説明

粘性体の練り特性計測センサーと、それによる練り特性測定方法

【課題】粘性体を扱う産業、たとえば食品産業や製薬、化学、また建設業などでは、粘性体の練り具合が最終製品の良否を決める重要な品質指標になる。練り具合は、単なる粘度だけでは評価される計測対象ではなく、多くは人の手で直接、あるいはかき混ぜる道具に加わる抵抗や纏わり付き、衝撃などを総合して評価されるもので、現状ではこれを適切に評価する方法は見あたらない。
【解決手段】本発明は、粘性体の練り作業における、粘りやまとわりつく状態、さらに固形物の触れた感触といった練りの具合を、人の指に似せた棒状の検出器を2本以上束にして、あたかも前後左右に稼働する腕に似せて混ぜ運動を起こさせるアームに固定し、粘性体中で平均的練り具合を計測できるように、かき混ぜる運動をもつ装置をセンサーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性のある流体、たとえばクレープや饅頭の素材としての、小麦粉の水溶液の練り具合、バターやチーズなどの乳製品製造における素材の塊の堅さや界面状態、またその大きさや個数計測などに関わる、単に粘度や固形物の有無だけでなく、その品質に関わる情報を簡易に計測することに関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を水に溶かしたクレープや饅頭の素材、さらにバターやチーズの製造における乳脂素材などの食品素材の、塊り具合などに関わる情報は、従来、人の手で直接、あるいはスプーンやかき混ぜ道具などの道具を通して得られる感覚に頼らざるを得なかった。仮に計測装置を利用するにしても、粘度計が代表的な適用例で、練りの均一性や塊の有無、堅さ、界面状態大きさ、個数などの程度などは、複数点の局所計測結果を総合化し推定することでしか得られない。
【0003】
本発明のセンサーの一部に類似した先行の発明に、人の指を模したセンサーがある。これは金属部分を内部にし、シリコンゴムで周囲を覆い、内部の異なった位置にひずみゲージを配置して、シリコンゴムのねじりや変形に伴う複合したひずみ信号を計測し、その信号の総合結果から物体の摩擦係数を計測する方法がある。さらに、この検出器表面に蛇腹状のヒダを付け、滑りやすい物体表面の感触までも計測できるようにもしている。しかし、これはあくまでも個体や可塑性物体の表面状態の計測が目的であり、本発明で請求する適用技術分野、すなわち粘性体の練り具合への適用には適さない(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−358634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
技術背景に述べた食材の練りや塊の具合などに関わる情報は、粘性体の広範囲分布と溶質の界面現象にも関係し、これらの複雑な特性にもとづいている。したがって、多くの場合、人の手や、かき混ぜ道具などを通して得られる感覚から推定するに止まり、適用性の高い定量的計測方法の開発事例は未だ表出に至っていないようである。
【0005】
現状において練り具合を計測するためには、粘度計を用いるのが最速で、練りの均一性や塊の有無、塊の大きさの程度などは、粘度計の多点配置、あるいは複数回計測した計測値の合成結果から推定する他に方法はないようである。
【0006】
本発明は、このような粘性体の練り作業における、粘りやまとわりつく状態、さらに固形物の触れた感触といった、練りの具合を感覚に似た総合的情報を簡便にリアルタイム計測する課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
先の背景技術に述べたように、本発明の一部の装置に、先行する人の指に似せたセンサーがあるが、これは本来の適用目的が固形物の表面の滑らかさや粗さ計測であること、練り具合のように粘りや、纏わり付く状態、さらに固形物の触れた感触といった、粘性流体への混ぜに関する情報を得ることにはできない。
【0008】
本発明は、単に棒状の指に似せたセンサーを粘性体に挿入するだけでは計測はできない粘性体の練り具合を、棒状の指に似せた検出器を複数束ねて構成し、得られる情報を総合して計測しようとするものである。すなわち、棒状の指に似せた検出器を複数束ねてセンサーとし、それを粘性体中で、あたかも複数指でかき混ぜながら、指に加わる曲げや接触の感覚と、手首に加わる力や曲げ、回転力などを総合して得られる感覚量に似せた情報を得る。
【0009】
このために本発明の実施形態は、指に似せた棒状のセンサーに曲げを与え、さらにこれらを複数束ねて得られる信号を総合し、人の手の感覚に、より類似した情報を得るよう構成している。本発明は、このようにかき混ぜながら、それへの粘性体の、纏わり付くような運動を検出するセンサーを複数配置し、それらから得られた測定情報を総合することで、粘性体の練りの状態をリアルタイム計測する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、小麦粉の水溶液であるクレープや饅頭の素材、さらにバターやチーズの製造における乳脂素材などの食品素材を事例とする粘性体の練り状態や、ときとして発生する塊の具合に関わる情報をリアルタイム計測することが可能になる。ここで言う練りとは、単なる粘性計数を指すのではなく、上述の粘性体の練り作業における、粘りやまとわりつく状態、さらに固形物の触れた感触といった、従来これらの計測に適した方法のない練り具合という感覚に似た総合的情報であり、本発明はこのような感覚に似た情報をリアルタイム表示できるもので、このような計測を必要とする分野に高い有用性をもって応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態を図1から図5を参照して詳細に説明する。まず本発明の第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態のセンサー全体構成の概念図である。このセンサーは、人の指に似せた棒状の検出器1と、それをあたかも粘性体を混ぜ、その練り具合を把握する人の手に似せるように2本以上、本実施例では4本(親指を除く4本の指を想定)束ねて、前後左右に稼働する腕に似せたアーム2先に固定し、そのアーム2にかき混ぜる運動を実現する固定軸3と回転カム4,そしてそのかき混ぜ運動を発生させるための動力源である低回転のギヤーモーター5を備える。なお、この機構は前後左右のみならず、全体を上下に動かす装置にすることもできる。
【0012】
すなわち、かき混ぜのための適度な低回転数を与えるギヤーモーター5の回転運動は、回転カム4によりアーム2に伝達され、その回転運動は固定軸3でアーム2全体を前後させるとともに、左右に振らしてアーム2の先に取り付けた棒状の指に似せた検出器1の束を粘性体中で、緩やかなかき混ぜる動作に変換される。棒状の検出器1は、アーム2の先の異なった位置に配置して人の手に似せ、人が粘性体の練りの状態を把握することに、より類似した信号が得られるように構成することを特徴とする。
【0013】
つぎに、本実施形態の主要な検出器である、棒状の指に似せた検出器1の実施形態を説明する。図2は、その実施形態の検出器全体の概念図である。
検出器は、粘性体のかき混ぜ動作に伴い生じる検出器への纏わり付き、粘性による検出器への加圧、塊の衝突や棒間のすり抜け動作による衝撃など、いわゆる練り具合の把握のための諸情報を得ることができるように、人の指に似せて構成する。すなわち、纏わり付きや、加圧を検出できるように全体を、たとえばシリコンゴムのような耐熱性、耐酸、アルカリ性を持ち、適度な弾性がある弾性体6で、検出器への塊の衝突、粘性の圧力を受け止められる適度な可撓性を持ちながら、検出器全体の構成を支える中空の棒、たとえばステンレス中空管7、それに、棒状の長軸方向の伸縮を検出するひずみゲージ8と、棒の直角断面でのねじれに伴う伸縮を検出するひずみゲージ9を包むように構成する。ここでひずみゲージ8、9には、用途によって抵抗線ひずみゲージや半導体ひずみゲージを使用する。
【0014】
本発明の検出器は、緩やかに曲げを与えていることに特徴を有す。緩やかに弓なりの曲げを与えて構成することで、粘性体中でのかき混ぜ運動に対して、粘度により人の指に掛かる纏わり付く感触、粘度の不均一性をより鋭敏に検出できる。曲がりによって、棒状の検出器の撓みが人の指に生じる刺激に類似し、人が感じる練り具合に、より近い情報として検出できる。
【0015】
図3は、この検出器の長軸方向の断面での構成を、図4は、検出器の長軸に対して垂直な断面での構成を表す概念図である。
【0016】
図5により、本発明の信号処理実施形態を説明する。棒状の指に似せた検出器1中に埋め込んだひずみゲージ8、9からの信号、すなわち、4個の検出器のうち、i番の検出器の長軸方向伸縮によるひずみは、軸に沿って配列した2個のひずみゲージ8で検出し、信号Spi1とSpi2として、またi番の検出器の軸方向に垂直な断面の伸縮によるひずみは、軸に沿って配列した2個のひずみゲージ9で検出し、信号Sti1とSti2として得る。これら軸方向に沿う伸縮ひずみ、合計8個、また軸方向に垂直な断面の伸縮ひずみ、合計8個は、ブリッジ回路をもとに構成した検出回路で、電圧信号EpijとEtijに変換する。これら合計16個の電圧信号は、パソコンに取り込み、練り具合の程度を評価した評価値、あるいはレーダーチャートに似たグラフYとして表示するよう、信号処理する。
【0017】
練り具合は、人の感覚量に類似した評価値であることから、その評価計算のための信号処理は、たとえば、ファジイ理論にもとづく評価計算やニューラルネットワークによる評価計算、教師なしニューラルネットワークである自己組織化マップ法による評価計算、あるいは感覚量を確率理論にもとづき計算するベイズ推定による評価計算などが有効である。評価値Yは、練り具合の良否のみに注目すれば、総合した指数として表示することが好ましい。一方、複数の評価値にもとづいた評価、すなわち多次元評価結果を表示するためには、レーダーチャートに似たグラフで表現するのが好ましい。本発明の実施対象によってこれらの評価結果の表示法を選択する。
【0018】
本実施形態の、信号処理の実施法の一つとして、ファジイ理論にもとづく評価計算を説明する。ファジイ理論にもとづく信号処理方法は、入力情報と、それによる評価値の関係をファジイ規則で表現し、その規則のファジイ含意から評価結果を得る。すなわち、練り具合の主要因子を練りの堅さと粘りと、これらの不均一さで表現する。練りの堅さは、棒状の指に似せた検出器の長軸方向の伸縮で、また粘りは、棒状の指に似せた検出器の長軸に垂直な断面でのねじれにもとづく伸縮で代表する。このように表現した練り具合のファジイ規則は、つぎのような式群で表わされる。
【0019】
【数1】


ここで練り状態を表すCijは、4本の棒状の検出器の位置iと、長軸方向の位置jによって異なった値を与える。これは経験値をもとに決定する。
【0020】
練りの堅さや粘りの程度については、ファジイ理論で示される程度毎に3個ないしは5個に区分した三角形メンバーシップ関数で表現する。ファジイ含意にもとづいて得られた各規則計算結果のCijは、総合化するために簡易に代数和で合成する。最終的にこの値を平均的な練り具合として表示する。
【0021】
練り具合の残る主要因子の練りの不均一さは、かき混ぜ運動中に生じるひずみゲージからの時間変化信号にもとづいて評価する。粘性体の練りの不均一さは、粘性体中に生じる塊の堅さや個数などとして現れる。このような練りの不均一さに関する評価は、EpijとEtijの大きさの時間経過から、つぎの規則式集合にもとづいて計算する。
【0022】
【数2】


ここで練り状態を表すDijは、練りの不均一さにともなう評価値で、4本の棒状の検出器位置iと、長軸方向の位置jによって異なった値を与える。これらの値も経験値をもとに決定する。各経過間時間の程度については、ファジイ理論で示される程度毎に3個ないしは5個に区分した三角形メンバーシップ関数で表現する。得られた各規則計算結果のDijは簡易に代数和で総合し、平均的な不均一さとして表示する。
【0023】
粘性体の練り具合の主要因子である、堅さと粘りと、これらの不均一さは、つぎの線形結合により総合化され、最終的に練り具合の評価値Yとして表示する。
【0024】
【数3】


ここで係数a、bは、上述と同様に経験値をもとに与える。
【産業上の利用可能性】
【0025】
粘性体を扱う産業は、園芸用の土壌製造、製薬、食品産業、塗料製造、化学製品製造など、多種多様である。中でも、小麦粉や米粉を水に溶き、それを素材とする食材を製造する産業や、バターやチーズなどの乳製品を製造する産業、味噌や糠を扱う食品産業は、練り状態が食品の良否を決める重要な品質指標にもなっている。また建設現場で最適な練り具合を与える必要のあるモルタル、さらに石膏や土などの建設資材の練り作業における練り具合の評価と品質管理に適用できる。これらの非常に多岐多様に広がる練り具合の品質管理を必要とする産業に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のセンサー。
【図2】本発明の棒状の指に似せた検出器。
【図3】本発明の棒状の指に似せた検出器の長軸方向断面図。
【図4】本発明の棒状の指に似せた検出器の直角断面図。
【図5】本発明の棒状の指に似せた検出器からの信号処理による練り状態の評価システム。
【符号の説明】
【0027】
1 棒状の指に似せた検出器(4本)
2 1の検出器を粘性体中でかき混ぜるためのアーム
3 アームの前後移動・回転運動を与えるための固定軸
4 回転カム
5 低回転速度のギヤーモーター
6 弾性樹脂(たとえばシリコンゴム)
7 中空棒(たとえばステンレス中空管)
8 軸方向伸縮計測用ひずみゲージ
9 軸に対する直角方向伸縮計測用ひずみゲージ
Spij 棒状の指に似せた検出器中のひずみゲージから得られた長軸方向ひずみ信号
Stij 棒状の指に似せた検出器中のひずみゲージから得られた長軸に直角な方向のひずみ信号
Epij 棒状の指に似せた検出器中のひずみゲージから得られた長軸方向ひずみ信号に対応する電圧信号
Etij 棒状の指に似せた検出器中のひずみゲージから得られた長軸に直角な方向のひずみ信号に対応した電圧信号
i 棒状の指に似せた検出器の番号で、1から4を与える
j 長軸に沿って配置させた2個のひずみゲージの番号で、1と2を与える
Y 練り具合の程度を表す評価値、あるいはレーダーチャートに似せたグラフ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較的剛性のある素材と、その異なった位置、方向に配置した複数のひずみゲージを弾性体で包み、人の指に似せて棒状に形成した装置を複数本組み合わせて人の手のように構成し、これを流動している粘性体中に挿入し、あるいは、静止している粘性対中で移動させて、装置の複数のひずみゲージからの得られるひずみ測定値から、粘性体の平均粘度、粘度ムラ、固形状態の有無と、固形状態の形状情報などにもとづく粘性体の練りの状態を表示するセンサー。
【請求項2】
本発明の構成要素である、棒状の指に似せた検出器において、ひずみゲージを長軸方向に異なる複数位置と、長軸方向に垂直な断面に異なる複数位置に配置し、これらの複数検出信号の総合により、人が複数の指に加わる纏わり付きや衝撃などの情報に類似した、より練り具合を明確に表すように複数ひずみゲージを配置する実施形態。
【請求項3】
前記の複数のひずみゲージを弾性体で包み構成した棒状の装置は、弓なりに整形することで人の指に似せて、人のかき混ぜ動作時に粘性体の練りの状態を人が得る感覚量に、より類似させるようにする、検出器の形状を特徴とする実施形態。
【請求項4】
棒状の指に似せた検出器を構成する実施形態で、練り具合を評価する際の粘性体をかき混ぜる動作において、人が複数の指に加わる纏わり付きや衝撃などの情報に類似した、より練り具合を明確に得られるように、たとえばステンレスチューブのような中空の管を棒状の検出器中心に長軸に沿って埋め込み、適度な可撓性をもつように構成する実施形態。
【請求項5】
人が複数の指に加わる纏わり付きや衝撃などの情報を総合することに類似させて、2本以上の検出器をアームに固定して、練り具合に関する諸情報が得られるように、複数配置して構成することを特徴とする実施形態。
【請求項6】
本発明の請求項1に示すセンサーは、粘性体中での比較的広い領域をかき混ぜる運動により、粘性体の局所ではなく、全体の平均的練り具合を計測できるよう、センサー全体を動かす構成を特徴とする実施形態。
【請求項7】
前記ひずみゲージからの信号を、信号処理回路とコンピュータにより総合化し、即時に結果が表示できるリアルタイム処理法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−151705(P2010−151705A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331808(P2008−331808)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)