説明

粘着剤組成物およびその利用

【課題】水分散型粘着剤組成物の分散安定性、該組成物から形成される粘着シートの粗面接着性および耐水性に優れた粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】水性溶媒と該水性溶媒に分散した粘着成分とを含む水性分散液からなる粘着剤組成物が提供される。上記粘着成分は、アクリル系ポリマーを含有する。また、30℃における粘度が2000Pa・s以下である粘着付与剤Lを含有する。さらに、疎水基としてのアリールオキシ基とアニオン性またはノニオン性の親水基とを分子構造中に有する界面活性剤Sを含有する。ここで、上記アリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系溶媒にアクリル系ポリマーが分散した水分散液からなる粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性媒体中に粘着成分が分散した形態の水分散型粘着剤組成物(例えば、粘着成分が水性媒体に分散したエマルションからなる粘着剤組成物)は、分散媒として水を用いることから、粘着成分が有機溶剤に溶解した形態の粘着剤組成物(溶剤型粘着剤組成物)に比べて環境衛生上望ましい。
【0003】
しかし、水分散型粘着剤組成物は、溶剤型とは異なり不均一系であるため、その分散安定性に配慮する必要がある。例えば、水性エマルション型粘着剤組成物の機械的応力(剪断力)に対する安定性(機械的安定性)が不足すると、該組成物の塗工時等に加わる機械的応力によりエマルション粒子同士が融着して塊(凝集物)を生じることがある。かかる凝集物は、粘着剤組成物を安定して塗工することを困難とする要因となり得る。また、粘着剤組成物から形成された粘着剤層の膜厚や組成の均一性を損ない、粘着性能の低下、外観品質の低下等を招来し得る。水分散型粘着剤組成物の分散安定性に関する文献として特許文献1が挙げられる。特許文献2は、乳化重合用の界面活性剤に関する文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−238932号公報
【特許文献2】特開2009−138167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水分散型粘着剤組成物を用いた粘着シートは、溶剤型粘着剤組成物を用いた粘着シートに比べて、発泡体のように表面に微細な凹凸(主として気泡に起因する)を有する被着体に対する接着性(粗面接着性)が不足しがちであった。特に、ポリウレタンフォーム(特に軟質ポリウレタンフォーム)等のように弾性を有する発泡体(以下「弾性発泡体」という。)では、硬質の被着体とは異なり、これに粘着シートを圧着しようとする力が該発泡体の弾性変形により吸収されてしまうため、該弾性発泡体に粘着シートをしっかりと圧着すること自体が困難である。また、弾性発泡体に粘着シートを強く押し付けると、該発泡体が強く圧縮され(押し潰され)、これにより発泡体が損傷を受ける可能性がある。また、弾性発泡体の背面を支える構造物の強度や形状によっては、該構造物との間で弾性発泡体を十分にかつムラなく圧縮することが困難である。
【0006】
このように、弾性発泡体に粘着シートをしっかりと圧着しようとすると、弾性発泡体を圧縮するために余分な力を要すること、作業に慎重さが求められること等から、粘着シートの貼付作業性が低下しがちである。また、貼付作業性を重視すると粘着シートの接着信頼性が不足しがちであった。軟質ポリウレタンフォーム等の弾性発泡体は、例えば自動車の内装や家電製品の内部において、両面粘着シートを用いて所望の箇所(被着体)に固定され、あるいは該弾性発泡体を基材とする片面粘着シートを貼り付ける態様で、緩衝材等として広く用いられている。かかる使用態様において粘着シートの接着信頼性が不足すると、弾性発泡体が剥がれる不都合を生じ得る。
【0007】
本発明者は、アクリル系ポリマーを含む粘着成分が水に分散した分散液からなる粘着剤組成物において、常温で液状を呈する粘着付与剤(液状粘着付与剤)をアクリル系ポリマーの水分散液に添加することが、粗面接着性を向上させる有効な一手法となり得ることを見出した。しかし、さらなる検討により、アクリル系ポリマーの水分散液に液状粘着付与剤を添加すると、粘着剤組成物の機械的安定性が低下することがわかった。そこで、機械的安定性の向上を図るために、液状粘着付与剤に加えて界面活性剤を添加したところ、粘着シートの耐水性が大きく損なわれてしまった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主要な目的は、水分散型粘着剤組成物の分散安定性(特に機械的安定性)、該組成物から形成される粘着シートの粗面接着性(特に、弾性発泡体に対する貼付作業性)、および該粘着シートの耐水性のいずれにも優れた粘着剤組成物を提供することである。本発明の他の目的は、かかる粘着剤組成物の製造方法を提供することである。関連する他の目的は、上記粘着剤組成物を利用した粘着シートの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、水性溶媒と、該水性溶媒に分散した粘着成分と、を含む水性分散液からなる粘着剤組成物が提供される。上記粘着成分はアクリル系ポリマーを含む。上記粘着成分は、また、30℃における粘度が2000Pa・s以下である粘着付与剤Lを含み得る。上記粘着成分は、また、疎水基としてのアリールオキシ基と、アニオン性またはノニオン性の親水基と、を分子構造中に有する界面活性剤Sを含み得る。ここで、上記アリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を少なくとも1個(例えば、1個、2個または3個)有するフェニルオキシ基である。
【0010】
かかる組成の粘着剤組成物によると、上記粘着付与剤Lと上記界面活性剤Sとを組み合わせて含むことにより、該組成物の分散安定性、該組成物から形成される粘着シートの粗面接着性(例えば、ウレタンフォーム等の弾性発泡体に軽く圧着された場合における接着性)および耐水性を高レベルで両立させることができる。なお、ここで水性溶媒とは、水または水を主体(50質量%以上を占める成分)とする混合溶媒を指す。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒は、水と均一に混合し得る各種の有機溶媒(低級アルコール等)から選択される一種または二種以上であり得る。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記粘着付与剤Lの水酸基価が50mgKOH/g以上である。かかる粘着付与剤Lと上記界面活性剤Sとを組み合わせて含む粘着剤組成物によると、該組成物の分散安定性、該組成物から形成される粘着シートの粗面接着性および耐水性を、より高いレベルで両立させることができる。
【0012】
上記粘着付与剤L100質量部に対する上記界面活性剤Sの含有量(有効成分の量、すなわち不揮発分(NV)の量をいう。以下同じ。)は、例えば2〜10質量部とすることができる。かかる量の界面活性剤Sを含む粘着剤組成物によると、分散安定性と耐水性とをより高いレベルで両立させ得る。
【0013】
この明細書によると、また、水性溶媒と該水性溶媒に分散した粘着成分とを含む水性分散液からなる粘着剤組成物を製造する方法が提供される。その方法は、アクリル系ポリマーが水性溶媒に分散した分散液を調製することを包含する。また、上記分散液に、30℃における粘度が2000Pa・s以下である粘着付与剤Lと、疎水基としてのアリールオキシ基とアニオン性またはノニオン性の親水基とを有する界面活性剤Sと、を配合することを包含する。ここで、上記アリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を少なくとも1個(例えば、1個、2個または3個)有するフェニルオキシ基である。かかる粘着剤組成物製造方法は、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を製造する方法として好ましく採用され得る。
【0014】
この明細書によると、また、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物(ここに開示されるいずれかの方法により製造された粘着剤組成物であり得る。)から形成された粘着剤層を有する粘着シートが提供される。かかる粘着シートは、粗面接着性および耐水性に優れたものとなり得る。また、上記粘着剤組成物は分散安定性が良いので、該組成物を用いてなる粘着シートは、均一で外観品質に優れた粘着剤層を備えるものとなり得る。また、上記粘着シートは、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えるので環境衛生上好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図7】ウレタンフォームに対する軽圧着粘着力の測定方法を示す説明図である。
【図8】ウレタンフォームに対する軽圧着粘着力の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明において、同様の作用を奏する部材または部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0017】
ここに開示される技術における粘着剤組成物は、水性溶媒と、該水性溶媒に分散した粘着成分とを含む水性分散液である。上記粘着成分は、アクリル系ポリマーを含有する。該アクリル系ポリマーは、上記粘着剤組成物に含まれる不揮発分(粘着剤層形成成分、以下「粘着剤」または「粘着成分」ともいう。)のうち40質量%以上(典型的には40〜95質量%)を占めることが好ましく、50質量%以上(典型的には50〜90質量%、例えば55〜85質量%)を占めることがより好ましい。また、上記粘着剤に占めるアクリル系ポリマーの質量割合は、典型的には95質量%以下であり、通常は90質量%以下(例えば85質量%以下)とすることが好ましい。粘着剤に占めるアクリル系ポリマーの質量割合が多すぎる場合または少なすぎる場合には、粘着特性のバランスが崩れやすくなることがある。
【0018】
アクリル系ポリマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートを主構成単量体成分(モノマー主成分、すなわちアクリル系ポリマーを構成するモノマーの総量(以下「全モノマー成分」ということもある。)のうち50質量%以上、典型的には50〜99.8質量%を占める成分)とするものを好ましく採用し得る。好ましい一態様では、このアルキル(メタ)アクリレート含有割合が全モノマー成分の70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)であり、例えば80質量%以上(典型的には80〜99.5質量%)である。また、上記アルキル(メタ)アクリレートの含有割合が全モノマー成分の90質量%以上(典型的には90〜99質量%)であってもよい。かかるアクリル系ポリマーは、所定のモノマー原料を重合(典型的にはエマルション重合)することにより合成され得る。通常、上記モノマー原料におけるモノマー組成は、該モノマー原料を重合して得られるアクリル系ポリマーの共重合組成(共重合割合)に概ね対応する。
【0019】
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0020】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数1〜20(以下、かかる炭素原子数の範囲をC1−20と表記することがある。)のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルから選択される一種または二種以上を好適に用いることができる。好ましい一態様では、全モノマー成分のうち70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)がC1−14アルキル(メタ)アクリレートであり、例えばC1−10アルキル(メタ)アクリレートである。C1−10アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。例えば、ブチルアクリレート(BA)および2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)の一方または両方を、合計で、全モノマー成分の40質量%以上(典型的には40〜98質量%)、より好ましくは50質量%以上(典型的には50〜95質量%)含有するモノマー組成を好ましく採用することができる。アルキル(メタ)アクリレートとしてBAおよび2EHAを組み合わせて用いる場合、それらの使用比率は特に制限されない。
【0021】
上記アクリル系ポリマーには、任意成分として、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー(以下「共重合性モノマー」ともいう。)が用いられていてもよい。例えば、カルボキシル基、アルコキシシリル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等から選択される一種または二種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることができる。これら官能基含有モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入するのに役立ち得る。共重合性モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
【0022】
このような官能基含有モノマーのうち、カルボキシル基を有するモノマーまたはその酸無水物から選択される一種または二種以上を好ましく用いることができる。カルボキシル基含有モノマーの具体例としては、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。官能基含有モノマー成分の実質的に全部がカルボキシル基含有モノマーであってもよい。なかでも好ましいカルボキシル基含有モノマーとして、AAおよびMAAが例示される。これらの一方を単独で用いてもよく、AAとMAAとを任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記アクリル系ポリマーにAAおよびMAAが共重合されている。かかる共重合組成のアクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物によると、より耐反撥性に優れた粘着シートが実現され得る。AAとMAAとの質量比(AA:MAA)は、例えば凡そ1:10〜10:1の範囲とすることができ、通常は凡そ1:4〜4:1(例えば1:2〜2:1)の範囲とすることが好ましい。カルボキシル基含有モノマーを共重合させる場合、その共重合量(複数種類のカルボキシル基含有モノマーを用いる場合にはそれらの合計量)は、全モノマー成分の例えば0.5〜15質量%程度とすることができ、通常は1〜10質量%(好ましくは2〜6質量%、例えば3〜5質量%)程度とすることが適当である。
【0024】
好ましく使用し得る官能基含有モノマーの他の例として、アルコキシシリル基を有するモノマーが挙げられる。かかるアルコキシシリル基含有モノマーの具体例としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このようなアルコキシシリル基含有モノマーを共重合させることは、軽圧着粘着性と保持力とをより高レベルで両立可能な粘着シートを実現する上で有利な手法となり得る。アルコキシシリル基含有モノマーを共重合させる場合、その共重合量は、全モノマー成分の0.005〜0.05質量%(例えば0.01〜0.03質量%)程度とすることができる。ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記アクリル系ポリマーに、上記官能基含有モノマーとして、少なくともアルコキシシリル基含有モノマー、AAおよびMAAが共重合されている。実質的にアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシシリル基含有モノマー、AAおよびMAAのみからなるアクリル系ポリマーであってもよい。
【0025】
上記官能基含有モノマーは、通常、全モノマー成分のうち15質量%以下(例えば0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%)の範囲で用いることが好ましい。官能基含有モノマー成分の使用量が多すぎると、凝集力が高くなりすぎて粘着特性(例えば接着力)が低下傾向となることがあり得る。
【0026】
アクリル系ポリマーに共重合され得るモノマー(共重合性モノマー)の他の例として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;等が挙げられる。さらに他の例として、一分子内に複数の重合性官能基を有する多官能モノマー、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。あるいは、かかる多官能モノマーを実質的に使用しなくてもよい。
【0027】
上記アクリル系ポリマーのモノマー組成は、そのガラス転移温度(Tg)が−70℃〜−10℃(典型的には−60℃〜−20℃)の間となるように決定することが好ましい。Tgが高すぎると、弾性発泡体に対する軽圧着粘着性が不足しがちである。一方、Tgが低すぎると耐反撥性や保持力が不足しやすくなる傾向にある。ここで、アクリル系ポリマーのTgとは、該アクリル系ポリマーを構成する各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のTgおよび該モノマーの質量分率(共重合割合)に基づいてフォックス(FOX)の式から求められる値をいう。ホモポリマーのTgとしては、公知資料である日刊工業新聞社の「粘着技術ハンドブック」またはWiley-Interscienceの「ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)」に記載の値を採用するものとする。例えば、2EHAについては−70℃、BAについては−54℃、メチルアクリレート(MA)については8℃、メチルメタクリレートについては105℃、シクロヘキシルメタクリレートについては66℃、酢酸ビニルについては32℃、AAについては106℃、MAAについては228℃を採用するものとする。
【0028】
かかるモノマーを重合させてアクリル系ポリマーの水分散液を得る方法としては、公知または慣用の重合方法を採用することができ、なかでもエマルション重合法を好ましく用いることができる。エマルション重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。モノマーの一部または全部(典型的には全部)をあらかじめ水(典型的には、水とともに適当量の乳化剤が使用される。)と混合して乳化し、その乳化液(モノマーエマルション)を反応容器内に一括、連続あるいは分割して供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃〜100℃(典型的には40℃〜80℃)程度とすることができる。
【0029】
重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、エマルション重合法において、アゾ系重合開始剤を好ましく使用し得る。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0030】
重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤が挙げられる。かかるレドックス系開始剤の例としては、過酸化物(過酸化水素水等)とアスコルビン酸との組み合わせ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等が挙げられる。
【0031】
このような重合開始剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して0.005〜1質量部(典型的には0.01〜1質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0032】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、n−ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。なかでもn−ラウリルメルカプタンの使用が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.05質量部程度であってもよい。
【0033】
かかるエマルション重合によると、アクリル系ポリマーが水に分散したエマルション形態の重合反応液が得られる。ここに開示される技術における水分散型アクリル系ポリマーとしては、上記重合反応液または該反応液に適当な後処理を施したものを好ましく用いることができる。あるいは、エマルション重合方法以外の重合方法(例えば、溶液重合、光重合、バルク重合等)を利用してアクリル系ポリマーを合成し、該ポリマーを水に分散させて調製された水分散型アクリル系ポリマーを用いてもよい。
【0034】
水分散型アクリル系ポリマーの調製に当たっては、必要に応じて乳化剤(界面活性剤)を用いることができる。乳化剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれも使用可能である。通常は、アニオン系またはノニオン系の乳化剤の使用が好ましい。このような乳化剤は、例えば、モノマー原料をエマルション重合させる際や、他の方法で得られたアクリル系ポリマーを水に分散させる際等に好ましく使用することができる。アニオン系乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロぺニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。あるいは、かかるラジカル重合性基を有しない乳化剤のみを使用してもよい。
【0035】
このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、アクリル系ポリマーをエマルションの形態に調製することが可能な使用量であればよく、特に制限されない。通常は、アクリル系ポリマー100質量部当たり、固形分基準で例えば0.2〜10質量部(好ましくは0.5〜5質量部)程度の範囲から選択することが適当である。
【0036】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記アクリル系ポリマーに加えて、30℃において液状を呈する粘着付与剤(液状粘着付与剤(liquid tackifier))Lを含有する。ここで、30℃において液状を呈するとは、30℃における粘度が2000Pa・s以下(典型的には10〜2000Pa・s)であることをいう。粘着剤組成物の調製容易性(例えば、水分散型アクリル系ポリマーへの配合しやすさ)の観点からは、30℃における粘度が1700Pa・s以下であることがより好ましい。
【0037】
この粘度の値としては、実質的に不揮発分のみからなる(すなわち、粘度を低下させるために有機溶剤で希釈したり水分散液の形態に調製されたりしていない;典型的には不揮発分含量が95〜100質量%の)粘着付与剤Lについて、市販のB型粘度計を用いて、ローターNo.7、回転数2rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定される値を採用することができる。
【0038】
かかる粘着付与剤Lを含有させることにより、上記粘着剤組成物から形成される粘着シートの粗面接着性を向上させることができる。例えば、上記粘着シートが弾性発泡体等の難接着性の被着体に貼り付けられる場合において、該被着体に軽く(換言すれば、弾性発泡体を強く押し潰すことなく)圧着することによっても、該被着体に対して良好な接着性(接着信頼性)を示す粘着シートが実現され得る。したがって、被着体(例えば弾性発泡体)に対する貼付作業性が顕著に改善され得る。
【0039】
ここで、粘着シートが弾性発泡体に軽く圧着された場合における接着性は、例えば、自由状態(外力が加わらない状態)における厚さが10mmの軟質ウレタンフォームに、該ウレタンフォームが厚さ5mmに圧縮される条件(換言すれば、該ウレタンフォームを50%の厚みに圧縮する条件)で圧着し、該圧着から30分後における180°引き剥がし粘着力(以下、「軽圧着粘着力」ともいう。)を測定することにより評価され得る。上記軟質ウレタンフォームとしては、例えば、株式会社イノアックコーポレーションの商品名「ECS」(灰色)(以下、単に「ECSフォーム」ということもある。)を使用することができる。このECSフォームは、密度22±2kg・m、硬さ(JIS K6400−2(2004)に規定するD法による。)107.9±22.6Nのポリエーテルウレタンフォームである。上記軽圧着粘着力は、より具体的には、後述する実施例に記載の軽圧着粘着力測定方法に従って測定することができる。
【0040】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、粘着付与剤Lとして、水酸基価が50mgKOH/g以上であるものを使用する。かかる水酸基価を満たす粘着付与剤Lによると、より軽圧着粘着力に優れた粘着シートが実現され得る。
【0041】
上記水酸基価の値としては、JIS−K0070(1992)に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[水酸基価の測定方法]
1.試薬
1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8ml)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mlにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5ml)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
2)測定試薬としては、0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mlおよびピリジン10mlを加え、空気冷却管を装着する。
2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mlを加えて攪拌した後、蒸留水1mlを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
3)エタノール5mlで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mlを加えて攪拌する。
4)0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
5)0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
6)空試験は、試料を入れないで上記1)〜5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B−C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
C: 試料に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
f: 0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の質量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
【0042】
上記酸価の値としては、JIS−K0070(1992)に規定する電位差滴定法により測定される値を採用する。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[酸価の測定方法]
1.試薬
1)溶剤としては、ジエチルエーテルとエタノールとを4:1の体積比で混合攪拌したものを使用する。
2)測定試薬としては、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
3)指示薬としては、フェノールフタレイン溶液を使用する。
2.操作
1)溶剤にフェノールフタレイン溶液を数滴加え、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で中和する。
2)ビーカーに試料約5gを精秤採取し、上記1)で中和した溶剤50mlを加え、パネルヒーター(80℃)上で完全に攪拌溶解させる。
3)0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
3.計算
以下の式により酸価を算出する。
酸価(mgKOH/g)=(B×f×5.611)/S
ここで、
B: 試料に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
f: 0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の質量(g)、
5.611: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/10、
である。
【0043】
かかる粘度および水酸基価を満たす粘着付与剤Lを配合することにより、弾性発泡体(例えば軟質ウレタンフォーム)に対する軽圧着粘着性を顕著に向上させることができる。より高い軽圧着粘着性を実現するためには、水酸基価65mgKOH/g以上の粘着付与剤Lを用いることが好ましい。水酸基価100mgKOH/g以上(さらには150mgKOH/g以上、例えば200mgKOH/g以上)の粘着付与剤Lを用いてもよい。一般に、粘着付与剤の水酸基価が高くなると、該粘着付与剤の30℃における粘度は上昇する傾向にある。ここに開示される技術においては、30℃における粘度が2000Pa・s以下(より好ましくは1700Pa・s以下)となる範囲で、なるべく水酸基の高い粘着付与剤Lを用いることにより、軽圧着粘着性を向上させる効果がよりよく発揮され得る。水酸基価の上限は特に制限されないが、上記粘度との兼ね合いから、通常は、500mgKOH/g以下(例えば300mgKOH/g以下)のものを好ましく使用し得る。
【0044】
粘着付与剤Lとしては、上記粘度(好ましくは、さらに水酸基価)を有する種々の材料を、単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エラストマー系等の材料を粘着付与剤Lとして使用し得る。ロジン系の粘着付与剤としては、ロジンエステル(例えば、未変性ロジンのエステル化物;水添ロジン、不均化ロジン等の変性ロジンのエステル化物)等が例示される。テルペン系の粘着付与剤としては、テルペン樹脂、該テルペン樹脂をフェノール変性したテルペンフェノール樹脂等が例示される。炭化水素系の粘着付与剤としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂(キシレン樹脂等)、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等が例示される。エラストマー系の粘着付与剤としては、アクリルオリゴマー、ウレタンオリゴマー等が例示される。特に限定するものではないが、粘着付与剤Lの分子量は10,000以下であることが好ましく、通常は5,000以下(例えば3,000以下、さらには500以下)のものが好ましい。
【0045】
ここに開示される技術にとり好ましい粘着付与剤Lの例として、ロジンエステル、テルペンフェノール樹脂、およびアクリルオリゴマーが挙げられる。なかでもロジンエステルおよびテルペンフェノール樹脂が好ましい。特に好ましい粘着付与剤Lの一例として、水酸基価150mgKOH/g以上(典型的には150〜300mgKOH/g)のテルペンフェノール樹脂が挙げられる。他の好適例として、水酸基価100mgKOH/g以上(典型的には100〜300mgKOH/g)のロジンエステルが挙げられる。
【0046】
粘着付与剤Lの使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して例えば5質量部以上とすることができ、通常は10質量部以上(例えば15質量部以上)とすることにより良好な効果が得られる。他の粘着特性とのバランスや粘着剤組成物の機械的安定性等の観点からは、粘着付与剤Lの使用量を70質量部以下とすることが適当であり、通常は60質量部以下(例えば50質量部以下)とすることが好ましい。
【0047】
水性溶媒とアクリル系ポリマーと粘着付与剤Lとを含む粘着剤組成物(分散液)を調製する方法としては、水分散型アクリル系ポリマーに粘着付与剤Lを添加して混合する方法を好ましく採用することができる。ここに開示される技術の好ましい一態様において、粘着付与剤Lは、意図的に有機溶媒で希釈したり、あらかじめ水分散液(エマルション)化したりすることなく、実質的に不揮発分のみからなる形態で添加することができる。このことによって、粘着剤組成物(ひいては粘着シート)の生産性が向上する、環境負荷が軽減される、より粘着性能のよい粘着シートが形成される、のうち少なくとも一つの効果が実現され得る。水分散型アクリル系ポリマーに粘着付与剤Lを添加する際には、該粘着付与剤Lを温めてから加えることが好ましい。この加温の程度は、通常は30℃以上とすることが好ましく、より好ましくは35℃以上である。このことによって、水分散型アクリル系ポリマーと粘着付与剤Lとを、より容易かつ適切に混合することができる。製造操作の容易性(例えば取扱性)等の観点から、通常は、粘着付与剤Lの温度を60℃以下とすることが適当であり、50℃以下とすることが好ましい。
【0048】
ここに開示される技術の他の好ましい一態様において、粘着付与剤Lは、該粘着付与剤Lをあらかじめ水性溶媒に分散させた分散液(エマルション)の形態で、水分散型アクリル系ポリマーに添加することができる。粘着付与剤Lのエマルションを調製するにあたっては、適当な界面活性剤(乳化剤)を使用することができる。例えば、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基(疎水基)とアニオン性またはノニオン性の親水基とを分子構造中に有する界面活性剤Sを好ましく採用することができる。
【0049】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記粘着剤組成物が、上記粘着付与剤Lに加えて、軟化点が60℃以上(したがって30℃では固体状)の粘着付与樹脂Hをさらに含有する。かかる粘着付与樹脂Hとしては、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エポキシ系、ポリアミド系、フェノール系、ケトン系等の、アクリル系粘着剤の分野において一般的な各種の粘着付与樹脂を用いることができる。ロジン系粘着付与樹脂としては、未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、それらのエステル化物(ロジンエステル)、不飽和脂肪酸変性物等が挙げられる。これらのうち、軟化点が80℃以上(より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは135℃以上)のものを、粘着付与樹脂Hとして好ましく採用し得る。かかる粘着付与樹脂Hによると、より高性能な(耐反撥性および保持力の少なくとも一方がより改善された)粘着シートが実現され得る。粘着付与樹脂Hの軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ170℃以下とすることができる。このような粘着付与樹脂Hは、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい一態様では、上記粘着付与樹脂Hとしてロジン系の粘着付与樹脂を使用する。粘着付与剤Lとしてのロジンエステル、テルペンフェノール樹脂またはアクリル系オリゴマーと、軟化点135℃以上のロジン系粘着付与樹脂(例えば、重合ロジンエステル)Hとを組み合わせることにより、特に良好な結果が実現され得る。
【0050】
なお、ここでいう粘着付与樹脂Hの軟化点は、JIS K 5902およびJIS K 2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。つぎに、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。つぎに、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。つぎに、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。つぎに、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0051】
粘着付与樹脂Hの使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して例えば5質量部以上とすることができ、通常は10質量部以上(例えば15質量部以上)とすることにより良好な効果が得られる。他の粘着特性(例えば軽圧着粘着性)とのバランスの観点からは、粘着付与樹脂の使用量を50質量部以下とすることが適当であり、通常は40質量部以下(例えば30質量部以下)とすることが好ましい。粘着付与樹脂Hは、該樹脂が水に分散した水性エマルションの形態で好ましく使用され得る。例えば、アクリル系ポリマーの水分散液と粘着付与樹脂Hの水性エマルションとを混合することにより、これらを所望の割合で含有する粘着剤組成物を容易に調製することができる。
【0052】
ここに開示される技術において、粘着付与剤Lと粘着付与樹脂Hとを併用する場合、それらの合計使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、例えば10〜100質量部とすることができ、通常は20〜75質量部(例えば30〜70質量部)とすることが適当である。粘着付与剤Lと粘着付与樹脂Hとの使用量比(L:H)は、質量基準で、例えば10:1〜1:3とすることができ、通常は5:1〜1:2(例えば3:1〜1:1)とすることが好ましい。
【0053】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記アクリル系ポリマーおよび上記粘着付与剤Lに加えて、さらに界面活性剤Sを含有する。この界面活性剤Sは、分子構造中に、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基を疎水基として備え、かつアニオン性またはノニオン性の親水基を備えることによって特徴づけられる。かかる分子構造を有する界面活性剤Sによると、上記アクリル系ポリマーに加えて上記粘着付与剤Lを含むことにより粗面接着性(特に、弾性発泡体に対する軽圧着粘着性)が改善された粘着成分を、粘着シートの耐水性を大きく損なうことなく、より安定して水性溶媒に分散させることができる。特に、上記粘着成分が水性溶媒に分散した粘着剤組成物(典型的にはエマルション)の機械的安定性を向上させることができる。
【0054】
ここでいう粘着剤組成物の機械的安定性は、例えば、テスター産業株式会社製のマロン試験機(商品名「AB−802 マロン式機械的安定度試験機」)を用いて、サンプル量50g、荷重10kg、回転数500rpm、試験時間5分間の条件でシェアを印加し、これにより発生した凝集物を乾燥させてその質量を求め、サンプル中に含まれていた固形分の質量に対する凝集物の乾燥質量の割合(凝集物発生量(質量%))を算出することにより把握することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の機械的安定性評価方法に従って把握することができる。
【0055】
また、粘着シートの耐水性とは、該粘着シートが被着体に貼り付けられた状態で高湿度環境下に保持されても粘着力の低下が少ない性質を指す。例えば、粘着シートを被着体(例えばポリプロピレン板)に貼り付けて、40℃、92%RHの高温多湿環境下に14日間保持し、その高温多湿環境から取り出して所定時間後における180°引き剥がし粘着力(耐水後粘着力)を測定することにより評価することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の耐水性評価方法に従って評価することができる。
【0056】
上記界面活性剤Sの有するアリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を1個〜5個(典型的には1個〜3個)有するフェニルオキシ基であり得る。かかる置換基を有するフェニルオキシ基の具体例としては、該置換基としてC−CH(CH)−基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基(スチレン化フェニルオキシ基)、および、該置換基としてC−CH−基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基(ベンジル化フェニルオキシ基)が挙げられる。例えば、C−CH(CH)−基を1個(モノスチレン化)、2個(ジスチレン化)または3個(トリスチレン化)有するフェニルオキシ基を疎水基として備える界面活性剤Sが好ましい。特に好ましい疎水基として、ジスチレン化フェニルオキシ基が例示される。なお、粘着剤組成物、粘着シートまたは粘着剤中に含まれる界面活性剤の構造は、例えば、サンプルを適切な溶媒で抽出し(粘着剤組成物の場合には、該組成物を乾燥させて得られた粘着剤を溶媒で抽出するとよい。)、その抽出物を乾燥させて得られた固形物についてNMR(核磁気共鳴)測定、IR(赤外分光スペクトル)測定、MALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析)等の一または二以上を行うことにより把握され得る。
【0057】
上記界面活性剤Sの有する親水基は、典型的にはその一端が上記疎水基に結合した基であって、例えば、硫酸エステル(−O−SO)、スルホン酸(−SO)、カルボン酸(−CO)、リン酸エステル塩(−O−PO(OH)O)等のアニオン性官能基を有する基であり得る。かかるアニオン性官能基と1価のカチオンとの塩である界面活性剤Sを好ましく採用し得る。上記1価のカチオンの例としては、アンモニウム(NH);ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン;が挙げられる。上記親水基は、ポリオキシアルキレン鎖(好ましくは、アルキレン基の炭素原子数が2または3であるもの)に上記アニオン性官能基が結合した構造を有する基であってもよい。上記ポリオキシアルキレン鎖は、その繰り返し単位がオキシエチレン(−CHCHO−)である構造、オキシプロピレン(−CHCH(CH)O−)である構造、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とがランダムに連なった構造、オキシエチレン単位の繰り返し部分とオキシプロピレン単位の繰り返し部分とが連なった構造、等であり得る。ポリオキシアルキレン鎖に含まれるオキシアルキレン単位の数は、例えば1〜1000(好ましくは10〜300)であり得る。例えば、上述したいずれかの疎水基と−(CHCHO)−SONH(n=1〜1000、好ましくは10〜300)で表される親水基とを有する化合物(典型的には、上記疎水基と上記親水基とが直接結合した構造のポリオキシエチレン硫酸アンモニウム塩)を、界面活性剤Sとして好ましく採用することができる。
【0058】
上記界面活性剤Sは、また、ノニオン性の親水基を有するものであってもよい。ノニオン性親水基の好適例として、ポリオキシアルキレン鎖(好ましくは、アルキレン基の炭素原子数が2または3であるもの)の末端が水酸基であるもの、末端がエーテル化(例えばメトキシ化)されたもの、等が挙げられる。上記ポリオキシアルキレン鎖は、その繰り返し単位がオキシエチレンである構造、オキシプロピレンである構造、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とがランダムに連なった構造、オキシエチレン単位の繰り返し部分とオキシプロピレン単位の繰り返し部分とが連なった構造、等であり得る。ポリオキシアルキレン鎖に含まれるオキシアルキレン単位の数は、例えば1〜1000(好ましくは10〜300)であり得る。例えば、上述したいずれかの疎水基と−(CHCHO)−H(n=1〜1000、好ましくは10〜300)で表される親水基とを有する化合物(典型的には、上記疎水基と上記親水基とが直接結合した構造の化合物)を、界面活性剤Sとして好ましく採用することができる。
【0059】
ここに開示される粘着剤組成物に含まれる界面活性剤Sは、水分散型アクリル系ポリマーを調製する際(例えばモノマー原料をエマルション重合させる際、すなわちアクリル系ポリマーの合成時)に乳化剤として用いられたものであってもよく、水分散型アクリル系ポリマー(典型的には、該水分散型アクリル系ポリマーの調製に用いられた乳化剤を既に含有する。)に粘着付与剤Lを配合して粘着剤組成物を調製する際(すなわちアクリル系ポリマーの合成後)に添加(後添加)して用いられたものであってもよい。また、使用する界面活性剤Sのうち一部の分量をエマルション重合用乳化剤として使用し、残りの分量を後添加してもよい。好ましい一態様では、界面活性剤Sには該当しない乳化剤を用いたエマルション重合により水分散型アクリル系ポリマーを調製した後、界面活性剤Sを後添加して粘着剤組成物を得る。かかる態様によると、エマルション重合時における重合安定性と、粘着剤組成物の機械的安定性とを、より高度なレベルで両立させ得る。
【0060】
界面活性剤Sの一部または全部を後添加する場合、その界面活性剤Sは、粘着付与剤Lとは別に(単独で)添加してもよく、該界面活性剤Sを用いて粘着付与剤Lの水性エマルションを調製し、そのエマルションを水分散型アクリル系ポリマーに添加してもよい。また、後添加する界面活性剤Sのうち一部の分量を粘着付与剤Lのエマルションの調製に用い、残りの分量を単独で水分散型アクリル系ポリマーに添加してもよい。界面活性剤Sの一部または全部を粘着付与剤Lとは別に添加する場合、粘着付与剤Lと界面活性剤Sとを同時に(並行して)添加してもよく、界面活性剤Sを先に添加してもよく、粘着付与剤Lを先に添加してもよい。
【0061】
ここに開示される粘着剤組成物に含まれる界面活性剤Sの量は、100質量部の粘着付与剤Lに対して、例えば0.5〜20質量部とすることができ、通常は1〜15質量部(例えば2〜10質量部)とすることが好ましい。粘着付与剤Lの含有量に対する界面活性剤Sの含有量が少なすぎると、粘着付与剤Lの添加に伴う分散安定性(機械的安定性)の低下を防止する効果が不足しがちとなる場合があり得る。界面活性剤Sの含有量が多すぎると、粘着シートの耐水性が低下傾向となることがあり得る。
【0062】
ここに開示される粘着剤組成物に含まれる界面活性剤Sの量は、該組成物中の不揮発分(粘着成分)100質量部当たり、例えば0.3〜10質量部とすることができ、通常は0.5〜5質量部とすることが好ましい。粘着成分の含有量に対する界面活性剤Sの含有量が少なすぎると、粘着剤組成物の分散安定性(機械的安定性)が不足しがちとなる場合があり得る。界面活性剤Sの含有量が多すぎると、粘着シートの耐水性が低下傾向となることがあり得る。
【0063】
好ましい一態様では、ここに開示される粘着剤組成物に含まれる全界面活性剤量のうち、界面活性剤Sの量が20質量%以上(より好ましくは30質量%以上)である。例えば、上記全界面活性剤量のうち50質量%以上が界面活性剤Sであってもよく、実質的に全部が界面活性剤Sであってもよい。全界面活性剤量のうち界面活性剤Sの量が少なすぎると、粘着剤組成物の分散安定性(機械的安定性)が不足しがちとなる場合があり得る。なお、エマルション重合用の界面活性剤として界面活性剤Sに該当しないものを使用する態様では、上記全界面活性剤量のうち界面活性剤Sの量を75質量%以下(例えば60質量%以下)とすることが好ましい。かかる態様において全界面活性剤量のうち界面活性剤Sの量が多すぎると、エマルション重合用の界面活性剤の量が相対的に少なくなることにより重合安定性が不足しやすくなったり、全界面活性剤量が多すぎることにより耐水性が低下傾向となったりすることがあり得る。
【0064】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、一般的な架橋剤、例えばカルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等から選択される架橋剤が添加されたもの(後添加、すなわちアクリル系ポリマーの合成後に該架橋剤が添加されたもの)であってもよい。かかる架橋剤は、単独でまたは二種以上を組み合わせて使用し得る。あるいは、このような架橋剤の後添加が実質的に行われていない粘着剤組成物であってもよい。例えば、アクリル系ポリマーにアルコキシシリル基含有モノマーが共重合されている場合において、後添加の架橋剤を実質的に使用しない構成を好ましく採用し得る。
【0065】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0066】
本発明により提供される粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層を基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層が剥離ライナー(剥離面を備える基材としても把握され得る。)に保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本発明により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0067】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート1は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート2は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シートを巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
【0068】
図3,図4は、基材レスの両面粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート3は、基材レスの粘着剤層21の両面21A,21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート4は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
【0069】
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート5は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。図6に示す粘着シート6は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート6を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(粘着面)21Bが基材の他面10Bで保護されるようになっている。
【0070】
片面粘着タイプまたは両面粘着タイプの基材付き粘着シートにおいて、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、各種の樹脂フィルム類(ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム等)、紙類(和紙、上質紙等)、各種の繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等の布類、ゴムシート類(天然ゴムシート等)、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類(発泡ポリウレタンシート等)、金属箔類(アルミニウム箔等)、これらの複合体等を用いることができる。基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には10μm〜500μm(好ましくは10μm〜200μm)である。耐反撥性の観点からは、厚さ10μm〜50μmの基材の使用が有利である。
【0071】
ここに開示される技術は、両面粘着タイプの基材レスまたは基材付き粘着シート(例えば、軟質ポリウレタン等の弾性発泡体と被着体とを貼り合わせる用途に使用され得る両面粘着シート)に特に好ましく適用され得る。基材付き両面粘着シートにおける好ましい基材としては、かかる形態の粘着シートの分野において周知ないし慣用の不織布を好ましく用いることができる。例えば、木材パルプ、綿、麻(例えばマニラ麻)等の天然繊維から構成される不織布;ポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維)から構成される不織布;材質の異なる二種以上の繊維を併用して構成された不織布;等を使用可能である。なお、ここでいう「不織布」は、主として粘着テープその他の粘着シートの分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。
【0072】
粘着剤層の厚みは、例えば5μm〜200μm(好ましくは10μm〜100μm)程度であり得る。ここでいう粘着剤層の厚みは、基材の両面に粘着剤層が設けられた両面粘着シートの場合、その片面当たりの粘着剤層の厚みをいう。軟質ポリウレタン等の弾性発泡体に貼り付けて使用され得る粘着シートでは、該発泡体に対する良好な軽圧着粘着力を得るために、該発泡体に貼り付けられる粘着剤層の厚みを30μm以上(好ましくは40μm以上)とすることが有利である。一方、他の粘着物性とのバランスや粘着シートの生産性等の観点からは、粘着剤層の厚みを100μm以下とすることが好ましい。ここに開示される粘着シートの好ましい一態様は、粘着剤層の厚みが40μm〜80μm(典型的には50μm〜70μm、例えば60μm前後)であって、かつ、上記特性(A)(好ましくは、さらに上記特性(B)および(C)の一方または両方)を満たす粘着シートである。例えば、上記厚みの粘着剤層を不織布の両面に設けてなる両面粘着シート、上記厚みの粘着剤層からなる基材レス両面粘着シート、基材の片面に上記厚みの粘着剤層を有する片面粘着シート、等であり得る。
【0073】
上記粘着剤層は、例えば、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を基材または剥離ライナーに付与(典型的には塗布)し、該組成物を乾燥させることにより形成され得る。かかる粘着剤層を備える粘着シートは種々の方法で作製され得る。例えば、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して乾燥させることで該基材上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層に剥離ライナーを積層する方法;剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に貼り合わせ、該粘着剤層を基材に転写するとともに上記剥離ライナーをそのまま粘着剤層の保護に利用する方法;等を採用することができる。
【0074】
剥離ライナーとしては、粘着シートの分野において周知ないし慣用のものを適宜選択して用いることができる。例えば、各種の樹脂フィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体(例えば、紙の両面にオレフィン樹脂がラミネートされた積層構造のシート)等からなる基材の表面に、必要に応じて剥離処理が施された構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。
【0075】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。あるいは、ドクターブレードを用いて塗布してもよい。ここに開示される粘着剤組成物は機械的安定性に優れるので、例えば、各種ロールコーター(リバースロールコーター等)のように該組成物に比較的強いシェアが加わり得るコーターによっても好適に塗工することが可能である。
【0076】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、後述する実施例に記載の方法で測定される該組成物の凝集物発生量が1.0質量%未満である。この凝集物発生量が0.5質量%以下(典型的には0.5質量%未満)である粘着剤組成物がより好ましい。
【0077】
ここに開示される粘着シートの他の好ましい一態様では、後述する実施例に記載の方法で測定される該粘着シートの軽圧着粘着力が1.5N/20mm以上(より好ましくは2.0N/20mm以上、例えば2.5N/20mm以上)である。軽圧着粘着力の上限は特に制限されないが、ECSフォーム自体の強度を考慮すると、通常は10N/20mm以下である。なお、引き剥がし開始直後または引き剥がし途中において、粘着シートが被着体との界面で剥離するのではなく、粘着シートとともに被着体の一部が残部から剥がれる剥離態様となった場合には、軽圧着粘着力が少なくとも1.5N/20mm以上であるものと推測することができる。
【0078】
ここに開示される粘着シートの他の好ましい一態様では、後述する実施例に記載の方法で測定される取出し2時間後のPP粘着力が2.0N/20mm以上(より好ましくは5.0N/20mm以上)である。さらに他の好ましい一態様では、後述する実施例に記載の方法で測定される取出し2時間後のPP粘着力が、圧着30分後におけるPP粘着力の30%以上(より好ましくは50%以上)である。
【0079】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。また、各材料の使用量は、特に断りがない限り不揮発分(NV)基準である。
【0080】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器にイオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃にて1時間以上攪拌した。次いで、この反応容器に2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を投入し、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを3時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2EHA70部、アクリル酸メチル30部、AA1.5部、MAA2.5部、n−ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.033部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社の商品名「KBM−503」)0.02部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に添加して乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで35%過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を常温まで冷却した後、10%アンモニウム水を添加して中和した。このようにしてアクリル系ポリマーエマルションを得た。
【0081】
上記アクリル系ポリマーエマルションに対し、該エマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり、液状粘着付与剤として水酸基価116mgKOH/g、30℃における粘度140Pa・sのロジンエステル(荒川化学工業株式会社の商品名「KE−364C」)を40部と、界面活性剤として花王株式会社の商品名「ラテムルE−1000A」(疎水基としてのジスチレン化フェニルオキシ基と、親水基としての末端SONH型ポリオキシエチレン鎖とを有するアニオン性界面活性剤)2部とを、それぞれ単独で、ほぼ同時に添加した。このとき、上記アクリル系ポリマーエマルションおよび上記液状粘着付与剤は、あらかじめ両者を40℃に加温したうえで混合した。増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社の商品名「アロンB−500」)と、pH調整剤としての10%アンモニウム水と、イオン交換水とを適宜使用して、固形分を50%、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして本例に係る粘着剤組成物A1を得た。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。
【0082】
上記粘着剤組成物A1を、バーコーターを用いて、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(王子特殊紙株式会社の商品名「75EPS(M)クリーム(改)」)に塗布した。その塗布物を100℃で2分乾燥して厚み約60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を不織布基材(大福製紙株式会社の商品名「SP原紙−14」)の両面にそれぞれ貼り合わせて粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0083】
<例2>
例1で用いたアクリル系ポリマーエマルションに対し、該エマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり、粘着付与樹脂として軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション(荒川化学工業株式会社の商品名「E−865NT」)をNV基準で20部添加して混合した。次いで、上記エマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり、液状粘着付与剤として水酸基価155mgKOH/g、30℃における粘度70Pa・sのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社の商品名「YP−90LL」)を20部と、界面活性剤として「ラテムルE−1000A」2部とを、それぞれ単独で、ほぼ同時に添加した。このとき、上記アクリル系ポリマーエマルションおよび上記液状粘着付与剤は、あらかじめ両者を40℃に加温したうえで混合した。例1と同様に、固形分を50%、粘度を10Pa・sに調整して、本例に係る粘着剤組成物A2を得た。この粘着剤組成物A2を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0084】
<例3>
例2においてアクリル系ポリマーエマルションに後添加した界面活性剤「ラテムルE−1000A」に代えて、花王株式会社の商品名「エマルゲンA−60」(疎水基としてのジスチレン化フェニルオキシ基と、親水基としての末端OH型ポリオキシエチレン鎖とを有するノニオン性界面活性剤)1.5部および花王株式会社の商品名「エマルゲン109P」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ノニオン性界面活性剤))0.5部を使用した。その他の点については例2と同様にして、本例に係る粘着剤組成物A3を得た。この粘着剤組成物A3を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0085】
<例4>
液状粘着付与剤を添加しない点以外は例2と同様にして、本例に係る粘着剤組成物A4を得た。この粘着剤組成物A4を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0086】
<例5>
アクリル系ポリマーエマルションに界面活性剤を後添加しない点を除いては例1と同様にして、本例に係る粘着剤組成物A5を得た。この粘着剤組成物A5を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0087】
<例6>
アクリル系ポリマーエマルションに界面活性剤を後添加しない点を除いては例2と同様にして、本例に係る粘着剤組成物A6を得た。この粘着剤組成物A6を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0088】
<例7>
例2においてアクリル系ポリマーエマルションに後添加した界面活性剤「ラテムルE−1000A」に代えて、第一工業製薬の「ハイテノール08E」(疎水基がオレイルセチルオキシ基であるアニオン性界面活性剤)2部を使用して、本例に係る粘着剤組成物A7を得た。この粘着剤組成物A7を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0089】
<例8>
例2においてアクリル系ポリマーエマルションに後添加した界面活性剤「ラテムルE−1000A」に代えて、第一工業製薬の「ハイテノールN−17」(疎水基がノニルフェニルオキシ基であるアニオン性界面活性剤)2部を使用して、本例に係る粘着剤組成物A8を得た。この粘着剤組成物A8を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0090】
<例9>
例2においてアクリル系ポリマーエマルションに後添加した界面活性剤「ラテムルE−1000A」に代えて、第一工業製薬の「ハイテノールLA−16」(疎水基がラウリルオキシ基であるアニオン性界面活性剤)2部を使用して、本例に係る粘着剤組成物A9を得た。この粘着剤組成物A9を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0091】
<例10>
例2においてアクリル系ポリマーエマルションに後添加した界面活性剤「ラテムルE−1000A」に代えて、例3で用いた「エマルゲン109P」2部を使用して、本例に係る粘着剤組成物A10を得た。この粘着剤組成物A10を使用して、例1と同様に粘着シートを作製した。
【0092】
以上の各例において作製した粘着剤組成物の概略組成を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
<機械的安定性評価>
例1〜10で作製した各粘着剤組成物の機械的安定性を以下のようにして評価した。
(試験条件)
試験装置:テスター産業株式会社製のマロン試験機
(商品名「AB−802 マロン式機械的安定度試験機」)
サンプル量:50g(固形分50%)
荷重:10kg
回転数:500rpm
試験時間:5分間
(操作方法)
試験機に付属したアルミニウム製容器の底に、試験機付属のポリエチレン製ライナーを取り付け、サンプルの所定量を測り採った。上記試験条件でシェアを印加した後、サンプル中に発生した凝集物を、横浜染色株式会社製のナイロンメッシュ(商品名「ナイロンシャー80メッシュ」)を用いて濾過して捕集した。この捕集物を、25℃、50%RHの環境下に10分間放置し乾燥させて、凝集物の乾燥質量を求めた。その乾燥質量Wcと、サンプル中に含まれていた固形分の質量(サンプル量×固形分)Wsとを、式:Wc/Ws×100;に代入して凝集物発生量(wt%)を求めた。
【0095】
<ウレタンフォームに対する軽圧着粘着力の測定>
被着体として、厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「ECS」(灰色))を幅30mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを用意した。図7に示すように、このウレタンフォーム(ECSフォーム)42の幅方向の両側に、それぞれ約0.1mmの間隔を空けて、厚さ5mmのABS製部材(ウレタンフォームが圧縮されたときの厚みを規制するための治具;ここでは厚さ2.5mmのABS板を2枚重ねたものを5mm厚治具として使用した。)44,45を配置した。
【0096】
23℃の環境下において、例1〜10により作製した各粘着シート(両面粘着シート)の一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを、該試料片の長手方向の一端から約2/3の位置まで剥がした。図8に示すように、これにより露出した粘着面40Bを下にして試料片40をウレタンフォーム42上に載置し、その試料片40の長手方向に重さ2kg、直径85mmのローラ46を30cm/分の速度で一往復させて圧着した。このとき、ローラ46は、ウレタンフォーム42を圧縮(初期状態の50%の厚みに圧縮、すなわち50%圧縮)しつつ、治具44,45の上端に沿って転動した。
【0097】
このようにして、すなわち、幅20mm、長さ約100mmの貼付け面積でウレタンフォームに圧着した試料片を、23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。測定長さは少なくとも10mm以上とした。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、それらを用いた3回の測定結果の平均値を算出した。
【0098】
<PP粘着力の測定>
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面を、被着体としてのポリプロピレン(PP)板に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。各例に係る粘着シートから3つの試料片を作製し、これらの試料片を用いた3回の測定結果の平均値を算出した。
【0099】
<耐水性評価>
上記PP粘着力の測定と同様にして試料片をPP板に圧着し、23℃に30分間保持した後、40℃、92%RHの高温多湿環境下に14日間保持した。その高温多湿環境から取り出し、23℃、50%RHの測定環境に所定時間保持した後、上記PP粘着力の測定と同様にして、引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。上記所定時間が2時間および24時間の2条件で耐水性評価を行った。
【0100】
得られた結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示されるように、水分散型アクリル系ポリマーに、水酸基価100mgKOH/g以上の液状粘着付与剤と、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基を備えたアニオン性またはノニオン性の界面活性剤Sとを後添加してなる例1〜3に係る粘着剤組成物は、いずれも凝集物発生量が1.0質量%以下(より具体的には0.5質量%未満)と低く、機械的安定性に優れたエマルションであることが確認された。これらの粘着剤組成物から形成された粘着シートは、いずれも、ウレタンフォームに対する軽圧着粘着力が1.5N/20mm以上と良好であり、特に例2,3では.5N/20mm以上の軽圧着粘着力が実現された。また、これら例1〜3に係る粘着剤組成物は耐水性にも優れ、具体的には取出し2時間後のPP接着力が5.0N/20mm以上(なかでも例2,3では10N/20mm以上)、かつ圧着30分後のPP粘着力に対して50%以上(より具体的には70%以上、さらに詳しくは80%以上)であった。
【0103】
これに対して、粘着剤組成物が液状粘着付与剤を含まない例4は、凝集物発生量は少ないものの、例1〜3に比べて軽圧着粘着力が1/10以下と著しく低かった。粘着剤組成物が液状粘着付与剤を含むが後添加の界面活性剤を含まない例5,6は、軽圧着粘着力は良好であったが凝集物の発生量が多く、組成物の分散安定性(機械的安定性)の低いものであった。例6の組成に対して、界面活性剤Sに該当しない(芳香環を有する置換基を有するフェニルオキシ基を備えていない)各種の界面活性剤を添加した例7〜10では、いずれも取出し2時間後のPP粘着力(耐水性)が大幅に低下した。
【0104】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1,2,3,4,5,6:粘着シート
10:基材
10A:基材の表面(非剥離性)
21,22:粘着剤層
21A,21B:粘着面
31,32:剥離ライナー
40:試料片
40B:粘着面
42:ウレタンフォーム(被着体)
44,45:治具
46:ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒と該水性溶媒に分散した粘着成分とを含む水性分散液からなる粘着剤組成物であって、
前記粘着成分は:
アクリル系ポリマー;
30℃における粘度が2000Pa・s以下である粘着付与剤L;および、
疎水基としてのアリールオキシ基とアニオン性またはノニオン性の親水基とを分子構造中に有する界面活性剤S、ここで前記アリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基である;
を含有する、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着付与剤Lの水酸基価が50mgKOH/g以上である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
100質量部の前記粘着付与剤Lに対して、前記界面活性剤Sを2〜10質量部含有する、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
水性溶媒と該水性溶媒に分散した粘着成分とを含む水性分散液からなる粘着剤組成物を製造する方法であって:
アクリル系ポリマーが水性溶媒に分散した分散液を調製すること;および、
前記分散液に、30℃における粘度が2000Pa・s以下である粘着付与剤Lと、疎水基としてのアリールオキシ基とアニオン性またはノニオン性の親水基とを有する界面活性剤Sと、を配合すること、ここで前記アリールオキシ基は、芳香環を有する置換基を少なくとも1個有するフェニルオキシ基である;
を包含する、粘着剤組成物製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する、粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−126850(P2012−126850A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280857(P2010−280857)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】