説明

精製処理解析装置、精製処理解析方法および精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を削減する。
【課題を解決するための手段】原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより精製処理を行う精製装置110と、触媒細孔内の金属及び炭素質の堆積量に基づいて精製処理に伴う触媒の活性度の変化を考慮して精製処理に伴う原料油の特性を解析することにより、所望の精製条件を抽出し、精製条件により精製装置を制御する精製処理解析装置120とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油のような原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより水素化精製処理を実行するための精製処理システム、精製処理解析装置、精製処理解析方法および精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、石油に代表される炭化水素油の原料油中には、硫黄分、窒素分、金属分のような不純物が含まれており、これらの不純物は原料油を利用する際に環境問題などの種々の問題を生じる。このため、通常、原料油に精製処理を施し、利用に耐え得るレベルまで不純物を除去する作業が行なわれる。
【0003】
原料油の不純物除去のための精製処理には現在までにいくつかの方式が提案され利用されているが、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより、原料油中の硫黄分、窒素分、金属分等の不純物を水素化し、硫化水素、アンモニア、金属等として原料油中から除去する水素化精製処理が、最も一般的である。
【0004】
水素化精製方式の精製装置は、一般的に図17に示すような構造を有し、原料油と水素(H)ガスを、触媒が充填された反応塔2a,2b内に導入し、反応塔2a,2b内にある複数の触媒層3a,3b,3c,3d,3e,3fおよび水素クエンチング層4a,4b,4c,4dを通過させることにより、原料油を水素化精製し、精製された原料油(精製油)を回収している。触媒は、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライトといった無機多孔質の担体上に水素化活性金属と呼ばれるMo,Ni,Co等の金属成分を担持させて形成されている。また、精製油は、沸点等の違いにより、分留装置5を用いていくつかの成分に分留することが可能である。原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させた場合、触媒や反応条件を選ぶことにより、硫黄分、窒素分等の不純物を除去することができだけでなく、原料油に含まれる炭化水素を分解させまた異性化させることができる。本書における「精製処理」は、不純物除去以外に、このような分解、異性化を目的とした処理も含むことを意図している。
【0005】
このように、水素化精製方式の精製処理は、触媒を積極的に活用することにより、原料油の効果的な精製処理を実現している。しかしながら、このような水素化精製処理方式の精製処理には、以下に示す解決すべき大きな技術的課題がある。
【0006】
すなわち、一般的に触媒は、時間経過に伴い、その精製能力(活性度)が低下する。したがって、触媒の活性が必要最低限のレベルにまで低下した段階で触媒を交換したり、触媒の再生作業を行う必要があるが、この作業に要する経費および労力は非常に大きく、触媒の能力維持作業に要するコストが全体の精製処理コスト中に占める割合は極めて高い。
【0007】
このため、触媒交換を計画的に行うこと、触媒の寿命を十分に使い切ること、装置の運転条件に合った触媒を用いること等の触媒に対する多くの要望が存在する。例えば、米国特許第5,341,313号は、水素化脱硫シミュレーションを開示するが、触媒の劣化については実験的にファクターを決めている。このため、運転条件が変化するような場合に触媒寿命を高い精度で予測できない。また、特公平7−108372号は、改質(リフォーマ)装置のシミュレータにおいて、触媒の寿命劣化を考慮している。しかし、このシミュレータは運転員のトレーニングのためのものであり、実際の装置の運転状態を予測するものではない。また、これらの文献では、本発明のように水素化精製反応における触媒細孔中の炭素質及び金属の堆積による触媒の劣化を考慮していない。このように、これまで、触媒の劣化現象を詳細かつ正確に予測し、触媒の劣化現象に着目して精製条件を最適化した技術はなく、従来の精製処理では、触媒の効率的な利用という点から精製処理に要する経費を十分に削減することができなかった。
【0008】
さらには、一般に、精製油の特性は精製条件により大きく変化するので、所望の特性を有する精製油を得るためには、その特性に最適な精製条件により精製処理を行う必要性があるが、現時点では、真に最適な精製条件を抽出する技術がないために、最適な精製条件の抽出は技術者の勘や経験に頼っており、このことも精製処理に要する経費の高騰に繋がっている。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させる精製処理システムを提供することにある。
【0010】
本発明の第2の目的は、所定条件下で精製処理される精製油の製品性状を予測し、最適精製条件を見出すための精製処理解析装置を提供することにある。
【0011】
本発明の第3の目的は、触媒の劣化を考慮して、所定条件下で精製処理される精製油の製品性状を正確に予測することができ、それにより効率的な精製処理を実現することができる精製処理解析方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第4の目的は、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させる精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
【発明の開示】
【0013】
本発明者は、触媒の劣化現象を金属や炭素質等の原料油中の不純物の触媒への堆積現象に基づいてモデル化し、このモデルを用いて精製処理反応の結果及びそれによる原料油の特性の変化を予測することに成功した。これにより、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができた。
【0014】
本発明の第1の態様に従えば、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより精製処理を行う精製装置と;
精製処理に伴う前記触媒の活性度の変化を求め、求めた触媒活性度の変化に基づいて前記精製装置を制御する精製処理制御装置とを備えることを特徴とする精製処理システムが提供される。これにより、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様に従えば、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析装置であって、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割部と;
精製処理に伴う前記触媒の劣化を導出する触媒劣化導出装置と、
前記触媒劣化導出装置の導出結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測部とを有する精製処理解析装置が提供される。この装置により、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。
【0016】
さらに、本発明の第3の態様に従えば、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析方法であって、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割ステップと、
精製処理に伴う前記触媒の劣化を導出する触媒劣化導出ステップと、
前記触媒劣化導出ステップの結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測ステップとを含む精製処理解析方法が提供される。この方法により、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。
【0017】
本発明の第4の特徴は、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析方法であって、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割ステップと、
精製処理に伴う前記触媒の劣化を導出する触媒劣化導出ステップと、
前記触媒劣化導出ステップの結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測ステップとを含む精製処理解析方法が提供される。この記録媒体により、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。
【0018】
ここで、「記録媒体」とは、プログラムを記録することができるコンピュータで読み取り可能な媒体を意味し、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、デジタルビデオディスク、ICカードなどを含み得る。
【0019】
触媒劣化導出装置は、精製処理に伴い前記触媒に堆積する金属量を演算する金属堆積量演算部と、精製処理に伴い前記触媒に堆積する炭素質量を演算する炭素質堆積量演算部と、前記金属量および炭素質量を考慮して前記触媒が有する活性度を演算する活性度演算部とを備え得る。触媒に堆積する金属量、炭素質量を考慮することで、触媒の各種反応に関する活性度を精度よく抽出することができる。
【0020】
また、擬似成分は原料油中の成分を沸点又は炭素数の違いにより分割することにより決定することが望ましく、このような分割により、原料油中の擬似成分の分解、生成を考慮しての解析が可能となる。原料油が炭化水素油の場合、炭化水素をパラフィン、オレフィン、ナフテンおよび2種類のアロマに少なくとも分割すると良い。アロマを少なくとも2種類に分割することにより、水素消費量の解析精度が向上する。
【0021】
さらに、精製処理評価により得られた精製油を原料油として繰り返し精製処理解析を行っても良い。これにより、原料油の流れ方向における触媒の活性度の変化を評価することができる。この際、初回の精製処理解析時の擬似成分として含まれない中間擬似成分を次回以降の精製処理解析の際の擬似成分として含ませると良い。これにより、触媒に堆積する炭素質量の解析精度が向上する。
【0022】
また、精製処理に伴う原料油の特性の変化を抽出する際は、原料油の1つの擬似成分が他の擬似成分を生成する反応およびその反応温度が反応熱量および擬似成分の相変化に伴う吸発熱量を考慮して決定される機構を考慮することが望ましい。これにより、精製処理の反応温度の解析精度が向上し、触媒の活性度の変化をより正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1乃至図17を用いて、本発明の実施形態に係わる精製処理システム、精製処理解析装置、精製処理解析方法および精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体について詳しく説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係わる精製処理システム100は、図1に示すように、原料油を水素雰囲気下で触媒層111と接触させることにより原料油の不純物を除去する精製処理を行う精製装置110と、精製処理に伴う触媒層111の活性度の変化を考慮して、精製処理された原料油(精製油)の特性を解析することにより、適切な精製条件を選択し、精製条件により精製装置110を制御する精製処理解析装置(精製処理制御装置)120と、精製装置110および精製処理解析装置120に係わる各種入力データおよび命令を入力するための入力装置130と、精製装置110および精製処理解析装置120に係わる各種出力データおよびエラー表示等を出力する出力装置131とを備える。精製処理解析装置120は、精製処理に伴う触媒層111の活性度の変化を解析する触媒劣化解析(導出)装置121と、原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割部122と、触媒劣化解析装置121の解析結果を用いて各擬似成分の精製処理に伴う変化及び精製処理された原料油の特性の変化を予測する精製処理予測部123と、精製処理結果予測部123の予測結果に基づいて予め設定した所望の特性の精製油を得るための精製処理に最適な精製条件を決定する精製処理条件決定部124、精製処理条件決定部124から出力された精製条件に基づいて精製装置110の精製パラメータを制御する精製パラメータ制御部125、入出力データを記憶するための記憶装置126、入力装置130からの命令に基づいて記憶装置126内の入出力データを所望のデータ形式に変換するデータ処理部127、解析作業を補助するユーザインタフェイス(GUI;Graphical User Interface)128を有する。精製処理システム100から、精製装置110、精製処理条件決定部124および精製パラメータ制御部125を除いた部分を精製処理解析装置としてとらえることができる。さらに、触媒劣化解析装置121は、触媒層111への金属堆積量を求める金属堆積量演算部121a、触媒層111への炭素質堆積量を求める炭素質堆積量演算部121b、金属堆積量演算部121aおよび炭素質堆積量演算部121bからの出力情報に基づいて触媒層111細孔内の金属、炭素質などの不純物の堆積分布を導出する不純物分布演算部121c、不純物分布演算部121cからの出力情報に基づいて触媒層111が有する活性度を抽出する活性度演算部121dを具備している。さらに、精製処理解析装置120は、触媒層の温度変化を見積もる温度変化演算部129を備える。
【0025】
次に、図を用いて、本発明に従う精製処理解析方法を具体的に説明する。精製処理解析は、図2及び図3に示したステップに従って行う。以下に、各ステップについて説明する。
【0026】
(1)データ入力(ステップS101)
始めに、精製処理解析に必要なデータを入力する。入力データとしては、図4(a)に示すような、触媒データ、運転データ、原料性状データを用いる。このうち、触媒データは、精製処理に用いる反応塔に充填する触媒の種類、量、充填状態などを含む。運転データは、反応塔の運転条件に関し、原料油の処理量、反応塔内の水素圧力、水素量、水素純度、分留条件、反応塔断面積、運転目標(処理油硫黄含有量/分解率/温度)などを含む。原料性状データは、精製しようとする原料油の特性であり、蒸留性状、硫黄・窒素・残炭・金属(Ni,V)含有量、臭素価、分解油比率、CP/CN/CAなどを含む。用語CP、CN、CAは、パラフィン(鎖状脂肪族)炭化水素、ナフテン(環状脂肪族)炭化水素、アロマ(芳香族)炭化水素の含有量をそれぞれ示している。このうち、原料性状データは、原料油を予め化学分析することによって求めておいても良く、あるいは原料油の種類に対応する既知のデータテーブルを用意しておき、データテーブルから対応するデータを抽出しても良い。
【0027】
(2)擬似成分分割(ステップS102)
次に、入力データに基づいて、原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する。擬似成分の分割は、以下のような処理により実行することができる。原料油のサンプルを蒸留して蒸留温度(沸点)に応じた蒸留成分の量を求める。図19に示したように、蒸留成分の量と沸点との関係を求める。一方、沸点と当該沸点で蒸留した成分の炭素数との関係は、図20に示したような既知データで分かっている。それゆえ、図19及び図20の関係から、原料油に含まれる炭素数成分(分割された擬似成分)とその成分の含有量の関係が明らかとなる。この関係を図5の丸付き数字2に示した。図5の丸付き数字2より、原料油は、炭素数に応じて分割(分類)された成分から構成されているとみなすことができる。このように炭素数に応じて原料油を複数の成分に分割するのは、後述するように、各成分は互いに脱硫、脱金属などの反応の速度及びそれに伴う炭素質、金属の触媒上での堆積量が異なるからである。分割する炭素数成分は、図5に示したように、炭素数1〜60に渡って炭素数1つずつの炭素成分に分割してもよく、あるいは、炭素数2〜5までの炭素数の範囲毎に分割してもよい。
【0028】
本発明では、このように原料油を原料油に含まれる各成分に分割して、各成分ごとに触媒反応及びそれに伴う炭素質及び金属の堆積量をシミュレートすることにより、後述する触媒の劣化状態及び触媒層の温度を極めて高精度に求めることが可能となる。
【0029】
原料成分は、炭素数のみならず、図5に示したように、同じ炭素数の成分であってもさらにパラフィン、ナフテン及びアロマの3種に分類することができる。この3種の割合については、各温度で蒸留する炭素数成分中に含まれるそれらの3主成分の割合が予め既知であるので、この既知の割合を用いればよい。従って、図5の丸付き数字2の分布から、特定の沸点範囲で蒸発する炭素数成分が原料油中に、どの程度含まれており、しかもその炭素数成分中、パラフィン、ナフテン及びアロマがどのような割合で含まれているかが明らかとなる。図5の丸付き数字1は、別の原料油を炭素数成分及びパラフィン/ナフテン/アロマに分割した場合の分布である。二つの異なる原料油を混合して反応塔に供給する場合には、図5に示したように、それぞれの原料油を、炭素数及びパラフィン/ナフテン/アロマに分割して分布を求め、それらの分布を重ね合わせることにより、反応塔に供給される全ての原料油中の各炭素数成分の合計存在量がわかる。
【0030】
さらに、各炭素数成分は、パラフィン/ナフテン/アロマの割合に加えて、硫黄分、窒素分、金属分(Ni,V)、残留炭素およびオレフィン等の不純物に関する情報を有することが望ましい。さらに、原料油を、各炭素数成分でパラフィン/ナフテン/アロマに分割するときには、アロマ分を、例えば、単環式芳香族化合物及び多環式芳香族化合物の2種類のアロマ分に分割してもよい。単環式芳香族化合物と多環式芳香族化合物は反応性が異なるので、それらについて個別に、後述する精製反応モデル及び触媒劣化モデルを検討することにより、高精度の解析を行うことができる。さらに、解析結果を一層正確にするために、アロマ分は、3種以上のアロマ分に分割して反応モデル及び劣化モデルを検討してもよい。
【0031】
(3)金属堆積量のシミュレーション(ステップS103a)
ステップS103aでは、触媒との接触に伴い進行する各擬似成分の脱金属反応(脱Ni、脱Vの2種類)により生成される金属が触媒に堆積すると仮定して、触媒上の金属堆積量を求める。単位時間当たりの金属堆積量は、後述の式(3)のΔCi(脱Ni,脱Vの場合)を求めることにより計算することができる。計算方法の詳細は後述する。
【0032】
(4)炭素質堆積量のシミュレーション(ステップS103b)
ステップS103bでは、触媒との接触に伴い進行する各擬似成分の分解反応、ナフテン開環反応、ナフテンのアロマ化反応、脱アロマ反応、脱オレフィン反応、脱残炭反応、脱硫反応、脱窒素反応及び炭素質前駆体生成反応の各反応に対して、生成される炭素質量を求める。例えば、炭素数20の炭素数成分について、脱硫反応において生成される単位時間当たりの炭素質量ΔCC,DS(C20)は、下記式を用いて計算することができる。
【0033】
【数1】

【0034】
式(1)中、DADSは脱硫反応の発生確率に関する重み付け係数である。TDSは反応進行量であり、後述の式(3)のΔCDSとして計算される。Ecokeは炭素質生成活性化エネルギーである。Tは反応塔内の温度であり、PH2は水素分圧である。FPH2は水素分圧に関する調整因子であり、Rは気体定数である。この式は、炭素数20の炭素数成分(C20)のみならず各炭素数成分(Cn)毎に計算される。そして、脱硫反応以外の上記反応についても、式(1)と同様のパラメータを用いた式を使って各炭素数成分毎に炭素質堆積量を計算することができる。こうして、全ての炭素数成分について、各反応毎に炭素質堆積量ΔCC,i(Cn)が求まる(iは反応の種類であり、Cnは炭素数成分をあらわす)。
【0035】
尚、式(1)は以下の仮定に基づいている。現在までの所、炭素質(コークともいう)の生成機構について、いくつかのモデルが提案されてはいるものの、その詳細は完全に明らかとなっていない。そこで、上記式においては、コークの生成機構には、図18に示す2つのルートがあると仮定し、この2つの機構によりコークが生成されるものとする。すなわち、コークの生成量が高温で多く、低温で少ないという経験的知見から、コークはある大きさの活性障壁を越えて生成されるとする機構(メカニズムI)および反応塔の後部でコークの生成量が多く、反応塔の水素クエンチ導入直後の触媒領域においてはコークの生成量が少ないという経験的知見から、コーク前駆体蓄積・緩和機構(メカニズムII)を想定し、これらの2つの機構を考慮して炭素質堆積量を求める上記式を導出した。
【0036】
(5)細孔内の不純物分布の導出(ステップS103c)
ステップS103cでは、炭素数成分毎に求められた金属堆積量Mi(Cn)および各反応について炭素数成分毎に求められた炭素質堆積量ΔCC,i(Cn)を用いて、触媒細孔に不純物(金属及び炭素質)がどのくらい堆積するかを求める。具体的には、触媒細孔内における原料油の拡散、触媒の表面積および堆積反応を考慮した拡散方程式を計算し、触媒細孔内の深さ方向位置における不純物の堆積高さ(不純物分布)を求める。図6に示したように、細孔径Rの触媒細孔に原料油が進入した場合に、炭素質51及び金属分52が細孔内壁に堆積するものとする。炭素質51と金属分52からなる不純物の堆積により細孔径Rからr(d)(dは細孔の深さ位置)に変化するとする。以下の物質収支の式を用いる。
【0037】
【数2】

【0038】
式(2)中、KMetal,Cokeは、堆積速度定数を表し、rは細孔内深さ位置における不純物の堆積した後の細孔半径を表し、Cは金属または炭素質の濃度を表す。(2)式を細孔の深さh及び使用前の直径Rを用いて境界条件を設定して数値計算により解いて細孔内深さ位置における堆積高さrを炭素質及び金属についてそれぞれ求める。
【0039】
(6)触媒の残存活性度導出(ステップS103d)
ステップS103dでは、触媒の不純物分布に基づいて各反応について各時点、各触媒層、触媒の残存活性を求める。このために、金属堆積量及び炭素質堆積量の増加に対する各反応の触媒活性の低下、すなわち相対触媒活性の変化の関係を経験的に求めておく。図7及び8のグラフは、それぞれ、金属堆積量の変化に対する脱硫反応における相対触媒活性の変化及び炭素質堆積量の変化に対する脱硫反応における相対触媒活性の変化を示す。グラフ中、実線は実測値を近似した曲線である。この関係を用いれば金属または炭素質の堆積量から脱硫反応における触媒活性の低下の度合い(触媒劣化)が分かる。他の反応についても、図7及び図8のグラフのような金属及び炭素質堆積量と相対触媒活性との関係を実験的に求めておき、上記ステップ103cで求めた金属堆積量及び炭素質堆積量から相対触媒活性の変化を求めることができる。そして、各反応(i)毎に触媒の残存活性a(i)を求める。ここで、iは、分解反応、ナフテン開環反応、ナフテンのアロマ化反応、脱アロマ反応、脱オレフィン反応、脱残炭反応、脱硫反応、脱金属反応、脱窒素反応の反応識別番号を示す。
【0040】
(7)精製処理プロセス評価(ステップS104)
次に、各擬似成分について、触媒の残存活性を考慮して精製反応の進行に伴い原料油から精製される物質の濃度を求める。ここで、精製反応としては、前述の脱硫反応、脱窒素反応、脱オレフィン反応、脱アロマ反応、ナフテン開環反応、分解反応、ナフテンのアロマ化反応、脱残炭反応、NiおよびVの脱金属反応を考え、各反応の水素分圧依存性、炭素数依存性、分子型依存性等を考慮して各反応式を計算することにより精製物質の濃度変化を求め、精製処理プロセスを評価する。具体的には、例えば、以下の反応式(3)を解くことにより、精製物質の濃度変化を求めることができる。
【0041】

【数3】

【0042】
式(3)中、ai×Koi×Ci×exp(−Ei/RT)/SVは反応に関わる因子であり、ai:残存触媒活性因子、Koi:反応定数、Ci:反応物質濃度、Ei:活性化エネルギー、T:温度、R:気体定数、SV:液空間速度である。
【0043】
fi(PH2)×fi(CN)×fi(Structure)×fi(Other)は反応種ごとの因子であり、脱硫、脱窒素、脱オレフィン、脱アロマ(芳香環水添)、ナフテン開環、分解、脱残炭、NiおよびVの脱金属の9種の反応に関し、各反応の水素分圧依存性fi(PH2)、炭素数依存性fi(Cn)、分子構造(主にP/N/A)依存性fi(Structure)及びその他の因子fi(Other)を考慮している。
【0044】
FCONT×FSIZE×FREGEN×FLOADは、触媒に関する因子であり、FCONT:触媒接触効率の影響、FSIZE:触媒径の影響、FREGEN:新触媒/再生触媒区別項、FLOAD:触媒の充填状態をそれぞれ表す。
【0045】
式(3)中のaiに、ステップS104で求めた各反応の残存触媒活性a(i)を用いて、式(3)を各炭素数成分ごとに計算して各炭素数成分の濃度変化ΔCiを算出することができる。こうして、全ての炭素数成分(擬似分割成分)について、それぞれ、各反応を通じて濃度がどのように変化するかが分かる。
【0046】
ここで、式(3)を用いたステップS103aにおける金属堆積量のシミュレーションについて説明する。金属堆積量は、式(3)の反応iを脱金属反応として以下のように求めることができる。例えば、新触媒(相対触媒活性が100%)を使用して連続運転を開始する場合を想定すると、まず、式(3)中、係数aiとして1を、Ciとして原料油の金属濃度をそれぞれ用いて式(3)を計算することにより、精製油中の脱金属量ΔC(脱Niまたは脱V)が求まる。この脱金属量ΔCは、精製初期状態(例えば、精製処理1日目)における金属堆積量である。この金属堆積量を、図7に示した相対触媒活性と金属堆積量との関係に適用して相対触媒活性を求める。求めた相対触媒活性は、式(3)における係数aiに相当する。次に、この得られた係数aiを用いて式(3)を計算することにより、精製第2期の(例えば精製処理2日目)の脱金属反応における濃度変化(脱金属量)ΔCが求まる。このΔCを、再度、図7に示した関係に適用して、相対触媒活性すなわち係数aiを求める。このaiは精製第3期(例えば精製3日目)における脱金属反応における残存触媒活性因子を示す。このようにして、触媒の脱金属反応における活性劣化を経時的に計算することによって、精製スケジュールに従った金属堆積量を予測することができる。
【0047】
また、炭素質堆積量は、式(3)を用いて以下のように具体的にシミュレートすることができる。例えば、新触媒(相対触媒活性が100%)を使用して連続運転を開始する場合を想定すると、aiを1として、例えば、脱硫反応について式(3)を計算することにより各炭素数成分の脱硫反応における濃度変化ΔC(i=DS)を求める。この濃度変化ΔC(i=DS)を式(1)中の反応進行量に関する係数TDSに代入して脱硫反応にける炭素質堆積量ΔCC,DSを計算する。こうして精製初期状態(例えば、精製処理1日目)の脱硫反応における各炭素数成分による炭素質堆積量が求められる。得られた各炭素数成分による炭素質堆積量を合計して、その合計量を図8に示したような脱硫反応の相対触媒活性と炭素質堆積量の関係に適用して、脱硫反応の相対触媒活性を求めることができる。求めた相対触媒活性は、次ぎの精製処理(精製処理2日目)における脱硫反応の残存触媒活性因子aiに相当する。従って、このaiを用いて再び(3)式、(1)式及び図8の関係から精製処理2日目以降における炭素質堆積量を求めることができる。このようにして、触媒の各反応における活性劣化を経時的に考慮しつつ炭素質堆積量を予測することができる。
【0048】
(8)データ出力・表示(ステップS105)
ステップS105では、精製処理プロセス評価ステップ(S104)により得られる情報を出力データとして保存する。出力データとしては、図4(b)に示すような、触媒関連データ(金属(Ni,V)堆積データ、炭素質堆積データ、触媒の残存活性データ等)、運転関連データ(温度挙動(触媒劣化度、反応塔内温度)、脱硫率、脱窒素率、分解率、脱アロマ率、水素消費量、反応定数等)、製品データ(生産量、比重、硫黄、窒素、蒸留性状、CP/CN/CA、残炭等)を含む。製品データとしては、ステップS104で算出された各炭素数成分(擬似成分)ごとの各反応における濃度変化に基づいて、精製後の各炭素数成分(擬似成分)の濃度、硫黄含有量、金属含有量などが得られる。すなわち、反応塔から精製された精製油の成分及び濃度が予測される。
【0049】
(9)精製処理条件の決定(ステップS106)
ステップS106では、ステップS105で出力された精製油の特性が、予定した精製レベルに達しているかを確認して、もし、予定の精製レベルに達していないならば、入力条件を変更して、予定したレベルに達するまで上記の計算を繰り返す。そして予定した精製レベルが得られたならば、その精製条件(精製パラメータ)を最適条件として決定し、記憶装置(126)に記憶する。
【0050】
(10)精製パラメータ制御(ステップS107)
最後に、決定された精製条件(入力した運転データ)を用いて、反応塔で精製処理を実行する。
【0051】
以上の一連の精製処理解析ステップによれば、金属及び炭素質の堆積による触媒の劣化に係わる情報を参照しながら精製処理を実行することができるので、触媒の交換や再生を効率的に行うことができ、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減することができる。
【0052】
ここで、ステップS104までの精製処理解析により得られた一の触媒層からの精製油を次ぎの触媒層への原料油として上記の精製処理解析を繰り返して行っても良く、これにより、多くの種類の触媒を用いる場合や、反応塔内で精製条件が変化する精製処理の解析を行うこともできる。
【0053】
また、この際、初回の精製処理解析時の擬似成分として含まれない中間擬似成分を次回の擬似成分として含ませても良い。これにより、触媒の劣化に大きく寄与する成分(コーク堆積の前駆体等)の反応も考慮することができ、触媒劣化の評価精度が向上するのである。
【0054】
さらに、精製物質の濃度変化を求めるための反応式は、原料油の1つの擬似成分が他の擬似成分を生成する反応を含み、反応温度Tが反応熱量のみならず擬似成分の相変化に伴う吸発熱量を考慮して決定される機構を含むことが望ましい。これにより、反応温度を正確に評価することが可能となり、触媒劣化の評価精度を向上させることができる。以下に、擬似成分が触媒層中で反応したときに、発生した反応生成物が気化または液化することにより発熱または吸熱する場合を考慮した温度解析モデルを説明する。
【0055】
反応塔には、例えば図17に示したように、複数の触媒層3a〜3fが設けられており、原料油が各触媒層において精製される。この際、前記各炭素数成分は、種々の化学反応により触媒層内で熱を発熱または吸熱する。ここでは反応熱のみならず、反応により生じた生成物の気液平衡を考慮する。すなわち、各炭素数成分が各触媒層において前記種々の反応により生じる生成物は、その触媒層における圧力及び温度条件により、気化(または液化)することがある。それらの生成物が気相または液相に相変化することにより、気化熱(液化熱)が発生するために、その影響で触媒層の温度が変化する。それゆえ、本発明では、反応生成物の気液平衡に基づく、気化熱(液化熱)を考慮して各触媒層の温度を見積もる。
【0056】
例えば、触媒層3aの入り口及び出口の原料油の温度をそれぞれTIN、TOUTとし、触媒層3aでの熱の出入りによる温度変化をΔTとすると、下記式(4)及び(5)が成り立つ。
【0057】
【数4】

【0058】
ここで、ΔTは以下のように表すことができる。
【0059】
【数5】

【0060】
式(5)中、TOは触媒反応とは無関係の外的因子による温度変化分であり、例えば、クエンチング用水素の導入により低下する触媒層の温度変化である。ΔHは前記各反応における発熱量、Hは各炭素数成分が反応して生じた反応生成物が気化(または液化)するときの気化熱(液化熱)である。Cは、各炭素数成分の熱容量である。すなわち、式(5)の右辺の第2項は、ある触媒層において、各炭素数成分が反応iにより生じる反応熱とその反応生成物が気化(または液化)することにより発生する気化熱(または液化熱)による温度変化分を、全ての炭素数成分及び全ての反応について総和した温度変化である。なお、ΔH、H、Cは、予め実験などにより求めておき、記憶装置(126)にデータテーブルとして記憶しておくのが好ましい。
【0061】
この式(5)により、各触媒層3a〜3fにおける温度変化をシミュレートすることができる。式(5)の結果を用いることにより、各触媒層を出る原料油の温度TOUTは反応熱に気液平衡の際の吸発熱を考慮しても各触媒層に入る原料油の温度TINよりも多くの場合に上昇している。この上昇した温度TOUTの原料油が次ぎの触媒層に入る原料油のTINとなる。こうして、得られた温度Tを式(2)及び(3)で用いることにより一層高精度な精製条件を求めることができる。なお、上記温度変化の解析は図1中の温度変化演算部129で計算される。
【0062】
本発明の実施形態に係わる精製処理解析装置120は、例えば、図16に示すような概観を有する。つまり、本発明の実施形態に係わる精製処理解析装置120は、コンピュータシステム140内に精製処理解析装置120の各要素を内蔵することにより構成される。コンピュータシステム140は、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ141および光ディスクドライブ143を備えている。そして、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ141に対してはフロッピー(登録商標)ディスク142、光ディスクドライブ143に対しては光ディスク144をそれぞれ挿入し、所定の読み出し操作を行うことにより、これらの記録媒体に格納された精製処理解析プログラムをコンピュータシステム140内にインストールすることができる。また、適当なドライブ装置をコンピュータシステム140に接続することにより、例えば、メモリ装置の役割を担うROM145や、磁気テープ装置の役割を担うカートリッジ146を用いて、炭化水素油精製処理解析プログラムのインストールを実行することも可能である。
【0063】
また、本発明の実施形態に係わる精製処理解析装置120は、プログラム化しコンピュータ読み取り可能な記録媒体内に格納しても良い。そして、精製処理解析プログラムを実行する際は、この記録媒体をコンピュータシステムに読み込ませ、コンピュータシステム内のメモリ等の記録部に精製処理解析プログラムを格納し、精製処理解析プログラム中の処理を実行させることにより、本発明の実施形態に係わる精製処理解析装置およびその方法をコンピュータシステム上で実現することができる。記録媒体として、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、デジタルビデオディスクのようなプログラムを記録することができるコンピュータ読み取り可能な媒体を含み得る。
【0064】
なお、本発明の精製処理解析装置は、図1に示したように精製装置と連結して精製装置を制御するための精製処理制御装置としても機能し得る。
【0065】
実験例
本発明に従う精製処理解析装置の幾つかの出力情報例を、実際の精製装置における結果と比較しつつ説明する。
【0066】
[精製反応の解析例]
本発明に従う精製処理解析装置により解析される精製装置として、反応塔内に触媒が充填された水素化精製装置を用いた。この触媒を解析するために60層に分割して表示する。この精製装置は、最初の触媒層1〜9層までは、脱硫活性の低い脱メタル触媒を充填した触媒層である。10層〜20層、21〜30層、31〜40層、41〜50層、51〜60層には、脱硫活性の高い脱硫触媒を充填してある。また、この精製装置は、20層と21層、30層と31層、40層と41層、50層と51層、60層と61層との間に水素(クエンチング水素)が導入されて原料油が冷却されるように構築されている。
【0067】
上記精製装置をモデル装置として、前記温度解析モデルに従って、各触媒層の温度を見積もった。この際、図4(a)に示した入力データのうち触媒データとして、上記モデル装置に充填した触媒のデータを用いた。運転データは、以下の通りである。減圧軽油留分を原料油とし、水素圧:約8MPa、液空間速度:約2hr−1、反応温度:320〜420℃である。この原料油について、蒸留実験を行い、その結果に従って、前述のステップS102で述べたように約50の区分に分割した。そして、(5)式において、この分割した炭素数成分を、精製反応として、脱硫反応、脱窒素反応、脱オレフィン反応、脱アロマ反応、ナフテン開環反応、分解反応、脱残炭反応、NiおよびVの脱金属反応を設定して、各触媒層1〜60における温度をシミュレートした。結果を図9に示す。図9に示したように、原料油の温度は活性触媒が充填された触媒層9を通過した後から上昇しており、その後、冷却用水素が導入されるごとに一時的に低下していることがわかる。上記精製装置において、上記入力条件に従って実際の精製を行ったところ、図9に示したように実測温度は、シミュレートされた温度(+)と良く一致していることがわかる。このように、実測値とシュミレーション結果が一致しているのは、精製反応モデルが適切であり、且つ(4)式に示した温度解析モデルにおいて、精製反応による反応熱の収支に加え、気液平衡にともなう吸発熱を考慮したためであろう。このような温度解析情報を積極的に活用することにより、触媒の最適な交換時期をモニタリングし、触媒を有効活用することができる。また、反応塔には温度制限(上限)があるために、触媒活性と反応塔の温度制限を勘案して、触媒劣化に伴う好適な温度スケジュールを予め設定することが可能となる。
【0068】
[金属堆積量の解析例]
精製反応の解析例で用いた入力データとその結果を用いて、前述の60層を有する精製装置における各層の金属(Ni、V)堆積量を、ステップS103aに従って算出した一例を図10に示す。図10中、金属堆積量は12ケ月間精製を繰り返した場合の1ケ月毎の経時変化(+)として示した。また、実際の精製装置を使用して12ケ月運転後における金属堆積量の実測値を図10に示した。図10より、12ケ月後の計算値(+)と実測値が良く一致していることがわかる。これより、ステップS103aにおける解析で用いたモデルが適切であることがわかる。
【0069】
[炭素質堆積量の解析例]
ステップ103bで用いた炭素質堆積量の解析モデルを用いた解析結果の一例を図11に示す。触媒、原料油、精製装置に関する入力データは、精製反応の解析例で用いたデータと同一である。図11中、曲線1〜9は、触媒層1〜60における、前述の反応により発生する炭素質の量及び炭素質前駆体の発生量を表す。この炭素質前駆体の発生量に基づき、次ぎの触媒層で炭素質が発生するモデルを解析している。炭素質発生量は、炭素質前駆体の発生に基づき発生する量と分解反応などの反応により発生する炭素質の量の総和として求められる。
【0070】
[炭素質堆積量の経時的変化の解析例]
図11に示した結果から得られたの総炭素質堆積量の触媒層1〜60におけるの解析値(+)を、1ケ月後から12ケ月経過後に渡って図12に経時的に示す。また、比較のために実際の精製装置における12ケ月後の炭素質堆積量を実測値1で示した。解析値は実測値と良く一致しており、ステップS103bで用いたモデルが適切であることがわかる。
【0071】
金属及び炭素質堆積量の解析結果より、金属堆積物の分布状態や炭素質堆積物の分布状態を容易に知ることができるので、触媒の劣化具合の判断が容易となり、触媒の寿命を最大限に活かした精製処理を実行することができる。
【0072】
[精製油の蒸留性状の解析例]
図13は、ステップS105において得られた各炭素数成分の濃度変化から求めた精製油の性状を実線で示す。縦軸には留出温度を、横軸にはその温度までに留出する体積量を示す。なお、炭素数成分と沸点(蒸留温度)との関係は図19を用いて再度変換した。図13中には、原料油の性状(入力データ)も示した。また、精製装置で実際に精製した精製油の実測値を一点破線でグラフに示したが、ステップS105の解析結果(実線)と完全に重なっている。一般に、水素化精製時に炭化水素成分の分解を伴わない場合(含硫黄化合物、含窒素化合物が精製される反応のみ)でも、原料油は精製により軽質化する(沸点の低い成分に変わる)。本発明では、各炭素数成分の脱硫反応、脱窒素反応により、その不純物成分(含硫黄化合物、含窒素化合物)から硫黄、窒素が離脱することにより、残った成分の沸点は低下し、より炭素数の少ない成分に変化するプロセスを解析モデルに加えているので、精製油の蒸留性状を高い精度で予測することができる。特に、水素化精製により得られる灯油、軽油などの生産量を正確に予測するには、図13のような精製油の蒸留性状の予測が不可欠であるため、本発明は極めて有用である。
【0073】
[所定の精製条件下での運転温度の解析例]
図14は、2種類の原料油を交互に切り換えて運転し、精製油の硫黄分がそれぞれの原料油に対して所定の規格に達するように、運転温度を調整しながら運転した場合の塔内温度の実測値と、解析値(+)の経時変化を示す。なお、塔内温度は、解析結果が所定の硫黄分となるように、原料油の入り口温度を設定して計算を繰り返すことにより求めることができる。
【0074】
この結果より、異なる原料油に対してもそれぞれ良く一致しており、金属、炭素質の堆積による触媒劣化モデルの正当性が確かめられた。
【0075】
図15には、図14で用いたのと同じ原料油を用いて、水素消費量の経時変化の実測値と解析値(+)を示す。水素消費量は、(3)式で得られる各炭素数成分の各反応による濃度変化に基づいて生じる水素の消費と発生の総和量として計算される。異なる原料油に対してもそれぞれ良く一致しており、脱硫、脱窒素などの各精製モデルが正当であることが分かる。この結果より、精製装置の運転効率等を見積もることができ、この情報を実際の精製装置にフィードバックすることにより、稼動日数の変化から判断して効率的な精製処理を行うことができる。
【0076】
なお、解析結果より、例えば、精製処理稼動日数の経過に伴う単位精製油量当たりに含まれる硫黄分の量をシミュレートしてもよい。そして、予め許容する硫黄分レベルを解析装置内で設定し、許容レベルを上回った場合はその稼動日数を予告する等のようにして、精製油の特性の変化から触媒の交換時期等を管理するこが可能となる。また、精製油の沸点を抽出することも可能であるので、分留処理を行った後に精製油の特性を触媒の劣化現象を考慮して正確に予測することが可能となる。
【0077】
上記例において、ステップ103dにおいて触媒相対活性を求めるために、相対活性と金属または炭素質堆積量の経験的な関係を用いたが、ステップ103cで得られた細孔内の不純物分布の結果を用いて触媒相対活性を計算で求めることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上述べてきたように、本発明の精製処理システムによれば、触媒の劣化現象に関する情報を参照しながら精製処理を行うことができるので、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。また、触媒層毎に気液平衡を考慮して高精度に温度変化を予測することができるので、触媒反応及び触媒劣化の予期精度が向上する。これにより最適な精製スケジュールで精製装置を運転することが可能となる。
【0079】
また、本発明の精製処理解析装置によれば、触媒の劣化現象に関する情報を参照しながら精製処理を解析することができるので、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。また、触媒劣化を原料油を構成する複数の成分及び起こり得る複数の反応に分けて解析しているために、極めて高精度な解析結果が得られる。さらに、触媒層毎に気液平衡を考慮して温度変化を予測することにより、一層高精度な解析結果が得られる。
【0080】
また、本発明の精製処理解析方法によれば、触媒の劣化現象に関する情報を参照しながら精製処理を解析することができるので、効率的な精製処理を実現し、精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。また、触媒劣化を原料油を構成する複数の成分及び起こり得る複数の反応に分けて解析しているために、極めて高精度な解析結果が得られる。さらに、触媒層毎に気液平衡を考慮して温度変化を予測することにより、一層高精度な解析結果が得られる。
【0081】
本発明の精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によれば、触媒の劣化現象に関する情報を参照しながら精製処理を解析しているので精製処理を高精度に予測できる。この記録媒体を使用して精製装置を制御することにより炭化水素油精製処理に要する経費を大幅に削減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係わる精製処理システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係わる精製処理方法を示すフローチャート図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係わる精製処理方法を示すフローチャート図である。
【図4】図4A及びBは、それぞれ、本発明の実施形態に係わる精製処理解析に用いる入力データ及び出力データを示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係わる精製処理解析における擬似成分分割方法を説明するための図であり、炭素数成分の分布を表す。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係わる精製処理解析における触媒細孔内の不純物分布解析方法を説明するための図である。
【図7】図7は、実験的に求めた金属堆積量に対する相対触媒活性の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実験的に求めた炭素質堆積量に対する相対触媒活性の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明に従う精製処理解析装置から出力される塔内温度分布とその実測値とを比較したグラフである。
【図10】図10は、本発明に従う精製処理解析方法及び装置から出力される金属堆積量とその実測値とを比較したグラフである。
【図11】図11は、本発明に従う精製処理解析方法及び装置から出力される各反応に基づく炭素質堆積量を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明に従う精製処理解析方法及び装置から出力される炭素質堆積量とその実測値とを比較したグラフである。
【図13】図13は、ステップS105において得られた各炭素数成分の濃度変化から求めた精製油の蒸留性状(実線)と精製装置で実際に精製した精製油の蒸留性状(一点破線)とを、原料油の蒸留性状(入力データ)と比較して示したグラフである。
【図14】図14は、2種類の原料油を用いて、精製油の硫黄分が各原料油に対してそれぞれ所定の規格を達成するように、運転温度を調整しながら運転した場合の塔内温度の実測値と、解析値(+)の経時変化を示す。
【図15】図15は、水素消費量の経時変化の実測値と解析値(+)を示す。
【図16】図16は、本発明の実施形態に係わる精製処理解析装置の概観を示す図である。
【図17】図17は、精製装置の構成を示す模式図である。
【図18】図18は、炭素質の生成機構を説明する概念図である。
【図19】図19は、原料油サンプルを蒸留して得られた沸点と蒸留成分の量との関係を示すグラフである。
【図20】図20は、沸点と蒸留成分の炭素数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析装置であって、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割部と;
精製処理に伴う前記触媒の劣化を導出する触媒劣化導出装置と、
前記触媒劣化導出装置の導出結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測部とを有する精製処理解析装置。
【請求項2】
前記触媒劣化導出装置は、
精製処理に伴い前記触媒に堆積する金属量を演算する金属堆積量演算部と、
精製処理に伴い前記触媒に堆積する炭素質量を演算する炭素質堆積量演算部と、
前記金属量および炭素質量を考慮して前記触媒が有する活性度を演算する活性度演算部とを備える請求項1に記載の精製処理解析装置。
【請求項3】
前記炭素質堆積量演算部及び活性度演算部は、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより生じる反応毎に、演算を行う請求項2に記載の精製処理解析装置。
【請求項4】
さらに、精製装置内における原料油の温度変化を演算する温度変化演算部を備え、前記温度変化は、前記反応の反応熱と触媒層中の気液平衡における吸発熱に基づいて演算される請求項1〜3のいずれか一項に記載の精製処理解析装置。
【請求項5】
前記擬似成分は前記原料油中の成分を沸点又は炭素数の違いにより分割することにより決定される1〜3のいずれか一項に記載の精製処理解析装置。
【請求項6】
原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析方法であって、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割ステップと、
精製処理に伴う前記触媒の劣化を導出する触媒劣化導出ステップと、
前記触媒劣化導出ステップの結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測ステップとを含む精製処理解析方法。
【請求項7】
前記触媒劣化解析ステップは、
精製処理に伴い前記触媒に堆積する金属量を演算する金属堆積量演算ステップと、
精製処理に伴い前記触媒に堆積する炭素質量を演算する炭素質堆積量演算ステップと、
前記金属量および炭素質量を考慮して前記触媒が有する活性度を演算する活性度演算ステップとを含む請求項6に記載の精製処理解析方法。
【請求項8】
前記炭素質堆積量演算ステップ及び活性度演算ステップは、原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させることにより生じる反応毎に、演算を行う請求項7に記載の精製処理解析方法。
【請求項9】
さらに、精製装置内における原料油の温度変化を演算する温度変化演算ステップを備え、前記温度変化は、前記反応の反応熱と触媒層中の気液平衡における吸発熱に基づいて演算される請求項6〜8のいずれか一項に記載の精製処理解析方法。
【請求項10】
前記擬似成分は前記原料油中の成分を沸点又は炭素数の違いにより分割することにより決定される6〜8のいずれか一項に記載の精製処理解析方法。
【請求項11】
原料油を水素雰囲気下で触媒と接触させる精製処理の解析を行う精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体において、
前記原料油を少なくとも2つの擬似成分に分割する擬似成分分割処理と;
精製処理に伴う前記触媒の劣化を演算する触媒劣化導出処理と;
前記触媒劣化処理の結果に基づいて、精製処理に伴う前記擬似成分の変化及び前記原料油の精製処理結果を予測する精製処理結果予測処理とを含み、これらの処理をコンピュータに実行させる精製処理解析プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−126684(P2007−126684A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24634(P2007−24634)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【分割の表示】特願2001−503968(P2001−503968)の分割
【原出願日】平成12年6月9日(2000.6.9)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)