説明

粘性媒体における結晶化によってADN結晶を得る方法

本発明は、溶媒に溶かしたアンモニウムジニトロアミド(AND)を含む溶液から、自然核形成及び結晶成長によって、アンモニウムジニトロアミド(ADN)を結晶化させる方法に関する。前記自然核形成中における、前記溶媒の粘度は、0.25Pas(250cP)である。前記方法によって得られるADN結晶は、平均アスペクト比が1〜1.5であり、エネルギー物質の組成物と非常に好適に配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニウムジニトロアミド結晶を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前記方法によって得られる結晶は、平均アスペクト比(median shape factor in a particle size)が低く、エネルギー物質の形成に適した粒径を有している。以下これについて説明する。
【0003】
アンモニウムジニトロアミドは、式NHN(NOで表される。これは、『ADN』(アンモニウムジニトロアミド)という名称で知られている。
【0004】
前記ADNは、特に、酸化装薬(oxidizing charge)として知られており、塩素を含まず、推進剤組成物における過塩素酸アンモニウムを置換することが可能である。
【0005】
前記ADNの合成については、様々な方法が提案されている(これら方法は、Wang Guogiang、Chen Hong、及び、Ma YuanyingによってTheory Pract.Energ.Mater.、[Proc.Int.AutumnSemin.Propellants、Explos.Pyrotech.](1996)85―91(Chemical Abstract、126、106102)にまとめられている)。
【0006】
この中で、以下の2つの手法が主に実施されている。
―『ウレタン』手法:ウレタンをニトロ化して処理することによって、N―ニトロウレタン(ANU)のアンモニウム塩を得る。この塩を、継続してNでニトロ化することによって、N,N―二硝酸塩化誘導体(N,N―dinitrated derivative)が形成される。このN,N―二硝酸塩化誘導体を隔離するのでは無く、アンモニアと直接反応させることによって、ADNを形成し、ウレタンを再生成する(米国特許5714714記載の手法を参照)。
―『スルファミン酸塩』手法:スルホ硝酸混合物(sulfonitric mixture)を用いて、アンモニウムスルファミン酸塩、又は、カリウムスルファミン酸塩を低温でニトロ化し、その後反応媒質を中和して、全体的に濃縮する(米国特許5976483に記載の手法を参照)。
【0007】
前記したいずれの手法であっても、その後溶剤の中に得られたADNを従来の方法(濃縮、非溶媒の添加、及び/又は、冷却等)で結晶化する。得られた粗製ADNの結晶は、小さな棒状或いは針状である。このような小さな棒状或いは針状の結晶を添付の図1Aに示す(透過型光学顕微鏡を用いて撮影された写真)。これら結晶のアスペクト比は約10である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような結晶の形態は、負荷速度(loading rates)が高くなるとすぐに大幅な粘度の上昇があることから、組成の実行性が大きく損なわれ、ADNそのものの生産が困難となる。
【0009】
前記技術的課題に鑑みて、エネルギー物質の形成に好適な粒径を有する略球状のADN成分を得るための方法がいくつか記載されている。特に推奨されているのは、結晶を球状の顆粒に変換する方法である。これは、当業者に『小球』と呼ばれている。前記『小球』(球状の顆粒)は、以下のいずれかの方法によって得られる。一つは、ADNを非溶媒液に溶かし、よく撹拌して急激に冷却する方法である。もう一つは『小球化』塔(“prilling” tower)を用いて、この中を通る気流に溶けたADNを噴霧する方法である。
【0010】
前者は『浮遊状態での小球化』(“prilling in suspension”)と呼ばれ、特にWO―A―99/21794において記載されており、後者の方法は、WO―A―97/47571、及び、WO―A―99/01408に記載されている。
【0011】
しかし、いずれの方法も満足出来るものではない。
【0012】
―溶融結晶化とも呼ばれる『浮遊状態での小球化』は、目的とする粒径を設定した場合、1回当たりの処理量が数キログラム以上になると困難になる。
【0013】
―塔内で『小球化』を行う際には、溶融したADNを扱うことになるが、この化合物は融点以上で不安定となる。局所的な過熱や物質の蓄積によって事故が引き起こされることもある。
【0014】
別の方法がフランス特許出願FR2884244に記載されている。前記別の方法によると、(結晶化)添加物としてADNの晶癖(crystal habit)の調整剤を用いることによって、より形成に適した新規な形状の結晶を生成することが可能となる。この方法は、新規で効果的であるが産業レベルでの実施が想定しにくい。この方法によって得られた結晶を添付の図1B(透過型光学顕微鏡を用いて撮影された写真)に示す。アスペクト比は5以下である。
【0015】
このようなADN結晶形成の技術的な課題に鑑みて、本発明者は、単純な結晶化によって、エネルギー物質の形成に適した粒径を有する(ほぼ)球状のADN結晶を得ることが不可能とする当業者とは違う観点から、全く新規で革新的な解決策を提案する。この解決策では、前記粗製結晶の状態を調整するというものではなく、結晶化に化学添加物としての晶癖改質剤を用いるというものでもない。本解決策は、選択粒径範囲が例えば数ミクロンから数百ミクロンの(ほぼ)球状の(球状、又は、略球状の)結晶が得られるように結晶成長の条件を調整することによるものである。
【0016】
新規な形を有する結晶を生成するために、結晶成長の条件を変更することそのものは革新的なものではない。問題となる条件とは、例えば溶媒の性質であり、特に結晶化のために原子を移動・統合させる相対的な速度を調整するための粘度、溶解度図における溶液の平衡をずらすための温度サイクル、不純物の存在、撹拌等があり、当業者はこれら条件を把握している。しかし、このような条件の変更については記述がないばかりか、本発明者が知る限りでは、ADN結晶形成における前記課題の解決のためにこれら条件を調整することがあまりない。
【0017】
この点について、非常に驚くことに、ADN結晶化工程に、結晶のアスペクト比の低減及び粒径の調整を盛り込むことが可能であることが、本発明者らによって示された。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は、溶媒に溶存するアンモニウムジニトロアミド(ADN)を含む溶液から、自然核形成(spontaneous nucleation)及び結晶成長によってADNを結晶化させる方法に関する。前記方法は、自然核形成中における前記溶媒の粘度が0.25Pa.s(250cP)以上であることを特徴とする。
【0019】
本明細書において、本発明の結晶化方法では、自然核形成中における溶媒の粘度が0.25Pa.s(250cP)〜1Pa.s(1000cP)の間であるとの具体的な記載があるが、何らこれに限定されることはない。前記溶媒の粘度は、0.3Pa.s(300cP)〜0.65Pa.s(650cP)であることが好ましく、より好ましくは、0.45Pa.s(450cP)〜0.55Pa.s(550cP)である。
【0020】
尚、前記粘度(Pa.s及びcP(=centiPoises))は、Brookfield社製の粘度計を用いて計測したものである。
【0021】
本発明の結晶化方法は、結晶種の導入を必要としない。溶媒に溶け込んだ状態のADNを含む溶液から、結晶化が行われる。問題となる核化は自然に発生させる。
【0022】
特徴的なのは、本発明の方法では、粘性の媒体内にADN結晶が現れる(前記参照)。ADN結晶が現れ、(一度に、又は、数回に分けて)成長し、(小さい状態、又は、より大きく成長した状態で(下記参照))前記媒体から回収される。
【0023】
自然核形成の後、結晶の成長が始まる。この際、結晶化が進行しているときの溶媒の粘度によって、結晶の成長は全体的に拡散した状態で進行する(つまり、結晶を成長させる物質の移動が結晶成長を制限する現象であり、この物質の移動はシャーウッド数で表すことが出来る)。拡散した状態で結晶成長を調整することによって、望ましい粒径を有する(ほぼ)球状の結晶がえられるということが本発明者によって示された(またこのような結晶成長はある程度制御可能である。下記参照)。本発明では、自然核形成の後、溶媒の粘度を管理することによって前記調整を行う。
【0024】
本発明によるADN結晶生成方法は、従来の結晶化方法において、『新規な』結晶化(自然核形成の始めから、粘性の媒体内で全体的に拡散した状態で結晶化を進行させる)を行う。核化及び結晶成長は、具体的には以下のような従来の方法によって行われる。(例えば、溶媒を蒸発させることによって)溶液におけるADNの濃度を高くする。前記溶液にADN用の非溶媒を添加する。前記溶液を冷却する。これら方法のいずれか一つが採用されることが好ましいが、前記方法の少なくとも2つを順次、或いは、同時に行うことが好ましいことは言うまでもない。
【0025】
結晶化の方法としては、冷却による結晶化が好ましい。従って本発明の方法では、(溶媒に溶存するADNを含んだ)溶液を冷却した後に核化の工程が行われることが好ましい。
【0026】
このような冷却による結晶化は、当業者であれば充分に調整可能である。前記溶液の平衡は、当該溶液の溶解域、準安定域、及び、自然核形成域へと順次移行する。
【0027】
言うまでも無く、前記方法における溶媒とはADNの溶媒である。公知のADN結晶化溶媒から経験則に基づいて選択される。溶媒は、溶存するADNの核化が発生する温度で、要求される粘度を有する必要がある。
【0028】
前記溶媒は、一般的に極性プロトン性溶媒、及び、その混合物の中から(本発明において所望の粘度範囲となるように)選択される。前記溶媒は、アルコールであることが好ましく、例えばグリセロール、1,4―ブタンジオール、又は、アルコール混合物、特にグリセロールと1,4―ブタンジオールとの混合物が挙げられる。本出願では、50容量%のグリセロール及び、50容量%の1,4―ブタンジオールを含む混合物の使用が最も推奨される。
【0029】
本発明の方法の好ましい変形例では、前記した溶媒に粗製ADNを高温(一般的に60℃)で溶解し、その後溶液を冷却する。この冷却に伴って溶媒の粘度が上昇する。溶液を攪拌することによって、溶液を均一にして結晶の沈殿を防ぐ。このように溶液を撹拌すると、レオロジー的流動化(rheological fluidization)によって、前記溶媒を凝固点より低く冷却することが可能となり、前記溶媒の粘度を本発明の方法で要求される粘度範囲にすることが可能となる。溶存するADNは、溶媒の粘度が本発明で要求される範囲になって初めて結晶化する。
【0030】
本発明者はさらに、溶存するADNの核化温度を調整する別の条件を見出した。これによって、溶液の準安定域を広げることが可能になり、適した粘度を有する溶媒(ADNの結晶化が進行しているときの、粘度が一般的に250〜1000cPの溶媒)の選択肢が広がった。前記別の条件とは、即ち、硝酸塩イオン(NO-)を(一般的に0.1質量%〜0.5質量%という少量)によって、ADN核化温度を下げるということである。つまり、(所定の冷却率で比較した場合の)溶液の準安定域を広げるということである。従って、硝酸塩イオンによって、溶存するADNの核化温度を調整して、核化温度を前記方法で要求される溶媒の粘度が達成される低い温度に対応させることが可能となる(一般的に20℃〜0℃)。硝酸塩イオンは、溶液に導入される粗製ADNの材料の不純物として含ませてもよく、及び/又は、前記溶液に別途添加してもよく、好ましくは、硝酸アンモニウムを溶液に添加する。
【0031】
本発明の方法の第1の変形例によると、少なくとも継続的な溶液の冷却、及び、結晶成長段階が含まれている(ここで冷却とは、自然な核化を可能するものであり、これによる熱の放出に関わらず、結晶が生成される間粘度を維持出来るように、その後核化温度を維持することが好ましい)。この場合、得られた結晶の平均アスペクト比が1以上1.5未満である。これら結晶の平均粒径(median diameter)は一般的に100μmである。また、これらは小ファセット結晶(small faceted crystal)であり、これらの面が同じ速度で成長することによって(ほぼ)球状の形に形成される。
【0032】
本発明者はさらに、本結晶化方法において溶液の冷却が行われる場合、溶液に温度サイクルを持たせることによって、より大きな粒径を有しエネルギー物質の形成に特に適した、結晶を得ることができることを立証した。これら結晶もまた平均アスペクト比が1以上1.5未満であった。これら結晶の平均粒径は、100μm以上であり、一般的には100μm〜400μmであった。従って、より大きな(ほぼ)球状の結晶を得ることができた。
【0033】
本発明の方法によって得た結晶について、言及した『アスペクト比』条件は、結晶の最大フェレット径(Feret diameter)に対する最小フェレット径の比である。前記最大フェレット径は、結晶の互いに対向する側面に係る二本の平行な接平面間の距離が最大なものに対応し、前記最小フェレット径は、結晶の互いに対向する側面に係る二本の平行な接平面の間の距離が最小のものに対応する。
【0034】
前記温度サイクルは、4つのステップからなる。
―第1ステップでは、前記溶液を冷却することによって準安定域を超えて、自然核形成の熱力学的領域に到達する。
―第2ステップでは、自然核形成及び結晶成長が起こり、溶液が溶解度曲線における平衡状態になるまで、一定温度で小さな結晶が生成される。
(これら最初の2つのステップは、上で述べた本発明の方法の第1変形例に対応する。)
―第3ステップでは、溶液内の小結晶を部分的に溶解させるために、準安定域を維持しつつ前記溶液を加熱し、その後、溶液の熱力学的な平衡状態となる温度に維持する。
―第4ステップでは、より大きな結晶を得るために、溶液を準安定域に維持しつつ継続的に冷却を行う。
【0035】
よって、本発明の方法は、
冷却を行う第1ステップと、
自然核形成と小結晶の生成を行う第2ステップと、
小結晶の回収(第1変形例の方法)、又は、小結晶を加熱によって部分的に溶解させ、溶液の熱力学的な平衡状態となる温度に維持する第3ステップとを備え、第3ステップの後に、
より大きな結晶を生成するために、冷却を行う第4ステップと、
前記より大きな結晶の回収を行う(本発明の第2変形例の方法)。
【0036】
結晶の回収は一般的に濾過によって行われる。
【0037】
一般的に、前記方法の特異性は、第2ステップの最初の部分、好ましくは第2ステップの最初の部分と第1ステップ(冷却)の終わりの部分とによって表現されていることがわかる。
【0038】
さらに、具体的には、前記した温度サイクル本発明の方法(より大きな結晶が得られる第2変形例)では、一般的に、より大きな結晶が成長過程において急速に沈殿しないように、また、翼端による剪断が抑制されるように、撹拌条件が適切に設定される。前記剪断が結晶の亀裂の原因になり、好ましくないことは言うまでもない。但し、ある程度の摩耗は、結晶を(ほぼ)球状に形成するために都合がよい。攪拌条件は、溶液の正確な特性、設備の幾何学的条件(溶液を保持する槽の形状や容積、攪拌機の形状)によって設定されるものであり、状況に合わせた条件に設定される。この条件の設定、最適化については当業者が適宜設定できる範囲である。本発明の結晶化方法は、層流が生じるように撹拌された(粘性をもつ)媒体の中で行うことが好ましい。
【0039】
前記方法(高粘性の溶媒内で核化及び結晶成長が行われる前記溶液内での結晶化方法)によって得られたADN結晶は、優れた結晶形状を有する。前記結晶は、平均アスペクト比が1以上1.5未満であることを特徴とする。
【0040】
このような、アスペクト比を有するADN結晶は、特に、平均粒径が100μm未満のもの(前記第1変形例によって得られる、小ファセット結晶)、又は、平均粒径が100μm以上のもの、一般的には100〜400μm(前記第2変形例によって得られる(ほぼ)球状の結晶)のものがある。中でも、平均粒径が100〜400μmの結晶が特に好ましい。
【0041】
当業者であれば以上の記載からわかるように、前記ADN結晶は、エネルギー物質、特に推進剤や爆発性のエネルギー物質の生産に非常に有利である。
【0042】
エネルギー物質というのは、エネルギー又は非エネルギーバインダ内にエネルギー装薬が含まれており、エネルギー装薬の少なくとも1部(又は、全体)が上で述べた(前記方法によって得られた)結晶を含んでおり、この結晶はエネルギー物質に好適である。
【0043】
前記エネルギー物質における前記結晶の含有量は高く、好ましくは30重量%であり、より好ましくは50重量%である。これまでの経験から、エネルギー物質における前記結晶の含有量は70重量%まで可能である。
【発明の効果】
【0044】
本発明の結晶化方法によれば、高い含有量でエネルギー物質に使用出来るADN結晶を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明の方法とその生成物を、添付の図面と以下に示す実施例によって以下に説明する。
【図1A】既に述べたとおり、透過型光学顕微鏡で見た従来例におけるADN結晶を示しており、『小さな棒状』又は『針状』のADN結晶を示す。
【図1B】既に述べた通り、透過型光学顕微鏡で見た従来例におけるADN結晶を示しており、(フランス特許出願2884244に記載のとおり)添加物としての晶癖改質剤を用いて得られたADN結晶を示す。
【図2A】透過型光学顕微鏡で見た以下に示す実施例1によって得られたADN結晶を示しており、図2Aは、本発明に従って(硝酸塩イオンを添加して)得られた結晶を示しており、図2Bは、硝酸塩イオンを添加せずに(本発明の条件以外で)得た結晶を示している。
【図2B】透過型光学顕微鏡で見た以下に示す実施例1によって得られたADN結晶を示しており、図2Aは、本発明に従って(硝酸塩イオンを添加して)得られた結晶を示しており、図2Bは、硝酸塩イオンを添加せずに(本発明の条件以外で)得た結晶を示している。
【図3】平均粒径が100μm以上のADN結晶を得るための冷却温度サイクルを示す。
【図4】平均粒径が100μm以上のADN結晶を得るための冷却温度サイクルを示す。
【図5A】走査型電子顕微鏡を使って異なる倍率で見たADN結晶を示しており、以下に示す実施例2によって得られた粒径が100μm〜400μmのADN結晶を示す。
【図5B】走査型電子顕微鏡を使って異なる倍率で見たADN結晶を示しており、以下に示す実施例2によって得られた粒径が100μm〜400μmのADN結晶を示す。
【図6】図6は、図5A及び図5Bに示される実施例2によって得られたADN結晶の粒径曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
<実施例1>
本実施例1では、2リットル程度の反応槽を用いて、平均粒径が35μm程度の小結晶を生産する。
【0047】
容積が2リットルの反応槽に、400gの粗製ADN、及び、硝酸アンモニウムから得られる1.28gの硝酸塩(硝酸塩+0.32%)を、最初に60℃で250mlの1,4―ブタンジオールと250mlのグリセロールとの混合物に溶解する。
【0048】
撹拌には、Ekato(登録商標)社製の4枚羽根シャフトViscopropを使用した。シャフトの回転速度は、350rpmに設定した。撹拌レイノルズ数は186で、単位容積(P/V)当たりの電力損は0.4W/lであり、シャフト(Vp)の周速度は1.46m.s-1であった。このような条件下で、相対的ポンプ流量(Qp/V)は200%に設定した。
【0049】
これらの値は理論上、結晶を破損すること無く浮遊状態にすることを可能とする撹拌条件である。シャフト(Ekato(登録商標)社製Viscoprop、又は、Optifoil3P又は4P羽根車)の選択は、その形状から粘性媒質を適度な剪断具合で効果的に撹拌することが可能となるため重要である。反応槽の底における流体の速度は早く、これによって最適な結晶の浮遊状態が可能となる。最適な熱交換を可能とする流体が壁を上昇する軸流速度についても同様のことが言える。
【0050】
その後、反応槽内の溶液は、二段階に分けて継続的に冷却される。第1ステップは、急速な冷却であって60℃から25℃まで1時間で急速に冷却する。第2ステップは、第1ステップほど際立ったものではなく、25℃から核化温度の3℃まで1時間30分かけて冷却する。第3ステップでは、温度が3℃に維持される。この段階では、核化による発熱を吸収することによって、低温を維持し、結晶成長が進行している間の溶媒の粘度を要求される粘度に維持する。
【0051】
ADN結晶は、核化温度の5℃で全体的に拡散した状態で成長し始める。ADN核化温度で計測した溶媒の粘度は、0.5Pa.s(500cP)であった。
【0052】
結晶成長が終了すると、気体圧力(圧縮空気又は窒素)をかけて単板式フィルターで濾過される。
【0053】
図2Aは、光学顕微鏡で見た本実施例によって得られたADN結晶の写真である。前記結晶の平均粒径は、約30〜40μmであった。肉眼で見た結晶の外観はまるく、粗製ADNからかなりかけ離れたものであった。
【0054】
尚、本実施例において溶液内の硝酸塩イオンの存在は必須であり、この硝酸塩イオンによってADN核化温度が引き下げられる。本実施例と同じ条件で、溶液に硝酸塩イオンを添加しなかった場合、ADN核化温度は約20℃と高く、この温度では溶媒の粘度が充分でなく(〜0.18Pa.s(180cP))、拡散状態が実現出来ず、球状の外観を有する結晶を得ることができない。図2Bは、硝酸塩イオンが添加されなかった以外は、本実施例と同じ手順で生成された結晶を示しており、非球状である。
【0055】
<実施例2>
本実施例は、本発明の方法の中規模の実施例であり、平均粒径が100〜400μmの略球状のADN結晶を得る前記方法の産業での可能性を示すものである。
【0056】
容積が5lの反応槽に、700gの粗製ADN、及び、硝酸アンモニウムから得られる硝酸塩イオン2.45g(硝酸塩+0.35%)を、最初60℃で、容積比50/50の1,4―ブタンジオールとグリセロールの混合物に溶解する。
【0057】
本実施例において、粒径の大きな結晶を得るためには、結晶の成長段階で大きな結晶がすぐに沈殿しないように、撹拌条件を適切に設定しなければならない。撹拌条件は、溶液の正確な性質、及び、装置の幾何学的パラメータ(溶液を入れる槽の形状及び容積、攪拌機の形状寸法)によって異なり、状況に応じて当業者が適宜設定するものである。攪拌条件が正常に管理されていることを確認するためには、反応槽で使用する原位置粒径計測プローブ(例えば、Mettler Toledo社製の、Lasentec(登録商標)原位置プローブ)が非常に便利である。また、この種の原位置計測器を使用すれば、結晶化工程が正常に進んでいることを確認することを出来る。
【0058】
ここに記載する具体的な例では、前記反応槽はまたEkato(登録商標)社製の4枚羽根シャフトViscopropと、4枚のバッフルを備えている。
【0059】
撹拌速度500rpmで、単位容積(>0.5W/L)当たりの電力損と、シャフトによって生成される適正な剪断力(Vp〜2m.s-1)との理論上良好な妥協点が見出せた。
【0060】
エネルギー物質に非常に適した大きな寸法の結晶を得るために、溶液の冷却に対して、複雑だが完全に統制された温度サイクルを持たせる。当該温度サイクルは、4つのステップからなり、各ステップがそれぞれに結晶化を制御するための明確な目的がある。これら4つのステップにおいて反応槽を調整するための温度を図3に示す。図4は、前記4つのステップにおいて、溶液が到達する溶解度図上の状態を示す。
【0061】
前記4つのステップについて以下に説明する。
【0062】
ステップ1、
第1ステップ1では、サブステップ1aと1bとの2段階に分けて冷却が行われる。
【0063】
第1サブステップ(1a)は、比較的急激な直線状の冷却(35℃/h)に対応しており、これによって全体的な運転時間を短縮することが可能となる。実際、第1冷却1aにおいて過飽和状態となっても、準安定域が継続する。
【0064】
第2冷却サブステップ(1b)は、直線状だが比較的緩やかな冷却(12.5℃/h)であり、自然核形成温度に達するまで続く。自然核形成温度は、洗練された方法にそって、或いは、原位置計測によって判定される。
【0065】
本実施例においては、自然核形成が起こる温度は5〜6℃である。前記核化は、比較的熱を発し突発的であるので、冷却が緩やかな冷却であれば制御し易い。計測によると、ADN自然核形成温度での溶媒の粘度は0.5Pa.s(500cP)である。
【0066】
ステップ2、
ステップ2では、温度を維持することによって、溶液を熱力学的な平衡状態に戻す。設定温度は一定だが、実際には核化反応の発熱により、設定温度より若干高くなる。
【0067】
結晶成長は、媒体の粘度によって全体的に拡散した状態で起こる。核化は比較的活発に起こり、極小(<10μm)の結晶が得られる。
【0068】
ステップ3
ステップ3は、2つのサブステップ3aと3bからなる。
【0069】
ステップ3aでは、溶液を加熱することによって、溶液内の結晶を部分的に溶解させる。ステップ3bは、温度維持であり、これによって溶液が熱力学的な平衡状態に戻ることが出来る。
【0070】
ステップ4、
ステップ4は、適度な直線的な冷却(10℃/h)であり、これによって正常に結晶の成長が促される。また同時に、準安定域における溶液の平衡状態を、極力溶解度曲線に近づけることができる。
【0071】
粒径の原位置計測を行って観察した結果、最終的な冷却用傾斜(10℃/h)が結晶成長にとってよいこと、撹拌シャフトによる正常な剪断が可能であること、及び、浮遊状態が均一に継続するということが確認された。
【0072】
濾過・洗浄後の、回収歩留まりは約50%である。回収された結晶の外観は、肉眼で確認する限り粗製ADNのそれとは異なっていた。回収されたADN結晶は無色であり、あまり断片化しておらず、凝集しにくいものであった。
【0073】
回収された結晶は、図5A及び5Bに示す走査型電子顕微鏡で撮影した写真の通り、球状の形状をしている。前記結晶の平均アスペクト比は、1〜1.5である。
【0074】
図6を参照すると、前記回収された結晶の(容積)平均粒径DV50は226μmであり、得られた生成物は適度に拡散しておりDV10=115μmとDV90=380μmとの間である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶存するアンモニウムジニトロアミドを含む溶液から、自然核形成及び結晶成長によってアンモニウムジニトロアミドを結晶化させる方法において、前記自然核形成中における前記溶媒の粘度が0.25Pa.s(250cP)以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記自然核形成中における前記溶媒の粘度が0.25Pa.s(250cP)から1Pa.s(1000cP)であり、好ましくは、0.3Pa.s(300cP)から0.65Pa.s(650cP)であり、より好ましくは0.45Pa.s(450cP)から0.55Pa.s(550cP)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自然核形成が、前記溶液の冷却の後に起こることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液は、極性プロトン性溶媒及びその混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒は、グリセロールと1,4−ブタンジオールとの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニウムジニトロアミドを含む前記溶液は、硝酸塩イオンを含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液における前記硝酸塩イオンの濃度は、0.1重量%〜0.5重量%であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記硝酸塩イオンは、前記溶液に硝酸アンモニウムを導入した結果得られることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液を、前記溶液において自然核形成が起こる熱力学的領域まで冷却する第1ステップ(1a+1b)と、
−前記溶液が溶解度曲線上の平衡に戻るまで、一定に設定された温度で小結晶を生成するために自然核形成及び結晶成長を起こさせる第2ステップ(2)と、
−前記小結晶の回収、又は、小結晶の入った溶液を、前記小結晶が部分的に溶解するように準安定域を維持しつつ、加熱し(3a)と、その後、溶液を熱力学的な平衡にするため温度を一定に保つ(3b)第3ステップ(3a+3b)とを備え、前記第3ステップの後に、
−より大きな結晶を生成するために、溶液を準安定域に維持しつつ継続的に冷却を行う第4ステップ(4)と、
−前記より大きな結晶の回収を行うことを特徴とする請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−502873(P2012−502873A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527379(P2011−527379)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051744
【国際公開番号】WO2010/031962
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506100082)エスエムウー (24)
【氏名又は名称原語表記】SME
【住所又は居所原語表記】2,boulevard du General Martial,Valin 75015 Paris,FRANCE