説明

精製容器セット、及び精製装置

【課題】溶液中の溶質成分の単離精製において、濃縮操作、溶媒除去操作を必要としない多段階精製装置を提供する。
【解決手段】精製装置は、精製を行う担体1aを収め、且つ容器下開口端に噴霧部1cを有する第1容器1と、噴霧部を介して前記第1容器1と対面し、噴霧方向下流に存在する回収容器4である第2容器を有する精製部を備えている。第1容器によって精製された目的溶質を含む溶液は、試料を回収する第2容器に噴霧され、液体部分が揮発除去されることによって、目的溶質を回収しながら迅速な濃縮・溶媒除去が可能となる。また、回収容器4の代わりに、精製を行う担体を収め、且つ容器下開口部に噴霧部を有する第1容器と同じ構成のものを使用して、第1容器で精製された目的溶質を含む溶液を噴霧によって回収することにより、濃縮・溶媒除去操作することなく迅速に二段階目以降の精製を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精製容器セット、及び精製装置に関し、例えば、溶液中の溶質成分を単離精製するための精製容器セット、及び精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬分野における薬物動態解析や、天然物からの薬物候補の抽出、また食品分野における残留農薬検査や添加物の分析や環境分野における土壌・海洋汚染検査等の分析を行う際、まず、試料中に含まれる分析対象物を濃縮・精製する前処理が必要となる。
【0003】
前処理法として汎用されているのは固相抽出法で試料溶液または試料懸濁液中の目的物質を精製する方法である。固相抽出操作を概要すると、固体担体を充填した精製容器に試料溶液を添加し、担体との相互作用によって目的物質を一旦担体上に保持しつつ、担体洗浄溶液を通過させ夾雑成分を洗い流した後、溶出液にて担体より目的物質を溶出させ、目的物質の精製を行う。特許文献1では、この固相抽出作業の効率化を図る目的で、前記操作を自動で行う自動抽出装置が提案されている。
【特許文献1】特開平8−164302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、質量分析法や液体クロマトグラフィー法を用いた血液や尿などの生体試料中に存在する薬物の成分分析など、微量な成分の高精度・高感度分析を行う際、目的物質を純度よく精製することが必須となる。そのため、性質の異なる担体を用いた多段階の精製が前処理として必要となる。
【0005】
一段階目の固相抽出後、精製された目的物質を含む溶出液を、二段階目の試料溶液として用いる際、二段階目に使用する担体に応じて、その試料溶液を濃縮(または乾燥)し試料溶液中の溶液組成を変更する必要がある。例えば、前処理一段階目にODSのような逆相担体を用いた場合、精製し溶出した目的物質を含んだ試料溶液中には高濃度の高極性溶媒(アセトニトリル等)が含まれる。このため、前処理二段階目に逆相系担体や溶媒耐性の低い担体を使用する場合、真空遠心濃縮装置や窒素噴き付け蒸発濃縮装置などを用いて、試料溶液中の濃縮・溶媒除去を行う必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、一段階の固相抽出操作を自動で行った後、抽出処理を行った装置内にて試料溶出液の濃縮を窒素噴き付けと加熱による蒸発によって行っている。このため、蒸発乾燥は濃縮終了まで長時間を要し、また加熱による目的物質の分解を引き起こしてしまう問題がある。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、自動精製(抽出)装置を用いて試料溶液から目的溶質成分を精製(単離精製)する際、長時間の濃縮・溶媒除去操作を必要とせず、簡易かつ迅速に精製操作を繰り返し行える技術(例えば、多段階精製装置)を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、精製された目的溶質を含む溶液を、第1容器から第2容器に噴霧させることによって、濃縮するようにする。
【0009】
即ち、本発明による精製容器セットは、担体を収めた第1容器と、第1容器の一方の開口端に設置される噴霧部と、噴霧部を介して第1容器と対面する第2容器と、を備える。そして、第1容器は、噴霧方向で噴霧部の上流に位置し、第2容器は、噴霧方向で噴霧部の下流に配置される。なお、ここで、担体は固相担体である。
【0010】
また、本発明による精製装置は、担体を収めた第1容器と、第1容器の一方の開口端に設置される第1噴霧部とを有する精製部と、試料を第1容器内に供給する供給部と、第1噴霧部に気圧を印加する圧力制御部と、を備えている。第1容器は、噴霧方向で前記第1噴霧部の上流に位置する。
【0011】
当該精製装置は、さらに、第1容器の他方の開口端の近傍に設置される第2噴霧部を備える。このとき、供給部は、第2噴霧部を介して試料を第1容器内に供給し、圧力制御部は、第1噴霧部と第2噴霧部とに気圧を印加する。
【0012】
当該精製装置は、さらに、第1容器と第2容器との位置を相対的に移動させる容器位置制御部を備える。容器位置制御部は、第1容器からの精製処理が終了した後、第2容器を第1容器が配置されていた場所に移動させ、新たに第3容器を第2容器が配置されていた場所に配置する。
当該精製装置は、さらに、第1容器を回収するための容器回収部を備える。
【0013】
当該精製装置は、さらに、第1容器の前記他方の開口端を覆う蓋部を備える。この蓋部は第1容器に対して脱着可能である。また、供給部は、蓋部を介して第1容器に試料を供給し、圧力印加部は、蓋部を介して第1噴霧部に気圧を印加する。
【0014】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、溶液中の溶質成分の単離精製において、濃縮操作、溶媒除去操作を必要としない精製容器セット、及び多段階の精製が自動制御できる精製装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0017】
<精製容器セットの基本構成>
図1は、本発明の実施形態による精製容器セットの基本構成を示す図である。つまり、これは、実際に精製が行われる精製部であり、当該容器セットは、精製容器である第1容器1、回収容器4、及び蓋部3により構成される。
【0018】
精製用容器として使用する第1容器1は、溶質の精製に使用する担体1aを収め、担体1aの流出を防ぎ且つ液体と気体のみを通過させる底部1bと、容器下端開口部に噴霧部1cを備える。この噴霧部1cによって目的溶質を含む溶液噴霧させることにより、溶液の揮発効果を向上させ、試料溶液を濃縮・溶媒除去することが可能となる。
【0019】
回収容器4は、噴霧部1cの下流に位置し第1容器1にて精製−噴霧された目的溶質の回収を行う。回収容器4が第1容器の噴霧部1c下流に配置されることによって、噴霧された溶質を回収率よく容易に回収することができる。試料や担体からの溶出にしようする溶出液、噴霧のための気体は、着脱可能で密閉性の高い蓋部3の開口部、溶液供給口5、ガス供給口6及び、連結部2を介して前記第1容器1に供給される。
【0020】
<精製装置の基本構成及び基本動作(一段階精製)>
図2は、図1で示した精製部(精製容器セット)を含む精製装置の基本構成を示す図である。本発明の実施形態による精製装置は、図1で示した精製部上流に、溶液供給槽A7a、溶液供給槽B7b、試料供給槽7cを有する供給部7と、溶液供給槽A7a、溶液供給槽B7b、及び試料供給槽7cからの送液を切り替えるバルブ8と、ポンプ9と、噴霧用の送気のためのガス圧力制御部10と、を備えている。供給部7からの溶液及び試料の供給量と供給のタイミングは送液制御装置(図示せず)によって、バルブ8とポンプ9と連動して制御できるようになっている。同時に噴霧用のガス圧力制御部10は、その気圧量(送気量)と送気のタイミングを供給部7からの送液と連動して制御可能となっている。
【0021】
図2を用いて本発明の実施形態による精製装置を使用した1段階の精製過程を説明する。まず、溶液供給槽A7aよりバルブ8、ポンプ9、蓋部3の溶液供給口5を経て、担体の平衡化のための溶液を第1容器1に供給する。続いて、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した溶液を担体1a、底部1bを通過させ容器外に排出することにより、担体の平衡化操作を行う。
【0022】
次に、試料供給槽7cよりバルブ8、ポンプ9、蓋部3の溶液供給口5を経て試料(目的溶質を含む溶液)を第1容器1に試料を供給する。そして、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した試料溶液を担体1a、底部1bを通過させ容器外に排出するとともに、目的溶質を担体1aに保持させる。
【0023】
溶質を保持させた担体1aの洗浄のため、溶液供給槽A7aより溶液Aを第1容器1内に供給し、気圧の印加によって容器外に排出させる。担体1aに保持した目的溶質は溶液Bによって遊離させ、送気によって溶液を吐露させることにより第1容器外1へ排出させ回収を行う。例えば担体1aとして親油性のカラム(逆相カラム)を使用した場合には、溶液Bとして溶液Aよりも有機溶媒(メタノール、アセトニトリルなど)濃度が高い溶液を選択することで、このような分離操作は可能となる。さらに、イオン交換カラムであれば、溶媒に含まれる塩濃度をA溶液とB溶液で変えることで、このような分離操作は可能となる。
【0024】
このように、溶液供給槽B7bより溶液Bを第1容器1内に供給し、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した溶液Bにより担体1aから遊離した目的溶質を含む溶出液を担体1a、底部1bを通過させ噴霧部1cより回収容器4に向けて噴霧し回収を行うことによって、1段階の精製を行った溶質(試料)を得ることができる。精製装置によって精製回収した溶質は噴霧によって濃縮・溶媒除去されているため、回収後の溶質を用いた様々な分析において、分析に必要な溶液組成の交換等が短時間で容易に可能となる。なお、噴霧部1cから単に排液を排出するか、噴霧させるかは、ガス圧力制御部10によって印加されるガスの気圧を調整することにより切り替えることができるようになっている。
【0025】
<精製容器セットの配置制御>
図3は、精製を行う第1容器1と回収容器4の相対配置を制御する構成を説明するための図である。各容器は、容器支軸A14または容器支軸B15と、それに取り付けられたアクチュエーター14a及び15aと、アクチュエーターの先端にある容器固定部14b及び15bとによって保持される。
【0026】
また、容器位置制御部12によって、容器支軸、アクチュエーター、及び容器固定部の開閉等を制御することにより、第1容器と回収容器4の相対位置を変化させることができる。この相対配置制御によって、目的溶質を担体1aに保持させる際の試料廃液・担体1aの洗浄操作で排出する洗浄廃液は、廃液槽(図3には図示せず)に回収し、溶出液によって担体1aから遊離した目的溶質を含む液体のみを回収容器4に噴霧回収することが可能となる。
【0027】
<多段階精製の動作>
図4は、本発明の実施形態による精製装置を用いた多段階の精製過程を説明するための図である。多段階精製を可能とするためには、第1容器によって精製された溶質を含む試料は噴霧によって、濃縮・溶媒除去されながら回収されることと、精製され試料の回収容器が二段階目の精製を行う担体を備えることが必要となる。
【0028】
図4に示される通り、本発明の実施形態による精製装置では、第1容器1の噴霧部下流対面に、回収容器の代わりに第1容器1と同様に、溶質の精製に使用する担体11aを収め、担体11aの流出を防ぎ且つ液体と気体のみを通過させる底部11bと、容器下端開口部に噴霧部11cを備える第2容器を配置し、第1容器1によって精製した目的試料を回収し、回収に使用した第2容器11にて二段階目の精製を行うことが可能である。第2容器11の噴霧部下端に位置する噴霧部キャップ11dは、第2容器11を回収容器として使用する際の液漏れと噴霧部11cの汚染防止を担う。
【0029】
本装置を用いた多段階精製の例として、二段階精製の概要について図5乃至9を用いて説明する。なお、任意の段階の精製は、二段階精製の動作を繰り返すことにより実現できる。
【0030】
図5は、第1容器1による一段階目の精製過程における、目的試料の噴霧溶出と第2容器11による回収動作を示している。まず、溶液供給槽A7aよりバルブ8、ポンプ9、蓋部3の溶液供給口5を経て、担体の平衡化のための溶液を第1容器1に供給する。続いて、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した溶液を担体1a、底部1bを通過させ容器外に排出することにより、担体の平衡化操作を行う。次に、試料供給槽7cよりバルブ8、ポンプ9、蓋部3の溶液供給口5を経て試料(目的溶質を含む溶液)を第1容器1に試料を供給する。そして、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した試料溶液を担体1a、底部1bを通過させ容器外に排出するとともに、目的溶質を担体1aに保持させる。溶質を保持させた担体1aの洗浄のため、溶液供給槽A7aより溶液Aを第1容器1内に供給し、気圧の印加によって容器外に排出させる。さらに、担体1aに保持した目的溶質は溶液Bによって遊離させ、送気によって溶液を吐露させることにより第1容器1外へ排出させ回収を行う。溶液供給槽B7bより溶液Bを第1容器1内に供給し、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した溶液Bにより担体1aから遊離した目的溶質を含む溶出液を担体1a、底部1bを通過させ噴霧部1cより、噴霧下流に位置する第2容器11に吐露することにより、一段階目の精製を終えた試料の回収を行う。
【0031】
図6は、使用済みの第1容器1と試料を回収した第2容器11の位置変化について示している。一段階目の精製終了後、容器位置制御部12により蓋支軸13が移動し、それと連結した蓋部3は使用済みの第1容器1より脱離する。使用済みの第1容器1は容器位置制御部12の位置制御により、容器回収部18へ運ばれ、容器固定部14bより離脱し容器回収部18に自動回収される。なお、容器回収部18にディスポーザブルな箱または袋等(図示せず)を備えるようにすると、使用済み容器からの汚染なく安全に簡便に装置外に廃棄することが可能である。一段階目の精製で試料を回収した第2容器11は、容器位置制御部12の位置制御により第1容器1より脱離した蓋部3と連結可能な位置まで移動する。
【0032】
図7及び8は、第2容器11の蓋部3への連結と、二段階目の精製物の回収容器の準備について示している。前段階で連結可能な位置まで移動してきた第2容器11の上部より蓋部3が下降し、第2容器11と連結する。連結した蓋部3の供給口を介して第2容器11内に、回収した溶質の再溶解のため溶液を供給する。その間、前段階で第1容器1を保持していた容器固定部14b、アクチュエーター14aは、容器位置制御部12の制御により容器支軸A14ごと、その位置を容器保管部16方向に転置し、第2容器11によって精製された試料回収のための、回収容器4を捕捉する。その後、図4dで図示するように、回収容器4を保持した容器固定部14b、アクチュエーター14aは、容器位置制御部12の制御により容器支軸A14ごと、その位置を第2容器11の噴霧部下流対面に転置し、精製物の回収準備を完了する。ここでは二段階精製の場合を説明するため、容器保管部16内に格納されている回収容器4の捕捉とその準備を示すが、さらに三段階目の精製を行う場合は、容器保管部16内に格納されている第3容器17を捕捉して第2容器11の下流に配置することにより、三段階目の精製を行うことも可能である。
【0033】
図9は、第2容器11による二段階目の精製について示している。一段階精製した試料溶液を担体11a、底部11bを通過させ容器外に排出するとともに、目的溶質を担体11aに保持させる。溶質を保持させた担体11aの洗浄のため、溶液供給槽A7aより溶液Aを第1容器1内に供給し、気圧の印加によって容器外に排出させる。担体11aに保持した目的溶質は溶液Bによって遊離させ、送気によって溶液を吐露させることにより第1容器外1外へ排出させ回収を行う。溶液供給槽B7bより溶液Bを第1容器1内に供給し、蓋部3のガス供給口6より気圧を印加し、供給した溶液Bにより担体11aから遊離した目的溶質を含む溶出液を担体11a、底部11bを通過させ噴霧部11cより、噴霧下流に位置する回収容器4に吐露することにより、二段階目の精製を終えた試料の回収を行うことができる。
【0034】
<試料及び担体について>
本実施形態の精製装置では、精製可能な試料形態としては、目的物質が溶解した液体試料であることが好ましい。固形物試料から開始する場合は、粉砕、細切、ホモジネートを行い、溶液を加えて懸濁することで精製可能となる。
【0035】
本実施形態の精製装置では、精製用の担体としては、逆相系固相(C18、C8、Ph等)、順相系固相(Si、FL等)イオン交換系固相(陽イオン交換体、陰イオン交換体等)、ミックスモード固相系(陽−陰イオン交換、逆相−イオン交換等)、両用計固相(CN、NH2、Di−OH等)、アフィニティー系固相(イオンキレート、分子認識)等、原理上全ての固相担体が使用可能である。また、これらの固相担体の平衡化や洗浄、溶出をする溶液として、緩衝液、極性溶媒、水等、それぞれの固相に適合する溶液が使用可能である。本発明の精製装置の精製容器の噴霧濃縮(溶媒除去)効果を最大にする溶液は、揮発性の高い溶媒で、メタノール、イロプロピルアルコール、アセトニトリル等が挙げられる。
【0036】
本実施形態による精製容器セットである第1容器と回収容器は、今回図示したカートリッジ形状のほか96穴プレート型(1プレートに96箇所の精製槽を有する)でも良い。精製容器である第1容器と回収容器を1回使い捨てのディスポーザブル容器にすることにより、試料のコンタミや、繰り返し使用による精製担体の劣化による試料精製能の低下を防ぐことができる。
【0037】
<実施形態のまとめ>
本実施形態による精製装置は、精製を行う担体を収め、且つ容器下開口端に噴霧部を有する第1容器1と、噴霧部を介して第1容器と対面し噴霧方向下流に存在する回収容器(第2容器)4を有する精製部を備えている。このような構成によれば、第1容器1によって精製された目的溶質を含む溶液は、試料を回収する回収容器(第2容器)4に噴霧され、液体部分が揮発除去されることによって、目的溶質を回収しながら精製装置内にて濃縮・溶媒除去が可能となる。
【0038】
また、目的溶質を含む試料溶液は供給部7から、着脱可能で密閉性の高い蓋部3の開口を介して第1容器1に供給される。第1容器1内に収められた担体1aによって保持された目的溶質の溶出液も試料溶液と同様に供給部より蓋部3の開口を介して供給される。溶出液供給後、蓋部3を介して圧力制御部10によって気圧の印加を制御し、担体より遊離した目的溶質をふくむ溶液を噴霧部1cより第2容器に向けて吐露する。供給部7及び圧力制御部10により、第1容器への試料の添加、溶出液の供給、試料溶液の噴霧、回収容器4での目的溶質の回収の各段階における、送液、気圧の印加の制御が可能となり、精製装置において、一段階の自動制御精製が可能となる。
【0039】
目的溶質の精製度を向上させるために、精製を担う担体の種類や、溶出液の種類の組み合わせを変えて複数回の精製操作が必要となる。第1容器1と対面し、噴霧方向下流に存在する回収用第2容器の代わりに、第1容器1と同じく精製を行う担体を収め、且つ容器下開口端に噴霧部11dを有する精製用第2容器11を設置することにより、第1容器1で精製された試料溶液は、噴霧下流に位置する前記精製用第2容器11に吐露され、さらに第2容器11内に収められた担体11aによって、二段階目の精製が可能となる。第2容器11の噴霧方向下流にさらに、第1容器と同じく精製を行う担体を収め、且つ容器下開口端に噴霧部を有する精製用第3容器を設置することにより、三段階目の精製を行うことが可能となる。このように精製容器を前精製容器の噴霧部下流に連続して配置していくことによって多段階の精製を行うことが可能となる。
【0040】
本実施形態の精製装置は、精製及び回収に必要な容器を格納する容器保管部を有し、段階精製に必要な容器を精製部に供給する。また、容器保管部から精製部への容器の移動や、精製を行う第1容器1と、回収または精製を行う第2容器〜第N容器の配置、試料・送液・送気用の供給口をもち着脱可能な蓋部の相対配置、精製部から容器回収部への使用済み精製容器の移動を担う容器位置制御部(アクチュエータ)14a及び15bを備える。
【0041】
供給部7、圧力制御部10による、精製を行う第1容器1への試料の添加、溶出液の供給、試料溶液の噴霧の各段階における、送液、気圧の印加の制御に加えて、容器位置制御部14a及び15aによる第1容器1、回収または精製を行う第2容器11、及び試料・送液・送気用の供給口をもち着脱可能な蓋部の配置制御により、精製装置にて多段階の自動制御精製が可能となる。また、使用済み容器を容器回収部18に自動回収することにより、感染の恐れがある生体試料や人体への毒性を有する溶質の精製処理を行った容器を作業者が触れることなく、回収廃棄することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下に,本発明の実施例を挙げて説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<条件>
1.実施例
(1)液体試料組成
1μg/mL塩酸イリノテカン/80%アセトニトリル、20%MilliQ溶液
(2)噴霧部
液体流路の外側に気体流路を備えたスプレーノズル内径0.3mm(液体流路)、外径0.4mm
(3)送液、送気条件
送液:流速0.2mL/min 送気:6L/min(噴霧回収)
(4)回収容器
1.5mL エッペンドルフチューブ
【0044】
2.比較例
(1)液体試料組成
実施例の(1)と同じ
(2)噴霧部
実施例の(2)と同じ
(3)送液、送気条件
送液:流速0.2mL/min 送気:なし(滴下回収)
(4)回収容器
実施例の(4)と同じ
(5)回収量検出法
C18カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる塩酸イリノテカンの定量
塩酸イリノテカン(吸収波長367nm)の溶出ピーク面積より塩酸イリノテカンの定量
【0045】
<実験結果>
図1で説明した、本発明の装置構成の噴霧部から溶液を噴霧し回収することによる、濃縮・溶媒除去効果を検証するために、目的溶質を含む液体試料の噴霧回収を行った。実施例で使用したものと同じ液体試料を滴下回収したものを比較例とした。
【0046】
上記(1)の試料溶液を、上記(2)の噴霧部を使用して、上記(3)に記載のとおり流速0.2mL、送気6L/min(噴霧)と上記(7)で記載した送気なし(滴下)条件にて、一分間上記(4)に記載の回収容器で回収した。回収した塩酸イリノテカン溶液の液量と、回収した液体中の塩酸イリノテカン量を高速液体クロマトグラフィーによって定量し、実施例と比較例を比較した結果、実施例である噴霧回収は、比較例である滴下回収と比べて、2.02倍に濃縮され、塩酸イリノテカンの回収率は60.5%であった。この結果より、本発明の装置構成の噴霧部から溶液を噴霧し回収することによる、濃縮・溶媒除去効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、固相抽出のような担体を用いた多段階の精製において、溶液交換や濃縮など操作をせずに、迅速な連続精製が可能となり、高い精製度で目的物質を濃縮・精製できる。本発明は、分析用に目的物質の単離(精製)を必要とする医療分野、バイオテクノロジー分野、環境分野、食品分野、創薬分野、基礎研究などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の精製部:精製容器である第1容器と回収容器及び蓋部の構成図である。
【図2】本発明の精製部(図1)を含む精製装置の基本構成図である。
【図3】本発明の精製部:第1容器1と回収容器4の相対配置制御に関する構成図である。
【図4】本発明の精製装置の多段階時の構成図と、多段階精製の各ステップ概要図である。
【図5】多段階精製のステップ1(第一容器による精製、第二容器による回収)を説明するための図である。
【図6】多段階精製のステップ2(第一容器の脱離及び廃棄、第二容器の移動)を説明するための図である。
【図7】多段階精製のステップ3(第二容器の連結、回収容器の保持)を説明するための図である。
【図8】多段階精製のステップ4(回収容器の移動)を説明するための図である。
【図9】多段階精製のステップ5(第二容器での精製開始、送液、送気、噴霧部キャップ脱離、噴霧、回収容器での回収)を説明するための図である。
【符号の説明】
【0049】
1 第1容器
1a、11a 担体
1b、11b 底部
1c、11c 噴霧部
1d、11d 噴霧部キャップ
2 連結部
3 蓋部
4 回収容器
5 溶液供給口
6 ガス供給口
7 供給部
7a 溶液供給槽A
7b 溶液供給槽B
7c 試料供給槽
8 バルブ
9 ポンプ
10 ガス圧力制御部
11 第二容器
12 容器位置制御部
13 蓋部支軸
14 容器支軸A
14a、15a アクチュエーター
14b、15b 容器固定部
15 容器支軸B
16 容器保管部 兼 蓋部支軸基盤
17 第三容器
18 容器回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体を収めた第1容器と、
前記第1容器の一方の開口端に設置される噴霧部と、
前記噴霧部を介して前記第1容器と対面する第2容器と、を備え、
前記第1容器は、噴霧方向で前記噴霧部の上流に位置し、前記第2容器は、前記噴霧方向で前記噴霧部の下流に位置することを特徴とする精製容器セット。
【請求項2】
前記担体は固相担体であることを特徴とする請求項1に記載の精製容器セット。
【請求項3】
担体を収めた第1容器と、前記第1容器の一方の開口端に設置される第1噴霧部とを有する精製部と、
試料を前記第1容器内に供給する供給部と、
前記第1噴霧部に気圧を印加する圧力制御部と、
を備えることを特徴とする精製装置。
【請求項4】
前記第1容器は、前記噴霧方向で前記第1噴霧部の上流に位置することを特徴とする請求項3に記載の精製装置。
【請求項5】
さらに、前記第1容器の他方の開口端の近傍に設置される第2噴霧部を備え、
前記供給部は、前記第2噴霧部を介して前記試料を前記第1容器内に供給し、
前記圧力制御部は、前記第1噴霧部と前記第2噴霧部とに気圧を印加することを特徴とする請求項3に記載の精製装置。
【請求項6】
さらに、前記第1容器と前記第2容器との位置を相対的に移動させる容器位置制御部を備えることを特徴とする請求項3に記載の精製装置。
【請求項7】
前記容器位置制御部は、前記第1容器からの精製処理が終了した後、前記第2容器を前記第1容器が配置されていた場所に移動させ、新たに第3容器を前記第2容器が配置されていた場所に配置することを特徴とする請求項6に記載の精製装置。
【請求項8】
さらに、前記第1容器を回収するための容器回収部を備えることを特徴とする請求項3に記載の精製装置。
【請求項9】
さらに、前記第1容器の前記他方の開口端を覆う蓋部を備え、
前記蓋部は前記第1容器に対して脱着可能であることを特徴とする請求項3に記載の精製装置。
【請求項10】
前記供給部は、前記蓋部を介して前記第1容器に前記試料を供給し、
前記圧力印加部は、前記蓋部を介して前記第1噴霧部に気圧を印加することを特徴とする請求項9に記載の精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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