は、BET法およびDH法を用いることによって得られた値を実質的に意味している。BET法とは、多分子層吸着モデルに基づいた比表面積の測定法であって、Langmuirの単分子層吸着理論を多分子層の吸着に拡張したものである。かかるBET法は、粒子に気体(例えば窒素ガス)を吸着させた際の吸着量を測定し、これにより得られる吸着等温線に以下で示されるBET式を適用して単分子層吸着量Vmを求め、この値と吸着ガス分子の分子断面積とから粒子の比表面積を算出する手法である。このBET法による比表面積の測定の詳細は、JIS Z8830:2001で規定されている。一方、DH法とは、Dollimore-Heal法の略で、細孔を円筒形と仮定して吸着ガスの相対圧と吸着量の増分から細孔サイズの体積頻度分布を求める解析法である。
[BET式]

【0032】
より具体的には、「積算細孔体積」の値は、比表面積細孔分布測定装置Belsorpmini(日本ベル社製)を使用することによって、粒子の等温吸着曲線を相対圧力(P/P)を0.99まで測定し、かかる等温吸着曲線に基づいて、DH法によって積算細孔体積を算出した値である。
【0033】
本発明の粒子の粒径または平均粒径は、1μm〜5mmであることが好ましい。粒径または平均粒径が1μmよりも小さいと、標的物質の分離に際して粒子の自然沈降による移動速度を十分に大きくすることが難しくなる一方、粒径または平均粒径が5mmよりも大きいと、標的物質との結合が生じる前に粒子が沈降してしまい、標的物質を十分に分離できなくなる可能性があるからである。より好ましくは1μ〜1mmの粒径または平均粒径であり、更に好ましくは5μm〜500μmの粒径または平均粒径であり、最も好ましくは10μm〜100μmの粒径または平均粒径である。尚、粒径または平均粒径が小さくなりすぎると、急激な酸化が生じやすく、場合によっては粒子が発火する危険性があるが、本発明のような比較的大きい粒径または平均粒径では、急激な酸化が生じにくく、粒子が発火する危険性は低減されている。
【0034】
本発明の粒子は、上述したように、自然沈降させるだけでも十分な分離速度を得ることができるものである。つまり、標的物質を含んだ試料中において粒子の自然沈降速度は速くなっている。
【0035】
粒子本体の材質は、本発明の粒子が、上述のような密度および比表面積を有することになるのであれば、特に限定されるものではない。例えば密度が3.5g/cm〜9g/cmの粒子の場合では、好ましくは、粒子本体が、金属または金属酸化物から形成されており、例えば、ジルコニア(酸化ジルコニウム、イットリウム添加酸化ジルコニウム)、酸化鉄、アルミナ、ニッケル、コバルト、鉄、銅およびアルミニウムから成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から形成されていることが好ましい。また、密度が9.0g/cm(9.0g/cmを除く)〜23g/cmの粒子の場合では、例えば、本発明の粒子の粒子本体が、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、W(タングステン)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)およびTa(タンタル)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の遷移金属元素から形成されていることが好ましく、あるいは、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)およびTl(タリウム)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の典型金属元素から形成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の粒子は、磁性を帯びていることも有効である。(以下、磁性を帯びている本発明の粒子を「磁性粒子」とも呼ぶ)。なぜなら、粒子の自然沈降に対して磁気分離操作を補助的に行うことができるからである。その結果、粒子をより速く移動させることができ、標的物質(より具体的には「粒子に結合した標的物質」)をより短時間で分離することが可能となる。また、磁気で粒子を特定の部分に集めたり固定することにより、ピペッティングやデカンテーションを容易に行うことができる。
【0037】
尚、粒子本体の表面に被着ポリマーを設ける場合では、被着ポリマーに磁性を付与することは通常難しいため、粒子本体に磁性を帯びたものを使用することが好ましい。
【0038】
磁性粒子の本体の材質は、粒子が磁性を帯びることになる限り、特に限定されるものではない。例えば、磁性粒子の本体は、遷移金属および鉄を含んで成るガーネット構造の酸化物、フェライト、マグネタイトならびにγ−酸化鉄から成る群から選択される少なくとも1種以上の鉄酸化物から形成されることが好ましい。あるいは、磁性粒子の本体が、ニッケル、コバルト、鉄およびそれらの金属を含んで成る合金から成る群から選択される少なくとも1種以上の金属材料を含んで成るものであってもよい。ここで「遷移金属および鉄を含んで成るガーネット構造の酸化物」とは、一般的にYIGと呼称されるもので、例えば、YFe12の組成式で表される化合物やこの化合物のYの一部をビスマスで置換したBi3−xFe12(0<X<3)を挙げることができる。
【0039】
別法にて、磁性粒子は、磁性を帯びていない粒子に磁性物質を被着または付着させることによって形成してもよい。磁性物質の被着または付着に際しては、無電解めっき法、電気めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法または化学蒸着法などを用いることができる。なお、ここでいう「磁性を帯びていない粒子」とは、例えば、ジルコニア(酸化ジルコニウム、イットリウム添加酸化ジルコニウム)またはアルミナ等から成る密度の高い粒子が挙げられる。また、高密度の磁性物質の比率を高くする場合には、より密度の低い、アルミニウム、シリカ、樹脂等から成る粒子も使用できる。被着または付着に用いる「磁性物質」としては、上述の磁性を有する粒子の材質と同様、フェライト、マグネタイト、γ−酸化鉄、または、遷移金属および鉄を含んで成るガーネット構造の酸化物などの鉄酸化物を挙げることができるだけでなく、ニッケル、コバルト、鉄、または、それらの金属を含んで成る合金も挙げることができる。
【0040】
磁性物質を被着または付着させることによって磁性粒子を得る場合、粒子表面に形成される磁性物質被膜の量が少なすぎると、粒子の磁化の値が小さくなり、磁気分離に際して好ましくない。従って、磁性物質被膜の体積が、粒子(磁性物質被膜を含んだ粒子)の体積に対して5%以上であることが好ましい。磁性物質被膜の厚さは、粒子(磁性物質被膜を含んだ粒子)の直径に対して1.7%以上の厚さとなることが好ましい。ちなみに、磁性物質被膜を「磁性を帯びていない粒子」に供する態様のみならず、「磁性を帯びていない粒子」の内部に磁性物質を含ませる態様も考えられる。
【0041】
磁性粒子の磁気特性としては、例えば「飽和磁化」および「保磁力」がある。一般に、飽和磁化の値が大きいほど磁界に対する粒子の応答性が向上する。ここで、本発明のような密度が比較的大きい粒子に対して磁性をもたすには、磁性を帯びていない粒子の表面もしくは内部に磁性物質を供する必要がある。ここで、磁性物質は磁性を帯びていない粒子よりも密度が小さいために、供する磁性物質の量を制限することによって、必要な密度を維持しなければならない。また、粒子本体に非磁性のポリマーを被着させる場合には、磁性物質のみから粒子が成る場合よりも大きい飽和磁化を得ることは現実的に困難である。以上より、85A・m/kgよりも大きい飽和磁化を得ることは実際には困難といえる。その一方で、飽和磁化が0.5A・m/kgよりも小さいと磁界に対する粒子の応答性が必要以上に低下するために好ましくない。従って、本発明の粒子の飽和磁化量は、好ましくは0.5A・m/kg〜85A・m/kg(0.5emu/g〜85emu/g)であり、より好ましくは3A・m/kg〜30A・m/kg(3emu/g〜30emu/g)であり、例えば4A・m/kg〜15A・m/kg(4emu/g〜15emu/g)である。また、一般に、保磁力の値が大きくなると、粒子は凝集し易くなる。しかしながら、保磁力の値が大きすぎると凝集作用が強くなりすぎ、粒子が分散しなくなるので、標的物質を結合させる点で好ましくない。そのため、保磁力は、好ましくは、0kA/m〜23KA/m(0〜300エルステッド)であり、より好ましくは0kA/m〜15.95kA/m(0〜200エルステッド)であり、更に好ましくは0kA/m〜7.97kA/m(0〜100エルステッド)である。
【0042】
本明細書でいう「飽和磁化」および「保磁力」の値は、振動試料型磁力計(東英工業製、型式VSM−5)を用いて測定される値である。具体的には、「飽和磁化」の値は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加した際の磁化量から求められる値である。「保磁力」の値は、797kA/mの磁界を印加した後、磁界をゼロに戻し、更に、磁界を逆方向に徐々に増加させた場合において、磁化量がゼロになる印加磁界の値である。
【0043】
本発明の粒子の形状は特に制限はなく、例えば、球形状、楕円体形状、粒形状、板形状、針形状または多面体形状(例えば立方体形状)等であってよい。但し、標的物質との結合に際して粒子間のバラツキを小さくするために、粒子形状は規則的な形状が望ましく、特に球形状が好ましい。また、磁性を帯びていない粒子本体に磁性物質被膜を設ける場合には、「磁性を帯びていない粒子本体」が球形状または楕円体形状を有していることが好ましい。
【0044】
本発明の粒子の本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質」(以下では「標的物質が結合可能な物質」ともいう)は、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよびニュートラアビジンから成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。また、本発明の粒子の本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な官能基」(以下では「標的物質が結合可能な官能基」ともいう)は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基およびジスルフィド基などの硫化物官能基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、ならびに、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることが好ましい。なお、「標的物質が結合可能な官能基」は、上述した官能基の誘導体であってもかまわない。
【0045】
本明細書において「固定化」とは、一般的に、粒子本体の表面付近に「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が存在している態様を実質的に意味しており、必ずしも「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が粒子本体の表面に直接取り付けられている態様のみを意味するものではない。また、「固定化」とは、粒子表面の少なくとも一部に「標的物質が結合可能な物質または官能基」が固定化されている態様を実質的に意味しており、「標的物質が結合可能な物質または官能基」が必ずしも粒子表面全体にわたって固定化されていなくてもよい。但し、好ましい態様では、粒子本体が「標的物質が結合可能な物質または官能基」に内包されるように、「標的物質が結合可能な物質または官能基」が粒子表面全体にわたって存在している。なお、本明細書において「標的物質が結合」という用語は、粒子に対して標的物質が「吸着」または「吸収」される態様を包含しているのみならず、標的物質と粒子との間に働く種々の「親和力」に起因して標的物質が粒子に結合される態様をも包含している。
【0046】
本発明の粒子本体には「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されているので、かかる物質または官能基を介して標的物質を粒子に結合させることができる。
【0047】
ある好適な態様では、ポリマーが粒子本体の表面の一部に被着または付着しており、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が粒子本体および/またはポリマーの表面に固定化されている。また、別の態様では、ポリマーが粒子本体の表面全体を被覆しており、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がポリマーの表面に固定化されている。粒子本体表面に被着または付着しているポリマーは、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」の固定化に寄与するものが好ましく、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」の種類、粒子の使用条件、その他必要な特性等により、任意に選択することができる。代表的なポリマーを例示すれば、ポリスチレンまたはその誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンから成る群から選択される少なくとも1種以上の合成高分子化合物を挙げることができる。なお、このような合成高分子化合物に限定されず、これらの変性物または共重合体であってもかまわない。更には、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースもしくはアルギン酸ナトリウム等の半合成高分子化合物、または、キトサン、キチン、デンプン、ゼラチンもしくはアラビアゴム等の天然高分子化合物等のポリマーであってもかまわない。尚、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が結合または付着できる官能基が予め導入されているポリマーであってもよい。
【0048】
粒子表面または粒子内部からの金属イオン(即ち、粒子本体を構成している金属のイオン)の溶出を抑えることを主たる目的とする場合には、粒子本体を構成する各種分子または金属イオン等が透過しにくい被着ポリマーを選択すればよく、例えば、水系で粒子を使用する場合には、水が透過しにくいポリスチレン、ポリメタクリル酸アルキル、ポリビニルエーテルまたはポリ酢酸ビニルなどのポリマーを選択すればよい。
【0049】
尚、本明細書において「被着」または「付着」とは、粒子表面の少なくとも一部にポリマーが存在している態様を実質的に意味している。
【0050】
次に、以下において、本発明の粒子と標的物質との結合態様について説明する。本発明の粒子と標的物質とを共存させると、標的物質と「標的物質を結合させることが可能な物質もしくは官能基」との間に働く吸着力または親和力によって、標的物質が粒子に結合することになる。以下分類して説明するため、「吸着」を「化学吸着」と同義とする。
【0051】
「吸着力」に起因して、標的物質が粒子に結合する態様の一例としては、「標的物質」がアビジンであり、粒子本体がジルコニアから形成されており、「標的物質を結合させることができる物質または官能基」がエポキシ基である場合である。
【0052】
「親和力」に関しては、標的物質との間に働く親和力の種類に基づいて、粒子本体表面に固定化されている「標的物質を結合させることができる物質または官能基」を大きく次の5つに分類できる(尚、各分類において挙げる物質または官能基は、あくまでも例示にすぎず、その他の物質または官能基も考えられることに留意されたい)。尚、そのような親和力に起因する場合、「標的物質を結合させることができる物質または官能基」は、以下では「親和性を有する物質または官能基」と呼ぶ。
【0053】
(1)標的物質との間に働く親和力が、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用または双極子相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
シリカ、活性炭、スルホン酸基、カルボキシル基、ジエチルアミノエチル基、トリエチルアミノエチル基、フェニル基、アルギニン、セルロース、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、クラウンエーテルもしくはπ電子を有する環状化合物、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など
(2)標的物質との間に働く親和力が疎水相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
アルキル基、オクタデシル基、オクチル基、シアノプロピル基もしくはブチル基またはフェニル基、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など(3)標的物質との間に働く親和力が水素結合に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
DNA、RNA、Oligo(dT)、キチン、キトサン、アミロース、セルロース、デキストリン、デキストラン、プルラン、多糖、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)もしくはβ-グルカン、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など
(4)標的物質との間に働く親和力が配位結合に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例
イミノジ酢酸、ニッケル、ニッケルイオン、ニッケル錯体、コバルト、コバルトイオン、コバルト錯体、銅、銅イオンもしくは銅錯体、または、それらの酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など
(5)標的物質との間に働く親和力が生化学的相互作用に起因する「親和性を有する物質または官能基」の例(生化学的相互作用:生体分子に関する相互作用を含むものであって、抗原・抗体反応、リガンド・レセプター結合、水素結合、配位結合、疎水相互作用、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用、双極子相互作用およびファンデルワールス力などが単独または二種以上で連係して働く相互作用)
抗原、抗体、レセプター、リガンド、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンニュートラアビジン、シリカ、活性炭、ケイ酸マグネシウム、ハイドロキシアパタイト、アルブミン、アミロース、セルロース、レクチン、プロテインA、プロテインG、Sタンパク質、デキストリン、デキストラン、プルラン、多糖、カルモジュリン、ニッケル、ニッケルイオン、ニッケル錯体、コバルト、コバルトイオン、コバルト錯体、銅、銅イオン、銅錯体、ゼラチン、N-アセチルグルコサミン、イミノジ酢酸、アミノフェニルホウ酸、エチレンジアミン二酢酸、アミノベンズアミジン、アルギニン、リジン、ポリリジン、ポリアミド、ジエチルアミノエチル基、トリエチルアミノエチル基、ECTEOLA-セルロース、フィブロネクチン、ビトロネクチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン(RGD)酸配列を含むペプチド、ラミニン、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、コラーゲン、コンカナバリンA、アデノシン5'リン酸(ATP) 、ADP、ATP、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、アクリジン色素、アプロチニン、オボムコイド、トリプシンインヒビターやプロテアーゼインヒビター等のインヒビター類、ホスホリルエタノールアミン、フェニルアラニン、プロタミン、シバクロンブルー、プロシオンレッド、ヘパリン、グルタチオン、DIG、DIG抗体、DNA、RNA、Oligo(dT)、キチン、キトサン、β-グルカン、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、ヒアルロン酸、エラスチン、セリシンもしくはフィブロイン、または、それらの官能基誘導体、酸素結合体もしくは蛍光プローブ結合体など
【0054】
上述の分類から分かるように、本明細書で用いる「親和性を有する」とは、標的物質と粒子に固定化される物質または官能基との間に、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用、双極子相互作用、疎水相互作用、生化学的相互作用、水素結合または配位結合などがもたらされることを実質的に意味している。粒子本体に固定化される物質または官能基の種類によっては、上述の親和性を2種以上兼ね備える場合があり、上述の分類で重複する物質または官能基が存在する場合がある点に留意されたい。また、上述の分類に必ずしも限定される必要はなく、標的物質に対して作用し、標的物質を粒子表面またはその近傍に存在させる機能を有するものであれば、いずれの物質または官能基を粒子に固定化させてもよい(一例を挙げるとすると、標的物質との相補的な形状に起因して親和性を有するものが考えられる)。
【0055】
次に、以下において、本発明の粒子の製造方法について詳細に説明する。本発明の製造方法は、「標的物質が結合でき、粒子本体が貫通孔を有さない3.5g/cm〜9.0g/cmの密度を有し、また、粒子本体の表面が粗面化されており、前記粒子の比表面積が、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上であることを特徴とする粒子」を製造する方法である。本発明の製造方法は、
(I)原料粒子(又は前駆体粒子)と塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質(リン酸を除く)とを接触させる工程、および
(II)「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」を原料粒子に固定化する工程
を含んで成る。
【0056】
工程(I)では、原料粒子と、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質とを接触させる。粒子密度が3.5g/cm〜9g/cmの粒子を得る場合、原料粒子は、金属または金属酸化物から形成されており、例えば、ジルコニア(酸化ジルコニウム、イットリウム添加酸化ジルコニウム)、酸化鉄、アルミナ、ニッケル、コバルト、鉄、銅およびアルミニウムから成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から形成されていることが好ましい。原料粒子の密度は、3.5g/cm〜9g/cmであり、より好ましくは5.0g/cm〜9.0g/cmであり、更に好ましくは、5.5g/cm〜7.0g/cmである。尚、場合によっては、原料粒子の密度が9.0g/cmより大きくてもよい場合(より具体的には、9.0g/cm(9.0g/cmを除く)〜23g/cm)もあり得る(この場合、原料粒子は、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、W(タングステン)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)およびTa(タンタル)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の遷移金属元素から形成されていることが好ましく、あるいは、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)およびTl(タリウム)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の典型金属元素から形成されていることが好ましい)。原料粒子の粒径または平均粒径は、好ましくは1μm〜5mmであり、より好ましくは5μm〜500μmであり、更に好ましくは10μm〜100μmである。更に、用いる原料粒子は、貫通孔が形成されていない粒子であることが好ましい。即ち、原料粒子が実質的に中実であり、内部にて貫通ネットワーク構造を有していない粒子であることが好ましい。尚、原料粒子は、上記材質および物性から成るものであれば、市販のものを直接用いることができる。
【0057】
「塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質」は、好ましくは液体状態として使用される。これらの酸性物質の中でも、特に硫酸または硝酸を用いることが好ましい。尚、原料粒子と上記酸性物質との接触に際しては、原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液を加熱処理または水熱反応(またはソルボサーマル法)に付すことが好ましい。水熱反応(またはソルボサーマル法)に付す場合において、「塩酸」、「硫酸」および「硝酸」は、それぞれ「塩酸水溶液」、「硫酸水溶液」および「硝酸水溶液」を実質的に意味しており、「原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液」は、水溶液を成している。上述のような水熱反応では、「原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液」が適当な温度に加熱されることになる。例えば、「オートクレーブ」、「恒温槽」または「マイクロ波照射」などによって加熱することができる。水熱反応の温度条件は、好ましくは150℃〜300℃であり、より好ましくは160℃〜280℃であり、更に好ましくは170℃〜240℃である。水熱反応の圧力条件は、0.4〜10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7MPa、更に好ましくは0.7〜3.7MPaである。また、水熱反応処理は、一般的には、1分〜12時間、より好ましくは30分から〜9時間、より好ましくは1時間〜7時間程度行うことが好ましい。なお、ソルボサーマル法においては水に限らず各種有機溶剤を使用することが可能である。その際は用いる酸と2相化しない溶媒であれば、特に制限はない。この際の反応温度は上記に示したとおりである。圧力条件は使用する溶媒により異なるが、温度が決まると一義的に決定される。
【0058】
例えば、水熱反応処理に際してマイクロ波を利用する場合では、「原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液」を水熱反応用の耐圧容器に仕込み、外部からマイクロ波を混合水溶液に対して照射する。マイクロ波の照射は、「原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液」の温度が目標温度に達するまで継続するが、目標温度に達した後も、温度を一定に保つために出力を変化させつつ照射を続けてもよい。照射するマイクロ波の周波数は、「原料粒子と酸性物質とを含んで成る混合液」を目標温度(即ち、150〜300℃の温度)にまで加熱できるものであれば、特に制限はないが、例えば2.45GHzである。照射するマイクロ波の出力についても目標温度にまで加熱できるのであれば特に制限はないが、出力を大きくすると目標温度に達する時間を短くできる一方、出力を低くすれば混合水溶液の温度を一定に保ちやすくなる。尚、マイクロ波の出力を可変制御できれば、目標温度に達する時間の短縮化と温度制御との双方を適宜行うことができるので特に好ましい。マイクロ波の出力を可変制御できる装置としては、マイルストーンゼネラル社製の「MicroSYNTH(マイクロシンス)」を挙げることができる。
【0059】
工程(I)によって、原料粒子の表面が粗面化され、粗面化された粒子の比表面積が、かかる粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となり、かつ、粒子または粒子本体の単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上となる。尚、工程(I)でもたらされる粗面化では、原料粒子の表面から約2μmまでの深さまでが粗面化され得る。
【0060】
工程(I)の後で、原料粒子は、洗浄、濾過または乾燥などに付すことが好ましい。粒子を洗浄することによって、粒子表面から不純物を除去できる。特に、粗面化処理に用いられた酸性物質またはそれに由来するような化合物を除去できる。洗浄は、水を用いた水洗が好ましいものの、水以外にもエタノール、メタノールといったアルコール系、トルエン、ヘキサンなどといった各種有機溶媒を用いて粒子を洗浄してもよい。濾過は、洗浄に際して行ってよく、洗浄液などを粒子から除去できる。粒子の乾燥は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは40〜90℃の温度条件下で行うことが好ましい。乾燥機を用いて粒子を乾燥させてよいものの、自然乾燥により粒子を乾燥させてもかまわない。
【0061】
次に工程(II)では、「標的物質と結合することが可能な物質または官能基」を原料粒子に固定化する。即ち、「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が原料粒子の表面に導入される。「標的物質が結合可能な物質」を原料粒子に固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な物質」を原料粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。「標的物質が結合可能な物質」を原料粒子に直接的に結合または付着させることに限らず、必要に応じて、珪素含有物質(例えばシロキサン、シランカップリング剤およびケイ酸ナトリウムなど)、または、標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する樹脂等の他の物質を予め原料粒子に付着または導入したり、あるいは、原料粒子の表面に貴金属被着処理を施した上で標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する含硫黄化合物等の他の物質を予め原料粒子に付着または導入したりすることによって、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させ易くしてもよい。尚、珪素含有物質を用いた場合では、原料粒子の表面には「標的物質が結合可能な物質」が固定化されていると共に、かかる珪素含有物質が存在することになる。
【0062】
「標的物質が結合可能な物質」を原料粒子に固定化させる手法の一例を説明すると、例えば、原料粒子の表面にエポキシ基やアミノ基を有するシランカップリング剤を反応させることによって、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。
【0063】
同様に、「標的物質が結合可能な官能基」を原料粒子に固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。例えば、必要に応じて、「標的物質が結合可能な官能基」を化学的に処理して別の官能基に変換し、反応性や吸着性等を変更してもよい。「標的物質が結合可能な物質」と同様、「標的物質が結合可能な官能基」を原料粒子に直接的に結合または付着させるだけでなく、必要に応じて、珪素含有物質(例えばシロキサン、シランカップリング剤およびケイ酸ナトリウムなど)、標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する樹脂等の他の物質を予め原料粒子に付着または導入したり、あるいは、原料粒子の表面に貴金属被着処理を施した上で標的物質が結合もしくは付着可能な官能基を有する含硫黄化合物等の他の物質を予め原料粒子に付着または導入したりすることによって、「標的物質が結合可能な官能基」を原料粒子に固定化させ易くしてもよい。例えば、珪素含有物質を用いた場合では、原料粒子の表面には「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されていると共に、かかる珪素含有物質が存在することになる。
【0064】
以下では、「標的物質が結合可能な官能基」を粒子に固定化する手法の一例として、シランカップリング剤を用いた手法を説明する。
【0065】
《シランカップリング剤を用いた官能基の固定化》
この手法は、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのシランカップリング剤で原料粒子の表面を被覆する手法である。かかる手法は、シランカップリング剤の末端官能基を変えたものを用いることで、官能基の種類を容易に変更できる利点がある。
【0066】
原料粒子を純水に分散させ、得られる分散液を攪拌しながら、末端にエポキシ基を有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを分散液に添加して攪拌する。この際、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを単独で添加しても、水、エタノールなどの溶剤で希釈して加えてもよい。水と有機溶剤の混合比も任意の割合で行うことができる。また、反応の触媒として、酢酸、塩酸などといった酸や、アンモニア水といった塩基を加えることも可能である。また、反応時間は通常10分から6時間である。短すぎると反応が進まず、長すぎるとエポキシの分解を生じてしまう可能性がある。さらに、撹拌方法も特に制限はなく、撹拌羽根、マグネティックスターラー、ディスクローターなどをあげることができる。
【0067】
次いで、乾燥を行うが、この際、単純に水で洗浄し、乾燥を行う以外にも、有機溶剤で粒子を洗浄した後、粒子を乾燥に付すことも可能である。この際用いる有機溶剤はアセトン、トルエンといったさまざまなものを用いることが可能である。また、乾燥も特に制限なく、室温でも加熱しても良く、常圧、減圧のどちらでも構わない。
【0068】
このようにすることで、エポキシ基を有するイットリウム添加酸化ジルコニウム粒子を
得ることができる。
【0069】
次に、「ポリマーを粒子に被着または付着させる」の場合について説明する。ポリマーを原料粒子に被着または付着させる手法は、特に制限されるものではなく、ポリマーを原料粒子表面の少なくとも一部に付着することができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。例えば、以下の手法を挙げることができる。
(1)原料粒子の表面から重合を開始する手法
(2)原料粒子の存在下で重合を行い、重合物を粒子表面に析出させる手法
(3)モノマーエマルジョン中に原料粒子を内包して重合を行う手法
(4)予め重合して得ておいたポリマーの溶液に原料粒子を混合させ、粒子表面にポリ
マーを析出させる手法
【0070】
上記手法をより具体的に説明すると次のようになる。(1)の手法では、原料粒子の表面に開始剤や連鎖移動剤を結合または吸着させて、粒子表面からポリマーを伸張させることによって、原料粒子の表面にポリマーを被着させる。(2)の手法では、重合反応の進行とともに析出するモノマーを用いて原料粒子の存在下で重合を行うことによって、原料粒子の表面にポリマーを被着させる。ポリマーと粒子とが引き合うように各々の電荷を選択したり、粒子表面に重合性二重結合を固定しておく等によって被着をより効率的に行うことができる。(3)の手法では、モノマーエマルジョンを形成し得るモノマーと溶剤との組合せを選択し、それにより得られるモノマーエマルジョン中に原料粒子を内包させて重合することによって、粒子表面にポリマーを被着させる。この場合、原料粒子がモノマーエマルジョン中に優先的に存在するように、モノマーに馴染みをよくする表面処理や界面活性剤等を用いるとよい。また、(4)の手法では、ポリマー溶液中に原料粒子を混入し、貧溶剤を加えたり、pHを変化させたり、塩を多量に加えたりすることによってポリマーの溶解性を低下させて析出させることによって、原料粒子の表面にポリマーを被着させる。この場合も電荷の選択や重合性二重結合の固定等の手法は有効である。また、原料粒子を電荷の異なるポリマー溶液に交互に浸して、粒子表面に積層を形成してもよい。
【0071】
尚、上述のような手法では、マイクロカプセル化手法、エマルジョン重合等の種々の方法が従来公知であり、それらを用いて実施することができる。
【0072】
ポリマーの被着処理に先立って、原料粒子の表面に特定の処理を施してもよい。例えば、磁性化処理の他、金属もしくは無機物によるコート処理、界面活性剤の吸着処理、シランカップリング剤もしくはチタンカップリング剤等の反応性物質を用いた処理、シロキサン被覆処理およびシロキサン中のSi−Hへの官能基導入処理(ヒドロシリル化反応)、酸処理もしくはアルカリ処理、溶剤洗浄処理、または、研磨処理等を施してもよい。これらの処理により、原料粒子の表面の汚れの除去、原料粒子の表面の電荷の制御、粒子表面への反応性官能基の導入が行われるので、ポリマーの被着効率が向上したり、被着ポリマーと粒子表面との密着性が向上したりする。尚、シロキサンまたはシランカップリング剤等の珪素含有物質を用いた場合では、本発明の粒子の本体表面には「標的物質が結合可能な物質または官能基」および被着ポリマーの他に、かかる珪素含有物質が存在すること(例えば、珪素化合物が原料粒子表面と被着ポリマー表面との間に介在し得ること)になることを理解されよう。開始剤および/または重合性二重結合を原料粒子の表面に予め結合または吸着させて重合を行うと、被着ポリマーの表面析出が生じやすくなるので、ポリマーの被着処理に有利となり得る。その他、非特異結合の低減、金属イオン等の溶出の抑制、密度の調整、色や蛍光等の付与等、別の特性を付与するための処理を施してもよい。
【0073】
被着ポリマーには架橋処理を施してもよい。被着ポリマーが架橋されると、被着ポリマーの耐久性、耐溶剤性または低膨潤性等の特性が向上し得る。架橋の方法は特に制限されないが、代表的な手法を分類すると、以下のようになる。
(1)a.原料粒子へのポリマー被着処理に際して架橋、b.被着処理後に架橋
(2)a.架橋剤を添加(室温や低温で進行する架橋も含む)、b.架橋性官能基をポリマー中に導入
(3)a.熱架橋、b.放射線架橋
【0074】
上記手法(1)、(2)および(3)は種々に組み合わせることができることに留意されたい。例えば、(1)aかつ(2)aかつ(3)aの3つを組み合わせる例としては、原料粒子の表面から重合を開始したり重合物を原料粒子の表面に析出させたりしてポリマーを被着させる処理に際して2官能性のモノマーを含めて加熱処理を行う手法、または、モノマーエマルジョン中に原料粒子を内包して重合を行う処理に際して2官能性のモノマーを含めて加熱処理を行う手法を挙げることができる。また、(1)bかつ(2)aかつ(3)aの3つを組み合わせる例としては、カルボキシル基を有するポリマーの析出またはカルボキシル基を有するモノマーの重合によって原料粒子を被着させる系において、被着後に多官能性エポキシ架橋剤を添加し、熱を加えて架橋させる手法を挙げることができる。なお、同様の系においてカルボキシル基の代わりに水酸基、エポキシ架橋剤の代わりにイソシアネート架橋剤を用いて架橋させる手法も考えられる。(2)bに属する例としては、被着ポリマー中にエポキシ基、イソシアネート基または二重結合等を導入する手法が挙げられる。ここで、エポキシ基またはイソシアネート基の導入には(3)aを用いることができ、二重結合の導入には(3)bを用いることができる。
【0075】
被着ポリマーが用いられる場合、本発明の粒子の本体表面および/または被着ポリマー表面に「標的物質が結合可能な物質」または「標的物質が結合可能な官能基」が固定化されていることを理解されよう。
【0076】
原料粒子の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な官能基」を固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な官能基」を原料粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。更に、「標的物質が結合可能な官能基」の固定化は、ポリマーの被着処理前、被着処理中または被着処理後のいずれに行ってもよい。
【0077】
原料粒子の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な官能基」を固定化させる手法としては、例えば、被着すべきポリマーの重合反応に際して、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーを重合または共重合させる方法がある。この場合、「標的物質が結合可能な官能基」を有するモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノアルキル、(メタ)アクリル酸イソシアナートアルキル、p−スチレンスルホン酸(塩)、ジメチロールプロパン酸、N−アルキルジエタノールアミン、(アミノエチルアミノ)エタノールまたはリジン等を挙げることができる。
【0078】
原料粒子の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質に対する結合性がより高い官能基」を固定化したい場合には、上記手法で被着ポリマーに導入された官能基aに対して反応性を有する他の官能基bと「標的物質に対する結合性がより高い官能基c」との2つの官能基を有する化合物を、粒子に付加的に導入してもよい。この場合、官能基aと官能基bとが結合することによって、「標的物質に対する結合性がより高い官能基c」が固定化された粒子を得ることができる。また、被着ポリマー表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間を離したい場合または原料粒子表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間を離したい場合(即ち、「リンカー」を導入したい場合)にも同様に、導入された官能基aに対して反応性を有する他の官能基bと「標的物質が結合可能な官能基」との2つの官能基を有する化合物を、官能基aが導入された粒子に付加的に導入してもよい(この場合も同様に、官能基aと官能基bとの結合を介して「標的物質が結合可能な官能基」が粒子に固定化される)。尚、このような化合物の導入を2回以上繰り返し行って、リンカーをより長くしてもよい。被着ポリマー表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間がより離れると、又は、原料粒子表面と「標的物質が結合可能な官能基」との間がより離れると、「標的物質が結合可能な官能基」の自由度が高まって、その反応性が向上するだけでなく、標的物質の自由度も高まって標的物質の機能が抑制されない等の有利な効果を期待できる。被着ポリマー主鎖から官能基までの原子数をリンカーの長さと定義すると、リンカーの長さは原子5個以上50個以下で上記の効果が特に期待できる。ちなみに、リンカーの主鎖としては、生態関連物質等の非特異吸着性の低いもの(例えばポリエチレングリコール鎖)を用いることが特に好ましい。
【0079】
原料粒子の表面に被着ポリマーを設ける態様において「標的物質が結合可能な物質」を固定化させる手法は、特に制限されるものではなく、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に結合または付着させることができるものであれば、いずれの手法を用いてもよい。「標的物質が結合可能な物質」の固定化も、ポリマーの被着処理前、被着処理中または被着処理後のいずれに行ってもよい。
【0080】
例えば、上述の「標的物質が結合可能な官能基」を導入する手法と同様な手法で、「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化させることができる。一例を挙げると、「標的物質が結合可能な物質」と結合性を有する官能基を原料粒子表面または被着ポリマー表面に予め導入し、その官能基を介して「標的物質が結合可能な物質」を粒子に固定化することができる。また、被着ポリマーとして疎水性ポリマーを用い、「標的物質が結合可能な物質」として疎水性のものを用いると、水中においては疎水性の物質同士が吸着する所謂「疎水性相互作用」が生じることになるので、疎水性の「標的物質が結合可能な物質」を被着ポリマー表面に固定化させることができる。
【0081】
本発明の製造方法は、工程(II)の後で、得られた粒子を、洗浄、濾過または乾燥などに付すことが好ましい。粒子を洗浄することによって、粒子表面から不純物を除去できる。洗浄は、水を用いた水洗が好ましいものの、水以外にもエタノール、メタノールといったアルコール系、トルエン、ヘキサンなどといった各種有機溶媒を用いて粒子を洗浄してもよい。濾過は、洗浄に際して行ってよく、洗浄液などを粒子から除去できる。粒子の乾燥は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは40〜90℃の温度条件下で行うことが好ましい。乾燥機を用いて粒子を乾燥させてよいものの、自然乾燥により粒子を乾燥させてもかまわない。
【0082】
次に、以下において、本発明の粒子を用いた分離方法について詳細に説明する。
【0083】
かかる分離方法は、上述した本発明の粒子を用いて、試料中から標的物質を分離する又は標的物質を固定した粒子を得る方法である。本発明の分離方法は、
(i)標的物質を含んで成る試料と本発明の粒子とを接触させ、粒子と標的物質とを結合させる工程、
(ii)試料を静置に付して、試料中で粒子を自然沈降させる工程、および
(iii)試料中で沈殿した粒子を回収することによって、標的物質を試料から分離する又は標的物質を固定した粒子を得る工程
を含んで成る。
【0084】
工程(i)では、標的物質を含んで成る試料と本発明の粒子とが接触し、粒子と標的物質とが相互に結合される(図1(a)参照)。例えば、標的物質を含んで成る試料に対して粒子を供給することによって、試料と粒子とを接触させる。結合が促進されるように、必要に応じて、攪拌処理を施してもよい。供される粒子は、上述の本発明の粒子(即ち、「表面に粗面化処理が施された粉末形態の粒子(好ましくは平均サイズ1μm〜1mmの粒子)」である。供される粉末形態の粒子の量は、試料の種類や分離用途などとの関係で決まってくるものであり、総括的に特定できるものではないが、例を挙げるとすると、一粒子から使用でき、分析、研究用途ではグラム単位まで(10−2g〜10g程度)となり、工業的に利用する場合はキログラム単位(1〜10kg程度)からトン単位(1〜10t程度)までとなり得る。
【0085】
工程(ii)にて粒子の自然沈降がもたらされるように、標的物質を含んで成る試料は、例えば、ビーカー、メスシリンダー、試験管、マイクロチューブ、バイオチップ、化学チップ、μ-TASチップなどに仕込んだ状態で用いることが好ましい。
【0086】
標的物質と粒子との間の結合は、それらの間に働く吸着力または親和力によって引き起こされる。より具体的には、粒子に固定化されている「標的物質を結合させることが可能な物質もしくは官能基」と標的物質との間で吸着力または親和力が働くことによって、標的物質と粒子とが相互に結合する。尚、試料中に供する粉末形態の粒子の量によっては、標的物質の結合に寄与しない粒子も存在し得る(例えば粒子を過剰に供給した場合)。尚、本発明の方法で用いる粒子は、前述したように(1)比表面積が必要以上に大きくなっておらず、また、(2)所望サイズの細孔がある割合で存在するので、標的物質以外の物質が粒子に結合する非特異結合を抑えることができる粒子である。従って、試料中に標的物質以外の物質が含まれていても、標的物質を優先的に粒子に結合できる。
【0087】
標的物質は、前述したように、例えば、核酸、蛋白質(例えばアビジンおよびビオチン化HRPなども含む)、糖、脂質、ペプチド、細胞、真菌、細菌、酵母、ウィルス、糖脂質、糖蛋白質、錯体、無機物、ベクター、低分子化合物、高分子化合物、抗体または抗原等である。また、試料は、前述したように、例えば、ヒト又は動物の尿、血液、血清、血漿、精液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液;ヒト又は動物の臓器、毛髪、皮膚、粘膜、爪、骨、筋肉又は神経組織等の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;便懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;培養細胞又は培養組織の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;ウィルスの懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;菌体の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;土壌懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;植物の懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;食品・加工食品懸濁液、抽出液、溶解液又は破砕液;排水等である。
【0088】
工程(ii)では、粒子が供された試料を静置に付して、試料中で本発明の粒子を自然沈降させる(図1(b)参照)。本発明の方法で用いる粒子は、上述したような密度特性を有するものであるため、比較的速い自然沈降速度が得られる。換言すれば、用いる粒子の密度が大きいので、粒子を自然沈降させるだけでも十分な分離速度を得ることができる。
【0089】
工程(iii)では、試料中で沈殿した本発明の粒子(図1(c)参照)が回収されることによって、標的物質が試料から分離される又は標的物質が固定された粒子が得られる。例えば、自然沈降に起因して試料の下方領域または容器の底領域に粒子が沈殿するので、上澄みが試料の上方領域に形成される。従って、かかる上澄みをピペットなどで吸引除去することによって、試料中で沈殿した粒子を回収することができる。回収された粒子には、上述したように標的物質が結合しているので、粒子の回収によって標的物質が試料から分離されることになる。
【0090】
用いられる粒子は粗面化処理が施され、それによって面積が増加した粒子表面に「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」がより多く固定化された粒子であるので、自然沈降に際して1粒子あたりに結合できる標的物質の量が大きくなっている。その結果、1回の処理操作で、「より多くの標的物質が試料から分離される」又は「より多くの標的物質が固定された粒子が得られる」ことになる。このことは、全体の検出量の増大につながり、検出感度の向上、簡便な測定または測定誤差の縮小といった有利な効果が奏される。
【0091】
このように本発明の方法では、試料中の標的物質を分離できたり、あるいは、標的物質が固定化された粒子を得ることができるので、それらを応用することによって、細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の種々の標的物質の分析、抽出、精製および反応等を行うシステムが可能となる。より具体的に言うと、上述のような標的物質の分離、固定化を行うシステムの構築以外にも、標的物質の分析、抽出、精製または反応などを行うシステムの構築が可能となる。例えば、「標的物質の分析を行うシステム」では、チップ内に標的物質と結合可能な抗体を固定した粒子を装填した形態でチップ内に標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、さらに標的物質に結合する酵素、蛍光色素、磁性体などを結合させた抗体をマーカーとして標的物質量を吸光、化学発光、蛍光、または磁気などにより検出することにより、また、標的物質が核酸である場合には標的物質と結合可能な核酸を固定した粒子を装填した形態でチップ内に酵素または蛍光色素を固定した標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、標的物質量を吸光、化学発光、蛍光、または磁気などにより検出することにより標的物質を定量分析または定性分析することができる。この際、各反応段階においてチップ上に複数個ある反応槽のうち同一箇所で実施しても、別の箇所で実施してもかまわない。また、チップ上に複数個ある反応槽間の移動、もしくは各反応槽中での撹拌に重力を用いることが可能である。また、「標的物質の抽出を行うシステム」または「標的物質を精製するシステム」では、上述した本発明の方法の工程(iii)の分離のあとに、「標的物質を粒子からはずし遊離させる物質」を用いる、または必要な加熱、冷却などの処理を行うことにより、標的物質を抽出または精製することができる。更に、「標的物質の反応を行うシステム」では、チップ内に標的物質と結合可能な物質を固定した粒子を装填した形態でチップ内に標的物質を注入することによりチップ内粒子に標的物質を固定し、チップ上に複数個ある反応槽の各所において混合、加熱、撹拌、紫外線照射などを行うことで、標的物質の反応を実施できる。この際、チップ上に複数個ある反応槽間の移動、もしくは各反応槽中での撹拌に重力を用いることが可能である。また、酵素や触媒を粒子に固定して、重力を利用して反応系に投入することも可能である。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0093】
例えば、(1)標的物質の分離に際して粒子への非特異結合または非特異吸着をより抑えるために、(2)粒子の親和性を制御するために、または(3)官能基を導入するための基材として用いるために、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリジメチルアクリルアミド、デキストラン、プルラン、アガロース、セファロース、アミロース、セロビオース、キチン、キトサン、多糖、正常血清、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、カゼイン、脱脂粉乳およびこれらの官能基誘導体から成る群から選択される少なくとも1種以上の物質を原料粒子表面に付着させてもよい。付着方法としては、特に限定されるものではなく、粒子の一般的な被覆法を用いてよい。例えば、ポリエチレングリコールを用いた場合では、原料粒子の表面には「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が固定化されていると共に、かかるポリエチレングリコールが存在することになる。
【実施例】
【0094】
《粒子の調製》
実施例1〜7および比較例1,2において粒子を以下のように調製した。
(実施例1)
ニイミ産業製のイットリウム添加ジルコニウム粒子p1を用意した。かかる粒子p1は、粒径23μm、比表面積0.056m/g、密度6g/cmであった。この粒子p1を耐圧容器内にて25vol%硫酸水溶液と混合し、恒温槽中で200℃で6時間加熱した。この後、洗浄、乾燥を行った。この操作により、粒子の比表面積が0.40m/gとなった。かかる粒子の電顕写真を図2に示す(図2(a)は粒子全体写真であり、図2(b)は粒子の表面拡大写真である)。この粒子10gを純水25gに分散させ、得られる分散液を攪拌しながら、末端にエポキシ基を有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3gを分散液に添加して更に4時間攪拌した。次いで、アセトンで粒子を洗浄した後、粒子を真空乾燥に付すことによって、エポキシ基を有するイットリウム添加酸化ジルコニウム粒子を得た。引き続いて、得られた粒子100mgに対して、5mgのアビジンが10mMPBS溶液(pH7.2)1mlに溶解している水溶液を供し、一晩攪拌した。その後、10mMPBS溶液(pH7.2)および水で粒子を洗浄した後、粒子を真空乾燥に付すことによって、アビジンが固定化されたイットリウム添加ジルコニウム粒子P1を得た。かかる粒子P1は粒径23μm、比表面積0.40m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P1の比表面積0.40m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると9.2倍大きい値である。また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は3.3×10−3cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は7.6×10−6[cm/cm]となった。
【0095】
尚、上記の実施例には、エポキシ基を有したシランカップリング剤を用いているが、シランカップリング剤として、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、二重結合を有する官能基などを有したものを用いてもよいことに留意されたい。
【0096】
(実施例2)
実施例1とは硫酸処理を行う条件を200℃/8時間とした以外は同一である。得られた粒子P2は、粒径23μm、比表面積1.6m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P2の比表面積1.6m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると37倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は8.3×10−3cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は1.9×10−5[cm/cm]となった。
【0097】
(実施例3)
実施例1とは硫酸処理を行う条件を200℃/12時間とした以外は同一である。得られた粒子P3は、粒径23μm、比表面積2.7m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P3の比表面積2.7m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると62倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は2.6×10−2cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は6.0×10−5[cm/cm]となった。
【0098】
(実施例4)
実施例1とは硫酸処理を行う条件を200℃/16時間とした以外は同一である。得られた粒子P4は、粒径23μm、比表面積3.9m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P4の比表面積3.9m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると90倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は6.3×10−2cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は1.4×10−4[cm/cm]となった。
【0099】
(実施例5)
実施例1とは硫酸処理を行う条件を160℃/6時間とした以外は同一である。得られた粒子P5は、粒径23μm、比表面積0.12m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P5の比表面積0.12m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると2.8倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は7.2×10−4cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は1.7×10−6[cm/cm]となった。
【0100】
(実施例6)
実施例1とは硫酸処理の代わりに25vol%硝酸水溶液と混合し、恒温槽中で200℃で4時間加熱した以外は同一である。得られた粒子P6は、粒径23μm、比表面積0.50m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P6の比表面積0.50m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると12倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は4.1×10−3cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は9.4×10−6[cm/cm]となった。
【0101】
(実施例7)
実施例1とは硫酸処理を行う条件をマイクロ波による加熱で200℃/2時間とした以外は同一である。得られた粒子P7は粒径23μm、比表面積0.45m/g、密度6g/cmであった。ここで得られた粒子P7の比表面積0.45m/gは、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると10倍大きい値である。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は3.4×10−3cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は7.8×10−6[cm/cm]となった。
【0102】
(比較例1)
実施例1とは硫酸処理を行わなかった以外は同一である。得られた粒子R1は、粒径23μm、比表面積0.056m/g、密度6g/cmであり、粒径23μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径23μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.043m/g)と比較すると1.3倍大きい比表面積の値を得ることができた。また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は7.5×10−5cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は1.7×10−7[cm/cm]となった。比較例1における粒子の電顕写真を図3に示す(図3(a)は粒子全体写真であり、図3(b)は粒子の表面拡大写真である)。
【0103】
(比較例2)
実施例1とは原料粒子として内部貫通孔を持つ多孔質ジルコニアを用い、酸処理工程を実施していない点を除いては同一である。得られた粒子R2は、粒径25μm、比表面積17.0m/g、密度6g/cmであり、粒径25μmの平滑な表面を持つ真球粒子とした際の比表面積(即ち、粒径25μmおよび密度6m/gから得られる比表面積値0.040m/g)と比較すると425倍大きい比表面積の値を得ることができた。
また、細孔半径20nm以上の積算細孔体積は4.0×10−4cm/gであったので、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積は1.0×10−6[cm/cm]となった。比較例2における粒子の電顕写真を図3に示す(図6(a)は粒子全体写真であり、図6(b)は粒子の表面拡大写真である)。
【0104】
実施例1〜7、比較例1,2の処理条件、測定結果を表1にまとめた。
【表1】

【0105】
《「粗面化状態の確認」および「粒子本体構造の確認」》
上記硫酸処理の前後で粒子の表面状態がどのように変化したのかを画像により確認した。図4(a)および(b)は、実施例1の原料粒子p1(即ち、硫酸処理に付される前の粒子)の表面近傍の粒子断面図を示している。一方、図5(a)および(b)は、実施例1において原料粒子p1を上記硫酸処理に付した後の表面近傍の粒子断面図を示している。特に粒子表面の近傍がより拡大された図4(b)と図5(b)とを比較すると、上記硫酸処理によって、粒子表面が凹凸形状を有するようになり、粒子表面が粗面化されていることを良く理解できるであろう。
【0106】
ここで、図6(a)および(b)に、多孔質ジルコニア粒子の表面付近の断面図を示す。かかる図面では「うねるように存在する黒い部分」が粒子の貫通孔を表しており、粒子が多孔質であることが分かる。これに対して、実施例1の原料粒子を撮影した図4(a)および4(b)では、そのような「うねるように存在する黒い部分」が存在せず、粒子本体が「貫通孔を有していない」ことを理解できるであろう。
【0107】
細孔半径と積算細孔積の関係を示したグラフを図7〜10に示す。図7および8は「細孔半径」と「100nm以下の細孔半径の細孔体積を100nm側から積算した積算細孔体積」との関係を示している。また、図9および10は「細孔半径」と「各細孔半径が占める体積」との関係を示している。これら2種は実質的に同じことを意味している。実施例1および4の粒子は、比較例1の粒子と比べて積算細孔体積が大きくなっていることが分かる。また、比較例2は、図8より、細孔半径20nm以下で積算細孔体積が急激に大きくなっており、20nm以下の細孔が極めて多いことが分かるだけでなく、図10より細孔の分布が狭いことも分かる。
【0108】
《標的物質結合特性の確認》
実施例1で得られた粒子P1、ならびに比較例1で得られた粒子R1、比較例2で得られた粒子R2を用いて、粒子の標的物質結合特性を確認した。標的物質としては、ビオチン化HRPを用いた。粒子に固定化されているアビジンは、ビオチン化HRPと特異的に結合する。
【0109】
ビオチン化HRPと粒子との結合能の比較は実施例1及び比較例1、2に対して、それぞれ同様の操作を行った。まず、1.5mlチューブを3つ用意し、それぞれに適当量(発色量が0.01〜1.5になるような量)の粒子を仕込んだ。濃度20ng/mlのビオチン化HRPを100μl加えた後、ボルテックスミキサーで30分間攪拌した。その後、10mMPBS緩衝液(pH7.2)500μlで、それぞれのチューブに仕込まれた粒子を4回洗浄した。PBS緩衝液(pH7.2)を除去した後、粒子が含まれるそれぞれのチューブに200μlのTMB(テトラメチルベンジジン)を加えて30分間静置させることによって、粒子を発色させた。次いで、1N硫酸を200μl加えて、反応を停止させた。そして、上澄みをTECAN社製プレートリーダーInfinite200で吸光度(450nm)を測定することによって、それぞれのチューブに仕込まれた粒子の吸光度を求めた。その結果を表2に示す。粒子P1では0.24、粒子R1では0.03、粒子R2では0.06という値が得られた。これは、表面積を増大させることにより、粒子P1は粒子R1に比べて、標的物質の結合能が8倍に増加したことを意味する。一方で、粒子R2は比表面積が実施例1に比べてはるかに大きいにもかかわらず、吸光度は半分以下となった。これは、単位面積あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積がおよそ8分の1であるため、「標的物質を結合させることが可能な物質または官能基」が細孔を有効に利用できなかったためと考えられる。
【表2】

【0110】
《粗面化処理粒子の非特異吸着抑制効果の確認》
本発明の粒子が有する「非特異吸着抑制効果」について確認試験を実施した。具体的には、「内部貫通孔を持つ多孔質粒子」に比べて「粗面化処理された本発明の粒子」が非特異吸着の抑制効果をより多く有するものであることを確認するために、「粗面化処理粒子(実施例1)」および「内部貫通孔を持つ多孔質粒子(比較例2)」を用い、それぞれの粒子における「特異結合能」および「非特異結合能」を評価した。尚、「特異結合能」とは、標的物質が粒子に結合する“特異結合”の結合能を指している一方、「非特異結合」とは、標的物質以外の粒子が粒子本体に結合する“非特異結合”の結合能を指している。
【0111】
(粒子の調製)
粗面化処理粒子P1(実施例1)、内部貫通孔を持つ多孔質粒子R2(比較例2)に対してそれぞれ「末端にエポキシ基を有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を結合させた。これによって、アビジンを粒子に結合させることなく、エポキシ基を粒子最表面に備えたエポキシ体粒子を調製した。粗面化処理粒子P1(実施例1)から調製されたエポキシ体粒子をS1と称し、内部貫通孔を持つ多孔質粒子R2(比較例2)から調製されたエポキシ体粒子をT2と称する。
【0112】
「特異結合能」については、エポキシ体粒子(S1およびT2)とアミノ基を有するTexas Red(Sulforhodamine101 cadaverine(Biotium製))との結合能を評価し、「非特異結合能」については、エポキシ体粒子(S1およびT2)とアミノ基をもたないTexas Red(Sulforhodamine101*Fluorescence Reference Standard*(ABD Bioquest,Inc製)との結合能を評価した。かかる結合能の評価に際しては、蛍光顕微鏡で粒子におけるTexas Redの蛍光強度を測定し、かかる蛍光強度から「粒子表面に結合したTexas Redの結合量」を求めた。具体的に詳述すると次のようになる。
【0113】
特異結合能の評価に際しては、エポキシ体粒子S1、T2をそれぞれエッペンチューブに0.5mg秤り取り、Sulforhodamine101 cadaverine 0.5mg/mlの水溶液をそれぞれ50μl加え、1500rpmで2時間撹拌した後、10mMリン酸緩衝液(pH7.2)100μlで3回それぞれ洗浄することによって得られた粒子を用いた。
【0114】
同様に、非特異結合能の評価に際しては、エポキシ体粒子S1、T2をそれぞれエッペンチューブに0.5mg秤り取り、Sulforhodamine101*Fluorescence Reference Standard* 0.5mg/mlの水溶液をそれぞれ50μl加え、1500rpmで2時間撹拌した後、10mMリン酸緩衝液(pH7.2)100μlで3回それぞれ洗浄することによって得られた粒子を用いた。
【0115】
(結合能の評価)
得られた粒子(S1およびT2)にはTexas Redが結合しているので、それから発せられる蛍光の強度を測定した。具体的な操作としては、Texas Red用フィルターセット(オプトライン製)を取り付けた蛍光顕微鏡を用いて、粒子に結合したTexas Redから発せられる蛍光をCCDカメラによって撮影した。そして、画像解析ソフト「Image-Pro Plus(Media Cybernetics,Inc.製)」を用いた画像解析によって蛍光強度値を算出することによって、それぞれの粒子に関して、「アミノ基を有するTexas Red(Sulforhodamine101 cadaverine)」の結合量(=“特異結合”の結合量)を算出すると共に、「アミノ基をもたないTexas Red(Sulforhodamine101*Fluorescence Reference Standard*)の結合量(=“非特異結合”の結合量)を算出した。
【0116】
なお、上記結合量の算出においては、いわゆる検量線法を用いた。具体的には、“特異結合”についてはSulforhodamine101 cadaverineの濃度を変えた水溶液、“非特異結合”についてはSulforhodamine101*Fluorescence Reference Standard*の濃度を変えた水溶液を検量線標準液として調製し、それらから得られる検量線に基づいて、蛍光強度値から結合量を算出した。
【0117】
(結果)
結果を表3に示す。表3は、“特異結合”の結合量に対する“非特異結合”の結合量の割合、即ち、「非特異結合/特異結合の比」を示している。「非特異結合/特異結合の比」がより小さいと、非特異結合量が特異結合量よりも相対的に少ないことになるので、非特異結合の効果がより小さいことが示唆される一方、「非特異結合/特異結合の比」がより大きいと、非特異結合量が特異結合量よりも相対的に多いことになるので、非特異結合の効果がより大きいことが示唆される。ここで、粗面化処理粒子S1では「非特異結合/特異結合の比」が0.10となっているのに対して、内部貫通孔を持つ多孔質粒子T2では「非特異結合/特異結合の比」が0.32となっており、粗面化処理粒子S1は多孔質粒子T2よりも非特異結合の効果がより抑制された粒子であることを確認できた。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の粒子は、細胞、蛋白質、核酸または化学物質等の標的物質の定量、分離、精製および分析等に利用できる。例えば、本発明の粒子は、DNA等の核酸を結合させることができ、結果的にDNAの解析に用いることができるので、テーラーメード医療技術にも資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1(a)】図1(a)は、本発明の処理方法の工程を模式的に示した図である。
【図1(b)】図1(b)は、本発明の処理方法の工程を模式的に示した図である。
【図1(c)】図1(c)は、本発明の処理方法の工程を模式的に示した図である。 真であり、図2(b)は表面拡大写真である。
【図2】図2は、実施例1における粒子p1の写真である。図2(a)は粒子全体写真であり、図2(b)は表面拡大写真である。
【図3】図3は、比較例1における粒子の写真である。図3(a)は粒子全体写真で あり、図3(b)は表面拡大写真である。
【図4(a)】図4(a)は、実施例1における原料粒子p1の表面付近の粒子断面 図である。
【図4(b)】図4(b)は、図4(a)の粒子表面付近を拡大した図である。
【図5(a)】図5(a)は、実施例1で硫酸処理に付された後の粒子の表面付近の 粒子断面図である。
【図5(b)】図5(b)は、図5(a)の粒子表面付近を拡大した図である。
【図6(a)】図6(a)は、多孔質のジルコニア粒子の表面付近の粒子断面図であ る。
【図6(b)】図6(b)は、図6(a)の粒子表面付近を拡大した図である。
【図7】図7は、粒子の細孔半径と「100nm以下の細孔半径の細孔体積を100nm側から積算した積算細孔体積」との関係を示したグラフである(実施例1、4および比較例1、2)。
【図8】図8は、図7の一部(点線による包囲部分)を拡大したグラフである。
【図9】図9は、粒子の細孔半径と各細孔半径が占める体積との関係を示したグラフである(実施例1および比較例1)。
【図10】図10は、粒子の細孔半径と各細孔半径が占める体積との関係を示したグラフである(実施例4および比較例2)。
【符号の説明】
【0120】
1…本発明の粒子、2…標的物質、3…標的物質以外の物質、4…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質が結合できる粒子であって、
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が粒子本体の表面に固定化されており、
前記粒子の密度が3.5g/cm〜9.0g/cmであり、また
前記粒子本体の表面が粗面化されており、前記粒子の比表面積が、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上であることを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記粒子の粒径が1μm〜5mmであることを特徴とする、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記粒子本体が、ジルコニア、イットリウム添加ジルコニア、酸化鉄およびアルミナから成る群から選択される少なくとも1種以上の材料から形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記粒子が磁性を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の粒子。
【請求項5】
飽和磁化が0.5〜85A・m/kgであることを特徴とする、請求項4に記載の粒子。
【請求項6】
前記粒子本体の表面の一部にポリマーが被着しており、
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が前記粒子本体または前記ポリマーの表面に固定化されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の粒
子。
【請求項7】
前記ポリマーが、前記粒子本体の表面全体を被覆しており、
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基が前記ポリマーの表面に固定化されていることを特徴とする、請求項6に記載の粒子。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーであることを特徴とする、請求項6または7に記載の粒子。
【請求項9】
前記ポリマーが架橋されていることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の粒子。
【請求項10】
前記標的物質を結合させることが可能な物質が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンおよびニュートラアビジンから成る群から選択される少なくとも1種以上の物質であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の粒子。
【請求項11】
前記標的物質を結合させることが可能な官能基が、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基、ジスルフィド基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、および、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の粒子。
【請求項12】
前記粒子本体の表面および/または前記ポリマーの表面の少なくとも一部に珪素含有物質および/またはポリエチレングリコールが存在することを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の粒子。
【請求項13】
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基と前記標的物質との間に働く吸着力または親和力によって、前記標的物質が前記粒子に結合できることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の粒子。
【請求項14】
前記標的物質を結合させることが可能な物質または官能基と前記標的物質との間に働く前記親和力が、静電相互作用、π−π相互作用、π−カチオン相互作用、双極子相互作用、疎水相互作用、水素結合、配位結合または生化学的相互作用に起因することを特徴とする、請求項13に記載の粒子。
【請求項15】
粒子本体が貫通孔を有さない、請求項1〜14のいずれかに記載の粒子。
【請求項16】
標的物質が結合でき、粒子本体が貫通孔を有さない3.5g/cm〜9.0g/cmの密度を有する粒子を製造する方法であって、
(I)原料粒子と、塩酸、硫酸および硝酸から成る群から選択される少なくとも1種以上の酸性物質とを接触させる工程、および
(II)標的物質と結合することが可能な物質または官能基を原料粒子に固定化する工程
を含んで成り、
工程(I)では、原料粒子の表面が粗面化され、前記粒子の比表面積が、前記粒子と同一の粒径および密度を有する真球粒子の比表面積の1.4〜100倍となっており、かつ、単位表面積[cm]あたりの細孔半径20nm以上の積算細孔体積[cm]の割合が1×10−6[cm/cm]以上であることを特徴とする方法。
【請求項17】
工程(I)において、原料粒子と前記酸性物質とを含んで成る混合液を水熱反応に付すことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれかに記載の粒子を用いて、試料中から標的物質を分離する又は標的物質を固定した粒子を得る方法であって、
(i)標的物質を含んで成る試料と前記粒子とを接触させ、前記粒子と前記標的物質とを結合させる工程、
(ii)前記試料を静置に付して、前記試料中で前記粒子を自然沈降させる工程、および
(iii)前記試料中で沈殿した前記粒子を回収することによって、前記試料から前記標的物質を分離する又は前記標的物質を固定した前記粒子を得る工程
を含んで成る方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【公開番号】特開2010−409(P2010−409A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158949(P2008−158949)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】