説明

精製血清アルブミン及び免疫学的測定方法

【課題】ロット差が少ない精製血清アルブミン、及び、該精製血清アルブミンを用いた反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定方法を提供する。
【解決手段】免疫学的測定方法においてブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に用いる血清アルブミンであって、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロット差が少ない精製血清アルブミン、及び、該精製血清アルブミンを用いた反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿等に含まれる微量物質の測定方法として、免疫学的測定方法が採用されている。免疫学的測定方法は、抗原抗体反応の特異的な強い結合に基づくものであり、様々な物質が混在する試料からでも、目的物質を特異的に感度よく測定することが可能である。
しかし、近年、血液中の癌マーカー、ウイルス等の抗原、細菌やウイルスに対する抗体等の極微量成分を測定するニーズが高まってきており、免疫学的測定方法の更なる高感度化が強く求められるようになってきた。
【0003】
免疫学的測定方法の高感度化を実現する試みは、例えば、測定試薬中に反応促進剤を添加する方法(特許文献1)、反応系中に不活性なタンパク質を多量に添加する方法(特許文献2)、不溶性担体に抗原又は抗体を固定化し免疫学的に不活性なタンパク質等でブロッキングする際に、ブロッキング剤を熱により変性させる方法(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された反応促進剤を添加する方法では、非特異的な反応を誘発することがあるという問題がある。
一方、特許文献2、3に記載された方法では、非特異的な反応を防止するためのブロッキング剤として血清由来のアルブミンを用いることが一般的である。しかしながら、血清アルブミンは、ロット差により反応性が大きく異なったり、充分に効果が得られなかったりすることがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−122858号公報
【特許文献2】特開2000−46828号公報
【特許文献3】特開平10−197530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、ロット差が少ない精製血清アルブミン、及び、該精製血清アルブミンを用いた反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明2は、免疫学的測定方法においてブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に用いる血清アルブミンであって、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbs以下である画分、又は、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンをブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液として用いた場合には、ロ
ット差がほとんどなく、反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
この理由については現時点では定かではない。血液中での血清アルブミンは、通常はビリルビン(黄色色素成分)や遊離脂肪酸等を吸着し、これらを運搬する役目を担っている。従来の血清アルブミンのロット差は、これらの吸着物の有無及び量比で起こっていたのではないかと考えている。本発明1、2の要件を満たす画分は、吸着物が極めて少ない画分であって、これを主成分とする精製血清アルブミンを用いることにより反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定が実現されるのではないかと考えられる。
【0010】
本発明1の精製血清アルブミンは、1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbs以下である画分を主成分とする。好ましくは1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が8.0mAbs以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンであり、より好ましくは1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が7.0mAbs以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンである。
血清アルブミンのこのような画分は、ビリルビン(黄色色素成分、吸収波長438nm(BSA結合型ビリルビンの吸収波長は463nm))等の吸着が極めて少ない画分であり、このような画分を主成分とする本発明の精製血清アルブミンをブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に用いた場合には、ロット差がほとんどなく、反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定を行うことができる。
なお、主成分とするとは、上記画分のみからなることが好ましいものの、本発明の目的効果を阻害しない範囲においては、他の画分が混入してもかまわないことを意味する。
【0011】
混入が許される他の画分の量比は、画分により異なる。127T.U.での波長700nmにおける吸光度変化量が0.06Abs以上を維持できる割合を表5及び図1より求めた。
例えば、1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbsを超えて13.5mAbs以下である画分の場合には、全体の45重量%程度まで混入可能である。
例えば、1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbsを超えて20.0mAbs以下である画分の場合には、全体の15重量%程度まで混入可能である。
例えば、1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbsを超えて26.0mAbs以下である画分の場合には、全体の5重量%程度まで混入可能である。
【0012】
なお、本明細書においてT.U.はトレポネーマ抗体測定キットであるメディエースTPLA(積水メディカル社製)により測定される抗トレポネーマ抗体価の単位であるTITER UNITSの略称である。WHO標準品(THE INTERNATIONAL STANDARD for SYPHILITIC HUMAN SERUM[1st international standard preparation]、established in 1958)を測定した場合、1T.U.=2mIUとなる。また、10T.U.以上を示すものを陽性とする。
【0013】
本発明2の精製血清アルブミンは、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする。好ましくは1molあたりのビリルビン結合量が0.8mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンであり、より好ましくは1molあたりのビリルビン結合量が0.7mmol以下である画分を主成分とする精製血清
アルブミンである。血清アルブミンのこのような画分を主成分とする本発明の精製血清アルブミンをブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に用いた場合には、ロット差がほとんどなく、反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定を行うことができる。
なお、主成分とするとは、上記画分のみからなることが好ましいものの、本発明の目的効果を阻害しない範囲においては、他の画分が混入してもかまわないことを意味する。
【0014】
なお、血清アルブミンの1molあたりのビリルビン結合量は、例えば、ビリルビン測定試薬(積水メディカル社製、「オートセラBIL−2」、「オートセラD−BIL−2」)を用いたアゾビリルビン法により測定することができる。
【0015】
混入が許される他の画分の量比は、画分により異なる。127T.U.での波長700nmにおける吸光度変化量が0.06Abs以上を維持できる割合を表5及び図1より求めた。
例えば、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmolを超えて1.5mmol以下である画分の場合には、全体の45重量%程度まで混入可能である。
例えば、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmolを超えて2.0mmol以下である画分の場合には、全体の15重量%程度まで混入可能である。
例えば、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmolを超えて2.7mmol以下である画分の場合には、全体の5重量%程度まで混入可能である。
【0016】
上記1%水溶液としたときに光路長が1.0cmの石英セルを用い463nmの波長にて測定した吸光度が9.0mAbs以下である画分、又は、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分は、例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー精製において150mM以下の塩濃度の溶出液を用いて溶出させることにより得ることができる。
【0017】
本発明の精製血清アルブミンの原料となる血清アルブミンは、動物血清由来のアルブミンであって、具体的には例えば、ヒト、牛、馬、羊等の大型哺乳動物の血清由来のものが好適である。なかでも、安価で大量に入手できることから、牛血清由来の血清アルブミンが特に好適である。
また、上記血清アルブミンは、陰イオン交換クロマトグラフィー精製を行う前に、コーン変法やヒートショック法等で粗精製されていることが好ましい。
【0018】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製に用いるカラムの担体は特に限定されず、例えば、弱陰イオン性のDEAE Separose Fast Flow、ANX Separose 4Fast Flowや、強陰イオン性のQ Separose Fast
Flow、Q Sepharose XL等が挙げられる。
【0019】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製に用いるカラムの担体の粒径の好ましい下限は10μm、好ましい上限は200μmである。上記カラムの担体の粒径が10μm未満であると、バックプレッシャーが上昇し、精製時の流速を遅くせざるを得なくなることがある。上記カラムの担体の粒径が200μmを超えると、分離能が悪くなることがある。上記カラムの担体の粒径のより好ましい下限は45μm、より好ましい上限は165μmである。
【0020】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製に用いるカラムは、例えば、HiPrep16/10DEAE FF、HiPrep16/10ANX FF(high sub)、HiPrep16/10Q FF(いずれもGE Healthcare社製)等の市販品を用いてもよい。
【0021】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製において血清アルブミンをカラム担体に結合させる際に用いられる緩衝液(以下、結合液ともいう)は特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液等が挙げられる。
上記緩衝液の濃度は、通常5〜150mMの範囲で用いられる。
上記緩衝液のpHは4〜9が好ましく、5〜8がより好ましい。
【0022】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製に用いられる溶出液としては、塩濃度が150mM以下のものが挙げられ、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液等に塩濃度が150mM以下になるように塩が加えられたものが挙げられる。
上記塩は特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)等が挙げられる。
上記溶出液のpHは4〜9が好ましく、5〜8がより好ましい。
ただし、通常は、結合液と同じ緩衝液に塩が加えられたものが用いられる。
【0023】
上記陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製方法の好ましい1例を説明する。
まず、血清アルブミンを結合液(例えば、50mMTris−HCl緩衝液(pH7.5))に添加した溶液を調製する。
次いで、該溶液を結合液で平衡化した陰イオン交換カラムに添加し、結合液を流しながら血清アルブミンを陰イオン交換カラムに吸着させる。
次いで、塩濃度が150mM以下である溶出液を流して血清アルブミンを溶出させ、精製血清アルブミンを得る。
【0024】
上記陰イオン交換クロマトグラフィー精製により得られた精製血清アルブミンは、更に、透析法やゲルろ過法等による精製を行ってもよい。
【0025】
本発明の精製血清アルブミンは、ロット差が極めて少ないものである。
本発明の精製血清アルブミンを免疫学的測定方法におけるブロッキング剤又は不溶性担体の懸濁液として用いれば、反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定を行うことができる。
本発明の精製血清アルブミンを用いてなる免疫学的測定試薬もまた、本発明の1つである。
抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法において、ブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液として、本発明の精製血清アルブミンを用いる免疫学的測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明の精製血清アルブミンを主成分とする免疫学的測定に用いる固相調製用試薬もまた、本発明の1つである。
本発明の精製血清アルブミンをゲルろ過によって精製した単量体は、更に免疫学的測定試薬の反応性を向上するために用いられる。
【0026】
本発明の免疫学的測定法について更に詳しく説明する。
本発明の免疫学的測定法の対象とする被測定物質は、例えば、生体試料中の抗原又は抗体が挙げられる。具体的には例えば、肝炎(B型、C型)由来抗原又は抗体、HIV抗原又は抗体、梅毒由来抗体、α−フェトプロテイン等の癌マーカー、インシュリン等のホルモン、オータコイド等が挙げられる。
【0027】
なかでも、梅毒由来抗原である抗トレポネーマ・パリダム抗体を被測定物質としたときに特に効果的である。
上記抗トレポネーマ・パリダム抗体測定系に用いる抗原は、菌体破砕物であってもよく、精製物であってもよい。また、遺伝子組み換え技術により人工的に合成されたものを1種又はそれ以上組み合わせたものでもよい。
【0028】
本発明の免疫学的測定法は特に限定されないが、不溶性担体に抗原又は抗体を担持させたものを用いる方法が好適である。
上記不溶性担体は特に限定されず、例えば、有機高分子粉末、微生物、血球、細胞膜片等が挙げられる。なかでも有機高分子粉末が好適である。
上記有機高分子粉末は特に限定されず、例えば、天然高分子粉末、合成高分子粉末等が挙げられる。
上記天然高分子粉末は特に限定されず、例えば、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストラン等が挙げられる。
上記合成高分子粉末は特に限定されず、例えば、ポリスチレン、スチレン−スルホン酸(塩)共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
また、上記不溶性担体は、表面にスルホン酸基やカルボキシル基等を導入したものも用いることができる。
【0029】
上記不溶性担体は、合成高分子粉末を均一に懸濁させたラテックス粒子が特に好適である。
上記ラテックス粒子の粒径は特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は1.5μmである。上記ラテックス粒子の粒径が0.05μm未満であると、凝集による光学的変化量が小さく、測定に必要な高い感度が得られないことがある。上記ラテックス粒子の粒径が1.5μmを超えると、ラテックス粒子の凝集による光学的変化量が測定可能域を超えてしまい、測定範囲が小さくなることがある。上記ラテックス粒子の粒径のより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は0.8μmである。
【0030】
不溶性担体に抗原又は抗体を担持させる方法は特に限定されず、物理的、化学的結合により担持させる従来公知の方法を用いることができる。
【0031】
本発明の免疫学的測定法においては、本発明の精製血清アルブミンを上記不溶性担体(ラテックス粒子)に抗原又は抗体を担持させたものに対してブロッキング剤として用いたり、上記不溶性担体に抗原又は抗体を担持させたものの懸濁液として用いたりする。
【0032】
このようにして得られた抗原又は抗体を担持させたラテックス粒子懸濁液に対して、検体を添加し、一定時間反応させる。反応後にラテックス粒子に担持された抗原又は抗体と検体中の被測定物質との抗原抗体反応により生じる凝集の度合いを光学的に測定又は目視にて観察することにより、検体中の被測定物質を測定することができる。
【0033】
上記凝集の度合いを光学的に測定する方法は特に限定されず、用いる不溶性担体の粒子の大きさ、濃度の選択、反応時間の設定により、散乱光強度、吸収光度、透過光強度等の増減を測定する。また、これらの方法を併用することも可能である。
上記測定を行う際の光の波長は、300〜900nmが好ましい。
【0034】
上記の光学的測定方法に用いる装置は、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器が挙げられ、一般的に使用されている生化学自動分析機であればいずれのものであっても用いることができる。
【0035】
上記凝集の度合いを目視にて観察する方法は、通常、検体とラテックス粒子懸濁液とを含む溶液を判定板上で混合し、混合液を揺り動かした後、凝集の有無を判定する方法等を用いることができる。なお、凝集の度合いの観察には、目視による方法以外に、凝集状態をビデオカメラ等で撮影し、画像処理を施す方法を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ロット差が少ない精製血清アルブミン、及び、該精製血清アルブミンを用いた反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】表5の結果を横軸を混入BSA比率、縦軸を吸光度変化量としてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(1)精製血清アルブミンの調製
市販の牛血清アルブミン(セロロジカル社製、「Cohn Fraction V」、以下、「未精製BSA」ともいう、Lot83)を結合液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5))に添加し、15%未精製BSA溶液を調整した。
得られた15%未精製BSA溶液5mLを、結合液で平衡化した市販の陰イオン交換カラム(GE Healthcare社製、「DEAE SepharoseFF」480mL/「XK50」)に添加し、結合液を4mL/minで流しながらBSAをカラムに吸着させた。次いで、塩化ナトリウム濃度が80mMになるように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和した溶出液を、流速10mL/minで流し、80mMの塩濃度の溶出液で溶出されたアルブミン画分を得た。また、これとは別に、1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後73.3〜74.5分(塩濃度69.6〜72.0mM分画)に溶出されたアルブミン画分を得た。なお、得られたアルブミン画分の塩濃度は、カラム容量を考慮し、カラムから溶出されたアルブミン溶液中の塩化ナトリウム濃度を示した。
【0040】
得られた画分溶液を100mMリン酸緩衝液(pH7.4)で透析し、1%となるように調整した。得られた精製血清アルブミンの1%溶液について波長463nmでの吸光度を標準セル(ジーエルサイエンス社製、「S10−UV」、光路長1.0cm)を用いて測定したところ、それぞれ1.3mAbs、5.1mAbsであった。
また、得られた精製血清アルブミンについて、ビリルビン測定試薬(積水メディカル社製、「オートセラBIL−2」、「オートセラD−BIL−2」)を用いたアゾビリルビン法により、BSA1molあたりのビリルビン結合量を測定したところ、0.1mmol、0.5mmolであった。
以下、それぞれを「精製BSA(1.3mAbs/0.1mmol)」、「精製BSA(5.1mAbs/0.5mmol)」ともいう。
【0041】
(2)抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製
100mMリン酸緩衝液(pH7.4)に150μg/mLの蛋白濃度で溶解した抗トレポネーマ・パリダム抗原液400μLを平均粒径0.4μmのポリスチレンラテックス(固形分10(w/v)%、積水化学工業社製)100μLに添加し、4℃にて1時間攪拌した。
次いで、精製BSA(5.1mAbs/0.5mmol)溶液2mLを添加し、1時間攪拌した。得られた液体を10℃にて10分間、13,000rpmで遠心分離し、得られた沈殿物を、精製BSA溶液(1.3mAbs/0.1mmol)4mLに添加し、ラテックスを懸濁させることにより抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製し
た。
【0042】
(実施例2)
1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後87.7〜88.9分(塩濃度98.4〜100.8mM分画)に溶出される精製BSA(0.9mAbs/0.1mmol)溶液をブロッキング剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0043】
(実施例3)
1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後102.1〜103.3分(塩濃度127.2〜129.6mM分画)に溶出される精製BSA(3.3mAbs/0.3mmol)溶液をブロッキング剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0044】
(比較例1)
BSA溶液を陰イオン交換クロマト精製せずに(以下、未精製BSAという)用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
また、未精製BSAの1%溶液について、実施例1と同様にして測定した波長463nmでの吸光度は9.8mAbs、BSA1molあたりのビリルビン結合量は、1.0mmolであった。
【0045】
(比較例2)
1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後116.5〜117.7分(塩濃度156.0〜158.4mM分画)に溶出される精製BSA(9.8mAbs/1.0mmol)溶液をブロッキング剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0046】
(比較例3)
1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後130.9〜132.1分(塩濃度184.8〜187.2mM分画)に溶出される精製BSA(17.9mAbs/1.9mmol)溶液をブロッキング剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0047】
(比較例4)
1分間に塩化ナトリウム濃度が2mMずつ増加するように2Mの塩化ナトリウム溶液を結合液に混和しながら、流速10mL/minで流し、混和開始後145.3〜146.5分(塩濃度213.6〜216.0mM分画)に溶出される精製BSA(24.9mAbs/2.6mmol)溶液をブロッキング剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0048】
(評価)
実施例1〜3、比較例1〜4にて調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いて、下記の方法により評価を行った。
【0049】
(1)抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液の測定
抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液として、梅毒陽性標準血清(積水メディカル社製、5濃度)15μLを採取し、これに検体希釈液(BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)にLipidure(日油社製)を0.2(w/v)%添加したもの)150μLを混和し、37℃で適時保持した。これに、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液50μLを添加、撹拌した後、約80秒から300秒までの間の波長700nmでの吸光度の変化量を測定し、吸光度変化量(ΔAbs)とした。
なお、測定は自動分析装置日立7170形を使用した。
結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
(2)陰性検体測定
生理食塩水及び陰性検体1〜10を検体とした以外は(1)と同様にして吸光度変化量(ΔAbs)を求め、(1)の標準品測定結果に基づいて作成した検量線から抗体価を算出した。結果を表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
表1、2より、実施例で調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いた場合には、比較例で調製したものを用いた場合に比べて反応性が高く、かつ、非特異反応が少ないことがわかった。
【0054】
(実施例4)
市販の牛血清アルブミンとして3種のロットのもの(Lot83、Lot91、Lot77)を準備した。これらの3種のロットの牛血清アルブミンの各々について実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0055】
(比較例5)
市販の牛血清アルブミンとして3種のロットのもの(Lot83、Lot91、Lot77)を未精製のまま用いたこと以外は、比較例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0056】
(評価)
実施例4、比較例5にて調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いて、下記の方法により評価を行った。
【0057】
抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液として、梅毒陽性標準血清(積水メディカル社製、5濃度)15μLを採取し、これに検体希釈液(BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)にLipidure(日油社製)を0.2(w/v)%添加したもの)150μLを混和し、37℃で適時保持した。これに、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液50μLを添加、撹拌した後、約80秒から300秒までの間の波長700nmでの吸光度の変化量を測定し、吸光度変化量(ΔAbs)とした。
なお、測定は自動分析装置日立7170形を使用した。
結果を表3に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3より、実施例で調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いた場合には、比較例で調製したものを用いた場合に比べてロット差が少ないことが分かった。
【0060】
(実施例5)
実施例1で得られた精製BSA溶液(1.3mAbs/0.1mmol)を濃縮し、市販のゲルろ過カラムSephacryl S−200HR(GE Healthcare社製)に添加し、溶離液として100mMのリン酸緩衝液(pH7.4)を用いてゲルろ過精製し、その単量体画分のみからなるBSAを用いたこと以外は実施例1と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0061】
(実施例6)
実施例1で得られた精製BSA溶液(1.3mAbs/0.1mmol)をゲルろ過精製した単量体画分のみからなるBSAをブロッキング剤としてのみ用い、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製には実施例1で得られた精製BSA(1.3mAbs/0.1mmol)溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0062】
(実施例7)
実施例1で得られた精製BSA溶液(1.3mAbs/0.1mmol)をゲルろ過精製した単量体画分のみからなるBSAをブロッキング剤としてのみ用い、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液の調製には未精製BSA溶液を用いた以外は実施例5と同様にして、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0063】
(評価)
実施例5〜7にて調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いて、下記の方法により評価を行った。
【0064】
抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液として、梅毒陽性標準血清(積水メディカル社製、5濃度)15μLを採取し、これに検体希釈液(BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)にLipidure(日油社製)を0.2(w/v)%添加したもの)150μLを混和し、37℃で適時保持した。これに、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液50μLを添加、撹拌した後、約80秒から300秒までの間の波長700nmでの吸光度の変化量を測定し、吸光度変化量(ΔAbs)とした。
なお、測定は自動分析装置日立7170形を使用した。
結果を表4に示した。
【0065】
【表4】

【0066】
表4より、ゲルろ過精製することで更に反応性が向上することが分かった。
【0067】
(参考例1〜10)
ブロッキング剤として表5に記載した比率で混合したBSA溶液を用いた以外は実施例1と同様にして抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を調製した。
【0068】
(評価)
参考例1〜10にて調製した抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液を用いて、下記の方法により評価を行った。
【0069】
抗トレポネーマ・パリダム抗体標準液として、梅毒陽性標準血清(積水メディカル社製、5濃度)15μLを採取し、これに検体希釈液(BSAを1%含有する100mMリン酸緩衝液(pH7.4)にLipidure(日油社製)を0.2(w/v)%添加したもの)150μLを混和し、37℃で適時保持した。これに、抗トレポネーマ・パリダム抗原担持ラテックス液50μLを添加、撹拌した後、約80秒から300秒までの間の波長700nmでの吸光度の変化量を測定し、吸光度変化量(ΔAbs)とした。
なお、測定は自動分析装置日立7170形を使用した。
結果を表5に示した。
また、横軸を混入BSA比率、縦軸を吸光度変化量として表5の結果をプロットしたグラフを図1に示した。
【0070】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、ロット差が少ない精製血清アルブミン、及び、該精製血清アルブミンを用いた反応性が高く、非特異反応の少ない免疫学的測定方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫学的測定方法においてブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に用いる血清アルブミンであって、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とすることを特徴とする精製血清アルブミン。
【請求項2】
1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンを用いてなることを特徴とする免疫学的測定試薬。
【請求項3】
抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法において、ブロッキング剤及び/又は不溶性担体の懸濁液に、1molあたりのビリルビン結合量が0.9mmol以下である画分を主成分とする精製血清アルブミンを用いることを特徴とする免疫学的測定方法。
【請求項4】
請求項1記載の精製血清アルブミンを主成分とすることを特徴とする免疫学的測定に用いる固相調製用試薬。

【図1】
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【公開番号】特開2010−48818(P2010−48818A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271315(P2009−271315)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2009−532472(P2009−532472)の分割
【原出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)