説明

糖衣製品及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、新規な構造を有する糖衣錠や糖衣菓子などの糖衣製品及びその好適な製造方法に関する。
〔従来の技術〕
素錠に蔗糖の外被を形成した糖衣錠は、外観が美麗で服用しやすいなどの長所があるため、古くから最も一般的な剤形として広く普及している。この糖衣錠は、薬剤としての有効成分に賦形剤や結合剤などの助剤を加えて打錠し、場合によってはこの上に防湿のためのプロテクティブコーティングやエンテリックコーティングなどを施して、得られた素錠をコーティングパンに仕込み、素錠を転動させつつ蔗糖シロップを少しづつ振り掛け又はスプレーしながら乾燥させ、素錠上に蔗糖の外被を形成せしめることにより製造されている。現在これ以外の製造方法は、その提案も殆どなく、いわんや実用に供されているものは全くない。
糖衣錠のこのような製造方法には、次のような欠点がある。
(1) 薬剤の吸湿を回避するために、蔗糖シロップはごく少量づつ掛けてはその都度乾燥する必要がある。このような糖衣掛けは、普通、下掛け−中掛け−上掛け−ツヤ出しの諸工程を経るが、これには通常3〜4日の日数を要する。このため糖衣錠の製造能率が低く、製造コストが高い。
(2) コーティングパン中で錠剤を転動させるため、素錠の摩耗、欠け、割れ等が発生し易く、このような不良品が発生しないよう、素錠を硬く摩耗しないように製造する必要があり、処方上の制約を受ける。
(3) 蔗糖は高分子物と異なり脆いので薄い膜にすると欠けやひび割れが生じる。徳に素錠のエッジ部分には蔗糖シロップが乗りにくく糖衣が薄くなる。従って、エッジ部分の糖衣が欠けないような十分な厚みの糖衣とすることが必要であり、そのためには、他の部分に必要以上に厚い糖衣を施さねばならず、仕上がりの糖衣錠が大きく重くなりすぎる。
(4) 蔗糖は水以外の溶剤には溶解しないため、蔗糖は水溶液(シロップ)として素錠に施さねばならず、このため吸湿に対して不安定な薬剤の場合は、糖衣掛けの前に、予め素錠に防湿のためのプロテクティブコーティングを施す必要がある。
(5) 錠剤の表面に刻印を施した刻印錠を得ることができない。
(6) 錠剤の着色については、錠剤全体を均一に着色することしかできず、多色の着色、部分的な着色は印刷によるほかない。
(7) 製品の防湿が不完全な場合、保存中に中心の素錠が吸湿して膨張し、糖衣にひびが入ることがある。
現在はこれら多くの問題点があるが、前記した長所のため、やむを得ず旧態依然とした糖衣掛けに頼っているのが実情である。そこで、糖衣掛けに依らない糖衣錠及びその製造方法の開発が待たれている。
また、このような糖衣の形成方法は、薬品ばかりでなく、チョコレートやチューインガムなどの菓子にも適用されており、薬品におけるのと同様な問題を有している。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、前記の問題点を解決し、素錠の摩耗や欠け等のおそれがなく、刻印や色分けも可能な糖衣製品を提供しようとするものである。また、このような糖衣製品を能率良く低コストで製造することができる糖衣製品の製造方法を提供しようとするものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、予め成形して得られた糖衣殻の内部の空間に薬品又は食品を収容した構造の糖衣製品とすることにより、その目的が達成されることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、接合されて内部に外部と遮断された空間を形成する一対の糖外殻と、該一対の糖外殻により形成された空間内に収容された薬品又は食品とからなり、該一対の糖外殻の接合部が封止されていることを特徴とする糖衣製品を提供するものである。
本発明の糖衣製品は、糖外殻とその中に収容された薬品又は食品とからなる。
本発明における一対の糖外殻の形状としては、これらを接合したとき、内部に空間を形成する構造であることと、糖外殻同志の接合部が内部と外部を遮断するように容易に封止できる構造であることの他、特に制約はない。一対の糖外殻は、同じ形状のものの組み合わせであっても異なる形状のものの組み合わせであっても構わない。
糖外殻の厚みとしては、0.2〜2mm程度とすることが好ましい。糖外殻を薄くすることにより小さく軽い糖衣製品を得ることができる。
このような一対の糖外殻により形成された空間内に薬品又は食品が収容されている。そして、この一対の糖外殻の接合部は封止されている。接合部が封止されているので、従来通り糖衣製品の有する防湿性が保たれている。
第1図(c)に本発明の糖衣製品の断面図の一例を示す。第1図(a)及び第1図(b)はその構成要素を示す断面図である。
一対の糖外殻1と1′は、ともにタブレット形を半分に割ったような外形を有し、内部の中央部は凹状に成形されている(第1図(a))。それらを接合すると、内部に外部と遮断された空間が形成される。そして、この空間には第1図(b)に示す碁石型の薬品又は食品2が収容できる。本発明の糖衣製品は第1図(a)に示す糖外殻1、1′及び第1図(b)に示す薬品又は食品2からなり、第1図(c)のように一対の糖外殻1と1′の内部の空間内に薬品又は食品2が収容されていて、1と1′の接合部が接着層3により封止されている。
本発明の糖衣製品では形状の自由度が大きく、例えば糖外殻を薄く作成することにより、従来より小さく軽い糖衣錠としたり、偏平な糖衣錠としたりすることができる。
以下、第2図(a)〜(h)に本発明の糖衣製品の種々の例を示す。
第2図(a)は、接着層3を糖衣製品の外周部にのみ設けることができるように、一対の糖外殻1と1′の接合部に段を形成し、糖外殻1と1′を接合したとき内周部のみが互いに接触し、外周部には接着層を設けるための隙間ができるようにしたものである。糖外殻をこのような形状とすることにより、接着剤と薬品2の接触を防ぐことができる。
第2図(b)は、一対の糖外殻1と1′を異なる形状のものの組み合わせとしたものの例であり、糖外殻1′にのみ内部に凹部を設けたものである。糖外殻をこのような形状とすることにより、空間内に収容される薬品又は食品2として碁石型や偏平な錠剤や食品ばかりでなく、顆粒状、粉末状等の固形薬品や食品、液状の薬品や食品も使用することが可能となる。
第2図(c)は、空間内に収容される薬品又は食品2として素錠などの固形物を用い、薬品又は食品2と糖外殻1と1′の間に空隙4を持たせたものである。このような構造とすることにより薬品又は食品2が吸湿等により膨張したときにも圧力が糖外殻にかからず、糖外殻の割れ等を防止できる。
第2図(d)は、偏平な糖衣製品の例であり、上面及び下面は平面状であり全体に糖衣は薄い。このような形状の糖衣製品は包装時嵩ばらない等の利点を有する。従来法ではこのような形状の糖衣製品を製造することは不可能であった。
第2図(e)は、薬品2が丸剤の場合の糖衣錠の例である。
第2図(f)及び第2図(g)は、硬カプセル状の形状を有する糖衣製品の例である。第2図(g)は一対の糖外殻1と1′を異なる形状のものの組み合わせとし、糖外殻1′の凹分を深くして糖外殻1を蓋のようにしたものである。この場合も第2図(b)と同様に内部に収容する薬品又は食品2として固形薬品や固形食品ばかりでなく、液体状の薬品は食品も収容することができる。
第2図(h)は、2種の異なる固形薬品2及び2′を、相互作用防止のための遮断層5により隔離して収容した糖衣錠の例である。
第3図は、更に他の例であって、第3図(a)に断面図、第3図(b)に斜視図を示す。この例では、錠剤を縦に分割した形状の糖外殻1、1′を用いている。
本発明の糖衣製品では、糖衣が一対の糖外殻からなるので、それぞれ異なる着色を施した一対の糖外殻を用いることにより、容易に2色錠等を得ることができる。また他の着色を施した接着剤を用いて接着層を形成することにより、鉢巻き状に帯状の着色を有ずる糖衣製品も得ることができる。
本発明において、糖としては、蔗糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖などの単糖類や2種類が挙げられ、その1種又は2種以上の混合物(例えば水飴など)が用いられる。特に蔗糖を主体としたものが好ましい。糖外殻の材料としては、これに結合剤、可塑剤、充填剤、着色剤等を混合したものが好ましい。結合剤としては、例えばゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、グアガム、キサンタンガム、デン粉、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプピルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸及びそのエステルなどの高分子化合物が挙げられる。可塑剤としては、グリセリン、プロピレングリコールなどが、充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸などが、着色剤としては、例えば酸化チタンやベンガラ、各種食用色素類が挙げられる。
また、一対の糖外殻により形成された空間内に収容される薬品としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤などの固形状の薬品の他、シロップ、エタノール溶液、油状物等の液体状の薬品やクリーム状ゲル状の薬品が挙げられる。薬品が固形状の場合、裸剤でも適宜フィルムコーティングやエンテリックコーティングを施したものでも差し支えない。また、収容される食品としては、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ビスケット、ゼリー、ナッツ類などの固形物、クリーム、ジャムなどのペースト状物、シロップ、オイルなどの液状物などが挙げられる。
一対の糖外殻は接合部で封止されているが、この接合部の封止に用いる接着剤としては、例えば、蔗糖とゼラチン水溶液からなるゼラチンシロップや、無害の高分子物質の水溶液やエマルジョンなどが好適に用いられる。
次に、上記のような本発明の糖衣製品の好適な製造方法を説明する。
すなわち本発明の糖衣製品の製造方法は、接合されて内部に外部と遮断された空間を形成する一対の糖外殻を成形型を用いて成形し、該一対の糖外殻により形成された空間内に薬品又は食品を収容し、収容した薬品又は食品が外部から遮断されるように該一対の糖外殻の接合部を封止することを特徴とするものである。
先ず、接合されて内部に外部と遮断された空間を形成する一対の糖外殻を成形型を用いて成形する。
糖外殻の材料の糖又は糖を主体とする前記混合物を溶融又は溶解し、注型成形、圧縮成形射出成形など公知の成形型を用いた成形方法によって、接合されて内部に外部と遮断された空間を形成するような所定形状に成形する。このとき、成形型に凹凸を設けると、従来の糖衣錠では不可能であった刻印錠を容易に得ることができる。更に必要に応じてこれを研削、研磨する。所望により外側に着色、ツヤ出し、印刷等を施し、内側に防湿層、溶解制御層等を設けてもよい。
次いで、得られた一対の糖外殻により形成された空間内に薬品又は食品を収容する。
薬品又は食品を収容する際に、これらは従来の糖衣掛けの方法にように転動等による外力を受けないので、錠剤として硬度や摩損等の劣るものでも本発明の製造方法を適用することができ、処方上の制約を受けにくく、また柔らかい菓子等にも適用しうる。また生菌剤など打錠圧を高くできないものにも本発明の製造方法は適用可能である。更に前述のように顆粒状や液状、半固形状のものも収容することができる。
最後に、収容した薬品又は食品が外部から遮断されるように上記一対の糖外殻の接合部を封止する。接合部の封止方法については特に制約はないが、適当な接着剤によるのが便利である。
このような製造方法によると、予め多数の糖外殻を成形しておくこと可能であるので、極めて能率良く安価に糖衣製品を製造することができる。また、薬品においては糖衣掛けによる方法の場合のように製造工程中での吸湿による薬品の劣化のおそれがないため、素錠にプロテクティブコーティングを施す必要がなく、このことからも安価な糖衣錠を能率良く製造できる。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 蔗糖45重量部、水飴(固形分約50%)40重量部、酸化チタン5重量部、水10重量部を均一に混合し、真空蒸発釜中で165℃、30分間加熱撹拌して煮詰めた。この液を金型に流し込み、冷却して第4図(a)に示すような接合部の外周部にのみ接着剤を設けるための段を有する蔗糖外殻を成形した。
他方、リン酸ピリドキサール30mgを含む直径7mmの偏平錠を常法により打錠成形して製造した(第4図(b))。この錠剤を第4図(a)の蔗糖外殻中に収容し、蔗糖外殻の接合部の最大外周部にできた溝をゼラチンシロップ(蔗糖60重量%、ゼラチン5重量%を含む水溶液)で封止して、白色の糖衣錠(第4図(c))を得た。この糖衣錠は、従来の糖衣錠とほどんど同様の仕上がりであったが、殻部70mg、中心の錠剤部120mgであり、従来の糖衣錠が重量比で糖衣:中心錠=1:1程度であるのに比して糖衣部の比率を小さくするこができた。また従来は困難であった偏平に近い糖衣錠を得ることができた。
実施例2 蔗糖48重量部、転化糖11重量部、デキストリン11重量部、ゼラチン5重量部、酸化チタン0.7重量部、黄色4号アルミニウムレーキ0.3重量部及び水24重量部からなる均一な150℃の液を調製した。
この液を金型に流し込み、冷却して第2図(e)に示すような外殻1を成形した。外殻の寸法は、外径18mm、高さ3.5、厚さは均一で1mmとした。
同様にして、前記処方中、黄色4号アルミニウムレーキに代えて黄色5号アルミニウムレーキを配合した液を調製して同形の外殻1′を成形した。これらの外殻に溶融したチョコレートを注ぎ込んで外殻を満たして冷却固化させ、色の異なる外殻同志を合わせてその接合部を実施例1において使用したものと同一のゼラチンシロップを用いて接着、封止した。このようにして、外径18mm、高さ7.2mmで半分は黄色、半分は橙色に着色した美麗な糖衣チョコレートが得られた。
〔発明の効果〕
本発明によると、糖衣内の薬品や食品として錠剤等の固形物に限らず顆粒状、液体状、半固形状のものも収容することが可能であり、形状の自由度が大きく色分けも可能な糖衣製品を得ることができる。
また、本発明の糖衣製品の製造方法によると、前記のような糖衣製品を能率良く低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図(c)は本発明の糖衣製品の一例の断面図であり、第1図(a)及び第1図(b)はその構成要素の断面図である。第2図(a)〜(h)は、本発明の糖衣製品の種々の例の断面図である。第3図は本発明の糖衣製品の他の例を示し、第3図(a)はその断面図、第3図(b)はその斜視図である。第4図(c)は実施例1で製造した糖衣製品の断面図であり、第4図(a)及び第4図4図(b)はその構成要素の断面図である。
符号の説明
1、1′……糖外殻、2……薬品又は食品
3……接着層、4……空隙
5……遮断層

【特許請求の範囲】
【請求項1】接合されて内部に外部と遮断された空間を形成する一対の糖外殻と、該一対の糖外殻により形成された空間内に収容された薬品又は食品とからなり、該一対の糖外殻の接合部が封止されていることを特徴とする糖衣製品。
【請求項2】接合されて内部に外部と遮断された空間を形成する一対の糖外殻を成形型を用いて成形し、該一対の糖外殻により形成された空間内に薬品又は食品を収容し、収容した薬品又は食品が外部から遮断されるように該一対の糖外殻の接合部を封止することを特徴とする糖衣製品の製造方法。

【第1図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第2図】
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