粘度検出装置
【課題】経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出する。
【解決手段】エンジンシステム10において、エンジン200の潤滑油たるエンジンオイルは、オイルパン215から電動ポンプの作用によりシリンダヘッド213に供給され、シリンダヘッド213に連通するシリンダブロック201内部のオイル落下通路214を介して再びオイルパン215へ戻される構成となっている。このオイル落下通路214には、粘度センサ300が設置されている。粘度センサ300は、エンジンオイルの循環供給時にオイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルにより付勢され回転する羽根車350を備えている。ECU100は、粘度検出処理を実行する過程において、エンジンオイルの循環供給が開始されてから、この羽根車350が回転を開始するまでの遅延時間に相当するポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρを推定する。
【解決手段】エンジンシステム10において、エンジン200の潤滑油たるエンジンオイルは、オイルパン215から電動ポンプの作用によりシリンダヘッド213に供給され、シリンダヘッド213に連通するシリンダブロック201内部のオイル落下通路214を介して再びオイルパン215へ戻される構成となっている。このオイル落下通路214には、粘度センサ300が設置されている。粘度センサ300は、エンジンオイルの循環供給時にオイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルにより付勢され回転する羽根車350を備えている。ECU100は、粘度検出処理を実行する過程において、エンジンオイルの循環供給が開始されてから、この羽根車350が回転を開始するまでの遅延時間に相当するポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρを推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において潤滑油の粘度を検出するための粘度検出装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、電動式羽根車を利用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたエンジンオイルの劣化検出装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、オイル通路内に設置した電動式羽根車の回転抵抗及び油温に基づいてエンジンオイルの粘度を検出することが可能であるとされている。
【0003】
尚、濾過フィルタを通過したオイルによって回転させられる羽根車のパルスを測定し、流量を測定する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、オイル通路内に歪ゲージを設置し、オイルポンプ回転数と油温が所定範囲内にあるときに、歪量から粘度の増加を検出する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
更に、液面の下がる温度から粘度を検出する技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
更に、温度による粘度変化の実験値から基準温度の粘度を算出する技術も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】実開昭63−28812号公報
【特許文献2】特開平7−63035号公報
【特許文献3】特開平9−317433号公報
【特許文献4】特開平3−269237号公報
【特許文献5】特開平7−333132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような潤滑油の粘度検出に際し、従来の技術では羽根車を回転させるための特別な駆動力源を必要とする。従って、コストの増加及び燃費の悪化が回避され難い。即ち、従来の技術には、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが困難であるという技術的な問題点がある。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能な粘度検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第1の粘度検出装置は、循環手段により所定の循環経路における潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、前記循環経路に設けられ、前記循環供給がなされる場合に前記潤滑油により物理状態が変化する検出手段と、前記循環供給が開始されてから前記物理状態が変化するまでの遅延時間に基づいて前記粘度を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明における「内燃機関」とは、例えば複数の気筒を有し、当該複数の気筒の各々における燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料が燃焼した際に発生する爆発力を、例えばピストン及びコネクティングロッド等の機械的な伝達経路を経て、例えばクランク軸等を介して動力として出力可能な、例えば2サイクル或いは4サイクルレシプロエンジン等を指す。
【0012】
この内燃機関には、例えば、内燃機関における物理的又は機械的な構成要素相互間の直接的な接触を防止する、或いは当該構成要素の焼き付きを防止する等の目的から、例えばオイルパン等に一時的に貯留される、例えばエンジンオイル等の潤滑油が、例えば電気駆動式或いは機械駆動式等の各種形態を採り得る吐出手段、或いは更にオイルストレーナ等の吸引手段を適宜含み得る概念としての循環手段の作用により、例えば予め物理的に又は機械的に構築された循環経路内を循環供給される。
【0013】
本発明に係る第1の粘度検出装置では、当該循環経路に、潤滑油の循環供給がなされる場合に潤滑油により物理状態が変化する、例えば物理的、機械的又は機構的な手段を包括する概念としての検出手段が設置される。
【0014】
ここで、「物理状態の変化」とは、例えば回転、回動、摺動或いは滑動等の形態を採り得る物理位置の変化や、歪みの発生或いは電気的又は磁気的な特性の変化等を含み、少なくとも物理的に、機械的に、電気的に又は化学的に検出することが可能な変化を包括する広い概念である。
【0015】
このような物理状態の変化は、循環供給される潤滑油により与えられるが、検出手段は、当該循環供給がなされない場合、例えば、内燃機関が停止状態にある場合(即ち、典型的な一形態としてクランクシャフトに連動する機械駆動式のポンプが停止状態にある場合)や、電気駆動式のポンプが停止状態に制御される場合等において潤滑油と接触しない位置に設置されていてもよいし、常時潤滑油と接触する(例えば潤滑油に浸潤する)位置に設置されていてもよい。即ち、検出手段における物理状態の変化は、循環供給される潤滑油が循環供給される過程で検出手段に到達し、検出手段に対し物理作用を及ぼすことによって生じてもよいし、循環供給される過程で潤滑油が幾らかなり流動することにより潤滑油を介して付与される油圧等により生じてもよい。
【0016】
一方、本発明に係る第1の粘度検出装置は、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る推定手段を備える。推定手段は、潤滑油の循環供給が開始されてから前述した物理状態の変化が生じるまでの遅延時間に基づいて潤滑油の粘度を推定する。
【0017】
潤滑油の循環供給が開始されてから検出手段における物理状態の変化が生じるまでの遅延時間は、潤滑油が高粘度である程循環供給がなされるに際しての潤滑油の循環速度が遅くなり易いことに鑑みれば、検出手段の物理的、機械的又は機構的な構成或いはその設置態様によらず、潤滑油の粘度に応じて変化する。従って、当該遅延時間は、潤滑油の粘度を推定するに際しての指標として有効である。
【0018】
ここで、検出手段が、潤滑油との接触状態の変化により物理状態の変化を呈し得る物理的な、機械的な又は機構的な構造を採り得ることに鑑みれば、当該物理状態の変化の度合いをもって潤滑油の粘度を推定することも可能であるが、この場合、当該変化の度合いは、当該変化の度合いと相関する、その時点における検出手段の物理的及び機械的な状態に影響を受ける。例えば、検出手段のフリクションロスが一定でない場合、物理状態の変化の度合いは、潤滑油の粘度に対し一義的な関係を有し得ないため、必然的に粘度の推定精度は低下する。
【0019】
その点、本発明に係る第1の粘度検出装置において規定される遅延時間は、その時点における検出手段の物理的な状態に実質的に影響されない。即ち、当該遅延時間は、例えば構造、材質、形状及び空間的配置等、循環経路の物理的及び機械的な態様と、潤滑油の粘度とによって顕著に支配される。従って、好適な一形態として、例えば予め少なくとも実践上の不具合を顕在化させない程度の精度を担保し得るように実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて取得される、当該遅延時間と当該粘度との相互関係を規定するマップ、アルゴリズム或いは算出式等に従う等して、当該遅延時間に基づいて当該粘度を高精度に推定することが可能となる。
【0020】
尚、「遅延時間に基づいて」とは、当該遅延時間と直接的又は間接的な関係を有し得る時間値を参照する態様を含む概念であり、例えば循環供給の開始後、所定時間経過した時点から物理状態の変化が生じるまでの時間等も含む趣旨である。
【0021】
このように高精度に粘度を推定し得る一方で、本発明に係る第1の粘度検出装置において、検出手段における物理的且つ巨視的な動作は、循環供給される潤滑油との接触状態の変化により生じる物理状態の変化のみであり、検出手段は、所謂パッシブ駆動の形態を採る。従って、検出手段の駆動に際し、内燃機関の動力の一部を供給する、或いはバッテリ等を介して電力を供給する等といった新規な動力資源の提供は、少なくとも経済性の悪化を顕在化させる程度には必要とされない。即ち、本発明に係る第1の粘度検出装置によれば、コストの増加、燃費の悪化、及びシステム構成の複雑化が回避される。
【0022】
このように、本発明に係る第1の粘度検出装置によれば、上述した遅延時間に基づいて高精度に粘度を特定し得ると共に、その駆動がパッシブであるために経済的である。即ち、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能となるのである。
【0023】
本発明に係る第1の粘度検出装置の一の態様では、前記循環経路は、前記循環供給がなされる場合に前記内燃機関の上部から下部へ前記潤滑油を自然落下させる落下通路を含み、前記検出手段は、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油との接触が生じることにより前記物理状態が変化するように、前記落下通路に設置される。
【0024】
この態様によれば、循環経路には例えば落下通路が含まれ、例えばシリンダヘッド等内燃機関の上部から、オイルパン等内燃機関の下部へと潤滑油が自然落下(重力に顕著に影響された位置変化を包括する概念であり、例えば落下通路の壁体部をつたって当該下部へと流れ落ちる形態を含む趣旨である)するように構成されている。
【0025】
この態様によれば、検出手段は、循環供給がなされる場合に、この自然落下する潤滑油との接触により物理状態が変化するように落下通路に設置される。ここで、潤滑油の循環供給がなされない場合、より具体的な一例として機関停止後十分に時間が経過している場合等において、落下通路には、潤滑油が少なくとも検出手段に物理変化を生じさせ得る程度には存在し難い。従って、この場合、循環供給の有無に応じて検出手段と潤滑油との接触の有無が切り替わることとなる。
【0026】
このように接触の有無が切り替わる形で接触状態が変化する場合、検出手段が常時潤滑油に浸潤している場合と較べ、物理状態の変化は、内燃機関に生じる物理的な振動等の影響を受け難くなり、相対的にみて潤滑油の粘度に影響され易くなる。また、この場合、自然落下する潤滑油が言わば駆動力源として利用されることにより、相対的にみて大きい運動エネルギを検出手段の物理状態の変化に供することが可能となるため、物理状態の変化量が大きくなり易い。即ち、この態様によれば、高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能となる。
【0027】
尚、この態様では、前記検出手段は、前記落下通路において接触が生じた前記自然落下する潤滑油により付勢され回転する回転手段を含み、前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環供給が開始されてから前記回転手段が回転し始めるまでの時間に基づいて前記粘度を推定してもよい。
【0028】
この場合、検出手段が、例えば羽根車等の回転手段を含んでなり、落下通路を自然落下する潤滑油により付勢され回転するように、その物理的及び機械的な構造が決定される。循環供給が開始される以前においては、自然落下する潤滑油の存在は実質的に無視し得るため、回転手段における回転は、潤滑油が内燃機関の上部から落下通路を自然落下して回転手段に到達した時点で開始される。従って、回転手段が回転し始めるまでの遅延時間に基づいて、高精度に粘度を推定することが可能となる。
【0029】
本発明に係る第1の粘度検出装置の他の態様では、前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環手段が作動し始めてから前記物理状態が変化するまでの時間に基づいて前記粘度を推定する。
【0030】
この態様によれば、推定手段は、遅延時間として、循環手段が作動し始めてから検出手段の物理状態が変化するまでの時間に基づいて粘度を推定する。即ち、この場合、循環手段の作動開始をもって循環供給の開始と扱われる。従って、遅延時間に安定した基準が与えられ、粘度がより高精度に推定され得る。
【0031】
尚、循環手段が作動し始めた時点とは、循環手段の構成により各種の態様を採り得、循環手段が内燃機関に連動する例えば機械式のポンプであれば、内燃機関が始動した時点をもって代替されてもよいし、循環手段が内燃機関の機関回転から独立して作動可能な、例えば電気駆動式のポンプ等の形態を採る場合には、当該電気駆動式のポンプが稼動し始めた時点であってもよい。
【0032】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第2の粘度検出装置は、潤滑油を自然落下させる落下通路を含む循環経路における該潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、第1の検出面を備えた第1の検出部、及び該第1の検出面と間隙を挟んで対向する第2の検出面を備えた第2の検出部を有し、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油が前記間隙にトラップされるように前記落下通路に設けられると共に、前記第1及び第2の検出部の少なくとも一方の物理状態が前記トラップされた潤滑油の表面張力により変化する検出手段と、前記少なくとも一方における前記物理状態の変化量を特定する特定手段と、前記特定された変化量に基づいて前記粘度を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0033】
本発明に係る第2の粘度検出装置によれば、上述したものと同等の概念を有する落下通路に検出手段が設置される。ここで、第2の粘度検出装置における検出手段は、第1の検出部及び第2の検出部を備えており、夫々が相互に間隙を挟んで対向する第1及び第2の検出面を有している。この間隙には落下通路を自然落下する潤滑油がトラップされる構成となっており、検出手段は、当該トラップされた潤滑油の表面張力によって、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態が変化する構成となっている。
【0034】
尚、本発明において「トラップされる」とは、例えば潤滑油に対する当該間隙の流路抵抗が、その周辺と比較して大きく設定されることによって、当該周辺と比較して幾らかなり潤滑油の流速が低下せしめられることを包括する概念である。
【0035】
一方、本発明に係る第2の粘度検出装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により、間隙にトラップされた潤滑油の表面張力による、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態の変化量が特定される。
【0036】
ここで、本発明に係る「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択又は推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従った論理演算、数値演算、又は電気的若しくは機械的な制御の結果として導出すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。
【0037】
特定手段により変化量が特定されると、推定手段が、この特定された変化量に基づいて潤滑油の粘度を推定する。ここで、検出手段における少なくとも一方の物理状態の変化量は、トラップされた潤滑油の表面張力に応じて変化する。また、この表面張力は、潤滑油の粘度と相関があり、結局、当該変化量は潤滑油の粘度を表す指標として利用することが可能である。
【0038】
従って、例えば予め少なくとも実践上の不具合を顕在化させないように実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて取得される、当該変化量と当該粘度との相互関係を規定するマップ、アルゴリズム或いは算出式等に従う等して、当該遅延時間に基づいて当該粘度を高精度に推定することが可能となる。
【0039】
また、第1の粘度検出装置と同様、第2の粘度検出装置においても、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態の変化は、自然落下し且つ間隙にトラップされた潤滑油によってもたらされるのであり、第2の粘度検出装置においても第1の粘度検出装置同様、少なくとも経済性の悪化を顕在化させる程度の新規な動力資源の提供は必要とされない。即ち、本発明に係る第2の粘度検出装置においても検出手段はパッシブ駆動される。従って、コストの増加、燃費の悪化、及びシステム構成の複雑化が生じ難く、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度が検出されるのである。
【0040】
本発明に係る第2の粘度検出装置の一の態様では、前記少なくとも一方は、前記表面張力に応じて前記第1及び第2の検出面の対向方向に移動可能に構成され、前記特定手段は、前記物理状態の変化量として、前記対向方向への移動量に対応する指標値を特定する。
【0041】
ここで、「対向方向への移動量に対応する指標値」とは、対向方向への移動量そのものを含み、当該移動量と一対一、一対多、多対一及び多対多の関係を有する指標値を含む概念であり、例えば当該少なくとも一方が、当該対向方向へ移動する移動部と、該移動部を物理的に固定する固定部とを備える形態を有する場合には、移動部の移動量(即ち、位置変化量)に応じて固定部に生じる物理的な歪の量であってもよい。即ち、特定手段は、一種の歪センサ又は歪ゲージとして構成され、或いは歪センサ又は歪ゲージから歪量を取得可能に構成されていてもよい。
【0042】
この態様によれば、トラップされた潤滑油の表面張力が少なくとも一方における物理状態の変化量として現れ易く、相対的にみて簡便に且つ正確に粘度を検出することが可能となる。尚、「少なくとも一方」とあるように、検出手段において、第1及び第2の検出部が夫々表面張力に応じて移動可能に構成されていてもよい。この場合、粘度の検出精度がより向上し得るため好適である。
【0043】
本発明に係る第2の粘度検出装置の他の態様では、前記特定手段は、前記内燃機関が停止された場合、又は前記循環供給が開始された場合に、前記変化量を特定する。
【0044】
本発明に係る第2の粘度検出装置は、上述した如く第1及び第2の検出面相互間に介在する間隙にトラップされる潤滑油の表面張力を利用している。従って、当該間隙を除く当該間隙周辺部に同様に潤滑油がトラップされ、検出手段における物理状態の変化が阻害されると、潤滑油の粘度に係る検出精度が低下する可能性がある。
【0045】
一方で、検出手段が落下通路に設けられることに鑑みれば、潤滑油の循環供給がなされない状況、とりわけ当該循環供給が停止して十分な時間が経過している状況等では、当該間隙にトラップされた潤滑油以外の潤滑油は、自然落下の結果、例えばオイルパン等に貯留され易い。従って、このような状況に限って、或いはこのような状況において優先的に、検出手段における物理状態の変化量を特定することにより、粘度の検出精度を相対的に向上させることが可能となる。
【0046】
ここで、この態様によれば、例えばイグニッションオフ時等、内燃機関の機関停止時や、或いは好適な一形態として相応の機関停止期間を経た後の機関始動時を含む内燃機関の機関始動時において、例えば上述した移動量や歪量等の各種変化量が特定される。従って、表面張力を、粘度の特定に供すべき物理状態の変化量に顕著に作用させることができ(即ち、粘度の特定に供すべき物理状態の変化を阻害する方向へ物理状態を変化させ難くなり)、潤滑油の粘度に係る検出精度が向上する。
【0047】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照し、本発明の好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0049】
図1において、エンジンシステム10は、ECU100、エンジン200及び粘度センサ300を備える。
【0050】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明の第1の粘度検出装置に係る「推定手段」の一例である。ECU100は、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述する粘度検出処理を実行することが可能に構成されている。
【0051】
エンジン200は、シリンダブロック201に収容されるシリンダ202内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置210による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンである。クランクシャフト205の近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されており、ECU100と電気的に接続されている。
【0052】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート208において、インジェクタ209から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ209に圧送供給されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、例えば、フィードポンプ或いは他の低圧ポンプにより圧送される燃料の圧力を更に高圧ポンプによって昇圧せしめ、高温高圧のシリンダ202内部へ燃料を直接噴射することが可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。
【0053】
シリンダ202内部と吸気ポート208とは、吸気バルブ及び吸気カム(夫々符号省略)を含む不図示の吸気動弁系の作用により、その連通状態が制御されている。シリンダ202内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブの開閉に連動して開閉する排気バルブ(符号省略)の開弁時に排気ポート211に排出され、排気ポート211に連通する排気管212に導かれる構成となっている。この排気バルブは、この排気バルブを駆動する排気カム(符号省略)を含む不図示の排気動弁系によりその駆動状態が制御される構成となっている。
【0054】
上述した吸気動弁系及び排気動弁系は、シリンダブロック201の上部に位置する金属製のシリンダヘッド213内に収容されている。シリンダヘッド213内に収容されるこれら吸気動弁系及び排気動弁系には、本発明に係る「潤滑油」の一例たるエンジンオイルが循環供給され、各部の動作の潤滑化及び焼き付き防止が図られる構成となっている。
【0055】
一方、シリンダブロック201の内部には、エンジンオイルの循環供給路の一部として、オイル落下通路214(即ち、本発明に係る「落下通路」の一例)が形成されている。このオイル落下通路214は、シリンダブロック201上端部においてシリンダヘッド213内部に連通しており、シリンダヘッド213内部において、例えば吸気動弁系或いは排気動弁系に供給されたエンジンオイルは、このオイル落下通路214を介してシリンダブロック201下方へと導かれる構成となっている。
【0056】
シリンダブロック201下方には、オイルパン215が設置されている。オイルパン215は、エンジン200の各部に循環供給されるエンジンオイルを一時的に貯留する貯留手段であり、前述したオイル落下通路214を介して自然落下するエンジンオイルも、この循環供給されるエンジンオイルの一部として当該オイルパン215に貯留される構成となっている。
【0057】
オイルパン215には、循環装置216が設置されている。循環装置216は、電気駆動式のポンプたる電動オイルポンプを含み、オイルパン215に貯留されたエンジンオイルを、不図示の循環供給路を介して上述したシリンダヘッド213内部を含むエンジン200の各部に循環供給することが可能に構成された、本発明に係る「循環手段」の一例である。この電動オイルポンプは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100の制御によって、その駆動状態が制御される構成となっている。
【0058】
このような構成の下、シリンダヘッド213内部に対するエンジンオイルの供給に注目すれば、エンジンオイルは、オイルパン215からシリンダヘッド213に導かれ、オイル落下通路214を介して再びオイルパン215に循環する構成となっている。尚、エンジンオイルの循環形態は、エンジン200における各部の動作の潤滑化及び焼き付き防止を図り得る限りにおいて本実施形態のものに限定されず各種態様を採ってよい。
【0059】
粘度センサ300は、オイル落下通路214に設置された、エンジンオイルの粘度を表すオイル粘度ρを検出するためのセンサであり、本発明の第1の粘度検出装置に係る「検出手段」の一例である。粘度センサ300は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態は、ECU100により制御される構成となっている。
【0060】
ここで、図2を参照し、粘度センサ300の構成について説明する。ここに、図2は、粘度センサ300の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、図2は、図1において、粘度センサ300をシリンダヘッド213からオイルパン215の方向に見た平面図となっている。
【0061】
図2において、粘度センサ300は、基台部310、軸受け部320及び330、回転軸体340、羽根車350、永久磁石360並びにホールIC370を備える。
【0062】
基台部310は、粘度センサ300をオイル落下通路214に固定するための固定手段である。基台部310は、オイル落下通路214(即ち、同時にシリンダブロック201)に機械的に固定されている。
【0063】
軸受け部320及び330は、相互に所定距離隔てて対向配置されると共に、各々一端部が基台部310に固定され、後述する回転軸体340を回転可能に支持することが可能に構成された支持手段である。
【0064】
回転軸体340は、軸受け部320及び330における対向面によって規定される空間に、仮想の回転軸(図示破線参照)を中心として図示矢線方向に回転可能に支持されてなる軸体である。
【0065】
この回転軸体340の外周面には、本発明に係る「回転手段」の一例たる平板状の複数の羽根車350が形成されており、回転軸体340と一体に回転することが可能に構成されている。羽根車350の表面には、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルが、ある程度の運動エネルギを有した状態で衝突する構成となっており、羽根車350は、このエンジンオイルによる付勢を受けて、回転軸体340と共に図示矢線方向に回転する仕組みとなっている。即ち、粘度センサ300では、本発明に係る「物理状態が変化する」一例として、エンジンオイルの循環供給時に羽根車350が回転する構成となっている。
【0066】
回転軸体340の一端部は、軸受け部330を貫通しており、羽根車350が形成される空間と軸受け部330を隔てて反対側の空間に突出している。永久磁石360は、この突出した部分に形成された永久磁石であり、図示破線を境にして左右に夫々N極及びS極が形成されている。
【0067】
ホールIC370は、永久磁石360によって形成される磁界を、N極及びS極の双方について検出することが可能に構成された、所謂回転センサである。ホールIC370は、磁界の強度に応じた電圧信号を発生することが可能なIC素子を内蔵しており、回転軸体340の回転動作に伴って交互に現れるN極及びS極の磁界を符号の相違する電圧信号として出力可能に構成されている。従って、この出力される電圧信号の波形の周期は、回転軸体340の回転速度に応じた値を採り、回転軸体340の回転速度が検出される構成となっている。尚、ホールIC370は、ECU100と電気的に接続されており、磁界強度に対応する電圧信号はECU100に出力され、最終的にはECU100によって回転軸体340の回転速度たるセンサ回転速度Nsが算出される構成となっている。
【0068】
尚、エンジンシステム10においては、ECU100及び粘度センサ300によって、本発明に係る第1の粘度検出装置の一例が実現される。
【0069】
<実施形態の動作>
エンジンシステム10においては、ECU100によって粘度検出処理が実行されることにより、オイル粘度ρが検出される。ここで、図3を参照し、本実施形態の動作として、粘度検出処理の詳細について説明する。ここに、図3は、粘度検出処理のフローチャートである。
【0070】
図3において、ECU100は、例えばイグニッションがオン状態であるか否かの判別等を介して、エンジン200の始動タイミングであるか否かを判別する(ステップS101)。エンジン200の始動タイミングでない場合(ステップS101:NO)、ECU100は処理を待機状態に制御すると共に、始動タイミングである場合には(ステップS101:YES)、エンジン200を始動させる(ステップS102)。
【0071】
エンジン200を始動させると、ECU100は循環装置216を起動させる(ステップS103)。ステップS103に係る処理では実質的に電動オイルポンプが起動される。電動オイルポンプの起動に伴って、オイルパン215に貯留された状態のエンジンオイルが、所定の循環経路を辿って、シリンダヘッド213を含む対象箇所へ循環供給される。
【0072】
電動オイルポンプが起動されると、ECU100は、エンジン200が今回の始動以前に停止していた期間を表すエンジン停止期間Tsが、閾値Tsthよりも大きいか否かを判別する(ステップS104)。ここで、エンジン200が前回の停止後、間を置かずして始動された場合、オイル落下通路214におけるエンジンオイルの自然落下が継続している可能性がある。この場合、粘度の検出精度が低下しかねないため、本実施形態では、少なくともオイル落下通路214におけるエンジンオイルの自然落下が終了したとみなし得る程度にエンジン200が停止していた旨を表す閾値Tsthが設定される。
【0073】
エンジン停止期間Tsが閾値Tsth以下である場合(ステップS104:NO)、ECU100は、粘度検出処理を実行するのに不適当な条件であるとして、粘度検出処理を終了する。一方、エンジン停止期間Tsが閾値Tsthよりも大きい場合(ステップS104:YES)、ECU100は、粘度検出に適した条件であるものとして、電動オイルポンプが起動されてからの経過時間を表すポンプ積算駆動時間Tを更新する(ステップS105)。尚、このポンプ積算駆動時間Tは、電動ポンプの起動に伴ってエンジンオイルの循環供給が開始されることに鑑みれば、即ち、循環供給が開始されてからの経過時間(即ち、循環供給の実行期間)に相当する。
【0074】
次に、ECU100は、粘度センサ300における回転軸体340(一義的に羽根車350)の回転速度を表すセンサ回転速度Nsを取得する(ステップS106)。センサ回転速度Nsは、既に述べたように、ホールIC370からの出力電圧信号に基づいた数値演算の結果として簡便に且つ正確に取得される。
【0075】
ECU100は、取得したセンサ回転速度Nsが、ゼロよりも大きいか否か、即ち、粘度センサ300において回転軸体340が回転動作を開始したか否かを判別する(ステップS107)。回転軸体340が未だ回転動作を開始しない場合(ステップS107:NO)、ECU100は、処理をステップS105に戻し、ポンプ積算駆動時間Tを更新すると共に一連の処理を繰り返す。一方、回転軸体340が回転動作を開始した場合(ステップS107:YES)、ECU100は、現時点のポンプ積算駆動時間Tを取得する(ステップS108)。この現時点のポンプ積算駆動時間Tは、エンジンオイルの循環供給が開始されてから回転軸体340が回転を開始するまでの遅延時間に相当する。
【0076】
ポンプ積算駆動時間Tを取得すると、ECU100は、この取得したポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρを取得する(ステップS109)。この際、ECU100は、予め設定された、ポンプ積算駆動時間Tとオイル粘度ρとの対応関係に基づいて粘度ρを取得する。ここで、図4を参照し、ポンプ積算駆動時間Tとオイル粘度ρとの対応関係について説明する。ここに、図4は、当該対応関係の模式図である。
【0077】
図4において、縦軸及び横軸に夫々オイル粘度ρ及びポンプ積算駆動時間Tが表されている。図示する通り、オイル粘度ρは、ポンプ積算駆動時間Tの増加に伴って二次関数的に増加する特性を有している。即ち、定性的に言えば、エンジンオイルの粘性が高い程、シリンダヘッド213からオイル落下通路214を介してエンジンオイルが自然落下し始めるのに要する時間が長くなる。ECU100のROMには、予め図4に示す対応関係に相当するマップが格納されており、図3のステップS109に係る処理において、ECU100は、取得したポンプ積算駆動時間Tに該当する一のオイル粘度ρを選択的に取得する。
【0078】
図3に戻り、オイル粘度ρを取得すると、ECU100はこの取得したオイル粘度ρを、最新のオイル粘度としてRAMに記憶する(ステップS110)。オイル粘度ρの記憶が終了すると、粘度検出処理は終了する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係るエンジンシステム10及び粘度検出処理によれば、エンジンオイルの循環供給が開始されてから、羽根車350が回転し始めるまでの遅延時間に相当するポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρが検出される。この遅延時間は、粘度センサ300における、例えば軸受け部320及び330のフリクションロス等に影響され難く、エンジンオイルの物理的機械的な循環経路が定まれば、オイル粘度ρに顕著に影響される指標値である。従って、例えばフリクションロスや潤滑油の供給状態の影響を顕著に受ける、羽根車350の回転速度たるセンサ回転速度Nsに基づいて粘度ρの検出を図る場合と較べて、その検出精度が高くなる。また、羽根車350が回転し始めたか否かを判別できればオイル粘度ρの検出が可能であり、エンジン200の機械的な振動にオイル粘度の検出精度が影響されることもなく、その点においても高精度なオイル粘度の検出が可能である。
【0080】
ここで特に、羽根車350の回転は、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルとの接触により、言わばパッシブ駆動によって実現されるため、羽根車350を駆動するための別途な駆動力源は必要とされない。即ち、粘度センサ300において必要とされる駆動力は、僅かにホールIC370の駆動するための、実践上無視し得る程度に微小な電力のみで済む構成となっている。従って、本実施形態に係るエンジンシステム10及び粘度検出処理によれば、経済的に且つ高精度にオイル粘度を検出することが可能となるのである。
【0081】
尚、本実施形態では、循環装置216が電動オイルポンプを備えているが、本発明に係る循環手段としては、例えばクランクシャフト205の回転に連動する機械式のオイルポンプが採用されてもよい。この場合、当該機械式のオイルポンプの駆動状態は、エンジン200の稼動状態と一義的な関係を有するため、ポンプ積算駆動時間Tは、エンジン200が始動してからの経過時間と一致する。別の見方をすれば、本実施形態の構成によれば、エンジン200の動作状態とは無関係に電動オイルポンプを駆動することが可能であり、上述した粘度検出処理は、エンジン200の始動とは無関係に実行され得る。即ち、図3におけるステップS101及びS102に係る処理を行わずに、ステップS103以降の処理によりオイル粘度を検出することも容易にして可能である。
【0082】
尚、本実施形態では、センサ回転速度Nsの検出に関し、永久磁石360及びホールIC370を利用した磁界検出方式が採用されているが、センサ回転速度Nsの検出手法はこれに限定されない。例えば、回転軸体340の突出部分を金属で構成し、且つ一部に切り欠きを設けると共に、基台部310における当該突出部分と対向する位置に誘導コイルを設置して、回転軸体340の回転に応じて生じる誘導起電力を検出することによってセンサ回転速度Nsを検出してもよい。或いは、発光ダイオードと受光ダイオードとを設置して、光学的にセンサ回転速度Nsを検出してもよい。いずれにしても、本実施形態によれば、センサ回転速度Nsがゼロよりも大きいか否かが判別可能であればよく、センサ回転速度Nsの検出精度は、センサ回転速度Nsに基づいてオイル粘度を検出する場合と較べて要求されない。
【0083】
尚、本実施形態では、粘度センサ300が、自然落下するエンジンオイルにより付勢されて回転する羽根車350を備えることにより、当該羽根車350の回転の有無が物理状態の変化として扱われているが、物理状態の変化が粘度検出に利用される構成に鑑みれば、本発明の第1の粘度検出装置に係る検出手段の構成は、これに限定されず多様な形態を採り得る。例えば、エンジンオイルによる衝撃力や蓄積されるエンジンオイルに作用する重力により物理的な歪が発生するような、且つ少なくとも当該歪の発生の有無を検出し得るような構成を有していてもよい。或いは、自然落下するエンジンオイルによって電気的なスイッチング状態が切り替わり、電気的な信号が出力されるような構成を有していてもよい。
【0084】
尚、本実施形態において、粘度センサ300は、オイル落下通路214に設置され、エンジンオイルの循環供給時において自然落下するエンジンオイルにより物理状態の変化が生じる構成となっているが、粘度センサ300の設置箇所は、必ずしもオイル落下通路214に限定されず、例えば、常時エンジンオイルに浸潤する場所であってもよい。この場合、エンジンオイルの循環供給が開始されるに際し流動を開始するエンジンオイルによって物理状態の変化が生じるが、オイル粘度によりエンジンオイルの流体抵抗は変化するため、物理状態の変化が開始されるタイミングは、オイル粘度の影響を受ける。従って、本実施形態と同様の趣旨に基づいてオイル粘度を検出することが可能となる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0085】
<実施形態の構成>
始めに、図5を参照し、本発明の第2実施形態に係るエンジンシステム11の構成について説明する。ここに、図5は、エンジンシステム11の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0086】
図5において、エンジンシステム11は、粘度センサ300の代わりに粘度センサ400を備える点において、第1実施形態に係るエンジンシステム10と相違している。ここで、図6を参照し、粘度センサ400の構成について説明する。ここに、図6は、粘度センサ400の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0087】
図6において、粘度センサ400は、左上に正面図、正面図右側に側方図、正面図下側に下方図が表されてなる三方図として示される。以下では主として正面図を参照して説明を続ける。尚、本実施形態に係る正面図は、図中上側にシリンダヘッド213が位置し、図中下側にオイルパン215が位置するように、シリンダブロック201の壁体部を正面視した図である。
【0088】
粘度センサ400は、基台部410、固定部420、トーションバー430、可動部440、歪センサ460を備えた、本発明の第2の粘度検出装置に係る「検出手段」の一例である。
【0089】
基台部410は、粘度センサ410をオイル落下通路214に固定するための格子状の固定手段である。基台部410は、オイル落下通路214(即ち、同時にシリンダブロック201)に機械的に固定されている。
【0090】
固定部420は、基台部410の一格子部位に固定された、本発明に係る「第1の検出部」の一例たる部材である。
【0091】
トーションバー430は、基台部410の一格子部位を構成すると共に、可動部440の物理位置の変化に伴って物理的な歪を生じるように構成された弾性体である。
【0092】
可動部440は、トーションバー430に固定され、固定部420と同等の形状を有する、本発明に係る「第2の検出部」の一例たる部材である。
【0093】
この固定部420と可動部440とは、図示する通り相互に対向配置されており、各々対向方向に相当する面が、本発明に係る「第1の検出面」及び「第2の検出面」の一例となっている。これら対向面によって挟まれた空間は、本発明に係る「間隙」の一例たるトラップエリア450となっている。可動部440は、トーションバー430に固定された状態において、この対向方向に回動可能に構成されている。また、この回動動作により、本発明に係る「対向方向に移動する」一例が実現される構成となっている。可動部440は、本発明に係る「少なくとも一方」の一例である。
【0094】
歪センサ460は、トーションバー430に設置され、トーションバー430に生じた物理的な歪の量を検出することが可能に構成されたセンサである。歪センサ460は、ECU100と電気的に接続されており、検出された歪量は、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0095】
尚、エンジンシステム11においては、ECU100及び粘度センサ400によって、本発明に係る第2の粘度検出装置の一例が実現される。
【0096】
<実施形態の動作>
次に、図7を参照し、粘度センサ400の動作について説明する。ここに、図7は、粘度センサ400の動作を説明する模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、図7において、粘度センサ400は、図6における下方図と対応しており、即ち、オイルパン215からシリンダヘッド213の方向を見た平面図となっている。
【0097】
図7において、粘度センサ400の動作時、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルのうち、相対的に流路抵抗の大きいトラップエリア450に落下するエンジンオイルは、このトラップエリア450に一時的にトラップされる。図7では、エンジンオイルがトラップエリア450にトラップされた状態が示されている。
【0098】
トラップエリア450にエンジンオイルがトラップされると、固定部420及び可動部440における前述した検出面に夫々当該エンジンオイルの表面張力が作用するが、固定部420は既に述べたように基台部410に固定されており、当該表面張力の影響を受けない構成となっている。一方で、可動部440は、トーションバー430に固定されているため、当該表面張力の影響を受け、図示回動方向に回動する。その結果、可動部440とトーションバー430との固定面に立てられた法線たる軸線は、表面張力が作用していない場合の基準線(図示破線参照)から、図示鎖線の如くに傾斜する。即ち、トーションバー430に物理的な歪が発生する。従って、このトーションバー430に生じる歪の量たるトーションバー歪量は、本発明に係る「移動量に対応する指標値」の一例となる。
【0099】
このトーションバー歪量は、可動部440に作用する表面張力の大きさに影響受け、且つ当該表面張力は、オイル粘度ρにより影響を受ける。ここで、図8を参照し、オイル粘度ρとトーションバー歪量との対応関係について説明する。ここに、図8は、当該対応関係の模式図である。
【0100】
図8において、縦軸及び横軸に夫々オイル粘度ρ及びトーションバー歪量が表される。図示するように、オイル粘度ρは、トーションバー歪量とリニアな関係を有する。即ち、オイル粘度ρ、表面張力及びトーションバー歪量は、夫々相互に比例の関係にある。ECU100には、図8に表された対応関係に相当するマップが格納されている。
【0101】
ECU100は、第1実施形態と同様に粘度検出処理を実行する。ここで、図9を参照し、本発明の第2実施形態に係る粘度検出処理の詳細について説明する。ここに、図9は、粘度検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0102】
図9において、ECU100は、イグニッションオフ状態であるか否か、即ち、エンジン200が稼動状態から停止状態に制御されたか否かを判別する(ステップS201)。エンジン200が稼動中である場合(ステップS201:NO)、ECU100は実質的に処理を待機状態に制御する。イグニッションオフ状態である場合(ステップS201:YES)、ECU100は更に、イグニッションオフ後の経過時間Tpを取得し、取得した経過時間Tpが閾値Tpthより大きいか否かを判別する(ステップS202)。
【0103】
ここで、図7に戻って補足すれば、エンジン200が稼動中である場合、オイル落下通路214には絶えずエンジンオイルが供給され、オイルパン215に向かって自然落下する。この際、このエンジンオイルの一部はトラップエリア450にトラップされるが、例えば図7における固定部420の左側及び可動部440の右側にもエンジンオイルが付着する可能性がある。その場合、可動部440の可動量に対応するトーションバー歪量は、トラップエリア450にトラップされたエンジンオイル以外のエンジンオイルの影響を受け、必ずしもオイル粘度ρと一義的な関係を有さなくなる可能性がある。一方で、エンジン200が停止すれば、流路抵抗の大きいトラップエリア450にトラップされたエンジンオイル以外は、経時的にオイルパン215に向かって落下し、トラップエリア450にのみ、少なくともトラップエリア450に支配的にエンジンオイルが残留する。従って、トーションバー歪量とオイル粘度ρとの関係が、前述したマップに記憶された関係を保ち得るのである。
【0104】
ここで、図10を参照し、経過時間Tpとトーションバー歪量との対応関係について説明する。ここに、図10は、当該対応関係の模式図である。
【0105】
図10において、経過時間Tpが閾値Tpth未満である場合、トラップエリア450以外に付着したエンジンオイルの影響により、トーションバー歪量は不安定であり、経時的にトラップされたエンジンオイルが支配的となるに連れ、増加の傾向を辿る。経過時間Tpが閾値Tpthに達すると、トーションバー歪量は安定する。閾値Tpthは、このようにトーションバー歪量が十分に安定するものとして、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定されている。
【0106】
図9に戻り、経過時間Tpが閾値Tpth以下である場合(ステップS202:NO)、ECU100は処理を一時的に待機状態に制御すると共に、経過時間Tpが閾値Tpthを越えた場合(ステップS202:YES)、ECU100は、歪センサ460を介してトーションバー歪量を取得する(ステップS203)。
【0107】
トーションバー歪量を取得すると、ECU100は、図8で説明した対応関係を表すマップに基づいてオイル粘度ρを取得する(ステップS204)。オイル粘度ρを取得すると、ECU100は、取得したオイル粘度ρを記憶し(ステップS110)、粘度検出処理を終了する。
【0108】
このように、本実施形態に係るエンジンシステム11及び粘度検出処理によれば、固定部420及び可動部440相互間に形成されたトラップエリア450にトラップされたエンジンオイルの表面張力に基づいて、正確にオイル粘度を検出することが可能となる。また、この際、落下通路214を自然落下するエンジンオイルがトラップエリア450にトラップされるように、粘度センサ400を落下通路214に配置すればよく、エンジンオイルをトラップするのに特別な外力を要しない。従って、オイル粘度の検出に要する駆動力は、歪センサ460を駆動するための、少なくとも経済性の悪化を顕在化させない程度に小さな電力のみとなっている。従って、本実施形態は、第1実施形態と同様に経済的であり、経済的に且つ高精度にオイル粘度を検出することが可能となる。
【0109】
尚、本実施形態では、オイル粘度の検出に際し、トラップされたエンジンオイルの表面張力が支配的となるように経過時間Tpが考慮され、検出精度の向上が図られるが、トラップエリア450の流路抵抗が、その周囲に較べて明らかに大きいことに鑑みれば、このように経過時間Tpを必ずしも考慮する必要はない。従って、本実施形態に係る粘度検出処理は、必ずしも上述した如くイグニッションオフ時にのみ実行される必要はなく、エンジン200の稼働時においても実行可能である。或いは、エンジン稼動時の、即ち、トラップエリア450にトラップされた以外のエンジンオイルがトーションバー歪量に影響を及ぼす可能性がある場合について、予め図8に相当する対応関係を取得することによって、これらの影響をキャンセルすることも可能である。一方、経過時間Tpを考慮する本実施形態と同等の効果は、イグニッションオフ時に限らず、例えばエンジン始動直後等、粘度センサ400の周囲にエンジンオイルが存在しないと判断され得る状況における表面張力に基づいてオイル粘度を取得することによっても享受される。
【0110】
尚、本実施形態では、固定部420は基台部410に固定されており、表面張力によって物理位置が変化することはないが、固定部420が、可動部440と同様にトーションバー430等又はそれと同等の弾性体に固定されることにより、可動部440と同様の機能を有していてもよい。この場合、トラップされた表面張力に影響されて物理状態が変化する物体が増えるから、より高精度にオイル粘度を検出することも可能となる。
【0111】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う粘度検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムに備わる粘度センサの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される粘度検出処理のフローチャートである。
【図4】ポンプ積算駆動時間とオイル粘度との対応関係を表す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図6】図5のエンジンシステムに備わる粘度センサの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図7】図6の粘度センサの動作を説明する模式図である。
【図8】オイル粘度とトーションバー歪量との対応関係を表す模式図である。
【図9】図5のエンジンシステムにおいてECUにより実行される粘度検出処理のフローチャートである。
【図10】イグニッションオフ後の経過時間とトーションバー歪量との対応関係を表す模式図である。
【符号の説明】
【0113】
10…エンジンシステム、11…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、201…シリンダブロック、213…シリンダヘッド、214…オイル落下通路、215…オイルパン、300…粘度センサ、400…粘度センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において潤滑油の粘度を検出するための粘度検出装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、電動式羽根車を利用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたエンジンオイルの劣化検出装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、オイル通路内に設置した電動式羽根車の回転抵抗及び油温に基づいてエンジンオイルの粘度を検出することが可能であるとされている。
【0003】
尚、濾過フィルタを通過したオイルによって回転させられる羽根車のパルスを測定し、流量を測定する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、オイル通路内に歪ゲージを設置し、オイルポンプ回転数と油温が所定範囲内にあるときに、歪量から粘度の増加を検出する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
更に、液面の下がる温度から粘度を検出する技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
更に、温度による粘度変化の実験値から基準温度の粘度を算出する技術も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】実開昭63−28812号公報
【特許文献2】特開平7−63035号公報
【特許文献3】特開平9−317433号公報
【特許文献4】特開平3−269237号公報
【特許文献5】特開平7−333132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような潤滑油の粘度検出に際し、従来の技術では羽根車を回転させるための特別な駆動力源を必要とする。従って、コストの増加及び燃費の悪化が回避され難い。即ち、従来の技術には、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが困難であるという技術的な問題点がある。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能な粘度検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第1の粘度検出装置は、循環手段により所定の循環経路における潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、前記循環経路に設けられ、前記循環供給がなされる場合に前記潤滑油により物理状態が変化する検出手段と、前記循環供給が開始されてから前記物理状態が変化するまでの遅延時間に基づいて前記粘度を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明における「内燃機関」とは、例えば複数の気筒を有し、当該複数の気筒の各々における燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料が燃焼した際に発生する爆発力を、例えばピストン及びコネクティングロッド等の機械的な伝達経路を経て、例えばクランク軸等を介して動力として出力可能な、例えば2サイクル或いは4サイクルレシプロエンジン等を指す。
【0012】
この内燃機関には、例えば、内燃機関における物理的又は機械的な構成要素相互間の直接的な接触を防止する、或いは当該構成要素の焼き付きを防止する等の目的から、例えばオイルパン等に一時的に貯留される、例えばエンジンオイル等の潤滑油が、例えば電気駆動式或いは機械駆動式等の各種形態を採り得る吐出手段、或いは更にオイルストレーナ等の吸引手段を適宜含み得る概念としての循環手段の作用により、例えば予め物理的に又は機械的に構築された循環経路内を循環供給される。
【0013】
本発明に係る第1の粘度検出装置では、当該循環経路に、潤滑油の循環供給がなされる場合に潤滑油により物理状態が変化する、例えば物理的、機械的又は機構的な手段を包括する概念としての検出手段が設置される。
【0014】
ここで、「物理状態の変化」とは、例えば回転、回動、摺動或いは滑動等の形態を採り得る物理位置の変化や、歪みの発生或いは電気的又は磁気的な特性の変化等を含み、少なくとも物理的に、機械的に、電気的に又は化学的に検出することが可能な変化を包括する広い概念である。
【0015】
このような物理状態の変化は、循環供給される潤滑油により与えられるが、検出手段は、当該循環供給がなされない場合、例えば、内燃機関が停止状態にある場合(即ち、典型的な一形態としてクランクシャフトに連動する機械駆動式のポンプが停止状態にある場合)や、電気駆動式のポンプが停止状態に制御される場合等において潤滑油と接触しない位置に設置されていてもよいし、常時潤滑油と接触する(例えば潤滑油に浸潤する)位置に設置されていてもよい。即ち、検出手段における物理状態の変化は、循環供給される潤滑油が循環供給される過程で検出手段に到達し、検出手段に対し物理作用を及ぼすことによって生じてもよいし、循環供給される過程で潤滑油が幾らかなり流動することにより潤滑油を介して付与される油圧等により生じてもよい。
【0016】
一方、本発明に係る第1の粘度検出装置は、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る推定手段を備える。推定手段は、潤滑油の循環供給が開始されてから前述した物理状態の変化が生じるまでの遅延時間に基づいて潤滑油の粘度を推定する。
【0017】
潤滑油の循環供給が開始されてから検出手段における物理状態の変化が生じるまでの遅延時間は、潤滑油が高粘度である程循環供給がなされるに際しての潤滑油の循環速度が遅くなり易いことに鑑みれば、検出手段の物理的、機械的又は機構的な構成或いはその設置態様によらず、潤滑油の粘度に応じて変化する。従って、当該遅延時間は、潤滑油の粘度を推定するに際しての指標として有効である。
【0018】
ここで、検出手段が、潤滑油との接触状態の変化により物理状態の変化を呈し得る物理的な、機械的な又は機構的な構造を採り得ることに鑑みれば、当該物理状態の変化の度合いをもって潤滑油の粘度を推定することも可能であるが、この場合、当該変化の度合いは、当該変化の度合いと相関する、その時点における検出手段の物理的及び機械的な状態に影響を受ける。例えば、検出手段のフリクションロスが一定でない場合、物理状態の変化の度合いは、潤滑油の粘度に対し一義的な関係を有し得ないため、必然的に粘度の推定精度は低下する。
【0019】
その点、本発明に係る第1の粘度検出装置において規定される遅延時間は、その時点における検出手段の物理的な状態に実質的に影響されない。即ち、当該遅延時間は、例えば構造、材質、形状及び空間的配置等、循環経路の物理的及び機械的な態様と、潤滑油の粘度とによって顕著に支配される。従って、好適な一形態として、例えば予め少なくとも実践上の不具合を顕在化させない程度の精度を担保し得るように実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて取得される、当該遅延時間と当該粘度との相互関係を規定するマップ、アルゴリズム或いは算出式等に従う等して、当該遅延時間に基づいて当該粘度を高精度に推定することが可能となる。
【0020】
尚、「遅延時間に基づいて」とは、当該遅延時間と直接的又は間接的な関係を有し得る時間値を参照する態様を含む概念であり、例えば循環供給の開始後、所定時間経過した時点から物理状態の変化が生じるまでの時間等も含む趣旨である。
【0021】
このように高精度に粘度を推定し得る一方で、本発明に係る第1の粘度検出装置において、検出手段における物理的且つ巨視的な動作は、循環供給される潤滑油との接触状態の変化により生じる物理状態の変化のみであり、検出手段は、所謂パッシブ駆動の形態を採る。従って、検出手段の駆動に際し、内燃機関の動力の一部を供給する、或いはバッテリ等を介して電力を供給する等といった新規な動力資源の提供は、少なくとも経済性の悪化を顕在化させる程度には必要とされない。即ち、本発明に係る第1の粘度検出装置によれば、コストの増加、燃費の悪化、及びシステム構成の複雑化が回避される。
【0022】
このように、本発明に係る第1の粘度検出装置によれば、上述した遅延時間に基づいて高精度に粘度を特定し得ると共に、その駆動がパッシブであるために経済的である。即ち、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能となるのである。
【0023】
本発明に係る第1の粘度検出装置の一の態様では、前記循環経路は、前記循環供給がなされる場合に前記内燃機関の上部から下部へ前記潤滑油を自然落下させる落下通路を含み、前記検出手段は、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油との接触が生じることにより前記物理状態が変化するように、前記落下通路に設置される。
【0024】
この態様によれば、循環経路には例えば落下通路が含まれ、例えばシリンダヘッド等内燃機関の上部から、オイルパン等内燃機関の下部へと潤滑油が自然落下(重力に顕著に影響された位置変化を包括する概念であり、例えば落下通路の壁体部をつたって当該下部へと流れ落ちる形態を含む趣旨である)するように構成されている。
【0025】
この態様によれば、検出手段は、循環供給がなされる場合に、この自然落下する潤滑油との接触により物理状態が変化するように落下通路に設置される。ここで、潤滑油の循環供給がなされない場合、より具体的な一例として機関停止後十分に時間が経過している場合等において、落下通路には、潤滑油が少なくとも検出手段に物理変化を生じさせ得る程度には存在し難い。従って、この場合、循環供給の有無に応じて検出手段と潤滑油との接触の有無が切り替わることとなる。
【0026】
このように接触の有無が切り替わる形で接触状態が変化する場合、検出手段が常時潤滑油に浸潤している場合と較べ、物理状態の変化は、内燃機関に生じる物理的な振動等の影響を受け難くなり、相対的にみて潤滑油の粘度に影響され易くなる。また、この場合、自然落下する潤滑油が言わば駆動力源として利用されることにより、相対的にみて大きい運動エネルギを検出手段の物理状態の変化に供することが可能となるため、物理状態の変化量が大きくなり易い。即ち、この態様によれば、高精度に潤滑油の粘度を検出することが可能となる。
【0027】
尚、この態様では、前記検出手段は、前記落下通路において接触が生じた前記自然落下する潤滑油により付勢され回転する回転手段を含み、前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環供給が開始されてから前記回転手段が回転し始めるまでの時間に基づいて前記粘度を推定してもよい。
【0028】
この場合、検出手段が、例えば羽根車等の回転手段を含んでなり、落下通路を自然落下する潤滑油により付勢され回転するように、その物理的及び機械的な構造が決定される。循環供給が開始される以前においては、自然落下する潤滑油の存在は実質的に無視し得るため、回転手段における回転は、潤滑油が内燃機関の上部から落下通路を自然落下して回転手段に到達した時点で開始される。従って、回転手段が回転し始めるまでの遅延時間に基づいて、高精度に粘度を推定することが可能となる。
【0029】
本発明に係る第1の粘度検出装置の他の態様では、前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環手段が作動し始めてから前記物理状態が変化するまでの時間に基づいて前記粘度を推定する。
【0030】
この態様によれば、推定手段は、遅延時間として、循環手段が作動し始めてから検出手段の物理状態が変化するまでの時間に基づいて粘度を推定する。即ち、この場合、循環手段の作動開始をもって循環供給の開始と扱われる。従って、遅延時間に安定した基準が与えられ、粘度がより高精度に推定され得る。
【0031】
尚、循環手段が作動し始めた時点とは、循環手段の構成により各種の態様を採り得、循環手段が内燃機関に連動する例えば機械式のポンプであれば、内燃機関が始動した時点をもって代替されてもよいし、循環手段が内燃機関の機関回転から独立して作動可能な、例えば電気駆動式のポンプ等の形態を採る場合には、当該電気駆動式のポンプが稼動し始めた時点であってもよい。
【0032】
上述した課題を解決するため、本発明に係る第2の粘度検出装置は、潤滑油を自然落下させる落下通路を含む循環経路における該潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、第1の検出面を備えた第1の検出部、及び該第1の検出面と間隙を挟んで対向する第2の検出面を備えた第2の検出部を有し、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油が前記間隙にトラップされるように前記落下通路に設けられると共に、前記第1及び第2の検出部の少なくとも一方の物理状態が前記トラップされた潤滑油の表面張力により変化する検出手段と、前記少なくとも一方における前記物理状態の変化量を特定する特定手段と、前記特定された変化量に基づいて前記粘度を推定する推定手段とを具備することを特徴とする。
【0033】
本発明に係る第2の粘度検出装置によれば、上述したものと同等の概念を有する落下通路に検出手段が設置される。ここで、第2の粘度検出装置における検出手段は、第1の検出部及び第2の検出部を備えており、夫々が相互に間隙を挟んで対向する第1及び第2の検出面を有している。この間隙には落下通路を自然落下する潤滑油がトラップされる構成となっており、検出手段は、当該トラップされた潤滑油の表面張力によって、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態が変化する構成となっている。
【0034】
尚、本発明において「トラップされる」とは、例えば潤滑油に対する当該間隙の流路抵抗が、その周辺と比較して大きく設定されることによって、当該周辺と比較して幾らかなり潤滑油の流速が低下せしめられることを包括する概念である。
【0035】
一方、本発明に係る第2の粘度検出装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により、間隙にトラップされた潤滑油の表面張力による、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態の変化量が特定される。
【0036】
ここで、本発明に係る「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択又は推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従った論理演算、数値演算、又は電気的若しくは機械的な制御の結果として導出すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。
【0037】
特定手段により変化量が特定されると、推定手段が、この特定された変化量に基づいて潤滑油の粘度を推定する。ここで、検出手段における少なくとも一方の物理状態の変化量は、トラップされた潤滑油の表面張力に応じて変化する。また、この表面張力は、潤滑油の粘度と相関があり、結局、当該変化量は潤滑油の粘度を表す指標として利用することが可能である。
【0038】
従って、例えば予め少なくとも実践上の不具合を顕在化させないように実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて取得される、当該変化量と当該粘度との相互関係を規定するマップ、アルゴリズム或いは算出式等に従う等して、当該遅延時間に基づいて当該粘度を高精度に推定することが可能となる。
【0039】
また、第1の粘度検出装置と同様、第2の粘度検出装置においても、第1及び第2の検出部のうち少なくとも一方における物理状態の変化は、自然落下し且つ間隙にトラップされた潤滑油によってもたらされるのであり、第2の粘度検出装置においても第1の粘度検出装置同様、少なくとも経済性の悪化を顕在化させる程度の新規な動力資源の提供は必要とされない。即ち、本発明に係る第2の粘度検出装置においても検出手段はパッシブ駆動される。従って、コストの増加、燃費の悪化、及びシステム構成の複雑化が生じ難く、経済的に且つ高精度に潤滑油の粘度が検出されるのである。
【0040】
本発明に係る第2の粘度検出装置の一の態様では、前記少なくとも一方は、前記表面張力に応じて前記第1及び第2の検出面の対向方向に移動可能に構成され、前記特定手段は、前記物理状態の変化量として、前記対向方向への移動量に対応する指標値を特定する。
【0041】
ここで、「対向方向への移動量に対応する指標値」とは、対向方向への移動量そのものを含み、当該移動量と一対一、一対多、多対一及び多対多の関係を有する指標値を含む概念であり、例えば当該少なくとも一方が、当該対向方向へ移動する移動部と、該移動部を物理的に固定する固定部とを備える形態を有する場合には、移動部の移動量(即ち、位置変化量)に応じて固定部に生じる物理的な歪の量であってもよい。即ち、特定手段は、一種の歪センサ又は歪ゲージとして構成され、或いは歪センサ又は歪ゲージから歪量を取得可能に構成されていてもよい。
【0042】
この態様によれば、トラップされた潤滑油の表面張力が少なくとも一方における物理状態の変化量として現れ易く、相対的にみて簡便に且つ正確に粘度を検出することが可能となる。尚、「少なくとも一方」とあるように、検出手段において、第1及び第2の検出部が夫々表面張力に応じて移動可能に構成されていてもよい。この場合、粘度の検出精度がより向上し得るため好適である。
【0043】
本発明に係る第2の粘度検出装置の他の態様では、前記特定手段は、前記内燃機関が停止された場合、又は前記循環供給が開始された場合に、前記変化量を特定する。
【0044】
本発明に係る第2の粘度検出装置は、上述した如く第1及び第2の検出面相互間に介在する間隙にトラップされる潤滑油の表面張力を利用している。従って、当該間隙を除く当該間隙周辺部に同様に潤滑油がトラップされ、検出手段における物理状態の変化が阻害されると、潤滑油の粘度に係る検出精度が低下する可能性がある。
【0045】
一方で、検出手段が落下通路に設けられることに鑑みれば、潤滑油の循環供給がなされない状況、とりわけ当該循環供給が停止して十分な時間が経過している状況等では、当該間隙にトラップされた潤滑油以外の潤滑油は、自然落下の結果、例えばオイルパン等に貯留され易い。従って、このような状況に限って、或いはこのような状況において優先的に、検出手段における物理状態の変化量を特定することにより、粘度の検出精度を相対的に向上させることが可能となる。
【0046】
ここで、この態様によれば、例えばイグニッションオフ時等、内燃機関の機関停止時や、或いは好適な一形態として相応の機関停止期間を経た後の機関始動時を含む内燃機関の機関始動時において、例えば上述した移動量や歪量等の各種変化量が特定される。従って、表面張力を、粘度の特定に供すべき物理状態の変化量に顕著に作用させることができ(即ち、粘度の特定に供すべき物理状態の変化を阻害する方向へ物理状態を変化させ難くなり)、潤滑油の粘度に係る検出精度が向上する。
【0047】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照し、本発明の好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0049】
図1において、エンジンシステム10は、ECU100、エンジン200及び粘度センサ300を備える。
【0050】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステム10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明の第1の粘度検出装置に係る「推定手段」の一例である。ECU100は、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述する粘度検出処理を実行することが可能に構成されている。
【0051】
エンジン200は、シリンダブロック201に収容されるシリンダ202内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置210による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンである。クランクシャフト205の近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されており、ECU100と電気的に接続されている。
【0052】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート208において、インジェクタ209から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ209に圧送供給されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、例えば、フィードポンプ或いは他の低圧ポンプにより圧送される燃料の圧力を更に高圧ポンプによって昇圧せしめ、高温高圧のシリンダ202内部へ燃料を直接噴射することが可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。
【0053】
シリンダ202内部と吸気ポート208とは、吸気バルブ及び吸気カム(夫々符号省略)を含む不図示の吸気動弁系の作用により、その連通状態が制御されている。シリンダ202内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブの開閉に連動して開閉する排気バルブ(符号省略)の開弁時に排気ポート211に排出され、排気ポート211に連通する排気管212に導かれる構成となっている。この排気バルブは、この排気バルブを駆動する排気カム(符号省略)を含む不図示の排気動弁系によりその駆動状態が制御される構成となっている。
【0054】
上述した吸気動弁系及び排気動弁系は、シリンダブロック201の上部に位置する金属製のシリンダヘッド213内に収容されている。シリンダヘッド213内に収容されるこれら吸気動弁系及び排気動弁系には、本発明に係る「潤滑油」の一例たるエンジンオイルが循環供給され、各部の動作の潤滑化及び焼き付き防止が図られる構成となっている。
【0055】
一方、シリンダブロック201の内部には、エンジンオイルの循環供給路の一部として、オイル落下通路214(即ち、本発明に係る「落下通路」の一例)が形成されている。このオイル落下通路214は、シリンダブロック201上端部においてシリンダヘッド213内部に連通しており、シリンダヘッド213内部において、例えば吸気動弁系或いは排気動弁系に供給されたエンジンオイルは、このオイル落下通路214を介してシリンダブロック201下方へと導かれる構成となっている。
【0056】
シリンダブロック201下方には、オイルパン215が設置されている。オイルパン215は、エンジン200の各部に循環供給されるエンジンオイルを一時的に貯留する貯留手段であり、前述したオイル落下通路214を介して自然落下するエンジンオイルも、この循環供給されるエンジンオイルの一部として当該オイルパン215に貯留される構成となっている。
【0057】
オイルパン215には、循環装置216が設置されている。循環装置216は、電気駆動式のポンプたる電動オイルポンプを含み、オイルパン215に貯留されたエンジンオイルを、不図示の循環供給路を介して上述したシリンダヘッド213内部を含むエンジン200の各部に循環供給することが可能に構成された、本発明に係る「循環手段」の一例である。この電動オイルポンプは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100の制御によって、その駆動状態が制御される構成となっている。
【0058】
このような構成の下、シリンダヘッド213内部に対するエンジンオイルの供給に注目すれば、エンジンオイルは、オイルパン215からシリンダヘッド213に導かれ、オイル落下通路214を介して再びオイルパン215に循環する構成となっている。尚、エンジンオイルの循環形態は、エンジン200における各部の動作の潤滑化及び焼き付き防止を図り得る限りにおいて本実施形態のものに限定されず各種態様を採ってよい。
【0059】
粘度センサ300は、オイル落下通路214に設置された、エンジンオイルの粘度を表すオイル粘度ρを検出するためのセンサであり、本発明の第1の粘度検出装置に係る「検出手段」の一例である。粘度センサ300は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態は、ECU100により制御される構成となっている。
【0060】
ここで、図2を参照し、粘度センサ300の構成について説明する。ここに、図2は、粘度センサ300の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、図2は、図1において、粘度センサ300をシリンダヘッド213からオイルパン215の方向に見た平面図となっている。
【0061】
図2において、粘度センサ300は、基台部310、軸受け部320及び330、回転軸体340、羽根車350、永久磁石360並びにホールIC370を備える。
【0062】
基台部310は、粘度センサ300をオイル落下通路214に固定するための固定手段である。基台部310は、オイル落下通路214(即ち、同時にシリンダブロック201)に機械的に固定されている。
【0063】
軸受け部320及び330は、相互に所定距離隔てて対向配置されると共に、各々一端部が基台部310に固定され、後述する回転軸体340を回転可能に支持することが可能に構成された支持手段である。
【0064】
回転軸体340は、軸受け部320及び330における対向面によって規定される空間に、仮想の回転軸(図示破線参照)を中心として図示矢線方向に回転可能に支持されてなる軸体である。
【0065】
この回転軸体340の外周面には、本発明に係る「回転手段」の一例たる平板状の複数の羽根車350が形成されており、回転軸体340と一体に回転することが可能に構成されている。羽根車350の表面には、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルが、ある程度の運動エネルギを有した状態で衝突する構成となっており、羽根車350は、このエンジンオイルによる付勢を受けて、回転軸体340と共に図示矢線方向に回転する仕組みとなっている。即ち、粘度センサ300では、本発明に係る「物理状態が変化する」一例として、エンジンオイルの循環供給時に羽根車350が回転する構成となっている。
【0066】
回転軸体340の一端部は、軸受け部330を貫通しており、羽根車350が形成される空間と軸受け部330を隔てて反対側の空間に突出している。永久磁石360は、この突出した部分に形成された永久磁石であり、図示破線を境にして左右に夫々N極及びS極が形成されている。
【0067】
ホールIC370は、永久磁石360によって形成される磁界を、N極及びS極の双方について検出することが可能に構成された、所謂回転センサである。ホールIC370は、磁界の強度に応じた電圧信号を発生することが可能なIC素子を内蔵しており、回転軸体340の回転動作に伴って交互に現れるN極及びS極の磁界を符号の相違する電圧信号として出力可能に構成されている。従って、この出力される電圧信号の波形の周期は、回転軸体340の回転速度に応じた値を採り、回転軸体340の回転速度が検出される構成となっている。尚、ホールIC370は、ECU100と電気的に接続されており、磁界強度に対応する電圧信号はECU100に出力され、最終的にはECU100によって回転軸体340の回転速度たるセンサ回転速度Nsが算出される構成となっている。
【0068】
尚、エンジンシステム10においては、ECU100及び粘度センサ300によって、本発明に係る第1の粘度検出装置の一例が実現される。
【0069】
<実施形態の動作>
エンジンシステム10においては、ECU100によって粘度検出処理が実行されることにより、オイル粘度ρが検出される。ここで、図3を参照し、本実施形態の動作として、粘度検出処理の詳細について説明する。ここに、図3は、粘度検出処理のフローチャートである。
【0070】
図3において、ECU100は、例えばイグニッションがオン状態であるか否かの判別等を介して、エンジン200の始動タイミングであるか否かを判別する(ステップS101)。エンジン200の始動タイミングでない場合(ステップS101:NO)、ECU100は処理を待機状態に制御すると共に、始動タイミングである場合には(ステップS101:YES)、エンジン200を始動させる(ステップS102)。
【0071】
エンジン200を始動させると、ECU100は循環装置216を起動させる(ステップS103)。ステップS103に係る処理では実質的に電動オイルポンプが起動される。電動オイルポンプの起動に伴って、オイルパン215に貯留された状態のエンジンオイルが、所定の循環経路を辿って、シリンダヘッド213を含む対象箇所へ循環供給される。
【0072】
電動オイルポンプが起動されると、ECU100は、エンジン200が今回の始動以前に停止していた期間を表すエンジン停止期間Tsが、閾値Tsthよりも大きいか否かを判別する(ステップS104)。ここで、エンジン200が前回の停止後、間を置かずして始動された場合、オイル落下通路214におけるエンジンオイルの自然落下が継続している可能性がある。この場合、粘度の検出精度が低下しかねないため、本実施形態では、少なくともオイル落下通路214におけるエンジンオイルの自然落下が終了したとみなし得る程度にエンジン200が停止していた旨を表す閾値Tsthが設定される。
【0073】
エンジン停止期間Tsが閾値Tsth以下である場合(ステップS104:NO)、ECU100は、粘度検出処理を実行するのに不適当な条件であるとして、粘度検出処理を終了する。一方、エンジン停止期間Tsが閾値Tsthよりも大きい場合(ステップS104:YES)、ECU100は、粘度検出に適した条件であるものとして、電動オイルポンプが起動されてからの経過時間を表すポンプ積算駆動時間Tを更新する(ステップS105)。尚、このポンプ積算駆動時間Tは、電動ポンプの起動に伴ってエンジンオイルの循環供給が開始されることに鑑みれば、即ち、循環供給が開始されてからの経過時間(即ち、循環供給の実行期間)に相当する。
【0074】
次に、ECU100は、粘度センサ300における回転軸体340(一義的に羽根車350)の回転速度を表すセンサ回転速度Nsを取得する(ステップS106)。センサ回転速度Nsは、既に述べたように、ホールIC370からの出力電圧信号に基づいた数値演算の結果として簡便に且つ正確に取得される。
【0075】
ECU100は、取得したセンサ回転速度Nsが、ゼロよりも大きいか否か、即ち、粘度センサ300において回転軸体340が回転動作を開始したか否かを判別する(ステップS107)。回転軸体340が未だ回転動作を開始しない場合(ステップS107:NO)、ECU100は、処理をステップS105に戻し、ポンプ積算駆動時間Tを更新すると共に一連の処理を繰り返す。一方、回転軸体340が回転動作を開始した場合(ステップS107:YES)、ECU100は、現時点のポンプ積算駆動時間Tを取得する(ステップS108)。この現時点のポンプ積算駆動時間Tは、エンジンオイルの循環供給が開始されてから回転軸体340が回転を開始するまでの遅延時間に相当する。
【0076】
ポンプ積算駆動時間Tを取得すると、ECU100は、この取得したポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρを取得する(ステップS109)。この際、ECU100は、予め設定された、ポンプ積算駆動時間Tとオイル粘度ρとの対応関係に基づいて粘度ρを取得する。ここで、図4を参照し、ポンプ積算駆動時間Tとオイル粘度ρとの対応関係について説明する。ここに、図4は、当該対応関係の模式図である。
【0077】
図4において、縦軸及び横軸に夫々オイル粘度ρ及びポンプ積算駆動時間Tが表されている。図示する通り、オイル粘度ρは、ポンプ積算駆動時間Tの増加に伴って二次関数的に増加する特性を有している。即ち、定性的に言えば、エンジンオイルの粘性が高い程、シリンダヘッド213からオイル落下通路214を介してエンジンオイルが自然落下し始めるのに要する時間が長くなる。ECU100のROMには、予め図4に示す対応関係に相当するマップが格納されており、図3のステップS109に係る処理において、ECU100は、取得したポンプ積算駆動時間Tに該当する一のオイル粘度ρを選択的に取得する。
【0078】
図3に戻り、オイル粘度ρを取得すると、ECU100はこの取得したオイル粘度ρを、最新のオイル粘度としてRAMに記憶する(ステップS110)。オイル粘度ρの記憶が終了すると、粘度検出処理は終了する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係るエンジンシステム10及び粘度検出処理によれば、エンジンオイルの循環供給が開始されてから、羽根車350が回転し始めるまでの遅延時間に相当するポンプ積算駆動時間Tに基づいてオイル粘度ρが検出される。この遅延時間は、粘度センサ300における、例えば軸受け部320及び330のフリクションロス等に影響され難く、エンジンオイルの物理的機械的な循環経路が定まれば、オイル粘度ρに顕著に影響される指標値である。従って、例えばフリクションロスや潤滑油の供給状態の影響を顕著に受ける、羽根車350の回転速度たるセンサ回転速度Nsに基づいて粘度ρの検出を図る場合と較べて、その検出精度が高くなる。また、羽根車350が回転し始めたか否かを判別できればオイル粘度ρの検出が可能であり、エンジン200の機械的な振動にオイル粘度の検出精度が影響されることもなく、その点においても高精度なオイル粘度の検出が可能である。
【0080】
ここで特に、羽根車350の回転は、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルとの接触により、言わばパッシブ駆動によって実現されるため、羽根車350を駆動するための別途な駆動力源は必要とされない。即ち、粘度センサ300において必要とされる駆動力は、僅かにホールIC370の駆動するための、実践上無視し得る程度に微小な電力のみで済む構成となっている。従って、本実施形態に係るエンジンシステム10及び粘度検出処理によれば、経済的に且つ高精度にオイル粘度を検出することが可能となるのである。
【0081】
尚、本実施形態では、循環装置216が電動オイルポンプを備えているが、本発明に係る循環手段としては、例えばクランクシャフト205の回転に連動する機械式のオイルポンプが採用されてもよい。この場合、当該機械式のオイルポンプの駆動状態は、エンジン200の稼動状態と一義的な関係を有するため、ポンプ積算駆動時間Tは、エンジン200が始動してからの経過時間と一致する。別の見方をすれば、本実施形態の構成によれば、エンジン200の動作状態とは無関係に電動オイルポンプを駆動することが可能であり、上述した粘度検出処理は、エンジン200の始動とは無関係に実行され得る。即ち、図3におけるステップS101及びS102に係る処理を行わずに、ステップS103以降の処理によりオイル粘度を検出することも容易にして可能である。
【0082】
尚、本実施形態では、センサ回転速度Nsの検出に関し、永久磁石360及びホールIC370を利用した磁界検出方式が採用されているが、センサ回転速度Nsの検出手法はこれに限定されない。例えば、回転軸体340の突出部分を金属で構成し、且つ一部に切り欠きを設けると共に、基台部310における当該突出部分と対向する位置に誘導コイルを設置して、回転軸体340の回転に応じて生じる誘導起電力を検出することによってセンサ回転速度Nsを検出してもよい。或いは、発光ダイオードと受光ダイオードとを設置して、光学的にセンサ回転速度Nsを検出してもよい。いずれにしても、本実施形態によれば、センサ回転速度Nsがゼロよりも大きいか否かが判別可能であればよく、センサ回転速度Nsの検出精度は、センサ回転速度Nsに基づいてオイル粘度を検出する場合と較べて要求されない。
【0083】
尚、本実施形態では、粘度センサ300が、自然落下するエンジンオイルにより付勢されて回転する羽根車350を備えることにより、当該羽根車350の回転の有無が物理状態の変化として扱われているが、物理状態の変化が粘度検出に利用される構成に鑑みれば、本発明の第1の粘度検出装置に係る検出手段の構成は、これに限定されず多様な形態を採り得る。例えば、エンジンオイルによる衝撃力や蓄積されるエンジンオイルに作用する重力により物理的な歪が発生するような、且つ少なくとも当該歪の発生の有無を検出し得るような構成を有していてもよい。或いは、自然落下するエンジンオイルによって電気的なスイッチング状態が切り替わり、電気的な信号が出力されるような構成を有していてもよい。
【0084】
尚、本実施形態において、粘度センサ300は、オイル落下通路214に設置され、エンジンオイルの循環供給時において自然落下するエンジンオイルにより物理状態の変化が生じる構成となっているが、粘度センサ300の設置箇所は、必ずしもオイル落下通路214に限定されず、例えば、常時エンジンオイルに浸潤する場所であってもよい。この場合、エンジンオイルの循環供給が開始されるに際し流動を開始するエンジンオイルによって物理状態の変化が生じるが、オイル粘度によりエンジンオイルの流体抵抗は変化するため、物理状態の変化が開始されるタイミングは、オイル粘度の影響を受ける。従って、本実施形態と同様の趣旨に基づいてオイル粘度を検出することが可能となる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0085】
<実施形態の構成>
始めに、図5を参照し、本発明の第2実施形態に係るエンジンシステム11の構成について説明する。ここに、図5は、エンジンシステム11の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0086】
図5において、エンジンシステム11は、粘度センサ300の代わりに粘度センサ400を備える点において、第1実施形態に係るエンジンシステム10と相違している。ここで、図6を参照し、粘度センサ400の構成について説明する。ここに、図6は、粘度センサ400の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0087】
図6において、粘度センサ400は、左上に正面図、正面図右側に側方図、正面図下側に下方図が表されてなる三方図として示される。以下では主として正面図を参照して説明を続ける。尚、本実施形態に係る正面図は、図中上側にシリンダヘッド213が位置し、図中下側にオイルパン215が位置するように、シリンダブロック201の壁体部を正面視した図である。
【0088】
粘度センサ400は、基台部410、固定部420、トーションバー430、可動部440、歪センサ460を備えた、本発明の第2の粘度検出装置に係る「検出手段」の一例である。
【0089】
基台部410は、粘度センサ410をオイル落下通路214に固定するための格子状の固定手段である。基台部410は、オイル落下通路214(即ち、同時にシリンダブロック201)に機械的に固定されている。
【0090】
固定部420は、基台部410の一格子部位に固定された、本発明に係る「第1の検出部」の一例たる部材である。
【0091】
トーションバー430は、基台部410の一格子部位を構成すると共に、可動部440の物理位置の変化に伴って物理的な歪を生じるように構成された弾性体である。
【0092】
可動部440は、トーションバー430に固定され、固定部420と同等の形状を有する、本発明に係る「第2の検出部」の一例たる部材である。
【0093】
この固定部420と可動部440とは、図示する通り相互に対向配置されており、各々対向方向に相当する面が、本発明に係る「第1の検出面」及び「第2の検出面」の一例となっている。これら対向面によって挟まれた空間は、本発明に係る「間隙」の一例たるトラップエリア450となっている。可動部440は、トーションバー430に固定された状態において、この対向方向に回動可能に構成されている。また、この回動動作により、本発明に係る「対向方向に移動する」一例が実現される構成となっている。可動部440は、本発明に係る「少なくとも一方」の一例である。
【0094】
歪センサ460は、トーションバー430に設置され、トーションバー430に生じた物理的な歪の量を検出することが可能に構成されたセンサである。歪センサ460は、ECU100と電気的に接続されており、検出された歪量は、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0095】
尚、エンジンシステム11においては、ECU100及び粘度センサ400によって、本発明に係る第2の粘度検出装置の一例が実現される。
【0096】
<実施形態の動作>
次に、図7を参照し、粘度センサ400の動作について説明する。ここに、図7は、粘度センサ400の動作を説明する模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、図7において、粘度センサ400は、図6における下方図と対応しており、即ち、オイルパン215からシリンダヘッド213の方向を見た平面図となっている。
【0097】
図7において、粘度センサ400の動作時、オイル落下通路214を自然落下するエンジンオイルのうち、相対的に流路抵抗の大きいトラップエリア450に落下するエンジンオイルは、このトラップエリア450に一時的にトラップされる。図7では、エンジンオイルがトラップエリア450にトラップされた状態が示されている。
【0098】
トラップエリア450にエンジンオイルがトラップされると、固定部420及び可動部440における前述した検出面に夫々当該エンジンオイルの表面張力が作用するが、固定部420は既に述べたように基台部410に固定されており、当該表面張力の影響を受けない構成となっている。一方で、可動部440は、トーションバー430に固定されているため、当該表面張力の影響を受け、図示回動方向に回動する。その結果、可動部440とトーションバー430との固定面に立てられた法線たる軸線は、表面張力が作用していない場合の基準線(図示破線参照)から、図示鎖線の如くに傾斜する。即ち、トーションバー430に物理的な歪が発生する。従って、このトーションバー430に生じる歪の量たるトーションバー歪量は、本発明に係る「移動量に対応する指標値」の一例となる。
【0099】
このトーションバー歪量は、可動部440に作用する表面張力の大きさに影響受け、且つ当該表面張力は、オイル粘度ρにより影響を受ける。ここで、図8を参照し、オイル粘度ρとトーションバー歪量との対応関係について説明する。ここに、図8は、当該対応関係の模式図である。
【0100】
図8において、縦軸及び横軸に夫々オイル粘度ρ及びトーションバー歪量が表される。図示するように、オイル粘度ρは、トーションバー歪量とリニアな関係を有する。即ち、オイル粘度ρ、表面張力及びトーションバー歪量は、夫々相互に比例の関係にある。ECU100には、図8に表された対応関係に相当するマップが格納されている。
【0101】
ECU100は、第1実施形態と同様に粘度検出処理を実行する。ここで、図9を参照し、本発明の第2実施形態に係る粘度検出処理の詳細について説明する。ここに、図9は、粘度検出処理のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0102】
図9において、ECU100は、イグニッションオフ状態であるか否か、即ち、エンジン200が稼動状態から停止状態に制御されたか否かを判別する(ステップS201)。エンジン200が稼動中である場合(ステップS201:NO)、ECU100は実質的に処理を待機状態に制御する。イグニッションオフ状態である場合(ステップS201:YES)、ECU100は更に、イグニッションオフ後の経過時間Tpを取得し、取得した経過時間Tpが閾値Tpthより大きいか否かを判別する(ステップS202)。
【0103】
ここで、図7に戻って補足すれば、エンジン200が稼動中である場合、オイル落下通路214には絶えずエンジンオイルが供給され、オイルパン215に向かって自然落下する。この際、このエンジンオイルの一部はトラップエリア450にトラップされるが、例えば図7における固定部420の左側及び可動部440の右側にもエンジンオイルが付着する可能性がある。その場合、可動部440の可動量に対応するトーションバー歪量は、トラップエリア450にトラップされたエンジンオイル以外のエンジンオイルの影響を受け、必ずしもオイル粘度ρと一義的な関係を有さなくなる可能性がある。一方で、エンジン200が停止すれば、流路抵抗の大きいトラップエリア450にトラップされたエンジンオイル以外は、経時的にオイルパン215に向かって落下し、トラップエリア450にのみ、少なくともトラップエリア450に支配的にエンジンオイルが残留する。従って、トーションバー歪量とオイル粘度ρとの関係が、前述したマップに記憶された関係を保ち得るのである。
【0104】
ここで、図10を参照し、経過時間Tpとトーションバー歪量との対応関係について説明する。ここに、図10は、当該対応関係の模式図である。
【0105】
図10において、経過時間Tpが閾値Tpth未満である場合、トラップエリア450以外に付着したエンジンオイルの影響により、トーションバー歪量は不安定であり、経時的にトラップされたエンジンオイルが支配的となるに連れ、増加の傾向を辿る。経過時間Tpが閾値Tpthに達すると、トーションバー歪量は安定する。閾値Tpthは、このようにトーションバー歪量が十分に安定するものとして、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて設定されている。
【0106】
図9に戻り、経過時間Tpが閾値Tpth以下である場合(ステップS202:NO)、ECU100は処理を一時的に待機状態に制御すると共に、経過時間Tpが閾値Tpthを越えた場合(ステップS202:YES)、ECU100は、歪センサ460を介してトーションバー歪量を取得する(ステップS203)。
【0107】
トーションバー歪量を取得すると、ECU100は、図8で説明した対応関係を表すマップに基づいてオイル粘度ρを取得する(ステップS204)。オイル粘度ρを取得すると、ECU100は、取得したオイル粘度ρを記憶し(ステップS110)、粘度検出処理を終了する。
【0108】
このように、本実施形態に係るエンジンシステム11及び粘度検出処理によれば、固定部420及び可動部440相互間に形成されたトラップエリア450にトラップされたエンジンオイルの表面張力に基づいて、正確にオイル粘度を検出することが可能となる。また、この際、落下通路214を自然落下するエンジンオイルがトラップエリア450にトラップされるように、粘度センサ400を落下通路214に配置すればよく、エンジンオイルをトラップするのに特別な外力を要しない。従って、オイル粘度の検出に要する駆動力は、歪センサ460を駆動するための、少なくとも経済性の悪化を顕在化させない程度に小さな電力のみとなっている。従って、本実施形態は、第1実施形態と同様に経済的であり、経済的に且つ高精度にオイル粘度を検出することが可能となる。
【0109】
尚、本実施形態では、オイル粘度の検出に際し、トラップされたエンジンオイルの表面張力が支配的となるように経過時間Tpが考慮され、検出精度の向上が図られるが、トラップエリア450の流路抵抗が、その周囲に較べて明らかに大きいことに鑑みれば、このように経過時間Tpを必ずしも考慮する必要はない。従って、本実施形態に係る粘度検出処理は、必ずしも上述した如くイグニッションオフ時にのみ実行される必要はなく、エンジン200の稼働時においても実行可能である。或いは、エンジン稼動時の、即ち、トラップエリア450にトラップされた以外のエンジンオイルがトーションバー歪量に影響を及ぼす可能性がある場合について、予め図8に相当する対応関係を取得することによって、これらの影響をキャンセルすることも可能である。一方、経過時間Tpを考慮する本実施形態と同等の効果は、イグニッションオフ時に限らず、例えばエンジン始動直後等、粘度センサ400の周囲にエンジンオイルが存在しないと判断され得る状況における表面張力に基づいてオイル粘度を取得することによっても享受される。
【0110】
尚、本実施形態では、固定部420は基台部410に固定されており、表面張力によって物理位置が変化することはないが、固定部420が、可動部440と同様にトーションバー430等又はそれと同等の弾性体に固定されることにより、可動部440と同様の機能を有していてもよい。この場合、トラップされた表面張力に影響されて物理状態が変化する物体が増えるから、より高精度にオイル粘度を検出することも可能となる。
【0111】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う粘度検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のエンジンシステムに備わる粘度センサの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される粘度検出処理のフローチャートである。
【図4】ポンプ積算駆動時間とオイル粘度との対応関係を表す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図6】図5のエンジンシステムに備わる粘度センサの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図7】図6の粘度センサの動作を説明する模式図である。
【図8】オイル粘度とトーションバー歪量との対応関係を表す模式図である。
【図9】図5のエンジンシステムにおいてECUにより実行される粘度検出処理のフローチャートである。
【図10】イグニッションオフ後の経過時間とトーションバー歪量との対応関係を表す模式図である。
【符号の説明】
【0113】
10…エンジンシステム、11…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、201…シリンダブロック、213…シリンダヘッド、214…オイル落下通路、215…オイルパン、300…粘度センサ、400…粘度センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環手段により所定の循環経路における潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、
前記循環経路に設けられ、前記循環供給がなされる場合に前記潤滑油により物理状態が変化する検出手段と、
前記循環供給が開始されてから前記物理状態が変化するまでの遅延時間に基づいて前記粘度を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする粘度検出装置。
【請求項2】
前記循環経路は、前記循環供給がなされる場合に前記内燃機関の上部から下部へ前記潤滑油を自然落下させる落下通路を含み、
前記検出手段は、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油との接触が生じることにより前記物理状態が変化するように、前記落下通路に設置される
ことを特徴とする請求項1に記載の粘度検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記落下通路において接触が生じた前記自然落下する潤滑油により付勢され回転する回転手段を含み、
前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環供給が開始されてから前記回転手段が回転し始めるまでの時間に基づいて前記粘度を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載の粘度検出装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環手段が作動し始めてから前記物理状態が変化するまでの時間に基づいて前記粘度を推定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の粘度検出装置。
【請求項5】
潤滑油を自然落下させる落下通路を含む循環経路における該潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、
第1の検出面を備えた第1の検出部、及び該第1の検出面と間隙を挟んで対向する第2の検出面を備えた第2の検出部を有し、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油が前記間隙にトラップされるように前記落下通路に設けられると共に、前記第1及び第2の検出部の少なくとも一方の物理状態が前記トラップされた潤滑油の表面張力により変化する検出手段と、
前記少なくとも一方における前記物理状態の変化量を特定する特定手段と、
前記特定された変化量に基づいて前記粘度を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする粘度検出装置。
【請求項6】
前記少なくとも一方は、前記表面張力に応じて前記第1及び第2の検出面の対向方向に移動可能に構成され、
前記特定手段は、前記物理状態の変化量として、前記対向方向への移動量に対応する指標値を特定する
ことを特徴とする請求項5に記載の粘度検出装置。
【請求項7】
前記特定手段は、前記内燃機関が停止された場合、又は前記循環供給が開始された場合に、前記変化量を特定する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の粘度検出装置。
【請求項1】
循環手段により所定の循環経路における潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、
前記循環経路に設けられ、前記循環供給がなされる場合に前記潤滑油により物理状態が変化する検出手段と、
前記循環供給が開始されてから前記物理状態が変化するまでの遅延時間に基づいて前記粘度を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする粘度検出装置。
【請求項2】
前記循環経路は、前記循環供給がなされる場合に前記内燃機関の上部から下部へ前記潤滑油を自然落下させる落下通路を含み、
前記検出手段は、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油との接触が生じることにより前記物理状態が変化するように、前記落下通路に設置される
ことを特徴とする請求項1に記載の粘度検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記落下通路において接触が生じた前記自然落下する潤滑油により付勢され回転する回転手段を含み、
前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環供給が開始されてから前記回転手段が回転し始めるまでの時間に基づいて前記粘度を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載の粘度検出装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記遅延時間として、前記循環手段が作動し始めてから前記物理状態が変化するまでの時間に基づいて前記粘度を推定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の粘度検出装置。
【請求項5】
潤滑油を自然落下させる落下通路を含む循環経路における該潤滑油の循環供給がなされる内燃機関において、該潤滑油の粘度を検出する粘度検出装置であって、
第1の検出面を備えた第1の検出部、及び該第1の検出面と間隙を挟んで対向する第2の検出面を備えた第2の検出部を有し、前記循環供給がなされる場合に前記自然落下する潤滑油が前記間隙にトラップされるように前記落下通路に設けられると共に、前記第1及び第2の検出部の少なくとも一方の物理状態が前記トラップされた潤滑油の表面張力により変化する検出手段と、
前記少なくとも一方における前記物理状態の変化量を特定する特定手段と、
前記特定された変化量に基づいて前記粘度を推定する推定手段と
を具備することを特徴とする粘度検出装置。
【請求項6】
前記少なくとも一方は、前記表面張力に応じて前記第1及び第2の検出面の対向方向に移動可能に構成され、
前記特定手段は、前記物理状態の変化量として、前記対向方向への移動量に対応する指標値を特定する
ことを特徴とする請求項5に記載の粘度検出装置。
【請求項7】
前記特定手段は、前記内燃機関が停止された場合、又は前記循環供給が開始された場合に、前記変化量を特定する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の粘度検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−267866(P2008−267866A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108270(P2007−108270)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
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