説明

粘度調整剤および潤滑油組成物

【課題】粘度指数向上効果および増粘効果に優れ、かつ低温での流動性に優れる粘度調整剤、および該性能を有する潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】オレフィン系重合体を、有機過化物および/または酸素の存在下に熱処理することによって得られる変性オレフィン系重合体を含む粘度調整剤、および該粘度調整剤の含有量が0.1〜10重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.9〜90重量%である潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物全体を100重量%とする)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度調整剤および該粘度調整剤を含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油等の用途に用いられる石油製品には、使用環境による温度変化に伴う粘度変化の抑制(粘度指数の向上)や、使用目的に応じた粘度の付与(増粘効果)、低温流動性の特性を与える目的で粘度調整剤や粘度指数向上剤と呼ばれる添加剤が配合される。近年では、従来のポリメタクリレ−トやポリイソブチレンに代わって、潤滑油の要求特性に優れるオレフィン共重合体が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、極性モノマ−およびオレフィン性モノマ−に由来する炭化水素コポリマ−を用いた粘度調整剤が記載されている。特許文献2には、粘度指数およびせん断安定性に優れる非晶性エチレン−プロピレン共重合体である粘度指数向上剤が記載されている。また、特許文献3には、エチレン、C〜C10α−オレフィン等より合成されたポリマ−にアシル化剤をグラフトして得られる粘度指数向上剤が記載されている。
【特許文献1】特表2000−514864号公報(平成12年11月7日公開)
【特許文献2】特公昭48−27883号公報(昭和48年8月27日公開)
【特許文献3】特開平5−112791号公報(平成5年5月7日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘度指数向上剤が、流動点降下作用を有していれば、粘度指数向上剤兼流動点降下剤として用い得るため好ましい。特に、オレフィン共重合体を用いた粘度指数向上剤が、流動点降下作用を有していれば、粘度指数向上と流動点降下という両特性に優れた粘度調整剤を提供することができる。しかしながら、上述したような従来のオレフィン共重合体を用いた粘度指数向上剤は、何れも十分な流動点降下作用を有しておらず、これまで、オレフィン共重合体を用いた実用的な粘度調整剤は存在していなかった。
【0005】
本発明の主たる目的は、粘度指数向上効果および増粘効果に優れ、かつ低温での流動性に優れる粘度調整剤、および該性能を有する潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、オレフィン系重合体を、有機過酸化物および/または酸素の存在下に熱処理することによって得られる変性オレフィン系重合体を含む粘度調整剤、および該粘度調整剤の含有量が0.1〜10重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.9〜90重量%である潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物全体を100重量%とする)である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘度指数向上効果および増粘効果に優れ、かつ低温での流動性に優れる粘度調整剤、および該性能を有する潤滑油組成物が提供される。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の粘度調整剤は、以下に述べる変性オレフィン系重合体を含む。
【0010】
本発明の粘度調整剤に用いられるオレフィン系重合体としては、エチレンおよび炭素数3〜20のα−オレフィン単量体から選択された任意の1種の単量体を重合して得られる単独重合体、または2種以上の単量体を共重合して得られる共重合体が挙げられる。前記α−オレフィン単量体は、分岐を有していてもよく、分岐がなくてもよい。また、オレフィン系重合体として、2種類以上を併用してもよい。
【0011】
本発明における炭素原子数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ペプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセンの直鎖状α−オレフィンや8−メチル−1−ノネン、7−メチル−1−デセン、6−メチル−1−ウンデセン、6,8−ジメチル−1−デセンなどの分岐状α−オレフィンが挙げられる。これらのうちで好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテンであり、特に好ましくはプロピレン、1−ブテンである。
【0012】
上記オレフィン系重合体は、エチレンおよび上記炭素原子数3〜20のα−オレフィンの他に、例えば、環状オレフィン、直鎖状または分岐状のポリエン、芳香族オレフィン、アクリル基やアミノ基などの極性基を有するオレフィンを本発明の目的を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0013】
オレフィン系重合体の炭素原子数3〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量は50〜100モル%であり、好ましくは70〜100モル%であり、より好ましくは80〜100モル%である。
【0014】
炭素原子数3〜20のα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量が少ないと、潤滑油基材への溶解性が十分でない場合がある。
【0015】
オレフィン系重合体のエチレンに由来する単量体単位の含有量は0〜30モル%であり、好ましくは0〜20%であり、より好ましくは0〜18モル%である。
【0016】
エチレンに由来する単量体単位の含有量が多いと、本発明の粘度調整剤の潤滑油基材への溶解性が十分でないか、または、溶解できても潤滑油組成物がゲル化する場合がある。
【0017】
本発明におけるオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独共重合体、1−ブテン単独共重合体、1−ペンテン単独共重合体、1−ヘキセン単独共重合体、1−ヘプテン単独共重合体などのオレフィン単独重合体やエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ヘプテン共重合体プロピレン−オクテン共重合体、プロピレン−1−ノネン共重合体、プロピレン−1−デセン共重合体、プロピレン−1−ウンデセン共重合体、プロピレン−ドデセン共重合体、プロピレン−1−トリデセン共重合体、プロピレン−1−テトラデセン共重合体、プロピレン−1−ペンタデセン共重合体、プロピレン−1−ヘキサデセン共重合体、プロピレン−1−ヘプタデセン共重合体、プロピレン−1−オクタデセン共重合体、プロピレン−1−ノナデセン共重合体、プロピレン−1−エイコセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ぺンテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘプテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ノネン共重合体、プロピレン−エチレン−1−デセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ウンデンセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ドデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−トリデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−テトラデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ペンタデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキサデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘプタデセン共重合体、プロピレン−エチレン−7−オクタデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ノナデセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−エイコセン共重合体、プロピレン−エチレン−8−メチル−1−ノネン共重合体、プロピレン−エチレン−7−メチル−1−デセン共重合体、プロピレン−エチレン−6−メチル−1−ウンデセン共重合体、プロピレン−エチレン−6、8−ジメチル−1−デセン共重合体、エチレン−スチレン共重合体、エチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体、プロピレン−ビニルシクロへキサン共重合体、エチレン−プロピレン−ビニルシクロへキサン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン−ビニルシクロへキサン共重合体、プロピレン−1−ブテン−ビニルシクロヘキサン共重合体が挙げられる。
【0018】
好ましくはプロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−へキセン共重合体、プロピレン−1−ヘプテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ペンテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘプテン共重合体、であり、特に好ましくはプロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体である。
【0019】
オレフィン系重合体のゲルバ−ミエ−ションクロマトグラフィ−(GPC)によって測定される重量平均分子量(Mw)は好ましくは10万〜100万であり、より好ましくは20万〜80万、さらに好ましくは30万〜60万である。重量平均分子量(Mw)が小さいと、変性オレフィン系重合体を潤滑油基材に添加したときの増粘効果や粘度指数の改良効果が十分でない場合がある。一方、重量平均分子量(Mw)が大きいと、剪断安定性が十分でない場合がある。
【0020】
また分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは1〜4であり、より好ましくは1.5〜3であり、さらに好ましくは1.8〜2.5である。分子量分布(Mw/Mn)が大きいと、同じ重量平均分子量(Mw)であっても剪断安定性が低下する場合がある。
【0021】
本発明に用いられるオレフィン系重合体のJIS K 7122に従う示差走査熱量測定における−50℃〜200℃の範囲に観測される結晶融解熱量は、潤滑油基材に流動点降下剤と併用した場合、流動点降下剤の効果を阻害しにくいという観点から30J/g以下であることが好ましく、より好ましくは10J/g以下であり、特に好ましくは1J/g以下である。
【0022】
上記結晶融解熱量が30J/gを超えると、潤滑油基材等に添加した場合、変性オレフィン系重合体が結晶化することによって潤滑油組成物の低温特性、特に流動点の改良効果が十分でないことがある。
【0023】
本発明で用いられるオレフィン系重合体の重合方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。これらの中でも好ましくは、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体などの錯体系触媒を用いた、スラリ−重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等であり、該錯体系触媒としては、たとえば特開昭58−19309号公報、特開昭60−35005号公報、特開昭60−35006号公報、特開昭60−35007号公報、特開昭60−35008号公報、特開昭61−130314号公報、特開平3−163088号公報、特開平4−268307号公報、特開平9−12790号公報、特開平9−87313号公報、特開平10−508055号公報、特開平11−80233号公報、特表平10−508055号公報などに記載のメタロセン系触媒;特開平10−316710号公報、特開平11−100394号公報、特開平11−80228号公報、特開平11−80227号公報、特表平10−513489号公報、特開平10−338706号公報、特開表11−71420号公報などに記載の非メタロセン系の錯体触媒を例示することができる。これらの中でも、入手容易性の観点から、メタロセン触媒が好ましく、その中でも好適なメタロセン触媒の例としては、シクロペンタジエン形アニオン骨格を少なくとも1個有し、C1対称構造を有する周期表第3族〜第12族の遷移金属錯体が好ましい。また、メタロセン触媒を用いた製造方法の特に好ましい例として、欧州特許出願公開第1211287号明細書の方法を例示することができる。
【0024】
本発明に用いられる変性オレフィン系重合体は、上記に例示された重合方法で得られるオレフィン系重合体を有機過酸化物および/または酸素の存在下に熱処理することによって得ることができる。
【0025】
本発明で用いられる有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパ−オキサイド化合物、ジアルキルパ−オキサイド化合物、パ−オキシケタ−ル化合物、アルキルパ−エステル化合物、パ−カボネ−ト化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ジセシルパ−オキシジカルボネ−ト、ジ−3−メトキシブチルパ−オキシジカルボネ−ト、ジ−2−エチルヘキシルパ−オキシジカルボネ−ト、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカルボネ−ト、ジイソプロピルパ−オキシジカルボネ−ト、t−ブチルパ−オキシイソプロピルカ−ボネ−ト、ジミリスチルパ−オキシカルボネ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエ−ト、α−クミルパ−オキシネオデカノエ−ト、t−ブチルパ−オキシネオデカノエ−ト、1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパ−オキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパ−オキシイソプロピルモノカ−ボネ−ト、t−ブチルパ−オキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエ−ト、t−ブチルパ−オキシラウレ−ト、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパ−オキシ)ヘキサン、t−ブチルパ−オキシアセテ−ト、2,2−ビス(t−ブチルパ−オキシ)ブテン、t−ブチルパ−オキシベンゾエ−ト、n−ブチル−4,4−ビス(t−ペルオキシ)パレラ−ト、ジ−t−ブチルペルオキシイソフタレ−ト、ジクミルパ−オキサイド、α−α‘−ビス(t−ブチルパ−オキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパ−オキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパ−オキシイソプロピルベンゼン)、t−ブチルジクミルパ−オキサイド、ジ−t−ブチルパ−オキサイド、p−メンタンハイドロパ−オキサイド、2,5−ジメチル2,5−(t−ブチルパ−オキシ)ヘキシン3などが挙げられる。これらの有機過酸化物で好ましくは、ジアルキルパ−オキサイド化合物、ジアシルパ−オキサイド化合物、ジアシルパ−オキサイド、パ−カボネ−ト化合物、アルキルパ−エステル化合物である。
【0026】
有機過酸化物の使用量は、通常、オレフィン系重合体100重量部に対して、0.01重量部〜20重量部であり、好ましくは、0.05重量部〜20重量部である。有機過酸化物を増量するほど、変性の効果が得られやすい。
【0027】
上記熱処理の方法としては、例えば、混練または押出によって、オレフィン系重合体を熱処理する方法を挙げられる。混練または押出に用いる設備としては、例えば、バンバリ−ミキサ−、プラストミル、ブラベンダ−プラストグラフなどの混練機、一軸または二軸の押出機等、従来公知の混練または押出手段が挙げられる。
【0028】
上記熱処理に要する温度は、通常50から300℃であるが、好ましくは80〜280℃である。熱処理時の樹脂の滞留時間は、通常0.1〜2時間である。熱処理の温度を上昇、時間を増大するほど、得られる変性オレフィン系重合体の重量平均分量(Mw)を小さくし、また、変性の効果が得られやすい。
【0029】
上記熱処理の際に、本発明の目的を妨げない程度に他の添加物を用いてもよい。添加物剤としては。滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤を挙げることができる。その他、変性の効果を向上させる目的で、カルボン酸基、カルボン酸誘導体、たとえば、塩やエステル、酸アミド、酸無水物、イミド、酸アジド、酸ハロゲン化物、あるいはオキサゾリン、ニトリルなどの官能基、エポキシ基、アミノ基、水酸基を有する化合物を添加することができる。上記官能基を有する化合物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマ−ル酸、マレイミド、マレイン酸ヒドラジド、マレイン酸アミド、イタコン酸、無水イタコン酸、天然油脂類、アクリル酸、ブテン酸、ビニル酢酸、メタクリル酸、ペンテン酸などのカルボン酸、あるいはこれらカルボン酸のエステル、酸アミド、無水物、あるいはアリルアルコ−ル、メチルビニルカルビノ−ル、アリルカルビノ−ルなどのアルコ−ル、あるいはこのようなアルコ−ルのOH基が、−NH基に置き換わったアミンなどを挙げることができる。
【0030】
本発明に用いられる変性オレフィン系重合体の赤外吸光測定による吸光度比S/Tは通常0.3以上であり、好ましくは0.4以上である。
【0031】
吸光度比S/Tが小さいと、潤滑油基材の種類や他の炭化物との組み合わせ等により流動点の降下が十分でない場合がある。
【0032】
本発明の粘度調整剤は、変性オレフィン系重合体の他に、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。他の成分としては潤滑油組成物等に一般的に用いられる添加物であり、例えば、酸化防止剤、摩耗防止剤、清浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0033】
酸化防止剤としては、例えば、アミン化合物、フェノ−ル化合物、リン化合物または硫黄化合物が挙げられる。
【0034】
摩耗防止剤としては、例えば、モリブデン化合物、ホウ素化合物、長鎖脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコ−ル、アルキルアミン、有機硫黄、リン化合物、有機ハロゲン化合物が挙げられる。
【0035】
清浄分散剤としては、例えば、有機金属化合物(アルキルスルホネ−ト、金属フェネ−ト、金属フォスファネ−ト等)、コハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミンが挙げられる。
【0036】
流動点降下剤としては、例えば、アルキルメタクリレ−ト(共)重合体、アルキルアクリレ−ト(共)重合体、アルキルナフテン縮合物、フマル酸エステル酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0037】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリイソブチレン、水素化スチレン−ジエン、オレフィンコポリマ−などのポリオレフィンやアルキルメタクリ−ト(共)重合体、アルキルアクリレ−ト(共)重合体が挙げられる。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の粘度調整剤および潤滑油基材を含有する組成物である。
【0039】
本発明で用いられる潤滑油基材は、用途などに応じて鉱物油、合成油から適宜選択すればよい。鉱物油としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、中間基系などが挙げられ、一般に脱ワックス等の精製工程を経て用いられる。具体的には軽質ニュ−トラル油、中質ニュ−トラル油、重質ニュ−トラル油、ブライトストックなどが挙げられる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマ−、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオ−ルエステル、ポリアルキレングリコ−ル、シリコ−ンオイルなどが挙げられる。これらの潤滑油基材は、それぞれ単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱物油と合成油とのブレンドが好ましく用いられる。
【0040】
本発明で用いられる潤滑油基材としては、本発明の粘度調整剤を添加することによって、より低い流動点を得られるという観点から好ましくは、パラフィンワックス成分が10%以下であり、100℃における動粘度が6cSt以上である潤滑油基材である。潤滑油中のパラフィンワックス成分はガスクロマトグラフィ−によって線状に検出されるパラフィン成分とその他の部分の面積比によって規定する。
【0041】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の粘度調整剤の含有量が0.1〜10重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.9〜90重量%である組成物である(ただし、潤滑油組成物全体を100重量%とする)。好ましくは、粘度調整剤の含有量が0.3〜5重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.7〜95重量%であり、より好ましくは、粘度調整剤の含有量が0.3〜2重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.7〜98重量%である。粘度調整剤の含有量が0.1重量%未満であると、粘度調整剤を添加したことによる増粘効果が十分でない場合があり、10重量%を超えると、潤滑油組成物の剪断安定性が低下する場合がある。
【0042】
本発明の粘度調整剤または該粘度調整剤を含有する潤滑油組成物は、例えば、エンジン油、工業用作動油、真空ポンプ油、軸受油等の種々用途に用いることができる。
【0043】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
1.重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)
重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、単分散ポリスチレンを標準試料としてゲルパ−ミエ−ションクロマトグラフィ−(GPC)によって測定した。測定装置としてはWaters社製150C/GPCを用い、溶出温度を140℃とし、使用カラムとしては昭和電工社製Sodex Packed ColumnA−80M(2本)、分子量標準物質としてはポリスチレン(東ソ−社製、分子量68−8,400,000)を用いた。得られたポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から、これらの比(Mw/Mn)を分子量分布として求めた。測定サンプルは約5mgの重合体を5mlのo−ジクロロベンゼンに溶解し、約1mg/mlの濃度とした。得られたサンプル溶液の400μlをインジェクションした。溶出溶媒流速は1.0ml/分とし、屈折率検出器にて検出した。
【0045】
2.吸光度比S/T
変性オレフィン系重合体の吸光度比S/Tは赤外吸光測定によって測定した。ペレット形状の試料は混練、プレスにより1mm厚のシ−トとし、ベ−ル形状の試料は適当なサイズに切り出して用いた。試料は測定前に100℃真空雰囲気下に8時間程度置き、水分の影響を排除した。また、測定においても試料室に窒素を流入し、窒素雰囲気下で行った。
【0046】
測定装置としては日本分光株式会社製FT/IR−6200を用い、全反射法で測定を行った。プリズムにダイヤモンド、1回反射、64回積算とした。4cm−1おきに600〜4000cm−1の範囲で測定を行った。
【0047】
1770cm−1付近の極小値を基準として1655cm−1付近のカルボニルに由来するピ−ク強度を算出し、この値を吸光度Sとした。1062cm−1付近の極小値を基準として1155cm−1付近の非晶性オレフィン系重合体の主鎖骨格に由来するピ−ク強度を算出し、この値を吸光度Tとした。これらの値を用いて吸光度S/Tを算出した。
【0048】
3.結晶融解熱量
結晶融解熱量は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。この結晶融解熱量については、示差走査熱量計、例えばセイコ−電子工業社製DSC220Cを用い、以下の条件にて実施することにより得られた。試料約10mgを室温から30℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持した。次いで、200℃から10℃/分の降温速度で−100℃まで降温し、降温完了後5分間保持した。次いで、−100℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、その際に観察されるピ−ク面積から結晶融解熱量を求めた。
【0049】
4.エチレンおよびα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量(単位:モル%)
オレフィン系重合体のエチレンおよびα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、核磁気共鳴装置(Bruker社製 商品名AC−250)を用いて、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果に基づき算出した。具体的には、13C NMRスペクトルのプロピレン由来メチル炭素スペクトル強度と1−ブテン由来メチル炭素スペクトル強度の比からプロピレンと1−ブテンの組成比を算出し、次に、1HNMRスペクトルのメチン+メチレン由来水素スペクトル強度とメチル由来水素スペクトル強度の比からエチレン、プロピレンおよび1−ブテンの組成比を算出した。
【0050】
5.密度
JIS T 7112に従い、アニ−ル処理有りで測定した。
【0051】
6.パラフィンワックス成分含有量
潤滑油基材のパラフィンワックス成分含有量は、ガスクロマトグラフィ−(GC)によって測定した。測定装置としてはヒュ−レット・パッカ−ド社製ガスクロマトグラフィ−HP5890Aを用い、使用カラムとしてはアジレント社製キャピラリ−カラムDB−1とした。注入口温度と検出器温度を310℃とし、カラム分析温度条件としては160℃
で1分保持した後、15℃/分で昇温、310℃で24分保持した。測定サンプルは約0.5gの潤滑油基材を20mlのTHFに溶解した。得られたサンプル溶液の1μlを注入した。キャリアガスにはHeを用いた。
【0052】
得られたスペクトルにおいてパラフィンワックス成分が線状に検出され、その他の成分がブロ−ドに検出されることが知られている。これらの面積比を算出し、パラフィンワックス成分に由来する部分の面積の割合を潤滑油基材のパラフィンワックス成分含有量とした。
【0053】
7.増粘力(単位:cSt=(mm2/s))、粘度指数
ブルックフィ−ルド社製粘度計DV−IIIを用いて40℃および100℃における動粘度を測定した。当測定法は回転粘度計であるが、測定値(単位:cP)を試料の密度で序した値(単位:cSt)が毛細管式粘度計を用いたJIS K 2283で測定した値と一致することが分かっている。
【0054】
動粘度の測定結果を用いて、増粘力と粘度指数を算出した。増粘力はオレフィン系重合体もしくは変性オレフィン系重合体を潤滑油基材に添加することによる増粘効果を数値化したものであり、100℃における、潤滑油基材の粘度と、潤滑油基材にオレフィン系重合体を添加した潤滑油組成物の粘度の差(単位:cSt)で示す。
【0055】
粘度指数はJIS K 2283に準拠して上記測定で得られた動粘度の値から算出した。粘度指数が高いほど、潤滑油組成物の粘度の温度依存性が小さく、優れていることを示す。
【0056】
8.流動点(単位:℃)
JIS K 2269に規定する石油製品の流動点試験方法に従い、恒温恒湿機中で降温過程において−2.5℃おきに潤滑油試料の入った容器を傾けて、容器を横にしても5秒間全く動かなくなったときの温度より2.5℃高い温度を流動点とした。流動性の確認は温度調整後、約1時間安定させた後に行なった。流動点が低いほど、低温でも固化しにくい。
【0057】
[実施例1]
(重合)
攪拌機を備えた100LのSUS製重合器中で、プロピレンと1−ブテンとを、分子量調整として水素を用い、以下の方法で連続的に共重合させて、本発明のオレフィン系重合体に相当するプロピレン−1−ブテン共重合体を得た。
【0058】
重合器の下部から、重合溶媒としてのヘキサンを100L/時間の供給速度で、プロピレンを24.00kg/時間の供給速度で、1−ブテンを1.81kg/時間の供給速度で、それぞれ連続的に供給した。
【0059】
重合器の上部から、重合器中の反応混合物が100Lの量を保持するように、反応混合物を連続的に抜き出した。
【0060】
重合器の下部から、重合触媒の成分として、ジメチルシリレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライドを0.005g/時間の供給速度で、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−トを0.298g/時間の供給速度で、トリイソブチルアルミニウムを2.315g/時間の供給速度で、それぞれ連続的に供給した。
【0061】
共重合反応は、重合器の外部に取り付けられたジャケットに冷却水を循環させることによって、45℃で行った。
【0062】
重合器の上部から連続的に抜き出された反応混合物に少量のエタノ−ルを添加して重合反応を停止させた後、脱モノマ−及び水洗浄をし、次いで、大量の水中でスチ−ムによって溶媒を除去することによって、プロピレン−1−ブテン共重合体を得、これを80℃で1昼夜減圧乾燥した。
【0063】
(熱処理)
窒素30cm/分で吹き付けたロ−タ−回転数20rpm、ジャケット温度220℃のブラベンダ−プラスチコ−ダ−製バッチ式混練機に上記で得られたプロピレン−1−ブテン共重合体60gを投入し、溶融させた後、上記プロピレン−1−ブテン共重合体100重量部に対し、有機過酸化物である日本樹脂製α,α’−ジ(t−ブチルパ−オキシ)ジイソプロピルベンゼン0.25重量部を3分以内に混練機内に投入した。原料投入後、ロ−タ−回転数100rpmで4分間溶融混練し、変性プロピレン−1−ブテン共重合体としてポリマ−1を得た。得られたポリマ−1の性状を表1に示す。
【0064】
(潤滑油基材への添加)
日東高圧製オ−トクレ−ブ(商品:QUICK・B)に、潤滑油基材として中東産オイル(パラフィンワックス成分含量=6%、100℃の動粘度=11.5cSt、流動点=−7.5℃)を98重量%、粘度調整剤としてポリマ−1を2重量%となるように投入し常圧窒素流気下、150℃で加熱しながら2時間攪拌した。得られた混合物を、同一の潤滑油基材を用いて表2に示される濃度に希釈して潤滑油基材/粘度調整剤=98.9/1.1(重量%)の潤滑油組成物を得た。潤滑油組成物の評価結果を表2に示す。
【0065】
[実施例2]
(重合)
ポリマ−1と同様にプロピレンと1−ブテンを共重合し、プロピレン−1−ブテン共重体を得た。
【0066】
(熱処理)
有機過酸化物である日本油脂製α,α’−(t−プチルパ−オキシ)ジイソプロピルベンゼンの添加量を1重量部とした以外は実施例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0067】
得られたポリマ−2の性状を表2に示す。
【0068】
(潤滑油基材への添加)
潤滑油基材と粘度調整剤の割合を表2に示す割合に変更し、粘度調整剤をポリマ−1からポリマ−2に変更した以外は、実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の評価結果を表2に示す。
【0069】
[実施例3]
(重合)
攪拌機を備えた100LのSUS製重合器中で、エチレンとプロピレンと1−ブテンとを、分子量調節として水素を用い、以下の方法で連続的に共重合させて、本発明のオレフィン共重合体に相当するプロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体を得た。
【0070】
重合器の下部から、重合溶媒としてのヘキサンを124L/時間の供給速度で、エチレンを1.60kg/時間の供給速度で、プロピレンを24.00kg/時間の供給速度で、1−ブテンを1.81kg/時間の供給速度で、それぞれ連続的に供給した。
【0071】
重合器の上部から、重合器中の反応混合物が100Lの量を保持するように、反応混合物を連続的に抜き出した。
【0072】
重合器の下部から、重合触媒の成分として、ジメチルシリレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライドを0.005g/時間の供給速度で、トリフェニルメチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレ−トを0.235g/時間の供給速度で、トリイソブチルアルミニウムを2.315g/時間の供給速度で、それぞれ連続的に供給した。
【0073】
共重合反応は、重合器の外部に取り付けられたジャケットに冷却水を循環させることによって、45℃で行った。
【0074】
重合器の上部から連続的に抜き出された反応混合物に少量のエタノ−ルを添加して重合反応を停止させた後、脱モノマ−及び水洗浄をし、次いで、大量の水中でスチ−ムによって溶媒を除去することによって、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体を得、これを80℃で1昼夜減圧乾燥した。
【0075】
(熱処理)
オレフィン系重合体に上記で得られたプロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体を用いた以外は実施例2と同様の方法で熱処理を行った。得られたポリマ−3の性状を表1に示す。
【0076】
(潤滑油基材への添加)
潤滑油基材と粘度調整剤の割合を表2に示す割合に変更し、粘度調整剤をポリマ−1からポリマ−3に変更した以外は、実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の評価結果を表2に示す。
【0077】
〔比較例1〕
潤滑油基材に対し、オレフィン系重合体を添加せずに用いた。潤滑油基材の評価結果を表3に示す。
【0078】
この場合は、実施例1〜3と比較して、オレフィン系重合体を添加していないため増粘効果が得られず、また粘度指数が92と低く、さらに流動点が−7.5℃と高くなっていた。
【0079】
〔比較例2〕
(重合)
ポリマ−1と同様にプロピレンと1−ブテン共重合体とを共重合し、プロピレン−1−ブテン共重合体を得た。
【0080】
得られたプロピレン−1−ブテン共重合体であるポリマ−4に性状を表1に示す。
【0081】
(熱処理)
熱処理は行わずにそのまま潤滑油基材へ添加した。
【0082】
(潤滑油基材への添加)
潤滑油基材と粘度調剤の割合を表2に示す割合に変更し、粘度調整剤をポリマ−1からポリマ−4に変更した以外は、実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の評価結果を表3に示す。
【0083】
この場合は、実施例1〜3と比較して、増粘効果が得られるが、流動点の改良効果が認められなかった。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体を、有機過酸化物および/または酸素の存在下に熱処理することによって得られる変性オレフィン系重合体を含むことを特徴とする粘度調整剤。
【請求項2】
上記オレフィン系重合体の、JIS K 7122に従う示差走査熱量測定における−50℃〜200℃の範囲に観測される結晶融解熱量が、30J/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘度調整剤。
【請求項3】
上記オレフィン系重合体の、炭素原子数3〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα−オレフィンに由来する単量体単位の含有量が、少なくとも50モル%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘度調整剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘度調整剤の含有量が0.1〜10重量%であり、潤滑油基材の含有量が99.9〜90重量%であることを特徴とする潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物全体を100重量%とする)。

【公開番号】特開2009−155561(P2009−155561A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337936(P2007−337936)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】