説明

精子細胞を単離する方法及びキット

精子細胞を水性試料から分離するための方法及び精子細胞を水性試料から分離するためのキットが開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(序説)
法医学的試料から得られる遺伝物質は、性的暴行の犯人を確認するために又は罪のない容疑者を解放するために用いることができる。法医学的試料から分離した精子細胞から得られる精製されたDNAは、続いての遺伝子同一性試験において用いることができる。精子細胞DNAの遺伝子プロファイルは、既知の容疑者のそれと又は多数の有罪となった重罪犯人についての遺伝情報を有するデータベースと比較することができる。
性的暴行の場合においては、膣又は直腸をぬぐった綿棒又は精液のついた衣服が裁判分析のために犠牲者から得られる。精子細胞が試料に存在する場合には、精子細胞からDNAを分離するとともに遺伝子同一性試験に用いることができる。しかしながら、性的暴行の被害者から得られる膣をぬぐった綿棒は、典型的には、比較的少ない精子細胞と犠牲者由来の多数の上皮細胞とを含有する。結果として、精子細胞が試料中の他の細胞から最初に分離され、法医学的試料から精製されたDNAは上皮細胞DNAによる圧倒的夾雑を受けやすい。上皮細胞DNAによる夾雑は、試料からのDNA遺伝子プロファイルと容疑者又はデータベースの一人のそれとの間の一致を確立する能力を妨害する。それ故、DNA分離と分析の前に法医学的試料において他の細胞から精子細胞を分離することが望ましい。
法医学的試料において他の細胞から精子細胞を分離するために現在用いられている技術は、時間がかかると共に手間がかかり、現在処理されてない試料が滞っている。この滞っていることから、容疑者が確認されない限り、幾つかの管轄区域には試料の処理に対する方策がある。結論として、多くの処理されていない試料は最終的に捨てられ、試料に含まれる遺伝情報は決して全国的なデータベースと比較されず、それに入れられもせず、性犯罪常習者を確認し且つ逮捕する法的処置能力が低下する。
精子細胞は、典型的には、非還元条件下にプロテイナーゼKと清浄剤で処理することにより上皮細胞を選択的に溶解させることによって、上皮細胞を含有する法医学的試料から分離される(Gill et al. 1985)。上皮細胞溶解後、無傷の精子細胞は遠心分離によって沈降し、溶解した上皮細胞からのDNAを含有する上清が除去される。可溶性上皮細胞DNAによる夾雑を最少にするために、可溶性上皮細胞DNAを除去する試みにおいて精子ペレットは水性緩衝液(aqueous buffer)で反復洗浄することに供される。この方法は、しばしば精子細胞の損失が生じる。
【0002】
精子細胞は、固体支持体(例えば、常磁性粒子)に取付けられた精子細胞特異的なポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体に精子細胞を選択的に結合することによって精子と上皮細胞双方を含有する試料から分離されてきた。細胞を固定化抗体に結合した後、支持体は結合していない細胞を除去するために洗浄される。この方法は、多量の抗体を必要とするので、相対的に費用がかかる。更にまた、精子細胞が洗浄工程の間に失われ、収量の低下が生じる。精子細胞が相対的にpHの膣において構造的な変化を受けることから、多くの精子特異的抗体が全ての精液含有試料からの精子に結合するというわけではない。更に、ある種の個体において精子細胞表面抗原が変化又は突然変異することから抗体が効率的に結合することができず、精子細胞収量が不充分になってしまう。
精子細胞は、試料をサイズ選択的な膜にろ過させることによって細胞サイズの差に基づき上皮細胞から分離することができる。この方法は、精子細胞が上皮細胞の間で捕捉される傾向があり、精子細胞が膜を通過するにはあまりに大きい凝集塊を形成し、且つ膜が詰まる傾向があり、最終的に上皮細胞又は上皮細胞DNAによって夾雑された低収量の精子細胞を生じてしまうことから、問題がある。
他の方法においては、精子細胞は、最初に上皮細胞を選択的に溶解させ、その溶解物をろ過して可溶性上皮細胞DNAと無傷の精子細胞の分離を行うことによって、分離される。しかしながら、その方法は、膜が詰まること、精子細胞収量が少ないこと、上皮細胞DNAによる精子細胞の夾雑を含む不利な点が欠点である。
生殖医学の分野においては、費用がかかり、時間がかかり、且つ法医学的試料(例えば、綿棒又は衣服)から精子細胞と上皮細胞をどのように効果的に回収するかを言及していないことから、有効ではあるが法医学関連においては実用的でないセルソータを用いて新しい精液から精子細胞が分離されてきた。
従って、法医学的試料において上皮細胞から精子細胞を分離する簡易化された方法が本技術分野において求められている。
【0003】
(発明の概要)
一態様においては、本発明は、水性試料(aqueous sample)から精子細胞を分離するための方法を提供する。水性試料を、約1.00g/cm3を超える密度を有し且つ前記試料中の精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい密度を有する非水性液(non-aqueous liquid)と接触させる。接触させた試料に水層、非水層及び精子細胞ペレットを形成するのに充分な時間、力を施す。
別の態様においては、本発明は、水性試料から精子細胞を単離するためのキットを提供する。本発明のキットには、約1.00g/cm3を超える密度を有し且つ試料において精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい密度を有する非水性液が含まれる。任意に、キットには、水性溶媒、プロテアーゼ、カオトロピック剤又は精子細胞を分離するためのプロトコールが含まれてもよい。
【0004】
(発明の詳細な説明)
性的暴行の被害者から得られる法医学的試料は、典型的には、多数の上皮細胞と、存在する場合には、比較的少ない精子を含有する。遺伝子同一性試験において続いて用いられる精子細胞からDNAを得るために、結果の解釈を妨害又は複雑にすることがある水溶性材料から精子細胞、特にDNAを単離することが必要である。例えば、溶解した上皮細胞由来のDNAは、水溶液に可溶性である。
簡潔に言うと、本発明の方法は、精子細胞及び水溶液に可溶な材料を含む水性試料を、水の密度より大きいが精子細胞の密度より小さい密度を有する非水性液と接触させること、並びに、精子細胞をペレット化することを含む。適切には、精子細胞は遠心分離によってペレット化される。水溶性物質(例えば、DNA)は、水相に残り、非水相によってペレット化した精子細胞から物理的に分離される。本明細書に用いられる“精子細胞”には、無傷の精子細胞又は本質的に無傷の精子細胞と、鞭毛又は“尾部”を失った精子細胞とが含まれ得る。精子細胞は、細胞を変化させる環境条件、機械的せん断又は化学処理(例えば、プロテイナーゼK又は他の物質への曝露)に曝され得るが、このような細胞、特にそれらの核を保持する細胞は、本発明の範囲内に含まれる。
性的暴行の被害者からの法医学的試料は、典型的には、固体支持体、例えば、綿棒又は布(例えば、精液のついた衣服から切り取ったもの)に集められる。綿棒又は布は、試験管のような容器又は他の適切な容器に移されて、溶解緩衝液のような水溶液と接触させられ得る。実施例に記載されているように、水性緩衝液と精子細胞の回収は、固体支持体と水性緩衝液を、液体試料を通過させることを可能にする一方で固体支持体の通過を効果的に防止する機械的障壁を備えた第2容器に移し、遠心分離して、水性試料を回収することによって容易にすることができる。前記第2容器は非水性液を保持し、その結果、固体支持体からの水性試料の除去と非水性液による精子細胞の沈降化が単一の遠心分離で達成された。あるいは、非水性液による処理は同じ容器において行うことができ、固体支持体を除去する前か後のいずれかで水性試料を非水性液と接触させることによって、固体支持体を溶解緩衝液で処理してもよい。非水性液を添加した後に、容器は、遠心分離の前に固体支持体が入れられる機械的障壁を、任意に取り付けられてもよい。別のアプローチにおいては、水性試料中の精子細胞は、前記試料を非水性液と接触させる前に、遠心分離によってペレット化されてもよい。非水性液を添加すると、ペレットから水性試料が浮き、精子細胞ペレットと水性試料中の可溶性DNAとの間に障壁(即ち、非水層)が形成する。後者のアプローチは、ペレット化した精子細胞と可溶性DNAとの間の物理的分離を可能にし得るが、遠心分離の前に水性試料を非水性液と接触させる他のアプローチよりも、細胞残渣から精子細胞ペレットを効果的には分離しない。
【0005】
溶解緩衝液は、適切には、プロテイナーゼKと、サルコシル(Sarkosyl)又はSDSとを含む。任意に、溶解緩衝液は、水相の可視化を高めるのに適するいずれかの水溶性色素(例えば、FD & C イエロー)を含むことができる。材料は、上皮細胞の溶解を可能にするが精子細胞の溶解を促進しない条件下、適切な量のプロテアーゼ、例えば、プロテイナーゼK(270μg/ml)で処理される。精子細胞は、曝されるタンパク質が相対的に多数のジスルフィド結合を含むことから、プロテアーゼに対し相対的に抵抗性である。それ故、還元条件は、還元剤の存在は、ジスルフィド結合を破壊し、プロテアーゼで処理された精子細胞の溶解を増大させることから、差次的溶解には適さない。
プロテアーゼと清浄剤で処理した後、溶解した上皮細胞と無傷の精子細胞とを含有する溶解物を、非水性液と接触させる。適切な非水性液には、水の密度より大きいが精子細胞の密度より小さい密度を有するいずれもの非水性液が含まれ、適切には1.00g/cm3を超える密度を有し且つ精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい密度を有するあらゆる非水性液が含まれてもよい。下記の実施例に示されるように、1.29g/cm3未満の密度を有する非水性液は、続くDNAの分離、増幅及び分析のために精子細胞を回収できることがわかった。しかしながら、密度が精子細胞の少なくとも一部をペレット化できるように充分小さいことを条件として、1.29g/cm3を超える密度を有する非水性液が本発明の方法で用いることができることが構想される。本発明の方法に従って精子細胞を分離するために非水性液の適合性を評価することは、充分に当業者の能力の範囲内である。非水性液は、適切には、所望でない精子細胞の溶解を防止するように非カオトロピックである。非水性液は、好ましくは水における溶解性が相対的に低いものである。水における溶解性が低い非水性液を用いると、典型的には、より良い相分離と、上皮細胞DNAのような水溶性材料による精子細胞ペレットの夾雑の減少とが付与される。
非水性液であるジエチルグルタラート(“DEG”)、ジメチルグルタラート(“DMG”)及び1-クロロ-2-メチル-2-プロパノールを評価して、単独で又は組み合わせて用いた場合、本発明の実施において有効であることがわかった。任意に、非水性液の密度は、異なる密度を有する2つ以上の非水性液を所望の密度を得るのに有効な割合で組み合わせて用いることにより調整することができる。2つ以上の非水性液を用いる場合、それらの液体は、適切には、実質的に均一な密度の液体混合物を形成するように、実質的には相互に混和性である。
【0006】
約1.02g/cm3の密度を有するDEG、約1.058g/cm3の密度を有する1-クロロ-2-メチル-2-プロパノール、及び1.09g/cm3の密度を有するDMGの各々を唯一の非水性液として用いた場合に、可溶性の上皮細胞DNAから精子細胞の許容できる分離ができた。DEGは、1.02g/cm3〜1.09g/cm3の非水溶液体混合中間物を得るのに有効な割合でDMGと組み合わせて用いることができる。下記の実施例において、DEGとDMGを約50:50の割合で含む混合液体を用いて約1.055g/cm3の密度を有する非水性液を得て、精子細胞ペレットと水溶性の上皮細胞DNAとの間の分離が有効にできることがわかった。更に、DEGとDMGから約100:0〜約0:100のDEG:DMGの割合で調製される混合液体は、本発明の実施に有効であることがわかった。本発明者らは、種々の割合のDEG及びDMGの有効性を評価し、本発明の方法を用いて許容しうる純度で充分な量の精子細胞を得るのに100:0、50:50、40:60、30:70、20:80、0:100のDEG:DMGの割合が有効であることがわかった。
更に、本発明者らは、DMGをクロロホルムと組み合わせて用いて種々の密度の混合非水性液を得ることができることを見出した。DMGとクロロホルムとの混合液体は、1.29g/cm3以下の密度で精子細胞を分離するのに有効である。DMG:クロロホルムを95:5の割合で含有し約1.108g/cm3の密度を有する混合液体を用いると、精子細胞収量は、DMG単独で得られる精子細胞収量に匹敵した。DMG:クロロホルムを75:25の割合で含有し1.189g/cm3の密度を有する混合液体は、DMG単独より精子細胞収量が低かった。DMG:クロロホルムを50:50の割合で含有し1.29g/cm3の密度を有する混合液体は、低くはあるが検出可能なレベルの精子細胞を得た。言い換えれば、試験した1.29g/cm3以下の密度を有する非水性液の組み合わせは、増幅及び遺伝子同一性試験を可能にするのに充分な収量と純度で精子細胞DNAを得るのに有効であった。具体的には、クロロホルムは、適切な密度を有する混合非水性液を得るのに適した割合を選ぶことによって、DEG又は1-クロロ-2-メチル-2-プロパノールと共に用いて精子細胞を単離できることが構想される。
【0007】
当業者が理解するように、DMGがDEGに対し相対的に低い割合を有する混合非水性液は比較的高い密度を有し、DMGがDEGに対し相対的に高い割合を有する混合非水系液体は比較的低い密度を有する。比較的低い密度を有する非水性液は多数の精子細胞を回収することができるが、比較的高い密度を有する非水性液は、未溶解の上皮細胞と細胞残渣との夾雑が少ない少数の精子細胞を回収することができることが予想される。それ故、用途によっては、種々の非水性液の割合を、多数の精子細胞の回収又はより高純度の少数の精子細胞の回収に効果を挙げるように調整することができる。
溶解した上皮細胞を含む水性試料を非水性液と接触させた後に、前記試料は、水相と非水相の分離と精子細胞のペレット化とを引き起こすのに有効な時間、力を施される。好ましくは、前記試料を遠心分離することによって、前記試料に力が施される。任意に、固体支持体から細胞及び溶液の除去を可能にするため、回転バスケットを遠心分離工程で使用することができる。
水に可溶性である上皮細胞DNAは水層に見られ、捕捉した上皮細胞DNAをも含有し得る不溶性の上皮細胞残渣は、非水性液の密度によって、水層と非水層との間の界面で見られる。上皮細胞DNAと細胞残渣は水層と界面領域とを除去することによって除去され、その除去はピペット操作を含むあらゆる適切な手段によって達成することができる。水相に存在する上皮細胞DNAは、遺伝子同一性試験の対照物として用いて、試料の供給源を確認することができる。水相の回収後、少量の水溶液が非水相の表面又はその近くに、また、容器壁上に残る場合がある。精子細胞ペレットを破壊せずに、前記水溶液及び上皮細胞DNAの除去を高めるために、任意に、最初に水又は適切な水溶液を非水相に重層し、次に水相を除去することによって、残留水溶液を除去してもよい。水は非水性液と混合しないため、溶液を遠心分離して水層と非水層とを分離する必要がない。
【0008】
水相の除去に続いて、カオトロピック剤及び還元剤を含有する溶解緩衝液を非水性液に添加しボルテックスミキサーで混合して、実質的に均一な混合物を形成することができる。実施例2に示すように、チオシアン酸グアニジン(GTC)及びジチオトレイトール(DTT)を含有する溶解緩衝液を非水相及び精子細胞ペレットと混合して、精子細胞を溶解する。実施例2は、更に、その後、精子細胞溶解物にDNAを結合することができる樹脂を添加して、他の細胞材料からDNAを精製することができることを示している。
或はまた、実施例3に記載されるように、水層と非水層双方を除去して、精子細胞ペレットを残すことができ、存在する精子細胞は、細胞を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(1% w/v)やDTTのような清浄剤を含む水溶液と接触させることによって溶解し、続いてフェノール:クロロホルムで抽出することができる。
具体的には、水相の除去に続いて、精子細胞ペレット及び非水相をフェノール:クロロホルム及び清浄剤(例えば、SDS又はサルコシル)を含有する水溶液で抽出して、精子細胞DNAを遊離できることが構想される。
実施例に記載されるように、本発明の方法は、膣又は子宮頸部をぬぐった綿棒のような法医学的試料の中に含有する上皮細胞から精子細胞を分離するのに有効であることがわかった。本方法は、他の供給源から精子細胞を分離するのに有効であることが構想され、前記供給源としては、布のような精液を含有する他の固体支持体が挙げられる。本発明の方法は、精子細胞と、夾雑している赤血球又は白血球又は有核非精子細胞に由来するDNAとを含有する試料での使用に適していることが予想されるのは合理的なことである。
本発明の方法は、細胞をそれらの差次的密度に基づいて分離するのに一般的な応用性を有すること、又は選択的な溶解後、水性溶媒に可溶性の材料から他の細胞型の単離を容易にすることが予想される。本方法は、種々の細胞下の細胞小器官を分離するのに適し得ることも構想される。
以下の非限定的実施例は、純粋に具体的な説明のためのものである。
【実施例】
【0009】
(実施例1:上皮細胞を含有する試料から精子細胞の分離)
精子細胞の単離を評価するのに用いる試料としては、添加された精液を含有する新しい口腔用綿棒、添加された精液を含有する新しい又は4年前の膣の試料、4年前の性交11時間後の膣の試料が含まれた。試料を含有する固体支持体(例えば、綿棒)を微小遠心管に入れた。各試料に50mM NaCl、10mMトリス、pH 8.0、10mM EDTA、0.2% SDS、FD&C黄色色素、及び270μg/mlのプロテイナーゼKを含有する0.5mlアリコートの消化溶液を添加した。試料を含有する管を30秒間ボルテックスし、56℃で1時間インキュベートした。ジエチルグルタラートとジメチルグルタラートとを100:0、50:50、40:60、30:70、20:80、0:100のDEG:DMGの割合で混合して、混合非水性液を形成した。50:50の割合は、約1.055g/cm3の密度を有する液体を形成した。DEG:DMGを100:0、50:50、40:60、30:70、20:80、又は0:100の割合で含む100μlアリコートの非水性液を、回転バスケットを備えた清浄な微小遠心管へ移した。インキュベーション後、プロテイナーゼK消化反応物と固体支持体を回転バスケットへ移した。回転バスケットと微小遠心管を微小遠心機に入れ、14,000rpm(10,000×g)で10分間遠心分離した。黄色の水相及び水相と非水相との間の境界の近くのあらゆる細胞残渣を、ピペット操作によって除去した。100μlアリコートの水を非水相上に重層し、約30秒間放置した後、ピペットで水相を除去した。
更に、非水溶液としてジメチルグルタラートとクロロホルムとを特定の割合で用いて精子細胞を分離した。ジメチルグルタラートとクロロホルムを95:5、75:25、50:50のジメチルグルタラート:クロロホルムの割合で混合した。50:50混合液の密度は、1.290であった。
【0010】
(実施例2:カオトロピック塩及び還元条件を用いた精子細胞又は溶解した上皮細胞からDNAの単離)
DNA IQTM 系(Promega Corp.、マディソン、ウィスコンシン州 Cat. No. DC6701)に示される成分を用いてPromega Technical Bulletin TB296に記載されるDNA単離法に従って、実施例1の精子細胞ペレットからDNAを単離した。4.5Mチオシアン酸グアニジン(GTC)と10mMジチオトレイトール(DTT) とを含有するDNA IQTM 溶解緩衝液の200μlアリコートを、非水性液と精子細胞ペレットを含有する微量遠心チューブに添加し、ボルテックスして、簡単に精子細胞ペレットを破壊し且つ非水相と溶解緩衝液の均一な混合物を形成した。
その溶液にDNA IQTM 樹脂の7μlアリコートを添加し、高速で3秒間ボルテックスすることによって混合し、室温で5分間インキュベートした。その混合液を高速で2秒間ボルテックスし、チューブを磁気スタンドに入れ、常磁性樹脂がチューブの側面に引きつけられた後、溶解緩衝液と非水性液の均一な混合液を除去し捨てた。粒子を、100μの該アリコートのDNA IQTM洗浄緩衝液をで3回洗浄した。粒子を40μlのDNA IQTM 溶離緩衝液と接触させ、高速で2秒間ボルテックスし、65℃でインキュベートした。65℃でインキュベートした直後に、チューブを高速で2秒間ボルテックスし、磁気スタンドに入れ、溶出液を清浄な容器へ移した。
前項で記載したように、溶解した精子細胞からDNAを単離した同様の方法で上皮細胞DNAを単離した。
【0011】
(実施例3:清浄剤及びフェノール:クロロホルム抽出を用いた精子細胞からDNAの分離)
実施例1の精子細胞ペレットから、最初に非水性液を除去して固まった精子細胞ペレットが残ることによってDNAを分離した。10mMトリス、pH 8.0、1mM EDTA、10mM DTT、及び1%SDSを含有する300μl溶液を精子細胞ペレットに添加し、チューブをボルテックスして、精子細胞を溶解させると共にDNAを溶解した。等容積のフェノール:クロロホルム(1:1、v/v)を添加し且つボルテックスして、タンパク質を変性させた。DNA含有水溶液を除去し、Microcon(登録商標)装置において濃縮し、10mMトリス、pH 8.0、0.1mM EDTを含有する200μlの緩衝液で洗浄し、更にまたMicrocon(登録商標)装置において約40μlまで濃縮した。精製されたDNAを清浄な容器へ移した。
【0012】
(実施例4:多重増幅後の精子細胞DNAの確認)
実施例2又は実施例3に従って、分離された精子細胞又は溶解した上皮細胞からDNAを回収した後、PowerPlex(登録商標)16(Promega Corp.、マディソン、ウィスコンシン州、Cat. # DC6530)を用いてDNAを増幅した。その後、ABI Prism(登録商標)310ジェネティックアナライザを用いて増幅されたDNAを分析した。
代表的結果を、図1に示される電気泳動図に示す。図1に関して、精子細胞を含有する膣をぬぐった綿棒から実施例1及び実施例2に記載した通りに精子細胞又は上皮細胞からDNAを分離し、室温で4年間保存した。上皮細胞溶解物又は精子細胞溶解物からDNA IQTM 系によってDNAを精製した後、DNA(1/400th の上皮細胞部分と1/80th の精子部分)をPowerPlex(登録商標)16を用いて増幅し、増幅産物をABI Prism(登録商標)310ジェネティックアナライザを用いて分析した。図1の電気泳動図は、フルオレセインチャネルの増幅産物を示し(図1A)、JOEチャネルの増幅産物を示し(図1B)、TMRチャネルの増幅産物を示し(図1C)ている。この結果を、16の遺伝子座の各々が更に容易に同定できるように色素カラーに従って分け、精子細胞DNAから得られた結果を、上皮細胞DNAから得られる結果のすぐ上に示す。
図1からわかるように、本方法は、精子細胞DNAにおいて非常に低レベルの夾雑上皮細胞DNAによって明示されるように、上皮細胞から精子細胞の分離を提供する。ごくわずかな精子細胞DNAが上皮細胞DNA画分に見られ、これは、室温で長期的に貯蔵した間の精子細胞溶解によるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法によって分離した精子細胞又は上皮細胞から単離し増幅したDNAの電気泳動図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子細胞を水性試料から分離する方法であって、
(a) 水性試料を約1.00g/cm3より大きい密度を有する非水性液と接触させる工程であって、前記非水性液の密度が前記試料中の精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい前記工程;及び
(b) 接触させた試料に、充分な時間、力を施して、水層、非水層及び精子ペレットを形成する工程;
を含む、前記方法。
【請求項2】
力が遠心分離によって施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
非水性液が、ジエチルグルタラート、ジメチルグルタラート及び1-クロロ-2-メチル-2-プロパノールのうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
非水性液がジエチルグルタラートを含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
非水性液がジメチルグルタラートを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
非水性液がジエチルグルタラートとジメチルグルタラートとを含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
非水性液が、ジエチルグルタラートとジメチルグルタラートとを、約99.9:0.1〜約0.1:99.9のジエチルグルタラート:ジメチルグルタラートの割合で含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
非水性液が少なくとも約1.01g/cm3の密度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
非水性液が約1.29g/cm3以下の密度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
非水性液がクロロホルムを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
非水性液が、ジエチルグルタラート、ジメチルグルタラート及び1-クロロ-2-メチル-2-プロパノールのうちの少なくとも1つとクロロホルムとを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
非水性液が、クロロホルムとジメチルグルタラート(DMG)とを、約0.1:99.9〜約50:50のジメチルグルタラート:クロロホルムの割合で含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
非水性液が、約1.02g/cm3〜約1.29g/cm3の密度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
非水性液が、約1.050g/cm3〜約1.058g/cm3の密度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
水性試料が、溶解した上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
(c) 水層を除去する工程
を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
(d) 非水層及び精子ペレットを、カオトロピック剤と接触させる工程
を更に含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
カオトロピック剤がカオトロピック塩を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
カオトロピック剤が清浄剤を含み、
(e)工程(d)の非水層及び精子細胞ペレットを、フェノール:クロロホルムと接触させる工程
を更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
(d) 非水層を除去する工程
を更に含む、請求項16記載の方法。
【請求項21】
(e) 工程(d)の細胞ペレットを、水性清浄剤及びフェノール:クロロホルムと接触させる工程
を更に含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
溶解した上皮細胞を含む水性試料中の精子細胞からDNAを単離する方法であって、
a) 水性試料を約1.00g/cm3より大きい密度を有する非水性液と接触させる工程であって、前記非水性液の密度が前記試料中の精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい前記工程;
b) 接触させた試料を遠心分離して、水層、非水層及び精子細胞ペレットを形成する工程;
c) 水層を除去する工程;
d) 非水層及び精子細胞ペレットを、カオトロピック剤及び還元剤を含む溶解緩衝液と接触させる工程; 及び
(e) 工程(d)の接触させた精子細胞ペレットからDNAを単離する工程
を含む、前記方法。
【請求項23】
溶解した上皮細胞を含む水性試料中の精子細胞からDNAを単離する方法であって、
a) 水性試料を約1.00g/cm3より大きい密度を有する非水性液と接触させる工程であって、前記非水性液の密度が前記試料中の精子細胞の少なくとも一部をペレット化するのに充分小さい前記工程;
b) 接触させた試料を遠心分離して、水層、非水層及び精子細胞ペレットを形成する工程;
c) 水層及び非水層を除去する工程;
d) 精子細胞ペレットを、清浄剤及びフェノール:クロロホルムを含む水溶液と接触させる工程; 及び
(e) 工程(d)の接触させた精子細胞ペレットからDNAを単離する工程
を含む、前記方法。
【請求項24】
精子細胞を含む試料から精子細胞を単離するためのキットであって、
約1.00g/cm3より大きい密度を有する非水性液であって、非水性液の密度が試料における精子細胞の少なくとも一部を沈降させるのに充分小さい前記非水性液を含む、前記キット。
【請求項25】
水性緩衝液を更に含む、請求項24記載のキット。
【請求項26】
プロテイナーゼKを更に含む、請求項24記載のキット。
【請求項27】
カオトロピック剤を更に含む、請求項19記載のキット。
【請求項28】
回転バスケットを更に含む、請求項19記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2008−512123(P2008−512123A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531328(P2007−531328)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/031989
【国際公開番号】WO2006/031591
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(593089149)プロメガ コーポレイション (57)
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
【Fターム(参考)】