説明

糖の製造方法

【課題】セルロース含有原料から得られるセルロースI型結晶化度を低下させた非晶化セルロースを基質としてセルラーゼ等の酵素反応を行うことで、糖を効率的に得ることができる、生産性に優れた糖の製造方法を提供すること。
【解決手段】嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmであるセルロース含有原料を粉砕機で処理して、該セルロースI型結晶化度を33%以下に低減した非晶化セルロースを調製した後に、該非晶化セルロースにセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを作用させ糖化する、糖の製造方法である。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔I22.6は、X線回折における格子面(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ等のセルロース含有原料を粉砕して得られるセルロースは、セルロースエーテルの原料、化粧品、食品、バイオマス材料等の工業原料に用いられる。特に近年、環境問題への取り組み等からバイオマス材料から糖を製造し、それを発酵法等でエタノールや乳酸等へ変換する試みがなされている(例えば、特許文献1)。セルラーゼ等の酵素を利用してバイオマスから糖を製造する際には、その前処理工程としてセルロース結晶構造が非晶化されたセルロースにすることが有用である。例えば、特許文献1には、塩化リチウム/ジメチルアセトアミド等のセルロース溶剤を用いてセルロースを非晶化させることが開示されている。
また、パルプを粉砕機で機械的に処理して、セルロースの結晶化度を低減する方法が知られている(例えば、特許文献2〜5参照)。
特許文献2の実施例1及び4には、シート状パルプを振動ボールミル又は二軸押出機で処理する方法が開示され、特許文献3の実施例1〜3には、パルプをボールミルで処理する方法が開示され、特許文献4の実施例1及び2には、パルプを加水分解等の化学的処理をして得られたセルロース粉体を、ボールミルさらには気流式粉砕機で処理する方法が開示され、特許文献5には、パルプを水に分散させた状態で振動ボールミル等の媒体ミルで処理する方法が開示されている。
しかし、これらの方法は、セルロースの結晶化度を低減させるにあたり効率性及び生産性が満足できるものではない。
【0003】
一方、セルロースの糖化方法としては、特定のセルラーゼを用いる方法(特許文献6)、過酸化水素を用いて熱水処理したセルロース又はヘミセルロースを酵素処理する方法(特許文献7及び8)が知られている。
しかし、これらの方法は、糖化効率、生産性において満足できるものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2006−223152号公報
【特許文献2】特開昭62−236801号公報
【特許文献3】特開2003−64184号公報
【特許文献4】特開2004−331918号公報
【特許文献5】特開2005−68140号公報
【特許文献6】特開2003−135052号公報
【特許文献7】特開2007−74992号公報
【特許文献8】特開2007−74993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セルロース含有原料から得られるセルロースI型結晶化度を低下させた非晶化セルロースを基質としてセルラーゼ等の酵素反応を行うことで、糖を効率的に得ることができる、生産性に優れた糖の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、嵩密度が100〜500kg/m3、かつ平均粒径が0.01〜1mmのセルロース含有原料を粉砕機で処理した後にセルラーゼ等の酵素反応を行うことにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記計算式(1)で示されるセルロースのセルロースI型結晶化度が33%を超えるセルロース含有原料から調製した非晶化セルロースを糖化する方法であって、該セルロース含有原料が、嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmのものであり、かつ該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であって、該セルロース含有原料を粉砕機で処理して、該セルロースI型結晶化度を33%以下に低減した非晶化セルロースを調製した後、該非晶化セルロースにセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを作用させ糖を得る、糖の製造方法である。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【発明の効果】
【0008】
本発明の糖の製造方法は、生産性に優れ、セルロース含有原料から、セルロースI型結晶化度を低下させた非晶化セルロースを効率良く得ることができるので、酵素の反応により糖を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、下記計算式(1)で示されるセルロースのセルロースI型結晶化度が33%を超えるセルロース含有原料から調製した非晶化セルロースを糖化する方法であって、該セルロース含有原料が、嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmのものであり、かつ該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であって、該セルロース含有原料を粉砕機で処理して、該セルロースI型結晶化度を33%以下に低減した非晶化セルロースを調製した後、該非晶化セルロースにセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを作用させ糖を得ることを特徴とする糖の製造方法である。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
以下、本発明を詳細に説明するが、本明細書において、セルロースのセルロースI型結晶化度を単に「結晶化度」ということがある。
【0010】
〔セルロース含有原料〕
本発明に用いられるセルロース含有原料は、該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上のものである。
本発明に用いられるセルロース含有量とはセルロース量及びヘミセルロース量の合計量を意味する。
前記セルロース含有原料には特に制限はなく、各種木材チップ、剪定枝材、間伐材、枝木材等の木材類;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等が挙げられる。これらの中では、パルプ類、紙類、及び植物茎・葉類が好ましく、パルプ類や紙類がより好ましい。
市販のパルプの場合、水を除いた残余の成分中のセルロース含有量は、一般には75〜99重量%であり、他の成分はリグニン等を含む。また市販のシート状パルプのセルロースI型結晶化度は、通常60%以上である。
セルロース含有原料中の水分含量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。セルロース含有原料中の水分含量が20質量%以下であれば、容易に粉砕できるとともに、粉砕処理により結晶化度を容易に低下させることができ、その後の酵素処理による糖の生産を効率よく行うことができる。
【0011】
〔セルロースI型結晶化度〕
本発明において調製される非晶化セルロースは、セルロースI型結晶化度を33%以下に低下させたものである。結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したもので、下記計算式(1)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
結晶化度が33%以下であれば、セルロースの化学反応性が向上し、例えば、セルロースエーテルの製造において、アルカリを加えた際にアルカリセルロース化が容易に進行し、結果としてセルロースエーテル化反応の反応転化率を向上させることができる。この観点から、結晶化度としては、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、分析でI型結晶が検出されない0%が特に好ましい。なお、計算式(1)で定義されたセルロースI型結晶化度では計算上マイナスの値になる場合があるが、マイナスの値の場合はセルロースI型結晶化度は0%とする。
【0012】
ここで、セルロースI型結晶化度とは、セルロースの結晶領域量の全量に対する割合のことである。また、セルロースI型とは、天然セルロースの結晶形のことである。結晶化度は、セルロースの物理的、化学的性質とも関係し、その値が大きいほど、セルロースの結晶性が高く、非結晶部分が少ないため、硬度、密度等は増すが、伸び、柔軟性、水や溶媒に対する溶解性、化学反応性は低下する。
【0013】
本発明に用いるセルロース含有原料としては、嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmのものである。嵩密度が100kg/m3未満のセルロース含有原料を用いる場合には前処理を行い、嵩密度を100〜500kg/m3にすることが好ましい。
前処理として押出機処理を行うことができる。該押出機へセルロース含有原料を投入する際には、チップ状に粗粉砕しておくことが好ましい。チップ状にしたセルロース含有原料の大きさとしては、好ましくは1〜50mm角、より好ましくは1〜30mm角である。1〜50mm角のチップ状に粗粉砕することにより、押出機処理を効率良く容易に行うことができる。
【0014】
セルロース含有原料をチップ状に粗粉砕する方法としては、シュレッダー又はロータリーカッターを使用する方法が挙げられる。ロータリーカッターを使用する場合、得られるチップ状セルロース含有原料の大きさは、スクリーンの目開きを変えることにより、制御することができる。スクリーンの目開きは、1〜50mmが好ましく、1〜30mmがより好ましい。スクリーンの目開きが1mm以上であれば、セルロース含有原料が綿状化することがなく、後の押出機処理に用いるセルロース含有原料として適度な嵩高さを有するセルロース含有原料が得られ取扱い性が向上する。スクリーンの目開きが50mm以下であれば、後の押出機処理に用いるセルロース含有原料として適度な大きさを有するために押出機処理において負荷を低減することができる。
【0015】
前記セルロース含有原料を押出機で処理することにより、所望の嵩密度及び平均粒径を有するセルロース含有原料を得ることができる。更に押出機で処理することにより、セルロース含有原料に圧縮せん断力を作用させ、セルロースの結晶構造を破壊して粉末化させることができる。
圧縮せん断力を作用させてセルロース含有原料を機械的に粉砕する方法として、従来よく用いられる衝撃式の粉砕機、例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等では、セルロース含有原料が綿状化して嵩高くなり、取扱い性を損ない、質量ベースの処理能力が低下する。一方、押出機を用いることにより、所望の嵩密度及び平均粒径を有するセルロース含有原料が得られ、取扱い性が向上する。
【0016】
押出機としては、単軸、二軸のどちらの形式でもよいが、搬送能力を高める等の観点から、二軸押出機が好ましい。
二軸押出機としては、シリンダの内部に2本のスクリューが回転自在に挿入された押出機であり、従来から公知のものが使用できる。2本のスクリューの回転方向は、同一でも逆方向でもよいが、搬送能力を高める観点から、同一方向の回転が好ましい。
また、スクリューの噛み合い条件としては、完全噛み合い、部分噛み合い、非噛み合いの各形式の押出機のいずれでもよいが、処理能力を向上させる観点から、完全噛み合い型、部分噛み合い型が好ましい。
【0017】
押出機としては、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えることが好ましい。
ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相で、例えば90°ずつに、ずらしながら組み合わせたものであり、スクリューの回転にともなって、狭い隙間にセルロース含有原料を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与することができる。スクリューの構成としては、ニーディングディスク部と複数のスクリューセグメントとが交互に配置されることが好ましい。二軸押出機の場合、2本のスクリューが、同一の構成を有することが好ましい。
【0018】
処理方法としては、セルロース含有原料、好ましくは前記チップ状セルロース含有原料を押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。せん断速度としては、10sec-1以上が好ましく、20〜30000sec-1がより好ましく、50〜3000sec-1が特に好ましい。せん断速度が10sec-1以上であれば、有効に高嵩密度化が進行する。その他の処理条件としては、特に制限はなく、好ましくは処理温度5〜200℃である。
また、押出機によるパス回数としては、1パスでも十分効果を得ることができるが、セルロース含有原料を高嵩密度化する観点から、1パスで不十分な場合は、2パス以上行うことが好ましい。また、生産性の観点からは、1〜10パスが好ましい。パスを繰返すことにより、粗大粒子が粉砕され、粒径のばらつきが少ない粉末状セルロース含有原料を得ることができる。2パス以上行う場合、生産能力を考慮し、複数の押出機を直列に並べて処理を行ってもよい。
【0019】
押出機処理後に得られる粉末状セルロース含有原料の平均粒径としては、1mm以下であり、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。この平均粒径が1mm以下であれば、次工程で行う粉砕機中に供給する際に、粉砕機中にセルロース含有原料を効率的に分散させることができ、長時間を要することなく所定の粒径に到達することができる。一方、この平均粒径の下限としては、生産性の観点から、0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上である。これらの観点から、この平均粒径としては、0.01〜1mmであり、好ましくは0.01〜0.7mm、より好ましくは0.05〜0.5mmである。
【0020】
また、押出機処理後に得られるセルロース含有原料の嵩密度としては、100kg/m3以上であり、好ましくは120kg/m3以上、より好ましくは150kg/m3以上である。この嵩密度が100kg/m3以上であれば、セルロース含有原料が適度な容積を有するために取扱い性が向上する。また、次工程の粉砕機へ原料仕込み量を多くすることができるので、処理能力が向上する。一方、この嵩密度の上限としては、取扱い性及び生産性の観点から、500kg/m3以下であり、好ましくは400kg/m3以下、より好ましくは350kg/m3以下である。これらの観点から、この嵩密度としては、100〜500kg/m3であり、好ましくは120〜400kg/m3、より好ましくは150〜350kg/m3である。なお、セルロース含有原料の嵩密度及び平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
〔非晶化処理〕
嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmのセルロース含有原料を粉砕機で処理して、該セルロース中のセルロースI型結晶化度を33%以下に低減する。粉砕機で処理することにより、セルロース含有原料を更に粉砕し、かつ結晶化度を低下させ、更にはセルロースを効率的に非晶化させることができる。
粉砕機としては媒体式粉砕機を好ましく用いることができる。媒体式粉砕機には容器駆動式粉砕機と媒体撹拌式粉砕機とがある。容器駆動式粉砕機としては転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、振動ミルが好ましい。媒体撹拌式粉砕機としてはタワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。媒体攪拌式粉砕機を用いる場合の攪拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
粉砕機の種類は「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
【0022】
粉砕機の媒体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。
粉砕機が振動ミルであって、媒体がボールの場合には、ボールの外径としては、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmの範囲である。ボールの大きさが上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られるとともに、ボールのかけら等が混入してセルロース含有原料が汚染されることなく効率的にセルロースを非晶化させることができる。媒体としては、ボール以外にもロッドやチューブ等の媒体を用いることができる。
ボールの充填率は、振動ミルの機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料とボールとの接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、振動ミルの攪拌部の容積に対するボールの見かけの体積をいう。
振動ミルの処理時間としては、振動ミルの種類、ボールの種類、大きさ及び充填率等により一概に決定できないが、結晶化度を低下させる観点から、好ましくは5分〜72時間である。処理温度は、特に制限はないが、熱による劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃である。
【0023】
上記の処理方法により、セルロース含有原料を出発原料として、セルロースI型結晶化度が33%以下の非晶化セルロースを効率よく得ることができ、また、粉砕機処理の際に、粉砕機の内部にセルロース含有原料が固着せずに、乾式にて処理することができる。
得られる非晶化セルロースの平均粒径は、この非晶化セルロースを工業原料として用いる際の化学反応性及び取扱い性の観点から、好ましくは25〜150μm、より好ましくは30〜100μmである。特に平均粒径が25μm以上であれば、非晶化セルロースを水等の液体と接触させたときに「ママコ」になることを抑えることができる。
【0024】
〔セルラーゼ等の酵素による糖化〕
上述した処理にて得られた非晶化セルロースはその結晶化度が低いためにセルラーゼによる酵素処理により効率よくグルコースもしくは、セロビオース、セロトリオースといったオリゴ糖等の混合物を得ることができる。糖化処理後にエタノール発酵や乳酸発酵に使用する場合等を考慮すると単糖まで分解することが好ましい。ここでいうセルラーゼとはセルロースのβ-1,4-グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素を指し、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼまたはセロビオヒドロラーゼ及びβ−グルコシダーゼ等と称される酵素の総称である。また、キシラナーゼ等のヘミセルラーゼを同時に作用させることにより、糖化の効率を上げることが可能である。
【0025】
かかる糖化の処理に使用されるセルラーゼやヘミセルラーゼとしては特に制限はなく、市販のセルラーゼ製剤や、動物、植物、微生物由来のものを使用することができる。
セルラーゼの例としてはセルクラスト1.5L(ノボザイムズ社)等のトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼ製剤やバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N145(FERM P-19727)株由来のセルラーゼ、またはバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N252(FERM P-17474)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N115(FERM P-19726)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N440(FERM P-19728)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N659(FERM P-19730)等の各株由来のセルラーゼ、更にはトリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス アクレアタス(Aspergillus acleatus)、クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)、クロストリジウム ジョスイ(Clostridium josui)セルロモナス フィミ(Cellulomonas fimi)、アクレモニウム セルロリティクス(Acremonium celluloriticus)、イルペックス ラクテウス(Irpex lacteus)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、フミコーラ インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ混合物やパイロコッカス ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)由来の耐熱性セルラーゼ等が挙げられる。これらの中で、好ましくはトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼを用いることにより、効率良く糖を製造することができる。
【0026】
また、ヘミセルラーゼの例としてはバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-N546(FERM P-19729)由来のキシナラーゼのほか、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、フミコーラ インソレンス(Humicola insolens)、バチルス アルカロフィルス(Bacillus alcalophilus)由来のキシラナーゼ、更にはサーモマイセス(Thermomyces)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモトガ(Thermotoga)、サーモアスクス(Thermoascus)、カルドセラム(Caldocellum)、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属由来のキシラナーゼ等が挙げられる。また上記のセルラーゼ混合物中に含まれるヘミセルラーゼ活性を持つ酵素を利用することもできる。
これらの酵素を単独で用いることもできるが、更に効率的な糖の製造にはこれら酵素を組み合わせて用いることが効果的である。またこれらの酵素に対してβ-グルコシダーゼ等の特定のセルラーゼ成分を更に添加することによって糖製造の効率を向上させることもできる。添加するβ-グルコシダーゼの例としてはアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)由来の酵素(例えば、メガザイム社製β-グルコシダーゼ)やアグロバクテリウム(Agrobacterium)、サーモトガ マリチマ(Thermotoga maritima)、トリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)、ペニシリウム エメルソニイ(Penicillium emersonii)由来の酵素等が挙げられる。
【0027】
上述した処理により得られた非晶化セルロースをセルラーゼによる酵素処理で糖化する場合の反応条件について、前処理により得られた非晶化セルロースの結晶化度や使用する酵素により適宜選択することができる。
例えば、セルラーゼとしてノボザイム社製のセルクラスト1.5Lを使用し、パルプ由来の結晶化度0%のセルロースを基質とする場合は、0.5〜20%(w/v)の基質懸濁液に対してセルクラスト1.5Lを0.001〜15%(v/v)(タンパク質として0.00017〜2.5%相当)となる様に添加し、pH2〜10(用いる酵素の種類により適当なpHを選ぶことが好ましく、セルクラスト1.5Lを用いる場合、好ましくはpH3〜7、特に好ましくはpH5付近)の緩衝液中、反応温度10℃〜90℃(用いる酵素の種類により適当な温度を選ぶことが好ましく、セルクラスト1.5Lを用いる場合、好ましくは20〜70℃、特に好ましくは約50℃)で、反応時間30分〜5日間、好ましくは0.5〜3日間反応させることにより、糖を製造することができる。
【実施例】
【0028】
セルロース含有原料、及び非晶化セルロースの平均粒径、嵩密度及びX線回折強度の測定は、下記に記載の方法で行った。また、非晶化セルロースまたは粉末セルロースの糖化反応は、下記に記載の条件により行った。
(1)平均粒径の測定
平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、温度25℃にて測定した。
(2)嵩密度の測定
嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製の「パウダーテスター」を用いて測定した。測定は、ふるいを振動させて、サンプルをシュートを通じ落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、該容器中のサンプルの質量を測定することにより算出した。ただし綿状化したサンプルについては、ふるいを通さずにシュートを通じ落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、該容器中のサンプルの質量を測定することにより算出した。
【0029】
(3)結晶化度の算出
セルロースI型結晶化度は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記計算式に基づいて算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°で測定した。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/minで測定した。
【0030】
(4)水分含量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、「FD−610」)を使用し、150℃にて測定を行った。
(5)セルロース含有量の測定
粉砕したサンプルをエタノール・ベンゼン混合溶剤(1:1)で6時間ソックスレー抽出を行い、さらにエタノールで4時間ソックスレー抽出行って、抽出後のサンプルを60℃で真空乾燥した。得られた試料2.5gに水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0gおよび酢酸0.2mLを加え、70〜80℃で1時間加温した。引き続き亜塩素酸ナトリウムおよび酢酸を加えて加温する操作を繰り返し行い、試料が白く脱色するまで3〜4回処理を繰り返した。白色の残渣をグラスフィルター(1G−3)でろ過し、冷水およびアセトンで洗浄した後、105℃で恒量になるまで乾燥し、残渣重量を求め、下記式によりセルロース含有量を算出した。
セルロース含有量(質量%)=[残渣重量(g)/試料採取量(g)]×100
【0031】
(6)糖化反応
酵素による糖化反応は以下の様な条件で行った。適当量の粉末セルロースまたは非晶化セルロース基質を3mLの酵素反応液(100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、30μg/mLテトラサイクリン(防腐剤として添加)、蓋つきスクリュー管(実施例1及び2、比較例1:No.3, φ21×45mm マルエム社、実施例3~6、比較例2〜4:No.5, φ27×55mm マルエム社)に懸濁し、適量の酵素を加えて50℃で振とう攪拌(150rpm、タイテック株式会社製恒温振とう機「BR−15CF」)しながら1〜3日間反応した。反応終了後、遠心分離(17,000×g、5分間)によって沈殿物と上清液を分離し、沈殿物の乾燥重量および上清液に遊離した糖量、または還元糖量を、以下に示すフェノール・硫酸法、DNS法、またはHPLC法によって定量した。また対照として未反応の酵素反応液についても同様の解析を行った。
【0032】
(7)フェノール硫酸法(生物工学実験書 培風館)による糖の定量
イオン交換水で適宜倍率に希釈した上清液0.1mLに対し、5%(w/w)フェノール溶液0.1mLを加えて混合した後、さらに硫酸を0.5mL加えて良く混合した。20分間室温に放置した後、波長490nmで比色定量した。グルコースを標準糖とした検量線より上清中の全糖量を計算した。
【0033】
(8)DNS法(生物化学実験法 還元糖の定量法 学会出版センター)による糖の定量
DNS溶液(0.5% 3,5−ジニトロサリチル酸、30%酒石酸ナトリウムカリウム四水和物、1.6%水酸化ナトリウム)1mLに適量の上清液を加え、100℃で5分間加熱発色させ、冷却後、波長535nmで比色定量した。グルコースを標準糖とした検量線より上清中の還元糖量を計算した。なお、本法では生成糖の種類によりグルコースとは発色の程度が異なるため、以下のHPLC法等とは異なる値が得られる場合もある。
【0034】
(9)HPLC法による糖の定量
Dionex社のDX500クロマトグラフィーシステム;カラム:CarboPac PA1(Dionex社 4×250mm)、検出器:ED40パルスドアンペロメトリー検出器、溶離液:A液;100mM水酸化ナトリウム溶液、B液;1M酢酸ナトリウムを含む100mM水酸化ナトリウム溶液、C液;超純水を用いた。注入から初期濃度A液10%:C液90%、0〜15分A液95%:B液5%のリニアグラジエントにより糖を分析した。標準として0.01%(w/v)のグルコース(和光純薬工業株式会社製)、キシロース(和光純薬工業株式会社製)、キシロビオース(和光純薬工業株式会社製)、セロビオース(生化学工業株式会社製)を用いた。
【0035】
(10)タンパク質の定量
DCプロテインアッセイキット(Bio Rad社製)を使用し、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質とした検量線よりタンパク質量を計算した。
【0036】
製造例1
〔シュレッダー処理〕
シート状木材パルプ(Borregard社製「Blue Bear Ultra Ether」、800mm×600mm×1.5mm、結晶化度81%、セルロース含有量96質量%(パルプから水を除いた残余の成分中の量)、水分含量7質量%)、をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけ、約10mm×5mm×1.5mmのチップ状パルプにした。
【0037】
〔押出機処理〕
得られたチップ状パルプを二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpm、外部から冷却水を流しながら、1パス処理した。なお、前記二軸押出機は、完全噛み合い型同方向回転二軸押出機であり、2列に配置されたスクリューは、スクリュー径40mmのスクリュー部と、互い違い(90°)に12ブロックを組み合わせたニーディングディスク部とを有し、2本のスクリューは、同じ構成を有するものである。また、二軸押出機の温度は、処理にともなう発熱により、30〜70℃であった。
押出機処理後に得られたパルプは、平均粒径120μm、嵩密度219kg/m3であった。
【0038】
〔粉砕機処理〕
得られたパルプを、粉砕機としてバッチ式撹拌槽型粉砕機(五十嵐機械社製「サンドグラインダー」:容器容積800mL、5mmφジルコニアビーズを720g充填、充填率25%、攪拌翼径70mm)に130g投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数2000rpmで、2.5時間粉砕処理を行い、非晶化セルロースを得た。操作の際の温度は、30〜70℃の範囲であった。
処理終了後、撹拌槽型粉砕機内の壁面や底部にパルプの固着物等は見られなかった。得られた非晶化セルロースを前記撹拌槽型粉砕機から取り出し、75μm目開きの篩をかけたところ、篩下品として、117g(投入量の90質量%)が得られた。前記の方法により、得られた篩下品の平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表1に示す。
【0039】
製造例2
製造例1において、バッチ撹拌槽型粉砕機を、バッチ式振動ミル(中央化工機株式会社製「MB−1」、容器容積2.8L、20mmφジルコニアボールを7.6kg充填、充填率80%)に代えて、処理条件として投入量200g、振動数20Hz、全振幅8mm、処理時間4時間としたこと以外は、製造例1と同様の方法及び条件で、非晶化セルロースを得た。粉砕終了後、振動ミル内の壁面や底部にパルプの固着物等は見られなかった。得られた非晶化セルロースを75μm目開きの篩をかけたところ、篩下品として、142g(投入量の71質量%)が得られた。前記の方法により、得られた篩下品の平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
製造例3
製造例1において、バッチ撹拌槽型粉砕機を、転動ミル(日陶科学株式会社製、「ポットミル ANZ-51S」、容器容積1.0L、10mmφジルコニアボールを1.8kg充填、充填率53%)に代えて、処理条件として、投入量100g、回転数100rpmの条件で48時間処理したこと以外は、製造例1と同様の方法及び条件で、非晶化セルロースを得た。粉砕終了後、転動ミル内の壁面や底部にパルプの固着物等は見られなかった。得られた非晶化セルロースを75μm目開きの篩をかけたところ、篩下品として、63g(投入量の63質量%)が得られた。前記の方法により、得られた篩下品の平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
製造例4〜8
セルロース含有原料としてパルプに代えて、上質紙(製造例4:セルロース含有量83質量%、水分含量5.7質量%)、ダンボール(製造例5:セルロース含有量84質量%、水分含量7.2質量%)、新聞紙(製造例6:セルロース含有量83質量%、水分含量7.7質量%)、稲わら(製造例7:セルロース含有量55質量%、水分含量8.0質量%)、雑誌(製造例8:セルロース含有量60質量%、水分含量4.5質量%)を用いて、製造例1の方法及び条件でシュレッダー処理及び押出機処理を行った。押出機処理後に得られたセルロース含有原料の性状は、それぞれ製造例4:上質紙/平均粒径71μm/嵩密度274kg/m3、製造例5:ダンボール/平均粒径93μm/嵩密度216kg/m3、製造例6:新聞紙/平均粒径61μm/嵩密度303kg/m3、製造例7:稲わら/平均粒径82μm/嵩密度339kg/m3、製造例8:雑誌/平均粒径72μm/嵩密度431kg/m3であった。
更に、製造例1の方法及び条件でバッチ式攪拌槽型粉砕機処理を行い、それぞれ非晶化セルロース(製造例4:上質紙/結晶化度0%/平均粒径50μm、製造例5:ダンボール/結晶化度0%/平均粒径28μm、製造例6:新聞紙/結晶化度0%/平均粒径32μm、製造例7:稲わら/結晶化度2%/平均粒径27μm、製造例8:雑誌/結晶化度4%/平均粒径24μm)を得た。
【0043】
比較製造例1
製造例1と同様に、シュレッダー処理、次いで二軸押出機処理を行い、粉砕機処理を行わずに粉末パルプを得た。前記の方法により、得られた粉末パルプの嵩密度及び平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0044】
比較製造例2
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、押出機処理を行わずに、前記バッチ式撹拌槽型粉砕機に投入した。前記チップ状パルプは、嵩高く、製造例1の半分の量である65gしか投入することができなかった。投入後、製造例1と同じ条件でバッチ式撹拌槽型粉砕機処理を行い、粉末パルプを得た。処理後の撹拌槽型粉砕機内底部にパルプの固着物が見られた。得られた粉末パルプを75μm目開きの篩をかけたところ、篩下品として、16.9g(投入量の26.0質量%)が得られた。前記の方法により、得られた篩下品の平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0045】
比較製造例3
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、押出機処理を行わずに、カッターミル(株式会社ダルトン製、「パワーミルP−02S型」)に500g投入し、回転数3000rpmの条件で0.5時間処理した。
得られたパルプは、綿状化し、嵩密度は33kg/m3であった。次に、この綿状化したパルプを、前記バッチ式撹拌槽型粉砕機に投入した。このパルプは嵩高く、30gしか投入することができなかった。投入後、製造例1と同じ条件でバッチ式撹拌槽型粉砕機処理を行い、粉末パルプを得た。処理後の撹拌槽型粉砕機内部にパルプの付着物は見られなかった。得られた粉末パルプを75μm目開きの篩をかけたところ、篩下品として、23.4g(投入量の78.0質量%)が得られた。前記の方法により、得られた篩下品の平均粒径を測定し、X線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0046】
比較製造例4
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、転動ミル(日陶科学株式会社製、「ポットミル ANZ-51S」、容器容積1.0L、10mmφジルコニアボールを1.8kg充填、充填率53%)に100g投入した。回転数100rpmの条件で48時間処理したこと以外は、製造例1と同様の方法及び条件で、転動ミル処理を行った。得られたパルプは、粉末化が起こらず、殆どチップ状のままだった。前記の方法により、得られたパルプのX線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0047】
比較製造例5
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、カッターミル(株式会社ダルトン製、「パワーミルP−02S型」)に500g投入し、回転数3000rpmの条件で0.5時間処理を行った。得られた粉砕品は、綿状化してしまい、粉末パルプを得ることはできなかった。前記の方法により、得られた粉砕品のX線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0048】
比較製造例6
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、ハンマーミル(株式会社ダルトン製、「SAMPLE―MILL」)に500g投入し、回転数13500rpmの条件で0.5時間処理を行った。得られた粉砕品は、綿状化してしまい、粉末パルプを得ることはできなかった。前記の方法により、得られた粉砕品のX線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0049】
比較製造例7
製造例1と同様にシュレッダー処理を行い、チップ状パルプを得た。次に、このチップ状パルプを、ピンミル(ホソカワミクロン株式会社製、「コロプレックス」)に500g投入し、回転数13000rpmの条件で0.25時間処理を行った。得られた粉砕品は、綿状化してしまい、粉末パルプを得ることはできなかった。前記の方法により、得られた粉砕品のX線回折強度から結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
比較製造例8〜11
製造例4〜7のセルロース含有原料を用いて同様にシュレッダー処理及び押出機処理を行い、次にバッチ式撹拌槽型粉砕機処理を行わずに粉末セルロース(比較製造例8:上質紙/結晶化度71%/平均粒径71μm、比較製造例9:ダンボール/結晶化度71%/平均粒径93μm、比較製造例10:新聞紙/結晶化度56%/平均粒径61μm、比較製造例11:稲わら/結晶化度54%/平均粒径82μm)を得た。
【0052】
実施例1〜2および比較例1
基質として、実施例1では、前述の製造例1で製造した非晶化セルロース(結晶化度0%/平均粒径43μm)、実施例2では、前述の製造例1の粉砕機処理の処理時間2.5時間を30分間に代えた以外は同様に調製した非晶化セルロース(結晶化度30%/平均粒径46μm)を使用した。比較例1の基質として市販の粉末セルロース(KCフロック、日本製紙ケミカル株式会社製、結晶化度76%、粒径26μm)を使用した。これらのセルラーゼ酵素標品(セルクラスト1.5L、ノボザイムズ社製)による糖化反応を行った。非晶化セルロースまたは粉末セルロース0.15gを3mLの酵素反応液(100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、1%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.17%相当)、30μg/mLテトラサイクリン)中、50℃で振とう攪拌しながら1〜3日間の酵素反応を行った。反応終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、沈殿物の乾燥重量を測定し、上清液の遊離糖をフェノール・硫酸法によって定量(グルコース換算)した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例3〜5および比較例2〜4
実施例3〜5として、前述の製造例1の条件で調製した非晶化セルロース(結晶化度0%/平均粒径43μm)を使用した。比較例2〜4として、前述の比較製造例1の条件で調製した粉末パルプ(結晶化度76%/平均粒径156μm)を使用した。これらのセルラーゼ酵素標品(セルクラスト1.5L、ノボザイムズ社製)による糖化反応を行った。非晶化セルロースまたは粉末セルロース0.15gを3mLの酵素反応液中、50℃で振とう攪拌しながら3日間の酵素反応を行った。酵素反応液は、実施例3及び比較例2:100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、3%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.5%相当)、30μg/mLテトラサイクリン、実施例4及び比較例3:100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、1.5%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.25%相当)、30μg/mLテトラサイクリン、実施例5及び比較例4:100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、0.6%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.1%相当)、30μg/mLテトラサイクリンとした。反応終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、上清液に遊離した還元糖量をDNS法によって定量(グルコース換算)した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
実施例6
実施例3で得られた糖化液上清(反応72時間)を、Dionex社のDX500クロマトグラフィーシステムにて以下に示す方法によって分析した。
カラム:CarboPac PA1(Dionex社 4×250mm)、検出器:ED40パルスドアンペロメトリー検出器、溶離液:A液;100mM水酸化ナトリウム溶液、B液;1M酢酸ナトリウムを含む100mM水酸化ナトリウム溶液、C液;超純水を用いた。
注入から初期濃度A液10%:C液90%、0〜15分A液95%:B液5%のリニアグラジエントにより分析した。標準として0.01%(w/v)のグルコース(和光純薬工業株式会社製)、キシロース(和光純薬工業株式会社製)、キシロビオース(和光純薬工業株式会社製)、セロビオース(生化学工業株式会社製)を用いた。グルコースは保持時間約5.5分、キシロースは約6.5分、キシロビオースは約14分、セロビオースは約14.5分にピークが現われた。糖化液上清は100倍希釈し、10μLを注入した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
実施例7〜9及び比較例5〜7
実施例7〜9として、前述の製造例4〜6で得られた非晶化セルロース(実施例7:上質紙/結晶化度0%/平均粒径50μm、実施例8:ダンボール/結晶化度0%/平均粒径28μm、実施例9:新聞紙/結晶化度0%/平均粒径32μm)、及び比較例5〜7として、前述の比較製造例8〜10で得られた粉末セルロース(比較例5:上質紙/結晶化度71%/平均粒径71μm、比較例6:ダンボール/結晶化度71%/平均粒径93μm、比較例7:新聞紙/結晶化度56%/平均粒径61μm)を使用し、セルラーゼ酵素標品(セルクラスト1.5L、ノボザイムズ社製)による糖化反応を行った。非晶化セルロースまたは粉末セルロース0.15gを3mLの酵素反応液中、50℃で振とう攪拌しながら3日間の酵素反応を行った。酵素反応液は、実施例7〜8及び比較例5〜6:100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、1.5%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.25%相当)、30μg/mLテトラサイクリン、実施例9及び比較例7:100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、12%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質2%相当)、30μg/mLテトラサイクリンとした。反応終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、上清液に遊離した還元糖量をDNS法によって定量(グルコース換算)した。結果を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
実施例10及び比較例8
実施例10として、前述の製造例7で得られた非晶化セルロース(稲わら/結晶化度2%/平均粒径27μm)、及び比較例8として、前述の比較製造例11で得られた粉末セルロース(稲わら/結晶化度54%/平均粒径82μm)を使用し、セルラーゼ酵素標品(セルクラスト1.5L、ノボザイムズ社製)による糖化反応を行った。非晶化セルロースまたは粉末セルロース0.15gを3mLの酵素反応液中、50℃で振とう攪拌しながら3日間の酵素反応を行った。酵素反応液は、100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)、3%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.5%相当)、30μg/mLテトラサイクリンとした。反応終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、上清液に遊離した還元糖量をDNS法によって定量(グルコース換算)した。結果を表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
実施例11及び12
実施例11及び12として、前述の製造例6及び8で得られた非晶化セルロース(実施例11:新聞紙/結晶化度0%/平均粒径32μm、製造例12:雑誌/結晶化度4%/平均粒径24μm)を使用し、セルラーゼ酵素標品(セルクラスト1.5L、ノボザイムズ社製)による糖化反応を行った。非晶化セルロースまたは粉末セルロース0.15gを3mLの酵素反応液中、50℃で振とう攪拌しながら3日間の酵素反応を行った。酵素反応液は、実施例11:100mM酢酸緩衝液(pH3.5)、3%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.5%相当)、30μg/mLテトラサイクリン、実施例12:200mM酢酸緩衝液(pH3.5)、3%(v/v)セルクラスト1.5L(タンパク質0.5%相当)、30μg/mLテトラサイクリンとした。反応終了後、遠心分離によって沈殿物と上清液を分離し、上清液に遊離した還元糖量をDNS法によって定量(グルコース換算)した。結果を表8に示す。
【0063】
【表8】

【0064】
表1及び表2から、製造例1〜3の非晶化セルロースの製造方法は、比較製造例1〜7に比べて、セルロースの結晶化度を低下させた非晶化セルロースを効率的に得ることができ、生産性に優れることが分かる。また、製造例1〜3で得られた非晶化セルロースは、比較製造例1に比べて、適度な平均粒径を有していた。
表3及び表4の結果から、実施例1〜5に示した本発明の糖の製造方法は比較例1〜4に比べてその生産性が高く、また表5の結果から生成糖の大部分がグルコースであり、発酵によるエタノールや乳酸の生産のための原料の製造方法として有用であることが分かる。更に表6〜8の結果から本発明の糖の製造方法はパルプのみならず、上質紙、ダンボールや新聞紙等の紙類等、また稲わら等の植物茎・葉類等、各種セルロース含有原料に対して有効であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の糖の製造方法は、生産性に優れ、糖を効率的に得ることができる。得られた糖はエタノールや乳酸等の発酵生産等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記計算式(1)で示されるセルロースのセルロースI型結晶化度が33%を超えるセルロース含有原料から調製した非晶化セルロースを糖化する方法であって、該セルロース含有原料が、嵩密度が100〜500kg/m3、平均粒径が0.01〜1mmのものであり、かつ該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が20質量%以上であって、該セルロース含有原料を粉砕機で処理して、該セルロースI型結晶化度を33%以下に低減した非晶化セルロースを調製した後、該非晶化セルロースにセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを作用させ糖化する、糖の製造方法。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【請求項2】
セルロース含有原料が、押出機で処理された原料である、請求項1に記載の糖の製造方法。
【請求項3】
押出機が二軸押出機である、請求項2に記載の糖の製造方法。
【請求項4】
粉砕機が媒体式粉砕機である、請求項1〜3のいずれかに記載の糖の製造方法。
【請求項5】
媒体式粉砕機が、容器駆動式粉砕機又は媒体撹拌式粉砕機である、請求項4に記載の糖の製造方法。
【請求項6】
セルロース含有原料が、パルプ類、紙類、及び植物茎・葉類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の糖の製造方法。