説明

精製シリコンの製造方法

【課題】様々な品質のシリコンを、数多くの試行錯誤を経ることなく、目標とする減圧保持時間(T)で、アルミニウム濃度(C)が精製後の目標アルミニウム濃度(CT)になる精製シリコンを、効率良く製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム初期濃度(C0)と精製後の目標アルミニウム濃度(CT)と減圧保持時間(T)とから、あらかじめ、本発明の式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求め、求めた真空接触面積比(S)になるように鋳型内にアルミニウムを含有するシリコンを充填し、かつ、求めた融液温度(L)になるまで減圧下で加熱し、求めた融液温度(L)で減圧下のまま、減圧保持時間(T)まで保持する減圧精製工程を含む精製シリコンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コストと各種用途に応じた性能面とから、様々な品質(不純物濃度)のシリコンが要望されている。
【0003】
アルミニウムなどの低沸点不純物を含有するシリコン融液から不純物を除去して精製シリコンを製造する方法として、鋳型内に充填したシリコンを減圧下で加熱し、保持する減圧精製法が知られている(非特許文献1参照)。すなわち、不純物を含有するシリコン融液を減圧下にさらすことにより、不純物を蒸発除去させる方法である。
【0004】
また、1000ppm以上、10000ppm以下の重量比のアルミニウムを含む金属シリコンを準備し、圧力が100Pa以上、1000Pa以下の不活性雰囲気で、前記金属シリコンを1500℃以上、1600℃以下の温度に加熱し、保持する金属シリコンの精製方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
かかるアルミニウムを含有する金属シリコンの精製方法で実際に操作可能なパラメーターとして、アルミニウム初期濃度(C0)、融液温度(L)、真空接触面積比(S)、減圧保持時間(T)の他、減圧時の圧力、撹拌の有無、撹拌速度、鋳型材質、鋳型形状、離型剤(窒化珪素など)の品位、炉材(断熱材など)の材質、ヒーターの材質などがある。ここで、真空接触面積比(S)は真空ないし減圧にさらされる融液の表面積を融液の体積で割り算した値で、単位はm-1である。一般に、アルミニウム初期濃度(C0)が高いほど、アルミニウム除去効率が良く、融液温度(L)が高いほど、真空接触面積比(S)が大きいほど、また、減圧保持時間(T)が長いほど、精製後のアルミニウム濃度(CT)のより低い精製シリコンが得られると考えられている。
【0006】
しかし、アルミニウム初期濃度(C0)、融液温度(L)および真空接触面積比(S)と、減圧保持時間(T)および精製後のアルミニウム濃度(CT)との関係は、非定量的であり、かつ、明確ではなかった。このため、従来は、目標とする減圧保持時間(T)で、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)以下のアルミニウム濃度(C)の精製シリコンを得るには、数多くの試行錯誤を繰り返して、最適なアルミニウム初期濃度(C0)、融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO09/001547
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金属,Vol.69(1999),No.11,p954〜957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、様々な品質のシリコンを、数多くの試行錯誤を経ることなく、目標とする減圧保持時間(T)で、アルミニウム濃度(C)が精製後の目標アルミニウム濃度(CT)になる精製シリコンを、効率良く製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の式に従って、アルミニウム初期濃度(C0)の原料シリコンを減圧下に加熱保持する方法によって、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の精製シリコンの製造方法を提供するものである。
【0012】
[1]アルミニウム初期濃度(C0)のアルミニウムを含有するシリコンを真空接触面積比(S)になるように調整して鋳型内に充填し、減圧下で融液温度(L)になるまで加熱し、融液温度(L)で減圧下のまま、減圧保持時間(T)まで保持する減圧精製工程を含む精製シリコンを得る方法であって、アルミニウム初期濃度(C0)と精製後の目標アルミニウム濃度(CT)と減圧保持時間(T)とから、あらかじめ、下記式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求め、求めた真空接触面積比(S)になるように鋳型内に、アルミニウムを含有するシリコンを充填し、かつ、求めた融液温度(L)になるまで減圧下で加熱し、求めた融液温度(L)で減圧下のまま、減圧保持時間(T)まで保持する減圧精製工程を含む精製シリコンの製造方法。
【数1】


式(1)において、
1は、0.7240±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
2は、0.8795±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
3は、1.3678±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
4は、−0.4519±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
5は、−0.00001±0.000005の範囲から得らればれる定数を、
6は、0.0019±0.00005の範囲から選ばれる定数を、
7は、−0.00007±0.000005の範囲から選ばれる定数を、
8は、−0.0079±0.00005の範囲から選ばれる定数を、
Tは、精製後の目標アルミニウム濃度(質量%)であり、0.01質量%以上、5質量%未満から選択される濃度であって、かつ、選択される濃度の±7質量%の誤差範囲内である濃度を、
0は、アルミニウム初期濃度(質量%)であり、0.1質量%以上、5質量%以下から選択される濃度を、
Tは、減圧保持時間(hr)であり、2時間以上10時間以下から選択される時間を、
Lは、融液温度(℃)であり、1410℃以上、1550℃以下から選択される温度を、
Sは、真空接触面積比(m-1)であり、10m-1以上、50m-1以下から選択される真空接触面積比を、それぞれ示す。
【0013】
[2]前記の減圧精製工程が、圧力0.5Pa以上、1000Pa以下の減圧下で実施される上記[1]に記載の精製シリコンの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に依れば、様々な品質のシリコンを、数多くの試行錯誤を経ることなく、目標とする減圧保持時間(T)で、アルミニウム濃度(C)が精製後の目標アルミニウム濃度(CT)になる精製シリコンを、効率良く製造しうる精製シリコンの製造方法が提供されるという顕著な効果が得られる。従って、本発明の方法によって、コストと各種用途に応じた性能面とから要望される、様々なアルミニウム濃度の精製シリコンを容易に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考例1の実験1〜4の結果に基づいて得られた、アルミニウム初期濃度(質量%)と、精製シリコン中のアルミニウム濃度(質量%)との関係を示したグラフである。
【図2】参考例1の実験5〜6の結果に基づいて得られた、減圧保持時間(hr)と、2時間標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【図3】参考例1の実験7〜8の結果に基づいて得られた、1470℃との温度差(℃)と、1470℃標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【図4】参考例1の実験9〜10の結果に基づいて得られた、真空接触面積比(m-1)と、10m-1標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法に用いられるアルミニウム初期濃度(C0)のアルミニウムを含有するシリコンは、例えばハロゲン化珪素を金属アルミニウムで還元する方法で得られる。また、11N以上の高純度のポリシリコンと金属アルミニウムとの混合融液を冷却凝固させる方法でも得られる。金属アルミニウムとしては、普通アルミニウムとして市販されている電解還元アルミニウムや、電解還元アルミニウムを偏析凝固法、三層電解法などの方法によって精製して得られる高純度アルミニウムなどが用いられ、不純物による汚染の少ないシリコンが得られる点で、純度99.9質量%以上、さらには99.95質量%以上の高純度アルミニウムが好ましく用いられる。ここで、金属アルミニウムの純度は、金属アルミニウム100質量%から、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウムおよび亜鉛の合計含有量を差引いて求められる純度である。
【0017】
アルミニウム含有濃度、すなわち、アルミニウム初期濃度(C0)としては、0.1質量%以上、5質量%以下である。濃度0.1質量%未満であると、減圧精製によるアルミニウム除去効果を得ることが難しく、5質量%を超えると、十分なアルミニウム除去を実施するのに膨大な減圧保持時間を要するため、好ましくない。また、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)は0.01質量%以上、5質量%未満であり、式(1)の精度を考慮すると、選択される濃度の±7質量%の誤差範囲内の濃度である。上記のアルミニウム初期濃度(C0)であれば、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)を満足することが可能である。
【0018】
アルミニウムを含有するシリコンを真空接触面積比(S)になるように調整して鋳型内に充填する。鋳型としては通常、アルミニウムを含有するシリコン融液に対して不活性で、耐熱性のものが使用され、具体的には黒鉛などの炭素、炭化ケイ素、炭化窒素、アルミナ(酸化アルミニウム)、石英などのシリカ(酸化ケイ素)などで構成されたものが使用される。また、真空接触面積比(S)は10m-1以上、50m-1以下で、減圧精製によるアルミニウム除去効果を有利な方向で得られる点で、好ましくは30m-1以上、50m-1以下である。希望の真空接触面積比になるようにアルミニウムを含有するシリコンを調整して充填する方法としては、真空接触面積比を大きくする場合は、例えば、融液深さが浅くなるように充填量を調整すれば良いし、充填量も確保したければ、幅広の鋳型を使用するなどの工夫をすれば良い。
【0019】
アルミニウムを含有するシリコンを減圧下で加熱保持するが、減圧下における圧力は0.5Pa以上、1000Pa以下で、好ましくは100Pa以上、1000Pa以下である。圧力0.5Pa未満であると、アルミニウムだけでなく、シリコンの蒸発除去の割合が大きくなり、精製シリコンの歩留まりが悪くなるため、好ましくない。1000Paを超えると、十分なアルミニウム除去効果を得ることが難しく、好ましくない。
【0020】
アルミニウムを含有するシリコンの加熱保持温度(L)は、1410℃以上、1550℃以下で、減圧精製によるアルミニウム除去効果を有利な方向で得られる点で、好ましくは1470℃以上、1550℃以下である。温度1410℃未満になると、アルミニウムを含有するシリコンが溶解せず、融液が得られないため、好ましくない。1550℃を超えると、減圧下において鋳型への熱ダメージが大きくなり、鋳型の破損、鋳型への融液の浸透や融液漏れを招く可能性があるため、好ましくない。
【0021】
また、減圧保持時間(T)は2時間以上、10時間以下で、十分なアルミニウム除去効果を得られる点で、好ましくは6時間以上、10時間以下である。保持時間2時間未満になると、十分なアルミニウム除去効果を得ることが難しく、好ましくない。10時間を越えると、減圧精製工程に非常に長い時間が費やされ、精製シリコンの生産性が低下するため、好ましくない。
なお、減圧下の雰囲気としては、特に制限はなく、空気減圧下であっても不活性ガス減圧下であっても、いずれでも構わない。
【0022】
式(1)は、このような精製後の目標アルミニウム濃度(CT)と、アルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)、融液温度(L)および真空接触面積比(S)との関係を示す式であって、本発明者らが初めて見出したものである。そして本発明の精製シリコンの製造方法は、選択されたアルミニウム初期濃度(C0)および減圧保持時間(T)において、式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)で減圧精製工程を実施するものである。上記の減圧精製工程を実施することで、目的の精製シリコンを得ることができる。
【0023】
減圧精製工程終了後、融液を冷却することにより凝固させて、精製シリコンを得る。融液は方向凝固法で凝固させても良いし、炉内で徐冷凝固させても良いし、炉外に取り出して急冷凝固させても良い。
【0024】
かくして、様々なアルミニウム濃度の精製シリコンを容易に収得することができる。
【実施例】
【0025】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これら各例によって限定されるものではない。
なお、各例中、「%」は、原則として、「質量%」を示す。また、各例において、シリコン中のアルミニウム濃度の測定は、ICP発光分析法により行った。該分析には、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のICP発光分析装置(型番「SPS 4000」)を使用した。
【0026】
参考例1
〔式(1)の導出〕
実験1
アルミニウム初期濃度(C0)が5%のアルミニウムを含有するシリコンを、真空接触面積比(S)が10m-1になるように調整して鋳型内に充填し、圧力168Paの減圧下で融液温度(L)が1470℃になるまで加熱し、融液温度1470℃で減圧下のまま、減圧保持時間(T)として2時間保持する減圧精製工程を実施した。減圧精製工程実施後、融液を炉外に取り出して急冷凝固させて、精製シリコンを得た。最後に、得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)をICP発光分析法で測定した。その結果、精製シリコン中のアルミニウム濃度は2.90%であった。
【0027】
実験2〜実験4
アルミニウム初期濃度(C0)が1%、0.5%、0.1%のアルミニウムを含有するシリコンを用いる以外は、実験1と同様に操作して、各精製シリコン中のアルミニウム濃度を測定した。
【0028】
表1に、実験1〜実験4で得られた各精製シリコン中のアルミニウム濃度を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
実験1〜実験4の結果より、アルミニウム初期濃度(C0)と、精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)との関係を求めたところ、下記式(2)を得た。
【数2】


式(2)において、K1は0.7240であり、K2は0.8795である。実験1〜実験4におけるアルミニウム初期濃度(C0)および精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、式(2)を満足する。また、図1は、実験1〜4の結果に基づいて得られた、アルミニウム初期濃度(%)と、精製シリコン中のアルミニウム濃度(%)との関係を示したグラフである。
【0031】
実験5および実験6
アルミニウム初期濃度(C0)が1%のアルミニウムを含有するシリコンを用い、上記実験1〜実験4とは真空接触面積比(S)および融液温度(L)が一致するが、減圧保持時間(T)が異なる実験5および実験6を行った。各精製シリコン中のアルミニウム濃度を測定した。
【0032】
表2に、実験5及び実験6で得られた各精製シリコン中のアルミニウム濃度を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
この実験5および実験6は、実験2とは、アルミニウム初期濃度(C0)、真空接触面積比(S)および融液温度(L)が一致するが、減圧保持時間(T)が異なる。また、実験1、実験3および実験4とは、真空接触面積比(S)および融液温度(L)が一致するが、減圧保持時間(T)が異なる。この実験5および実験6で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、上記式(2)を満足しない。上記実験1〜実験4で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)を満足し、かつ、これら実験5および実験6で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)をも満足する式として、下記式(3)を得た。
【数3】

式(3)において、K3は1.3678であり、K4は−0.4519である。実験1〜実験4と実験5および実験6におけるアルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)および精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、式(3)を満足する。また、図2は、実験5及び実験6の結果に基づいて得られた、減圧保持時間(hr)と、2時間標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【0035】
実験7および実験8
上記実験2とはアルミニウム初期濃度(C0)、真空接触面積比(S)および減圧保持時間(T)が一致するが、融液温度(L)が異なる実験7および実験8を行った。各精製シリコン中のアルミニウム濃度を測定した。
【0036】
表3に、実験7及び実験8で得られた各精製シリコン中のアルミニウム濃度を示す。
【0037】
【表3】

【0038】
この実験7および実験8は、実験2とはアルミニウム初期濃度(C0)、真空接触面積比(S)および減圧保持時間(T)が一致するが、融液温度(L)が異なる。このため、この実験7および実験8で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、上記式(2)および式(3)を満足しない。上記実験1〜実験4と実験5および実験6で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)を満足し、かつ、これら実験7および実験8で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)をも満足する式として、下記式(4)を得た。
【数4】

式(4)において、K5は−0.00001であり、K6は0.0019である。実験1〜実験4、実験5および実験6と実験7および8におけるアルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)、融液温度(L)および精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、式(4)を満足する。また、図3は、実験7及び実験8の結果に基づいて得られた、1470℃との温度差(℃)と、1470℃標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【0039】
実験9および実験10
上記実験2とはアルミニウム初期濃度(C0)、融液温度(L)および減圧保持時間(T)が一致するが、真空接触面積比(S)が異なる実験9および実験10を行った。各精製シリコン中のアルミニウム濃度を測定した。
【0040】
表4に、実験1〜実験4で得られた各精製シリコン中のアルミニウム濃度を示す。
【0041】
【表4】

【0042】
この実験9および実験10は、実験2とはアルミニウム初期濃度(C0)、融液温度(L)および減圧保持時間(T)が一致するが、真空接触面積比(S)が異なる。このため、この実験9および実験10で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、上記式(2)、式(3)および式(4)を満足しない。上記実験1〜実験4と実験5および実験6と実験7および実験8で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)を満足し、かつ、これら実験9および実験10で分析した精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)をも満足する式として、下記式(1)を、導き出した。
【数5】

式(1)において、K7は−0.00007であり、K8は−0.0079である。実験1〜実験4、実験5および実験6、実験7および8と実験9と実験10におけるアルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)、融液温度(L)、真空接触面積比(S)および精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT)は、式(1)を満足する。また、図4は、実験9及び実験10の結果に基づいて得られた、真空接触面積比(m-1)と、10m-1標準からの低減率(%)との関係を示したグラフである。
【0043】
上記式(1)には、圧力のパラメーターは入っていない。但し、0.7Paの高真空下でも実験したが、圧力の影響は確認されなかったので、圧力のパラメーターは省略可能である。
【0044】
実施例1
アルミニウム初期濃度(C0)を0.1%、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)を0.06%、減圧保持時間(T)を4時間として、式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求めると、融液温度(L)は1440℃、真空接触面積比(S)は30m-1となる。アルミニウム初期濃度(C0)が0.1%のアルミニウムを含有するシリコンを真空接触面積比(S)が求めた値である30m-1になるように調整して鋳型内に充填し、減圧下で融液温度(L)が求めた値である1440℃になるまで加熱し、融液温度1440℃で減圧下のまま、減圧保持時間(T)として4時間保持する減圧精製工程を実施した。減圧精製工程実施後、融液を炉外に取り出して急冷凝固させて、精製シリコンを得た。最後に、得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT')を測定した。その結果、精製シリコン中のアルミニウム濃度は0.06%であった。
【0045】
実施例2〜実施例6
アルミニウム初期濃度(C0)、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)および減圧保持時間(T)を、それぞれ表5に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にして融液温度(L)および真空接触面積比(S)を得、得られた融液温度(L)および真空接触面積比(S)で減圧精製工程を実施する以外は、実施例1と同様に操作して精製シリコンを得た。最後に、得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT')を測定した。
【0046】
表5に、実施例1〜6における、アルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)、真空接触面積比(S)、融液温度(L)および得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT')を、それぞれ示す。
【0047】
【表5】

【0048】
比較例1(実施例4との比較)
アルミニウム初期濃度(C0)を1%、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)を0.23%、減圧保持時間(T)を6時間として、式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求めると、融液温度(L)は1470℃、真空接触面積比(S)は50m-1となる。アルミニウム初期濃度(C0)が1%のアルミニウムを含有するシリコンを真空接触面積比(S)が求めた値と異なる30m-1になるように調整して鋳型内に充填し、減圧下で融液温度(L)が求めた値と異なる1410℃になるまで加熱し、融液温度1410℃で減圧下のまま、減圧保持時間(T)として6時間保持する減圧精製工程を実施した。減圧精製工程実施後、融液を炉外に取り出して急冷凝固させて、精製シリコンを得た。最後に、得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT')を測定した。その結果、精製シリコン中のアルミニウム濃度は0.37%であった。
【0049】
表6に、比較例1における、アルミニウム初期濃度(C0)、減圧保持時間(T)、精製後の目標アルミニウム濃度(CT)、真空接触面積比(S)、融液温度(L)および得られた精製シリコン中のアルミニウム濃度(CT')を、それぞれ示す。
【0050】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム初期濃度(C0)のアルミニウムを含有するシリコンを真空接触面積比(S)になるように調整して鋳型内に充填し、減圧下で融液温度(L)になるまで加熱し、融液温度(L)で減圧下のまま、減圧保持時間(T)まで保持する減圧精製工程を含む精製シリコンを得る方法であって、
アルミニウム初期濃度(C0)と精製後の目標アルミニウム濃度(CT)と減圧保持時間(T)とから、あらかじめ、下記式(1)を満足する融液温度(L)および真空接触面積比(S)を求め、求めた真空接触面積比(S)になるように鋳型内にアルミニウムを含有するシリコンを充填し、かつ、求めた融液温度(L)になるまで減圧下で加熱し、求めた融液温度(L)で減圧下のまま、減圧保持時間(T)まで保持する減圧精製工程を含む精製シリコンの製造方法。
【数6】

式(1)において、
1は、0.7240±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
2は、0.8795±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
3は、1.3678±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
4は、−0.4519±0.0005の範囲から選ばれる定数を、
5は、−0.00001±0.000005の範囲から得らればれる定数を、
6は、0.0019±0.00005の範囲から選ばれる定数を、
7は、−0.00007±0.000005の範囲から選ばれる定数を、
8は、−0.0079±0.00005の範囲から選ばれる定数を、
Tは、精製後の目標アルミニウム濃度(質量%)であり、0.01質量%以上、5質量%未満から選択される濃度であって、かつ、選択される濃度の±7%の誤差範囲内である濃度を、
0は、アルミニウム初期濃度(質量%)であり、0.1質量%以上、5質量%以下から選択される濃度を、
Tは、減圧保持時間(時間)であり、2時間以上10時間以下から選択される時間を、
Lは、融液温度(℃)であり、1410℃以上、1550℃以下から選択される温度を、
Sは、真空接触面積比(m-1)であり、10m-1以上、50m-1以下から選択される真空接触面積比を、それぞれ示す。
【請求項2】
前記の減圧精製工程が、圧力0.5Pa以上、1000Pa以下の減圧下で実施される請求項1に記載の精製シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184229(P2011−184229A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50474(P2010−50474)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】