説明

粘度付与材

【課題】酸性液状調味料に用途に応じ簡便に粘度を付与する。
【解決手段】pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料の粘度付与材であって、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物である粘度付与材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性液状調味料の粘度付与材に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシング等の酸性液状調味料は、サラダ、水たき、しゃぶしゃぶ、焼き魚、ディップソース等の多様な用途に用いられている。家庭では、用途の多様化により酸性液状調味料の平均保有本数が3本以上まで増加し、また、核家族化や個食化の進行も影響して、1本の酸性液状調味料を長期間かけても使い切れない問題が生じている。
【0003】
また、外食店においても、家庭の場合と同様に酸性液状調味料の用途の多様化が進んでおり、また、消費者を飽きさせないためにオリジナリティのあるメニューを提供することが求められている。
【0004】
そこで、1本の酸性液状調味料を用い、消費者の用途に合わせ簡便に粘度や風味を調整できる方法が求められている。例えば、野菜サラダ等に広げかけて用いるために調製された粘度2Pa・sのバジルドレッシングを1本用意し、時には肉や魚料理に線描きをして用いる粘度4Pa・sの主菜用ソース、時には野菜スティック等に付けて用いる粘度6Pa・sのディップソースを簡便に調製する方法があれば、前記した家庭や外食店での課題のうち粘度について解決することが期待できる。
【0005】
従来、酸性液状調味料等の水溶液の粘度を簡便に調整する方法として、キサンタンガム等の2種類以上の増粘多糖類を水溶液中に完全に溶解した後、再び粉末化した易溶性粉末組成物が記載されている(特開2004−344165号公報)。しかしながら、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が酸性液状調味料の風味を損ねてしまい、消費者の要望を十分に満足するものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−344165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、消費者の用途に合わせ簡便に粘度を調整することができる酸性液状調味料の粘度付与材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、カゼインを含有し、特定のpH及び粘度に調整された水中油型乳化物を低粘度の酸性液状調味料と混合することにより、簡便に酸性液状調味料に粘度を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料の粘度付与材であって、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物である粘度付与材、
(2)カゼインを1〜10%含有する(1)の粘度付与材、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料の粘度を消費者の用途に合わせ手軽に調整できるようになり、更なる用途の多様化による酸性液状調味料市場の活性化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の粘度付与材を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を表す。「部」は「質量部」を表す。
【0012】
本発明の粘度付与材は、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の粘度付与材は、前記酸性液状調味料と混合した場合、相乗作用による粘度増加が起こる。具体的には、混合後調味料の実際の粘度が、混合後調味料の理論値の2倍以上、好ましくは4倍以上に増加する。混合後調味料の粘度の理論値は、αPa・sの混合前の粘度付与材と、βPa・sの混合前の酸性液状調味料とを、x:yで混合した場合、(αPa・s×x+βPa・s×y)/(x+y)=γPa・sの式で算出した値となる。
【0014】
本発明の粘度付与材のメカニズムは定かではないが、以下のような現象がみられる。
【0015】
まず、カゼインは、牛乳やチーズ等に含まれる乳蛋白質でありpH4.6に等電点を有する。中性域においては全体として負の電荷を帯びているが、pH4.6付近においては全体として電荷が0に近づきカゼイン粒子同士の凝集を生じる。
【0016】
カゼインを溶解したのみの水溶液とpH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料を混合した場合、混合液のpHがカゼインの等電点に近づくため、カゼイン粒子同士がカッテージチーズ様の凝集物を生じる。この場合、混合後の酸性液状調味料の粘度はやや増加するが、本発明の粘度付与材のような相乗作用による粘度増加は起こらない。
【0017】
そこで、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物である本発明の粘度付与材と、pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料を混合した場合、メカニズムは定かではないが、意外にもカゼイン粒子の凝集物を生じず、混合後の酸性液状調味料の粘度を格段に増加させることができる。
【0018】
本発明の粘度付与材に用いるカゼインは、食用に供されるものであれば特に限定されず、例えば、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインマグネシウム等のカゼイン塩として存在するものを用いることができ、1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0019】
本発明の粘度付与材に用いるカゼインの含有量は、本発明の増粘効果を発揮すれば特に限定されないが、粘度付与材全体に対し1〜10%が好ましい。カゼインの含有量が前記範囲より少ない場合、本発明の増粘効果が発揮されない場合がある。前記範囲より多い場合、含有量に応じた効果が得られ難く経済的でない。
【0020】
本発明の粘度付与材のpHは、pH5.5〜7.5であり、pH6.0〜7.5が好ましい。粘度付与材のpHが前記範囲より低いと本発明の増粘効果が発揮され難い。pHが前記範囲より高い場合、本発明の粘度付与材と酸性調味料の混合液のpHをカゼインの等電点に近づけるには、本発明の粘度付与材の混合比率を少なくしなければならず、用途に合わせ適宜粘度調製し難い。
【0021】
本発明の粘度付与材に用いるpH調整材は、食用に供されるものであれば特に限定されない。例えば、酸材では、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン、オレンジ、リンゴ等の果汁、食酢、ヨーグルト等の発酵食品等が挙げられる。アルカリ材では、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0022】
本発明の粘度付与材の粘度は、粘度0.2〜15Pa・sであり、0.5〜15Pa・sが好ましい。粘度付与材の粘度が前記範囲より低い場合、混合後の酸性液状調味料に、相乗作用による粘度増加が起こらない場合がある。前記範囲より高い場合、酸性液状調味料と簡便に混合し難い場合がある。
【0023】
なお、粘度の測定は、BH型粘度計を用い、品温25℃、回転数20rpmの条件で、粘度が1.5Pa・s未満の時ローターNo.2、1.5Pa・s以上の時ローターNo.4を使用し、測定開始後ローターが10回転した時の示度により求めた値である。
【0024】
本発明の粘度付与材は、水中油型乳化物である。水中油型乳化物とは、カゼイン蛋白質等の乳化材を用い、水の中に油滴を分散させている型の乳化物である。
【0025】
本発明の粘度付与材に用いる乳化材は、乳化状態を保持できるものであれば特に限定されないが、前記したカゼインに加え、例えば、レシチン、リゾレシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化剤、卵黄、ホスホリパーゼ処理を施した卵黄、卵白、乳、大豆等の蛋白質、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘材等が挙げられる。
【0026】
本発明の粘度付与材に用いる油脂は、食用に供される油脂であればいずれのもので良い。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂等が挙げられる。本発明の粘度付与材に用いる油脂の配合量は、特に限定されないが、30〜80%が好ましく、50〜75%がより好ましい。油脂の配合量が、前記範囲より少ない場合、本発明の増粘効果が発揮され難く、多い場合、粘度付与材の粘度が15Pa・sを超えてしまう場合がある。
【0027】
本発明の粘度付与材は、前記原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、食塩、砂糖、醤油、味噌、アミノ酸、核酸、ケチャップ等の各種調味料、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止材、各種スパイスオイル、香料、香辛料、色素等が挙げられる。
【0028】
本発明の粘度付与材の製造方法は、特に限定されないが、例えば、攪拌ミキサーでカゼイン1〜10%、酸材、乳化材、増粘材、清水等を均一に混合後、油脂を加えて乳化し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sに調整した本発明の粘度付与材を調製することができる。
【0029】
本発明の粘度付与材と組み合わせて用いる酸性液状調味料は、pH4.5以下、粘度3Pa・s以下であれば特に限定されないが、例えば、ノンオイルドレッシング、分離液状ドレッシング、乳化液状ドレッシング等のドレッシング、ゆずぽん酢、かぼすぽん酢等のぽん酢、バルサミコ酢、黒酢等の食酢が挙げられる。
【0030】
本発明の粘度付与材と組み合わせて用いる酸性液状調味料のpHは、4.5以下であり、4以下が好ましい。pHが前記範囲より高い場合、カゼインの等電点が4.6であるため、本発明の増粘効果が得られ難い。
【0031】
本発明の粘度付与材と組み合わせて用いる酸性液状調味料の粘度は、用途に合わせ簡便に粘度を調整できるようにするため、3Pa・s以下であり、1.5以下が好ましい。粘度が前記範囲より高い場合、本発明の粘度付与材の効果が十分に発揮され難い。
【0032】
本発明の粘度付与材と酸性液状調味料の混合比率は、混合後のpHがカゼインの等電点に近づくように適宜調整すれば良い。具体的には、本発明の粘度付与材及び酸性液状調味料のpHや組成によっても異なるが、酸性液状調味料10部に対し本発明の粘度付与材を1〜90部混合することが好ましく、3〜30部がより好ましい。
【0033】
本発明の粘度付与材と酸性液状調味料の混合方法は、特に限定されないが、例えば、1つのボール容器に両液を量り入れ、菜箸や泡立器等の手動の調理器具、又は5コートミキサー等の市販の撹拌ミキサーで均一になるまで混合すれば良い。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の粘度付与材を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0035】
[実施例1]
撹拌ミキサーでカゼインカルシウム8%、卵黄レシチン(キユーピー(株)製)2%、糖アルコール10%、清水15%を均一に混合後、大豆油65%を加えて乳化し本発明の粘度付与材を調製した。なお、pH7.0、粘度1.5Pa・sであった。
【0036】
[実施例2]
カゼインカルシウム8%をカゼインカルシウム3%及び清水5%に置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の粘度付与材を調製した。なお、pH6.9、粘度0.7Pa・sであった。
【0037】
[実施例3]
カゼインカルシウム8%、清水15%、大豆油65%を、それぞれ10%、5%、73%に変更した以外は、実施例1に準じて本発明の粘度付与材を調製した。なお、pH7.0、粘度12Pa・sであった。
【0038】
[実施例4]
酢酸を添加しpH6.2に調整した以外は、実施例1に準じて本発明の粘度付与材を調製した。なお、粘度1.5Pa・sであった。
【0039】
[実施例5]
酢酸を添加しpH5.5に調整し、清水15%、大豆油65%を、それぞれ20%、60%に変更した以外は、実施例1に準じて本発明の粘度付与材を調製した。なお、粘度0.2Pa・sであった。
【0040】
[実施例6]
カゼインカルシウムをカゼインナトリウムに置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の粘度付与材を調製した。なお、pH7.0、粘度1.5Pa・sであった。
【0041】
[比較例1]
カゼインカルシウムを清水に置き換えた以外は、実施例1に準じて水溶液を調製した。なお、pH6.8、粘度0.4Pa・sであった。
【0042】
[比較例2]
酢酸を添加しpH5.0に調整した以外は、実施例1に準じて水溶液を調製した。なお、粘度2.2Pa・sであった。
【0043】
[比較例3]
大豆油を清水に置き換えた以外は、実施例1に準じて水溶液を調製した。なお、pH7.0、粘度0.3Pa・sであった。
【0044】
[試験例1]
本発明の粘度付与材の効果において、カゼイン含有の有無、pH、粘度、乳化の有無の影響を調べるため、以下の試験を行った。まず、実施例1〜5の粘度付与材及び比較例1〜3の水溶液各500gと、pH4、粘度1Pa・sのフレンチドレッシング(キユーピー(株)製)500gを用意する。次に、攪拌ミキサーに両液を合計1kg投入し、500rpmで1分間攪拌し混合後の酸性液状調味料を調製した。粘度を測定し、粘度付与材としての効果の有無を調べた。結果を表1に示す。
なお、本試験例における粘度の理論値は、混合前の粘度付与材の粘度と、混合前の酸性液状調味料の粘度との平均値である。
【0045】
<評価基準>
A:混合後の酸性液状調味料の粘度が、粘度の理論値の4倍以上である。
B:混合後の酸性液状調味料の粘度が、粘度の理論値の2倍以上4倍未満である。
C:混合後の酸性液状調味料の粘度が、粘度の理論値の2倍未満である。
【0046】
【表1】



【0047】
表1の結果、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物を用意し、pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料と混合した場合、酸性液状調味料に高い粘度が付与され、両液を混合することによる相乗効果がみられた(実施例1〜6)。特に、pH6.0〜7.5、粘度0.5〜15Pa・sの水中油型乳化物を用意し、pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料と混合した場合、より高い粘度増加の相乗効果がみられ好ましかった(実施例1〜4、6)。一方、カゼインを含有しない場合、pH5.5〜7.5の範囲から外れる場合、粘度0.2〜15Pa・sの範囲から外れる場合、水中油型乳化物でない場合は、いずれも両液を混合することによる十分な粘度増加の相乗効果が得られなかった(比較例1〜3)。
【0048】
[試験例2]
本発明の粘度付与材と酸性液状調味料の混合比率の影響を調べるため、混合比率以外は試験例1に準じて、本発明の粘度付与材の効果を調べた。
【0049】
混合比率を実施例1の粘度付与材250g、フレンチドレッシング(キユーピー(株)製)750gに変更した。なお、粘度の理論値は1.1Pa・sである。その結果、混合後の酸性液状調味料の粘度が、5.2Pa・sとなり、理論値の4倍以上増粘していた。よって、酸性液状調味料に高い粘度が付与され、両液を混合することによる相乗効果がみられたことが理解できる。
【0050】
混合比率を実施例1の粘度付与材600g、フレンチドレッシング(キユーピー(株)製)400gに変更した。なお、粘度の理論値は1.3Pa・sである。その結果、混合後の酸性液状調味料の粘度が、12.7Pa・sとなり、理論値の4倍以上増粘していた。よって、酸性液状調味料に高い粘度が付与され、両液を混合することによる相乗効果がみられたことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH4.5以下、粘度3Pa・s以下の酸性液状調味料の粘度付与材であって、カゼインを含有し、pH5.5〜7.5、粘度0.2〜15Pa・sの水中油型乳化物であることを特徴とする粘度付与材。
【請求項2】
カゼインを1〜10%含有する請求項1記載の粘度付与材。