説明

粘度計

【課題】粘性応力を受ける面積を拡大した上で、誤差要因となる部分の面積の比率を低減し、なおかつコンパクトであることが必要とされる場合に、有効な粘度計の運動体を提供する。
【解決手段】液体からの粘性応力を受ける構造体が二重渦巻き構造を有する粘度計であって、二重渦巻き構造の一方は固定され、二重渦巻き構造の他方は渦巻きの中心軸に平行な方向に可動とし、前記二重渦巻き構造の他方を、アクチュエータにより渦巻きの中心軸に平行な方向に移動させることにより、二重渦巻き構造の一方と他方の二つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力を受けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度計の運動体に関するもので、特に、粘性応力を受ける面積を拡大した上で、誤差要因となる部分の面積の比率を低減することが必要で、なおかつコンパクトであることが必要とされる場合に、有効な運動体を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動式粘度計は、液体中で物体を振動させ、その振動の振幅や位相などが、粘性応力によって変化することを利用して、粘度と液体密度の積、あるいは粘度を測定する装置であることが知られている。振動体の形状としては、平板を面に平行な方向に振動させるもの、円柱を軸周りに回転振動させるもの、カンチレバー状の平板を面に垂直な方向に振動させるものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−318040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術のうち、振動体の形状が平板で面に平行な方向に振動させるタイプは、平板に厚みがあるため、平板の端部が液体を押しのけるような働きをしてしまい、振動体の共振周波数を変化させる効果や、擬似的に平板の面積を拡大する効果や、擬似的に振動体のばね定数を変化させる効果などの、定式化しがたい誤差要因が発生していた。
また、円柱を軸周りに回転振動させるタイプは、円筒の側面が粘性応力を受ける面積となるが、円柱の端部も粘性応力を受けるため、誤差要因を発生させていた。
カンチレバー状の平板を面に垂直な方向に振動させるタイプは、平板の面全体が液体を押してしまい、粘性応力を受ける面積が、液体の粘度、振動の速度、振幅、液体の密度、弾性率などに依存してしまうため、複雑で普及の実現性は低かった。
本発明は、振動式粘度計における上記の問題点を解決し、端部効果が少なく、高精度な振動式粘度計を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
振動体の形状が平板で、面に平行な方向に振動させるタイプの、端部効果を低減するには、平板の厚みを極端に薄くするか、平板の面積を大きくして相対的に厚みの効果を少なくすればよい。構造体としての強度や、耐久性を考慮すると、ある程度の平板の厚みは必要であるため、端部の効果をより小さくするには、平板の面積を増やす必要がある。しかし、平板を大きくすると、測定装置が大型化し、取り扱いや、コスト面で条件が悪くなってしまう。
そこで、本発明の提供する解決策は、平面を、振動に直角な方向に緩やかに曲げ、そのまま渦巻きを形成し、更に、この渦巻きとわずかなギャップを介してもう一つの渦巻きを設置して、二重渦巻き構造とすることで、2つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力を受ける構造とすることにより、上記課題を解決するものである。
【0006】
すなわち、本発明の粘度計は、液体からの粘性応力を受ける構造体が二重渦巻き構造を有する粘度計であって、二重渦巻き構造の一方は固定され、二重渦巻き構造の他方は渦巻きの中心軸に平行な方向に可動とし、前記二重渦巻き構造の他方を、アクチュエータにより渦巻きの中心軸に平行な方向に移動させることにより、二重渦巻き構造の一方と他方の二つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力を受けるようにしたことを特徴とする。
また、本発明は、上記粘度計において、アクチュエータによる移動は、渦巻きの中心軸に平行な方向に振動させてなることを特徴とする。
また、本発明は、上記粘度計において、二重渦巻き構造は、MEMS加工技術やワイヤー放電加工技術を用いて作製された二重渦巻き構造からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粘度計は、コンパクトで、端部効果の少ない粘度計測定を実現する。そのため、粘度測定を必要とする産業の多くで、検査業務の低コスト、測定室の省スペース化などが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の粘度計の主要部分である二重渦巻き構造を説明した図である。
【図2】本発明の粘度計の一実施例の全体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記の二重渦巻きの構造を、粘度計として用いるため、本発明の粘度計は、一方の渦巻きを振動させるためのアクチュエータと、渦巻きにかかる粘性応力を測定するための力センサと、変位を検出するための変位計と、渦巻きとアクチュエータと変位センサを保持するための支持体と、試料を入れるための容器と、振動を解析して粘度を算出するための制御装置を備えることを特徴とする。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明を実施した場合の、粘度計の主要部分である二重渦巻き構造の一例を示した説明図である。二重渦巻き構造は、図1中に示したAおよびBの要素に分けられる。AおよびBは数μm〜数百μmのギャップを介して、分離されている。この二重渦巻き構造の全体が液体中に没し、一方が振動することで、相対的な速度差が生まれ、粘性応力が発生する。振動方向は、図1の場合、紙面に対して垂直方向である。
このような二重渦巻き構造を製作する方法としては、切削加工、ワイヤー放電加工、MEMS加工技術などがある。
【0011】
図2は本発明を実施した場合の、粘度計の模式図である。制御装置や電源等は省略されている。二重渦巻き構造は、一方が懸垂用の構造体を介して固定され、他方が懸垂用の構造体を介してアクチュエータに結合されている。
アクチュエータを構成するものとしては、圧電素子や、ボイスコイルモータなどがある。
アクチュエータに結合された渦巻き構造の変位の大きさを測るための変位センサが取り付けられている。変位センサを構成するものとしては、レーザー変位計や、静電容量変位計や、渦電流変位計や、ひずみゲージ等がある。
固定された渦巻き構造を懸垂する構造には、2つの渦巻きの位置関係を調整するためのマイクロメータ等が設置されている。
【0012】
上記の装置を用いた液体の粘度の測定は、次のような手順で行う。
(1)二重渦巻き構造を液体中に浸ける。
(2)アクチュエータを、ドライバー等を用いて駆動し、正弦波状の振動を与える。
(3)渦巻き構造の振動の振幅と位相を、変位計を用いて測定する。
(4)アクチュエータで発生させた力の振幅、位相と、渦巻き構造の振幅、位相の比をとる。
(5)上記(2)〜(4)を様々な周波数で行い、振幅−周波数、あるいは位相−周波数の関係を調べる。
(6)振幅−周波数、あるいは位相−周波数の関係を理論と比較し、カーブフィットすることで粘度を求める。
【0013】
上記2重渦巻き構造を、MEMS加工技術を用いて微細加工により作製すれば、さらに小型軽量な粘度計を得ることができる。
また、上記実施例では、アクチュエータにより振動を与える場合について説明したが、並進移動を与える方式にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、粘度計の小型化に寄与することができ、卓上型の小型粘度計として利用可能である。また、小型化を更に進めれば、MEMS加工技術で構造を作製することも可能で、その場合は、小型、軽量な粘性センサとして利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体からの粘性応力を受ける構造体が二重渦巻き構造を有する粘度計であって、
二重渦巻き構造の一方は固定され、二重渦巻き構造の他方は渦巻きの中心軸に平行な方向に可動とし、
前記二重渦巻き構造の他方を、アクチュエータにより渦巻きの中心軸に平行な方向に移動させることにより、二重渦巻き構造の一方と他方の二つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力を受けるようにしたことを特徴とする二重渦巻き構造を有する粘度計。
【請求項2】
前記アクチュエータによる移動は、渦巻きの中心軸に平行な方向に振動させてなることを特徴とする請求項1記載の二重渦巻き構造を有する粘度計。
【請求項3】
前記二重渦巻き構造は、MEMS加工技術を用いて作製された二重渦巻き構造からなることを特徴とする請求項1または2記載の二重渦巻き構造を有する粘度計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−137351(P2012−137351A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289213(P2010−289213)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 日本機械学会第2回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集 発行者名 社団法人日本機械学会 発行年月日 平成22年10月12日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)