説明

糸条の交絡処理装置および交絡処理方法

【課題】単糸細繊度化を伴う多糸条化の際、高速度で処理される合成繊維マルチフィラメント糸において、交絡を与えた新規な糸を製造するのに好適な交絡処理装置と交絡処理方法を提供する。
【解決手段】糸条に交絡を付与する一対の流体噴射孔と、流体噴射孔が開口し、流体噴射孔の延在する方向と垂直な方向の開口面と、開口面に対向し糸条が走行する凹部の糸処理部と、糸処理部に糸条を導入するスリット部とを有する交絡処理装置において、糸条の走行方向に垂直な断面において、一対の流体噴射孔は互いに平行に穿孔され、スリット部を含む凹部からなる糸処理部の糸道深さが、糸処理部の糸道巾より大きく構成され、糸処理部の凹部の輪郭を形成する稜線の形状が、稜線に接する接線と、流体噴射孔の軸線がなす接線角θが、糸処理部の凹部の両端部から凹部の最深点Gに進むに従い一定か、あるいは0°以上の角度から90°へ連続的に大きくなる糸条の交絡処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の糸条の交絡処理装置および交絡処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融紡糸されてくる合成繊維マルチフィラメント糸の製造プロセスにおいて、該マルチフィラメント糸に集束性を与えるために、交絡処理装置の糸走行路を走行する前記マルチフィラメント糸に流体を噴射し、マルチフィラメント糸を構成する単糸フィラメント同士を絡ませ、相互に交絡を付与する処理が行われている。この交絡処理は、本来、集束性を伴わずに溶融紡糸されてくる合成繊維マルチフィラメント糸に集束性を与えて取扱い性を向上させるために行うものである。
【0003】
かかる交絡処理は、合成繊維の溶融紡糸速度の著しい高速化や多糸条化(フィラメント本数の多数化)に伴い、近年でも、均斉かつ均一に効率良く行う手法の検討がなされ具体的な提案もなされている(特許文献1、2)。
【0004】
この特許文献1においてなされている提案は、交絡処理のため流体噴射孔から噴射された流体を対向壁面に衝突させてから糸へ作用させることで、噴射流の糸への直撃を避け間接的に糸に作用させることにより、交絡処理による糸へ与えるダメージを低減し、毛羽、弛みの抑制を狙ったものである。
【0005】
また特許文献2においてなされている提案は、交絡処理装置の上流・下流にそれぞれ設ける糸道規定ガイドの位置の適正化に関するものである。
【0006】
しかし特許文献1、2においてなされている提案では、その目標レベルの前提は、高速ではあるものの、実施例などに表されている如くに、特に、せいぜい、フィラメント本数は50本以下、単糸繊度(単フィラメント太さ)は3.0デシテックス以上というものであって(特許文献1の段落0023、特許文献2の段落0034)、近年のより多糸条化(フィラメント本数の多数化)には十分に対応できたものと言えず、特に、細繊度化を伴う多糸条化(例えば、フィラメント本数100本以上、単糸繊度2.0デシテックス以下(概して、0.1〜2.0デシテックス程度、より実際工業的には0.6〜1.5デシテックス程度))であって、かつ高速度での処理が要求されるものには十分でなかった。
【0007】
さらに、特許文献1に開示された提案では、糸道幅Wに対して糸道深さLが短いため、つまり噴射された流体が減速するための十分な時間がなく勢いを残したまま対向壁面に衝突し糸条に作用するため、流体が糸条を直撃しないとは言え、糸条に作用する噴流の威力により糸条を激しく交絡処理することが糸条にダメージを与えその結果、毛羽や弛みが発生することにつながる。さらに噴射された流体は、対向壁面に衝突し急激に方向変化することで発生する乱流の力により、糸条が大きく揺さぶられ、糸条の挙動が激しくなるので、本発明の課題である単糸細繊度糸など、より糸ダメージの低減が要求される糸へ交絡処理するに十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−96637号公報
【特許文献2】特開2002−69780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、近年の、特に、単糸細繊度化を伴う多糸条化(例えば、フィラメント本数100本以上、単糸繊度2デシテックス以下(概して、0.1〜2.0デシテックス以下))であって、かつ高速度での処理が要請される合成繊維マルチフィラメント糸において、原糸交絡を与え得た新規な合成繊維マルチフィラメント糸を製造するのに好適に用いられる糸条の交絡処理装置と交絡処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成する本発明の糸条の交絡処理装置は、以下の(1) の構成からなる。
(1)糸条の交絡処理装置であって、糸条に交絡を付与する一対の延在する流体噴射孔と、該流体噴射孔が開口し、前記流体噴射孔の延在する方向と垂直な方向の開口面と、該開口面に対向し前記糸条が走行する凹部からなる糸処理部と、該糸処理部に前記糸条を導入するスリット部とを有する交絡処理装置において、前記糸条の走行方向に対して垂直な断面において、前記一対の流体噴射孔は互いに平行に穿孔されており、前記スリット部を含む前記凹部からなる糸処理部の深さ(L)が、前記糸処理部の糸道巾(W)より大きくなるように構成されているとともに、前記糸処理部における前記凹部の輪郭を形成する稜線の形状が、該稜線に接する接線と、前記流体噴射孔の軸線がなす接線角θ(°)が、前記糸処理部における前記凹部の両端部から前記凹部の最深点(G)に進む従い一定か、あるいは0°以上の角度から90°に向かって連続的に大きくなることを特徴とする糸条の交絡処理装置。
【0011】
また、かかる本発明の糸条の交絡処理装置において、より具体的に好ましくは、以下の(2) 〜(5) の構成を有するものである。
(2)前記スリット部を含む前記糸処理部における前記凹部の深さ(L)と、前記糸処理部の糸道幅(W)との関係が次式を満足することを特徴とする(1)の糸条の交絡処理装置。
【0012】
1.0<L/W≦2.5
(3)前記スリット部を含む前記糸処理部における凹部の深さ(L)と、前記スリット部を除く前記糸処理部における前記凹部の深さ(L1)との関係が、次式を満足することを特徴とする(1)または(2)記載の糸条の交絡処理装置。
【0013】
0.4≦L1/L
0.1[mm]≦L−L1
(4)前記糸処理部の糸道幅(W)と、前記一対の噴射孔の直径(D)と、前記一対の噴射孔の穿孔ピッチ(P)との関係が、次式を満足することを特徴とする(1)から(3)記載の糸条の交絡処理装置。
【0014】
D<P<W−D
(5)前記糸処理部の稜線と前記流体噴射孔の軸線とが交わる交差点(P)から、前記開口面までの助走距離(L2)を次式(a)で表した場合、前記接線角(θ)が次式(b)を満足することを特徴とする請求項1〜4記載の糸条の交絡処理装置。
【0015】
L2=L−W/2+(W/2)sinθ・・・・(a)
30°<θ<70° ・・・・・(b)
また、本発明の糸条の交絡処理方法は、以下の(6) の構成からなる。
(6)前記(1) から(5) のうちのいずれかに記載の糸条の交絡処理装置を用いて糸条に交絡を付与することを特徴とする糸条の交絡処理方法。
【0016】
なお、本発明において、「糸処理部の糸道深さL」とは、糸条の走行方向に対して垂直な断面における流体噴射孔に平行な方向の距離であって、開口面から最深点(G)までの距離をいう。
【0017】
また、本発明において、「糸処理部の糸道巾(W)」とは、糸条の走行方向に対して垂直な断面における開口面に平行な方向の距離であって、糸処理部の凹部の両端部の丸みを帯びたコーナー部を含まない両端部を結んだ距離をいう。
【発明の効果】
【0018】
本発明の糸条の交絡処理装置によれば、糸道幅より糸道深さを長くし、噴射された流体が糸道壁面に滑らかに沿う流れを創出することで、毛羽、弛みを発生させることなく交絡処理を行うことができるので、交絡品位に優れた糸条を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明にかかる糸条の交絡付与装置1の構造を概略的に示した概略斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した交絡付与装置1における糸条の走行方向Yと垂直方向の断面をとった概略断面モデル図である。
【図3】図3は、図1と図2に示した交絡付与装置1の概略平面モデル図であり、糸処理部の糸道幅Wと、糸処理部のスリット部を除く凹部の深さL1との関係を説明する図である。
【図4】図4は、図1と図2に示した交絡付与装置1の概略平面モデル図であり、糸処理部の輪郭を形成する稜線に接する接線Lpと、一対の流体噴射孔の軸線Lcがなす接線角θ(°)との関係を説明する図である。
【図5】図5は、図4同様に図1と図2に示した交絡付与装置1の概略平面モデル図であり、助走距離L2と接線角θ(°)の関係を説明する図である。
【図6】図5は図3に示した交絡付与装置1の概略平面モデル図をZ方向から見た矢視図である。
【図7】図5の(a)から(d)は、本発明の別の実施形態に係る交絡処理装置の横断面図である。
【図8】本発明の交絡処理装置を備えた紡糸・巻き取り装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本実施形態にかかる糸条の交絡処理装置の構造を概略的に示した斜視図であり、交絡処理装置1は、流体供給部2、噴射ノズル部3および糸処理ブロック4からなっており、矢印Yで示したのが糸条の走行方向である。
【0022】
本実施形態にかかる糸条の交絡処理装置により交絡を付与する糸条は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維フィラメントからなり、その単糸(単フィラメント)繊度が0.1〜2.0デシテックスのフィラメント群から構成される。
【0023】
上記糸条は、近年であれば、通常、引取り速度が3000m/分以上などの高速紡糸により製造され、いわゆるPOY糸(部分配向未延伸糸)として製造されるものである。単糸繊度は、0.1〜2.0デシテックスの範囲であることが重要で、2.0デシテックスよりも大きい場合には、単繊維としても、もしくは糸全体としても、あるいは布帛としても剛性感が強くなり、本発明の所期の目的の一つであるソフト感や柔らかいふくらみ感を醸し出す風合いを有した生地を得ることが難しくなる。単糸繊度は、その下限は0.1デシテックス程度までが良く、より実際工業的には0.25〜1.5デシテックス程度の範囲内とするのが最も好ましい。また、風合いを最も生かす点で、ポリエチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系合成繊維で構成するのが最も好ましいものである。
【0024】
図1に示した交絡処理装置1における糸条の走行方向Yに対して垂直方向の断面をとった概略断面モデル図を、図2に示した。
【0025】
図2において、交絡処理装置1は、2の流体供給部、3の噴射ノズル部、4の糸処理ブロックである。
【0026】
同図において、7は流体噴射部であり一対の延在する噴射孔7a、7bが開口面Fに対し垂直に互いに平行に穿孔されている。
【0027】
6は開口面Fに対向し輪郭が凹部をなす糸処理部であり、糸条が走行する空間であるとともにこの部分で走行糸が振動挙動を起こして交絡が施される。
【0028】
8はスリット部であり、9は流体導入通路である。スリット部8はスペーサ5により構成され交絡処理装置1に走行する糸条を糸通しする際に糸導入部として用いられるものである。
【0029】
流体導入通路9は、交絡処理に使用される流体を供給する通路であり、圧縮空気は流体噴射ノズル部3内に設けられた空間に導かれ、さらに一対の延在する噴射孔7a、7bから空気流が噴射される。
【0030】
図3は、図1と図2に示した交絡処理装置1の概略平面モデル図であり、糸処理部6の糸道幅Wと糸処理部6のスリット部を含む糸道深さL、および糸処理部6のスリット部8を除く凹部の深さL1と糸処理部6のスリット部を含む糸道深さLとの関係を説明する図である。
【0031】
図に示すように、本実施形態の交絡処理装置は、糸処理部の糸道幅(W)に対して、糸処理部の糸道深さ(L)を大きくなるように構成したので、流体噴射孔から噴射された流体の噴射速度を十分減速し噴流の力をコントロールすることができるので、流体が糸条を激しく揺さぶり振動させることを防止することができる。
【0032】
図4、図5は図1と図2に示した交絡処理装置1の概略平面モデル図であり、スリット部8を除く糸処理部6の輪郭を形成する稜線Liに接する接線Lpと、流体噴射孔7a、7bの軸線Lcがなす接線角θ(°)の関係と、同じく助走距離L2と接線角θ(°)の関係を説明する図である。
【0033】
一対の延在する流体噴射孔7a、7bは、本実施形態では、開口面Fに対し垂直に互いに平行に穿孔されている。糸処理部6の形状は、糸処理部6及び一対の延在する流体噴射孔7a、7bの仮想中心面Aの両側に、糸処理部6の輪郭を形成する稜線に接する接線Liと、一対の延在する流体噴射孔7a、7bの軸線Lcがなす接線角θ(°)が、糸処理部の最深点(G)に進む従い一定か、あるいは0°以上の角度からから90°に向かって連続的に大きくなるように構成された輪郭線LiR、LiLにより形成されている。つまり、本実施形態では糸処理部5を形成する凹部の稜線Liは、横断面が輪郭線LiR、LiLによりU字形の溝に形成されている。
【0034】
上記のような構成とすることにより、適度に調整された流体の流れを乱すことなく流体が糸条を滑らかに取り巻きながら交絡を付与することができるので、毛羽やタルミを発生させることなく、糸条に均一に交絡を処理することが可能となる。
【0035】
なお、糸処理部6の糸道深さLと糸処理部6の糸道幅Wの比(L/W)を1より大きく2.5以下の範囲になるように構成することが好ましい。L/Wを1よりも大きくすることで、噴射された流体の速度を減速させ、噴射された流体の力を糸条に毛羽や弛みが生じないよう適切に調整し作用させることができるとともに、L/Wを2.5以下にすることで、噴射された流体の力を交絡が均一に付与できる程度に維持しながら糸条へ作用させることが可能となる。
また、スリット部を含む糸処理部における凹部の糸道深さ(L)と、スリット部を除く糸処理部における凹部の深さ(L1)の比を0.4以上にすることで、糸処理部に噴射された流体がスリット部から装置外部へ流れ出すことがないので、糸条がスリット部から飛び出すことを防ぐことができるとともに、噴射された流体を凹部の壁面に沿わせながら滑らか流すことで糸条に優しく作用させることが可能となる。また、スリット部を含む糸処理部における凹部の糸道深さ(L)から、スリット部を除く糸処理部における凹部の深さ(L1)を差し引いた寸法を0.1mm以上にすることで、噴射された流体を直ちに凹部の滑らかな壁面に沿わせながら、糸条に優しく交絡を付与することにより毛羽や弛みの発生が抑制できるのとともに、糸条を糸処理部へ導入するに際に、糸条がスリット部に挟まることで断糸に至ることのない良好な糸掛性を有することが可能となる。
【0036】
また、助走距離L2をL−W/2+(W/2)sinθで表した場合、接触角θ(°)を30°を越え70°未満の範囲になるように合流点(Q)の位置を構成することにより、噴射孔7a、7bから噴射された空気の速度を和らげ輪郭線LiR、LiLに沿ったさらに滑らかな流れが創出できるので、その結果、毛羽、弛みの発生が極めて少なく交絡品位に優れた糸条を製造することができる。
【0037】
図6は図3に示した平面モデル図をZ方向から見た概略平面図で、糸道幅Wと、噴射孔径D及び噴射孔ピッチPの関係を表すモデル図であり、(a)は本実施形態にかかる技術内容である噴射孔の穿孔ピッチ(P)が噴射孔径(D)を越え糸道幅(W)と噴射孔径(D)の差より小さい範囲であることを説明する図で、(b)は実施形態にかかる技術内容の範囲外である噴射孔の穿孔ピッチ(P)が糸道幅(W)と噴射孔径(D)の差より大きい場合を説明する図であり、(c)は同じく本実施形態の技術内容の範囲外である噴射孔の穿孔ピッチ(P)が噴射孔径(D)より小さい場合を説明する図である。
【0038】
図に示す通り、本実施形態の範囲であるD<P<W−Dを外ずれる(b)、(c)においては噴射孔7a,7bと糸処理部6壁面との干渉部や、一対の噴射孔7a,7bが互いに重なり合う重複部が存在することで、噴射孔より噴射された流体に乱れが生じ、本実施形態の目的である流れを乱さずに糸条交絡処理を行うことで毛羽や弛みの発生を抑制するということを達成することができない。
【0039】
図6(a)は、噴射孔の穿孔ピッチ(P)を糸処理部の糸道幅(W)から噴射孔の直径(D)を差し引いた値より小さくしたので、噴射孔が糸処理部の糸道壁面とが干渉し、噴射された流体の流れを乱すことを防ぐことができるとともに、噴射孔の穿孔ピッチ(P)を噴射孔の直径(D)より大きくしたので、一対の噴射孔が干渉することなく穿孔することできるので、互いの噴流が合流することで生じる流れの乱れを防ぐことが可能となる。
【0040】
図7は本実施形態の別の実施形態に係る交絡処理装置1の概略平面モデル図であり、(a)は凹部からなる糸処理部6の輪郭線の形状がU字形からなることを説明し、(b)は半円、(c)は楕円からなることを説明するモデル図である。何れの形状においても本発明の技術内容を満たす範囲ものであれば、糸条へ交絡を付与するに際し、毛羽や弛みが生じない極めて交絡品位に優れた糸条を得ることができる。
【実施例】
【0041】
(1)交絡糸の製造方法
本発明の各実施例・比較例で得られた各ポリエステル部分配未延伸糸は、口金から溶融吐出させ、吐出糸条を冷却固化した後油剤を付与し、次いで交絡処理装置を用い、表1に記載の条件で交絡を付与した後3000m/分の速度で巻き取った。
(2)交絡数の測定と評価:
本発明の各実施例・比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸について、ロッシールド社製自動連続交絡度試験機R−2072を用い、プリテンションを10cN、トリップテンションを17cNに設定し、交絡部の測定数を20個として試料糸を走行させて、交絡部が20個カウントされるまでに要した糸長さ(走行糸長さ)を測定し、該交絡部20個当たりの糸長さの値を、まず求めた。
【0042】
さらに、該交絡部20個当たりの糸長さの値から、糸長さ1mあたりの交絡の個数に換算し、該換算値を「糸長さ1mあたり交絡数」として求めた。測定に当たっては、n数を20回としてその平均値を求めた。
【0043】
交絡数についての判定は、糸1m長さ当たりの交絡数が、5個未満を「不良」として表1では「×」で表記し、5個以上「良」として表1では「○」で表記し、「良」を合格とし、「不良」は不合格とした。
(2)毛羽数の測定と判定:
本発明の各実施例・比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸について、東レ・エンジニアリング株式会社製毛羽計数装置ΦDT−105を用いて、S型検出器により検出高さを2mmに設定し、パッケージの解舒速度を500m/分として、12000mの糸長さについて測定して、そのまま糸12000m長さ当たりに存在する毛羽数として求めた。測定に当たり、n数は20回としてその平均を求めた。
【0044】
毛羽数についての判定は、糸12000m長さ当たりの毛羽数が、10個を越えるものを「不良」として表1では「×」で表記し、10以下のものを「良」として表1では「○」で表記し、「良」を合格とし、「不良」は不合格とした。
実施例1〜3、比較例1〜10
図7に示した紡糸・巻き取り装置により130デシテックス、フィラメント本数144本のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を製造した。
【0045】
巻取り速度は3000m/分、第1ゴデットロールの速度3000m/分、第2ゴデットロールの速度3000m/分である。
実施例・比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸の糸質を表1に示した。
【0046】
交絡処理装置は、表1に示した条件の通り、噴射孔径0.6mmとしたものを用い、流体(圧空)噴射圧力を0.4MPaとし、交絡処理を施した。
【0047】
表1に示すごとく、本発明の交絡処理装置を使用した場合には、高圧の噴流を噴射し衝突させても、糸にダメージを与えることのない滑らかな流れを創出し交絡処理をするので、毛羽や弛みの増加や糸の飛び出し及び糸条導入部での詰まりを招く恐れがないため、糸条に長手方向に均一で十分な集束性を付与できるのに対し、本発明以外の交絡処理装置を使用した場合は、毛羽の発生が増大するか、毛羽の発生が少なくても交絡の付与効率が悪く十分な集束性を得ることができない。
【0048】
【表1】

【符号の説明】
【0049】
1:交絡処理装置
2:流体供給部
3:噴射ノズル部
4:糸処理ブロック
5:スペーサ
6:糸処理部
7:流体噴射部
7a:流体噴射孔
7b:流体噴射孔
8:スリット部
9:流体導入通路
10:ボルト
11:糸条
12:口金
13:給油ガイド
14:第1ゴデットロール
15:第2ゴデットロール
16:巻取機
W:糸処理部の糸道巾糸条の走行方向
L:糸処理部の糸道深さ
L1:スリット部を除く糸処理部の糸道深さ
L2:助走距離
F:開口面
G:糸処理部の天上点
Q:糸処理部の輪郭線と噴射孔の軸線が交わる交差点
Li:糸処理部の輪郭線
Lp:糸処理部の輪郭線に接する接線
Lc:流体噴射孔の軸線
θ°:糸処理部の輪郭線に接する接線と流体噴射孔の軸線がなす接線角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条の交絡処理装置であって、前記糸条に交絡を付与する一対の延在する流体噴射孔と、該流体噴射孔が開口し、前記流体噴射孔の延在する方向と垂直な方向の開口面と、該開口面に対向し前記糸条が走行する凹部からなる糸処理部と、該糸処理部に前記糸条を導入するスリット部とを有する交絡処理装置において、前記糸条の走行方向に対して垂直な断面において、前記一対の延在する流体噴射孔は互いに平行に穿孔されており、前記スリット部を含む前記凹部からなる糸処理部の糸道深さ(L)が、前記糸処理部の糸道巾(W)より大きくなるように構成されているとともに、前記糸処理部における前記凹部の輪郭を形成する稜線の形状が、該稜線に接する接線と、前記流体噴射孔の軸線がなす接線角(θ)が、前記糸処理部における前記凹部の両端部から前記凹部の最深点(G)に進むに従い一定か、あるいは0°以上の角度から90°に向かって連続的に大きくなることを特徴とする糸条の交絡処理装置。
【請求項2】
前記糸処理部の糸道深さ(L)と、糸道幅(W)との関係が次式を満足することを特徴とする請求項1記載の糸条の交絡処理装置。
1.0<L/W≦2.5
【請求項3】
前記スリット部を除く前記糸処理部における凹部の深さ(L1)と、前記スリット部を含む前記糸処理部の糸道深さ(L)との関係が、次式を満足することを特徴とする請求項1または2記載の糸条の交絡処理装置。
・ 4≦L1/L
0.1[mm]≦L−L1
【請求項4】
前記糸処理部の糸道幅(W)と、前記一対の延在する噴射孔の直径(D)と、前記一対の延在する噴射孔の穿孔ピッチ(P)との関係が、次式を満足することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の糸条の交絡処理装置。
D<P<W−D
【請求項5】
前記糸処理部の稜線と前記流体噴射孔の軸線とが交わる交差点(Q)から、前記開口面までの助走距離(L2)を次式(a)で表した場合、前記接線角(θ)が次式(b)を満足することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の糸条の交絡処理装置。
L2=L−W/2+(W/2)sinθ・・・・(a)
30°<θ<70° ・・・・・・・・・・(b)
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれかに記載の糸条の交絡処理装置を用いて糸条に交絡を付与することを特徴とする糸条の交絡処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−195995(P2011−195995A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65658(P2010−65658)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】