説明

精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法および光学素子の製造方法

【課題】熱間成形法を用いて、より所望の形状に近い近似形状プリフォームを成形するための手段を提供すること。
【解決手段】下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上型および下型によりプレスすることによりガラス塊を成形すること、および、上下型によるプレスを解除した後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、を含み、上下型によるプレス開始から精密プレス成形用プリフォームの取り出しまでの間に、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し下型凹部上でガラス塊を、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する期間を設けること、を特徴とする、精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密プレス成形用プリフォームの製造方法および前記方法で作製したプリフォームを精密プレス成形する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面レンズなど高精度なガラス製光学素子を高い生産性のもとに量産する技術として精密プレス成形法(モールドオプティクス法)が知られている。精密プレス成形法では、一般にプリフォームと呼ばれる成形体を作製し、このプリフォームを加熱して成形型内でプレス成形する手法が取られている。
【0003】
精密プレス成形は、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。したがって、成形型内部の空間(キャビティー)の形状は所望の光学素子と同形状に設計される。プリフォームの形状が所望の光学素子の形状と大きく異なると、成形型キャビティーの形状とも大きく異なることになるため、プレス成形温度を高くしてガラスの流動性を高めなければ、成形型キャビティーにガラスを十分行き渡らせることが困難となり不良が発生してしまう。他方、プレス成形温度を高くするほど、ガラスと成形型との反応性が高まるため、ガラス表面の変質やガラスと成形型との融着の原因となる。したがって、プリフォームの形状を所望の光学素子の形状に近づけることは、成形型キャビティーの充填不足による不良発生の防止につながり、また、プレス成形温度を低く設定することができるため、ガラスと成形型との反応によるガラス表面の変質やガラスと成形型との融着を防止することができる。このような理由から、所望の光学素子の形状に近似する形状のプリフォーム(以下、「近似形状プリフォーム」ともいう。)の需要が高まっている。
【0004】
ところで、精密プレス成形用のプリフォームを作製する方法としては、熔融ガラスからガラスブロックを成形し、このブロックを所定の寸法に切断して表面を滑らかにするとともに所定の重量にするための研削、研磨を行う方法(冷間加工法という。)と、熔融ガラスからプリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離し、このガラス塊を冷却する過程で直接プリフォームに成形する方法(熱間成形法という)が知られている。
近似形状プリフォームは、両面とも凸面または凹面、一方の面が凸面で他方の面が凹面、一方の面が平面で他方の面が凸面または凹面といった、所望の光学素子の形状に対応する形状に形成される。冷間加工法は、球形状などシンプルな形状の加工に向いているが、近似形状プリフォームのような複雑な形状の加工には不向きである。一方、熱間成形法は、ガラスが軟化状態にある間にプレスして所望の形状に成形することができるため、近似形状プリフォームの生産に適している。
【0005】
熱間成形法による近似形状プリフォームの成形法については、例えば特許文献1、2に、下型上で浮上している熔融ガラス塊を上部から上型によりプレスし、所望の形状に成形する方法が開示されている。この方法によれば、例えば、凸形状のプレス成形面で熔融ガラス塊の上部をプレスすることにより、上面が凹面状のプリフォームが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−52720号公報
【特許文献2】特開2006−290702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、光学素子の高機能化、高性能化に伴い、精密プレス成形にはますます高い成形精度が求められている。精密プレス成形において成形精度を高めるためには、従来よりもより一層、プリフォームの形状を精密に制御することが必要とされる。
また、撮像光学系の高機能化、コンパクト化の面から、高屈折率高分散ガラスを精密プレス成形して得られるレンズの需要も高まっている。高屈折率高分散ガラスは、高屈折率高分散特性を得るためにNb、Ti、W、Biなどの成分を多量に含む。ところが、これら成分は精密プレス成形時にプレス成形面との間で酸化還元反応を起こし、得られる光学素子の表面にクモリや傷を発生させる原因となる。特に、プレス成形の進行によって、プリフォームが変形し内部の活性に富んだガラスがプレス成形面と直接接触すると、上記反応による不具合が助長されてしまう。こうした不具合の発生を抑えるには、プリフォームの形状をより一層、所望の光学素子の形状に近似させ、プレス成形におけるガラスの変形量を小さくし活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないようにすることが効果的である。
【0008】
以上の理由により、近年プリフォームの形状を、所望の光学素子の形状により一層近似させる必要性が高まっている。しかし本発明者らが、特許文献1、2に開示されている方法で作製したプリフォームの形状を調べると、プリフォーム形状が所望の形状からずれ、近年の精密プレス成形用プリフォームに必要とされる形状精度を満たさないことが判明した。
【0009】
そこで本発明の目的は、熱間成形法を用いて、より所望の形状に近い近似形状プリフォームを成形するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために特許文献1、2に記載の方法を用いたときにプリフォームの形状が所望の形状からずれる原因について鋭意検討し、次のような知見を得た。
プリフォームの熱間成形では、通常、複数個の成形型をターンテーブル上に配置し、このターンテーブルをインデックス回転させて各成形型に流出、分離した熔融ガラス塊を順次受け、次の停留位置においてプレス成形を行う。各成形型の移送、停留は同期して行われるため、プレス時間をガラス塊が内部まで十分冷却されるほど長く取ることは難しい。
そのため、プレスを解除するとガラス塊内部の熱量によりプレスされたガラス塊上面が再加熱されて、一旦上昇した粘度が再び低下する。その結果、プレスされたガラス上面の形状が表面張力によりプレス前の形状に戻ろうとして盛り上がるため、プレスにより成形した形状から中心肉厚が増加する。プリフォームの中心肉厚が所望形状から意図せず増加すると、該プリフォームを用いて行われる精密プレス成形における変形量は、プリフォームをより薄くする必要があるため必然的に多くなってしまう。他方、こうした現象を回避しようとプレス時にガラスを強く冷却しすぎると、プリフォーム表面にシワが生じ、滑らかな表面を有するプリフォームを得ることができなくなってしまう。
以上の知見に基づき本発明者らは更に検討を重ね、上型および下型によるプレス開始から精密プレス成形用プリフォームの取り出しまでの間に、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し下型凹部上でガラス塊を、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する期間を設けることで、プレス解除後にプリフォーム上面が盛り上がりプレスにより成形した形状から中心肉厚が増加することを回避できることを新たに見出した。これは、プレス中に上記期間を設けることでガラス塊下面の周縁部が下型凹部表面と接触し固化して形状が確定される結果、プレス解除後に上面を盛り上げようと働く表面張力に抗することができるからであり、また、プレス解除後に上記期間を設けることでガラス塊内部で自重により下向きに働く力が、上面を盛り上げようとする力に抗することができるからである。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0011】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上型および下型によりプレスすることによりガラス塊を成形すること、および、
上下型によるプレスを解除した後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を含み、
上下型によるプレス開始から精密プレス成形用プリフォームの取り出しまでの間に、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し下型凹部上でガラス塊を、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する期間を設けること、
を特徴とする、精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[2]前記期間をプレス解除後に設ける、[1]に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[3]前記期間中、ガラス塊中央部と下型凹部の隙間がガラス塊の自重により減少する、[2]に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[4]前記期間を上型によるプレス中に設ける、[1]〜[3]のいずれかに記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[5]上型によるプレスを解除した後に、ガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、該ノズルからガラス塊上面にガスを噴出することを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[6]上記期間中に浮上ガスを停止し、該期間後に浮上ガスの噴出を再開し浮上ガスを噴出させながら下面凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出す、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[7]熔融ガラスのキャストから精密プレス成形用ガラスプリフォームを取り出した下型凹部に新たな熔融ガラスをキャストするまでの工程を、複数の下型を循環移送して繰り返し行う、[1]〜[6]のいずれかに記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、および、
製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形すること、
を含む、光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の光学素子の形状に近似した、近似形状プリフォームを高い形状精度をもって成形することができる。こうして得られたプリフォームを精密プレス成形することにより、高品質な光学素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプリフォームの製造方法の一態様にかかる工程説明図を示す。
【図2】本発明のプリフォームの製造方法の一態様にかかる工程説明図を示す。
【図3】実施例および比較例で使用した成形テーブルにおける下型の配置図を示す。
【図4】実施例1、2および比較例1で得られたプリフォームの上面形状図を示す。
【図5】実施例3で得られたプリフォームの上面形状図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法]
本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法は、
下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上型および下型によりプレスすることによりガラス塊を成形すること、および、
上下型によるプレスを解除した後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を含む精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法であり、上下型によるプレス開始から精密プレス成形用プリフォームの取り出しまでの間に、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し下型凹部上でガラス塊を、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する期間を設ける。これにより先に説明したように、上下型によるプレス解除後にガラス塊上面が表面張力により盛り上がることを防ぐことができ、所望形状のプリフォームを得ることが可能となる。
以下、本発明の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法(以下、単に「プリフォームの製造方法」ともいう)について、更に詳細に説明する。
なお本発明のプリフォームの製造方法では、上記の通りプレスによるガラス塊の成形は上型および下型を用いて行う。当該プレスは、下型凹部にキャストした熔融ガラスを、浮上ガスを噴出する下型上で上方から上型によりプレスすることと同義である。
【0015】
図1に、本発明のプリフォームの製造方法の一態様にかかる工程説明図を示す。
図1に示す態様は、上型によるプレス解除後に上記期間を設けるものであり、下型凹部への熔融ガラスのキャスト(図1(a))、下型凹部での熔融ガラスの浮上(図1(b))、上型による熔融ガラス塊のプレス(図1(c))、プレス解除後の浮上ガス停止ないし浮上ガス量低減による下面形状制御(図1(d))、の工程を含み、任意に浮上ガス噴出再開ないし浮上ガス量増加工程(図1(e))を含む。これら工程を、ターンテーブルやコンベヤー等を用いて、複数の成形型(下型)を連続的または断続的に循環移送して繰り返し行うことにより、プリフォームを連続的に量産することができる。例えば、複数の下型をターンテーブル上に配置し、ターンテーブルをインデックス回転して複数の下型を同期させ各停留位置に次々と一括して移動させることで、下型を循環移送することができる。
以下、各工程について、順次説明する。
【0016】
下型凹部への熔融ガラスのキャストは、上端が熔融ガラス槽に取り付けられた白金、白金合金、金等からなる流出パイプから流出する熔融ガラス流から分離された熔融ガラスを下型凹部に受けることで行われる(図1(a)参照)。熔融ガラスは、例えば、ガラス原料を加熱、熔融し、脱泡、均質化して得られたものであり、この熔融ガラスを一定の流出速度で連続してパイプから流出し、流出する熔融ガラス流の下端部を流出パイプ下方に置いた下型上で受け、さらに、下型を鉛直下方に急降下して、熔融ガラス流から下型上の熔融ガラス流下端部を分離し、上記下型の凹部内に分離した熔融ガラス塊を受けることができる。この方法の代わりに、流出する熔融ガラス流の下端部をパイプ下方に配置した支持体で受け、支持体を鉛直下方に急降下して、熔融ガラス流から支持体上の熔融ガラス流下端部を分離し、上記分離した熔融ガラス塊を下型の凹部内に供給する方法、または、流出する熔融ガラス流の下端部をパイプ下方に配置した支持体で受け、支持体による支持を急速に取り除いて、熔融ガラス流から支持体で支持していた熔融ガラス流下端部を分離し、上記分離した熔融ガラス塊を下型の凹部内に供給する方法などを用いて、下型凹部へ熔融ガラスをキャストすることもできる。
【0017】
下型凹部にキャストされた熔融ガラスは、下型凹部上で浮上ガスによる風圧が加えられ浮上状態に保持される(図1(b)参照)。これにより下型上で熔融ガラスが冷却され、上型によるプレスにより成形可能な粘度に粘度調整(粘度上昇)される。ここで使用される下型には、凹部表面に熔融ガラスに風圧を加えて浮上させるためのガスを噴出するガス噴出口が設けられている。下型凹部表面上では、熔融ガラスは浮上状態にあり下型凹部表面の形状がプレスによりガラスに転写されることはないため、ガラスに当該表面の形状を転写する成形面となっている必要はないが、ガラス塊が一時的または瞬間的に接触することがあり得るので、平滑な面に形成することが好ましい。
【0018】
上記下型としては、多孔質材でガラス塊を載せる凹部を形成し、多孔質材を通してガスを噴出する成形型、または熔融ガラスをキャストする凹部に複数の細孔からなるガス噴出口を有する成形型を使用することができる。
熔融ガラスの浮上のためにガス噴出口から上方に向けて噴出される浮上ガスとしては、ガラスと反応しないガスを用いることが好ましく、具体的には、空気、窒素、不活性ガスなどを挙げることができる。また、浮上ガスの流量および圧力は、熔融ガラス塊が下型との融着を生じないように安定した浮上状態に保つことができるように定めることが好ましい。キャストしたガラスの容量に応じて、噴出させるガスの流量および圧力は適宜調整することができる。具体的には、例えば、浮上ガスの流量は毎分0.10〜1.00リットルの範囲、浮上ガスの圧力は0.3〜0.5MPaの範囲とすることが、それぞれ好ましい。また、浮上ガスは、必要に応じて、ガラスを冷却可能な温度に温度調整して供給することもできる。
【0019】
こうして下型凹部にキャストされた熔融ガラスは浮上状態にて冷却され、プレス成形に適した所定粘度になるよう粘度調整がなされる。熔融ガラス塊の粘度が、103ポアズから104.4ポアズになるように冷却調整することが、上型によるプレス成形を容易に行う観点から好ましい。
【0020】
次いで、図1に示す態様では、浮上ガスを噴出し続けながら、熔融ガラスを上方から上型によりプレス成形する、すなわち、熔融ガラスを上型および下型によりプレス成形することでガラス塊を成形する(図1(c)参照)。プレス時に下型表面から噴出する浮上ガス流量は、プレス前と同じでもよく変化させてもよい。プレス成形は、下型の上方で待機する上型を下降して熔融ガラス上面に圧力を加えることで行われる。ここでのプレス成形は、上型成形面を接触させ押圧して行ってもよく、上型成形面から噴出されるガスによる風圧により行ってもよい。風圧を加えるためには、上型成形面を多孔質材料から形成するか、上型成形面に複数の細孔を設ければよい。なお本発明では、下型上で上方に面した表面を上面、下方に面した表面を下面という。上記プレスにより、ガラス塊上面に上型の成形面形状が転写される。このプレス成形時に下型凹部表面から浮上ガスを噴出し続けることで、少なくともガラス塊下面中央部と下型凹部表面とを非接触状態に維持することができる。
【0021】
上記上型によるプレス後、ガラス塊上から上型を退避させプレスを解除する。その後、図1に示す態様では、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し、ガラス塊を、下型凹部上でガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する。図1(d)には、浮上ガスを停止する態様を示している。プレス解除後、当該期間を設けない場合には、ガラス塊下面に浮上ガスによる風圧が加わるため、ガラス塊内部で下向きに大きな力を働かせることができず、上面を盛り上げようとする力を低減することが困難となる。その結果、先に説明したようにガラス塊内部の熱量によりガラス塊上面が盛り上がることで、上型成形面の面形状を転写して形成されたガラス塊上面の形状が変化してしまう。これに対し上記期間を設ければ、ガラス塊内部で自重により下向きに働く力が、上面を盛り上げようとする力に抗することができ、これによりプレス解除された上面が盛り上がることを防ぐことができる。また、ガラス塊を冷却する過程で、ガラスが収縮してガラス塊下面の中央部が窪み(所謂、「ヒケ」)、ガラス塊下面を所望の形状に成形することが困難となる場合もあるが、上記操作により、ガラスの自重によってガラス塊下面の中央部が窪むことを抑制し、ガラス塊下面形状を所望の形状に成形することができる。
【0022】
プレス解除後、浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減しガラス塊下面周縁部を下型凹部表面と接触させた状態で保持する際には、ガラス下面周縁部は下型に支持され、中央部が下型表面と離間した状態にあること、すなわち、中央部と下型表面との間に隙間があることが好ましい。ガラス塊下面中央部が自重により大きく垂下するため、ガラス塊内部に下向きに大きな力を加えることができるからである。その結果、ガラス素材上面を盛り上げようとする力をより一層低減することができる。上記プレスにより、下型凹部表面よりもカーブの浅い(曲率半径の大きい)下面を有するガラス塊を成形すれば、浮上ガスを停止または浮上ガス量を低減することで、ガラス塊下面を周縁部で下型凹部表面と接触させ、中心部では離間した状態、すなわち、ガラス塊下面の中心部と下型凹部表面との間に隙間がある状態とすることができる。
【0023】
浮上ガスを停止または浮上ガス量を低減する期間は、ガラス塊の上面形状が変化しない程度まで冷却されるようにガラスの性質およびサイズに応じて適宜決定することができる。例えば、一般的な撮像素子作製用の体積100〜1000mm3程度のプリフォームを製造する際には、1〜20秒程度とすることができる。また、浮上ガス量を低減する態様では、ガラス塊下面が下型凹部表面と周縁部において接触する程度に風圧が低下するように、ガラス塊のサイズに応じて浮上ガス量の低減率を決定することができる。例えば、一般的な撮像素子作製用の上記体積を有するプリフォームを製造する際には、低減前の0%超〜10%程度の浮上ガス量とすることが好ましい。
【0024】
ガラス塊上面の形状変化をより一層抑制するためには、ガラス塊上から上型を退避させプレスを解除した後、上型および下型の少なくとも一方を移動させることでガラス塊上面の上方から上型を除去し、次いでガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、該ノズルからガラス塊上面にガスを噴出することが好ましい。このようにガス噴出ノズルからガラス塊上面にガスを噴出すれば、ガラス塊上面に風圧を加えることができるため、ガラス塊上面を盛り上げようとする力を抑え上面の形状変化をより一層抑制することができる。ガラス塊を上方から見ると、中央ほど温度が高く(低粘度)、周囲に行くほど温度は低下(高粘度)するため、低粘度で表面張力により変形しやすいガラス塊中央部に強い風圧を加えることが好ましい。このためには、ガス噴出ノズルの開口部の中心とガラス塊上面の中心が一致するように位置合わせしガスを噴出することが好ましい。ガス噴出ノズルから噴出されるガスによりガラス塊上面に加わる平均面圧は、0.2〜90Paの範囲とすることが、上面の形状変化をより一層抑制することができ好ましい。ノズルから噴出するガスとしては、浮上ガスについて例示したガスが、ガラスと反応しないため好ましい。噴出ガスの流量は、上記好ましい平均面圧を実現可能な範囲に設定することが好ましく、例えば、一般的な撮像素子作製用の体積100〜1000mm3程度のプリフォームを製造する際には、毎分1〜30リットルの範囲とすることが好適である。また、ガラス塊上面にガスを吹き付け、冷却を促進することで、ガラス塊上面の形状変化をより効果的に抑制することができる。この観点からは噴出ガスは、ガラス塊上面よりも低温のガスが好ましく、ヒータによる加熱を行わないことがより好ましく、噴出ガスのガス流路に冷却媒体を設けるなどして、ガラス塊上面に吹き付けるガスを冷却することもできる。ガラス塊上面にガスを吹き付ける期間は、ガラス塊上面の変形を効果的に抑制する観点からは、1〜10秒程度とすることが好ましく、上記期間は、前述の浮上ガスを停止または浮上ガス量を減少させる期間内としてもよく、当該期間前または当該期間後とすることもできる。ガラス塊上面の変形はプレス解除直後から上面が固化するまで進行する。大きく変形した状態でガラス塊上面が固化すると、得られるプリフォームの形状はプレスにより形成した所定形状から大きくずれることとなる。したがって、プレス解除後に迅速にガス噴出ノズルの配置およびガラス塊上面へのガスの吹き付けを開始することが好ましい。同様の理由から、プレス解除後の浮上ガスの停止または浮上ガス量の減少も、プレス解除後に迅速に開始することが好ましい。
【0025】
以上説明した図1に示す態様では、上型によるプレス解除後に浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減する期間を設けるが、本発明では、浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減する期間を上型によるプレス中に設けてもよい。当該態様の一例を、図2に示す。図2(a)〜(c)は、図1(a)〜(c)と同様であり、図2に示す態様では、上型によるプレス中に下型凹部表面からの浮上ガスの噴出を停止している(図2(d)参照)。これにより、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触し固化するため、プレス解除後に上面を盛り上げようとする表面張力に抗することができ、上面の盛
り上がりを抑制することができる。また、プレス解除後に生じる表面張力が大きい場合には外周部のガラスを中心方向に戻そうとする力となり、プレスにより確定した外径がプレス解除後に縮小し、これもプリフォームの形状精度低下の原因となる。これに対し、プレス中(プレス解除と同時に行う場合も含む。)に浮上ガスを停止するか浮上ガスの噴出量を低減しガラス塊下面周縁部を下型凹部表面と接触させれば、外径変化にも抗することができ、結果的に、得られるプリフォームの形状精度をより一層高めることができる。なお、プレス中に浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減する場合、浮上ガスの噴出停止または浮上ガスの噴出量低減中にガラス塊下面中央部は下型凹部表面と接触してもよく、非接触であってもよい。ただし、流動性を有する状態で下型凹部表面と接触すると、ガス噴出口内部にガラスが侵入し融着を起こしたり、ガス噴出口の形状が転写される場合があるため、プレス中はガラス塊中央部と下型凹部表面との非接触状態を維持することが好ましい。
【0026】
上型によるプレス中に浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減する期間を設けガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触させる場合、浮上ガスの噴出を停止、または浮上ガスの噴出量を低減したまま上型によるプレスを解除してもよく、浮上ガスの噴出を再開、または浮上ガスの噴出量を増加させた後に上型によるプレスを解除してもよい。図2には、前者の態様が示されている(図2(e)参照)。
【0027】
上型によるプレス中に浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減する場合、浮上ガスを停止または浮上ガス量を低減する期間は、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触し固化する程度まで冷却されるようにガラスの性質およびサイズに応じて適宜決定することができる。例えば、一般的な撮像素子作製用の体積100〜1000mm3程度のプリフォームを製造する際には、1〜20秒程度とすることができる。また、浮上ガス量を低減する態様では、ガラス塊下面が下型凹部表面と周縁部において接触する程度に風圧が低下するように、ガラス塊のサイズに応じて浮上ガス量の低減率を決定することができる。例えば、一般的な撮像素子作製用の上記体積を有するプリフォームを製造する際には、低減前の0%超〜10%程度の浮上ガス量とすることが好ましい。
【0028】
成形終了後、下型凹部上のプリフォームは、例えば下型の上方で待機する搬送ロボットの先端に設けた吸引ノズルにより、その上面を吸引保持することで下型凹部から取り出すことができる。取り出したプリフォームは、適宜アニールすることができる。
プレス後に浮上ガスを停止する態様では、所定期間浮上ガスの噴出を停止した後、浮上ガスを停止したまま下面凹部からプリフォームの取り出してもよく、浮上ガスの噴出を再開し、浮上ガスを噴出させながら下面凹部からプリフォームの取り出しを行ってもよい。プリフォームの取り出し時に下型表面と意図せず接触しプリフォーム表面が損傷することを防ぐためには、浮上状態でプリフォームの取り出しを行うことが好ましい。同様の理由から、プレス後に浮上ガス量を低減する態様でも、所定期間経過後に浮上ガス量を回復させることが好ましい。
【0029】
以上の工程により、所望形状の精密プレス成形用ガラスプリフォームを得ることができる。熔融ガラスを下型凹部にて浮上させながら上型によりプレスする成形法は、下型上での浮上成形では成形することが難しい、上面が平面ないし凹面であり下面が凸面である精密プレス成形用ガラスプリフォームの成形に適している。また、本発明のプリフォームの製造方法は、プレス解除後のガラス塊の形状変化を抑制することで、プリフォームの形状をより一層、所望の光学素子の形状に近似させることができる。かかる本発明のプリフォームの製造方法は、先に説明したようにプレス成形におけるガラスの変形量を小さくし活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないようにすべきである高屈折率高分散ガラスから、精密プレス成形用プリフォームの製造方法として好適である。
【0030】
[光学素子の製造方法]
次に、本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、本発明のプリフォームの製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、および、製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを含む。
本発明のプリフォームの製造方法によれば、上型によるプレス解除後のガラス塊上面の形状変化を抑制することで、所望の光学素子の形状に近似した近似形状プリフォームを得ることができるため、プレス成形温度を過度に高温にすることなく、成形型キャビティーにガラスを十分行き渡らせることができ、これにより高品質な光学素子を得ることができる。
【0031】
精密プレス成形とは、プリフォームを加熱、軟化した状態で所定形状のキャビティーを有する成形型によって加圧成形し、最終製品の形状と同じまたは極めて近似した形状の成形品を作製する方法である。精密プレス成形法によれば、成形品に研削や研磨を施さずに、あるいは研磨による除去量が極めて少ない研磨のみを施すことによって、最終製品、特に光学部品のような極めて高い形状精度や面精度を要求される最終製品を作製することができる。そのため、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学部品の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0032】
本発明における精密プレス成形は、公知の方法で行うことができる。例えば、表面が清浄状態のプリフォームを、プリフォームを構成するガラスの粘度が105〜1011Pa・sの範囲を示すように再加熱し、再加熱されたプリフォームを上型、下型を備えた成形型によってプレス成形する方法を用いることができる。成形型の成形面には必要に応じて離型膜を設けてもよい。なお、プレス成形は、成形型の成形面の酸化を防止する上から、窒素ガスや不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。プレス成形品は成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1、2、比較例1]
熔融・冷却・固化後に屈折率[nd]:1.839、アッベ数[νd]:24.15のホウ酸シリケート系(ホウケイ酸塩系またはボロシリケート系)の光学ガラスとなるガラス塊を1120℃に加熱した白金ルツボに投入してルツボ内で溶解後、1250℃で清澄、撹拌し均一なガラス融液を得た。次に、ルツボ底部に連結し温度制御した流出パイプから0.56kg/hrの流出速度でガラス融液を流出させた。
図3のように、円形の成形テーブルの外周上に12個の下型を均等に配置した。以下の工程中、成形テーブルは9.5秒毎にインデックス回転させた。各下型は成形テーブルのインデックス回転により、図3に示す第1停留位置から第12停留位置を1サイクルとして移動し、1サイクル毎に1つの精密プレス成形用プリフォームが作製される。
下型の上部には、熔融ガラスをキャストする凹部(直径:φ23mm、凹部表面の平均曲率半径R:11mm)が加工されている。凹部は平均穴径が10μmの多孔質材料からなり、多孔質材料表面からは0.60L/分の窒素が均一に噴き出している。なお型本体部はヒーターで加熱し、凹部の表面温度を350℃とした。
【0035】
次に、流出口の直下(第1停留位置)に下型を供給し、以下のように熔融ガラスを下型にキャストした。まず下型を上昇させ流出口に接近させた状態とし、熔融ガラス流の先端を下型の凹部で受ける。下型の凹部に所望重量の熔融ガラスが溜まった時に下型を急降下し、熔融ガラス流から下型上に熔融ガラス塊を切断分離した。
【0036】
次に、成形テーブルをインデックス回転させ、流出口の直下から下型を退避させると同時に、別の下型をノズル直下に供給した。順次同様な操作を9500msec.間隔で繰り返し、次々に熔融ガラス流を分離・切断し下型上に約425mm3の熔融ガラス塊を得た。
【0037】
上記キャスト後流出口直下から退避した直後の下型を、インデックス回転により近似形状プリフォーム成形用上型直下(第2停留位置)に移動させ、該上型により下型上の熔融ガラス塊をプレス、すなわち、下型上の熔融ガラス塊を上型および下型によりプレスした。なお、上型材質は下型と同様の多孔質材料とし、表面から窒素ガスを0.5L/分にて噴出させた。また、上型ガラス成形面の直径はφ13.6mm、形状は平面とした。プレス工程では、上型をガラス塊上端から1mmの距離まで下降させた後、サーボモーターにて、下型移動完了から600msec.経過した時点から、上型とガラス塊の接触位置から下型を約1.7mm上昇させ、上型によりガラス塊をプレスした状態、すなわち、上下型によりガラス塊をプレスした状態にて、6500msec.の間保持した(図1(c))。その後、上型によるプレスを解除した後、プレスされたガラス塊を載置した下型を上型直下から待避させ、インデックス回転により、第3停留位置に移動させた。続いて、テーブル停止から5000msec.経過した時点から、12000msec.の間、浮上ガスを停止し(図1(d))、以降は浮上ガス流出を再開させた(図1(e))。その後、第10停留位置にて、搬送ロボットによりプリフォームを回収し、実施例1の近似形状プリフォームを得た。また、実施例2では、第3停留位置にガラス塊が移動完了した後、10msec.経過した時点から、12000msec.の間、浮上ガスを停止し、以降は実施例1と同様の操作にて近似形状プリフォームを得た。比較例1では、浮上ガス流量を、プレス前からプリフォーム回収まで変化させず、その他は実施例1と同様の操作にて近似形状プリフォームを得た。
【0038】
得られたガラスプリフォームの上面形状を、ミツトヨ製接触式表面形状測定器により測定して得た上面形状図を、図4に示す。図4に示すように、浮上ガス噴出を停止することなくプリフォーム取り出しまで継続した比較例1では、上面中央部が盛り上がった(中心肉厚が増加した)のに対し、下型凹部表面からの浮上ガス噴出を一旦停止する期間を設けた実施例1では、上面中央部の盛り上がり(中心肉厚の増加)を防ぐことができた。また、実施例1と比べて浮上ガス噴出停止タイミングを早めた実施例2では、プリフォーム上面を凹形状とすることができたことから、浮上ガスガス停止のタイミングにて、プレス解除後の中心肉厚の増加防止とともに、プリフォーム形状の調整も可能となることが確認された。
【0039】
[実施例3]
成形テーブルの第3停留位置に、該位置に移動したガラス塊上面の鉛直上方に位置するようにガス噴出ノズル (内径6mm)を設置した。ガス噴出ノズル先端とガラス塊の上端の距離が2〜3mmとなり、かつガス噴出ノズルとガラス塊の中心が一致するように事前にガス噴出ノズルの位置調整を行った。実施例1、2と同様に下型凹部上のガラス塊上から上型を退避させプレスを解除した後、インデックス回転により、ガラス塊を第3停留位置に移動させた。続いて、第3停留位置にガラス塊が移動完了した後、5000msec.経過した時点から、5000msec.の間、浮上ガスを停止した。これに並行し、ガラス塊が第3停留位置に移動した後500msec.経過した時点から、2000msec.の間、上記ガス噴出ノズルから10L/分の流量で窒素ガスをガラス塊上面中央に向け噴出した。その他は同様の操作にて、近似形状プリフォームを得た。
【0040】
図4の実施例1、2と図5に示す実施例3とのプリフォーム上面形状の対比から、上型によるプレス解除後に、浮上ガスを停止するとともにガス噴出ノズルからガラス塊上面にガスを吹き付けることで、プレス解除後の上面形状の変形(中心肉厚の増加)をより一層抑制できたことが確認できる。
【0041】
実施例1〜3および比較例1で得られたガラスプリフォームの上面および下面形状を、ミツトヨ製接触式表面形状測定器、ノギス、およびダイヤルゲージにより測定した結果を、下記表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1に示すように、浮上ガス停止期間を設けた実施例1〜3において、浮上ガス停止期間なしの比較例1と比べて下面の平均曲率半径および中央部曲率半径が小さくなった(カーブが大きくなった)ことは、浮上ガス停止期間においてガラス塊内部で自重により下向きに力が働いたことを示す結果である。そして、このように浮上ガス停止期間中にガラス塊内部で下向きに力が働くことで、図4および図5に示すように、上型によるプレス解除後のガラス塊上面の盛り上がりを抑制することが可能となった。また、実施例1〜3において、下面の平均曲率半径と比べて、下面中央部の曲率半径が小さくなった(カーブが大きくなった)ことから、浮上ガス停止期間中にガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触し保持された状態でガラス塊中央部が自重により垂下したことで、下面中央部の平均曲率半径が小さくなったことも確認できる。
【0044】
[実施例4]
実施例1〜3で成形されたプリフォームを再加熱、軟化して窒素雰囲気中において成形型により精密プレス成形して、非球面レンズなどの光学素子を作製した。得られた光学素子はいずれも要求される性能を満たすものであった。
各光学素子の光学機能面には、必要に応じて反射防止膜などの光学薄膜を形成した。
【0045】
先に説明したように、精密プレス成形ではプレス成形におけるガラスの変形量を小さくし、活性に富んだプリフォーム内部のガラスを極力、プレス成形面と接触させないことが望ましい。この点から、精密プレス成形用のガラスプリフォームにおいては、目的の光学素子に近似した形状のプリフォームが得られるよう設計された上型によるプレスによって形成される上面は、プレス後に大きく盛り上がらないことが望ましい。しかし、比較例のガラスプリフォームは、成形面が平面の上型によりプレスしたにもかかわらず上面が大きく盛り上がっているため、このガラスプリフォームを精密プレス成形すると、成形型内でのガラスの変形量が大きくなり、クモリや傷が発生してしまう。これに対し実施例1〜3で成形されたプリフォームは、上記の通りプリフォーム上面の盛り上がりを抑制することができたため、精密プレス成形においてクモリや傷を発生させることなく、各種要求性能を満たす光学素子を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ガラスレンズ等の光学素子製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型凹部にキャストした熔融ガラスを、該下型凹部表面に設けられた複数のガス噴出口から噴出する浮上ガスにより浮上状態に保持した後、浮上ガスを噴出し続け上型および下型によりプレスすることによりガラス塊を成形すること、および、
上下型によるプレスを解除した後に、上記下型凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出すこと、
を含み、
上下型によるプレス開始から精密プレス成形用プリフォームの取り出しまでの間に、上記浮上ガスの噴出を停止するか浮上ガスの噴出量を低減し下型凹部上でガラス塊を、ガラス塊下面周縁部が下型凹部表面と接触した状態で保持する期間を設けること、
を特徴とする、精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記期間をプレス解除後に設ける、請求項1に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記期間中、ガラス塊中央部と下型凹部の隙間がガラス塊の自重により減少する、請求項2に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記期間を上型によるプレス中に設ける、請求項1〜3のいずれか1項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項5】
上型によるプレスを解除した後に、ガラス塊上面の上方にガス噴出ノズルを配置し、該ノズルからガラス塊上面にガスを噴出することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項6】
上記期間中に浮上ガスを停止し、該期間後に浮上ガスの噴出を再開し浮上ガスを噴出させながら下面凹部から精密プレス成形用プリフォームを取り出す、請求項1〜5のいずれか1項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項7】
熔融ガラスのキャストから精密プレス成形用ガラスプリフォームを取り出した下型凹部に新たな熔融ガラスをキャストするまでの工程を、複数の下型を循環移送して繰り返し行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の精密プレス成形用ガラスプリフォームの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により精密プレス成形用ガラスプリフォームを製造すること、および、
製造した精密プレス成形用ガラスプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形すること、
を含む、光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236758(P2012−236758A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85183(P2012−85183)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)